真・恋姫無双 黒天編 第3章 「捜索隊編制」
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真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第3章 「捜索隊編制」

 

 

 

 

魏勢を救護班に届けたところで、会議は解散となった。

 

屋敷へと戻った蓮華は自分の部屋の寝台へ飛び込んで、枕を抱えこむ。

 

「一刀・・・」

 

蓮華は一刀に会った日のことを思い出す。

 

それは三国同盟成立一周年祭りを一緒にまわったときのことだった。

 

 

 

 

 

 

一刀は主賓、蓮華は王という立場からかなり忙しかった。

 

しかも、祭りの時の一刀競争率はいつもよりかはるかに高かった。

 

特別な日を特別な人とまわりたいと思うのは至極当然のこと

 

一刀の時間が空いたときに声をかけようとは思っていたが、常に先客がいた。

 

その先客というのはほとんどが押しの強い人たちだった。

 

こういう時に限って、蓮華は小蓮のような元気で積極的な性格にあこがれる。

 

雪蓮と一刀が一緒にまわっているのを見たとき、蓮華は自分も入れてもらおうかと少し考えた。

 

でも、それでは嫌だと考えている自分もいた。

 

祭りも最終日に近づいていき、もうあきらめようと思っていたとき

 

「あっ!いた」

 

という一刀の声が聞こえる。

 

「蓮華、いまから一緒に祭りに行かないか?」

 

「えっ、でも、いろいろやることがあるんじゃないの」

 

「今日は夜からでいいんだってさ、ほら、行くよ」

 

一刀は蓮華の返事を待たずに腕を引いていく。

 

「あっ、ちょっ、ちょっと!?」

 

蓮華も何も抵抗せずに一刀の手に引かれていく。

 

その後、蓮華は一刀に天の国の食べ物や出し物について説明されながら祭りをまわっていった。

 

周りからは年頃の少年、少女が普通にデートしている様子にしか見えなかっただろう。

 

蓮華は一刀との大切な思い出がまた一つ増えたことに喜びを感じていた。

 

 

 

 

「あのときは、うれしかったな・・・ひっぐ・・・」

 

蓮華は枕に顔を押し付ける。

 

その他の一刀との思い出も頭の中で駆巡っている。

 

一刀がいなくなるだけで、自分はこんなになってしまうのだなと痛感する。

 

「昔では・・・考えられないな・・・」

 

その部屋に少女のすすり泣く声がこだました。

 

 

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王座の間には、朱里と冥琳が捜索範囲についての話し合いを行っていた。

 

「蜀の者は蜀を、呉の者は呉を中心に捜索ということでいいのだろうか」

 

「はい、そのほうがいいでしょうね」

 

高札や伝令の準備は先ほど亞莎から完了したとの連絡があった。

 

それと同時に春蘭も愛紗によって保護され、救護室にいるという連絡も入ってくる。

 

その連絡を受けた後、冥琳は亞莎に休むように伝えるとそのまま王座の間から立ち去っていった。

 

「それにしても、亞莎さんもお疲れのようでしたね」

 

「そうだな・・・、まぁ疲れてない者などいないと思うがな。朱里も大丈夫か?」

 

「はい・・・、私が倒れてしまうわけにはいきませんから」

 

二人の会話のあと、少しの沈黙が場を支配する。

 

その沈黙を破ったのは扉の開く音だった

 

「失礼します。――おや、もう会議は終了しましたか?」

 

二人は扉のほうに振り向くと、そこには稟の姿があった。

 

そういえば稟も亞莎と一緒に準備に向かったはずなのに、二人は一緒には来なかった。

 

このことに疑問を持ちながらも二人は稟を迎える。

 

「華琳様はもうお部屋に戻られましたか?」

 

稟はまだ会議が続いていると思っていたため、詰め所から直行で王座の間に来ていた。

 

「華琳さんは・・・、今救護室にいます」

 

「ッ!!どうしてですか!?何かあったんですか?」

 

「実は・・・」

 

思いがけない返答に稟が驚くと朱里は、稟が王座の間から出て行った後に起こった出来事を話していく。

 

「そんなことがあったんですか・・・、では、私も心配なので一度皆の様子を見てきます」

 

「はい、また詳しい連絡は朝にでもしますので」

 

稟はそのまま振り返って、王座の間から出て行こうとする。

 

「あっ、待ってください。少しいいですか?」

 

