真・恋姫無双 黒天編 第4章 「蜀捜索」
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真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第4章 「蜀捜索」

 

 

 

出発の日から数日が経過した。

 

その間に大小問わず村という村をまわり、高札も立てさせてもらった。

 

情報収集をやってみても全くといっていいほど何もない。

 

旅の商人に何か噂はないかと訊ねても関係のないものばかりだった。

 

たまに冥琳から連絡はあるもののたいした内容ではない。

 

ただただ、成都への行軍だけが滞りなく進んでいく。

 

「桃香様、明日には成都に到着いたしますので準備のほど、よろしくお願いします」

 

愛紗は馬車にある小さな窓から顔を出して、桃香に喋りかける。

 

「うん、わかったよ・・・」

 

馬車に乗っている桃香は冥琳からの報告書に目を通しながら少し微笑む。

 

旅の疲れもあるのだろうが、その笑みは明らかに作り笑顔だ。

 

「お疲れならもう休んでしまわれてもかまいませんよ?もうすぐ、次の野営予定地に着きますから」

 

「ううん、みんながんばっているのに私だけ休みたくないよ」

 

首を横に振って、次の書類に手を伸ばしていく。

 

自分だけ何もしないわけにはいかない。

 

休むわけにはいかない。

 

なぜなら桃香は知っていたからだ。

 

村に着くたびに鈴々が、夜に一人でこっそりと村から出て一刀を捜していること

 

そして、トボトボと“おにいちゃん・・・”とすすり泣きながら帰ってくることを

 

愛紗も鈴々と同様に寝る間も惜しんで情報収集に励んでいること

 

ほしい情報が手に入らず、自分の無力さを嘆いていることを

 

朱里が夜遅くまで地図を相手に難しい顔をしていること

 

地図に一つずつ×印がつくたびに、頭を抱えていることを

 

もちろん、桃香も何もやっていなかったわけではない。

 

確かに、外に出て鈴々や愛紗と一緒に捜すといったことは王の身である桃香にはすることはできない。

 

ならばと思い、愛紗や朱里にまわってくる政務を自分が積極的に引き受け、彼女たちの時間をより多く作ってあげようとがんばっていた。

 

しかし、直接助けるといったことができない自分に軽い苛立ちも覚えていた。

 

一刀がいない寂しさも一緒になって襲ってくる。

 

桃香はこれら気持ちを少しの間でも忘れるために、政務に勤しんでいた。

 

桃香がいろいろ考えていると馬車が止まり、窓から愛紗がまた顔を出す。

 

「本日の野営地に着きました。いまから準備をしますので、少々お待ちください」

 

「うん・・・。はぁ・・・」

 

今日の行軍も特に何も進展がないまま終了する。

 

そのことに、桃香はため息をつかずにはいられなかった。

 

 

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テントが組み上げられ、味気ない夕食が終了する。

 

そして、兵たちは夜番以外の者は各自の就寝場所へ戻っていく。

 

「では、みなさん。おやすみなさい・・・」

 

朱里は両手いっぱいの書類を抱えながら、自分のテントに戻っていった。

 

「桃香様もお休みください。この頃、夜遅くまでがんばっていらっしゃるようですが、明日は成都の民の前を通らなくてはいけません。王が民に疲れている顔を見せる訳にはいかないでしょう?」

 

愛紗は諭すように桃香に言う。

 

「うん・・・、そうだね。わかったよ、愛紗ちゃん」

 

そういって、桃香も自分のテントへと戻っていった。

 

「・・・・・・」

 

桃香を見送ったあと、愛紗は自分のテントへは戻らずに野営地を出て行く。

 

「ご主人様・・・」

 

そしてまた、当てのない夜の一刀捜索が始まるのである。

 

愛紗はここ最近、毎日といっていいほど夜になると外に出ている。

 

身体を壊すわけにはいかないと寝台に入って眠ろうとはする。

 

