『記憶録』揺れるフラスコで 8
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「お前たちは、どういう関係なんだ」

 

 目の前で出来上がってた、魔王二人と人間一人とからなる不思議な空間。

 基地司令官のダルタロス・ローカリストや首都上層部、そして政府でさえ対峙すると畏まってしまうのに、その輪にいる人間ことソーイチ・リヴェルトは臆するどころか、普通にガサラキ・ベギルスタンを小馬鹿にしている。

 オカシな光景だ。

 そんな縁(えん)から独り取り残されたリリオリ・ミヴァンフォーマは、一番近くにいたソーイチに問い掛けた。

 どう答えたら好いのかに、それとも言いたくないのか、ソーイチの言葉が続いてこない。

 だが、代わりに答えたのがリース・リ=アジールだった。

 

「わたし達は元々、同じ屋根の下で暮らしていたのよ。彼が勝手に出て行く、五年前まではね」

 

 少し不機嫌が混じっている。思い出したくないことでも脳裏に浮んでいるのだろうか。

 リースが戻ってこないかと訊ねていたことから、半ば予想していたとおりの答えだった。

 

「ちなみにソイツは、出て行く少し前までリースの抱き枕にされていたからな。むしろ出てった理由ってそれじゃねえの」

 

「あら、馬鹿なのにそんなこと言ってまだ地獄の淵まで行きたいのかしら。この前、久しぶりに行ったでしょう」

 

 肘を曲げて、ゆっくりと上げるリースの手にガサラキの腰が引けている。これが、物語に出てきたりするあの魔王なのかと疑いたくなる。

 出てくるのはリリオリの知らない、彼らだけの思い出の言葉ばかり。昔話に花を沿え、そのことを懐かしみ笑う光景(いま)に苛立ちを感じていた。

 

「そういやお前、名前変えたんだって?」

 

「名前を変えた……?」

 

「なんだ知らないのか」

 

 苛立ちを隠したまま浮かべた疑問符に、ガサラキが嫌らしい笑みを浮かべてソーイチを指差した。

 

「コイツはリースの城にいた頃、リースと同じリ=アジールの名を持っていたんだぜ。なぁ、ソーイチ・リ=アジール」

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 暗い闇が身体に密着する空間が閉じられ、目の前に外の映像が映し出される。外では先程まで寝ていた作業員が、再び忙しそうに走り回っていた。休憩にもならない短い時間で、疲れなど微塵に取れていない身体に鞭打ち、けたたましく鳴る警報に急かされるように動いている。

 オーリスの中で機体の確認をしているリリオリが警報を聞いたのは、ほんの少し前。日が沈んだ甲板の上で疎外感を感じていた時のことだった。

 

『グーテルモルグに発見されるのがここまで早いだなんて予測していませんでした。すでに敵艦隊は展開して、こちらに接近しています』

 

 艦橋にいるオペレーターの音声がオーリスの通信を介してリリオリに届く。

 外を映し出す映像の右側に、二つの戦力が対峙する海域の戦況図が描かれる。輸送艦の前方に空母が左右に並び、三隻を護衛するように駆逐艦が囲んでいるフォリカ艦隊を手前にして、十八隻の駆逐艦を携えた三隻の空母が横並びに展開するグーテルモルグ艦隊が戦況図の上に広がっていた。

 グーテルモルグの艦隊を、オペレーターは敵艦隊だと表現した。

 ということは、これはすでに戦争ということだ。

 

『敵艦隊の陣形からして、おそらく待ち伏せていたのだと思われます。接近した我が艦隊が察知されたのだとしても、これほどの戦力が即座に集結して対応できるとは予測しづらいです』

 

 グーテルモルグの空母であれば、載せている搭載機は三隻合わせれば二百機を越える。

 それだけの兵器と人員を集める期間を考えれば、

 

『おそらくは…』

 

「艦隊が出航する前に情報が洩れたということか」

 

 考えたくありませんがと、オペレーターの声が擦れる。

 それがいつ、どこでと問うのは無意味だ。すでに奇襲作戦は洩れて、こうして待ち構えられている事実がある以上、考えなければならないのはどう切り抜けるかだ。

 情報漏洩の究明は兵士の仕事ではない。

 

『敵空母から艦載機の発艦が確認されました』

 

 視界に別の小さいウィンドウが現れた。

 船底よりも長く伸びた甲板から影が飛び立つ。宙へ上がった影は次々と仲間たちと合流して大きな群と為していく。

 

『空母「グロリア」及び「シシヴィオ」でも発艦作業が行われていますが間に合いません。駆逐艦が迎撃に向かいます』

 

 奇襲のはずが、先制をグーテルモルグに譲ってしまった。

 駆逐艦を前面に出すことで多少の時間稼ぎにはなるだろう。

 

『しかし、あれだけの数の戦闘機相手では魔導兵器を保有する駆逐艦でも対処し切れません』

 

