真・恋姫†無双‐天遣伝‐(26)
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・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

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真・恋姫†無双

―天遣伝―

第二十五話「明君」

 

 

華佗の診療所には、庭がある。

五斗米道(ゴットヴェイドー)には様々な治療法が伝わっているが、精神的な物もあるらしく、その為に粗末とは言えない程度に立派な庭を有していた。

東屋もある。

そしてその東屋では今、天の御遣いである北郷一刀が座っていた。

未だに左腕を吊っているが、それ以外は健康に見える。

そんな一刀に言葉をかける者が一人。

 

 

「あ、あの、貴方様が『天の御遣い様』で御座いますか?」

 

「ああ、一応ね」

 

 

声のした方へと身体ごと向き直る。

そこにいたのは、見目麗しい女性。

綺麗な銀髪と白磁の如き肌を持った美女であった。

 

 

「座るといい。

俺、君に聞きたい事があるから」

 

「は、はい、恐縮です・・・」

 

 

オドオドと大変畏まった様子で、女性は一刀の対面の席に座った。

その際、一刀が先に着くまでジッと待っていたのが、一刀には好印象であった。

 

 

「それで、君の名は徐晃、字は公明で良かったよね?」

 

「はい・・・その通りです」

 

 

既に、一刀が傷付き、焼け落ちる政庁から彼女が救助された例の事件から四日が経っていた。

その御蔭で一刀も歩き回れる程度には回復していたし、徐晃も目を覚ましていた。

 

但し、目を覚ました徐晃がいきなり自殺しようとして、華佗の怒りの張り手を食らっていた事は記憶に新しい。

そして、その自殺しようとした理由が今一分からず、一刀はこの席を設けたのだ。

その際、徐晃が掲示した「話は二人だけで行う」という条件を飲んで。

最も、此方の死角には恋が弓を持って隠れているのだが・・・何やら物凄い念が飛んで来ている為に、全く隠れている意味がない。

徐晃自身、席に着く直前で顔色を悪くしてしまっている程に、凄まじい殺気にも似た濃い念を感じ取っていた。

 

 

「それで、何で自殺しようとなんてしたんだ?」

 

「・・・・・・わ、私は決して許されぬ事をしました」

 

 

一刀の問いに、急に涙を流して語り出す徐晃。

一刀は驚いてしまったが、先を言わせる為に敢えてその感情を押し殺す。

 

 

「私は、ある謀に加担していたんです」

 

「それは一体?」

 

「じ、『十常侍暗殺計画』です・・・」

 

「何だって!!?」

 

「ひぅ!」

 

「あ・・・ごめん」

 

 

急に大声を上げた一刀に驚き、身を竦ませてしまう。

即謝ったが、徐晃は自分の身を抱き締める様に竦ませ、心なしか一刀から離れた。

 

 

「それで、主犯は誰なんだ?

まさか、張譲か?」

 

「は、はい、元々は」

 

「元々? どう言う事なんだ・・・?」

 

「実は、その計画を利用し、本来の意味で『十常侍暗殺計画』を謀った人達がいたのです」

 

「その人達とは?」

 

「荀公達様と、鐘元常様です」

 

 

それを聞き、一刀は椅子に深く座り直して天を仰いだ。

しまった、と。

荀攸と鍾?、二人とも歴史に名を残す程頭の良い文官だ。

特に荀攸と言えば、『董卓暗殺計画』で初めて名前が登場する。

ならば、善君である月の代わりの暴君を謀殺し様とする可能性はあった筈だと何故気付かなかったのか・・・だが。

 

 

「あ、あの、御遣い様?

如何なされましたか?」

 

「ああ、すまない、考え事をしていた。

それで、その二人は?」

 

「申し訳ありませんが、知りません・・・私の役目は、張譲様以外の十常侍を討つ事でしたので」

 

「そうか・・・・・・」

 

 

溜息が出る。

張譲は逃げたそうだが、一体今は何処で何をしているのか気になってしょうがない。

まだ生きているのならば、何処かで何かしらの謀略を練っているに違いない。

もし死んでいるのならば、善しだ。

だが、そこで今度は別の疑問が湧いた。

 

 

「所で話を続けるが、徐晃さんは何故政庁の中で倒れていたんだ?」

 

 

目に見えて、徐晃が狼狽した。

 

 

 

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≪徐晃 Side≫

 

眼前におられる御方こそが、『天の御遣い』様その人。

見ただけならば、御召し物以外は普通の殿方と映りました。

そう思うと、やっぱり怖くなってしまう。

心の臓が痛む。

驚愕すればやはり他の殿方と同様に、大声を上げるし、落ち込みもする。

御遣い様も、私が求めていた御方では無いのでしょうか?

 

 

「所で話を続けるが、徐晃さんは何故政庁の中で倒れていたんだ?」

 

 

御遣い様のその御言葉に、私は思考の虚を突かれ、うろたえてしまいました。

最も危惧していたその問いは。

正直答えたくない、答えれば怒りを買うやもしれません。

それに、その時の無念を思い起こすと、すぐにこの粗末な命を絶ってお詫びをせねば、と思ってしまいます。

 

 

「そ、それは、公達様は大将軍様が張譲様の手に掛かるやも知れぬと、私に大事に際しては、大将軍様を御救いするように、と」

 

「だが、君は気を失っていた。

それは何故だ?」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 

視線を落として黙ってしまう。

やはり怖い、叱られるのが、怒りを向けられるのが怖い。

だが、それでもやはり語らねばなりません。

全てを語り、命を以って失態に償う。

それこそが、私の成すべき事。

 

 

「一室でその時まで息を潜めて隠れているつもりだったのですが、急に布の様な物を顔に当てられ、それで気が遠くなって・・・その後目覚めたら、この診療所に・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

ああ、やはり。

御遣い様が私を見る目が苦くなっていく。

斬られても、文句は言えません。

立ち上がった御遣い様の姿を見て、私はその瞬間を待つ為に目を閉じました・・・

しかし。

 

 

「済まなかった」

 

「えっ・・・!?」

 

 

信じられませんでした。

てっきり斬られるかと思っていたのに、御遣い様は地に伏して私に頭を下げているではありませんか。

幾ら目を擦って見ても、目の前の光景は変わりません。

何故?