しかし、寝台に入ると余計なことばかりを考えてしまう。

 

ご主人様はどこにいるのか

 

寂しくはないだろうか

 

おなかは空かしていないだろうか

 

本当に天の国に帰られてしまったのか・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三国会議の夜

 

春蘭を保護した後、一刀天帰還の可能性を朱里から聞いたとき、愛紗は驚くことも忘れて、ただただ立ち尽くしてしまった。

 

そしてその後、強烈な頭痛が頭を襲った。

 

魏勢があんな状態になったばかりなのに、また自分が倒れてはみんなを心配させてしまう。

 

その思いと武官としての意地により、倒れるまでには至らなかった。

 

しかし、一瞬だが頭を過ぎる記憶があった。

 

目の前で一刀が白い光に包まれて消えてしまうという記憶

 

寝台に入るたびに、その記憶が愛紗に安眠させることを許さなかった。

 

その記憶がよみがえるたびに愛紗は外に駆け出している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗はこうして毎日のように夜な夜な一刀を捜し求めている。

 

ご主人様・・・とつぶやきながら

 

 

 

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「ひっぐ・・・えっぐ・・・、おに・・・い・・ちゃ・・ひっぐ」

 

野営地の片隅にテントでしゃくりあげながら泣いている少女が一人

 

「いい子に・・・えっぐ・・・なるから、帰って・・・き・・・」

 

朱里の話を聞いてから、鈴々に泣かない日などなかった。

 

そしてその日から毎日、悪夢を見るようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはどこかの神殿のような所で、一刀が白い光に包まれていく夢

 

その様子を見て、一つの思いが鈴々の小さな胸を支配していく。

 

“お兄ちゃんと離れたくない。置いていかれるのは嫌だ。”

 

そして、その夢の中で一刀の姿を追いかける。

 

ひたすら追いかける。

 

しかし、いくら走っても一刀のもとには行けない。

 

そして、だんだん一刀が白い光に包まれていき、姿が見えなくなっていく。

 

『待って!!鈴々を置いていかないでなのだ!!お兄ちゃん!!』

 

必死に声をかけるも一刀はこちらを振り向いてくれない。

 

『鈴々、いい子になるのだ!だから帰ってきて・・・』

 

走りながら必死に呼びかける

 

『お兄ちゃん!!!!』

 

そう叫んだ後に、その夢はいつも終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布団をバサッと払いのけ、辺りを見回して一刀の行方を捜す。

 

そこに、一刀の姿はない。

 

なにせ、夢の話なのだから

 

「またなのだ・・・」

 

はぁはぁと荒い呼吸を徐々に整えていく

 

鈴々の額には脂汗が噴き出している。

 

朱里の話を聞いてからずっと続くこの悪夢

 

鈴々はこの悪夢をただの夢で終わらせることができない。

 

やけに現実味を帯びている。

 

本当に自分を置いていってしまったのか

 

様々なことが頭をぐるぐると回っていく。

 

そして鈴々は寝台から起き上がって、暗い夜の闇へと駆けて行く。

 

お兄ちゃんを捜しに

 

この姿をいつも桃香は見ていたのだった。

 

 

 

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もう夜も更けてきている。

 

兵士たちは就寝しており、多くのテントは明かりが消えている

 

しかし、まだ蝋燭の明かりが漏れているテントがあった。

 

そのテントには朱里がいた。

 

テント内の机には蜀地域を拡大した地図が広げられている。

 

その地図には多くの×印が書かれていた。

 

そして、今日も一つその地図に×印を書く。

 

「ふぅ・・・」

 

×印を一つ書くたびに、朱里の口からため息が漏れる。

 

×印が一つ増えるたびに、朱里の心の中の重りが増えていく。

 

気持ちが重たくなっていく。

 

いつからこの重りが増えているのだろうか

 