 フォリカ最大の兵器といえば、魔導工学を用いた超火力が当てはまる。

 兵器の性能を問えばグーテルモルグがダントツなのは明らかだが、威力で考えれば理論上限りなく上げられるフォリカ製の兵器のほうが恐ろしい部分もある。だが、そのためには比例して兵器を大きくする必要がある。だから搭載する兵器のことを計算に入れれば、それほど大きなものは造れない。

 しかし、それを無視できる兵器が存在する。それが戦艦や駆逐艦といった巨大な戦闘艦だ。

 魔導兵器が搭載する兵器の大きさに左右されるというのであれば、大きければ大きいほど威力が上げられる。その考えに最も適したのが船だった、ということになる。

 海軍が大鑑巨砲主義だと言われているのも、魔導兵器を唯一活かせる特性を持つが故だ。

 だからこそ、今のフォリカ海軍は空軍に勝てない。

 

「いかに高威力を誇る魔導兵器でも、空を飛ぶ戦闘機では当てるのは難しいからな」

 

 戦艦の砲撃が戦闘機に当たる確立は二割以下だという。

 グーテルモルグでは追尾性の高く超長距離の新たなミサイルが開発されていると云われている。今のフォリカは当然として、十数年経っても造るのは難しいと誰もが考える。火力では勝っていても、やはり技術力ではグーテルモルグが数段も進んでいるのは事実で、越えられない壁なのだろう。

 

『ミヴァンフォーマ少佐』

 

 彼女の名前を口にしたのは、新たに出てきたウィンドウ画面に映るアルミィ・フォーカスだ。

 

「アルミィか。オーリスの発進準備は出来たのか」

 

 

『あとは「フライトドライブ」の最終確認で終わります』

 

 

 フォリカ製の飛行機にも搭載されている飛行ユニットの発展改良型が「フライトドライブ」だと、アルミィは説明していた。彼女が幼馴染であり魔導工学者のロアラス・ガンズに依頼し、出来上がった小型のユニットだ。

 翼の構造によって浮力を得て、さらに飛行ユニットの補助を受ける飛行機に対して、このユニット一つでオーリスに必要な浮力を全て賄(まかな)わせるという無茶を形にしたものだ。

 だが、しかし、とアルミィは言葉を繋げた。

 

『リヴェルト主任のマルヴィラが最終調整を終えてません』

 

 ―――そういやお前、名前変えたんだって?

 

 出撃前だというのに思い出してしまった、ガサラキが何ともいえない場面で口にしてしまったあの言葉。

 折角忘れていたのに、ソーイチの偽名とも取れる名字を聞いて思い出してしまった。彼らの言葉に過敏になっていたリリオリにとって、それは起爆剤や毒のようにも取れた。

 狭い空間の中で首を振る。

 戦闘は目前で行われている。このようなことを片隅に残していては戦場で死ぬだけだ。

 そう理解していても、脳裏からは彼女達の言葉が削がれない。

 

『少佐…?』

 

 いつもの愚痴が返ってこないことにアルミィが不審に思ったのだろう。

 

「あ、ああ。それでいつ終わるんだ」

 

『先程連絡した時は三分で終わらせてやる、と』

 

 戦場での三分とは、コンマ一秒の判断と同じでとても貴重な資源である。それだけの時間が過ぎれば、戦況など一転どころか二転も出来る。

 時は金なり。

 容赦なく消費していく時間をこれ以上無駄にするなと、いつもの彼女であれば罵倒するだろう。

 

「そうか」

 

 唇を動かして出したのは、これだけだった。

 

『少佐…。調子でも』

 

「気にしなくていい。それに、そんなことを言っている状況ではないだろ」

 

 冷静を装ってアルミィの言葉を斬り捨てる。

 彼女が何か言おうと口を開いた。

 

『空母「グロリア」及び「シシヴィオ」より入電。これより艦載機を発艦させるとのことです』

 

 しかし、それはオペレーターの音声によって掻き消された。

 空を切り裂く耳鳴りのような高音が連続して鳴り響き、リリオリはオーリスに乗っているので感知できないが、ウィンドウ内のアルミィが痛そうに片目を瞑って耳を押さえていることから振動と騒音は輸送艦にまで届いている。

 

「なあ、アルミィ」

 

 ふと、リリオリがウィンドウの向こうにいるアルミィに声を掛けた。

 

『はい、なんでしょう』

 

「お前は戦争(これ)が終わったら、どうするんだ」

 

『どうする、と言われましても…このデータを元にオーリスを完成させることが第一ですね。その後は誰かに必ず気付いてもらえるように』

 

「いやそこまで聞いてない」

 

『―――――――…………』

 

 沈黙。

 

『………余計なことかと思いますが、あまり思い詰めないほうが良いですよ。何を考えているのかまでは察しられませんが、戦闘を前に他の事を考えるのは』

 

「分かっている」

 

 が、精神は納得してくれないのが今のリリオリだった。

 

 ―――どう、戻ってこない?