 

 

「俺の見通しが甘かったが為、君にそんな危険を冒させてしまった。

それは、偏に俺の責任だ。

俺がもう少し、油断せずに此方へと目を向けていれば、君が焼け死ぬかもしれない危機は避けられた筈だった。

本当に、申し訳ないと思う。

俺程度の頭では不足かもしれないが、下げさせてもらいたい。

済まなかった」

 

「あ、あ・・・?」

 

 

目端から涙が零れたのが、自分でもよく分かりました。

この御方は、何故ここまで遜れるのでしょうか。

この御方は、此処洛陽に置いて救世主と崇められ、求められている御方なのに。

たかが田舎生まれの女風情に、頭を下げる事を憚らない。

私なんかに、本気で詫び、済まないと。

そして、この御方にこの様な真似をさせている自分が、堪らなく恥ずかしい。

心が締め付けられて苦しくなる程に。

 

この御方は、違う。

私の知る、主君と呼ばれるどの様な人々の誰とも。

この御方の下でならば、私は・・・

 

 

「徐晃、字は公明。

真名を、菖蒲(あやめ)」

 

「徐晃さん?」

 

 

御遣い様の御膝元に跪き、臣下の礼を取ります。

この御方の為に、生きたい。

そう一度でも思ってしまったら、もう自害しよう等と言う気は消え失せてしまいました。

 

 

「どうか、私めを戦列の端に加えて下さいませ」

 

「な、何故、俺に?」

 

「御遣い様こそ、私が求め、願った御方と確信しましたが故に」

 

 

御遣い様が驚いて此方を見ますが、私は動きません。

この御方以外の下にあろうなどと、もう思えない。

この御方以上に誠実で、お優しい殿方が何処にいらっしゃいましょうか?

何処にもいません、断言出来ます。

この御方に断られたら、最早それまで。

己が生に意味は無し。

果ててお詫び致しましょう。

 

 

≪Side Off≫

 

 

 

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一刀は、大変に困っていた。

《あの》徐公明が、此処でこうして自分に対して臣下の礼を取っているのが、不思議でならないのだから当然である。

その申し出自体は嬉しいのだが、理由が欠片も分からない。

いや、ある意味稟と同じなのかもしれない。

ならば。

 

 

「・・・分かった」

 

「では!」

 

 

顔を上げる、その表情は喜色に富んでいた。

思わず見惚れてしまうが、自制。

 

 

「君を、受け入れよう」

 

「ありがとう、御座います・・・」

 

 

嬉し涙ながらに、今度は三つ指立てて土下座する徐晃。

その光景を自分で見ていると、無性に悪い事をした気分になって来るから不思議であった。

しかも、三つ指立てて礼とか、何処の花嫁だ。

これで「末永くお願いします」とか言われたら、本気で赤面していたかもしれない。

 

 

「これより、生きるも死ぬも御遣い様と永久に共にありたく存じます」

 

「・・・・・・」

 

 

予想以上だった。

綺麗な笑顔と一緒に放たれた言葉は、容易く一刀に突き刺さった、否撃ち抜かれた。

顔を真っ赤にしてしまう。

徐晃は、首を傾げた。

突然顔を真っ赤にされたら、そうなる。

何故そうなったか気付きそうなものだが、生憎と徐晃は昔男に苛められて生活して来た為、自分には女としての魅力が欠片も無いと思い込んでいるので、無理であった。

 

 

「御遣い様、もしや病に!?」

 

「い、いや、違うから。

何でも無いから」

 

「いけません! 毒矢で射られた傷が実はまだ癒えておらぬやも・・・!」

 

 

そう言い、華佗を呼びに行こうとするが、一刀はそうなっては堪らないと、徐晃の腕を掴んで止めようとした。

で。

 

 

「きっ、キャァァァァァァァァァァっ!!!???」

 

「え? へぶっ!!?」

 

“バチーン!!”

 

 

実に見事な平手打ちであった。

華麗に横トリプルアクセルを決め、芝生の上に倒れ伏す。

その頬には、見事な紅葉。

徐晃の手は小さく、指もとても細い。

だが、軽々と振り回す武器は大斧。

つまりはそう言う事である。

そんな小さな掌に凝縮された剛力は、見事に一刀の意識をトバしていた。

 

徐晃はアタフタとしながら、それでも一刀の元へと向かおうとし。

 

 

「ひっ!?」

 

「・・・・・・“ゴゴゴゴゴゴゴゴ”」

 

 

凄まじい殺気で止められた。

そしてその瞬間に、徐晃の脇を駆け抜ける疾風一閃。

長い銀髪を揺らされ、目を瞑って再び開けた時。

そこには。

 

 

「・・・・・・フーッ!!」

 

「あ、あの・・・?」

 

「・・・フシャーッ!!」

 

「ひぅ!」

 

 

一刀を抱き締め、猫の様な威嚇を徐晃へと向けて放つ恋がいた。

その威嚇は平時ならば可愛らしかったろう。

だが今のは、『一刀を傷付けた相手への威嚇』なのだ。

本気で殺されるかもしれないと、徐晃が尻込みしてしまうのも無理はない。

 

徐晃の悲鳴を聞き付けた華佗と稟が庭に走り込んで来るまで、恋はずっと徐晃を威嚇していた。

 

 

 

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「えーっと、それでなんだが」

 

「は、はいぃぃぃ・・・」

 

「〜〜〜♪」

 

「・・・何故、彼女が一刀殿の膝に・・・・・・ブツブツ、ウッ」

 

 

再び椅子に座り直し、対面で恐縮しきって小さくなってしまっている徐晃を見る一刀。

頬にはまだ立派な紅葉が張り付いている。

 

その右後ろには稟が控え、華佗は東屋の外。

恋は前記の台詞欄を見れば分かると思うが、一刀の膝の上で猫の様にゴロゴロして御満悦であった。

 

 

「改めて、これからよろしくお願いします、徐晃さん」

 

