機動戦士 ガンダムSEED Spiritual Vol33 |
SEED Spiritual PHASE-120 守れるだけの力が欲しい
射程距離にゴンドワナ=Aそして彼方に砂時計の群れを捉えた。クロは武者震いであろう体幹の振動を呼気で逃がし、眼前の、史上最強の存在に語りかける。
「逃げるなよ、キラ・ヤマト!」
絶対最終防衛線ということか。ゴンドワナ≠ニプラント≠守護するその位置には、無数の陽電子リフレクター搭載型のモビルアーマーが犇き、我先に光膜を張り巡らせて不退転の意思を見せ付けてきている。
そんな中、最強存在が背を向けるのは抱えた親友の存在のためだ。彼らの向かう先には先程の戦闘中にこちらを追い抜いていったエターナル=B
「オレがお前の帰る所、無くしちまうぞ……」
クロは長射程砲ゾァイスター≠展開し、対艦刀メナスカリバー≠折り畳む。空いたその手にビームライフルを握ると銃と砲を連結させた。脇のディスプレイ上に表示されたエネルギーゲイン上昇サインが規定値を超える。躊躇わずトリガーを引き絞れば星の命が破壊光と化し撃ち出される。戦艦一隻を中央から両断する出力がエターナル≠捉えていたが、歌姫に対する忠誠心と機体性能の過信は終わりを先延ばしにしていた。
淡紅色の戦艦と黒いモビルスーツの間に割り込んできたゲルズゲー≠ェ発射に先んじて前面に陽電子リフレクターを張り巡らせた。その名の通り陽電子砲の照射すら防ぎきる鉄壁の盾は、しかし一瞬の抵抗を残して掻き消される。哀れなパイロットはルインデスティニー≠ェガルナハンに割り込んだ時のデータを知らなかったらしい。しかしその一瞬の抵抗は無駄ではなく、高速を誇るエターナル≠ヘ右にロールし殺意から逃れていた。
「まだ逃げるつもりか。命を捨ててもって奴らが、お前のために死んでいくぞ!」
更なる連結砲の一撃が防衛線を形作るザムザザー≠粉砕した。
ジャスティス≠抱えながらも振り返ったフリーダム≠ェ右手のライフルで応射してきた。クロは砲の連結を解かぬまま右のビームシールドで受け止める。
〈あなたは……っ! あなたのような人がいるから――っ!〉
こちらが隙を見せたその間にフリーダム≠ニエターナル≠ヘ大きく接近していたが、相対速度を合わせるまでには至っていない。
「いるから、何だ? オレみたいな人間がいなくなれば世界は平和になる、か?」
通信には躊躇いが乗った。だが、彼はその言葉を突き付けてきた。
〈……ああ! そう、思う! もうやめるんだっ!〉
憎悪されている。クロはその感情を心地よく受け止められる時が来るなど思いもしなかった。口元には笑みが浮かんだが、すとんと落ちた何かが心を冷やしていく。憎悪か? いや、胸中に染みるそれは、憎しみよりも遙かに冷たい。
「それが本心からの言葉ならお前に平和の使徒を名乗る資格はない」
さらに連結砲を突き付ける。だが狙い、撃ち落としたのはフリーダム≠ナはない。新たな陽電子リフレクター搭載型のモビルアーマーが貫かれ、ガスと装甲片の混合物に成り下がった。キラの舌打ちが耳元に届く。
「この戦争が世界の中心だと思うな。オレが勝とうがお前が勝とうがどうでもいい。それより自分達の争いが、生活が、一歩先が不安で仕方ねぇ奴は地球上にごまんといる」
キラは口ごもり呻いた。彼との舌戦に辟易しているだけではない。
〈あ……あなたは、なんなんだ!?〉
今僕たちは命の削り合いをしていると言うのに! 戦場の渦中にいながらこの男は世界を客観視するというのか!?
〈そう。それがクロを要とした理由の一つです〉
どこからともなく聞こえた声にキラは思わずヘルメットの耳元を押さえていた。無線の混線ではない。聞き覚えのある声――エヴィデンス≠フ声。
「っ!」
フリーダム≠フ通信機を確かめる余裕はない。今度こそルインデスティニー≠ェ破壊光をこちら目掛けて放ってきた。回避を優先させざるを得ない。
〈彼は、自分自身すらも客観視し世界の部品として考え行動する。命令遵守が絶対命題である軍人として、これ程素晴らしいヒトがいますか〉
「でもそんなの、人のあるべき姿じゃない!」
〈それを決めているあなたの価値を「不幸」と断じた人がいることも忘れてはいけません。あなたは一流のモビルスーツ乗りですが、兵士としては扱いづらいことこの上ありません。アスラン・ザラさんは一流の戦士ですが個人以上に国益を優先させるべき一流の軍人にはなり得なかった。
――彼はその点では地上最強の存在より優れていると私は考えます〉
優れた存在? その賛辞であるはずの言葉は常にキラの心を呪縛する。
〈キラ、俺を離せ〉
「アスラン……」
〈ここまで来れば艦に戻るくらいはできる…〉
母艦は確かに目前だが、両腕を破壊されAMBAC機動力を失った今のジャスティス≠ナはその目前を狙い撃たれる可能性が拭い去れない。とは言え自分も彼という重荷を抱え、鈍った足下をすくわれて共に撃破されるようでは本末転倒も甚だしい。キラは唇を噛みながら、彼の判断に従った。
「……わかった。気をつけてアスラン」
〈お前こそな。黒のデスティニー=A俺の代わりに討ってくれ…〉
手を離すとジャスティス≠ヘ生きているスラスターを総動員してエターナル≠ヨと駆けていく。フリーダム≠ヘその背を守る。二振りのサーベルを引き抜くと数基のスーパードラグーン*C塔を開放、砲撃武装を構えた敵機へ肉薄した。振り下ろすより先んじて回避したルインデスティニー≠ヘ砲を連結したまま、体勢を崩すことすら叶わなかった。――が、でありながら彼は、エターナル≠狙撃できる体勢を放棄し対艦刀を引き抜いていた。ストライクフリーダム≠見上げた――或いは見下ろしたルインデスティニー≠フ双眸がぎらりと不吉な光を放つ。
「ステラ、シンを待つ必要はない。オレはフリーダム≠引き受ける――お前らでゴンドワナ£ラせるか?」
〈ん。やる〉
〈おれも出てる! アンタ、勝手に何言って――〉
「ほう。なら――」
シンの凄まじいまでの戦意が感じられたが、その発信元を探ったクロは彼に任せることを止めた。彼の意識の出所からはインパルス≠フ型式番号が返ってきている。
「いや、お前もゴンドワナ≠狙え。インパルス≠カゃお前の戦闘力に追いつかねーよ」
〈でもおれはフリーダム≠!〉
〈シン、わがままいってないでいくぞ〉
〈ステラ!? あぁくそっ!〉
ステラに続いてファントムペイン≠フクローン兵達の、少女らしい返事も混じり込んできた。ガイア≠追うインパルス≠ノフォビドゥン$萩@が追従し、奧へと侵攻していく様を横目にしながらクロは眼前の天使を睥睨――した時にはもう二つの刃に後を追わせたフリーダム≠ェ眼前に迫っていた。再び振り上げられた光刃を紙一重の挙動で下がってかわすがそれを読んでか張り巡らされていた蒼いドラグーン≠ェ敵を蜂の巣にすべく閃光の檻を形作る。
が、クロは全方位からの殺意を黙殺した。漆黒の装甲が小型砲塔の閃光全てを飲み干し、ルインデスティニー≠ヘ体勢崩さず速度を緩めぬまま肩に担いだ巨大剣を袈裟懸けに振り下ろした。
「流石だな!」
如何に空気抵抗ゼロの戦闘空間といえど慣性までも殺せるものではない。でありながら、フリーダム≠ヘ剣を振りぬいた不安定な体制をさらしたまま、こちらの必殺を回避してのけた。
「流石究極の戦闘生物だ!」
〈あなたのような人に……言われたくない!〉
対ドラグーン¢附bがなければ蜂の巣にされていた。殺意を感じ取る器官が取り付けられていなければ最初の斬撃で一刀両断されていた。元々ナチュラルの緑ザフト兵が太刀打ちできる存在ではないと解っている。
「オレは、ずっと兵士やってきたからな。殺し方が旨いってのは褒め言葉だ」
〈戦争を、肯定するって言うのか!〉
「それこそお前に言われたくない。戦争が起きなければ、ヘリオポリス≠ェ崩壊しなければお前の『特性』は誰にも認められることなく只の工学生で終わっていただろう」
滞空していた蒼の砲塔が再び意志を吹き込まれルインデスティニー≠取り囲んだ。異常電圧をかけられたフェイズシフト装甲に小型のビーム兵器など涼風も同然だがわざわざ食らってエネルギーを削らせてやる義理はない。光の翼を吹き上げたルインデスティニー≠ヘビーム到達を許さぬ挙動で光の檻から抜け出すと最大推力を維持したままフリーダム≠ヨと襲い掛かった。
「――オーブ首長の縁者だと発覚もしなければプラント≠フ歌姫に存在を気づかれることすらなく、戦争に心が傷ついたからと隠棲しては社会不適合者の烙印を押されていたことだろうよ!」
だが翼の輝きは蒼の機体にも吹き上がっている。互角以上の推力が完全な制御に支えられ、次手の剣閃も空を切った。その隙を軍神が見逃すはずがない。二連射されたビームライフル、急制動で一撃はかわしたものの二撃目はシールドで受けざるを得なかった。
「それが今や世界の支配者に愛でられ神と呼ばれている……」
たった今銃口を見たばかりなのに今眼前には切っ先が迫っている。逆噴射をかけながら腹部砲口より赤光を解き放ったがフリーダム≠ヘ赤柱にまとわりつく蛇の如き挙動で追いすがる。ゼロレンジ戦を想定したクロは目をむいた。
「っ!?」
〈それでも僕は!〉
近距離。だが鍔迫り合いにはわずかに遠い間合い。絶妙のレンジでサーベルを収めた敵機の両手には二丁のライフル、それが瞬く間に組み上げられている。クロとそれに繋がる『意識』は対Gを無視した。眼球を吐き出しかねない右過負荷に息を止めると膨大な碧緑光がモニタの左を染め上げていった。背後で爆発。友軍か敵軍かただのデブリか判断の付かない何かが砕け散り背後のモニタを彩った。
「それが嫌だといいながらも、お前はその、頂上の立場に縋ってる。本当に戦場が嫌いだって言うのなら、力なんかかなぐり捨てて別の仕事探せよ」
〈あなたを退けてから! そうさせて貰うっ!〉
キラは連結ライフルを右に握ると開けた左手にビームサーベルを握らせた。周囲に呼び寄せたドラグーン£[末が弾けるように散開しこちらの注意を千々に散らす。バスターライフルの二射目に続き、今度は刃を握った本体が襲い掛かってくる。
「――心とは裏腹にって奴かな……。お前こそがデスティニープラン≠体現している存在だとは感じねえか?」
