模型戦記ガンプラビルダーアナザー1
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「店長、店長! 今日から使えるんだろ!

 やらせてくれよ、ガンプラバトル!」

 ある日曜日の朝。ガンプラの箱を脇に抱えた少年が瞳を輝かせながら店に飛び込んできた。

 元気の良さに秋山模型店の店長は呆れ顔。

「肇くんはいつもいきなりだな。でもひとりじゃできないだろ。友達はどうしたんだ?」

「我慢できなくってさ、一番で走ってきた。なあ、バトル出来なくてもガンプラを動かすことはできるんだろう。やらせてくれよ」

 店長を急かすように肇は箱から自分で作ったストライクフリーダムガンダムを取り出す。

 どうするべきか悩む店長は模型店に入ってきた女の子に助けを求めた。

「やあ、美加。良いところに来てくれた。さっそくだけど頼まれてくれないか」

「おはようございます、叔父さん。いきなりですか?」

「一番乗りのガンプラビルダーが張り切っているからね」

 美加は肇よりも年上らしくメガネを掛けた目線が拳一個分高い。長い髪を三つ編みに纏めて、両手でプラスチック製の工作箱を下げている。

「機体はどれですか?」

「手に持っているのはオーライザーだっけ?

 それでお願いするよ」

「ええー! どうして女が相手になるんだよ」

 肇が不満を声に出す。

「今日は肇くんたちが押し掛けてくるのが判っていたからね。対戦の人数合わせが出来るように美加にお願いしていたんだ」

「オーライザーって、ガンダムどころかモビルスーツですらないじゃないか。そんなんで勝負になるのかよ」

「あのショーケースに飾ってある模型を作ったのは美加なんだ。あの娘が作るガンプラはすごいぞ」

 肇は店長が指差すガンプラ群を見る。いつもの見慣れた完成例展示品。店長が作っているものと思っていたから驚いた。

「あんた、ガンプラやるのか?」

「主には手芸工作一般よ。お店の展示品も今日の員数合わせも叔父さんの依頼。アルバイトよ」

「とはいえ、新作への力の込めようは尋常じゃなかったよね」

 店長の突っ込みに冷静だった美加が動揺し視線を逸らす。

「そ……、それはシミュレータがどれだけギミックを拾ってくれるのか試したかったから……」

「まっいっか。一番にバトルできるならやってやるぜ」

 今にも店舗奥にあるシミュレータに走り出しそうな肇に美加が聞く。

「スーツとヘルメットは?」

「いらないよ。ガンダムに乗るなら最初はふつうの服だろ」

「……その考えは嫌いじゃないわ」

 美加の表情が少しだけ綻んだ。

 

 ガンプラバトルとは。

 機動戦士ガンダムに代表されるアニメーションシリーズと連動した対戦アクションゲームだ。

 一番の特徴は劇中に登場する人型機動兵器モビルスーツのスケールモデルを立体スキャナーで読み取り、搭乗機体として使うこと。操縦する機体に操縦者が手ずから塗装を施したり、改造を行ったプラモデルを使うことで既存キットにはない武装や機体特性を持たせることが出来る。逆にプラモデルの出来次第では立体スキャナーの高精度が災いし、性能低下を引き起こしてしまうこともある。

 またモビルスーツ操縦の臨場感を増すための小道具として、劇中のパイロットスーツを模して作ったツナギとヘッドセット内蔵のヘルメットなどがある。これらを装着することで、まるで本物のパイロットになったかのようにモビルスーツ戦闘を楽しめる。こだわるプレイヤーはガンダム作品内にある架空の組織カラーまで似せるほどだ。

 肇が言っていたのはこのことだ。ガンダムのアニメ作品では、主人公が最初の戦いを私服で切り抜ける印象が強い。初搭乗でスーツを着用しないのは、それにならったこだわりだ。

 

 最初に店長から簡単なレクチャーと諸注意を受けて円形の筐体Gポッドに乗り込む。ハロ型の立体スキャナーにガンプラを入れ、店長から渡されたヘッドセットを接続する。これはスピーカー内蔵ヘルメットの代わりだ。

 パーソナルデータとデポジットが入ったICカードを投入し準備完了。

 立体スキャナーが作動し、機体データが表示された。

 肇のストライクフリーダムガンダムは、カラーリングアレンジとパーツ交換での小改造品。全体を肇が好きな赤系統で纏められている。カラーチャートの参考先はアストレイレッドフレーム。左腰のレールガンとビームサーベルが外され、替わりに日本刀型実体剣のガーベラストレートが下げられている。左側のラックポイントを失ったビームライフルは左手に握られている。