「あ、いいえ、御遣い様。

その、敬語なんて・・・それに、その、あ、菖蒲とお呼び下さい・・・・・・」

 

 

頭を下げた一刀に対し、徐晃は一頻りオロオロした後、両人指し指の先を胸の前で突き合わせながら小声で答えた。

ちゃんと一刀には届いていたので、無問題だが。

 

 

「分かった、菖蒲でいい、と。

けどさ、君も俺の事を一々『御遣い様』だなんて畏まって言う必要は無いんだよ?」

 

「あ、はい・・・それでは。

ご、御主人様とお呼びしてもよろしいでしょうか・・・?」

 

「うっ!?」

 

 

モジモジと恥じらいながら告げられた言葉に、SAN値が一気に削られる。

が、稟からの無言の圧力が強まった事で、かろうじて正気を保った。

 

 

「あー、済まないが、それは勘弁してもらえるか」

 

「あ、はい」

 

 

少し残念そうに言われる。

そんな風に言われると、もしや御主人様と呼びたかったのかと邪推してしまうが、稟から飛んで来る殺気に変わりそうな圧力の所為で、続ける事が出来ない。

 

 

「それでは、主様とお呼びする事に致します」

 

「別に名前で呼んでもいいんだけど」

 

「そ、そんな畏れ多い!!」

 

「えー・・・別に無理言ってる訳じゃないんだしさ、ほら。

一刀、俺の名前は一刀だ、呼んでみてよ」

 

「そ、それ程までに望まれているのならば・・・で、ではっ!

かっ、かーかかかかか―――やっぱり無理ですー!!」

 

「(アシュラ○ン!?)

あ、うん、分かった。

無理しなくてもいいや」

 

「きょ、恐縮です・・・」

 

 

顔を真っ赤にする菖蒲に、可愛いなぁという思考と、赤面症の気があるのかと心配を感じる思考が同時に湧き起こった。

 

 

「配下が増えて嬉しい様で・・・」

 

「ああ、まあな」

 

「・・・はぁ」

 

 

背後から稟が思いっ切り皮肉を込めた嫌味を言ったにも関わらず、一刀は全然気付かない。

何故、自分はこんな難儀な相手に惚れてしまったのかと後悔したくなるが、根っこの部分でそう出来ない。

随分と参ってしまったものだと、心の底で笑う。

 

 

「一刀殿、彼女には何をさせるおつもりで?」

 

「そうだな・・・戦は暫く起こらない筈だから、徴兵と警邏隊の隊長を任せようかと思ってるんだが」

 

「? はい、分かりました。

では、その様に手配します」

 

「頼むよ」

 

 

稟は、今のやり取りに引っ掛かった部分があった。

今一刀は、「戦は暫く起こらない筈」と言った。

それは、裏を返せば「暫くしたら戦が起こる」と言っているのでは?

今までも色々と不思議な事を言う事が多々あったが、これは明らかに不自然だ。

よもや、戦を起こそうとしているのでは?

そう勘繰ってしまう。

軍師失格かもしれないが、生憎と稟は主君を自身の策で高みへと連れ去る事を善しとする。

その為ならば、主君を疑いもする。

それこそが、彼女の強みでもあるのだから。

 

 

 

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―――袁術居城寿春

 

今此処は、空前絶後の景気に沸いていた。

散々民を苦しめていた主君:袁術が民に今までの暴政を陳謝し、その上それを正す善政を敷き始めた事が切欠である。

今では、街には主君を称える詩が溢れ返っており、かつて一度でも寿春を訪れた事がある者達は、揃って袁術が遂にいなくなったかと錯覚した程だ。

 

 

「此処に忍び込んでから既に一月が経ちましたが・・・前評判と違い過ぎて、薄ら寒ささえ覚えますね」

 

 

浅黒い肌に、艶やかな金の短髪を持った美人が、膝の上で猫を愛でながら一人呟いた。

彼女は、大蓮がその内袁術領へと攻め込む為の事前調査の為に派遣されたのであった。

因みに、猫はそこら辺中にひしめき合っている。

彼女は部下と一緒に潜入しているのだが、その部下が毎日の様に拾って来るので大変なのだ。

 

 

「涼香様っ! 今日も沢山頂けました!」

 

「お帰り明命、この子達の食事は?」

 

「それもしかと!」

 

 

家の中に、ビシッと敬礼しながら入って来た小柄な女の子。

名は周泰、字は幼平、真名は明命。

孫呉において隠密任務の類に適した将である。

 

 

「さぁて、私も稼ぎますか」

 

「声の方は大丈夫なのですか?」

 

「丸一日休めば問題無しです。

それと明命、貴女も付いて来なさい」

 

「はぅあっ!? で、でもお猫様達の御食事が!」

 

「そこの皿に盛っておいて上げれば、自ら食してくれるでしょう。

まぁ、確かに、手ずから食べさせたいというのも理解出来ますが。

この際、置いておきなさい」

 

「あぅあ〜、申し訳ありません、お猫様達・・・」

 

 

orzな姿勢で落ち込んだ明命を尻目に、涼香と呼ばれた女将が立ち上がった。

名は留賛、字は正明、真名は涼香。

孫呉最上の歌い手とも言われる者だ。

縦線効果を背負ったまま猫達の餌の準備をする明命は放っておき、涼香は傍に掛けてあった外套を着込み、杖を持って外へ出た。

 

 

 

―――所変わり、寿春城内

 

政務室で荒れ狂う書類の波を華麗に捌きながら、七乃は聞こえて来た歌に顔を上げた。

『数え役萬☆しすたぁず』の新曲だ。

美羽の取り計らいで一命を取り留め、ここ寿春で再起した張三姉妹は「絶好調」の一言に尽きた。

黄巾党と言う重荷から解放された彼女達の歌声には、再び皆を魅了する活力が詰まっている。

美羽こそ至高と捉える七乃ですら、聞き惚れた程だ。

暫し手を止めて、歌を楽しむ。

その最中、別の歌が聞こえて来た。

思わず苦笑する。

一月ほど前から、寿春に留まっている旅の歌い手だそうだが、七乃はその正体を既に知っていた。

それでいて、見逃しているのである。

何故ならば、大蓮が此処を「暴政から民を救い出す」と言う大義名分を抱えて攻めて来る未来は以前なら避けえない事であった。

が、今は違う。

美羽が改心してくれた御蔭で、善政を敷く事が可能となった。

これならば、まず攻めて来る大義名分を奪える。

次に付け入られる可能性は、『数え役萬☆しすたぁず』の正体が張角、張宝、張梁である程度。

だが、其方の方も既に対処は済んでいる。

今の所は、恐れる者は殆ど無い。

 

歌が終わるまで聞いてから、七乃は再び書類仕事に戻る。

そして、暫くした頃。

 

 

「はい、この案件はこれで終わり、で次は・・・?

