真説・恋姫演義 〜北朝伝〜 幕間の九
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 「お加減はどうですか?」

 

 寝台の上で上半身を起こしている女性に、優しく声をかけるその人物。

 

 「……はい。おかげさまで、体力もほとんど回復しました」

 

 「それは良かった。しかし本当に驚きましたよ、あれだけの怪我をなさっていたのに、みるみるうちに回復なされていくのですから。医者も、到底信じられない、とぼやいていましたよ」

 

 寝台の横にある卓に、水差しの乗った盆を乗せ、その女性に笑顔でそう語りかける。

 

 「……生まれつきの、特異な体質でして。……首が胴から離れない限りは、大抵の傷は治ってしまうんです。昔はそれで、随分いじめられました。……化物って」

 

 悲しげに、女性はそうつぶやく。

 

 (……”あっちの姿”の時は、ご主人様たちにも、散々言われてたけど)

 

 「……悲しいですね、人間というのは」

 

 「まあ、それでも中には、こんな私を気味悪がることもなく、普通に接してくれる人もいますけど」

 

 (……白ちゃん……無事よね?ご主人様のところに、生きて辿り着けたわよね?)

 

 「さ、それじゃあ、薬を飲んだら、もう少し眠っていてください。万全を期さないと、何かのときに困りますからね、王?さん」

 

 「あ、はい。……ありがとうございます、?徳どの」

 

 その人物−?徳・字を令明に頭を下げるその女性−王?。

 

 

 長安での一件の後、王?は逃亡の果てに、涼州に辿り着いていた。全身傷だらけになり、息も絶え絶えで彷徨い、流石に体力も底を尽きて倒れこんだ彼女を、たまたま近くまで賊討伐に来ていた、涼州連合の長である馬家の長女馬超と、その従姉妹である馬岱が、彼女を運良く見つけたのである。

 

 それから一月。

 

 表面的な傷は、彼女のその特異体質−異常なまでの回復能力−によって、瞬く間に治ったものの、体力は流石にその範疇ではなく、ここ涼州にて、養生の日々を送っていた。

 

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  そんなある日。

 

 「行くぜ、狼(ろう)兄ぃ!おりゃあー!!」

 

 「甘い!」

 

 馬超の繰り出す練武用の棒を事も無げにかわし、その足を自分の持っている棒でもってひっかける?徳。

 

 「おわっ!」

 

 「まだまだ動きが大雑把過ぎるぞ、翠。次!蒲公英!」

 

 「は、はい!」

 

 二人の練武を見ていた、もう一人の栗色の短髪の少女−馬岱に、?徳がかかって来いと促す。

 

 「いっくよー!やーー!!」

 

 「……なんだ、そのへっぴり腰は!もっと重心を落とせ!脇も甘すぎる!」

 

 馬岱の悪いところを指摘しつつ、棒を叩き落し、足を引っ掛け転ばせる。

 

 「はうっ!……狼兄ずるい!足使うの反則ー!」

 

 「……あのな。戦場でそんなこと言えるのか、お前は。命のやり取りの場で、卑怯も何もないだろうが。……殺されたら文句も言えなくなるぞ?」

 

 「う」

 

 地面に座り込んだまま、文句を言う馬岱を?徳がそう叱咤し、言われた当人は何も言い返せず、言葉に詰まる。

 

 「……まあいい。今日はこれぐらいにしよう……ほら、いつまでもふてくされてない。可愛い顔が台無しだぞ?」

 

 「べーっだ!狼兄に可愛いって言われても、嬉しくなんかないよーだ!」

 

 「……あ、そう。……ん?翠、どうした?」

 

 べーっと舌を出して言った馬岱の言葉に、少々落ち込みながらも、?徳は、馬超が元気なさそうにしていることに気づいた。

 

 「いや、大したことじゃあ無いんだけどさ。あの王?っての、確か、前の皇帝陛下のお付の人だったって聞いたけど、ほんとなのか?狼兄」

 

 「……そう聞いてるけどな。それに、あれの話が本当なら、前陛下も、どこかでご存命かも知れん。ただ、そんな噂を聞かないところ見ると、偽名を使って、その素性を隠しているのかもしれんが」

 

 「で、おば様はなんて言ってるの?」

 

 「……都に、攻め込むかもしれないそうだ」

 

 『な?!』

 

 馬岱の言うところのおばさまーつまり、馬超の母である馬騰は、漢朝への忠義心篤い人物である。だが、それはあくまで、皇帝に対して、という意味である。現状、朝廷を実質的に動かしているのは王允である。さらに、王?の証言が正しければ、その裏にまだ別の黒幕がいるとのこと。

 