それはきっとご主人様が天に帰ったかもしれないという可能性を考えたときからだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥琳と二人で真桜の言おうとしていたことを推測したとき

 

冥琳の目の前だから何気なく振舞っていた。

 

軍師は常に冷静でなければいけない。

 

相手を前に感情を出してはいけない。

 

でも、足はガタガタと震えていた。

 

手を痛いぐらいにギュッと握っていた。

 

会議の次の日の早朝に愛紗、鈴々、星、桔梗にはこのことを話した。

 

みんな驚いているようだった。

 

その話をしているときも朱里は足が震えていた。

 

みんなには一つの可能性だから心配ないと強く念を押した。

 

絶対そんなことはないって・・・

 

でもそれは、自分に言い聞かせるための言葉だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから毎日、朱里は心の中で“絶対そんなことはない”と言いきかせ続けた。

 

地図に×印がつくたびにその言葉を言った。

 

何回も・・・何回も・・・

 

×印がつくたびに朱里の眼に涙がたまっていった。

 

少しずつ・・・少しずつ・・・

 

すべての×印付けが終わったとき、一粒の涙の塊が頬を伝う。

 

「本当に・・・、信じてもいいんですよね・・・ご主人様・・・」

 

そして、いつもと同じように頭を抱えながら泣く。

 

軍師は表情を顔に出してはいけないから

 

顔を手で覆って泣いてしまったら、泣いてるって言っている様なもの

 

だから、頭を抱えて泣くことにした。

 

誰にも顔を見られないように

 

 

 

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愛紗は野営地の近くにある暗い森の中にいた。

 

一刀を捜していたらいつの間にかこんなところに入り込んでいた。

 

周りからは虫や鳥の鳴き声、風が葉を揺らす音などが聞こえる。

 

その音が森の不気味さをさらに醸し出している。

 

愛紗は元々、お化けやそういった類の物は苦手な方である。

 

一人で好き好んでこんなところに入らない。

 

しかし、愛紗は進んでいく。

 

ここにいるかもしれないから

 

そしてどんどん進んでいくと少し大きな湖みたいな場所に出る。

 

愛紗はその湖に近づき、その水面を覗き込む。

 

そこにはきれいな半月が写りこんでいた。

 

愛紗は水を飲もうとして手を水面につける。

 

すると、きれいに写っていた半月が水の波紋により乱されて見えなくなってしまった。

 

愛紗はその水面をじっと見る。

 

水の波紋はしだいに小さくなっていき、やがてまた美しい半月が水面に写る。

 

“鏡花水月”

 

儚い幻

 

眼には見えても手に取ることができないたとえに使われる。

 

その言葉を愛紗は今の自分に置き換えて考えてみる。

 

眼をつむれば、いつでもあの人が笑ってくれる。

 

元気な声で“愛紗”と呼んでくれる。

 

彼が微笑みを浮かべながら手を伸ばしてくれている。

 

愛紗はその人がいる方へ手を伸ばす。

 

しかし、その手は彼に届くことはない。

 

自分の心の目では見えている。

 

いつだって傍にいる。

 

ただ、その人には触れられない。

 

所詮は幻

 

 

 

 

 

愛紗はゆっくりと眼を開けていく。

 

もしかしたら、今の幻が現実になっているかもしれないという淡い期待を持ちながら

 

しかし、そんなわけはない。

 

目の前には湖と湖に写る美しい半月があるだけだった。

 

「ごしゅ・・・さま・・・、どこに・・・いるのですか・・・」

 

そのまま膝をつき、ポロポロと涙をこぼしていく。

 

そして、両手をついて声を出しながら泣く。

 

彼女は決して弱音を吐かない人だった。

 

しかし、ついに我慢の限界がきてしまった。

 

ここなら誰もいないから大丈夫、誰にも見られない

 

そう思って彼女は、いつもは見せない姿をさらす。

 

 

 

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「彼は・・・大丈夫ですよ」

 

「ッ!?」

 