これは・・・うーん、嘘だとは思いますがねぇ」

 

 

真剣に考え込む。

それは例の密書。

『天の御遣いが董卓と大将軍と共謀して霊帝と十常侍を謀殺、洛陽にて暴虐の限りを尽くしている』と言う内容の物である。

 

 

「・・・私の独断では決め兼ねますし。

お嬢様達に見せなきゃ、ですね」

 

 

そう一人ごちてから、七乃は政務室を出た。

 

 

 

謁見の間で、七乃は例の書を読み上げる。

起こったのは、怒りの声が7割。

疑惑の声が2割。

有り得ないと全否定する声が1割であった。

怒りは、主に黄巾の乱中寿春の護りを請け負っていた者達。

疑惑と全否定は、主に黄巾の乱の際に美羽と共に参陣していた者達だ。

美羽と咲と七乃も、後者二つに入っている。

 

 

「のう、七乃。

それは事実なのかや?」

 

「分かりませんね。

今から洛陽内の密偵に事実を送れと命じても、時間がかかり過ぎます。

それに・・・この文がもし諸侯にも同様に送られていれば」

 

「連合、か」

 

「ええ、そっちの方が絶対に早いです」

 

 

ざわめきが激しくなる。

幾人かが、主君の意見はどうかと視線を送った。

 

 

「美羽様、如何なされますか?」

 

「うーむむむ・・・放置で良いのではないか?」

 

「えっと、それでは美羽様の折角上り調子な評判がまた傷付くと思うのですが」

 

「ならば、徴兵と訓練だけでもしておけばよかろ。

軍を動かすのは、連合が組まれてからでも良いと思うのじゃ」

 

「はーい、分かりました」

 

 

美羽が結を下した時。

失望した様な表情を浮かべる者が2割程度。

納得して頷く者が、残りであった。

無理も無いだろう。

噂はあくまでも噂でしかないのだ。

もしもこの書が嘘であった場合、軍を動かして攻めていたら、やはり美羽の評判は地に落ちる。

ならば、どちらにも簡単に移れる方法を取っておいた方が良い。

何よりも美羽の前評判はかなり悪く、今では少し回復の余地を見せているだけあって、僅かな悪声一つでも致命傷になりかねない。

その事を理解した上での采配。

着実な成長を見せている美羽であった。

 

 

 

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―――陳留

 

 

「ほむ、中々良い街ですね」

 

「洛陽とは違った意味でね」

 

 

沙羅と檪花は、あれから約八日かけて陳留へと辿り付いていた。

馬があれば半分程度で済んだだろうが、生憎と馬を買う程の路銀も無く。

結局は途中で偶然会った商隊の馬車に相乗りさせて貰って、漸くと言った所だ。

 

二人の目には、陳留は前評判よりもずっと良い感じだった。

しかし、二人とも少し物足りなさを覚える。

 

 

「実際問題、洛陽の方が見回りと言うか、警邏の人材が多い気がします」

 

「警邏が多ければ多い程、治安がいいって訳でもないんだけどね。

だけど、こんな風に屋台とか商人とかがごった返してると、何処に何があるのか、誰がいるのか迷うよ」

 

「・・・区画整理って、便利ですねぇ」

 

「うん、本当にね」

 

 

桂花に招かれた二人は、これより仕える事になるかもしれない華琳の統治に、問題点、改善点を見付けて行く。

城に着く頃には、二人の手にはそれを列挙した木簡が出来あがっていた。

 

 

「申し訳ありませんが、荀文若をお呼びして貰って宜しいでしょうか?

荀攸が来たと伝えて頂ければ良い筈です」

 

「はっ、了解しました」

 

 

礼儀正しい門番に感心する。

評判通り、兵の躾も相当厳しいのだとも。

暫くして門が開き、桂花が姿を現した。

 

 

「来たわね檪花、入りなさい」

 

「えぇ、分かりました」

 

「ってそっちのあんた! 何入ろうとしてんのよ!?」

 

「えっ!?」

 

 

桂花に言われ、門を潜ろうとした檪花と沙羅の内、沙羅に対して突然剣幕を剥き出しにして桂花が怒った。

怒られた沙羅としては、うろたえるしかない。

 

 

「男が華琳様に会おうだなんて、おこがましいのよ!!」

 

「あちゃー・・・」

 

 

桂花の言葉に、沙羅が固まった。

檪花は、頭に手を当てて溜息を吐いた。

直後、ブワッと擬音が付きそうな勢いで沙羅の両目に涙が湧いた。

 

 

「わ、私は女だー!!」

 

「嘘吐くんじゃないわよ! 何処からどう見ても男でしょうが!

衛兵! この不届き者を牢へぶち込みなさい!」

 

「え、えぇっと・・・」

 

「嘘じゃないもん! 付いてないもん! む、胸だってあるもん!」

 

 

滂沱の涙を流しながら訴える沙羅だが、桂花は全く取り合おうとしない。

挙句の果てに、衛兵に命じて投獄しようとさえしている。

そこで、檪花が助け船を出す。

 

 

「桂花、彼女は本当に女よ」

 

「・・・本当でしょうね? もし嘘だったら、コイツ宦官にするわよ?」

 

「だから元から付いてないってばー!!」

 

「本当の本当によ」

 

「分かったわ、取り敢えずは門を越える事を許可してあげるわ」

 

「ひ、酷い、ウグッ、ヒック、あんまりだぁぁぁ〜」

 

 

ボロボロと涙を流して落ち込み続ける沙羅なのだが、桂花は知ったこっちゃ無し。

さっさと、城へと入って行ってしまった。

 

 

「ほら、沙羅しっかりして」

 

「エグッ、ヒック・・・」

 

 

泣き顔は立派に女の子してるのになー、と檪花は思う。

彼女を受け入れてくれる人がいれば、とも。

 

 

「何やってんのよ、とっとと来なさい!