 

 本来の彼の名前はソーイチ・リ=アジールだと、ガサラキは語った。

 ならばソーイチはリースの血族で、魔王なのか。

 それは違う。彼は魔王の血が混じった混血などではなく、純粋な人間だとも語った。確かに、あの男が魔王の血が流れている、魔法が扱えるとは、普段の雰囲気から見ても思えない。というより考えられない。

 人の出でありながら、魔王によって育てられたのがソーイチ・リヴェルトのようだ。

 では何故、ソーイチ・リ=アジールは

ソーイチ・リヴェルトになったのだろうか。

 その歳でリ=アジールの名前を持っていれば、魔王の直下にいる人間として疎外されるかもしれないが、魔王との対話をより身近なものにする糸口としては

政治家や軍上層部には受けは良いだろうに、ソーイチはリースの元から離れ、リヴェルトとして生きていくをした。

 何故だ。

 分からない。

 解らない。

 判らない。

 ワカラナイ。

 

『出来ましたよ、リリオリ少佐!!』

 

 混乱を極めつつあるリリオリの脳内に突然声が響いた。

 そこにはリリオリの脳内の渦中にいたソーイチを映したウィンドウがあった。

 

「な、何だ貴様! 突然現れて!!」

 

『はい!?』

 

 突然のことで、どうしてソーイチが現れたのか解っていない。

 だが、本当に解っていないのはソーイチのほうだった。つい出てしまったリリオリの言葉に、彼は顔を顰(しか)めた。

 

『突然って…マルヴィラの最終調整が終わったから持ってきたんですよ。すぐに装備させて下さい』

 

 その指示に作業着を着た男たちが動き出した。

 ソーイチと共に来たオーリスは不釣合いの小ささのマルヴィラは鞘に収められたまま吊り上げられ、左腕に取り付けられていく。マルヴィラの長さはオーリスの腕よりも少し短く、しかし鞘は本来のものよりも二回りも大きい。腕に装着すると剣ではなく、まるで小さな盾のようだ。

 

『少佐、いいですか。最終調整が終わったと言っても、マルヴィラは素人製の試作も試作、超試作機でしかも十分なテストすら行えてません。起動させても一度は戻せますが、もう一度起動させられるかは正直分かりません。というか、最初の起動すら不安です、私は』

 

「随分と正直、というよりも不安だけを残していくな貴様」

 

『ええ、説明していなかったことを理由に負けました。原因は全て貴様だ、だなんて言われたくありませんし』

 

「本当に正直だな、貴様」

 

 はっきりとモノを言うソーイチに、オーリスの中で溜息が出た。

 基地内で見るいつもの彼がそこにいるような気がした。また武器を壊して直せと持っていった時に、整備室にいる普段の雰囲気を少しだが感じた、気がした。

 

「だが、一度でも起動させれば大丈夫なんだろ」

 

『…………………おそらく』

 

『ちょっとリヴェルト主任、何不安になる回答しているんですか!』

 

『とりあえず、壊さないようにして下さい。少佐には完全に完成したマルヴィラを振るって欲しいんですから』

 

 遂に視覚だけでなく聴覚すら無視されるようになったと、隅に寄った小さなウィンドウのアルミィが叫ぶが、音量がいつの間にか小さく設定されていて良く聞こえなかった。

 

「まあそうだな、努力はしよう」

 

 そのやりとりに、ふと笑みが出来た。

 今までは少しでも暗闇があれば、あの言葉たちと光景のことばかりが暗闇に浮かび上がっていた。不快でしかなかった。振り払おうとしても堕ちない汚れにも似た感覚だった。

 逆流していた記憶と憶測に気分はどん底だったというのに、どうだろうか、今のリリオリの気分は。澄んだとはほど遠いが、安堵と呼べばいいのか、日常という安心感が目の前にあることに彼女は憑き物が落ちたかのような気持ちになった。

 

『いえ、努力はいいですから必ず持ち帰ってきて下さい』

 

 そんなリリオリとは反対に、ソーイチは冷ややかな苦笑を浮かべ、しかも鼻で笑った。

 

『少佐、発進準備完了しましたよ!』

 

『駆逐艦「バウ」、被弾』

 

 何か言い返してやろうかと思ったが、今はそんな時間はない。

 アルミィとオペレーターの通信で思い止まり、オーリスを起動させる。静かに鳴る稼動音に続いて、正面にしかなかったウィンドウの周りを彩るように色が生まれた。普段見ている高さではない。表現すれば梯子(はしご)に昇った時の光景だ。ウィンドウに映る二人とは別に、モニターを覗き込む二人がいる。

 不思議な感覚だ。視点が高くなっただけあって、視界が広くなった。身近にあったものも小さく見え、人すらも少し大きな人形のようだ。背の高い人間の視点とはこのような感覚の中ですごしているのか。

 管制室に回線を開く。

 

「管制室、こっちの準備が整った。ハッチを開けてくれ!」

 

 了解ですという掛け声と共に上からガゴゥンと重く響く音が降ってきた。

 視線を上げると黒一色だった天井が横に割れ、まだ青さが残る紺色が現れた。その隅で赤と橙の混じった閃光が走った。

 

