真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第四章・第六幕
[全11ページ]
-1ページ-

  ―――所は并州・晋陽郡。

 

 その郡府(郡の中心的政令都市)である、晋陽の街へと到着した一刀たちの目に飛び込んできたのは、街をぐるりと取り囲むようにして陣を張る、匈奴の大軍勢であった。その数は、一通り見渡しただけでも、およそ十万は居ると思われた。

 

 「……どうするんですか、一刀さん。こんなに大勢の兵がいたんじゃあ、忍び込むのはかなり難しいですよ?」

 

 という徐庶の問いに、一刀の返した返事はこうだった。

 

 「何言ってるんだよ、輝里。忍び込むなんてことしないよ。堂々と正面から乗り込むに決まってるじゃないか」

 

 『へ?』

 

 そういって、あっけにとられる徐庶と姜維に微笑んだ後、一刀はテクテクと、その十万からの軍勢が居る街へと歩き始めた。その後を、あわてて追う徐庶と姜維は。

 

 「何考えとんのや、カズは。まるっきり遊びにでも来ましたってゆう感じやんか」

 

 「……そりゃ、敵対しに来たわけじゃないにしても、あまりにも無防備というか、なんというか」

 

 大胆にもほどがある。そう一刀を諌めはするのだが、当の本人はいたって気楽に、こういうのである。

 

 「へーき、へーき。いくらなんでも、外交の使者を名乗る人間を、いきなり斬ったりはしないさ。……これだけの兵をまとめる人物だ。そんな短絡思考じゃ決してつとまりゃしないよ」

 

 そんな一刀の読みどおり、街を囲む兵に対し、冀州からの使者である旨を告げると、そこから以降の対応はとても丁寧なものだった。無論武器は取り上げられ、身体検査などをされはしたものの、一刀たちはさほど時をおかず、晋陽城の謁見の間に通された。

 

 そして、そんな一刀たちの前にまず現れたのが、二人の少女。

 

 一人は北方民族特有の、いかにも狩猟民族といういでたちをした、パッと見十四・五歳ぐらいの、背に弓と矢箭を背負った、小柄な少女。

 

 もう一人は、何故か漢民族の衣装を纏った、その手に琴を携えた緑の髪の少女。

 

 その二人が玉座の左右に控え、そして一拍置いた後、弓を背負った少女が、彼女らの主の入場を宣した。

 

 「……匈奴の単于、左賢王・劉豹さま、御出座である!」

 

 ざ、と。

 

 その場に同席している匈奴の者達が、揃って一斉にその頭を下げる。一刀たちも、拱手してその頭を下げ、彼らの主の登場を待った。

 

 しゅるしゅると。衣擦れの音が一刀たちの前を通り過ぎていく。そして、その美しい声が、場内に響き渡った。

 

 「……匈奴が単于、劉豹である。顔を上げい」

 

 絶世の美女。

 

 そんな人がこの世にいるんだと。声の主に言葉に従い、下げていたその顔を上げた一刀、徐庶、姜維の三人は、目の前の玉座に座るその女性を見て、思わず感嘆の溜息を漏らした。

 

 

-2ページ-

 

 「……どうしたのかしら、使者の方々。私の美貌に見惚れたかしら?」

 

 「……見惚れました」

 

 思わず。つい本音がポロリと漏れた一刀。と、ここでいつもなら、例の氷のような視線が彼に突きさるところだが、徐庶も姜維も一刀とまったく同意見であった。

 

 「……こんな綺麗な人がおんねやな〜。……うち、ちっと自信無くしたかも」

 

 「激しく同意……。あの、長くて綺麗な脚。折れそうなくらい細い腰。……うらやましい」

 

 という感じである。

 

 「うふふ。おねえさん、正直な子は大好きよ。……それで、まずは名前教えてもらってもいいかしら?冀州からの使者だというぐらいしか、まだ何も聞いていなくてね。……わざと、名乗っていないんでしょ?”天の御遣い”さん?」

 

 「!!……お見通し、ですか」

 