 赤いストライクフリーダムがアークエンジェルの艦載機デッキからカタパルトに移動する。

「台場肇。ストライクフリーダムレッド、いくぜ!」

 シグナルグリーンと同時にフルスロットル。ストライクフリーダムレッドが宇宙空間に飛び出した。

「ステージはデブリ多めの廃棄コロニーか」

 肇は初めてのコックピットに興奮しながらも、舞台を油断無く見渡す。不意に浮遊物の向こう側で光が見えたかと思うと、接敵警告のアラームと一緒に対戦相手の情報が表示された。

 美加の機体名はザンライザー/S。事前申告通りオーライザーなのだが、空想航宙機然としたシルエットにいくつもの鋭角なパーツが付け足されている。ザンライザー/Sの武装の中で肇が見たことあるのは機体下のGNソードVだけだ。

「なんだよそれ!? そんなオーライザー見たことないぞ」

「ザンユニットを知らないなんて、模型誌は範囲外なのね」

 ザンライザーはテレビアニメーション機動戦士ガンダムダブルオーに登場する戦闘機オーライザーに拡張パーツを取り付けたものだ。

 テレビ放送本編と連携して展開した模型雑誌に付録として作成されたプラモデルキットで、公式に外伝として扱われている。

 目を引くのは機首よりも先に出た二本の大型剣GNバスターソードVだ。後部メインスラスターも拡張され全体的に大型化している。

 ザンライザー/Sの末尾アルファベットは、機体構成が拡張パーツ+武装というダブルオーガンダムセブンスソード/Gにあやかったものだ。

「そっちも年齢の相応には出来ているんでしょうけど」

 緑色にきらめくGN粒子の尾を引きながら急接近したザンライザー/SがGNバルカンを撃ってくる。

 ストライクフリーダムレッドはビームシールドを展開すると防御。反撃にライフルを撃とうとするが、照準が緩慢で軽々と避けられてしまった。

 高速ですれ違う二機。機敏に反転するザンライザー/Sに比べて、ストライクフリーダムレッドの動きは鈍い。

「なんだ? レッドの動きが遅いぞ」

「……典型的な塗り過ぎね」

 ストライクフリーダムレッドは元キットの整形色を打ち消すために塗料を厚く塗られている。つまり塗り厚を考えずに組み立てられているために、精密に計算されているパーツ精度を失っているのだ。結果いくつかの間接部がきつくなり俊敏な動作が行えなくなっている。パーツが接触する部分では塗装剥げが起きていて、特に関節部分など酷い有り様だ。

「そんなので無理に動かすから」

 今度はGNソードVもライフルモードにしての一斉射撃。

 ビームシールドで守りを固めるストライクフリーダムレッドの足が止まった。

 好機到来と見た美加は、GNバスターソードVとGNソードVを衝突角にして突撃を仕掛ける。

 GNバスターソードVの刃は透明度の高いプラ版に付け替えクリアグリーンに塗装している。決まれば一撃必殺の攻撃だ。

「おわりよ……」

「なめるな! それならこいつだ!」

 肇がスーパードラグーンを打ち出した。瞬く間にザンライザー/Sを取り囲んだドラグーンが一斉に牙をむく。

 四方からの攻撃に美加は回避に専念する。メインスラスター以外にも、サイドバインダーの可動式スラスターやシールドスロットからも粒子を撒き散らして連射されるビームを掻い潜る。

「さすがにGNフィールドの自動展開は高望みしすぎね……」

 相手との間にデブリ群を挟む位置を取り、一旦停止する。

「ファンネルやビットは動作パターン選択式かしら。操縦者が空間を認識できても、それを受け取るサイコミュがないんだから当然なんでしょうけど」

 ファンネル類の動きを見てシミュレータの仕様を推測する。

 先ほどのドラグーンは手数こそ多かったが、射撃精度はそれほどでもなかった。つまり一射一射狙いをつけてたり、発射のタイミングを取っているのではない。操縦者がファンネル一つ一つの動きを制御してもよいが、それでは本体の疎かになってしまう。νガンダムのフィンファンネルのように防御機能があるなら対処できるが、攻撃しかできないものでは良い的になるだけだ。