ふと何かを思い出した朱里が稟に声をかける。

 

その声に応じて、稟は再び身体の向きを二人のいる方へ向ける。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「あのですね・・・、先ほどの話のとおり、真桜さんの話を聞いたとたん、魏の皆さんの様子がおかしくなってしまいました。このことについて何か分かることはありますか?」

 

朱里は稟に率直に自分の疑問をぶつけてみた。

 

確かにあの話を最後まで推測してみると、胸に重い物が圧しかかっているような感じがした。

 

しかし、魏勢のあの取り乱し方は尋常ではなかった。

 

「さぁ・・・、私にも皆目見当がつきません・・・、ですが・・・」

 

「ですが・・・、なんですか?」

 

稟の言葉が詰まったため、朱里がその続きを催促する。

 

「いえ・・・、何でもありません。失礼します・・・」

 

そういうとすぐに、稟は王座の間から立ち去っていく。

 

そのときの稟の表情からは悲しみが見てとれた。

 

 

 

 

 

「朱里、なぜあのようなことを聞いたのだ?」

 

「気になったから・・・としか言えませんね・・・」

 

朱里は取り乱しているときの華琳の言葉が脳裏に残っていた。

 

『もういや!!!あんなことは二度と嫌・・・』

 

真桜の話と管輅の話をもとに推測すると“あんなこと”というのは一刀がいなくなることを指しているだろう。

 

それに“二度と”という言葉も使っている。

 

まるで、一度一刀がいなくなったことを経験しているような口ぶりだった。

 

しかし、一刀がいなくなったことは基本的にない。

 

竜退治のときも華琳に報告されてはいたが、特に取り乱した様子もなかった。

 

なぜ、今回に限ってこのようなことになってしまったのか。

 

「そうか・・・、まぁそのことに関しての詳しいことは華琳たちに後で聞けばいいだろう。引き続き捜索範囲の詳細についてだな・・・」

 

「そうですね・・・」

 

二人は改めて机いっぱいに広げられている地図を見る。

 

「五胡守備隊として出ている者たちにも協力を要請するか?」

 

「人数はあまり裂くことはできませんが、できればそうしてもらいましょう。あと周辺捜査をですね ――――」

 

こうして、二人は会議の続きを再開させた。

 

 

 

 

 

それから、半刻ぐらい経過した後、大まかな計画は定まった。

 

あとは魏国の捜査範囲について聞けばいいだけの状態になっていた。

 

これならあと一刻もあれば充分に間に合うだろう。

 

「それでは冥琳さん・・・、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ・・・」

 

王座の間を出て、冥琳は疲れた様子の朱里の後姿を見送る。

 

そして、姿が見えなくなったあと・・・

 

「明命・・・、いるか・・・」

 

天井を見ながらボソッとそうつぶやく。

 

「ここに・・・」

 

そうするとすぐに、明命は冥琳のもとに姿を現した。

 

「お前に頼みたいことがある」

 

そういうと冥琳は手に持っていた紙を取り出し、それを明命に渡す。

 

声に出せば誰に聞かれるか分からない。

 

そのことを配慮していると理解した明命は静かに紙の内容を確認する。

 

「えっ・・・、理由を聞いてもいいですか?」

 

明命はその内容に少し驚いた。

 

なぜ冥琳はこのようなことを自分に頼んだのか

 

「気になったから・・・としかいえないな・・・」

 

冥琳は朱里も同じようなことを言っていたなと思い出すとフフッと小さく笑った。

 

「とりあえず、少しの間は頼む。ただの気苦労になればいいのだが・・・」

 

一言そういうと冥琳は自室へと戻っていった。

 

「分かりました・・・」

 

明命も戸惑いながら、そう返答した。

 

 

 

 

 

場面が少し変わって蜀の屋敷

 

朱里は自分の部屋に戻る前に、あるところに立ち寄っていた。

 

「あなたに頼みたいことがあります」

 

朱里が頼んでいる相手というのは、蜀で一番腕のいい諜報員だった。

 

「これなのですが・・・」

 

そう言って冥琳と同様の方法で諜報員に依頼をする。

 

依頼を受け取ると諜報員はすぐにその紙を破棄し、任務を開始するために部屋を出て行った。

 

その様子を見届けた朱里は

 

「会議でのあの言葉・・・気になりますからね」

 

と独り言を言い、自分の部屋へと戻っていった。

 

 

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「う・・・ん?ここ・・・は?」

 