突然の声に愛紗は驚いてしまう。

 

すぐに後ろへ跳ねて起き上がり、戦闘体勢にはいる。

 

「誰だ!!」

 

いくら気が乱れていたからといって、ここまで接近を許すとは

 

愛紗は武人としての自分を恥じた。

 

「大丈夫です・・・。何もいたしません・・・・」

 

愛紗は目の前の人物を観察する。

 

そこには、まさに女神と例えられるような美貌をもつ女性が立っていた。

 

その女性は純白の白装束を身に着けており、肩からは薄水色の布を羽織っていた。

 

まさに天女という言葉が相応しい美しさだった。

 

愛紗はその姿に見とれてしまう。

 

そしてしだいに戦闘態勢を解いていった。

 

なにか彼女からは母性のようなものも感じる。

 

気持ちの重さがスッと軽くなったような感じがした

 

「彼は・・・大丈夫ですよ・・・」

 

「えっ・・・?」

 

そして、その女性は小さな声で語りかける。

 

その言葉に愛紗は呆然としてしまう。

 

いまあの女性はなんと言った・・・

 

「北郷一刀は・・・まだこの世界にいます・・・」

 

「ほ・・本当か!?どこにいる!?ご主人様は今どこに!?」

 

愛紗はその女性のもとへ歩んでいき、その女性に触れようとする。

 

しかし、触れようとした手がスッと女性の身体をすり抜ける。

 

そしてその勢いのまま、愛紗の身体はその女性の身体をすり抜けていった。

 

「!?」

 

あまりの出来事にもう頭がついていかない。

 

突然目の前に現れた女性

 

その女性には触れることはできない

 

そして北郷一刀はこの世界にいるという。

 

愛紗はもう一度その女性の方へ振り向くと、まだその場所にいた。

 

しかし、最初に会ったときよりもだんだんと薄くなってきているのが分かる。

 

「ひ・・・一つ聞かせてくれ!!ご主人様は天に帰られたのではないのだな!?」

 

愛紗は必死な顔で重要な部分を再度確認する。

 

「・・・、はい・・・北郷一刀はこの世界にいます・・・」

 

ゆっくりとした口調でもう一度、言った言葉を繰り返す。

 

「それでは!!いったいどこにいるのだ!?教えてくれ!!頼む!!」

 

そう言った瞬間、その女性の姿は身体から霞となって消えていっていた。

 

しかし、その女性はまだ何かを伝えようと口を動かしていた。

 

その声を愛紗は聞き取ることができない。

 

「頼む!!おしえ・・・」

 

愛紗が叫ぼうとしたときにはもう、その女性の姿はなかった。

 

愛紗はその場に立ちつくしてしまう。

 

そして、そのまま意識が遠のいてしまった。

 

『北郷一刀はまだこの世界にいる』

 

この言葉が頭の中で何度も流れながら

 

 

 

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「あ・・・しゃ・・・、あい・・・」

 

誰かに呼ばれているような気がする

 

「あ・・いしゃ・・・あいしゃ、愛紗!」

 

愛紗はまどろんでいる意識をゆっくりと覚醒させていく。

 

「愛紗!しっかりするのだ!」

 

そして、愛紗はゆっくりと眼を開けていった

 

「ん・・・、りんりん?」

 

まだ起きたてということもあり、目の前が霞んで見える

 

愛紗は眼を擦りながら身体を起こしていった。

 

辺りはまだ薄暗いので、夜明け前というところだろうか。

 

「あいしゃ〜〜〜〜!!」

 

鈴々は叫びながら愛紗の胸に飛び込んでいく。

 

まだ本調子でない愛紗は飛び込んでくる勢いを受けきることができず、身体を押し倒されてしまう。

 

「鈴々?どうしたのだ・・・」

 

状況が把握しきれていない愛紗はいきなりの鈴々の行動に少し戸惑ってしまう

 