 となれば一定の動作がプログラムされているパターンを選択する方が現実的だ。

 予想できるのは定型動作パターンと、対ファンネル仕様の自動迎撃パターン。遠隔操作パターンもあるだろうが、先の考えから使える状況は限られるだろう。

 さらに対戦する操縦者の力量次第では、パターン動作の小型銃座程度一時の足止め役で終わってしまう。

 相手の死角から攻撃でき手数を増やせるファンネル類は強力だが、万能無敵というわけではない。

 もう少しファンネルに関する情報が欲しいが、今さら肇にドラグーンの操作方法を教えてくれるようにお願いできるはずがない。

「無理してでもソードビットを載んでおくべきだったかしら」

 この場合の無理は美加の工作技量ではなく、改造に使うパーツを購入する資金的な意味である。今後の買い物計画変更を思案する美加の周囲がパッと明るくなる。

「おらおらおらおらおらおらぁっ!」

 ストライクフリーダムレッドがフルバーストでデブリを吹き飛ばし始めた。細かく狙えないのなら、火力で押し切ろうというのだろう。

「滅茶苦茶ね」

 そんな最中でも、美加はストライクフリーダムレッドの腰部レールガンがきちんと弾丸を射出していることを見付け微笑する。急ぎ天井方向に転進して射程範囲内から出る。

「でてきなたな! これでも食らえ!」

 ストライクフリーダムレッドが両手のビームライフルを連結して高出力ビームを撃ち放つ。デブリを貫通してザンライザー/Sに迫るが、手持ち大型火器故に射線がわかりやすく簡単に避けられてしまう。

「ちょろちょろ逃げるなぁ!」

「攻撃されているんだから避けるのは当たり前でしょ……」

 美加は高い機動力を活かしヒットアンドウェイを仕掛けつつ戦術を考える。

 第一に自己戦力分析。

 ザンライザー/Sの武装一覧にトランザムの表記は無い。世界観的にトランザムが可能ように改造してあるが、シミュレータ機能として使えない。特別カラーのプラキットがあるわけだから、そちらで使えということだろう。

 次に敵戦力。

 ストライクフリーダムは強力なモビルスーツだ。強引なカラーリング変更で機動力を失ってはいるが、同時斉射出来る火器の数が多く面制圧力が高い。迂闊な接近は的になるだけだ。

 こちらのトランザムシステムが使えないのであれば、機体カラーに影響するフェイスシフト装甲も未再現の可能性が高い。

 だがやっかいなことに実体剣持ちなのに加え、レールガンの演出が正されている。実弾兵装はGNドライブ機として気をつけなければならない。慣性制御で防御するGNフィールドとはいえ、断続的な質量加重や、制御力を超える超高速での飛翔体は防ぎきれるものではない。元機体よりレールガンの数が減っていることが多少の救いか。

 最後にパイロット傾向。

 機体選択や真正面からの撃ち合いを好むやり方から、良くも悪くも真っ直ぐな性格だろう。口が悪く好ましいとは思わないが。

「……わたしの勝ち目ってあの子の意表を突くしかないんだけど」

 散々続く乱射攻撃を避けながら渋面になる。

 バルカンと連射ビームでは相手のシールドを突破できないから、接近しての格闘が必要になる。そうすると火力差で負けるザンライザー/Sは、どうにかして間合いを詰めなければならない。ビームはGNフィールドで耐えレールガンを避けたとしても、接近後の殺陣を制する必要がある。

 一応ザンユニットにはアームがついているし、先端も掴みやすいクリップハンドに改造してあるが、元が懸架用だ。モビルスーツとチャンバラするのには心許ない。決定打に出来るのは前方に突き出すGNバスターソードVを使った突撃ぐらいなものだ。