華琳は救護室の寝台で目を覚ます。

 

寝台から身体を起こし、目を擦ると涙をすくい取ることができた。

 

そして、周りを見渡すと季衣と流琉が同じ寝台で抱き合うように寝ていた。

 

その両隣の寝台では春蘭、秋蘭が静かに寝息をたてながら眠っている。

 

なぜ自分たちはこの場所にいるのだろう。

 

華琳は少し前の記憶をたどる。

 

「ッ!かずと・・・」

 

そして、会議での出来事を思い出す。

 

真桜が言おうとしていたこと

 

話の流れから何となく言いたいことが分かってしまった。

 

その瞬間、華琳の頭の中からある記憶が走馬灯のように思い起こされた。

 

それは今日と同じ琥珀色の満月が広がっていた夜

 

どこかの小川で自分の愛する人が消えてしまったという記憶

 

その記憶が頭を駆け巡ったとき、後悔と悲しみが一挙に心を支配した。

 

そのときに一刀とした会話の内容もすべて思い起こされる。

 

なぜあの時、素直になれなかったのか

 

本当にどうしようもなかったのか

 

他に選択肢はなかったのか

 

自分の選択が一刀を消してしまうことになったのではないか

 

様々な記憶があの会議のときに、頭の中から溢れ出てきた。

 

 

 

 

 

しかし、いま冷静になって考えてみると不可解な気持ちになる。

 

今現在も、一刀が居なくなってしまったという記憶は自分の頭の中にある。

 

しかし、自分はそんな経験はしていないはずだ。

 

だって、現に十日以上前だが一刀に会って、一緒に寝たという記憶もある。

 

三国同盟一周年記念祭りの時の一刀の記憶もある。

 

それ以前の記憶だってもちろんある。

 

「どういうことなの?なんだったの、あの記憶は?・・・・・・イタッッ!?」

 

華琳はさらに思い出そうとすると、急に頭に激痛が走る。

 

華琳は頭痛もちだが、ここまで痛むことは今までなかった。

 

頭が拒否反応を示している。

 

まるで、これ以上思い出すなと誰かが言っているかのように

 

華琳があまりの激痛と眩暈に頭を抱え込んでいるちょうどその時、救護室の扉がガラガラと開いていく。

 

「失礼します・・・、華琳様?お体は大丈夫ですか?」

 

扉の向こうには稟が立っていた。

 

稟が中の様子を確認してから部屋に入ってきて、華琳の傍に寄る。

 

「稟・・・、ええ、今は大丈夫よ、少し頭が痛いけど」

 

「会議中に皆が急に取り乱したと朱里から聞きました。一体どうなされたのですか?」

 

そのあと、稟は眠っているほかの人たちの顔を一人ひとり見回っていく。

 

季衣、流琉の頬に涙が伝った跡が残っていた。

 

「ええ、私もよく分からないのだけど・・・、あなたは何ともなかったの?」

 

頭痛が治まってきた華琳は寝台から少し出て、寝台に腰掛ける形になる。

 

「実は亞莎と一緒に準備をしていたときに、急に胸が何かに貫かれたような痛みを感じました・・・。その時、ふと一刀殿のことを思い出しましたのですが」

 

「そう、やっぱりあなたも・・・」

 

「華琳様はいったいどうなさったのですか?」

 

「・・・、ほんと急になのだけど一刀が目の前からいなくなるという記憶が頭を過ぎったわ。とても鮮明にね・・・。そんなことあるはずがないのにね」

 

華琳も改めて考えてみるがそんなことはあるはずがない結論付ける

 

「私と同じく取り乱した子達にもこの記憶はあるのかしら?」

 

「少なくとも私はそのような記憶は出てきませんでしたが」

 

二人は俯いて考え込んでしまう。

 

あの記憶は何なのか

 

なぜ魏勢だけがこのような状態になってしまったのか

 

「まぁ、分からないことを考えていても仕方ありません。今は一刀殿を捜すことが最重要です・・・。まだ、本当に消えてしまったかどうか分からないのですから」

 

「そうね・・・」

 

稟は華琳の顔の表情を確認した後、

 

「報告は明日にいたします。今はゆっくりとおやす・・・」

 

「いいえ、報告があるならしなさい」

 

稟の言葉を華琳が遮るように言う。

 

その言葉を聞いて、一つため息をつき、コホンと咳払いをした後

 

