存在の意味−時空を超える者・外伝− |
テスト航行中の宇宙戦艦ヤマトの、ここは医務室。
戦闘班班長であり、艦長代理でもある古代進が入ってきた。
「…佐渡先生、佑介は…?」
普段ならいつもそこにいるはずの姿がなく、医師の佐渡酒造に尋ねる。
「おお、またあそこじゃないかの」
「……佑介サン、思イツメタ顔シテイマシタ」
「こりゃ、アナライザー!」
心配げな声色のアナライザーを、酒造は慌てて窘めた。
「………」
進は一瞬顔を曇らせたが、酒造のさしている場所がわかったのか「ありがとうございます」と言い置いて出て行った。
「ばかもんっ! ああ言ったら古代が心配するじゃろが」
「スミマセン、デモ…」
アナライザーはそこで言葉を切って。
「古代サンナラ、佑介サンヲ元気ヅケラレルト思ッタンデス」
「まあ、それはそうかもしれんが……」
その台詞に、酒造も溜め息をつくしかなかった。
酒造が言っていた場所とは…ヤマト側面展望室。
そこに佑介―――土御門佑介はいた。
アナライザーが心配していた通り、不安の色をその整った顔に浮かべて。
「還れる…かなあ、俺」
ぽつりと、溜め息とともに言葉が漏れる。
実は佑介は、進たちと同じ時代の人間ではない。
なんの悪戯か、200年も前の過去からタイムスリップしてしまったのだ。
佑介にもその理由はわからない。家の屋根で好きな星を眺めていたら、どこからか「声」が聞こえた後……気がつけばこのヤマトの医務室のベッドで寝ていたのだった。
最初に佑介を見た進によれば、佑介は天井から落ちてきたと言っていたが。
佑介がここに現れて、4日…いや、5日になるだろうか。
当初は混乱して、訳がわからなくて戸惑うしかなかった佑介。
そんな彼を、進や酒造たちは「大丈夫だ」とあたたかく受け入れてくれた。
初めは胡散臭そうに佑介を見ていた第一艦橋のクルーたちも、進の説明や佑介の真っ直ぐで素直な気性に触れたことで、すっかり仲間同然に接してくれている。
そのことは、佑介もとても嬉しかった。言葉では言い表せないくらいに。
今、自分が着ている白地に青のラインが入った隊員服が、その証拠なのだから。
だがそれでも、時々不安が頭をもたげるのも事実。
元の、自分がいるべき時代に還れるのか。
不意に、弱気になってしまう。
そういう自分を進たちに見られたくないから。
心配させたくないから。
だから、人知れず展望室に来るのだ。
再び、溜め息をついたとき。
「佑介」
その声に、びくっとなってしまった。
「あ。こ、古代さん」
振り向いた先に進の姿を認めて、慌てて笑顔を繕う佑介だったが。
進はそのまま、佑介に歩み寄って。
「いてっ;;」
ぼかっと佑介の頭を小突いていた。
「…ったく…、なんて顔だ。無理して笑うな」
「!」
小突かれた頭をさすりながら佑介が進を見れば、苦笑いを浮かべている。
「俺たちを心配させたくないのはわかるが…。少しは頼ることも覚えろ」
「古代さん…」
安心させるように、にこっと笑う。
不覚にも涙が出そうになり、佑介は俯いた。
「俺よりずっと年下のくせして、強がるなっての」
「…5歳しか違わないじゃん…;;」
くすくすと笑いながら、佑介の頭をぽんぽんと軽く叩く進。
「…佑介には悪いけどな、感謝してるんだよ」
「え?」
話が見えず、佑介は僅かに目を見開いた。
「―――佑介がヤマトに来てくれて、よかったって」
手すりに腕を乗せて、進は窓の星々を見つつ言う。
「クルーたちの表情が、ここのところ柔らかくなったみたいでね…」
佑介はその横顔を見ていた。
「それも、佑介のおかげなんだろうなと思っているんだ」
進はふっと笑って、佑介を見た。
周辺探査とテスト航行とはいえ、いつ何時戦闘に巻き込まれるかわからない。
そんなびりびりとした雰囲気の中、佑介が突然ヤマトに現れた。