こちとら忙しいのよ、無駄な時間取らせるんじゃないわよ!」

 

「そして我が叔母は、沙羅の乙女心を抉った上で塩を塗り込んだにも拘らず反省の色なし。

人の友人になんて事してくれるのかしら、どうしてくれよう・・・」

 

 

何処となく黒い感情を零しつつ、沙羅を慰めながら城内へと進む。

これから会う事になるであろう曹孟徳に対し、若干の想像を巡らしながら。

 

城内で慌ただしく動き回る将達や、兵達。

それ自体は然程珍しくは無いのだが、明らかに出陣の準備をしているのが、変だと思えた。

一体何と戦うつもりなのかと。

そんな事を思っている間に、玉座の間に辿り着いた。

桂花が扉を開ける前に、張譲の頸を含めた包みを近くの将軍らしき眼鏡の女性に渡し、桂花に続いて中に入る。

この時には、沙羅も元通りに戻っていた。

直後、背後から絹を裂く様な悲鳴が轟いたのには、何故か桂花さえ無視していた。

 

 

「華琳様、私の親族の公達を連れて参りました。

後・・・貴女名前何?」

 

「鍾?です、字は元常と申します」

 

「そう、よく来たわね。

荀公達、鐘元常、歓迎するわ」

 

「「ははっ!」」

 

 

華琳の強大な覇気に当てられ、気付けば二人とも跪いていた。

 

 

 

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華琳は、二人の新しい部下となりえる者達を見下ろし、思う。

この者達は、自分にとって益になるのか。

そして、此処で獲り逃せば自分にとって損になるのかを。

 

 

「荀攸、貴女は何を望むの?」

 

「覇道の先にある、統治をば」

 

「そう。

では鍾?、貴女は?」

 

「新しい秩序を」

 

 

二人の噂は以前より耳にしていた。

素晴らしい頭脳を持ち、対黄巾党では誰も知り得なかった筈の兵糧庫を次々と発見した荀攸。

軍を用いず、言葉のみで戦いを治めた事もある鍾?。

何と素晴らしい才覚なのだろうか。

二人とも、是非欲しいと思っていた逸材なのだ。

それに美しさも極上。

まぁ、鍾?が男と間違われる事は知っていたが、まさかこれ程とは、と言う感覚もあるが。

二人には見えぬ様、舌なめずりをする。

一体どんな声で喘ぎ啼くのだろうかと、今から楽しみになって来る。

 

 

「では、この曹孟徳に仕えるか、否か?」

 

 

覇気を全開にして睨む。

NOとは言わせない、そんな意思が籠っていた。

 

 

「はぁ、私は元より仕える気で此方に赴きましたが故」

 

「私も同じくです」

 

「ならばよし!

二人とも、臣下の礼代わりよ。

私に真名を預けなさい」

 

「「檪花(沙羅)と申します」」

 

「ええ、これで貴女達は私のモノとなった。

私の許可なく死ぬ事は許さないわ。

私の真名は華琳、以降私の事は此方で呼びなさい」

 

 

そう告げる言葉の端々には、抑え切れない悦びが混ざっていた。

 

 

「では、早速ですが華琳様。

一つ宜しいでしょうか?」

 

「あら、何かしら?」

 

「何故、戦の準備を行っているのですか?」

 

「ふふ・・・流石に気付かれるわね。

これを読むといいわ」

 

 

すぐ傍にあった木簡を一つ投げて寄越した。

檪花は受け取ってから開く。

沙羅も後ろから覗き込んだ。

そんな二人の顔色が、読み進めるに連れて見る見る曇っていく。

 

 

「納得がいかない、そうとでも言いたげね」

 

「ええ、それはもう。

私共は元々洛陽より来たのですから」

 

「この書が私達よりも先にこの場に着いているとは言え、噂に成り始めるまでと、実際の統治の差が激し過ぎます」

 

「つまりは?」

 

「全くの出鱈目、と断言出来ます。

・・・しかし、この《噂》がどれ程広域に渡って流布されているかが問題ですね」

 

「・・・・・・成程、流石ね。

桂花、私の下にこの子達を導いたのは貴女の功績よ。

今夜は閨に来なさい、たんまり可愛がってあげるわ」

 

「は、はいっ! 華琳様!!」

 

 

百合の花束が乱舞しそうな空間を形成する桂花。

それを見る二人は、はっきり言って引いていた。

 

 

「うわぁ・・・」

 

「・・・噂以上、逃げたくなって来た」

 

 

そう零した直後華琳が二人に向き直り、思わず心臓が飛び跳ねた。

 

 

「檪花、貴女の言っていた通り、その《噂》と寸分違わぬ内容が既に城下にまで広まっているわ。

私の従姉妹が確認した範囲までならば、国境近くにまで及んでいるそうよ」

 

「詰みですね、動かなきゃこっちが被害を受ける事になるでしょう」

 

「つまり、貴女も私の出兵を止める気は無し、と言う事で良いかしら?」

 

「ええ、そう取って貰って構いません。

しかし・・・・・・」

 

「何かしら?」

 

「もしも、あくまでももしもですが。

華琳様が敗北した場合、今に至るまで積み上げて来た名声が地に落ち、奸雄の謗りを受けるやもしれません」

 

「―――フッ、フフフフフ、奸雄? 大いに結構!

我が覇道を阻むのであれば、例え善君とて敵となるのよ!?