 「……そりゃ、その服装で居ればばればれでしょ。そんな珍しい服、あなた位しか着てませんし」

 

 「……ごもっとも」

 

 劉豹の右隣に立つ、琴を持った少女にそう突っ込まれ、返す言葉のない一刀。

 

 「……そういうところ、時々抜けてますよね、一刀さんって」

 

 「あう」

  

 「ま。そんなところもカズらしいっちゃ、らしいけどな」

 

 「……ふ〜ん」

 

 にやにやと。一刀たちのそんなやり取りを、劉豹は楽しげに見つめている。……面白い玩具が来た。そんな感じの表情で。

 

 「?あの……何か?」

 

 「別に。……それで?御遣いさま直々の、しかもほとんど無防備でのわざわざのお越し。……いったいどんなお話に来たのかしら?」

 

 その笑顔は崩さず。しかし、心臓を射抜くかのような鋭い視線を一刀に向け、その来訪目的を問う劉豹。

 

 「……友好を」

 

 「へえ……」

 

 自身の顔をまっすぐに見つめ、ただ一言”友好を”と口にした一刀に、劉豹はなおも鋭い視線を送り続ける。……まるで、一刀のその心のうちを探るかのように。

 

 「……で?貴方の言う友好って何?今までの王朝みたいに、貢物を贈るから手を貸せとでも?でもって、もし従わなければ、力でもってこちらをねじ伏せると?」

 

 「……輝里」

 

 「はい」

 

 劉豹のその言葉には答えず、徐庶に声をかけて、一刀は彼女から一枚の書類を受け取る。そしてそれを、ゆっくりと読み上げ始めた。

 

 

-3ページ-

 

 「”冀州刺史・北郷一刀が、匈奴の単于・劉豹に申す。悲しむべきことに、過去より現在に至るまで、北方の者と漢土の者は、互いにその刃を交え、その血を流し、多くの同胞を失ってきた。両者とも、互いに”同じ人間”であるにも拘らずである。故に我はここに提案をする。これより先は刃ではなく、言葉と心を交わし、同じ立ち位置、同じ目線、同じ想いにて、共に永く、永久なる友誼を誓い、現在より未来へと、肩を並べて歩むことを”」

 

 「…………………何……だと?」

 

 一刀が読み上げるその書簡の内容。その内容に劉豹−いや、その場に居る匈奴の者全員が、その度肝を抜かれていた。

 

 同じ人間として、同じ立ち位置で、同じ目線で、同じ想いで、永久の友誼を誓い、肩を並べて歩みたい。

 

 そんな事、彼女たちは始めて、漢土に住む者に言われたかも知れない。そんな呆気にとられる劉豹達を他所に、一刀はそれを読み続ける。

 

 「”……その手始めとして、我は匈奴との対等なる立場での交易協定、及び相互不可侵の条約を、ここに提案する。尚、并州・晋陽郡は、匈奴の領有地であることも、この場にて認めるものである”」

 

 「……そ、そんなこと、朝廷が認めると、思うのか?」

 

 晋陽の地が匈奴の物であると、一刀はそうはっきりと宣言をした。だが、それはあくまで、冀州刺史・北郷一刀という、一地方の領主が認めただけ。漢の朝廷が、それを易々と認めるはずが無いと。劉豹はそう問いただした。

 

 「……漢の朝廷については、この際あまり関係ないです。問題は劉豹さん、貴女のほうです」

 

 「私?」

 

 「ええ。……貴女がどんなつもりで、この地をとったのか。この地に元から住む民を、どう扱うのか。先の話は、そのお話次第のことです。……お答え頂けますか?貴女が何のために、この地を欲し、これからどう扱っていくのか」

 

 「……」

 

 

-4ページ-

 

 立場はすっかり、逆転していたといっていいだろう。

 

 初めのうちは、わずか三人の使者が相手と、劉豹は少々高をくくっていた。所詮、漢の地に住むもの。いかに天の御遣いと称されるものであれ、漢土の者にとっての有利な話しか、その口からは出てこないと、劉豹も、その左右に控える二人の少女も、そしてほかの者たちもそう思っていた。