『駆逐艦バウ、撃沈します!』

 

 そして一際大きな爆音が通り過ぎ、赤と橙の閃光はくすんだ黒煙として昇っていくのをこの場にいた全員が見送った。

 この爆発で何人が焼かれ、これから沈む船に何人が巻き添えを喰らうだろうか。だが、それが戦争で、戦争するために彼女ら兵士という職がある。国を守るためなどと銘打っていても、武器を持って兵器に乗るのは事実で、今ここにいるのはそのためだ。

 

『リリオリ少佐、発進を急いで下さい!』

 

 先日、初めての戦闘を行った。それは魔王と呼ばれる存在で、しかも一人だった。

 だが、これから旅立とうとする戦場にいるのは戦闘機に乗っているとはいえリリオリと人間で、一人二人なんて数の大きさではない。二十、三十すらも通り越して、百すらも凌駕する人間たちが飛び交っている。

 そのうちの何人を、何十人かを撃ち落すのだと思うと恐ろしいことだ。公的に人の命が奪えてしまう。戦争だからという理由でだ。

 でも、それがここにいるソーイチやアルミィ、さらにオーリスのために乗った多くの作業員たちの命を繋ぐのだと、そのことを信じて決意する。

 背部のスラスターは十分に温まった。フライトドライブも正常に稼動し、オーリスの周りに風が渦巻き拡がっていく。

 

「出撃するぞ」

 

 チラッと、ソーイチのほうに視線を向けた。彼の顔を中心とした正方形が選択され、ウィンドウに大きく拡大される。オーリスから離れた彼はリリオリを見上げていた。ウィンドウに映る彼の視線は、レンズ越しだがしっかりとリリオリを捉えていて、

 

『死ぬなよ』

 

 と、唇と動かした。

 オーリスが浮かび上がる。

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 輸送艦の艦橋では驚きの声が上がっていた。

 正面、ガラス越しに見下ろす下には甲板の殆どを費やして造られた倉庫が口を開いている。そして、そこからゆっくりと出てきた人型の大きな影が一つ。

 頭部のモノアイが紅く光り、背部で拡がる二基のスラスターはまるで翼のよう。漆黒の鎧に包まれたその巨体は自らの存在感を主張するように排気音と駆動音を鳴らす。

 威風堂々。

 艦橋にいる誰もがその体躯に圧倒され、感動すらした。

 世界最大の技術力を有し、魔王すらも討ち取る最強の軍を持つグーテルモルグですら、しかし未だこの領域に到達していない。

 そう、即ち。

 この瞬間、フォリカはグーテルモルグを魔導工学だけでなく、ほんの一部だが、純粋な技術力でも凌駕した。最強の国家の肩に並び、ほんの僅かだが、伸び抜いたのだ。

 その結晶とも云えるオーリスが構える。

 高く、速く、そして強く、飛び立とうと吹かす漆黒の鎧は反転し、この先で舞う爆発の渦に飛び込んで行った。

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 また左側面で爆発が起きた。

 正確には向かってきたミサイルを左手で払い落とした。その衝撃が信管に直撃したものだと誤作動させ、起爆させたのだ。

 払い落としたと云っても爆発したのはすぐ傍だ。爆発には急激な熱膨張と爆轟(ばくごう)による衝撃波があり、建物すらも容易く吹き飛ばせるだけの破壊力がある。人の四肢などが耐えるなど以(も)っての外だ。

 だが、払い落とした本人は涼しい顔でそこにおり、尚且つ宙に浮いていた。地面や鉄板などの足場があるはずもなく、脚の下に拡がるのはバームクス海洋で、しかし海面は遥か遠く千メートル以上離れている。

 そんな不安定な場所で立つガサラキ・ベギルスタンはつまらなそうに手を振るった。

 

「なんでこんな塊墜(お)とすために出なきゃならないんだ」

 

 巫山戯るなよぅ、と眉間にしわを寄せてダルそうに愚痴を吐く。

 グーテルモルグが艦載機を発艦させて開戦したと同時に、どうにかして来いとリースに犬のように命じられて放り込まれて今に至る。その間、何をしていたかというと、飛んでくるミサイルを手で払って、向かってくる戦闘機を蹴り飛ばして撃ち落していた。

 そんなこんなで、海の藻屑に変わっていった数は三十を通り越して実は撃墜数一位だったりする。

 

「俺はこんなんやりたくて連れて来られたのかよ」

 

 意識が戦場から背後で佇む艦隊、その一つの輸送艦に行く。

 リースはまだそこにいる。ガサラキを戦場に放り投げてから甲板から動いていない。

 向けたからといってこの言葉が通じるわけでも、念じて通信が出来るわけもない。ただ憎たらしく、輸送艦に向けられないから睨む代わりに苛立つ意識だけを行かしたのだ。

 

「んぁ…!」

 

