真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 第四章・終幕 |
「それで?結局晋陽の民たちは納得したのかの?」
「……まあ、一応、ね。……とはいえ、劉豹さんたち匈奴を信用したってわけじゃなく、”天の御遣いである俺”を、って言う感じだけどさ」
所は冀州・?の城。
河北各地での争いを収めた北郷軍の諸将が、久方ぶりにこの地に集結していた。そしてその席には、烏丸の単于に返り咲いた丘力居と、匈奴の単于・劉豹とその側近である蔡?と呼厨泉も、同席をしていた。
なお、一同が今その部屋で座っている卓は、円形のものが使用されている。これは一刀が?の太守になってから、ずっと使われているもので、公の時はともかく、この場にいるときは、そこに同席する全員が、同列の存在として忌憚なく意見を交し合えるようにと。とある有名な伝説を基に、一刀がこの形を取るようにしたのが最初である。
『円卓の間』
いつしかこの部屋は、そんな風に呼ばれるようになっていた。
「……しかし、それでは少々まずくないか?民たちが信用しているのが、実際に統治を行う劉豹殿たちではなく、一刀のほうでは」
そんな懸念を示した公孫賛に、劉豹がその視線を転じて神妙な面持ちで口を開く。
「……そこは、これからの私たち次第でしょうね。三年間。その間に、民たちが納得行く結果を出さなければ、私たちは再び、北の地へと戻る。そしてもしその間に」
「ぬしらが民を蔑ろにするようなことがあれば、北郷たちの手で”討伐”を行う、か」
こく、と。
一刀と劉豹が、揃って丘力居に頷く。
并州にて、来襲した張遼軍を撤退させた後、一刀は劉豹とともに晋陽の人々を説いて回った。この地を、匈奴の領にしたいと。それはもう、予想以上の猛反発であった。なぜ、自分たちが北の蛮族の支配下にならなければいけないのか、と。
当然といえば当然の反応であろう。
だが、一刀はあきらめることなく、人々を口説いて回った。この地を北との緩衝地帯に、そして、北方交易の一大拠点にしたいということを。これが成功すれば、この地は歴史上類を見ない街として栄えることになると。そして、そこを治めるのが漢人ではなく、匈奴の者でなければいけない理由も。
民族の異なるものが、異なる民族のトップを務める。それは、この街に来れば、身分に囚われることがないという事を、大々的に宣伝することとなる。民族や宗教の違いを気にせず、摩擦の種としない街。そこには様々な人々が集まってくるはずである。
能があってもその身分により、野に埋もれざるを得なかった者でも、ここに来れば出世の道が開かれる。役人としてだけでなく、商人としても、職人としても、農民としても。あらゆる分野で差別の起きない街。
そんな理想の街の最初の一歩を、この街から始めたいと。
その熱意のこもった言葉を、一刀は人々に説いて回った。劉豹もその考えに賛同を示しており、けして、民族の違いによるいさかいは起こさせない、と。彼もまた、一刀とともに熱く語った。
そして、もし、匈奴の人間が狼藉を働くことがあれば、一刀自ら、彼らを北の地へ追いやることを、人々に約束した。……もちろん、劉豹もそれに同意をしたうえで、である。
「それで、まずは三年の猶予期間を設けたわけか」
「そうよ。それでどうにか、民たちは納得してくれたわ。……その間は、私が晋陽に常駐して政を行うわ。北については、楓に任せるつもりよ」
丘力居に答えつつ、後ろに立つ蔡?へと自身の肩越しにその視線を送る劉豹。
「蔡?さんは、確か元々漢の人だったはずですよね?」
「あら、よく知ってるわね。そう。今は亡き父上がね、一人お忍びで洛陽に行った時、一目惚れして連れ帰ってきたのよ。……まあ、当時は私も小さかったし、彼女がどういう立場かよくわからなかったけど」
「……紅玲(くれい)さま、よく楓さまに懐いていましたからね」
「ええ。いつも私のことをおねえちゃまと呼んで、よく慕ってくれてたわね」
「……昔の話はやめましょうよ///」
あはははは、と。
呼廚泉と蔡?に、幼いころの話をされて照れる劉豹と、そんな彼を見て笑いをこぼす一同だった。
「まあ、それはともかくとして、晋陽と匈奴のことは、それで一応の片がついたわけじゃな?」
「ええ。ということで、今度は丘力居さんたち、烏丸のことなんですが」
「うむ。以前にも言ったとおり、わしらはこれより、北郷及び公孫賛の両名と永久の友誼を誓い、よき隣人であることを約したい。一族の者たちもすでに納得済みじゃ。……受けてくれるかの?」
一刀と公孫賛に対し、以前の約束どおり盟約を交わしたいと述べる丘力居。一刀と公孫賛はもちろん、満面の笑顔でもって彼女にこう答えた。
「もちろん。喜んで、手を取らせていただきます」
「私もだ。丘力居どの、これからもよろしくお願いするよ」
「そうか!いや、これで胸のつかえがおりたわ。……そうじゃ、わしの名は姓名ではいちいち呼び難かろう。銀(ぎん)。これからはそう呼んでくれてかまわんぞ。にゃっはっはっはっは!」
自身の真名を、呼びにくい姓名の変わりに預けると、丘力居はそう言う。もちろん、ただそれだけの為ではない。真名を預けるのは、あくまで一刀たちを信用していればこそである。すると、それを聞いた劉豹たちもまた、自分たちの真名を預けたいと、一刀たちに声をかけた。