「叔父さんに填められたわね……」

 相手が馴染みの客なので初戦闘に白星を送る腹積もりなのだろう。

 最初から人数合わせで呼ばれているわけだし、美加の目的はガンプラシミュレータが模型からどれだけの情報を引き出すのか、操作性はどれほどなのかを知ることだ。

 なによりザンライザー/Sの特性を理解している店長がストライクフリーダムと戦ったらどうなるか、結果を予測出来ないはずがない。

『どうして女が相手になるんだよ』

 肇の一言に内心激昂していた美加は、己の未熟を反省する。

 自分の模型造りの腕前を誇ることはあっても、相手の未熟を嘲笑うことはしなかった。かつての自分も多くの失敗から技術を学んできたのだから。

 だが美加は、女というだけで難色を示した肇に対して、彼が持つガンプラの荒さに勝ちを意識した。

 そんな出来の模型ならザンライザーだけで充分だと侮った。

 美加が驕っていた自分を恥じていると、シミュレータポッド外から声が聞こえてきた。

「もう台場がバトル始めてる。一人だけずるいぞ」

「おお、やってるなぁ。ザンライザーとはまた奇抜なチョイスをする」

 他の子供たちに、店長の知り合いたちもやってきたようだ。

 時間切れだ。今日の私は主役じゃない。数合わせがメインを押しのけて席に座り続けるわけにはいかない。認めよう。わたしの負けだ。驕りが生んだ結果だ。

 深く沈む美加が肇に切り出す。

「台場くんだったわね。わたしが投了するわ。他のお客さんも来たから、一度終わりましょう……」

 美加の唐突な申し出に肇が大きく首を傾げる。

「なんだって?」

「これ以上はどれだけやってもそっちの勝ちよ。こちらは奇襲が失敗し時点で勝てる見込みがないの……」

「ああっん!? ふざけんな!」

 肇が見るからに怒る。

「ガンダムはメインカメラがやられても腕一本ライフル一丁あれば戦えるんだ!

 攻撃が効かなかったぐらいであきらめんな!

 はじめたからには最後までやれよ!」

「そうは言ってもね……」

 こちらはガンダムではないし、他の客が来ては店長が二人だけにガンプラシミュレータを占有させてはくれないだろう。

「それじゃ、こうしようか」

 店長がつぶやくと同時に、美加の瞳に緑色に輝く光が映った。

 戦場に飛んできたのは美加が作ったダブルオーガンダムだ。このザンライザー/Sの相方となる機体で丁寧に細部まで作り込まれている。

 劇場版設定の大型GN粒子コンデンサ型で、セブンスソード/Gの膝パーツとGNカタールを付けていて、GNソードUブラスターを左腕に持っている。

「どういうことよ……?」

「いや、ほら。お客さんも増えてきたし、肇くんもああ言ってるしね」

 つまり、そういうわけだ。

「ラジャー……」

 狡猾で残忍なくせに無駄に社交性が高い店長に怒りの念を送りながら、美加は合体の準備に入る。

 まず懸架しているGNソードVをダブルオーに渡し、互いに背を向ける。ザンライザー/Sのメインスラスターが折れ曲がりダブルオーガンダムの背部とドッキングする。

 ザンユニットを追加したダブルオーライザーはこの時点で合体を完了させるのだが、そこはセブンスソード/Gと/Sの名を冠する改造機。通常型と同じようにサイドバインダーを大型コンデンサに接続する。

 美加のシミュレータが主観をダブルオー側に変え、機体名も変更される。

 ダブルオーガンダムセブンスソードザンライザー/GS。

「よっしゃぁ、戦いはこれからだぜぇ!」

 肇が対戦相手の増強に喜ぶ。

 ストライクフリーダムレッドは大きくなった標的に向けて連結ビームライフルを撃つ。

 攻撃を悠々と避けるセブンスソードザンライザー/GSは、ストライクフリーダムレッドに接近する。

「もらったぁっ!」

 スーパードラグーンを射出してフルバーストの体制に入るストライクフリーダムレッドに向けて、セブンスソードザンライザー/GSは虚空を蹴る。膝に装着されていたGNカタールがまっすぐ飛び、スーパードラグーンを撃ち落とす。

「なにっ!?」

 肇が驚きの声を上げるが、フルバーストは一機欠けたまま発射された。

「定型パターン動作はトリガータイミングが単調過ぎるのよ……」

 一斉発射からその後の乱射までもドラグーンが欠けた死角を利用して潜り抜け、GNソードVで切りかかる。

 ストライクフリーダムレッドは身を引くが完全には間に合わず、左手のビームライフルが半分以下の長さになる。

「おそい……」

 セブンスソードザンライザー/GSは両腕を広げて回転、その場に残るスーパードラグーンのうち更に二機を斬り捨てる。

 左のビームライフルを捨てたストライクフリーダムレッドはビームサーベルを抜き格闘戦に応じようとする。

「やりやがったなぁ!」

「だから遅いと言った……!」

 美加はGNソードVでビームサーベルを受け止めGNソードUブラスターで胴薙ぎを狙うが、右腕のビームライフルを盾にして間合いを外された。

 ストライクフリーダムレッドは残った五機のスーパードラグーンを装着し、右手も壊れたビームライフルを捨てガーベラストレートに持ち替える。

 ここに来てストライクフリーダムレッドの塗料厚による減速効果が大きく響いてきた。格闘戦で全くと言っていいほどセブンスソードザンライザー/GSの速度に追いついていない。