クロは――クロに注がれる『意識』はキラの挙動を先んじた。再び虹の鱗粉を撒き散らしたルインデスティニー≠ヘ二重の左右挙動で破壊線を回避し剣撃を躊躇わせる。フリーダム≠ヘ光の翼と共に稼働可能なスラスターを逆噴射させ間合いを稼ごうと試みたがルインデスティニー≠フ加速力はキラの予測をも上回った。
伸ばされる、黒い装甲に包まれた鈍色の左手。身を引いたキラだが異常に伸びたマニピュレータは強引にライフルを掴み込んでいた。
〈しまった!〉
最早通信機を介しての声なのか、機体を透過する声なのか判別は着かない。それを疑問に思わないままクロはパルマ・フィオキーナ≠フトリガーを引き絞った。握りつぶされるようにライフルの上半分が吹き飛び爆発する。
「捕まえたぞ。その貧弱な装甲でこいつの一撃に耐えられるか?」
腰溜めに構えたフリーダム≠フサーベルが突き立てられるより既に首筋を撫でかけているこちらの対艦刀を押し込む方が確実に早い。
キラの判断も、クロと大差ない。だがそれを受け入れられる理由があるはずがない。
キラは思考を切り替えた。
〈ごめん!〉
腹部砲口が臨界し、組み付いたルインデスティニー≠フ腹(コクピット)を貫く――はずだった。
〈な!?〉
こちらの右腕を拘束していたはずの黒いデスティニー≠ェ首筋を撫でる剣を基点に半身を翻している。
自らが忌み嫌った騙まし討ちに近い手段だったというのに。砲口に破壊力が満ちる一瞬のタイムラグを見て取ったか? いや違う。カリドゥス≠ゥらの穿光が放たれるより早いどころかこちらが身じろぎするとほぼ同時のタイミングで黒のデスティニー≠ヘ身を翻していた。今の今まで前面に出していた破壊意思を追いやって、だ。
「お前にはどうやっても殺されないかと思ってたがな」
やられる!
その危機感が現実になる刹那、ルインデスティニー≠ェシールドを掲げた。
「!?」
紅い閃光が叩き付けられる。照合データがM100バラエーナ≠返す。振り返ったキラへと頼もしくもけたたましい声が叩き付けられた。
〈下がれキラ! さっさとプラント≠ヨ戻れ! エターナル≠烽セっ!〉
「イザーク!?」
気にくわないがクロの言うことにも一理ある。脳裏で弾けた暗黒の何か、その澱を濯ぎきる前にと逸った結果、力及ばずに墜とされることだけは何としても避けなければならない。もしミネルバ級が自分のバックアップに回ってくれたのならインパルス%チ有の再生能力を駆使してフリーダム≠翻弄することもでき――
(――無理だ。クロの方が正しい。フォースインパルス≠フ推力でさえストライクフリーダム≠ノは追いつけない…)
黒と白、二つの機体が奏でる誰も触れられない絶対の戦場を掠め見ながらシンの中で圧迫される冷静がそう反断を下していた。
ステラにまとわりつく有象無象を蹴散らし、最寄りの戦艦に取り付いたシンは直ぐさまシルエットをソードに切り替え渾身の力を込めて突き立てる。艦橋を失った戦艦を蹴りつけ、推進に加速を加えると砲撃を試みた敵機にビームブーメランを投げはなった。斬り裂かれる敵の未来を確かめることもしないままライフルの連射で群がる相手を追い返し、再びフォースシルエット≠背中に纏う。
「クリカウェリ=I おれ達で先行するんだ。もっと前に出られないのか!?」
〈無茶苦茶言うな! みんながお前みたいにできるわけじゃない!〉
モニタの中のシンは眉間に皺を寄せたが、彼に答えたサイの表情はそれ以上に苦り切っていた。
全くコーディネイターって奴は……完璧以上を他人に求めるから困る…! 口の中で呟かれたサイの悪態をシンは聞き取り口を尖らせた。暗黒の宇宙を圧するほどのビーム光の網。サイが泣き言を言うだけはある掛け値なしの激戦区だ。だからこそ一刻も早く敵の懐へ潜り込もうというのに。ナチュラルは意気地がない。
左手にエクスカリバー<戟[ザー対艦刀をぶら下げたフォースインパルス≠ヘガイア≠ニ追従するシルエットフライヤー≠フ防御も担当しながら超巨大宙母へと僅かずつ迫っていくが――流石に心臓部に迫れば抵抗も激しくなる。ともすれば暗黒を上回る閃光、高機動仕様は精一杯こちらの意識に応えているが、それが僚機全てに適応されるはずもなく、クリカウェリ≠取り巻くモビルスーツ達の被弾率は目に見えて上がり、撃墜の花火も次々上がっている。
「ちっ! おれが先行する! ステラ、バックアップ頼む!」
〈りょうかい。……どれに突っ込む?〉
近づけば――ゴンドワナ≠フ超巨体は記憶以上想像以上に眼前にそそり立つ。ステラが迷うのも無理はない。艦船を飲み込めるほどのリニアカタパルトだけでも十を超えるのだ。シンすら迷いかけたが、覚醒した思考がその動揺を無理矢理押し遣る。未来が見られない以上、迷う価値など有り得ない。
「一番近いところにする!」
〈わかった〉
即断したシンはインパルス≠眼前のカタパルトへ突撃させた。発進寸前のナスカ級を掠め、艦橋とメインスラスターにビームを射かけながら侵入を果たす。ブラストシルエット≠引き寄せ死に体の戦艦と宙母の内面にケルベロス≠フ破壊光を撒き散らす。その間にリアカメラが、宇宙を満たす閃光に数を減らされながらも後に続いたフォビドゥン≠竍ウィンダム≠認めた。そんな彼らも対空砲火と新たに湧きだしてきた敵モビルスーツに刈り取られていく。シンはガイア≠ノ意識を向けた。ステラはライフルの弾幕を潜り抜けてきた敵機を変形して、斬り裂くと次の敵を求めて先行してしまう。シンはガイア≠ノ追い縋り、彼女の死角で刃を振り上げたザクウォーリア≠ノ対艦刀を振り下ろした。
「突っ込みすぎだ! ステラ!」
同僚かも知れなかった命を潰し、最近知り合った少女を気遣う。シンそれを理不尽と認識せぬまま、ガイア≠ノ置き去りにされたインパルス≠罵った。ブラストシルエット≠ゥらフォースシルエット≠ノ切り替え迎撃に入った敵機を抜き去る。貫いた二機は爆散し、抵抗力は失われる。
力が欲しかった。敵を倒せる力があっても、自分はそれ以上を求めている。守れる価値を求めれば、やはり、常に、力が欲しい。その希望に上限などない。
シンの焦燥を感じながら、サイも酷似した何かを感じていた。先程はああ反論したが、サイ自身もクリカウェリ≠突っ込ませたいと思っている。ゴンドワナ≠ヨ? いや違う。キラがいるはずのプラント≠ヨだ。
(キラ…。お前は、俺にしかできないことがあるって……言ってくれたよな? 俺がお前にできることは――)
N/Aと繋がる端末を凄まじい勢いで操作する。だがナチュラルの範囲を逸脱できる速度ではない。それでもできることはある。ディスプレイに映ったテストモジュールに立て続けてOKサインが表示される。整備係から転送されてきたハードウェアのデータもオールグリーン。両肩にブーメランを接続され、補給の完了した機体から盛大な排気音が響き渡った。
「俺ができることは、お前の目を覚まさせることだよ……」
サイの手で最後の調整が終了した。デスティニープラン≠守護する最終兵器、デスティニー≠フ機関に火が入る。
――「やめてよね。本気で喧嘩したらサイが僕に叶うわけないだろ?」
その悪罵を浴びせられた後も、サイはキラを心配し続けた。本心から心配し続けた。だから腕を後ろ手に捻り取られ浴びせられた上から目線の罵詈雑言も完全に忘却の彼方に追い遣っていた。
――だというのに、なぜ今鮮明に、キラの行動を思い描けるのか。思い描く度胸を掻きむしりたくなるような憎悪に苛まれるのだろう。
「ホントにいつからかな?」
端末を開いたまま殺風景な天井を見上げたサイは、そう問いかけながらも答えは既に握っていた。目を閉じると採血されている自分の姿が思い浮かぶ。
(デスティニープラン=B俺は、俺の力を信じられなかった。だが俺にでも、できることはあると――それを試すことも許されないって言うのか? キラ)
いつから思い出すようになったのか。恐らく、ギルバート・デュランダル率いるザフトがラクス・クライン率いるオーブ・ターミナル§A合軍に敗北したとのニュースを見た瞬間ではないだろうか。それともこちらの意志を武力で駆逐しながら平和を謳ったラクス・クラインを見た瞬間だろうか。
……いやそれとも、無理矢理戦争にかり出されたはずのキラが、今も彼女の脇で『軍神』と呼ばれているのを知った瞬間だろうか。
サイは再度デスティニー≠フ状態を皆に確認すると自分の希望を握るクリカウェリ≠フエースへ通信を繋いだ。
「シン、今どこだ?」
〈サイか。ゴンドワナ≠フ中、取り込み中だ!〉
だから待てと言ったのに。
「ならばこそだ。聞いてくれ」
舌打ちが聞こえてくるが、この報告、彼も待ち望んでいたはずだ。
「デスティニー#ュ進OKだ。戻ってくれシン!」
ギルバート・デュランダル。サイが信じた指導者、彼が選んだ戦士なら、血路を開いてくれるはずだ。その血塗られた道の先には、自分が立つ。人に任せるつもりはない。
〈シン、今どこだ?〉
「サイか。ゴンドワナ≠フ中、取り込み中だ!」
〈ならばこそだ。聞いてくれ〉
シンは苛立ち舌打ちを零したが彼の言葉を無視することはできなかった。
〈デスティニー#ュ進OKだ。戻ってくれシン!〉
力を求めるシンに、何よりの朗報だった。だが、戻るだと? ステラを見捨てて戻るなど承伏できない。
「戻れない! デスティニー=Aおれのポイント送るから出してくれ!」
〈なんっ!? 撃墜されるだろ!〉
「その分暴れる! そっちに意識が割けないくらいにな。おれのいるカタパルトに填ってくれればなんとでもする!」
サイとN/Aは当然のことながら否定の言葉を返してくる。逸ったシンでも彼らの理屈は理解できる。だがそれでは負けるのだ。戦いに勝つだけでは足りない。守るべきものを守り抜かなければ勝利しても意味がない。いや、それが勝利ではありえない。
「やれよっ!」
だが、いや、しかし、など聞く耳持たない。だがその心情はあちらも同じ。シンは先行したガイア≠見やり、苛立ちに我を忘れかけた。が、そこに思いもかけない声が差し込まれる。
〈わたしが誘導するわ。デスティニー=A出してあげて!〉
「ルナ!?」
有視界通信に現れたルナマリアがウインクを送ってくる。発信元を探り当てトリミングされてウィンドウの拡大を繰り返せばザフトの機体に銃口を向けるカオス≠ェ見つかる。あれが、ルナマリアか?