ならば、と。全員が揃っている今がいい機会だとして、その場で全員による互いの真名の交換が行われた。このとき、当人たちは気づいていなかった。”この事”が、いかほどの意味を持っているかということに。
漢土のものと、北方民族の者が、その真名を交換するという事が、歴史的な大事件であるということに。そしてそれが、今後大きな意味を持ってくることを、このときの彼らには、未だ知る由もなかったのである。
「さて。じゃあ、今度はこっちの話に移ろうか。まずは瑠里から話を始めてくれるかい?」
「はい。……青州についてですが、賊たちから受けた被害の復興は、おおむね良好といっていいです。狼煙台の設置も完了しましたので、何かあったときにも、これで迅速に対応することができるかと」
狼煙による情報伝達。電信機器など当然無いこの時代、これ以上に早く情報を伝える手段は無い。政に関わる事はもちろん、”敵”の侵攻をいち早く伝えられるこの手法を、一刀は早々に取り入れていた。……?の太守に就任した、その時からである。
「南皮の方でも、同様に設置が完了してます。およそ一里ごとに一箇所。……ただ難点は」
「雨の日、だね?」
そう報告を行う高覧に、一刀がその危惧するところを読んで、台詞を先回りする。
「……はい。火をおこし、煙を上げることは不可能じゃありません。窯に屋根をつければそれで良いんですから。けど、視界だけはどうにも」
「どんなに目が良かろうが、雨に遮られてはなんともならんか」
「……その時は、伝馬をいつも以上に細かく、一昼夜体制で配置しておくしかないさ。情報伝達の速さ。それは、これからさらにその重要性を増してくると思う。だから抜かりの無いよう、しっかりと整備の方、よろしく頼んだよ、司馬懿情報局長?」
「……はい」
一刀にその頭を下げる司馬懿は、青州から戻ったその日のうちに、先日設立されたばかりの、情報管理専門の部署である情報局の、その長に任じられていた。
「後は并州の上党ですが、こちらは華雄さんと詠さんそれと朔耶に、統治体制の整備のため、向かってもらう予定です」
「……また輝里と離れ離れなの〜?うん、朔耶、寂しい」
するすると、そんなことを言いつつ徐庶に擦り寄っていき、その背にのの字を書く伊籍。
「〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!……やめなさいっての!!(ぼぐっ!!)」
「きゅうっ!」
いつもどおりの鉄拳制裁が、伊籍の頭上に落ちる。
「まったく、もう!」
「あ〜……生きてる?」
「……一応生きてるみたいです。大概頑丈ですね、この人も」
「……乙女の執念、っちゅうやつかもな」
「だな」
……それはまあ、ともかくとして。
河北における諸事の最後に、公孫賛との同盟締結の話を、改めてまとめなおすことになった。
北郷領と幽州の間にある関所などはすべて廃し、その行き来を完全に自由とすること。交易についても、関税をすべて撤廃することで合意。狼煙台の設置や、駅馬車制度の施設など。
そして、丘力居と劉豹も加わっての、四者間による同盟文書の交換をもって、その関係は完全に固まった。
その日の夜。
この一大同盟を記念しての宴が盛大に執り行われ、この記念すべき日を祝いあった。
乱世そのものが終わったわけではない。
中原や涼州、揚州に荊州・益州でも、いまだ戦乱は続いている。
その乱世の背後で、ひそかに暗躍する者たちもいる。
そんな、各地の諸侯や、その他の敵意ある者たちと、今後どう一刀たちが向き合っていくのか。大陸の未来は、どこへ向かうのか。
未だ夢をあきらめぬ大徳は、雲を得ることができるのか。
己が覇を貫こうとする少女は、覇王たる道を切り開けるのか。
一族の繁栄と存続を願う虎は、その牙を静かに研ぎ澄ませ。
西涼の錦と呼ばれし姫は、真なる道をひたすらに模索し。
名門に生まれた二人は、それが故に未だ交わることなく。
時はただ、静かに、そして無常に流れ行く。
さらなる動乱のとき。
その足音は、確実に、彼らの下へと、迫りつつあるのであった…………。
〜第四章・了〜
〜第五章に、続く〜
というわけで、ようやく第四章、終幕しました。
この章は本気で難産でした。
特に後半、白蓮たちの対烏丸戦は。
まー、ネタが出てこない。
話がちっとも浮かばない。
書く気力がわかない、と。
まあ、それでもどうにか、河北編まで終了ができました。
さて。
問題はここからでして。
ここまでは、旧バージョンという下書きめいたものがあったので、
多少なりとも変更しつつも、道筋は決まっていたわけですが、
こっからはまったくの白紙状態www
エンディングはもう頭の中に出来てるので、どうやってそこまで持ってくか。
今後は完全に、投稿ペースは下がります。
ので、生暖かい目で見つつ、ゆっくりお待ちいただければ幸いです。
なお、たまに書いてるお酒ネタのシリーズなんかも、
これからも続けるつもりですw
あと、予想以上に好評だった、桂花のデレ日記。
あれも、第二弾を書く予定でいます。
・・・いつになるかはわかりませんがwww
それでは、次回の投稿にてまた、お会いいたしましょう。
あ、次は幕間の予定ですので。
それでは、皆様、再見〜!!