それを敵に回すのが、早いか遅いかの違いしかないのならば、何時その謗りを受けても同じ事よ」

 

 

そう言って傲然と笑う華琳に、背筋が思わず冷たくなった。

決して媚びない。

そんな決意が全身から滲み出ている様であった。

 

 

 

-9ページ-

 

 

―――二週間後、洛陽。

華佗の診療所にて。

 

 

「必殺必治癒! 全力全快! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

華佗が背後に爆発したかのような気を背負い、一刀の肩口に鍼を刺した。

稟と美里に見護られながらの治療であった。

 

 

「・・・よし、どうだ?」

 

「少し衰えた様だけど、問題無く動く」

 

「そうか、俺の診立てでも、もう完治している。

後は万が一だが、麻沸散の効能が経絡系に残っている可能性もあるから、それを中和する為の薬を渡しておく」

 

「ありがとう」

 

「何の、俺は医者だ。

するべき事をしたまでの事さ」

 

「それでも、言わせて貰いたいのさ、ありがとう」

 

「む、むぅ、照れ臭いな」

 

 

少し顔を赤くする華佗。

一刀は、背筋に何かが奔った様な感覚を覚えた。

 

時同じくして、南東地域の河べりで散歩していた女性がいきなり「ヒャッハー!」とか叫んだらしいが、関係は無い。

多分・・・

 

華佗から薬と、それの服用に関する助言を受け取ってから、一刀は稟と美里と一緒に退院した。

診療所の外に出て、伸びをする。

 

 

「くぁーっ! 何だか凄く久し振りに洛陽にいる気分だ!」

 

「そりゃねぇ、あたしは万が一の為の検査入院だし、奉孝は血不足。

あんたに比べたら、よっぽど軽傷だよ」

 

「うぅ・・・呂布殿がいけないのです・・・・・・あんな、あんな情熱的で・・・淫らな接吻を一刀殿と・・・うっ!?」

 

「はい、止めー。

折角退院したのに、また即運び込まれちゃ面目丸潰れもいいとこだろ」

 

「ふ、ふが、申し訳ありません」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

 

冷汗を流しながら、一刀は空を見上げた。

憎々しいまでの蒼穹。

何だか、良い事があるんじゃないかと思えてくる。

 

 

「お、いたいたー! そいやー!」

 

「わぷっ!?」

 

 

気の抜けていた一刀に急遽飛び掛かる影、霞である。

一刀の首からぶら下がる様に抱き付き、猫の様にゴロゴロ甘えている。

 

 

「う、うぐ、ちょ、霞重・・・」

 

「あー、いけへんのやー、女子に重い言うなんて男らしくあらへんでー?」

 

「むっ・・・」

 

「ま、それはそれとして。

ほい一刀! ウチからの快癒祝いや!」

 

 

そう言って、一刀から離れて包みを差し出す。

一刀は首を傾げながらも受け取る。

帰ってから開けようかと思ったが、霞が此方へと向ける熱い期待の籠った視線に気が付いた。

 

 

「じーーー」

 

「あー、霞、此処で開けていいか?」

 

「モチのロンや!」

 

 

霞の即答を受け、包みを開く。

して、そこから出て来たのは・・・・・・

 

 

「・・・・・・これ、羽織か? 霞のと良く似てるけど」

 

「せやせや! 洛陽中の職人に手伝ってもろうてな?

『天の御遣い』様の快復祝いや言うたら、皆喜んで手ぇ貸してくれてん!」

 

「・・・もう二度とするなよ」

 

「一刀が二度と大怪我せえへんのやったら考えとく」

 

「うぐっ」

 

 

ニヤニヤと笑われる。

見事に揚げ足を取られてしまった感じだ。

 

 

「それで、これは・・・こうして」

 

「こうやね、ほい完成っと」

 

「おぉー」

 

 

何も言わずに見物していた美里が感嘆の声を上げた。

 

羽織と言うよりもマント。

透き通る様な純白。

所々煌めくのは金糸か。

背中には黒で染め抜かれた丸に十字。

 

 

「これ、島津の家紋じゃないか」

 

「島津? 家紋?」

 

「それは難しい話だからまた後でな。

・・・でも、これいいな」

 

「せやろ? 鎧の上からでも着られるし、陽光を反射して純白に煌めくし!

それに・・・左肩の矢傷隠せるやろ?」

 

「霞・・・ありがとな。

大事に着させて貰うよ」

 

 

深く頭を下げる。

霞の方は罪滅ぼしの一環だったので、礼を言われるとは思っていなかったので、慌てていた。

 

 

 

-10ページ-

 

 

―――洛陽本城

 

あれから自主的な見回り(別名:サボり)に向かった霞を美里に任せ、一刀と稟は何時もの執務室へと戻ってきていた。

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいー」

 

「おう大将、漸く本調子ってとこだな」

 

「ああ、何とかな」

 

「・・・遅いわよ、とっとと戻って来いっての」

 

「詠ちゃん、無理言っちゃ悪いよ。

一刀さん、お帰りなさい」

 

「ああ、月は詠と違っていい子だなぁ・・・・・・」

 

「あんですって!?」

 

 

詠から頬を染めながら言われた言葉に少し凹みながらも、一刀は羽織を脱ぐ。

三人が何も聞いて来ないのは、霞がそれを用意していた事を知っていたからだ。

 

 

「政務にも穴開けちゃったろうからな、挽回しないと」

 

「ちょっと待って下さい」

 

「ん、何だ風?」

 

「それよりも急な事態が起こったのですよ、これ見て下さい」

 

「ん、何々・・・・・・・・・・・・・・!?