「そうですか、では、報告します。実は、先ほど門番の者から詳しい話を聞いてきました」

 

稟は門番たちから聞いてきた話を一言一句間違えずに伝えていく。

 

「私は門番をしていた者の証言は信じても問題ないと思います。それでですね、体調が悪いところ申し訳ないのですが、華琳様にお訊ねしたいことがあります」

 

「なにかしら・・・」

 

「酒樽の件なんですが、あれは具体的にどこが壊れていたのですか?」

 

華琳は不思議なことを訊くのだなと感じながらもその疑問に答えてやる。

 

「ああ、あれは側面と底の繋ぎ目の部分が少し緩んでしまっていてね、そこから少しづつお酒が漏れちゃっていたのよ」

 

「わたしは酒のことはあまり分かりませんが、総交換の必要性はあったのですか?」

 

「お酒はね、温度や湿度といった保存状態がとても重要なのよ。たとえ、緩んだところを塞いで漏れないようにはできても、ほんの少しの気温管理が難しくなってしまうの」

 

華琳は言わずもがな完璧主義者の鏡といってもいい。

 

しかも、お酒に相当のこだわりがあることも稟は知っている。

 

「そうですか・・・分かりました。体調が優れないはずなのに、変なことを聞いて申し訳ありません」

 

「いいえ、別にかまわないわ、気になったのでしょう?」

 

華琳は少し笑顔を見せる。

 

「はい・・・、あと、真桜はもう部屋に戻ったのでしょうか」

 

「さぁ、私が目を覚ましたときにはもうここにはいなかったのだけれど・・・」

 

そういえば会議の場にはいたのに、ここにはいないことに気づく。

 

あのときは周りを気にする余裕はなかったため、詳しくは覚えていない。

 

「分かりました。明日にでも・・・、では、私はこれで失礼します。今日は充分に休んでください」

 

「ありがとう。ああ、あと一つ頼みごとをしてもいいかしら?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

華琳は稟の耳元でヒソヒソと用件を話す。

 

いつもなら耳を噛んでみたりといたずらか何かをするのだが、今はそんなこと二人の頭の中にはない。

 

「かしこまりました。実は私もそれを気にしていたのです」

 

「あら、じゃあ言う必要はなかったかしら?」

 

「いいえ、確認程度と思っていたのですが・・・華琳様も気になされていたのでしたら・・・」

 

稟は華琳の用件を聞き終わると、その用件を遂行するために救護室から去っていった。

 

救護室にはすぅすぅと寝息を立てる四人と華琳が残される。

 

「いったい、どうなってるの?――――かずと・・・」

 

 

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その日の夜はいつもの城の様子とは少し違っていた

 

いつもは城全体を静寂が包んでいるはずなのに

 

その日は少女達のすすり泣く声が止むことはなかった

 

そしてそのまま、次の日の朝を迎える。

 

一刀を見つけることができないまま

 

 

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早朝の雑貨倉庫

 

そこにはいつもどおりメイド二人の姿があった。

 

しかし、顔色が良いとはいえない

 

「月、ほんとに大丈夫?休んでいたらどう?昨日倒れたんだし・・・」

 

「ううん、大丈夫だよ・・・。皆さん朝からご主人様のためにがんばってるし、私だけ休んでいられないよ。私にできることをしなくちゃ・・・」

 

詠はいつも以上に月の身体を心配しながら声をかける

 

 

 

 

 

月も、詠もそうだが、昨日会議が終了して季衣、流琉を救護室に送った後、自分たちの部屋に戻って身体を休めた。

 

しかし、結局充分に休むことはできず、いつも起きている時間になってしまっていた。

 

月はいつものメイド服を着用し、雑貨倉庫に向かうため部屋を出る。

 

すると、城がいつもより騒がしいことに気づく。

 

そう思いながら広場の道を通ると一つの高札が目にはいった。

 

そこには“御遣い様捜索隊編制についての連絡”と書いてあった。

 

周りを見渡すと兵士たちが慌しく動いている。

 

広場の中心には愛紗と星、思春がきびきびと指示をしているのが見えた。

 

その様子を見て、私にもできることをしようと決意し、今現在に至っている。

 

 

 

 

 

「詠ちゃんこそ軍師のお仕事をしなくていいの?私なら大丈夫だから、詠ちゃんは捜索隊のほうに・・・」

 

「だめよ!!それじゃ月の負担が大きくなっちゃうじゃない。この城には僕並に優秀な軍師が3人もいるんだから大丈夫よ」

 