〈でもシン。デカイ口叩いたからには絶対受け取ってもらうわよ。デスティニー≠そっちのカタパルトまですっ飛ばす、わたしはその直線軌道だけ守り抜く。コレでいいわね!?〉
言うべき言葉など何もない。シンは大きく頷いた。
「ああ。当然だ。ぶち込んでさえくれればおれに任せろ!」
〈と、言うわけよ。クリカウェリ≠フクルーの人、お願いするわ!〉
パージしていた兵装ポッドを呼び戻し、モビルアーマー形態に転じたカオス≠ェ母艦へと接近していく。その映像からステラが飛び込んだ戦場へ視線を向けるなりサイの苛立った声がこちらに届いた。
〈……莫迦だ…あぁわかった! どうなっても知らないぞ!〉
サイからの通信に所々振動音が混じっている。クリカウェリ≠煌yな戦いをしているわけではないと言う事実が焦燥と共にシン自身をも加速させる。
(おれが、全部守る!)
先行し戦闘を続けるガイア≠キら追い抜いたフォースインパルス≠ヘビームライフルで一機を破壊しながら空いた手で抜いたビームサーベルを投げ放つ。敵コクピットを貫通したサーベルを確かめることもせずブラストシルエット≠ノ換装、狙いもつけずにGMF39四連装ミサイルランチャーに孕む弾頭全てを解き放った。待機中の艦船をも巻き込み視界を埋め尽くす爆圧と光とが宙母の血管をズタズタにする。
「ステラ!」
それでも、どれだけの破壊力を見せつけても一撃で全滅させられなければ反撃のリスクはゼロにはならない。ザクウォーリア≠ゥらの射撃に対応しきれなかったステラを押し遣るとインパルス≠フ左足を持って行かれる。
眼前の奴目掛けてビームジャベリンデファイアント≠引き抜き狙いを定めるが背後を映すカメラとアラートサウンドが敵の存在を伝えてくる。シンは投擲槍をマニピュレータに操らせたままバックパックの砲身を肩に担ぐようにして真後ろに向けた。
投げられる槍、放たれる二条の高エネルギー砲。ほぼ同時に前後へ撃ち出された殺意はその両方を打ち砕く。体勢が崩れることも計算した上での砲撃は背後の機体を貫通し、集中力を込めた槍は前方の機体に突き刺さる。
〈シン。足とれてる〉
「気にするな。だが気をつけろ!」
だが背後からのビームがケルベロス≠フ砲身を貫き砲撃仕様を役立たずに変えた。もう一発大出力砲をと望んだがブラストシルエット≠ヘプラズマを撒き散らし、システムからもエラーどころか警告が返ってきている。誘爆するようでは意味がないと判断したシンは砲戦用シルエットをパージし破棄した。残った右足でプラズマ纏うバックパックを蹴り出し壁面に接触した瞬間ライフルで破壊する。推進剤タンクが加熱爆発し木っ端微塵になりながらゴンドワナ≠ノ対して本懐を叩き付ける。シンは直ぐさまフォースシルエット≠接続し、ソードシルエット≠引き寄せる。
〈シン! 出るわ〉
デスティニー≠ェ出た。サイが送りつけてきたガイドデータがインパルス≠ニデスティニー≠フ相対位置を伝えてくる。撃墜可能性を極限まで低くするため砲弾扱いされたモビルスーツに接触できるか? シンは口内の苦みを堪能した。
「ステラ離れてろっ!」
ビームライフルを乱射しながら残るビームブーメランとビームサーベルを投げ放つ。通路前に立ち塞がったザクウォーリア≠ニグフイグナイテッド≠的確に貫き退かせる。先に、戦艦格納庫、その先に中枢へと届く空洞が見えた。
〈シン!〉
「視えてる! 自分のことだけ心配してろ!」
それでも数の暴力まではどうしようもない。連撃から逃れたザフトの機体はその先陣をインパルス≠フ懐にまで飛び込ませた。ガイア≠脇に追い遣ったシンはエクスカリバー″ナ後の一刀をむしり取ると両脇から迫るスラッシュザクファントム≠ニグフイグナイテッド≠ヨと流れるような剣閃を浴びせかける。両腕機関が悲鳴を上げる急制動は近接特化機に振りかぶる余裕すら与えずバイタルブロックを両断、しかし敵の雪崩は尽きることを知らず、インパルス≠ェ無数のザフト機に取り囲まれた。
それでもシンは怯まない。愛着など黒い何かが飲み込んでいく。どうせ使い捨てる機体と割り切り限界など無視して包囲網の一点突破を狙う。加速する思考と視覚が防衛網の最も薄い部位を選び出し、軋むインパルス≠疾駆させた。一機、二機、それ以上。瞬く間に解体される敵機群。殺意をみなぎらせていたはずのザフト軍から戦意が立ち消え怯懦が覗いた。シンの鬼神の如き戦い振りが敵軍どころかステラにまでも息を飲ませたが、鬼の力に晒される機体はとうとう限界を超えてしまった。何機目かのザクウォーリア%ェ部半ばまで喰らい込んだ対艦刀だったが過負荷に耐えかね鍔元から折れ砕ける。伝播した震動に巻き込まれたインパルス≠フ両腕も千切れ飛びこそしなかったものの断線その他の影響で言うことを聞かなくなる。刹那起こるはずだった自失もシンの意識は飲み込んだ。フォースシルエット≠フ全推力を持って機体を反転させながらレッグフライヤー≠破棄、充分な慣性を受け取ったところでチェストフライヤー≠起動していたナスカ級のブリッジへと撃ち放った。直撃するほどの幸運はなかったものの推進剤の詰まった大型質量弾に直撃された戦艦が勢いに押され大きく傾いていく。包囲の注目を浴びるナスカ級を尻目にシンは既に得ていた慣性にコアスプレンダー≠フ全推力を加算した。
闇を斬り裂き暗緑の装甲を押し遣りながら一機のモビルスーツがゴンドワナ≠ノ突き立てられる。その背後を守るモスグリーンの機体を認め、意識がさらに冴え渡った。
シンは加速するコアスプレンダー≠フ風防(キャノピー)を開くと迷うことなく虚空へと身を躍らせた。携帯用のバーニアもなしの超高速の錯綜。行き過ぎたコアスプレンダー≠ヘどこからか飛来したビームに貫かれ爆散する。ルナマリアが目をむきのどの奥で悲鳴を上げる気配が感じられた。
(大丈夫だってーの…)
シンは張り付いた機体の開け放たれていたハッチに滑り込むと瞬時にシステムチェックを終えた。再起動の必要はない。完全に調整が済んでいる。
(やってくれるじゃねえのサイって奴!)