佑介の醸し出す雰囲気のせいなのだろうか、彼の周りはあたたかい『気』が流れているように感じると、工作班技師長の真田志郎が言っていた。
実際、佑介の周りはクルーの笑顔が絶えない。どんな時、どんな場所でもだ。
戦闘で傷ついたクルーたちには『癒しの場所』になっているのかもしれない。
「迷惑かもしれないが、もう少し…ここに留まっていてくれないか?」
そう言う進に、佑介は慌てて首を振り。
「迷惑だなんて! …俺のほうがよっぽど、古代さんや雪さん、みんなに迷惑かけてるんじゃないかって思ってたから…」
一度目を伏せる。
「でも…。こんなに俺のこと受け入れてくれるなんて…」
「ばっか。そんなの当たり前だろ」
再びくしゃっと、進の手が佑介の頭を撫でる。
優しい笑顔。
「元の世界に還ったとしても、大事で可愛い弟分なんだからな、佑介は」
「…っ」
また泣きそうになってしまう。
「…還す方法も探して、見つけ出すから。安心してろ」
「……うん」
泣き笑いのような笑顔を、進に向けた。
と、佑介の足下に何かが擦り寄ってくる感触。
「?」
なんだろうと佑介が下を見れば……。
「ミーくん」
酒造の愛猫・ミーくんが佑介を見上げて「みゅう〜」と鳴いた。
ひょいと抱き上げれば、ミーくんはするりと佑介の首に巻きつくようにして、ぺろっとその頬を舐めた。
「ミーくんも心配してたんだな」
その様子に、進が柔らかい笑みを浮かべていると。
「…いた、佑介くん!」
その声に振り返ると、生活班班長で進の婚約者でもある森雪をはじめ、航海長の島大介など第一艦橋のクルーたちが展望室に入ってきた。
「雪さん。それに島さんや相原さんたちも…。どうしたんですか」
佑介の横で、進も目をぱちくりとさせている。
「…佑介くんが、なんだか元気がないって聞いたから…」
心配顔の雪の返答に、それを発した張本人に思い当たった。
「……あんの、おせっかいロボット;;」
半眼でぼそっと言う佑介を、進は苦笑しつつ見ていた。
「大丈夫ですよ。心配させてすみませんでした」
にこっと鮮やかな笑顔で答えた。
……大丈夫。
いつ戻れるかはわからない。
でも、ここにも自分を思ってくれている人たちがいる。
それを忘れなければ、きっと大丈夫だ。
佑介の様子に安心したのか、太田が。
「本当なら、パーティでもやってバーッとしたほうが元気が出るもんだけど…」
そう言いながら、カメラを取り出した。
「それじゃ形には残らないし、みんなで写真撮りましょうよ」
「お、いいねえ」
「よっしゃ、撮ろう、撮ろう」
南部と相原もその提案に乗った。
真田と機関長の山崎奨、そして島も顔を見合わせて笑っている。
「佑介くんは主役だから、真ん中ね」
相原の指示で佑介が立つと、すぐさま進と雪が佑介を挟むように立った。
そして太田とと山崎がその隣に。
「じゃ、俺が佑介の後ろに立とうっと」
南部がそう言うが。
「…なんか顔が半分隠れてないか?;;」
苦笑いの真田だ。
佑介は178cmとどちらかというと長身だ。相原でも同じような状態になってしまう。
「そこは真田さんでしょう」
進も笑いながら言う。
どうにかこうにかで位置も決まり、皆が収まったのを確認しセルフタイマーをセット。
ふと、佑介の肩にかかる重み。
両方から進と雪が腕を回し、手を乗せていた。
交互に顔を見合わせ、笑い合う。
―――そして。
パシャ!
自分が、そこにいる意味。
皆の笑顔とともに、こうして確かに残っている。
了
説明 | ||
『時空を超える者』外伝その3です。 今回は『時空を〜』最終回に出てきた写真に関したエピソード。時期的にいうと『彼の色、海の如く』と『笑顔のある場所』の間でしょうか。 一応、これが最後になるかもしれません。 |
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