「ありがとね・・・、詠ちゃん」

 

互いを心配する会話が終わると、今自分たちができる仕事を着々と進めていく。

 

「あっ、そういえばあいつの部屋の蝋燭が切れてたわね」

 

「そういえばそうだったね。ご主人様、きっとすぐに帰ってきてくれると思うから、いつもみたいに綺麗にしておかないとダメだね」

 

詠が蝋燭の件を思い出すと、蝋燭の予備が置いてある棚まで行き、一本手に取る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・、どうしたの?詠ちゃん」

 

蝋燭をジッと見ている詠を見て、月が声をかける。

 

月が声をかけても、詠は蝋燭から目を離さない。

 

「詠ちゃんてば・・・」

 

声をかけながら月は詠の肩に手を乗せる

 

「あっ!ごめん!月、どうかした?」

 

「それは詠ちゃんのほうだよ・・・、どうかしたの?やっぱり疲れてるんじゃ・・・」

 

月は詠のおでこに手を当てて、顔を覗き込む。

 

「そうじゃないのよ・・・、新しい蝋燭を見て思ったのだけれど、僕やっぱり一昨日あいつの部屋の蝋燭を交換したわ」

 

「そうなの?」

 

月の言葉に、詠は真剣な顔をしてそう断言した。

 

「間違いないわ、あの時はあやふやだったけど、こんな大きな蝋燭を代え忘れるなんて僕にはありえないわ・・・」

 

詠が持っている蝋燭、つまり各部屋に置かれている蝋燭は庶民が日常的に使っている物よりもかなり大きな物を使用している。

 

軍師や将軍達は仕事の性質上、机に向かっての政務が多いのは言うまでもない。

 

軍師にいたっては毎晩遅くまで政務をすることもあるので、普通の物を使っていればすぐになくなってしまう。

 

しかも、蝋燭はこの時代の者たちにとっては生活必需品である。

 

ちょくちょくなくなってすぐ交換となれば、手間が掛かってしまう。

 

なので、職人に頼んでかなり大きくて、長持ちする物を特注で作らせている。

 

その蝋燭に火を灯し続ければ、軽く半日は火が消えることはない

 

「昨日の朝、ご主人様のお部屋の燭台には蝋燭はなかったよ」

 

しかし、二人は昨日の朝に確認している。

 

確かに一刀の部屋の燭台に蝋燭はなかった。

 

「でも、確かに一昨日、あいつの部屋の蝋燭は新しい物に代えたはずだわ」

 

「ん〜、詠ちゃんはあまり物忘れする方じゃないし・・・」

 

詠は確かに他の子よりもドジなところが多々ある

 

しかし、月は長い付き合いを思い出しても、詠が何かを“忘れていた”ということは少なかったように思えた。

 

「それに、いくらあいつが一日中政務をがんばっていたからといっても、この蝋燭を一晩で使い切るのは難しいと思うの。あいつ結構マメな方だったから消し忘れなんて今までなかったし」

 

「そうだよね・・・、それに季節も春だからほんとに夜遅くにならないと蝋燭なんてなくても普通に見えるもんね・・・」

 

 

 

 

二人は一度、この蝋燭に火を点けたらどれくらいもつのかを実験したことがあった。

 

そのときは早朝に広場で火を点け、風で火が消えないように工夫をしてから夕食前に様子を見ようということになっていた。

 

そして、夕食前に様子を見に行くと火はまだ点いていた。

 

このとき、二人は本当にすごい蝋燭だと実感していた。

 

 

 

 

詠の記憶が正しいとしたら、一昨日の朝に一刀の部屋の蝋燭を新しい物に代えたが、翌日にはもうなくなっていたことになる

 

「なんかおかしいわね・・・」

 

「一応報告しとく?詠ちゃん」

 

「そうね・・・、やることが終わったら朱里にでも報告しとこうかしら」

 

いつもならこの程度のことは報告するまでもない。

 

しかし、いまは一刀が行方不明になっている緊急事態だ。

 

こんな情報でも何かの役に立つかもしれない。

 

「そうだね。それじゃ、はやく皆さんの荷物をまとめて、ご主人様の部屋の蝋燭を代えて、それから行こう」

 

そう言って二人は自分の仕事に戻っていった。

 

 

 

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広場では早朝から各国の将軍達、軍師達が忙しなく指示を飛ばしていた。