「まだまだぁ!」

 しかし肇の表情に暗さはなく、むしろ楽しくてしょうがないと笑っている。

 今度はストライクフリーダムレッドから接近する。加速しながら残りのスーパードラグーンも射出する。

 一方セブンスソードザンライザー/GSはGNソードVとGNソードUブラスターをザンユニットのアームに預けると、腰後ろのビームサーベルを両手に取る。美加はストライクフリーダムレッドから距離をとりつつ周囲を囲むドラグーンの動きに意識を割く。

 牽制として攻撃してくるスーパードラグーンに対してリズムを取ってビームサーベルを投げると、二本ともまるでドラグーンから飛び込んだように命中した。投擲武器が低速なことを利用したブービートラップである。

 肇は目を丸くして驚く。

「どんな手品だ!」

「置き戦法ぐらいでなにを……」

 呆れ気味の美加は格闘戦に備えて右手にGNソードV、左手にもう一つのGNカタールを持つ。

 残3のスーパードラグーンを回収したストライクフリーダムレッドが目前に迫る。

 二体のモビルスーツが共に二天一心を駆使して切り結ぶ。

 その時美加は何かを感じた。ストライクフリーダムレッドのボーン構成を無意識に描き出し、ある事実に気がつく。

 明らかにストライクフリーダムレッドの動きが素早くなっている。関節を絞めていた塗料が剥がれ落ちきったからだ。

 時間を掛け過ぎたか。

 一考した美加はGNソードVをライフルモードにして密着距離からガーベラストレートを撃ち砕く。

「なんで菊一文字がビームで壊れるんだよっ!?」

「だから塗装が荒いのよ……」

 アストレイレッドフレームから拝借してきてであろう刀身は、銀塗料がベタベタに塗られて劇中設定と同じ強度を保てていない。何度も打ち合って皹が入ったところを攻撃されては容易に破壊されてしまう。

 即座にGNソードVをソードモードに戻し相手の真っ向に振り下ろす。この切り替えの速さが銃剣一体武装の強みだ。

「なんとぉ!」

 肇はビームサーベルを捨てGNソードVを白刃取りする。

「そんな……!?」

 美加の心を強い焦燥感が包み込む。相手は両腕こちらは片腕。押し合いにの力比べをしては負けてしまう。しかしGN粒子供給のため前腕のコネクターに接続しているGNソードVは簡単に手放せない。まずいことにストライクフリーダムの腹部にはビーム砲は装備されている。このまま膠着してはいけない。反射的にGNカタールでストライクフリーダムレッドの腹部砲門を突き刺し潰す。

 不屈の肇が右腰のレールガンを跳ね上げる。

「これならぁ!」

 ドンッ、ドンッ! と二発命中。

 衝撃にふらつくセブンスソードザンライザー/GS。

 ストライクフリーダムレッドはGNソードVを離し、漂うビームサーベルを握り締め切りかかる。

 セブンスソードザンライザー/GSが緊急回避しつつ離脱するが、それでも右サイドバインダーの先端を切り取られた。

「よっしゃ。やったぜ」

 肇がガッツポーズする。

 レールガン二発ともセブンスソードザンライザー/GSの腰周りに着弾。装甲とハードポイントを破壊していた。

「大逆転の時間だぜ!」

 嬉々として突進する肇はスーパードラグーンを射出。またドラグーンで足止めしてチャンバラをするつもりだ。

 白刃取りには驚いたが、ダメージを与えられたからといって次も同じ結果が出るとは限らない。定型動作の先読みや『置き』で半数以上のドラグーンを落とされているのに、まったく気に止めていないことも致命的だ。シミュレータのレバーに付いたボタン数からもう少し動作パターンに種類があるかもしれないが、相手の性格を考えると使いこなせなさそうだ。

 遠慮なくGNカタールを投げてドラグーンを一つ沈黙させる。

「さすがに長く戦いすぎたわね」

「どうした? エネルギー切れか?」

 無限動力のストライクフリーダムに対して、ダブルオーガンダムセブンスソードザンライザー/GSは見た目粒子貯蔵タンク型だ。

「その心配はいらないわ……」

 セブンスソードザンライザー/GSがサイドバインダーを残りのスーパードラグーンと連携して攻撃してくるストライクフリーダムレッドに向けた。

 青いシールドスロットが開き、内部の緑色に発光する円筒形のパーツを露出させる。クアンタのGNシールドを参考に組み込んだギミックだ。

「こちらは最初からツインドライブよ……!