 左側面からグーテルモルグの戦闘機が走る。

 面倒だと思いながら、左手の五指を開いて狙いを定める。と、その前に戦闘機の後部が跳ね上がり、前のめりになるようにして大きく揺らいだ。跳ね上げた何かは鉄の塊を貫き、貫通したことを示す穴からは火花が膨れ上がった。次には爆発してゴミとなって先程のミサイルと追い掛けていった。

 驚きはしなかったが、何事かと左に振り向けば、翼を広げた黒い鎧が跳んで真っ直ぐに向かってきた。

 

「―――――――……………」

 

 自分は酔っているのではないかと初めて疑問に思った。

 飲んだくれだの、飲兵衛だの、各地の酒を求めて飲み歩いていただけに様々な呼ばれ方をされているガサラキだが、暴れてリースに強制連行されたあの日以来、酒など一滴も飲んでいない。というもの、リースの城で躾(しつけ)やオシオキという名目で軟禁状態であったため、飲まなかったのではなく飲めなかったのであった。

 一時期、禁断症状にもなり掛けたが、どうにか乗り切っていたりする。

 そんな彼が、実は夜中、眠りボケて飲んでいたのではないかと疑いたくなるほど、空飛ぶ鎧に衝撃を受けた。

 

『おい、そんなところで立って――……立っているな、間違いない。立っていると危険だぞ』

 

 それも、デジタル処理された宿敵の声で吹っ飛んだ。

 

「その声はあの女か! ハッハ、そいつがリースが言っていた切り札ってやつか! というか、さっきの間は何だよ」

 

 子供が新しい玩具を見せびらかされたような、興味と嬉々を表す笑みを浮かべた。

 

『まずいな。少し遅かったようだ、ここまで減っているとはな』

 

「ホォォォォォ! こいつは凄ぇな」

 

『ガサラキ、お前はただ傍観していただけか』

 

「ん? そりゃあそうだろ。奇襲するはずなのに奇襲されて、しかもバカスカ撃たれてすぐ堕ちやがって。これ以上ってぐらいやる気の起きない戦闘なんかしたかねぇよ」

 

『貴様…!』

 

「つか、声がデケェよ! 頭に響くだブッ!!」

 

 ガサラキなど無視してリリオリは反転し、背部の翼から暴風を撒き散らした。

 口を開いていた時のことだったので風が顔面に直撃し、仰け反り、元の体勢に戻した時にはオーリスは遠退いていた。その先では、残った機体が左右と後ろから迫るグーテルモルグ軍機に追い掛けられ、被弾したのか速度が乗っていない。

 舌打ちし、オーリスの後に続いて速さを上げ、海に向けている腹部、その下に潜り仰向けになって並んだ。

 

「空を支配するのは先制を手に入れたグーテルモルグのものとなりつつあることは、理解しているだろ。その鎧を着て出てきたところで、ここで勝っても、肝心の首都攻略なんて決行どころか現状の続行すら無理だろ。それが解らないほど馬鹿じゃないだろ」

 

 すでにフォリカの戦力はすでに四割以上損失している。僅か数分で四割も失ったフォリカにとって、奇襲は完全な失敗に終わっていた。

 

『それで引き下がるほど、私は簡単ではない!!』

 

 右手で握る機関銃ハヴァカーテを構える。片手で支え、弾倉から銃身に弾が装填される音が重く落ちてきた。

 逃げる味方を、まるで狩りのように追い立てるグーテルモルグ軍機。そのうちの一機が、向けられた重砲の餌食になった。けたたましい音に続いた27.5ミリメートル弾が空気を切り裂き、薄く守られた装甲をも貫いた。

 四散したのを確認する前にリリオリは銃口を逸らした。狙いは右へ旋回し始めた二機目だ。

 発射と、着弾。

 時期をずらして爆炎が並んだ。

 

「おお、おお! 凄ぇな!」

 

 戦闘機と同等か、それ以上の速度で滑空するオーリスの下で横になっているガサラキが嬉々としている。海を背にしてスライドするその姿は異様の一言に尽きる。

 フォリカ軍機を追い立てていた残るグーテルモルグ軍機一機が撃墜されたのを見ても、ガサラキにやる気は灯らなかった。

 むしろ、この海域での戦闘は、リリオリの乗ったオーリス一機で十分じゃないかとも思い始めていた。どのみち、勝っても残された選択肢は撤退しかないのだ。よほどの馬鹿でなければ、また別の、特攻という選択をしたかもしれないが、少なくともそんな馬鹿はフォリカで見たことはない。

 いやいた。今オーリスに乗っているリリオリだ。ここで勝利をもぎ取った彼女であれば言い出すかもしれない。

 などと肴(さかな)にもなりそうにないことを考えていると、グーテルモルグ軍機が取り囲みつつあった。楽勝だと思っていたら鎧一つが瞬く間に三機も墜とされたので、部隊の数割を割り当てたのだろう。

 

「クソ、面倒にする…な!」

 