「どうしたじゃないのだ!どうしたって聞きたいのは鈴々の方なのだ!!なんでこんなところで倒れてたのだ!鈴々、何回も愛紗って呼んだのに、起きてくれないし・・・、鈴々はめちゃくちゃ心配したのだ!!」

 

鈴々は怒涛の勢いで愛紗を捲し立てていく。

 

鈴々も一刀を捜すためにこの森の中に入っていた。

 

捜しているうちに湖を発見し、そしてその横で倒れている愛紗を発見した。

 

「愛紗がこのまま眼を覚まさなかったらどうしようって・・・鈴々は・・・」

 

愛紗が鈴々の顔を覗き込むと、涙でくしゃくしゃになっていた。

 

愛紗は鈴々の身体を抱きしめて、頭を軽くなでてやる。

 

「すまなかったな・・・鈴々・・・」

 

そして少しの間、鈴々に胸を貸してあげるのだった。

 

 

 

 

少し落ち着いた鈴々は愛紗の身体から少し離れる。

 

「愛紗は何でこんなところで倒れていたのだ?賊にやられたのか?」

 

「いや・・・そうではないのだが・・・」

 

一刀を捜していて、さらにこの場所で泣いていたなどとはとても言えない愛紗であった。

 

「そうだ、鈴々!!お前、ここに来るまでに白装束の女を見なかったか?」

 

「んにゃ?見てないのだ。愛紗はそいつにやられたのか?」

 

「だからそうじゃない!!その女がご主人様のことを知っていたのだ!」

 

「えっ!!お兄ちゃんを!!」

 

鈴々はその言葉に驚きを隠せない。

 

「それで、お兄ちゃんはどこにいるのだ?」

 

「いや・・・、それは聞けなかったのだが・・・」

 

「え〜〜〜」

 

驚きの表情の後、愛紗の言葉を聞いて露骨に残念そうな顔をする

 

「だが、そいつが言っていた。ご主人様は天に帰られてはいない。この大陸にいると」

 

「本当!!鈴々を置いて帰ったんじゃないの!!」

 

そして次はパァっと明るい笑顔になっていく。

 

一刀は見つかったわけではないが、天に帰ってはいない。

 

その言葉を聞いて鈴々の表情がみるみると明るくなっていった。

 

「とにかく、桃香様と朱里のところへ戻るぞ!このことを伝えねば!!」

 

愛紗はすばやく立ち上がり、野営地へと駆けて行く。

 

「あっ!待つのだ〜。愛紗〜」

 

その後をすぐに鈴々がついていく。

 

いままでは“捜しても見つからないかもしれない”という不安が大部分を占めていた。

 

しかし、あの女性の言葉により“捜せば見つかるかもしれない”と少しだけ希望が持てるようになった。

 

もう、そこには湖で泣いていた頃の愛紗の姿はなかった。

 

 

 

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二人が野営地に着く頃にはもう明るくなっていた。

 

この時間にはもう朱里や桃香は起きているはずだ。

 

二人は会議を行うために使われるテントへと向かっていく。

 

「すまない!!遅れた!!」

 

「ごめんなのだ!!」

 

二人は勢いよくテント内に入っていく。

 

「愛紗さん!鈴々さん!どこに行ってたのですか!?」

 

テントの中では朱里がいつもどおり出発前の整理をおこなっていた。

 

桃香はまだ来ていない様だった。

 

「“てんと”を訪ねてもいなかったし・・・ご主人様のこともあるのですから、あまり心配させないでください。もう少ししたら捜しにいくところだったんですよ」

 

「ほんとにすまない!だが、いい情報がはいった。ご主人様は天の国には帰られていない!この大陸のどこかにいるそうだ!」

 

「!!本当ですか!?」

 

朱里は愛紗の言葉にかなり驚いた。

 

そのため、手に持っていた幾つかの書類を床にぶちまけた。

 