〈あんた馬鹿っ!? 心臓に悪いからそーゆうのやめてよ!〉
「できると思ってやったんだ。ルナに心配してもらう必要はない!」
力を受け取ったシンは静かに息を吐き出した。デスティニー≠フ双眸が暴力的な光を灯す。
ガイア≠振り切ったザフトの機体が壁面に突き刺さったデスティニー≠ヨとシールドから抜き出したビームトマホークを振り上げる。壁面にめり込んだモビルスーツはその一撃を甘んじて受けるしかない――はずだった。
瞬斬。
いかなる膂力か、いかなる判断か。半身を鉄に埋めたまま右腕だけを振るったデスティニー≠ヘ常識的勝者であるはずだったザクファントム≠真一文字に縦断していた。巨大刀を片腕で滑らかに扱う機体性能にルナマリアとステラすら舌を巻く。
魔神がのっそりと起き上がる。巨大な剣を掲げ、胸部排気口から吐息を漏らす。宇宙空間でありながら注視する皆の耳には凄まじいまでの排気音(エグゾーストノート)が轟き全てを震え上がらせた。
虹の光がゴンドワナ≠フ第四カタパルトから吹き出した。虹の止んだ闇を覗き込めば戦場跡だけが広がっている。大剣を構え、全てを貫いたデスティニー≠ェ荒い息をついている。動くものは何もない。友好的な存在であるはずのカオス≠ニガイア≠ナすらもその一瞬前の戦闘が脳裏から離れず動くことができなかった。
「ステラ、行くぞ!」
〈……………あ、わかった〉
「ルナはどうする?」
〈も……………もちろんそっち行くわよっ!〉
先陣を切るデスティニー≠ノ使命感に燃えるザフトの精鋭が群がってくる。ニューミレニアムシリーズの武装に死角はなくあらゆるレンジを的確に支配する。だが更なるハイステージに位置するデスティニー≠ノ抗う力は持ち得なかった。無数の機体が人形の如く倒されていき宙母の壁面にも凄まじい傷跡が刻まれていく。ステラとルナマリアはそのフォローをと考えるのだが通り過ぎてくる敵機などない。殿を務めるルナマリアはまだしもステラは特に何もすることなく戦艦の格納庫を越えていた。
中枢に近づこうともモビルスーツが入り込める範囲には敵モビルスーツも犇めいている。中枢までの道のりはまだ遠い――
「二人ともおれから距離離せ!」
二人の反応は半瞬遅れたがデスティニー≠ェ長射程砲を展開する間がそれを補った。長大な通路に突き出されたM2000GXの砲身が猪突してきた敵機を怯ませ、吹き上がった高エネルギーの奔流が犇めく全てを飲み尽くした。
シンは破壊を撒き散らしながらナビゲーションデータに目を通すが、動力部、司令部どちらの道程もまだ遠い。ふと思いつく。
「ルナ、ゴンドワナ≠フマップ持ってるか?」
〈え? あるけど――〉
「それをここに送ってみてくれ」
シンが転送したのはN/Aとの回線だった。ターミナルサーバ≠ナ照会すればデスティニー≠フ出力とゴンドワナ≠フ装甲強度を計算し、馬鹿正直に順路を辿らずともショートカットできるルートを示してくれるかも知れない。自分でやればと問いかけたルナマリアだったが……止めた。尚も通路には敵機が犇めき彼の手を煩わせることなどできそうもない。ルナマリアは追い縋ってきたグフイグナイテッド≠ノ機動兵装ポッドをけしかけながら回線をクリカウェリ≠ヨと繋いだ。
「動力部への最短距離、出せる?」
デスティニー=Aカオス=Aガイア≠フ攻撃力を条件とした。ゴンドワナ≠ノ潜り込んだ友軍は他にもかもしれないが、それをアテにしている余裕はない。
〈お待たせしました。デスティニー∴鼡@では低い確率ですがルナマリアさんがフォローすれば可能かと思われます〉
N/Aから光点を付けられたマップデータが返される。
「シン!」
彼の元へ転送しながらルナマリアはガイア≠ニ通信を繋いだ。現れた有視界通信の映像に思わず息を止めてしまうものの、そんなことにこだわっている場合ではない。
「あなた、ちょっと後ろお願い。わたしとシンで前を狙うから」
〈なんでわたしがお前――〉
〈ステラ、頼む!〉
〈……む、わかった〉
変形したガイア≠ェ後ろに走りビーム突撃砲を乱射し始めた。同時にルナマリアもカオス≠転じさせ前方へと駆け抜ける。この機体の最大火力はモビルアーマー形態でしか放てない。ナビゲーションが自機と目標の距離を縮めていく。
〈ここを狙えばいいのか?〉
「そうみたいよ」
〈わかった。おれに続いて撃ってくれ。デスティニー≠ネら照射するだけ余裕がある〉
「了解よ」
ターゲットを示す赤点と自分達を示す白点が……重なる。シンが長射程砲を展開すると砲口から輝きが溢れ出した。
〈ルナマリア!〉
カオス°@首のカバーがスライドし、MGX-2235Bカリドゥス改≠フ砲口が覗く。発射は、奇しくも同時。一点を狙い束ねられた複相砲が巨大な鉄壁にわずか抵抗すら許さず吹き飛ばした。
メインリアクター。超巨体を支えるだけの超巨大な動力機関が不気味に蠕動を繰り返している。シンはそこ目掛け猪突した。ルナマリアとステラも開けた穴へと飛び込んだが彼女は思い直し、機体を反転させた。
〈……どうした赤いの?〉
「シンのフォローするなら門番した方がいいと思ってね」
穴から顔を覗かせたザクウォーリア≠狙撃する。機体を穴から右にズラし放った二つの機動兵装ポッドで死角を埋める――と、それでも埋まらない死角に別口からのビームライフルの銃口が据えられた。
「あなた……」
〈わたしも、もんばんする〉
背後を映すウィンドウでは相も変わらず鬼神の如き暴力を振るうデスティニー≠フ姿が見て取れた。砲をしまい剣を手にした虹を蒔く存在の前にいかな強化装甲とて紙も同然。強化発展型であり母機を徹底的に選ぶアロンダイト≠フ破壊力はエクスカリバー≠フ比ではない。
〈るぅああああああああああああああああああ!〉
戦艦すら両断する刃をリアクターに突き刺し絶叫するシン。ルナマリアはその様子から目を離しながらわき出す敵機の排除に集中した。
〈ステラ。わたし達の仕事は、絶対戻れる帰り道を確保することよ!〉
〈……わかった〉
背後で魔神が暴れ狂う。旧大陸の名を冠する巨獣が飲み込んでしまった細菌を道連れにしようと覚悟するまであと僅か……。
SEED Spiritual PHASE-121 命を無価値とする心
〈ソートさんお疲れ様です。ご無事の帰還をお祈りしています〉
主の御言葉に対し、自分は何が何でも帰ると誓った。
「ティニ様! ――、ちっ……やっぱり駄目か」
Nジャマーによる通信阻害が鬱陶しい。それでもソートは何度か場所を変え方法を変え、主との接触を試みる。要所の爆破やら要人の暗殺――戦闘と括れるものなら一通りはお手の物だが闇雲に破壊を撒き散らし指揮官の枷になるようでは価値がない。崇拝者率いる戦力に圧されエターナル≠ワでもが帰って来るとも聞こえている。多少の手は打ったつもりでいるが、ここまでもたついてしまってはアプリリウスワン≠手土産にでもしないと汚名返上できそうにない。ソートは何十度目かの舌打ちを零し、周囲を見渡した。
が、見回したところで現実は覆られない。アプリリウスワン≠フ宇宙港を、単身で制圧することは不可能だった。ある程度の仕掛けはしたが、今それら全てが問題なく作動したとしても入港ゲートを役立たずにするのが関の山だ。
「ちっ……モビルスーツハンガーにでも逃げ込めば良かったな」
閉鎖したドア奧から聞こえてきた降伏勧告はもうない。それどころか鋼の気密壁に赤光と白煙が立ち上っている。コーディネイター様方もとうとう業を煮やし、力ずくで行く手を開いて力ずくで抵抗をねじ伏せて力ずくで言うことを聞かせる気になったらしい。理性的と喧伝しつつも一皮剥けばこの通りだ。
打開策を求め、コンソールの操作を繰り返していたソートは一つのモニタに目を留め思わず呻いた。この管制塔に入港してくる船影、ここまでの戦意向上と隠密性無視したカラーリングはエターナル≠置いて他にない。
「クソっ! デケェ爆弾でもねーのか?」
旗艦が相手なら不足はない。エターナル≠烽とも自爆してやる覚悟くらい持ち合わせてはいるものの、包囲されたこの状況では自爆を造り出すための手段にすら辿り着けない。
「いや、考えろ。ここがパニクってるのを知らねぇのか、エターナル≠ヘ入港してくるつもりだ……」
扉の一部がどろりと赤熱し、破片を床へとゆっくり落とす。顔を覗かせたレーザートーチが徐々に上へと持ち上げられた。
操作を繰り返し情報を集める。滴る汗が肥大させる動揺を意図して忘れようとソートは独語を繰り返し続けた。
「侵入角度は予測できる。港だ。入港するなら艦も絶対減速する。携行バーニアでやってやれないことはないな」
レーザートーチの描く円が間もなく繋がる。ソートはそれを確かめながらヘルメットとバーニアを装備し僅かに体勢を低くした。
扉が破壊される。灼熱した構造材が転がるその先には小銃を構えた十数人もの官憲。彼らは勧告することもなくフルオートのトリガーを引いた。
自分を狙っている。着弾点は集中する。ソートは無数の銃口が狙う先を瞬時に把握すると一足飛びに安全圏へと飛び出した。奴らが再照準する僅かな間に、ソートは目的の相手に飛びついている。男の手にはレーザートーチ。まだ先端に暴力的な熱を帯びている。悲鳴を上げて逃げようとするその男の頸動脈を締め上げ盾にし、向けられる銃口を牽制して下がったソートは躊躇うことなく灼熱の剣を透明樹脂板――管制室の窓へと突き立てた。
皆の制止が悲鳴に変わるその前に、空気を吸い出す穴が空く。ソートは力任せにその穴を広げると全身を宇宙へと投げ出した。空気と共に吹き出てきたザフト兵の一人が腕に絡み付くがその腕へと肘を叩き付ける。不安定な無重力空間でも戦闘用の肉体は殺意を効率よく敵へと伝え、腕を粉砕された男は凍り付きながら流され、向かいの壁に衝突して砕け散った。
ソートは管制室から吹き付ける気流に体勢を崩されつつもバックパックに取り付けたバーニアを駆使して向き直る。脇の港に入港してくるエターナル=A相対速度を合わせさえできれば巨艦と言えど止まっているのと同じになる。しかし合わせられなければ被害は交通事故の比では済まない。精神力をで恐怖を制御しバーニアを駆使して装甲板に張り付いたソートは慣性に全身を打たれながらも表層を這いずり下部ハッチに辿り着く。手にした熱棒を突き刺すまでもなく非常ハッチは手動で開けた。人間サイズの入り口から侵入を果たした彼は、まず両腕を失っていたジャスティス≠目にし、刹那呼吸を忘れた。
(ジャスティス≠傷つけ――いや、そっちじゃない。ここに歌姫の双剣がいるのか!)