 起き上がり、身体を捻るように反転。

 真下から急上昇して奇襲を仕掛けてきた二機に相対し、振り抜いた手の軌道をなぞるように幅五メートルの炎が走った。轟と響く熱線に、回避など間に合わず突っ込んだ二機がその速度を炎の揺らめきとして残り、出てくることはなかった。

 炎が治まる前にガサラキは自らその中へ降下。

 火傷や焦げ跡一つ残さず突き抜け、振り向けば消えた炎の向こうから二機、迂回するように左右からそれぞれ三機が続いてきた。

 

「あ〜。鉄の塊にケツ追いかけられても嬉かねぇ!」

 

 急停止と反転、そして急発進。まるでそこに足場があるかのように着地し、振り向き、折っていた膝をバネにしてガサラキの身体が跳ね上がった。

 追っていたはずのガサラキが向かってきて、戦闘機に急旋回など出来るはずもなく、生身のガサラキに鉄の塊が押し負けた。

 

「ガラクタはガラクタらしく―――!」

 

 ガラクタの中を突っ切り、振り向きざまに再び炎鞭(えんぶち)を二度振るう。一度目は先程と同じく左から右へ。

 

「ゴミにかえりな!!」

 

 そのまま手を振り上げ、上から下へ。交差した炎の十字架はその勢いを衰退させずに三機を飲み込んだ。

 難を逃れた残りの三機だったが、十字架から逃げるため加速したのが仇になり、機首を上げることも旋回させることも出来ず、海に水柱を打ち上げて潜っていった。

 

「ハッハァ! …………ああ、暇だ」

 

 楽しんでいるように笑いをつくったが、どうもそんな気分ではない。

 ボソリと洩れた本音が眠気を誘い、ガサラキから離れようとしたグーテルモルグ軍機に向けて指を鳴らすと、爆発ではない、灯火のような火を上げて儚く消え去った。

 そう。

 これだけで彼にとって戦闘機など墜とせるのだ。彼だけではない。大陸にいる同胞や、輸送艦にいるリースにだって出来る。

 今までのは楽しんでいたでのはなく、楽しもうとしていたのだ。結果的には無理だったが。

 何故、この程度の敵に何人もの魔王の首が落とされたのか分からない。むしろ、この程度の相手に堕ちた同胞に腹が立ってきた。余計な期待をさせるなと。酒がなくて戦いに飢えているガサラキにとって、魔王すら太刀打ち出来ない強敵がようやく現れたかとも思ったが、結局は期待外れだった。

 あまりのつまらなさに、この場を適当に流して輸送艦に戻ろうと身体を翻した。

 

『巫山戯るな! 調子に乗るなよ!』

 

 突然、この戦場にリリオリの声が響いた。

 

「ぬをぉ! 急になんだ、あの女…。オイコラァ! 巫山戯るな調子に乗るなたぁどういうことだ!」

 

『…お前と、艦隊にいるもう一人の魔王を引き渡せば見逃してやるとさ』

 

 リリオリが言った、“お前”とはガサラキのことで、そして艦隊にいるもう一人の魔王とは、リースしかいない。自分たちのことだ、理解するのに時間は必要なかった。

 一瞬、思考が止まったが、復帰するとともに、は、と吐く。

 

「ほざいたな、クソッタレ野郎どもが…!」

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 向かってくるミサイル群をハヴァカーテで迎撃。

 銃器は使い慣れていないリリオリにとって扱うだけで一苦労なのに、しかしそこで機械が補正や修正を行ってくれる。照準のブレや弾倉の入れ替えなど全てだ。

 命中率が高いことはそれが理由だ。相手が回避行動さえしなければ基本的には当たる。先程の戦闘機二機とこのミサイル群が良い例だ。この機能がなければ照準がブレて当りもしない無駄弾を打ち振るって、リロードも出来ずに今頃は二丁とも海の中を漂って沈んでいただろう。

 

「弾が切れた…リロードか」

 

 中身を失った弾倉が射出されるのを確認してから、ハヴァカーテを握り伸ばしていた右手を引き戻す。リリオリの右の中指が端末を押すと、あとはマニュピレータが自動起動する。弾倉を左手が取り出し、ハヴァカーテのなくなった部品を埋めるように装填する。

 モニター隅に浮ぶ装填数が0から222に戻る。

 

「くそ…。銃というのは楽で良いが―――クッ!」

 

 ミサイル群が作り出した煙の中から、ミサイルを打ち出した三つの影が出てきた。

 装填も終わり、再び右手を伸ばすが、それよりも向こうのほうが早い。機首から連続して短い火花が散る。

 このオーリスはリリオリの動きがそのまま反映される。身体を左に捻ると機体も左に翻(ひるがえ)し、グーテルモルグ軍機三機が左上から右下へ降るように正面を通過していくのを見送る。

 三機を正面に捕らえたまま右に回りつつ、ハヴァカーテを構える。

 

「面倒だ!」

 