な、何だこれは―――!?」

 

「どうかなされたのですか、一刀殿・・・こ、これは」

 

 

一刀の目が驚愕に見開かれた。

怒りで手がワナワナと震える。

声も怒気を含んでいる。

後ろから覗き込んでいた稟も、神妙な顔付きになった。

そして読む。

 

 

「『天の御遣い・北郷一刀とは、名ばかりの大罪人たり。

その実態は逆らう者は認めず斬り、女は我が物とし、この世のものとも思えぬ暴虐の限りを尽くす悪逆非道の魔物である。

真の天の意思にて我等はこれを成敗し、天子様を御救い致すべきと確信せり。

されば袁本初の名の下に集い、正義を共にして外道の遣いを討つべし!』

・・・酷い捏造ですね、この人はそんな事はしようと思っても出来ない人ですのに」

 

「・・・ええ、本当にね。

多分逃げた張譲辺りの謀よ」

 

「あ、あの野郎・・・ッ!」

 

 

握っていた木簡が、力の入れ過ぎで砕けた。

それは置いておき、詠は続ける。

 

 

「因みにそれが手に入ったのは、三日前。

華佗からは、身体を休ませる為に教えるのを止められたから教えなかっただけ。

だから、誰かに当たったりするんじゃないわよ?」

 

「分かってるさ、元々そんな気は欠片も無い」

 

 

それでも、一刀の声は震えていた。

 

 

「しかし、これ程お兄さんとは思えない人物像を作ったとしても、それでも信じる人達はいるのですよ・・・・・・」

 

「火の無い所に煙は起たねぇ。

例え真っ赤な嘘でも、一度でも世に広まっちまえば、そいつは真になっちまう」

 

「それに、一刀殿の人柄を知る者であっても、それを知らぬ民がその者達に討伐を望めば、軽々には扱えません。

本人が例え望んでいなくとも、望まれれば起たざるを得ない。

特にその者が善君であればある程・・・!」

 

「・・・敵だらけになる、って事か」

 

「まず間違いなく」

 

 

最後に稟がそう言い、一刀は目を閉じて考え込んだ。

風も、詠も、月も、全員が一刀の言葉を待つ。

それは、一刀こそがこの場の主であると見なしての事だった。

 

 

「稟、洛陽中に触れを出そうと思う」

 

「内容は何と?」

 

「ああ・・・・・・」

 

 

そこに続く言葉を聞き、稟は無言で頷いた。

そして、彼女は風を伴ってその場を後にしたのであった。

 

 

 

―――二刻程後。

 

洛陽の人々は、董卓軍と官軍の皆によって立てられた立て札を訝しみ、それを読んではざわついていた。

 

 

『これより、洛陽が戦禍に脅かされる可能性がある為、長安へと逃げる事を推奨する。

逃げる方々は、道中の安全を確実なものとする為軍に来るように。

護衛用の隊を数隊と、車の貸出及び使用を許可する』

 

 

という触れであった。

何故洛陽が戦禍に晒されるのか。

その理由が全く分からないのだから、ざわつき混乱するのも当然である。

訝しんだ者達は各地からやって来た行商隊の人達から、例の噂を聞く。

そして、事の真相を知った人々の反応はほぼ一様であった。

 

怒り。

攻めて来るやもしれぬ者達への抑え切れぬ憤怒、そのものであった。

 

だが、それ以上に。

実は商人達が一番怒っていた。

東西南北、全方位に交通の便が良く非常に商売に向いている要地なのだ、洛陽とは。

しかも、楽市・楽座が敷かれている御蔭で商売を始めるのも楽。

こんなにも商業都市として発展した洛陽が再び荒廃してしまう事は、商人達にとっては死活問題に等しかった。

故に。

商人達が攻めて来る相手との戦いの際には全力を以って支援するとの連名書を持って城まで駆け込んで来たのは、半ば当然の事であった。

そして、誰一人として洛陽からは離れようとしなかった。

 

 

 

-11ページ-

 

 

一刀は触れを出すのと同時に、将達にも同様に洛陽を離れたくば離れてもいいと言っていた。

タイムリミットは、夜明け。

明朝の評定までだ。

 

 

 

―――そして、翌朝。

 

評定の間までの廊下を、一人一刀は歩いていた。

何人残ってくれたか、と思いながら。

昨日の時点では、董卓軍を含めて四十人程度。

 

最悪自分一人になってしまうか、とも思う。

まぁ、十人もいてくれればいいかと思い、評定の間を開け放った。

そして――――

 

 

「遅いわよ、バカ」

 

「主様、皆待ち草臥れております」

 

「ほらほら、総大将がいなきゃ始まんないって」

 

「お兄さんの事だから、きっと誰一人として残ってないとか。

考えが負の方向へ全力疾走してたんじゃないですか?」

 

「貴方が思っている程、貴方は不人気では無いですよ」

 

「一刀さん、言った筈ですよ。

私は、貴方の力になりたいんです」

 

 

一刀は目の前の光景が信じられなかった。

全員だ。

そう、全員残っている。

誰一人として欠ける事無く。

 

 

「皆、何で・・・」

 

「なぁ一刀、ウチ等が皆、一刀が『天の御遣い』だから付いて来ただなんてホンマに思っとるん?」

 

「そ、それは、月が俺に付いて来ると言ったからで」

 

「嘗めないでくれる?

例え月の意思であっても、月が本当に危険だったら無理矢理にでも天水に連れて帰っているわよ。

ボクが此処でこうしているのは、アンタに付く方が逃げるよりも良い結果に繋がると思ったからよ」

 

「詠」

 

「どうせ逃げられないんです。

だったら、全員集まってとことんまで反撃しましょう」

 

「円」

 

「兄ちゃん、大丈夫!

何たって皇帝陛下が味方なんだぜ!」

 

「あ、兄上、兄上はもう皇帝なんだから・・・

そ、それであの、私も御遣い様の味方ですから」

 

「弁君、協ちゃん」

 

「御遣い様」

 

「朱儁将軍」

 

「劉宏様が最期に我等に下された御命令は、『大義に身を委ねよ』で御座います。

故に我等は皆、御遣い様に全てを委ねます。

御遣い様・・・いえ、御主君。

どうか我等の命、好きに扱って下さいませ」

 

 

朱儁将軍に続き、霊帝の代からずっと漢王朝に尽くして来た将達が皆揃って一刀に頭を下げ、臣下の礼を取っていた。

 

 

「は、はははは・・・・・・」

 

 

乾いた自嘲するかのような笑みが零れる。

自分は何を不安に思っていたのか。

これ程、自分の周りには仲間となってくれる人達が溢れ返っていたと言うのに――!

 

 

「皆、ありがとう。

俺は、こんな所で終われない。

終わってはいけない理由が出来た!

だから、今一度皆に頼みたい!