「詳しい話をしてください。誰からその話を聞いたのですか?」

 

愛紗は昨日の夜の出来事を朱里に話していく。

 

愛紗が話をしている途中で桃香もやってきたので、桃香も一緒になって愛紗の話を聞くことになった。

 

「すごいよ!!愛紗ちゃん!!はやく冥琳さんに連絡しないとね!!」

 

愛紗の話を聞いて桃香がすぐに伝令の準備するためテントを出ようとしたその時、

 

「ちょっと待ってください・・・」

 

桃香の行動を朱里が制止する。

 

「どうしたの?朱里ちゃん?」

 

「いえ・・・、その話・・・本当に信用できるのでしょうか・・・」

 

朱里が顎に手を当てながら、難しい顔をする。

 

「??どういうことなのだ?」

 

鈴々は首をかしげる。

 

その様子を見てから、朱里が少しずつ話していく。

 

「その女性は怪しすぎますよ。愛紗さんが人探しをしていてその人物が北郷一刀様だって、なぜその人は知っているのですか?」

 

「それは町に高札とか立てさせてもらっているからそれで分かったんじゃないのかな?」

 

「ですが、偶然森の中で会った人物がその立て札を立てた人物又はその関係者だってどうして分かったのでしょうか?」

 

朱里は淡々と答えていく。

 

「愛紗さんもその人とは一度も会ったことないんですよね?」

 

「ああ・・・、会った覚えがないな・・・」

 

「それに身体をすり抜けたとか普通じゃ考えられませんし」

 

朱里は愛紗の妄想ではないかとすら考えていた。

 

でも、今回の愛紗の表情はまさに真剣そのもの

 

とても妄想とか夢の話をしているようには思えなかった。

 

「もしかしたら何者かの罠といった可能性もありますし・・・慎重になるべきだと思います」

 

「だが・・・、私はあの女性は大丈夫だと思うんだ。理由は?と聞かれればそれまでなのだが・・・」

 

愛紗もすこし考え込んでしまう。

 

「別に愛紗さんの記憶を疑っているわけではないんです。初めての手がかりというのは確かですからね。どんな情報でも報告はすべきです。情報を得た状況を詳しくまとめて、可能性もできるだけ提示してからの連絡という形にしましょうか。伝令の準備は私がしますので、皆さんは成都へ向かう準備をしていてください」

 

そういうと朱里はすぐにテントから出て行った。

 

桃香には去り際の朱里の顔が少し見えたのだが、とてもうれしそうな顔をしていた。

 

ああ言ってはいたが、やはりこの情報は朱里にも少しの希望を与えたのだ。

 

「よし!そうと決まったらさっさと撤収作業をして成都へ向かおう!!」

 

桃香の言葉に呼応して、愛紗と鈴々は“おう!”と返事をする。

 

そして、朱里が散らかした書類をまとめ、すぐにテントの撤収作業にかかっていった。

 

 

 

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テントの撤収作業は思いのほか速く終わったため、いつもより早い時間に出発することになった。

 

皆の雰囲気も心なしかよくなっている。

 

愛紗たちの気持ちも幾分か軽くなったようだ。

 

「桃香様、成都の町が見えてきました。準備をお願いします」

 

「うん、わかった。みんな元気かな?それに、他にも何か情報があるといいね」

 

桃香も前とは打って変わって、すこし前向きな思考ができるようになっていた。

 

「そうですね」

 

愛紗は優しくそう答えると後ろから兵士に声をかけられる。

 

「報告します!!西の方角から正体不明の砂塵がこちらに向かって突進してきます!!」

 

「何っ!!」

 

その報告を受けて愛紗がその方向を向くと確かに砂塵が舞っている。

 

「何人か偵察に向かわせて、残りは戦闘態勢!!なにがあっても備えられるようにしろ!!」

 

愛紗が伝令にそう伝えたその時

 