ならばこの艦にラクス・クライン本人もいるのではないか? 彼女を人質に取れさえすれば一発逆転も容易いとの考えが浮かぶ。……それはしばしの沈思黙考を経て脅威を希望に変換させた。
(いや、逆にこれはチャンスだ。おれ一人で……戦争を終わらせられるかもしれない……!)
歌姫とその双剣。その姿を思い描けば今も胸中に熱した凝りが蟠る。考えるまでもない。奴らにこれを投げつければいいだけのことだ。迷いを払拭したソートは勝手知ったる艦内に身を潜め、クルーをやり過ごしながら――
「――フリーダム≠ニの接続チェック急げ! 安定しないようじゃあ対抗できない!」
「――予備パーツは足りてる! 丸ごと取り替えればいいだろう!? なに? 装甲の通電?――」
「――入港完了したら最優先だ。キラ様は?」
「今艦橋(ブリッジ)です。呼びますか?」
(…よし)
――艦橋(ブリッジ)を目指す。最後の扉にはロックもなく、近づくだけでスライドした。皆前ばかりを注視している。ソートは拳銃を引き抜くと黒髪の頭をポイントし――
「! キラ!」
照準先が間違いだった。アスラン・ザラは籠もれ出た殺意を敏感に拾い上げるとソートの存在を見咎め軍神ごと自分の身を翻した。着弾は遅れて弾ける。
「ソート!? お前!」
「動くなアスラン・ザラ! キラ・ヤマトもだ!」
ソートは重心を落としながら手近なCICを締め上げた。彼女の肩越しに拳銃を構え、更に発砲するもアスラン・ザラは見切って避ける。二人殺すためには銃弾を無駄遣いするわけにはいかない。小銃の一つでも奪い取れないものか視線を流したが、格納庫(ハンガー)ならいざ知らず艦橋(ブリッジ)に抱え込むような火器があるはずもない。
「ソート! やめるんだ! 君は洗脳されている! それは、君の本心じゃないっ!」
アスランに庇われた軍神が腰を折った体勢のまま戯言をぶつけてくる。
「黙れ大虐殺野郎! おれは本心からてめぇを殺してやりてーんだよ!」
吐露した心をぶつけられて軍神の表情が歪む。なんだその目は? ヒトを一段低いところに置いて哀れむなど傲慢の極み。お前はそんなにも偉いのか。
「ソート!」
吐いた言葉に後悔はない。だが――瞬間、視界が赤いまだらに変わりなにもわからなくなった。
「アスラン!?」
人質がいようと関係ない。アスランの超精密射撃は覗いた僅かな頭部をピンポイントで破壊した。人質だったCICが息を飲みながらこけつまろびつ逃げ出す先で、目から光を失ったソート・ロストが崩れ落ちた。
「アスランどうしてっ!? ソートは――」
「理解しろキラ! あいつはもう手遅れだ!」
開いた口を持て余し、キラが喉奧から息を漏らす。アスランは彼の善意に罪悪感を覚えながらもどうすることもできなかった。信頼を容易く破壊する。それがあいつらの能力なのだから。
「ソートはもう……治せないんだ……!」
「……っうっ……でも、何か方法が…!」
希望を打ち砕くしかない。これ以上奴らを許さないためには。
「俺達が戦っているのはそう言う敵だ!」
冷たい。そう感じても彼の決断を否定することはできない。キラは死したソートの元へ駆け寄りながら彼の無念を噛み締める。心を取り戻せないまま逝ってしまった。取り戻せなかったことが悔しく、哀しかった。
他に方法は? 本当に、どうしようもなかったのか? 非情な現実から背けかけたキラの目に映る。ソートの腕が、今震えるように動かなかったか。
「ソート!」
もしかしたら、アスランも急所を避けたのかもしれない。彼の瞳に光が戻ることを望んで表情を緩ませたキラだったが彼の表情は完全に死んでいる。
だが、死んでいながらも彼の手は動いた。
「しまっ――」
何かに気づいたアスランの声さえも轟音と光に掻き消される。エターナル≠フ艦体が枯れ葉の如く翻弄される。その衝撃から立ち直り、真っ先に状況を把握したバルトフェルド艦長が怒号を上げる。開かれたモニタに映るアプリリウスワン♂F宙港と真空間を隔てるハッチが吹き飛ばされ、用をなさなくなっていた。
「やってくれた……! ゴンドワナ=I ここをカバーできるか!?」
ソートは何かを固く握りしめたまま死んでいる。その手を握るキラの腕が居たたまれなさと悔しさにわなわな震えた。その方に手が置かれる。目の前の友を殺した男の手が。
「アスラン……」
「……すまないキラ。だがここで――」
だがそう理解していてもその手をはね除けることはできなかった。そう……もっと早く、迷わず、完全に殺せていれば眼前の悲劇はなかったかも知れないのだから。見上げたアスランは罪悪感に苛まれ目を反らす。キラはその心に対して済まなく思った。
「違うんだ。解ってる。僕達はこんな理不尽を認めちゃいけないよ」
「キラ……」
「だから僕達は…戦わないと……!」
信じてくれたイザーク達にいつまでも押し付けていてはならない。振り返り頷くバルトフェルドにキラは力強く頷き返した。
《なんで殺らなかった?》
脳裏に響く声の疑問をクロは脳裏で確かめる。
彼方より飛来したZGMF‐X10Aフリーダム≠フ気配を察知し、反射的にアンチビームコートシールドを向けたもののその勢いに押されてストライクフリーダム≠ゥらもぎ離された。遅れて展開したビームシールドがその威力を相殺し、長刀を振りかぶったときには獲物は既に後退を始めていた。
〈下がれキラ! さっさとプラント≠ヨ戻れ! エターナル≠烽セっ!〉
〈イザーク!? でも――〉
〈相手に合わせる必要などないだろうっ! お前はお前の戦いをしろっ!〉
〈……解った。イザーク、気をつけて〉
……だから何だ? ルインデスティニー≠フ推力を持ってすれば逃げ腰の相手に追いつき、援軍が次手を放つ前に一刀両断してやることも不可能ではなかっただろうに。
《なんで殺らなかったんだ?》
「あいつらが思い知ったと判断したなら、すぐにでも殺りに行ってやる。が、今はまだその時じゃねえ」
独り言。誰にも聞き咎められはしなかった。代わりにこちらに意識を向けてきたのはフリーダム≠ニバスター≠セった。二機の砲撃機体からの大出力を意識の片隅で回避しながらクロは軍神達の逃げ行く先を見据えている。
クロは眉を顰めた。エターナル≠ヘ針路をアプリリウス≠ヨと向けている。
「どういうことだ?」
彼らの取った針路は、半ば心を読みつつあるクロをして眉を顰めさせた。先程耳元へまろび寄ってきたイザークの言葉からもあの艦の行き先は間違いない。ジャスティス≠フパーツ交換が目的ならゴンドワナ≠ナ事足りるであろうしそれが叶わない状況だとしても戦場を目前にして、エターナル=Aフリーダム≠烽とも最奥にまで引っ込む道理がどこにある?