 高濃度圧縮粒子解放っ!」

「うわっ、まぶしっ!」

 渦巻く光がスーパードラグーンのビームを無力化させ、肇の視界を奪う。

 

 ダブルオーガンダムセブンスソードザンライザー/GSの機体コンセプトは超高火力による絶対的な蹂躙である。瞬間最大出力のライザーソードを最大限活用する目的で作られている。

 美加が考えたのは以下の三点。

 大型コンデンサを主軸に増装パーツを出来る限り装備し粒子貯蔵量を増やすこと。これによりトランザム発動時間の延長と、トランザム後の最充填時間の短縮を計る。

 増強した粒子を余すことなく使うため火力の強化も行う。狙えるならGNソードVとGNソードUブラスターでの開幕ローリングダブルライザーソードも視野に入れていた。

 最後にトランザム後でも経戦が出来るように、またGN粒子の充填を優先して実体剣を装備する。

 これがダブルオーガンダムセブンスソードザンライザー/GSの運用概念だ。

 ザンライザー/Sの状態でGNソードVを抱えていたのは、可能ならドッキング前でもライザーソードを使おうとしたからだ。

 もちろんこれらは作成されたガンプラに対してシミュレータがどこまで情報を拾ってくれるのか、その好奇心から作り上げたもので、実際のシミュレーションではトランザムが出来ないので、企みは脆くも崩れ去ったのだが大量のGN粒子を貯蔵できる利点は消えていなかった。

 

 顔の前に手をかざし目を細める肇は、運良く頭上から迫る切っ先を見つけた。

「ラッキー! 見えたっ!」

 再びストライクフリーダムレッドがGNソードV“だけ”を白刃取りする。

「あれっ?」

 両手を上げ無防備な姿勢のストライクフリーダムレッドの前に、光の中からセブンスソードザンライザー/GSが飛び出す。

「お疲れ様。楽しかったわ……」

 美加は両腕持ちする連結したGNバスターソードVをストライクフリーダムレッドに突き刺した。

 

 バトル終了。

 

 Gポッドが開くと、拍手が聞こえた。

 秋山模型店最初のガンプラバトルを観戦していた客たちだ。美加が思っていたより人数がいる。老若あわせて十数人。

「すごかったぞ!」

「おもしろーい。ぼくにもやらせてよ」

 拍手の中、美加ははにかみながらポッドから出る。

「あーくそ、くやしいー! あと一歩だったのに!」

 悔しさ全開の肇も出てくる。

 いや、どうみても美加の順当な勝ちだ。肇の勝機はドッキングされる前までしかない。

「あんたすごいな!

 どうすればあんなすごいガンプラを作れるんだ?

 やっぱり店長に教えてもらったのか?」

 一転、肇は仰がれに輝く瞳で美加を見つめる。

 美加はちょっと引いた。

 さっぱりとした性格だとは感じたが、ここまで竹を割ったどころか大木を一閃した切り替えはさすがに酷い。

「叔父さんの影響もあるけど、模型を作るのはわたしの趣味よ。プラモデルに限らないわ」

「なあ、オレにガンプラの作り方教えてくれよ!」

「……はぁ!? どうしてそうなるのよ……」

 困惑し店長に助けを求めるが、他の客にシミュレータを案内していて美加の方を見ていない。

 謀られた……。

 おそらくこれが店長の最終目標だったのではないだろうか。嘆息して覚悟を決める。弟子を取るほどの腕前ではないが、やってみよう。

 なにより最初は、

「わたしは秋山美加。あなたは?」

「台場肇」

 互いの名前を知るところから。

 

「よろしく、ししょ〜」

「師匠はやめて……。

 それはあれかしら?

 『だからあなたは阿呆なのよ』とでも言って欲しいの?」

「おかしいですよ。秋山さん」

「あなたはどうあってもわたしを悪役にしたいようね……」

 

 

金色の竜、光と闇の心。そして始祖にして終焉の機体。

神々の戦いを目の当たりにした少年は、師の導きにより友との死合いに臨む。

次回、模型戦記ガンプラビルダーアナザー。

Bパーツ『二対一(仮)』

少年は公儀介錯人の御技を継ぐことが出来るのか?

説明
改稿:11/04/24
模型戦士ガンプラビルダーズの二次創作。
ある街の模型店にガンプラバトルのシミュレータが設置された。
さっそくガンプラバトルに挑戦する少年は、一人の女の子と出会う。
Aパーツ『遭遇戦』
(11/04/11、11/04/18:改稿)
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模型戦士ガンプラビルダーズ

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