 

 だからこそ、どんな話をこの男がして来ようが、最終的には有無を言わさず三人を捕らえ、今後の侵攻作戦における、その取引材料にするつもりでいた。だが、いざ蓋を開けてみれば、この青年は劉豹らの遥か上を行く話しを持ちかけてきた。

 

 両者を同等の立場におき、その上で友好の条約を持ち出してきたのだ。

 

 劉豹は完全に気圧されていた。この、見た目二十才そこそこの、着ている服以外は、特に目立った様子の無い、青年の圧倒的なその気迫に。

 

 自身を見つめる、その青年の、深い藍色の瞳。

 

 それを見ているうち、劉豹は亡き父の顔を、一刀のその顔に重ね始めていた。

 

 わずか数年前に逝った、先の単于、於扶羅(おふら)。

 

 気高く、力強く、そして優しかった父は、突如として流行病にかかり、本当にあっけなく逝ってしまった。

 

 そして、亡き父の後を継いで単于となった後、劉豹のその人生は、苦労と苦悩の連続となった。周辺の他の五胡の者たち−烏丸や羌の者らとの、北方の地を巡っての激しい抗争もあった。同じ一族内でも、劉豹のことを快く思わないものたちとの、政治的な争いもあった。

 

 また、漢土の者たちとて、普段は甘い顔をしておきながら、こちらが少しでも隙を見せれば、すぐに匈奴の地へと攻め込んできて、物も人も奪っていく。

 

 そんな状況で劉豹が信用できたのは、亡き父の一族である、いま自らの左隣に立つ呼厨泉と、亡き父の愛妾であった、劉豹の右側に立っている蔡?。そして、自分自身の武、それだけであった。

 

 そして、突然匈奴の地を訪れた、漢の使者を名乗る張温とかいう男を、劉豹は好機とばかりに利用した。張温の−漢の”依頼”に乗る振りをして、張温の先導で長城を越えて并州に入ったその直後、その場で”ソイツ”を斬り殺し、まずは晋陽の地を平定した。

 

 このまま、いずれは漢朝をも倒し、すべてを根こそぎ奪う。

 

 初めからそのつもりであったし、つい先ほどまで、完全にそのつもりでいた。だが。

 

 

-5ページ-

 

 「……もし、私が、民たちを無碍に扱ったら、貴方はどうするつもりかしら?」

 

 ―――聞いてはいけない。

 

 劉豹の脳が、心が、本人にそう、警鐘を鳴らしていた。

 

 それを聞けば、そして、それに対する彼の答えを聞いたら、自身の心は揺らいでしまう、と。だが、それでも劉豹は、それを問うてしまった。そして、予想通りの答えが、一刀の口から返ってきた。

 

 「……質問に質問で答えるのは、正直どうかと思いますけど。……いいでしょう、答えてあげます。……外道は許さない。それだけです」

 

 『!!』

 

 背中に、いやな汗が流れるのを、劉豹は感じた。今の一刀から放たれている気。それは、怒気。

 

 うわさでは聞いてはいた。

 

 二千人近い非戦闘員である邑人を、ただ一方的に、なぶり、殺し、陵辱した、とある賊の集団。それを、目の前にいるこの青年が、わずかな人数で持って、殲滅したと。しかも、たった一人で、万を越す数を切り伏せたと。

 

 彼は基本的に、対話と誠意を持って、相手に対する。それがその基本姿勢であろうことは、今回こちらに持ってきた話の内容で、確信を持つことができる。だが、対話の余地が無いと判断した相手―――つまり、畜生にも劣る行いをした外道には、決して容赦することなく、その戦神と呼ばれる武を振るう。

 

 慈悲と寛容の心を持ちつつも、必要とあらば、冷酷・無慈悲に、断を下せる。

 

 そんな、相反することを自然とこなせ、それに押し潰される事の無い人間を、世間ではこう呼ぶという。

 

 

 ―――『覇王』、と。

 

 

 

-6ページ-

 

 (豹はどうするのだろうか)