皆、俺と一緒に戦ってくれ!!」

 

『応ッ!!!』

 

 

同時に応える声が、評定の間全体を震わせた。

ある人は頭を垂れ。

ある人は武器を持った手を頭上に掲げ。

ある人は唯微笑み。

ある人は苦笑を漏らす。

だが。

皆揃って、目指す事は変わらない。

目の前に迫って来ているであろう《敵》と戦い、これを倒す事。

 

――今は亡き十常侍筆頭:張譲が仕掛けた罠は成った。

盟主を袁紹とした反天遣連合が結成される事となったのだから。

 

だが、世の敵として祀り上げられた天遣陣営はこれ以上なく強固に結束。

反面、正義としてある筈の連合は烏合の衆そのもの。

 

両陣営が本格的に激突するまで、残り一週足らずである。

 

 

 

 

第二十五話:了

 

 

 

-12ページ-

 

 

オリジナルキャラ紹介

 

 

名前:留賛

字:正明

真名:涼香(すずか)

武器:洒唄(しゃうた)

設定:歌と酒が大好きでスタイル抜群な大人の女性。

  足が不自由で、杖を使って体捌きの補佐をしている。

  それでも武の腕はかなりのもので、相当に腕の立つ武将でも無ければ、瞬殺されかねない程。

  『数え役萬☆しすたぁず』が黄巾党を率いる前からの大ファンであり、一時期彼女達を称える歌を創ろうとした事がある。

  歌と自分の命の重要さを同レベルで考えており、「歌えなくなった時が、自分の死ぬ時」とさえ言っている。

  戦場でも何処でも歌える時があれば歌う。

  そして何気に鼓舞の効果でもあるのか、歌っている間は軍そのものが何故か強くなる。

  専用の楽隊を持っていて、隊長。

 

 

 

-13ページ-

 

 

後書きの様なもの

 

ふー、ちょくちょく時間を取りつつ更新です。

一ヶ月の空きが出来る事態は避けていますが、四月になったらそうもいかんのだろうなー、と一人ごちながらコメ返しです。

 

コメ返し

 

 

・村主様:小悪党は小悪党らしく、ですね。

 

・根黒宅様:純粋なので、そうしたいと思ったら一直線です。

 

・砂のお城様:実は初めてじゃなかったり。 ヒントは、第二十四話8ページ目の真ん中付近。 後、碧さん達は多分「自分にも同じ事しろー」な感じで迫るかと。

 

・はりまえ様:実は、あるゲームのコンボだったりしますw 嫉妬の嵐ですが、まだ小康状態ですよ。

 

・nameneko様:堕ちるでしょうね・・・でも、現在のルートでは接点が丸で無い!

 

・KU−様:はい、事前策です。 噂自体は先に各地に潜伏させておいて、後に本命の密書が諸侯のトップに届くように時間を計算して仕掛けられたものです。

 

・mebius様:落とせるんですが、落としません。 しかし、そうですか? 沙羅みたいなのはデレ入ったら相当だと思うのですが・・・

 

・ヒトヤ犬様:あーそれは無理っす。 だって、檪花と沙羅は政庁の中で起こった出来事知りませんから。 彼女達は、菖蒲が張譲を追い詰めたと勘違いしています。

 

・O-kawa様:当然です!(キリッ でも、多分出会わない。

 

・poyy様:あくまで混乱の様子を分かり易く形にしただけですから、実際に口にしたのとは違いまっせ。

 

・悠なるかな様:張譲は大物ぶった小物が良く似合う。 で、一気にここまで来ました。

 

・ロンロン様:抑え込んでいる沙羅が余りのスプラッタさに気を失いかねませんね。

 

・西湘カモメ様:連合は組まれました。 但し、《董卓》ではなく、《天遣》です。

 

・mighty様:先に、そういう流れになる様に仕込みは終わってる状態ですから。 で、最初に言っておきますが、華蘭は連合編で暴れる予定があります。

 

・F97様:張譲ザマァ! そう思って頂けたのなら幸いです。 応援ありがとうございます!!

 

 

では、今回はこれで。

次回は多分、現代編書きます。

 

 

 

 

説明
何だか書く手が加速してきた感。

でも、クオリティは・・・・・・くそぅ。

何だか無性に悔しいぞ。
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コメント
ワクワク(readman )
美羽良くぞそこまで成長しましたね。(涙 これからも、頑張ってください。 応援しています。(F97)
ぶっちゃけ連合勝てる見込みがないんじゃね?(poyy)
やばっ、稟が何気に可愛かった(*/∀\*)  そして恋の威嚇、これも可愛いっすヾ( 〃∇〃)ツ 華蘭が大活躍!?っしゃーーーーーーーー!!これで勝つる♪(mighty)
こんごがたのしみですね(VVV計画の被験者)
洒唄って「シャチ!」「ウナギ!」「タコ!」とは関係無い・・・ですよね? 後美羽の成長に涙が出た(O-kawa)
ひょっとして魏王って覇気が無かったらタダの悪代官なんじゃ、いい女を見るとすぐ犯すこと考えるってモロそうだし(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
現状では連合は単なる烏合ですが 華琳勢がえらいチート軍団になってるのがw 波乱は必至ですな(村主7)
西涼軍はどう動くのか?そして勝つことはできるのか?続きが楽しみです!!(悠なるかな)
キャーリューサーン!!soso様とのコラボも見てみたいです(流狼人)
次に期待!!早く続きが読みたいよ!!(タケダム)
連合の中にいる華蘭のような一刀の味方の存在がすごく気になる。(龍々)
さて一応歴史どうりになったけど、その後の命運はどうなるのかきになるな。それと、菖蒲に堕とされたか?一刀・・・(西湘カモメ)
知らずにやるのと知っててやるのどちらが罪なのかねぇ・・・・(2828)
よく考えたらこれが天遺伝!?(黄昏☆ハリマエ)
さあここから、楽しい楽しい謀略策略騙し合いの始まりだ。生き残る将は?夢を掲げられる隊は?野望を胸に秘めたる姫たちの競演!!あぁおもしろうそうだ!!(黄昏☆ハリマエ)
続きを楽しみにしています。(KU−)
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