 

兵士たちはその指示に従って、テキパキと動いている。

 

魏の将軍達は今朝には全員が目を覚まし、他には負けていられないとすぐに準備に入っていた。

 

ただ、季衣と流琉に関しては華琳がまだ体調が悪そうだと判断したため、今回は城で留守番ということになった。

 

また、凪、沙和、真桜の北郷隊の面々は引き続き城周辺の捜索を命じられた。

 

後は蜀では桔梗と星が、呉では冥琳が残ることになった。

 

朱里と稟が本国に帰るため、冥琳は一人ぐらい軍師が城にいなければならないだろうと判断し自ら残ることを選んだ。

 

それに本格的に亞莎に仕事を任したいという考えもあった。

 

また、桃香や華琳、蓮華に関しては残ってもらうつもりだったが、どうしても行きたいとのことだったので一緒に行くことになった。

 

捜索隊の出立は、今日の昼に城を出る予定になっていた。

 

準備は昨日の深夜から亞莎が簡単に進めていてくれたので、どうにか間に合いそうではある。

 

「朱里、こちらは大体準備が整ったと報告があった」

 

「分かりました。では、そのまま待機していてください。捜索隊すべての準備が完了しだい詳細な捜索範囲についてお伝えします」

 

そして、しだいに準備完了の報告が為され、予定通り昼前には全捜索隊の準備が完了した。

 

その報告を受けて、朱里は各国の将軍を集める。

 

「準備が整ったようなので、説明させてもらいます」

 

朱里は地図を取り出して、詳細な捜索範囲についての説明に入った。

 

朱里の説明を簡略すると以下のとおり

 

まずは各国の主要都市まで進行、そこで捜査員の増員と情報収集を行う。

 

そして充分な準備が整いしだい、各国全土に向かって高札を立てながら村々を回っていく。

 

また、幽州周辺に関してはそこで守備隊を率いている白蓮と麗羽達に、涼州に関しては翠・蒲公英が捜索することになっていた。

 

公演に出ている張三姉妹や美羽達にも情報があり次第、報告という通達も出している。

 

念のために朱里は南蛮に帰っている美以達にも捜索を依頼していた。

 

捜索隊は随時、冥琳に対して伝令を出し、冥琳はその情報をさらに別の捜索隊へと伝えることになった。

 

月と詠はその補佐を勤める。

 

「伝えることは以上です。また、その場の状況判断については各隊の責任者に任せますが、必ず報告は忘れないでください」

 

朱里の説明が終わり将軍達に解散を告げると、彼女達はすぐに各担当の捜索隊に同じことを伝えに向かう。

 

「あと凪さん、沙和さん、真桜さんは華琳さんたちが出立した後は冥琳さんの指示に従ってください」

 

「わかりました。朱里様」

 

代表して凪が返事をすると、すぐに捜索隊の編制作業に戻っていった。

 

凪が立ち去った後、次は冥琳が朱里のもとに訪れる。

 

「この城のことは私に任してくれ」

 

「はい・・・、よろしくお願いします」

 

答えるまでに少し間はあったものの、しっかりとした口調で返事をする

 

「・・・、これで北郷が見つかればいいのだが――」

 

「絶対に見つかります!!」

 

朱里は次の冥琳の言葉には言い終わる前に強い口調で言い返す。

 

その様子に冥琳は少し驚いてしまう。

 

「あ・・・、ごめんなさい・・・」

 

突発的に発した言葉だったらしく、朱里はすぐに謝罪する。

 

「いや・・・、別に気にするな」

 

「はい・・・、でも、絶対ご主人様は見つかります。―――私達を置いて帰ってしまうなんて考えたくありませんから・・・」

 

朱里も先日の真桜の発言に少しばかりショックを受けていた。

 

自分に何も伝えないまま

 

あの人がいなくなるなんて考えたくもなかった。

 

「そうだな・・・、――――そろそろ出立の時間だ。行って来い」

 

冥琳が朱里の背中をチョイと押す。

 

突然押されたため、朱里の身体が少し前かがみになりながら倒れ込みそうになった

 

「はわわ!・・・、あっ、そうですね、行ってきます」

 

倒れ込みそうになった身体を起こして、朱里は冥琳の方へ振り向いて一つお辞儀をしてから捜索隊の方へと走っていった。

 

 

 

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「蜀捜索隊出発!!」

 