 そんな状態の朝廷に従う気など、馬騰にはさらさらなかった。それどころか、都を急襲して王允らを駆逐し、現皇帝である劉協を奸臣どもから救出したいとすら、考えているくらいである。

 

 

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 「……実際には、まだ西涼の諸部族たちとの意見がまとまっていないので、すぐにどうこうと言う事は無いだろう。だが、それも時間の問題だと思う。早ければ、年内にも動くかも知れん」

 

 『……』

 

 また戦になる。

 

 その可能性がだんだんと高まって来ている。それは何も、涼州だけではない。中原でも荊州でも河北でも。そして、大陸全土で、その機運が高まりつつある。

 

 もはや、乱世の到来は避けられないところへ来ている、と。?徳は二人の友にそう言って聞かせた。

 

 そこに。

 

 「狼どの、こちらでしたか」

 

 「王?どの。……どうかされましたか?」

 

 王?が三人の下に、その姿を現した。すでに体力は完全に回復しており、行動するのに何の支障もなくなった彼女は、現在馬家の食客となっていた。

 

 「そんな、姓名でなどと他人行儀はおやめくださいな。せっかく真名を交し合ったのですから、どうかそちらで呼んでくださいな」

 

 「ああ、いや。解ってはいるんだが、つい、な。……なんとなく、口がその名を呼ぶのを拒絶しているような気がするんだよ。あ、いや!もちろん、悪気があって言ってるんじゃないんだ。気を悪くしたならすまない。この通りだ、許してくれ……”貂蝉”」

 

 王?にたいし、その頭を深々と下げつつ、?徳が彼女の真名を呼ぶ。

 

 「いえいえ、私は特に気にしていませんから。頭を上げてくださいな」

 

 (……記憶が封印されてても、その魂が拒否してんのね……。そんなに嫌なのかしら、あの姿)

 

 「で、どうしたんだよ、王りょ…いや、貂蝉。なんかあったのか?」

 

 「……お別れを、伝えにきましたの」

 

 『……え?』

 

 永らく行方不明となっていた友。その安否がようやく判明し、居所を掴む事が出来た。そのため、今日の昼には、この地を発つと。王?は三人にそう語ったのである。

 

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 「皆さんには大変お世話になりましたのに、こちらの都合で出て行くのは心苦しいのですが、私は、あの子の傍にいなければいけないんです。あの子を守り、そして、見守ることが、私がこの世で為すべき事。どうか、身勝手を許してくださいまし」

 

 深々と。

 

 王?は三人のその頭を下げる。

 

 「……そっか。よっぽど、その人が大事なんだな。で?その人は今どこに?」

 

 「……河北の、冀州です」

 

 「河北の冀州?っていうと確か、北郷の……」

 

 「ええ。今はご主人さ…あ、いえ、北郷様の下でお世話になっているそうです」

 

 「翠。北郷って、例の……か?」

 

 「ああ。……あの呂布と互角に戦う、めちゃくちゃ強い奴。そして……」

 

 「そして?」

 

 「……何でもねえよ」

 

 途中でその言葉を区切り、ふいと、そっぽを向く馬超。その脳内に、あの時の、水関で見た一刀のその悲しげな瞳が蘇る。

 

 「……あれー?お姉さま、顔赤いよ?……はっはーん。さては……」

 

 「んあ?!な、何言ってんだ蒲公英!私は///」

 

 「……めちゃくちゃ真っ赤だぞ、翠」

 

 「狼兄まで〜!!」

 

 『あははははは』

 

 

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 そして、その日の午後。

 

 「では、皆様。永らくお世話になりました。どうか、皆様もご自愛を」

 

 街の正門にて、馬超、馬岱、そして?徳の三人に、旅支度をした王?が拱手をして、別れの挨拶をしていた。

 

 「本当なら、母上も見送りに来たがっていたんだが、部族長たちとの会談が急に入っちゃってな。よろしく伝えてくれと、そう言っていたよ」

 

 「そうですか。馬騰さまにも、是非によろしくお伝えくださいな。翠ちゃんも蒲公英ちゃんも元気でね」

  

 「うん!貂蝉さんも!」

 

 「それから……狼どの」

 

 「ん?」

 

 その妖艶さ漂う瞳を、貂蝉が?徳へとむける。

 

 「……いえ。ごめんなさい。なんでもないわ。……それじゃ」

 

 「あ?ああ。……元気でな、貂蝉」

 

 「ええ。そちらも」

 

 言葉を途中で濁したまま、王?は馬超らに背を向け、涼州を旅立った。

 

 そして、少しした後、街を振り返ってつぶやいた。

 