 引金を引くと同時にハヴァカーテが暴発した。砲身は吹き飛び、入れ替えたばかりの弾倉に引火してさらに爆発が連鎖し、右手から離れていった。

 ジャム(つま)って暴発したかとも思ったが違った。降下しつつ別れ滑空する三機が通った軌道、オーリスすらも通り越した後方から近づいてくる反応が一つ。味方とは異なるマーカーが浮んでいる。グーテルモルグ軍機だ。

 こいつがミサイルを撃ち、それがハヴァカーテに命中したのだ。

 

「あれは囮…眼に頼りすぎた…。だからこういうのは嫌いなんだ!」

 

 そのまま突貫してくるグーテルモルグ軍機を紙一重で避け、擦れ違いざまに空いた右腕で殴り飛ばした。

 感触はない。だが、歪み軋み剥がれる鉄の板が悲鳴を上げ、直撃した戦闘機は露出した精密機械でその摩擦熱に引火した。機体が火を上げて分解していく。

 

『ちょーーーーっ!! 何しているんですかミヴァンフォーマ少佐!! 武器あるのに何で素手で殴るんですか!!』

 

「突然回線を開いたかと思えば説教か!」

 

 音量大で繋いできたアルミィの声が五月蝿い。

 スラスターを吹かして上空に舞い上がり、爆発の被害から逃れる。

 そういえばと、ふと思い出したように気付いた。ガサラキが見当たらない。

 実は細い糸か何かで引っ張られているのではないかと疑いたくなるように浮いて、真下からオーリスを見て子供のように笑っていたあの魔王様がどこかに行ってしまった。

 ぐるりと周囲を見渡せば、手から火を放って愉快そうに笑って何か叫んでいる。よく聞こえないがどうせ誰かの悪口だろう。放っておくことした。

 

『武器ならまだあるでしょうに! どーして手なんですか! そんなに誰かを殴りたいんですか!』

 

「五月蝿い! こんな時に繋げてくるな!」

 

 などと言っているうちに背後からミサイルが迫る。

 拳は使ってはいけない。だからといってハヴァカーテを使うのは苦手意識が先行してしまう。

 ならばと、右手は左腕のマルヴィラの柄を握り、振り向き発生する遠心力を捻る身体、そして刃に乗せて振り抜く。

 が―――。

 当たった瞬間、乾いた音と共に刀身がどこかに消えた。

 

『アーーーーーーーーッッ!!』

 

 絶叫が木霊する。

 何事もなかったかのように、しかし軌道だけ逸れてミサイルもどこかに行ってしまった。

 

『何やってるんですか、少佐!! マルヴィラは起動させなければただの剣だと言ったじゃないですか!! 人間サイズの剣にミサイルが斬れるわけがないでしょ!! 何で起動させなかったんですか!! というよりまた壊しましたね!!』

 

 ソーイチによる怒涛のお説教ボイスにリリオリが顔をしかめた。

 確かにこれは彼女の過失だ。

 だがな、しかし、けれど、などと色々な言い訳が浮んだが、するのも億劫になった。

 

「五月蝿い分かった! すまなかったすみませン!」

 

 自棄で謝ると警報が鳴った。示す方向は直上。

 何かなのか確認する前に上昇をやめて身体を折り、脚部のバーニヤから熱風を吐かせ後退。ミサイル群だ。しかしその規模は、見上げた視界を覆いつくすほどで、その先にはどこにいたのだろうグーテルモルグ軍機が群を成していた。

 

「空域に散っていた奴らか…!」

 

 後退だけでは足りないと、バーニヤを短く連続して吹かして右へ左へと緊急回避を繰り返す。

 機体が軋み(ひめい)をあげる。自分の、リリオリの身体に何か違和感は感じられないが、コンマ数秒のズレが出てきた。まだ未完成で、試作機だからなのかと無理矢理納得し、瞬発的に発生する加速度に耐える。

 そして抜け切った。

 

「んな…っ」

 

 だが、そこに安心などない。即座にスラスターを全開にして離脱を試み、間に合わないと悟る。

 グーテルモルグ艦隊にいる空母は三隻で、その搭載機は二百機を越えるというのに、確認出来た数は五十機にも満たない。考えれば解ったことだ。何より、自分で言っていたではないか。

 空域に散っていた、と。

 二百機強のうち、フォリカの戦闘機が何機か撃墜していたとしても、それは微々たるもの。リリオリとガサラキが墜とした機体を含めて数えようと、百桁を割るどころか二百を切ることすらない。僅かに残ったフォリカ軍機など一小隊ほど残してくれば事足りてしまうと、そう考えられてしまえば、探知機が捉えた周囲を囲む膨大な数の敵マーカーも、視界に映し出された巨大な群も、全てが繋がってしまった。

 

『フォリカ艦隊に勧告する』

 

 突然繋がった通信は低く響きのある高圧的な声で雑音もなく、しかしグーテルモルグ艦隊からだった。

 

『今すぐ武装解除し、いま飛んでいるガサラキ・ベギルスタンと、艦隊にいるリース・リ=アジールを引き渡せ。要求を呑めば今回の戦闘行為は見逃してやる』

 