思考する時間はバスター≠フ放った超高インパルス砲に阻まれた。宇宙を真白く両断した大出力光はアンチビームコートシールドなど容易く食い破る。そこにフリーダム≠フプラズマ収束砲が横断すれば回避先すらおぼつかなくなる。AIの問いにはああ答えたものの、彼らの連携に阻まれたままエターナル≠ノ肉薄できるかと問われれば、難しいと答え直すべきかもしれない。
〈ディアッカ回り込めェ! こいつは俺がああっ!〉
〈俺だってこんなバケモノに近づきたくはねーよっ!〉
通信機越しに聞こえるのではなく装甲越しに感じる声が強くなっていく。二丁の砲を続けて連射してくるバスター≠ヨと狙いを定める。左右への光圧挙動を繰り返し急迫すると、追い縋られた砲撃機は両肩を展開し厚い弾幕を張り巡らせる。
「無駄だ」
クロはビームシールドを張り巡らしての突進を選んだ。長大な砲の内側に潜り込んでしまえばバスター≠ノ為す術はない。だがヤキン・ドゥーエ≠フ英雄は容易く墜とせる相手ではなかった。相手の高エネルギーライフルに切っ先が届くその一歩手前に真上から差し込まれたビームサーベルが行く手を遮る。高速戦闘を得意とするフリーダム≠ヘ敵意を向けるなり鍔迫り合いをすることなくヒットアンドアウェイに徹する。
〈離れろディアッカぁ!〉
ショートレンジ及びゼロレンジに凄まじい破壊力を有する武装を持ったルインデスティニー=B近接戦闘を避けようとする意図は理解できる。が、鬱陶しい。それを成すには技術も性能も必要だと理解していても鬱陶しい。
《こいつ! 真っ向勝負できねぇのか!?》
「落ち着けよ」
頭の片隅に生まれた苛立ちをクロの心はたしなめた。怒りながらも注ぎ込んでくる彼の判断に間違いがない。そしてこの機体ならばその未来にすら追いつける。ビームサーベルの軌跡を残し、蒼い翼を翻したフリーダム≠フ逃走角度を先読みしたクロはルインデスティニー≠ノ虹をまとわせバスター≠フ連射をかわし、フリーダム≠フ脇に回り込み、肩のブーメランをビームサーベル代わりに振り下ろす。フリーダム≠ヘ危なげなくもその一閃を回避してみせるがクロは同時に左手のシールドを投げ放っていた。投擲武器として、ではない。ドラグーン<Vステムで制御された小型シールドは鋭角に逃げたフリーダム≠フ背後に位置する。
「五月蝿い蝿は――消し飛ばす!」
掌を突き出す! 星流炉直結の火束砲がフリーダム≠ノ突き刺さる。だが旧式でありながらも一線級の機動力はルインデスティニー≠フ一撃さえも辛くもかわした。
――しかし膨れ上がる虚無の結界がその手足を絡め取る。オートでビームシールドを出力した盾に突き刺さった閃光が二極に反射を繰り返され真空間を超える無の真球が急上昇したフリーダム≠フ右手足とハイマットバインダーを飲み込んだ。
〈くぁああああっ!?〉
〈イザークっ!〉
「流石英雄とフリーダム≠セな。焼け残りを作るつもりはなかったってーのに」
〈っお前ぇえ!〉
怒号と共にバスター≠ェフリーダム≠押し遣りミサイルを全て解き放つ。無数の爆発に包まれながら補正されたCGが砲を連結するバスター≠フシルエットを浮かび上がらせた。
超高インパルス砲がルインデスティニー≠狙う。しかし砲が組み合わさったその瞬間には長大な剣を振りかぶった黒い蝶に襲い掛かられていた。振り下ろされた光の剣が身の丈を超える巨大な砲を断ち切る。ディアッカの怒号が感じられた。
〈っ! クロフォード!〉
繋げられたオープンチャンネル。クロは数ヶ月前と変わりのない、小隊長の顔から視線を外せなかった。
「申し訳ない小隊長殿……。恨んで貰って構わない。オレは、裏切り者だ」
ディアッカは絶叫しかけたが、思い止まってしまう。憎みきれない何かが、あった。同じ釜の飯を食ったからか? 部下として協力して貰った義理でも感じるのか? 莫迦な。こいつは、初めから間諜としてザフトに潜り込んだと言うのにか!?
〈なんで……〉
「…………」
〈何で俺を嘲笑わない!?〉
クロは肩眉を跳ね上げた。緑のヘルメットの奧からディアッカ小隊長の魂が零れだしてくる。瞑目したかったが、戦場ではそれもできない。いや――彼の目から視線を離してはいけないような気がしていた。
「小隊長……。皆がそう言えたなら、オレは悪魔の所行とやらに手ェ出したりしなかっただろうよ」
〈くっ、クロフォード……!〉
〈ディアッカ黙れェ! テロリストなんぞに惑わされるんじゃない!〉
通信にイザーク・ジュールが混ざり込んできた。クロは彼の率いる隊に所属していた。それでも直接顔を合わせた記憶の乏しい隊長殿に大した義理など感じない。熱しやすい元隊長殿の、こちらを否定する叫び声にクロは涙の気配を感じていた心がすっと冷めていくのを感じていた。
「あんた、今度はザフトに義理立てすんのな」
ディアッカの喉元に切っ先を突き付けながら手足をもがれたフリーダム≠ヨと有視界通信を繋ぐ。
〈どォういう意味だっ!?〉
「あの時、メサイア攻防戦≠竄チてたあの時だ。オレも議長のアヤシさには辟易してたがな。それでもボルテール=c…あんたらが裏切るとは思っても見なかったよ」
〈なにを…! 間違いを間違いと言えない世界が許せなかった! 貴様クロフォード・カナーバだったか? 貴様は今になって何でこんな反乱をぉっ!?〉
「兵士は考えてはならない。ただ上に従うのみって習ったもんでね」
神経を逆なでするような黒のデスティニー≠フパイロットの言葉にイザークは怒りを爆発させた。しかし機体はその怒りを伝えてはくれない。
「まず自分の正義を決め、それに従いブレずに動く。オレのやってることはお前と同じだ」
代わりに、睥睨する魔神の背後でゴンドワナ≠ェ爆炎を上げた。
〈な!〉
〈莫迦な、ゴンドワナ≠ェぁっ!〉
イザークは愕然としたが世界がもたらす絶望はそれだけでは終わってくれない。上下区別のない宇宙空間で巨体を傾がせ落下していくゴンドワナ≠追うように、プラント≠フ一角からも爆発が起きる。
〈っっ!〉
〈あれは、アプリリウス≠カゃないか!?〉
息を飲む間にルインデスティニー≠ェ二人を追い抜いた。イザークは慌てて機体を反転させたが、精密に照準するにはスラスターも移動できる重心も足りない。何より残るバラエーナ<vラズマ収束ビーム砲は一門のみ。バスター≠燒Cを落とされた今、奴を確実に墜とせる火力がない。奴はそれを理解しているのか、振り返りもせずアプリリウス≠ヨと飛翔していく。腹立たしい! イザークは喉を絞った。更にその脇を闇色のエターナル≠烽ヌきが行き過ぎる。イザークとディアッカは敵艦周囲で蠢く狂った兵士達から身を守ることに必死になり、奴を追うどころではなくなってしまう。
「くそっ! こんな、こんなことがぁっ!」
〈イザーク! その機体状況じゃ無理だ! 戻らないと――〉
ディアッカが全面的に正しいのはイザークにだって解っている。だがしかし、しかし戻って修理を待つ余裕などあると言えるか?
イザークは唸り、脳裏に何かを思い浮かべ、そして愕然とした。イザークが今思い浮かべたもの、心の底から欲したもの。それは奴らを一掃する暴力だった。かつてのザフト軍が用いた大量破壊兵器ジェネシス≠セった。
(莫迦なことをっ!)
愕然とする。超巨大ガンマ線レーザー照射装置。一射で地球を壊滅させるパトリック・ザラの狂気。あんな大量破壊兵器、絶対不要と、この世にあってはならないとさえ考えていた。それなのにこの土壇場に来て自分がジェネシス≠求めるなど!
しかし心のどこかがこうも言う。勝てなければ意味がない。大量破壊兵器を厭って、このまま敗北して――
「だが、このまま敗北してっ! 支配されて誰が喜ぶっ!? どんなに追い詰められても非人道な兵器にだけは頼らなかったなどと誇らしげに語ったところで…誰が尊敬するか! 莫迦にされるだけだろう!」
いつの間にか漏れていた声に――悪魔が応えた。イザークは震え上がる。
〈いいや、嘲ったりしねーよ。イマジネーター£Bならな!〉
イザークの愕然は……極致に達する。イマジネーターについての知識を持っていることが、恨めしい。クロフォード・カナーバの宣言に反論できない自分に愕然し、イザークは叫ぶことすらできずに絶句していた。
「ご苦労様でしたソートさん」
コーディネイターの中枢アプリリウスワン≠ゥらもうもうと立ち上る命と大気の混合ガス。それは牙城の門が開いたことを示す狼煙。ティニは薄く目を開け世界を見通しながら駒として扱ってしまった命に哀悼の意を捧げた。
〈取り舵15上げ舵10! ゴンドワナ≠フ右舷に沿ってプラント≠ヨ向かう!〉
シンとクロの暴力により後方待機の必要がなくなったアイオーン≠ヘ最終目標への進軍を始めた。最終防衛ラインを埋めていた陽電子リフレクター搭載型はあらかた掃討され、最後の盾であった軍事衛星代用品も今、散った。フリーダム≠ニジャスティス≠ェ最奥にまで退いた今、L5宙域にファントムペイン≠フ混ざり込んだターミナル≠押し留める力はない。機関最大。爆発寸前のゴンドワナ≠抜き去りながらティニは戦場を見据えていた。
「生物は、生き残りたいから戦うんじゃないんでしょうかね」
素直な気持ちを漏らしただけなのだが、同室している三人の視線がこちらに集まった。
「いきなり何よ?」
「私間違ったこと言ってますか?」
三者は互いに顔を見合わせる。ノストラビッチは眼を細めた。
「間違ってはおらんな」
「まぁ、あたしもそー思いはするけど」
「ですよね……。じゃないのに命を危険に晒すとか、おかしいとは思いませんか?」
三人の地球人種の意思統一にティニは満足して頷く。
「だったら、あちらには抗う意味はありませんよね。この戦い、どう転ぼうともあちらの人は生き残れます」
ティニはノストラビッチの目を覗き込んだ。彼は迷惑そうに目を伏せると静かに首を横に振る。そういうものではないだろう、か? ティニは胸中で一笑に伏した。