 「……まさか、貴方がここにいたとは思わなかったけど、これも世界の意思なのかしらね。その肉体は外史の人間のものとはいえ、その魂は、私と同じく”あちら”の者。それがどんな影響をこの外史に及ぼすことになるのやら。……ま、先のことはわからないし、今悩んでてもしょうがないか。さてっと!」

 

 再び進行方向へと、その視線を転じる。

 

 「白ちゃん、そして、ご主人様。あなた達の貂〜蝉ちゃんが、今からいっくわよ〜ん!だから、もうちょっとだけ、待っててね〜!!……ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 一陣の土煙となり、それはもう、信じられないような速度で駆け出す王?。その行く先は、冀州は?。

 

 親愛なる友の下に。

 

 そして、

 

 愛しい男のその傍に。

 

 乙女は風のように走るのであった。

 

 

 〜えんど〜

 

 

説明
久方ぶりの北朝伝更新〜。

といっても、幕間ですがね。

今回は、しばらく出番の無かった”あいつ”が登場。

そして、とあるオリキャラが初出w

さ、あれはいったい誰だ?!

・・・なんちってねwww
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コメント
トッティさま、はい、仕方ないですw あと誤字報告どうも。今直しましたので。(狭乃 狼)
魂レベルでの拒否反応wあの姿なら仕方ない(笑)…それと誤字報告です。1Pの7行目、「得意」ではなく「特異」ではありませんか?(トッティ)
無双さま、そんな来々イヤー!www(狭乃 狼)
ロンロンさま、もしかするか?もしかするのか?www(狭乃 狼)
mokiti1976−2010さま、ツケの代償にケツをほらr(えw(狭乃 狼)
poyyさま、漢女じゃないから大丈夫・・・かとw(狭乃 狼)
よーぜふさま、大丈夫、戻ってませんw(狭乃 狼)
ryuさま、来たぞー。来たぞー。ぶるぶるあああああ!www(狭乃 狼)
hokuhinさま、一刀は無事、貞操を守ることができるのか?!w(狭乃 狼)
2828さま、馬どころか車よりも速いかもw(狭乃 狼)
紫炎さま、さあ、一刀の貞操はどうなる?!w(狭乃 狼)
アロンアルファさま、とりあえず落ち着いてくださいw(狭乃 狼)
砂のお城さま、あれはほんと、表現しがたいですw(狭乃 狼)
ほわちゃーなマリアさま、姿が見えないほどの速さだったりしてw(狭乃 狼)
東方武神さま、そりゃもう、間違いなくw(狭乃 狼)
はりまえさま、そうですね。皆さんのご無事を祈りつつ、これからもがんがん行きたいと思います。(狭乃 狼)
貂来々!貂来々!!貂来々!!!(無双)
貂蝉は変態でなければ尊敬できる種類の人間だからもしかしたらもしかするかも(龍々)
次回一刀に危機が迫る!これは種馬スキルを放出しまくっていたツケなのか?それとも外史の大いなる意思なのか?(mokiti1976-2010)
ふ、復活してはいけないものが復活してしまった。(poyy)
あれ?最後に漢女にもどっちゃいましたか?? か、一刀逃げt・・・(よーぜふ)
ああああ、あいつがきたぞーー!(ryu)
次回は北郷一刀最大の危機かw(hokuhin)
ぶるぁぁぁって走ってるのかよ涼州なんだから馬乗れよ・・・・・馬より早そうだけどさ・・・w(2828)
ああ、一刀君。君に危機が迫っているよ 。逃げろ逃げろ逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!(紫炎)
やつが…、やつが復活したア!!(アロンアルファ)
そのお決まりの台詞「ぶるぁぁぁぁ」は、大陸全土に響き渡ったのは言うまでもなかったでしょうねwwあの姿は、間違いなく怪物・妖物・化物と言われていたので、王?の姿で言うと怪しい人に見えてしょうがないです(ほわちゃーなマリア)
今頃一刀は悪寒が走ってるだろうなぁ(東方武神)
作品出している方々は無事なのか心配です・・・・無理せずがんばってください。(黄昏☆ハリマエ)
namenekoさま、そして伝説となるんですね。わかりますw(狭乃 狼)
村主7さま、シュール、だがそこがいい(ぇ; オリキャラのレギュラーは・・・未定w(狭乃 狼)
美女がぶるぁぁぁぁぁぁぁって駆けていくのは怖いぞ(VVV計画の被験者)
成る程、「アイツの出番」納得w しかし5p目お決まりの台詞「ぶるわぁぁぁ」+超スピードで駆けて行く美女の姿・・・シュールと申しましょうかw オリキャラについては、レギュラーっすか?(村主7)
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恋姫 北朝伝 馬超 馬岱 王? 一刀 

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