 

 劉豹と一刀の会話を、その横で聞いていた呼厨泉は、劉豹の苦悩が身にしみるほどよくわかっていた。

 

 彼女の兄である、先の単于・於扶羅。その子として生まれた劉豹を、呼厨泉はいつでも見守って来た。亡き兄の願いどおり、したくも無い姿をしてその子の傍に張り付き、その支えとなって、常にその傍らにいた。

 

 (完全にのまれているな。……無理も無いか。あまりにも、相手の器が違いすぎる)

 

 漢土の者にとって、五胡とは、それすなわち敵を意味する……はずなのに、この青年は、そんなことはお構いなしに、対等の立場で手を差し伸べている。こんなことは、過去にも例の無かったことのはずだ。

 

 遥か古の殷や周の代より、われわれは所詮、あちらの者にとっては外敵でしかなった。互いに、奪い、奪われるだけの関係。所詮、解かり合い、手を取り合うことなど、ありはしないと呼厨泉もそう思っていた。

 

 (……しかし、この男ならば、それを可能にするかもしれない)

 

 そんな考えが、呼厨泉の脳裏にも浮かび始めていた。そう思わせる”何か”が、この天の御遣いと呼ばれる男からは、感じさせられるものがあった。そして何より、

 

 (……似てるな、兄者に)

 

 劉豹と同じ感想を、呼厨泉も一刀に感じていた。

 

 姿かたちはまったく違う。声とてとても似つかない。だがその瞳。強固な信念と、深い慈愛に満ちたその瞳に、呼厨泉は亡き兄を重ね、一刀をじっと見つめていた。

 

 

-7ページ-

 

 「……私は、民までどうこうする気は、無いわ。并州を取ったのは、あくまでも、安定して穀物などの、私たちが北方では得にくい食料を得るため。だからこの後は、体のいい代理を置いて、間接的にこの地を配する気だった」

 

 それが、ようやく搾り出した答えだった。もし当初の目的を語っていたら、その瞬間に、この場にいる全員の首が飛んでいただろう。この、目の前に立つ青年の目が、それを無言で語っていた。たとえその後、外にいる十万の兵を相手取ることになっても、間違いなく、彼はそれを行うと。

 

 そしてこの答えは、劉豹が一刀に屈したことも、意味した。

 

 (……どうやら、賭けは一刀さんの勝ちみたいね)

 

 (……せやな。あえて少数で、相手の懐に飛び込む。それが、一番の要、か)

 

 (相手の油断、そして無警戒を誘い、匈奴の人たちが思ってもいなかった、対等な同盟を提示する)

 

 (わざとあの格好で来たんも、そのうちの一手、か。……かなんな、ほんまに)

 

 (ええ。……軍師としての自身、ちょっと無くすかも)

 

 相手の気を抜かせ、そこに、精神的な大きな衝撃を与える。そこで、交渉のイニシアチブをこちらに引き寄せ、止めとばかりに、自分たちが命がけでこの場にいることを、相手に理解させる。死を覚悟で、交渉の場に望んでいることを。……自分たちの本気を。

 

 本気で、良き隣人になることを、なりたいと願っていることを、相手に示す。

 

 誠心誠意。

 

 それが、一刀の、対匈奴交渉の”策”だった。

 

-8ページ-

 

 「そうですか。……これで安心しました。劉豹さんたちとは、良き隣人で居れそうですね」

 

 にっこり、と。

 

 発動するいつもの落としの笑み。

 

 (あ、出た)

 

 (これでまた増えるんかい……あれ?)

 

 「同盟を結ぶのはいいわ。貴方はそれに、十分値する者のようだしね。けど、一つだけ、条件があるわ」

 

 「何でしょうか?」

 

 (……あるぇ〜?劉豹はん、なんともないんかいな?)