『死にたくない』
生き続けるのが生物の至上理由でその存在抹消が死ならば……生きている以上の価値と幸福はあり得ない――はずだ。
しかし知恵は、記憶は、思考は、その『生』の価値を大きく下落させてしまった。
「逃げることで命を長らえるのは、格好悪いことですか?」
「――それあるかも知んない。あたしゃーここでヤバくなっても投降するとかナシだと思うし」
そう。思考生命体はただ生きているだけでは「奇跡」となりえない。
他意志と関わり、認められてこそ価値を持つ。
認めさせるためには、生命以外の努力を見せつけねばらならい。それは時に命を危険にさらす。本能の叫ぶまま休息を求めればそれは怠惰。相手を省みず我を貫けばそれは傲慢。社会性の前では生命は容易に価値を下げられ――時に無価値となる。
戦争。本人は命のためには決して戦わない。守りたい誰かのため、守りたい国のため、時には守りたい利益のため、命を無価値に変える。
そんな知恵の、記憶の、思考の価値とは何だ? いずれ生物は、生命体を知性体と形容するようになるのか。いや、他の銀河もこうなのだろうか。
(この一件が片付いたら、一度帰りましょうか……)
先行しているクリカウェリ≠ノ間もなく追いつく。死に体のゴンドワナ≠ゥらは我先にと艦船が脱出していく。あるものは直ぐさま回頭しこちらに砲火を浴びせてくる。あるものは一目散に自陣最奥へと駆けていく。デスティニー≠ニガイア≠ノ続きカオス≠煦鼡@クリカウェリ≠ヨと帰って行った。……特に何も言うことはない。
「クロ、戻ってください。補給は必要です」
〈……コクピットからは出ねーぞ。集中力が切れる〉
「ご自由に」
そこかしこから溜息が届いた。フレデリカ、ディアナ。ここまで長期間戦闘した経験など無いだろう。張り詰めたものが切れる寸前。気を抜きたくなるのも致し方ないことと言える。だが、戦場で甘えは許されない。戦艦の奥深くに籠もっていると言っても艦を一撃で沈めかねない武装も存在する。
「皆さん、気を抜けるのはまだまだまだまだ先ですよ」
何より敵側には一騎当千が存在する。ティニは知覚した、舞い戻ってくるエターナル≠ニそこから発進したジャスティス≠フ機影を三人の目の前に強制表示させた。
「鬱陶しいなお前は……」
「緊張感を解いて貰っては死にますから」
気を抜く余地などどこにもない。オリジナル艦と動揺に、アイオーン≠ノ自慢できるものは「足」しかない。主砲の収束火線砲一門とハリネズミの形容すら行きすぎる程山のように搭載されたミサイル発射管とCIWSだがフェイズシフト装甲に鎧われた敵機にそれがどこまで害悪となり得るものか。逃げ惑い、配下のモビルスーツ部隊に全てを託して命を繋ぐ。それがこの艦の戦い方なのだから。
「ルインデスティニー≠ヘ?」
〈もう少しかかります。コメット≠フ左側は使い物になりませんし〉
「クリカウェリ≠ニの連携を。他の艦を並列に布陣させ包み込みましょう」
〈――良いのか? ゴンドワナ≠ゥら出てきた、後ろにつく艦に背を向けることになるぞ〉
「最悪、生き残りが私達だけだとしてもラクス・クラインをどうにかできれば勝利です。冷たい言い方かも知れませんが、誰も犠牲にしたくないと格好付けるならそもそも殺し合いなどに手を出してはいけません」
ディアナとノストラビッチが眉間に皺を寄せたがフレデリカは見せつけるようしきりに頷いていた。ティニはそれを横目にしながらクリカウェリ≠ヨと通信を繋ぐ。
「シンさん、ルナさん頼みますよ」
ティニはいつも勝手だった。だがその勝手が、戦場の道標となっていたこともまた事実。ルナマリアは口の中だけでぶつくさ零しながらもシン、ステラと共に発進していた。
〈……きた。目標、あれ〉
聞かされていてもいざ目にすると肌が粟立つ。ステラが目標と称した艦はエターナル=A続いてこちらに迫り来る敵機はジャスティス=B悪夢の再来を予感し、ルナマリアはスーツの上から腕をさする。だがシンは迷わなかった。
「アスラン!」
〈デスティニー!? シンなのか!〉
三機のウィンダム=A続けてこちらのローラシア級をを瞬く間に屠ったジャスティス=ミーティア=Bシンはルナマリアとステラを置き去りにし、赤の騎士へと急迫した。幾ら二人が手練れと言っても彼の存在は何かが一つ抜きんでている。二人を守りたいなら、自分が彼を押さえるしかない。
「お前が出られるまでは、オレが彼女達を引き受ける。代わりにプラント≠ノ着いてからは全部押し付けるからな」
……ルインデスティニー≠フ戦闘気配は間近には感じられない。彼の方こそ先にプラント≠ヨ侵攻するのではないか。だとすれば尚のことエターナル≠引き受けるのは自分の役目と言うことになる。
〈アスラン! フリーダム≠ヘどうしたっ!? おれはあいつを、妹の仇を殺しに来たんだ!〉
巨大追加武装を装備した、類を見ない破壊力を解き放つジャスティス≠ヨとデスティニー≠ェ急迫する。蛇の如く蠢く無数のミサイルを繊細な操作で避け続け、牽制目的でCIWSとライフルを乱射する。
〈目を覚ませシン! そんなことをしても大切なものは戻らない!〉
シンはジャスティス=ミーティア≠睨み据えながらも相手の護衛を務めるザクウォーリア£Bを撃ち殺し巨大な機体へビームブーメランを振り下ろす
「もぉ世界なんざどぉでもいいんだよっ! おれは、あいつにも奪われる苦しみを味わわせてやる! それだけだ!」
アスランは慣性に推力を上乗せしシンの斬撃を通り過ぎ回避する。
〈バカなことをぉっ! それではいつまで経っても争いが終わらないと、まだ学ばないか!〉
「なにが、何がバカなことだ! そぉゆうアンタ達についていって、世界が平和になったかよっ!?」
デスティニー≠ェその場で回頭する。ジャスティス=ミーティア≠ェ大きく弧を描いて反転する。ステラはそちらに向かおうと体勢を変えたがルナマリアが押し留めた。横槍を入れたところでシンの邪魔になるだけだ。彼が全力で戦うための戦場を整えることはカオス≠ニガイア≠ノ任されるべきことだ。
〈っ……だったら、お前は、世界をどうしたいんだ!? どうすれば、全てを幸福にできると考える!?〉
「おれにそれを聞くな! アンタ達は、それも解らないってのに世界を導こうなんて考えてるのかよ!」
ビームライフルを二射、続けてビームブーメランを投げ放つ。だが巨体に似合わぬ制動を見せるミーティア≠ヘブーメランを掠めるだけで回避して見せ、お返しとばかりに凄まじい数のミサイルを解き放ってきた。
「そんな意味の分からない信念のために、マユは殺されたって言うのかよ!」
アスランは息を止めた。気づけたが、反応しきれない。ミーティア≠フ大型スラスターに明後日からのビームが突き刺さり爆発させた。カオス≠ゥら切り離された機動兵装ポッドからのビーム。多数のザフト機を相手にしながらもこちらを見てくれたルナマリアからの援護に光輝を見いだしたシンはさらに距離を詰め左手を突き出す。掌部ビーム砲がビームソードの発振機を握り壊し続けて振り下ろされたアロンダイト≠ェミーティア≠ノとどめを刺した。
「おれはイマジネーター≠認めてない。『以前』のステラ達を思い出させてイヤだからな。しかも、望んでなんて……」
シンはアルザッヘル℃sがターミナル≠フテロリストに襲われたときのことを思い出していた。理不尽に殺される人を見たくはなかった。でも、彼らを救うことに躊躇いを覚え、ルナマリアが援護に行くのを手伝えなかった。
「クロは狂ってると思う。でもな――平和の形が見えてるあいつの方がアンタ達よりマシだ!」
爆発する。それより一歩早くパージと脱出を終えたアスランはインフィニットジャスティス≠フ両手にビームサーベルを握らせるとデスティニー≠ヨと振り下ろす。差し上げたシールド上でスパーク以上に二重の圧力に押し込まれたことが心を逆撫でしてくるシンは無重力にもかかわらず二つの剣を押し返した。パワーで勝るデスティニー≠ヘ力任せにジャスティス≠押し遣るとその左手へアロンダイト≠振り下ろす。例えシールドの装甲材でも実体剣とビーム刃を兼ね備えたこの剣にかかれば紙も同然。相手もそれを解っていたか真っ向から受け止めるような愚を犯さず剣の腹へと盾を滑り込ませ押し遣る。
シンは両目を絞った。研ぎ澄まされ加速する彼の思考はアスランの挙動を先読みし、そして凌駕する。左手で剣を弾き右のサーベルを突き込んできたジャスティス≠フ殺意は、しかしデスティニー≠フ胸部表面を撫でたに過ぎない。振り抜かれたデスティニー≠フ左掌に輝きが宿り、剣を握った右腕を砕く。
〈あいつの方が、まだマシなんだよっ!〉
「巫山戯るなっ!」
全てを書き換える人格否定がまだ良いだと!? シンの怒りを何一つ受け入れられないアスランは脳裏の何かを解放した。弾け散った何か。それに理解が及ぶより先に拡大した思考と感覚器官が絶対の死を弾き返した。右腕を失いながらもその重心変化すら完全に把握したアスランが続けて降り掛かるシンの大剣を振り払った。
「お前はまた世界までも殺そうというのか!」
「おれを利用し、居場所も作らず使い捨てるのが世界だってんなら願い下げだ!」
悲の泥濘にのたうつ。払われた剣、それを払った敵の手に輝く平手を突き付けた。しかし敵の方が一歩早い。振り上げられた足、そこに輝くビームブレイドがマニピュレータごとパルマ・フィオキーナ≠潰した。
「そんな世界……むしろおれの方から滅ぼしてやる!」
「自分が不幸だから、今を懸命に、幸せに生きている人達にまでお前と同じ目に遭わせようというのかお前は!?」
哀の泥濘に沈む。デスティニー≠フ右手が複雑な軌道を描きジャスティス≠フシールドから逃げおおせると振り上げられた剣の足目掛け振り下ろされた。腰部を捻りきれなかったアスランはその剣撃を受けるしかない。真横から足のあった場所を貫いた対艦刀が爪先と剣とその機関をズタズタに引き裂いた。