「ぶるぅぅぅうぅぅっぅぅぅぅぅうぅっぅるぅらぁぁぁああぁぁぁぁぁっぁあああぁぁっぁぁあ」

 

という身の毛がよだつ声が聞こえてきた。

 

「この声は・・・」

 

「貂蝉なのだ!!おおーーい。ここなのだ〜〜〜」

 

鈴々は周りがびっくりするぐらいの大声で彼女?を呼ぶ。

 

「こら、鈴々。あんまりややこしい奴を呼ぶな」

 

鈴々を少し注意した後にもう一度貂蝉のほうを見ると、鈴々の声が聞こえたのか迷わずまっすぐこちらに向かってきた。

 

そして愛紗たちの目の前で急にピタッと止まった。

 

貂蝉はいつものピンクのパンツ一丁というスタイルは変わらなかったが、背中には大きな鞄があった。

 

「あっら〜〜ん、愛紗ちゃんに鈴々ちゃん、ひっさし振りだわぁ〜〜ん。お祭り以来かしらぁん?」

 

貂蝉は必要以上にクネクネしながら話し始める。

 

「それ以来になるか・・・それからどうしてたのだ?あれ以来、城には来てないのか?」

 

「そうねぇ、あれからぁちょっとぉ忙しくなっちゃったからねぇ〜」

 

「その背負っている荷物はなんなのだ?」

 

鈴々が貂蝉の後ろの荷物を指差す。

 

「荷物?荷物なんて私背負ってないわよぉ〜」

 

「いや、思いっきり背負ってるではないか?その馬鹿でかい荷物を・・・」

 

愛紗も鈴々と一緒に荷物を指差す。

 

「私は荷物じゃなくてぇ、人をおんぶぅしてるのよぉ〜」

 

「は?」

 

“これが人?”というように二人の顔はぽかんとしていた。

 

「ほらぁ〜、いつまでもぉあたしの背中にしがみついてないでぇ、皆さんにぃ、ご挨拶してぇ」

 

そういうと貂蝉の背負っていたと思われる荷物がひとりでに地面に落ちた。

 

そして、貂蝉の後ろからトコトコと前に動いてくる。

 

よく見ると、大きな荷物を背負った小さい一人の少女が出てきた。

 

どうやら大きな荷物を背負っている少女が貂蝉の背中にしがみついていたらしい。

 

少女は明らかに身体に合っていないブカブカの紺色のフード付ローブのようなものを着ており、顔の上半分はフードで隠されていた。

 

しかし、そこからでも顔を真っ赤にしているのが分かった。

 

「かっ、かわいい・・・」

 

「おお〜、鈴々よりちっちゃいのだ」

 

愛紗はその小さな少女に見とれてしまい、鈴々はその少女の横に立って背を比べている。

 

「みゅ・・・みゅぅぅぅ〜」

 

少女は背負っている荷物をその場に置いて、また貂蝉の後ろに隠れてしまう。

 

“置いて”というか“落として”という表現が正しいかもしれない。

 

そして、ちょこっとだけ顔を出して、愛紗と鈴々の様子を伺っている。

 

「はぁぁぁ〜〜〜」

 

愛紗はその様子にもう撃沈状態になっている。

 

「恥ずかしがっていないでぇ、お名前をぉ教えてあげてぇぇん」

 

貂蝉はその少女のフードの上から頭を撫で、優しく声をかけたつもりだったが

 

「にゅぅぅぅうぅぅぅ〜」

 

とかわいい声を上げながら貂蝉からも離れていく。

 

そしてその少女は桃香の乗っていた馬車の後ろへと身を潜める。

 

「なんでなのぉぉ〜、今まで一緒だったじゃないぃ〜〜」

 

貂蝉がさらにクネクネしだす。

 

「貂蝉、まさかお前・・・あんなかわいい子を・・・」

 

愛紗の冷たい目線が貂蝉に襲い掛かる。

 