 

 (……おかしいわね……。隣に居る、あの蔡?って子は、顔が赤くなってるけど)

 

 そう。

 

 一刀の例の微笑を向けられたにも拘らず、劉豹と呼厨泉の二人は、その表情に何の変化も起こしていないのである。……女性であれば、決して抗えるはずの無い、一刀のあの笑みを直視したはずなのに。

 

 「たいしたことじゃあないわ。……そちらが、私たちを同列の存在と見てくれるのなら、こちらの伝統と文化も、許容することができる筈よね?」

 

 「……そりゃ、まあ」

 

 「その言葉、忘れちゃ駄目よ?……拓海、彼を”例の”部屋に案内して。でもって……」

 

 ぼそぼそと。

 

 呼厨泉に何事かを囁く劉豹。

 

 「……本気ですか?」

 

 「もちろん本気よ♪じゃ、お願いね」

 

 「……はい。北郷どの、私についてきていただけますか?」

 

 「あ、ああ」

 

 「徐庶と姜維……だったわね。二人は別室へ案内するわ。皆の者!今日はこれより、良き友人ができたことを記念して、宴席を設ける!思う存分に楽しむとよい!」

 

 おおおおおおおおっっっっ!!

 

 「え、宴席?!」

 

 「わはっ!酒!酒はあるんやろな?!」

 

 「ええ、もちろん。……肴も、いいものを用意できるわよ……うふ」

 

 で。

 

 それから一刻ほど後。

 

-9ページ-

 

 「にゃははは!いい気分〜!」

 

 「このお肉おいしい♪あ、これも美味〜。……にしても、一刀さん遅いわね」

 

 謁見の間での、先ほど迄のぴりぴりとした空気はどこへやら。贅を凝らした……とまではいかないが、山ほどに積まれた料理と美酒に、徐庶も姜維も上機嫌で舌鼓を打つ。

 

 「二人とも、匈奴の料理はお気に召したかしら?」

 

 「はい。とってもおいしいです」

 

 「も、たまらんわ〜。うち、とっても幸せ〜。……ところで、肝心のカズは?」

 

 「……もうそろそろ、”仕度”が済んだかしら。……あ、来たわよ。当代随一の踊り子さんが♪」

 

 『へ?』

 

 ぎぎぎぎぎぎ、と。ゆっくりと開かれていく、宴席の間の扉。そこから、一人の華美な衣装を身に纏った、”美しい”女性が姿を現す。

 

 「……はあ〜。綺麗……」

 

 「ほんまや……はて?けど、どっかで見たような……」

 

 しずしずと。その女性が宴席の中央へと歩いてくる。

 

 「さ、約束よ?しっかりと、舞って頂戴ね」

 

 「……」

 

 劉豹の言葉に、その女性は言葉を発することなく、静かにうなずく。そして、楽隊がゆっくりと、曲を奏で出す。

 

 〜〜〜〜♪

 

 その優雅な曲に合わせ、女性が静かに舞を始める。

 

 華麗に、優雅に、時に力強く、大胆に。

 

 はあ〜〜〜〜。

 

 と、一同から感嘆の声がもれる。

 

 その舞は、匈奴のものでも、漢土のものでもない。誰しもが初めて見る舞だった。派手な動きは一切無く、手の動き、足の動き、その一挙手一頭足にいたるまで、その場の者すべてを、惹きつけて止まないその美しさ。

 

 やがて曲が終わり、女性は静かに、その場に膝をつき、頭を垂れた。

 

 わああああああああ!!

 

 その女性に向けて、一同から大歓声が巻き起こる。そして、

 

 「……最高だったわ。始めてみる舞だったけど、こんなに美しい舞を見たのは、生まれて初めてよ。……ふふ。やっぱり、いい素質があるわよ、”御遣いくん”」

 

 『え゛?』

 

 劉豹の言葉に、ビシッ!と固まる徐庶と姜維。その彼女たちの前で、女性がゆっくりとその顔を上げた。

 

 「……できれば、二度は勘弁してほしいです……」

 

 『うええええええええええええええええええっっっっっっっっっ!?!!?!?!?!?』

 

 

-10ページ-

 

 思わず大絶叫。

 

 顔を上げたその女性の、その薄化粧を施されたその顔は、一刀、だった。

 