「殺したから復讐する! それじゃ憎しみが終わらないってんなら、殺されたおれはどぉすればいい!? マユは喜ばないってアンタらは言うが、おれが泣き寝入りすれば喜ぶって本気で言えるのかよ!?」
憎の泥濘にまみれる。左掌を潰されてもシールド発生器は生きている。ビームシールドを押し付け、更に光の翼を展開したデスティニー≠ェジャスティス≠ノのし掛かる。加速の暴力に晒され砕け散りかけたアスランだったがパージされたファトゥム‐01≠ェデスティニー≠ヨと喰らい込んだ。辛うじて頭部をそらしたものの密着していては躱しきるには至らず、左肩左翼が宙を舞い、リフターの翼に切り刻まれて四散した。
シンはそれでもアスランを離さなかった。
「アンタは、おれに何を望むんだ……? おれがアンタに逆らわず従順だったら、それで満足なのか……?」
「……っ。そうじゃない……そうじゃないが……」
「キラ・ヤマトはおれを操っていた。アンタは違うのか? おれが心の底からアイツを殺したいってのを、無理矢理でもひっくり返そうとするのは、クロのやる洗脳と、何か違うのか!?」
「――シン!」
そして後悔する。懇願するような彼の言葉にシンの苛立ちは最高潮に達した。元より論ずるに値しない。彼となら解り合えると過去の経験が懇願してきたが……無駄だった。彼と、おれの心は違うのだ。そう、思い知らされただけだった。
「もういい……おれはアンタを倒して、軍神も斃す!」
「お前、いい加減にしろォっ!」
その怒りにすら心動かされない。ジャスティス≠ヘデスティニー≠蹴りつけもぎ離し舞い戻ってきたリフターと再結合を果たしながら全砲門をこちらに向けた。。シンはそこに剣を喰らい込ませようとしたが、そこに目を疑うものが割り込んできた。
「ルナ!?」
蹴り飛ばされ押し遣られたことを劣勢とでも思ったのか!? カオス≠ェ機動兵装ポッドで取り囲みながらジャスティス≠ヨと剣を振り上げている。片腕を失おうともアスランの手の中には無数の刃がある。シールドから吐き出されたシャイニングエッジ≠ェカオス≠解体する――シンの意識はそんな未来を幻視していた。三つの銃口をこちらに向けたまま、アスランはルナマリアの多面攻撃に対応する。三方向の敵意から機体をずらすと彼女の足下に潜り込む。出力に劣るカオス≠ヘそれに対応できず、反射速度で劣るルナマリアがそれに気づくのも一瞬遅い。それを知覚した瞬間シンの中で最重要課題が切り替わる。
絶対に守らなければならない。
怨敵を殺すこと、そして自分の身を守ることが二の次になる。強迫観念とも言える感情はシン・アスカの人間価値を破壊した。
突き上げられたシャイニングエッジ≠フ刃が――デスティニー≠フ右ビームシールド状でスパークを散らした。
「離れろルナ!」
〈し、シン!〉
「シン!」
アスランの一斉射撃にシンの精神は完全に反応していた。
しかし片翼をもがれ尚且つ彼女を救うため無茶な急制動に晒されたデスティニー≠ェその期待に応えきることができなかった。カオス≠守りきった。彼女を射線軸からずらすことはできた。しかしその後の急制動命令に、デスティニー≠ェ反応しなかった。
「――!」
束ねられた幾条もの閃光。その一つが胸部を、各所から漏れ出る無尽蔵の力を湧き出させる動力部を貫いていた。
仇も討てず志半ばで朽ち果てる…………。で、ありながらシンの胸中には奇妙な満足感が生まれていた。
〈ルナ……〉
「!」
〈今度は……おれ、守れたよな?〉
デスティニー≠フ顔が歪み立ちこめる噴煙に覆い隠される。ルナマリアは彼の名を絶叫した。その絶叫を耳にしながら、アスランは息もできずにただ呆然としていた。兵士として最大の障害を排除した。そのはずだ。そのはずなのに、何なのだこの後悔と罪悪感は。
彼の名を呼ぶことしかできない。だがその声も罪の意識に堰き止められて外には出ない。光舞う戦場が遙か遠くに感じられる。耳に届くのは――ルナマリアの止まない絶叫。そして機体を貫く震動だった。
「な!?」
続いて聞こえた、鳴っていたはずだが今聞こえた警告音がリフターの貫かれた今を伝えてくる。驚愕冷めやらぬアスランの耳におぞましい声が忍び寄ってくる。
〈満足か?〉
「な……な、なに?」
砲撃体勢に展開していたリフター。そこに剣をに突き立て後ろにいる。黒い悪魔が耳打ちしてくる。
〈満足かと聞いている。かつての部下を自分の信念のため話も聞かずに切り捨てて満足なのかと聞いている〉
「き、貴様!」
動かせない――アスランはそう感じ取るなり迷わずリフターを捨てた。推力を捨てながらも身軽になったジャスティス≠ヘ素早く反転すると二つの剣と一つの蹴りをルインデスティニー*レ掛けて振りかぶる。抱擁するよう左手及び両足を振り抜いたアスランだったがルインデスティニー≠ヘ迷わず剣を手放すと急降下、左手からのビームサーベルを躱すと同時に両手のソリドゥス・フルゴール≠ナ両臑のビームブレイドを受け止めていた。クロは星流炉の出力にものを言わせジャスティス≠フ足を押し遣ると反転させた両手を足に触れさせた。爆発。
〈満足かと聞いている〉
「満足か……だと? そんな訳ないだろう! こんな、こんな!」
〈――だが、仕方なかった、か?〉
アスランは沈黙に苛まれた。ジャスティス≠フ両足はパルマ・フィオキーナ≠ノ晒され千切れかけている。対艦刀に貫かれたリフターは遠隔操作不能になっている。一矢報いる方法は左腕しかない。アスランはサーベルの発振を留めると残った全スラスターを用いて後退し、グラップルスティンガー≠投げ放つ。
「お前の求める正義のためには、奴は邪魔だったから、仕方なく排除した、か」
が、トルーズフェイズシフト装甲は硬質アンカーヘッドを苦もなく弾き返すと続くシャイニングエッジ≠フ刺突をフラッシュエッジ2<\ードで迎え撃ち跳ね返す。
〈あぁ仕方なかった。オレと同じように、シンはあなたにとっての障害だった。――でも、それは、本当に正義なのか?〉
「お前は……お前に正義があるというのか!」
アスラン・ザラの涙声をクロは苦々しく受け止める……。
クロは自分を正義の味方などとは微塵も思っていない。汚職する警官、麻薬を売る教師、血税で私腹を肥やす支配者階級……。映像越しに見たものも経験として良いのならクロも今まで無数の悪徳聖職者を見てきた。
俺は人々のために尽くしている。なら少しくらい役得があって当然だ。
……単純な、人をヒトとも思わぬ悪人と比べたら、それは当然の報酬と言えるのかもしれない……。だが、そんな理屈はない。十の善行を積んだら十の悪行が許されるはずもない。
「見返りを求めた瞬間、オレの正義も無くなるだろうな」
アスラン・ザラがどう返してくるのか、聞きたかった。が、彼も命を優先させる正しい生物だったと言うことだろう。勝ち目を失ったアスランは武器をライフルに持ち変えると牽制しながら後退していく。クロはアスランを睨み据えたが、追うのは止めた。ここは戦場、我を失ったルナマリアにも容赦なく驚異は押し寄せてくる。アスランの逃走を幇助するザフト兵、そしてルナマリアに襲い掛かるザフト兵を区別無く処理しながらクロは次の敵を見据えていた。
〈シン! 返事してよシンっ!〉
「……ステラ、聞こえるか?」
〈む。なんだ?〉
「ルナマリアとシン、お前に任せたいがいいか?」
〈……わかった〉
一人で全てを守れるわけもない。それでもプラント≠ヘ、徐々に近づいてくる…………。クロは眉間に力を込めた。その先に終局が見えようとしている……。
説明 | ||
「お前に平和の使徒を名乗る資格はない」 「あなたを退けてから平和を形作る!」 認められるはずのない者同士が命を削り合う。限界まで命が燃え上がる、彼らの中心たる戦場。――だが失念している。どちらが死のうと大差のない世界にもっと大勢が生きていることを。 120〜121話掲載。人は誰も、自分以外を思いやれない。 |
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コメント | ||
うむ…次の話で次週としたかった…。まぁ今回はシン・アスカ大活躍、敵の刃を受けるにしてもこのよぉに矜恃を残すのが理想だろう!といった感じで追われたのでまぁよしとします。なんか密かにリトルステラが良いキャラになってしまって…作者の手を離れてって奴でしょうか(黒帽子) おぉ東方さんとこは大丈夫でしたか。こちらも太平洋側ながら内海幸いして特にこともなし。潮位計数値がウナギ昇りを見せられたときはおぞましがりましたが…。うーむ怒りか地球精霊…。だが逆に人が星に対して泣いたり怒ったりは不遜か?と思い火山撃って地球黙らすを書いたわけですが…(黒帽子) また一ページ減りましたな。流石にもう減りはしないと思いますが・・・。同じ作者として、通ずるところがあるね。細かく細部まで書けば書くほど文章は長くなるが、その分作者が伝えたい描写が読者に伝わりやすい。(東方武神) ブレイク・ザ・プラネットがまさに世界で顕現している昨今。連鎖から見て、もしかすると東京大地震も秒読み段階かもしれないね。しかし、貴方が無事であることをまずは喜びたいと思う。(東方武神) …そしてがらりと変わりますが文章ロング化が再び許容量を超えた…。一話読むのに一時間かかると思います…。2話しか入りませぬでした…。(黒帽子) 地獄が倭国に顕現しおった…。我が地域は幸い消防団出撃喰らっても水位調査と待機しまくるのみで終わりましたが被災地呼ばわりされてるところは大丈夫でしょうか?雪国電気なしとか核動力炉暴走懸念とか酷い映像…。人間も傲慢だけと地球も傲慢だ。自己満足的にしか言えませんがご無事でありますように。(黒帽子) |
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