 命令口調で伝わったその言葉の意味は、リリオリの怒りを沸騰させた。

 内容でいえば、この戦闘を終わらせるにはこれ以上にないほどの条件だ。現状は一歩前どころか、すでに国際問題級の事態だ。かつての同盟国が新兵器を携えて奇襲という牙を向けてきたというのに、そのフォリカの行動を黙認してやる。回避も無視も出来ない事実をグーテルモルグ自ら歪めて許そうとしていると云っている。

 だがリリオリにとってそれは、人が人の上に立とうとする傲慢としか取れなかった。

 

「巫山戯るな! 調子に乗るなよ!」

 

 全回線で公表しているため、この声はこの戦域全ての人間の元に通じてしまうだろうが、リリオリはそんなことはお構いなしに叫んだ。

 

『ぬをぉ! 急になんだ、あの女…。オイコラァ! 巫山戯るな調子に乗るなたぁどういうことだ!』

 

 その声に真っ先に反応したのがガサラキだった。見失って放置していたが、気付けばオーリスの十数メートル直下にいた。

 何が起きたのか分からないが、とりあえず馬鹿にされたようなので怒っているといった感じだ。

 そういえば彼にグーテルモルグからの通信が通じるはずもなかった。情報端末はもちろん、通信手段そのものを持たされずに放り出されたのだから、知っているはずもない。

 怒りを抑えず、しかしそんな自分を嘲笑うように、静かに教えて上げた。

 

「…お前と、艦隊にいるもう一人の魔王を引き渡せば見逃してやるとさ」

 

 自分で言ってまた怒りが湧いてきた。

 思わず伸ばす手の先にある二つのハンドルを握り潰してしまいそうだ。

 いま鏡で自分の額を見れば青筋で覆い尽くされているに違いない。自分で自分の顔を確認するのが少し恐ろしくもあるが、見てみたいともリリオリは思う。

 そして、それはガサラキも同様だろう。

 

『ほざいたな、クソッタレ野郎どもが…!』

 

 オーリスが低く乱暴に吐かれた言葉を拾う。

 咽喉を鳴らし、二人の周りを周回する鉄の群に今にも跳び付きそうだ。ガサラキの身体に不気味な何かが溢れ出した。だが、りリオリは覚えている。知性ではなく本能がだ。

 そうあれは、あの晩に見た悪寒。初めて体験した恐怖そのものだった。

 

『勧告は感謝する。だが、この度の戦乱は決して見過ごすことは出来ない。いかにかつて彼らと争い憎しみ合っていたとしても、それは教訓にすべき過去だ。振り返り、憎しみを思い出したとしてもそれは―――』

 

『意味のない、とでも言いたいのか。それはフォリカが、君たちが平和だったからそう返すのだろうが、我々グーテルモルグの国民は違う。何十年も攻撃され、町が壊され直してはまた壊され、慈悲もなければ意味もなくただ違うという、生物が持つ種の敵性本能だけで滅ぼされ掛けた。知性を持つ存在ならば本能に踊らされて、他種を滅ぼすことなどするものか』

 

「過去はそうでも、今は貴様が言った知性で、その罪を認めて自ら手を差し伸べてきたではないか。過去ばかりを見て、築いた今ある平和(もの)を壊そうとしている貴様らこそ、憎悪という闘争本能に踊らされているのではないのか!!」

 

 ギシリと、リリオリは奥歯が軋みを上げるのさえ気にせずに噛み締め、そして口を開いて語った。

 その返答は、

 

『その歪な平和を壊し、壊した我々が全て直す。そのためにグーテルモルグが決起した。今が平和だからと、過去の犠牲を無視することは断じて出来ない。それは、敵性本能(そんなもの)のために死んでいった先祖に申し訳が立たない』

 

 口の中を切り、血の味が充満するほど怒りを感じさせるものだった。

 身勝手にも程がある言葉だ。先祖のためと謳いながら、その実、やっていることは過去の魔王たちと何も変わらない。むしろ、原因を復讐に、理由を先祖に当てはめて正当性を公示する分、やり口や口実は歪んでいる。

 まるで今までの自分たちの行動、あの演説から始まって各国に侵攻するまでの非は全て魔王にあるかのような云い回しに、感謝もなければ悲哀も湧き上がらない。沸騰しそうな身体から上がるのは、怒りのボルテージだけだ。

 

『そう。だから今、我々の同胞が古の魔境に踏み込んでいる。魔王が生まれた起源の地と呼ばれ、悔しくも我がグーテルモルグ国内の一角にそびえる実に不快極まりない山脈。地獄が歌い惑わせる、幻詩卿(げんしきょう)に』

説明
TRPGナイトウィザードファンブック「エンド・オブ・エタニティ」を買ってきました! いやはや、ドラマCDの暴走具合はいつものことして、今回のリプレイはいつもに増して暴走しています。サイトーさん、お疲れ様ですw FEARやリプレイを知らない人はググってください。
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