愛紗の号令と共に蜀方面への捜索隊が前進を始める

 

それらの出発を確認した後、続いて呉の捜索隊が健業へ向けて出立する。

 

「我らの出発が最後とは・・・、うぬぬ・・・」

 

「こんなところで張り合ってどうするのだ、姉者」

 

「しかしだな・・・」

 

夏侯姉妹が仲睦まじく話しているなか、稟が凪に近づいていく。

 

「お疲れ様です。この城のことはよろしくお願いします」

 

「はっ!稟様も道中お気をつけて」

 

凪がビシッと稟に返事を返す。

 

「はい、それと・・・、真桜に少し聞きたいことがあるですが、どこにいるか分かりますか?」

 

「真桜なら工房かと思います。先ほど行ってくると連絡がありましたので」

 

稟は一言“ありがとう”と伝えるとすぐに工房に向かっていった。

 

魏の出立まではあと少ししかないため、稟は少しあせりながらも廊下を進んでいく。

 

工房へと続く廊下に差し掛かったちょうどそのとき、向こうからなにやら箱を抱えて歩いてくる真桜を見つける。

 

「真桜、ちょっといいですか?」

 

「おお、稟。どないした?もう出発やろ?」

 

真桜は荷物を軽く持ち直す。

 

「このカラクリについてもう一度簡単に説明をしてもらいたくて」

 

稟は真桜にあるカラクリを見せる。

 

それは遠くの部隊との連絡手段に使われる色のついた煙を発する煙球を空へ放出するものだった。

 

「これかいな、ここに煙玉をいれてやな・・・」

 

真桜は抱えていた荷物を脇に置く。

 

そして、カラクリを手にとって、指をさしながら使い方の説明をおこなう。

 

「ほんで、これに火をつけたら仕舞いやな。離れんと危ないからそこは気ぃつけて」

 

一通り説明をし終わるとカラクリを稟に返す

 

「分かりました。あともう一つなんですが」

 

「なんや?」

 

真桜は荷物を再び抱えなおす。

 

「一昨日ですが非番でしたよね?そのときも一人で工房にいたのですか?」

 

「そやで、沙和に商人の護衛に行くって言われるまではおったな。なんでや?」

 

「いえ、沙和が一刀殿を見ていたので、もしかしたらって思いまして」

 

「もし見てたら会議の場で沙和と一緒に言うわ」

 

「それもそうですね」

 

鞄にカラクリをしまってから軽く返事をする。

 

「ほら、もう出発時間や。行ってき」

 

「はい。ではこの城のことはよろしくお願いします」

 

稟は振り替えりながら真桜にそういって広場へ駆けて行った

 

 

 

 

 

稟が広場に着くとすでに魏の出発が開始していた。

 

「稟、どこに行っていたのだ?」

 

秋蘭が稟の姿を見つけると近寄ってくる。

 

「このカラクリについて、教えてもらっていました。後で使い方を改めてお教えします」

 

「そうか、姉者はもうすでに出発している。我等も行こう」

 

コクリと一回頷いてから稟は秋蘭に続いて行く。

 

 

 

目指すは洛陽の町

 

 

END

 

 

 

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あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

物語も少しずつではありますが、進みつつあります。

 

もう少し更新速度をあげられればいいのですが・・・

 

 

 

 

では、次回予告を少し

 

蜀の面々は様々な町に立ち寄りながらも成都へ向かう。

 

そこで、とある人物と出会うことになった

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第4章 「蜀捜索」

 

では、これで失礼します。

 

説明
どうもです。3章更新です

あらすじ
明命が持ってきた物を見て一同は驚愕する。
そしてその後の真桜の発言により魏勢が急に取り乱してしまう。
この様子を見て冥琳が会議続行不可能と判断し、会議終了を宣言した。
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コメント
アロンアルファ様>そういう展開も面白いかも・・・(salfa)
カズト様>ありがとうございます!ご期待にそえられるようがんばっていきたいと思います(salfa)
はりまえ様>少しの間はそういう感じのものが多くなっちゃうかもしれないです。(salfa)
↓えっ!?じゃあ最後は崖に犯人追い詰めって展開が?!(アロンアルファ)
まるで推理小説みたいだな( ̄ー ̄)面白すぎるぞ! 更新頑張ってください!(スーシャン)
リンの行動も気になるし、消えた主人公も気なる・・・・気になることだらけじゃないか!?(黄昏☆ハリマエ)
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