 「か、かかかか、かかかかかか、か、一刀さん!?」

 

 「な、なななな、なにが、何して、何やっとんねん!?」

 

 「二人とも誤解するなよ!?俺には別に、女装趣味なんて無いから!」

 

 「ほいたらなんやねん、その格好は?!」

 

 「……これが、匈奴の、伝統と文化なんだって……」

 

 つまりはそういうことである。

 

 先の会談の後、一刀が呼厨泉に連れられて行ったのは、この城の衣裳部屋だった。そして、匈奴の伝統的文化である、”女形”を、一刀がやる羽目になったわけである。

 

 伝統と文化を許容する。そう言った手前、一刀にはそれを断ることなど出来なかった。そして、宴席にて見事舞を舞って見せろと。それが出来なければ、同盟の話は無かったことにする。そういわれた以上、もう一刀には、うなずく以外の選択肢は無かったわけである。

 

 「……まさか。……劉豹さんとか、呼厨泉さんも、ひょっとして」

 

 「……男、だってさ」

 

 『うそだあああああああああっっっ!!』

 

 「あら?心は立派に女よ?……うふ。ね、北郷くん?良かったら、閨の相手もしてくれない?」

 

 さすさす。

 

 あえて何処とは言わないが、一刀の体の一部に触れながら、しなをつくって寄り添う劉豹。

 

 「え、遠慮しときます……」

 

 「あら、つれない。……うふふ、ま、いいわ。……そのうち、虜にしてあ・げ・る」

 

 (……丘力居さんが言ってたのって、こういう意味だったんだ。……これは確かに、恐ろしい。……貞操的な意味で)

 

 

-11ページ-

 

 「も、申し上げますっっ!!」

 

 「?!何事か!!」

 

 それは突然だった。

 

 女装したままの一刀を囲み、みなが和気あいあいとしていた所に、匈奴の兵の一人が、血相を変えて飛び込んできた。

 

 「て、敵襲です!!上党方面軍はすでに壊滅!すさまじい進軍速度で、こちらに向かってきております!」

 

 「何ですって?!向こうには五万の兵が出張っていたでしょうに!向こうの数は?!それから旗は?!一体何処の軍勢か!?」

 

 「は!敵の数はおよそ三万!その先頭の旗印は、紫の張旗!!」

 

 

 

 「ッ!!……紫の張旗、て」

 

 「一刀さん」

 

 「ああ。……神速の、張文遠、か」

 

 

                                   〜続く〜

説明
北朝伝、四章・六幕目です。

匈奴の王、劉豹の下に乗り込んだ一刀たち。

はたして、交渉はうまくいくのか?