「ちがうわよぉぉ〜〜、私みたいな乙女がそんなことするはずないじゃないぃ」

 

「なら、あの子は誰なのだ」

 

「それはぁ〜〜」

 

と貂蝉が話し始めようとしたとき

 

「超かわいい〜〜。ねぇねぇこの子どうしたの〜」

 

と馬車の後ろから桃香がその少女を抱えてこちらにやってきた。

 

抱えられている少女は指先一つ動かさずそのまま固まってしまっている。

 

そして、みんなの前に来た桃香はその子を離してあげる。

 

離してあげたとたん、また貂蝉の後ろに隠れてしまった。

 

「ねぇねぇ〜その子はどうしたんですか〜〜?」

 

「それを今から聞こうとしているところです。貂蝉、もしも善からぬことをしていたなら・・・」

 

愛紗は青龍偃月刀に手をかける。

 

「ちょっ、ちょっと〜〜ん、あなたが自己紹介してくれたら終わる話なんだからぁぁ〜ん。お願いっ!!ねっ!恥ずかしがらずにぃ」

 

貂蝉はその少女に土下座をする勢いでその子に言い寄っていく。

 

「みゅっ・・・・・」

 

貂蝉の勢いに飲まれたその子は顔を引きつらせたまま、また固まってしまった。

 

「貂蝉・・・、貴様・・・」

 

愛紗がゆっくりと青龍偃月刀の刃を貂蝉に向けて構える。

 

「愛紗ちゃんも落ち着いて・・・、ここは私に任せて!!」

 

桃香はそういうとその少女の目線に合わせるためにしゃがみこむ。

 

「わたしは、劉備っていいます。あなたのお名前は?」

 

桃香が持ち前のポワポワしたオーラを全開にしてその少女に話しかける。

 

少女もその雰囲気に安心したのか少しだけ固さが抜ける。

 

「んんっ・・・」

 

「もう少しです。桃香様」

 

「緊張しなくてもいいよ〜〜。私はこの人たちと違って怖くないですからね〜〜」

 

「ひどっ、桃香ちゃんそれはないわぁ〜〜ん」

 

「桃香様・・・そこに私は入っているのですか・・・」

 

桃香は二人の言葉を無視して話しかけ続けていた。

 

すると、その少女は被っていたフードを頭から取り除く。

 

薄い銀色の髪が外気にさらされる。

 

そして少しずつ口をパクパクさせて何かを言おうとしているのが分かった

 

「・・・・・・ろ・・・です」

 

「えっ?」

 

桃香がもう一度聞きなおすと

 

「わ・・・わた・・・わたしは・・・」

 

「うんうん、あなたは・・・」

 

 

 

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「か・・・管輅・・・って言います・・・」

 

「「「えっ?ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」」

 

桃香、愛紗、鈴々の叫びがこだました

 

 

 

END

 

 

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あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

今回の話も読んでいただいて本当にありがとうございます。

 

今は黒天編第一部を書いているつもりです。

 

全2部構成を考えております。

 

生暖かく見守ってください。

 

 

 

 

 

 

さて、次回のお話は

 

魏の行軍は滞りなく進み、洛陽の町に到着する。

 

本国の者たちとも合流し、城内で情報を確認しあう。

 

そこに一つの報告が舞い込んでくる。

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第5章 「魏軍、洛陽到着」

 

では、これで失礼します。

 

説明
どうもです。第4章になります。
今回、名前ありのオリキャラが少しだけ登場します。

あらすじ
会議が終了した後、朱里と冥琳はさっそく捜索範囲についての会議を始めた。
稟は華琳のもとへ行き、状況を報告する。
そして三国会議から一夜が明け、各国へ向けて捜索隊が派遣された。
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はりまえ様 アロンアルファ様>まさかまさかの幼女で小動物系?です。(salfa)
まさかまさかの小動物系!?(アロンアルファ)
まさかの幼児!?(黄昏☆ハリマエ)
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