説明 | ||
北朝伝、四章もこれにて終幕。 少々短いですが、お付き合いのほどを。 それでは、ご覧くださいませ。 |
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コメント | ||
無事、北方民族との一件がおわりましたね。 これから先の話で桃香たちがどう動いてゆくのかが気になりますねえwwwwwwww。 (劉邦柾棟) 北方民族と真名を交換した。その事実を他はどう受け止めるのか。異民族も自分達と同じ人間と捉えるか、異民族なんかと言いながら一刀達を蔑むか。(龍々) 睦月ひとしさま、この後は怒涛の急展開!・・・になるのかどうかはわかりませんがw ごゆっくりお待ちくださいませw(狭乃 狼) 上手くまとめましたね。さて、このことで話の展開がどのように変化するのか。次回を楽しみにしています。(睦月 ひとし) タケダムさま、ごゆっくりお待ちくださいね〜www(狭乃 狼) zestさま、はい、一刀たちはそんなこと全く気にしてませんw 民の幸福と笑顔。それだけが気になることですから^^。(狭乃 狼) 東方武神さま、そのまんまなのは流石に無いですがね。(狭乃 狼) ほわちゃーなマリアさま、生きてますカー?大丈夫ですかー?(狭乃 狼) mokiti1976−2010さま、さあ、次の相手は果たして誰か?三人の今後はどうなるのか。ご期待くださいw(狭乃 狼) hokuhinさま、そんな感じをイメージしています。結果が出るのはもっと先ですが。(狭乃 狼) よーぜふさま、ありがとうございます。ところでなんでベッドの下に?(狭乃 狼) 続き楽しみにしているよ!待ってま〜すwww(タケダム) 異民族問題も一応の解決をみて、更なるハッテンの予感www異民族と結託しているとか陰口叩かれても、既に逆賊のレッテルを貼られている以上気にすることではないから、総合的に見れば黒字と見ていいんじゃないですかね。勿論今度の統治次第ですが。(zest) 『円卓の騎士』なんてのも、もしかしたらこれから出てくるかもしれないね。まぁ気長に待ってますよ。(東方武神) とりあえずですが、異民族編は無事解決したみたいですね。なるほど、輝里は背中が弱いんですか。では私も・・・ぐほっ!!(ほわちゃーなマリア) まずは北方の問題は決着ということで次は誰が相手なのか?大いに気になりますが、劉協と霞と恋には是非一刀の許へ来てほしいですね。(mokiti1976-2010) 現代の国際都市みたいになりそうですな晋陽は。一応情報ネットワーク出来て、乱世の準備は出来ているようですね。(hokuhin) とりあえずの一区切り、おめでとうございます。 ふふっ、ベッドの下から生ぬる暖かくみまもっていきますよ・・・フフフw(よーぜふ) poyyさま、それは作者にもわからない(ォィwww(狭乃 狼) 異民族編はこれ似て閉幕ですね。今後は一体どんな展開を見せてくんでしょうねぇ。(poyy) カイさま、気にしつつお待ちくださいなw(狭乃 狼) 村主7さま、確かに未知なんですよね。大体の青写真はありましたけど、状況がけっこう変わってるので。(狭乃 狼) 気になるーーーーー(カイ) 一応は異民族関連は落ち着いた様子でw あとがきにて仰れらてましたがここからは未知の領域(前シリーズではここまでだったみたいなので) 気長に待ってますのでご自身のペースで執筆を続けてくださいませw(村主7) |
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