そして、新たなる戦いを告げる使者が。

それでは。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
20953 15686 113
コメント
紫炎さま、なるほど、そんな説があるんですか。・・・ますますもって面白そうですね♪・・・ニヤリ(邪笑返し)(狭乃 狼)
コメントの返信を見て思ったのですが、男性は女性になってナニをすると精神崩壊を起こすという説があります。なんでも女性の性感帯は男性の50倍ほどあり、快楽に耐えることが男性の精神では困難だからだとか。一刀女版の精神崩壊……アハ♪(邪笑)(紫炎)
2828さま、特殊スキル=女装。 って、感じですかw(狭乃 狼)
睦月ひとしさま、お褒めいただきどうもですw 霞対一刀かは知りませんが・・・いちお秘密でwww(狭乃 狼)
poyyさま、外見に惑わされちゃだめですお?ちょっと油断したら漢女が来ちゃいますよーw(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、恋についても次回の講釈にてお伝えしますw(狭乃 狼)
一刀は 女装を 習得しましたww(2828)
男の娘とオカマは違いますが・・・。しかし、こんな落ちがあるとは・・・、YA・RI・MA・SU・NE★!なんかの機会で女装するフラグが立った気もしますが。次回、女装した一刀が張遼に戦いを挑む!!なんてことがあったら面白そうですが。(睦月 ひとし)
俺はノーマル俺はノーマル俺はノーマル・・・・・・・でも美しいならいやしかし・・・・・・・・。(poyy)
匈奴とも一件落着と思いきや最後に霞さん登場とはこれまた続きが楽しみだ。恋はどうなったのでしょう?(mokiti1976-2010)
カイさま、先制とか、主導権とか、そんな意味にとってください。(狭乃 狼)
イニシアチブ???(カイ)
oratorioさま、だいじょうぶですかー?w とりあえず、こっちには連れて来ないでくださいねーw ここは漢女厳禁ですのでーwww(狭乃 狼)
今回も楽しく拝読させて頂きました!劉豹と呼厨泉はそういう娘だったんですねぇwwwどっかの筋肉達磨な漢女とは違って見た目も乙女っと・・・「ぶるぁぁぁぁぁぁぁ!」・・・・・・あーーー!(oratorio)
namenekoさま、霞の想いと一刀の想い。それが重なるかどうか、ですね。(狭乃 狼)
霞が突っ込んできたな。一刀たちはどうするんだろう?(VVV計画の被験者)
hokuhinさま、スカウトされたらついていきそうですねw 一人ぐらいはガチが居ないとつまらないかなーと^^。(狭乃 狼)
漢女がスカウトしそうだな劉豹・・・この外史では貂蝉が女で安心してたら、まさかここで男成分がでるとはw(hokuhin)
ヒトヤ犬さま、ハムはこの外史では、ちゃんと生存し続けます。活躍するかは知りませんがwww(狭乃 狼)
はりまえさま、それが実はミソなんですねーwww これ以上はネタばれになるんで自主規制しときます^^。(狭乃 狼)
一文で死んだって、無印のハムじゃないかW(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
・・・・・初めて出た男が、男の娘・・・か・・・・・(遠い目)作者さんそこは・そこは女がよかった・・・・・(切実)この状況だとどこかの軍師が発狂する!!(黄昏☆ハリマエ)
東方武神さま、いつの世でも、人の心を一番射抜くのは、真っ正直な気持ちだと思いますから。 (狭乃 狼)
・・・誠心誠意、か。なるほど確かに油断をさせておいてのこれは効くものがあるだろうね。しかしオカマか。筋肉達磨達とはまた一線違うもんがでてきたな・・・(東方武神)
村主7さま、口を開けばただのおっさん。そゆ人のほうが多いですけどねw 張温については、ただあっさり、一文のみで退場した。そんだけですw(狭乃 狼)
りょんりょんさま、OKAMAと男の娘、その違いだけはご理解くださいねw(狭乃 狼)
そういうオチだったとわw でも実際に喋らない限り美女としか見えないOKAMAさんが居るのも事実でして(昔そっち系のバーに連れていってもらいびっくらこいた経験がw) そして4p目最後の方、張温(?)が始末されていた!? のも気がかりな (村主7)
な…男の…娘!?ヨソウガイデス(りょんりょん)
紫炎さま、はい、そういうオチですwww(狭乃 狼)
あ、そういうオチww(紫炎)
ほわちゃーなマリアさま、劉豹は男の娘とはいいません。O・KA・MA・ですw男の娘は呼厨泉こと拓海くんだけですww あと、女にされて云々は・・・面白そうですな(ぇwww(狭乃 狼)
まさか、劉豹と呼厨泉が男の娘だったとは・・・。それは種馬スキルも不発するはずだ。いや、きっと一刀だったら匈奴に伝わる古の薬があったら、女にされて美味しく頂かれるのだろうな・・・きっと(ほわちゃーなマリア)
よーぜふさま、何をやるんでしょうか? 輝里たち、ちょっとじっくりお話を聞いてあげてくださいw(狭乃 狼)
砂のお城さま、さすがに種馬でも男色は・・・w(狭乃 狼)
・・・なん、だと? ・・・なん、だと!? いやもういっか、一刀君やっちゃいなy冗談ですから武器をおしまいくださいませお嬢様方(よーぜふ)
タグ
恋姫 北朝伝 一刀 徐庶 姜維 劉豹 

狭乃 狼さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com