SEASON 3.偶像の季節(前編)
[全23ページ]
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「初めましてだね。私はいつも見てるから初めてっていう気はしないけどさ」

どこからか女の子の声が聞こえる

ここは夢の世界

 

「君は誰なんだ?」

姿の見えない女の子に聞いた

 

「そのうちわかるよ。時がくれば必ず…」

 

「秘密主義なんだな」

 

「そんなこともないけどね」

 

「じゃあ教えろよ」

 

「ふふっ、ひ・み・つ」

 

「なんだよ、それ……」

 

「名前ぐらいは教えとこうかな。私は……」

 

「えっ、聞こえない」

確かに口は動いているのに聞こえない

 

「やっぱりね。時間がくればわかると思うから待ってて」

 

そういうと声の主はいなくなった

そして目が醒めた

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「おっはよ、慶ちん、唯」

「おはよう、拓郎」

「おう」

いつもと同じ日常。

「今日は遅刻じゃないんだね」

不思議そうな顔で拓郎が俺の顔を覗き込んできた。

「お前もだろ、こんな時間にあうのは久しぶりだぞ」

「慶ちんがいつも遅れてくるからじゃん」

「私はこの時間に2人に会うのはいつ以来かしらね?」

何も言えなくなった2人を尻目にクスクスと唯が笑いだした。

「それにしても2人ともなんでこんなに早いの?」

 

 誇らしげに拓郎は親指をグッとして

「もちろん、寝てないからでしょ!」

100万ドルの笑顔で言い放った。

 

 直後、バシン!と音をたて100万ドルの笑顔に唯の平手がめり込んだ。

「何すんだよ〜!でもこういうのもいいかも……」

100万ドルの変態顔がそこにある。

「拓郎……指下向いてたぞ」

「へっ!? んじゃ人差し指と中指の間に入れるんだっけ?」

 

ドカン!

拓郎が床に横たわっていた。

「そこまで強いのはいらない」

この変態に付き合うのはやめよう。

 

「それで?慶は?」

「変な夢を見てな。気になって寝れなくなっちゃったんだよ」

「へ〜、どんな夢? Hな夢でも見てたんでしょ」

「そう、唯とちょっとな」

「えっ!? 嘘っ!?」

「結構いい体してんだな」

「ちょっと! 何したのよ!」

「あんなことやこんなこと」

「あんたね〜!!」

さすがにからかうのもやばい……気のせいか角が2本見える。

「嘘だよ、それがあんまり覚えてないんだよ」

「本当でしょうね!」

「まじだって。誰かと話をしたような気がするんだけど」

今朝から思い出そうとしているのだが全然思い出せない。

「無理に思い出さなくてもいいんじゃない?覚えてないってのは大切なことじゃなかったのよ」

「そうだよな」

 

 外を見ながらまた思い出そうとしたがやっぱり思い出せない。

かわりに僕も唯の体見たいという声と綺麗な乾いた音が聞こえてきた。

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そろそろ竜祈がくる頃だ。

気づけばもう少しで昼休みに入る。

 

「今日は何食べよっかな〜」

左頬に手形をつけた拓郎が椅子を傾け考えている。

 

お前はいつもどおり焼きそばだろ。

 

「やっぱり焼きそばかな。てへっ」

授業中だったがあまりにも簡単な答えに拓郎を支えている2本の足を払ってやった。

豪快に転げた拓郎はひっくり返った蛙のようだった。

っと同時にチャイムがなった。

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「今日は私お弁当だから」

唯は小さな弁当箱を持って数人の女子と出ていった。

「いや〜、唯も友達できてよかったよね」

「まあな。あいつなら当然だろ」

「そうだね。それに比べ僕達は……慶ちん! 寂しいね」

「お前と一緒にするな」

「うっ、慶ちん冷たい。にしても竜祈来ないね」

「あぁ、いつもなら豪快に来てるはずなんだけど遅いな」

「うん、もうちょっと待って来なかったら行こうか」

「そうだな。まぁすぐに来るだろ」

 

 しかし、この日竜祈が来ることはなかった。

何が楽しくて拓郎と2人っきりで学食に行かないとだめなんだろうと思いつつ学食で拓郎の焼きそばを大量の紅く染まった生姜で彩ってやった。

 

 学食の帰りに竜祈のクラスを覗いてみる。

「あれ? 今日休みなのかな? ほとんど休まない奴なんだけどね」

「珍しいこともあるんだな」

 

 

 気になりながら教室に戻る途中俺達を見ながらひそひそ話す声が聞こえた。

「僕達何かしたっけ?」

「あんなに紅生姜食べたからじゃないのか?」

「あんたが入れたんでしょうが!」

「オヤジギャグか?」

「違うわい! たまたまだよ!」

 

 

 くだらないことを言いながら通り過ぎると遠くから唯が走ってきた。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「どうした?そんなに慌てて」

「今日竜祈来てる?」

「いや、来てないみたいだけど……」

「屋上で聞いたんだけど、竜祈停学になったみたいなの」

「嘘っ!? まじで!?」

「まだらしいってことでしかわからないけど昨日喧嘩して補導されたみたいなの」

「拓郎、そうなのか?」

「帰り途中で用事あるからって別々に帰ったからわからないよ」

「なんでかはわかるか?」

「それがよくわからないのよ。みんな竜祈だからなって感じで話してるから。でも明後日には出てくる話だわ」

「家に行ってみるしかないな」

「そうだね。なんか買ってってやろう」

学校が終わったら竜祈の家に行くことに決まったが……

 

「おい!お前ら!」

呼ばれた方を見ると生活指導の教師がいた。

いつも俺達を厄介者扱いする教師だ。

唯だけは俺達とつるんでいるだけで成績は優秀なので例外だったが。

 

 

「橋爪の家に行く気だろ?」

「そうですけど悪いすか?」

拓郎が不機嫌に答えた。

 

 拓郎はこの教師とことあるごとに衝突して口論している。

「あいつは謹慎中だ。行ったらお前らも停学にしてやるからな。特に五十嵐、お前はな」

「停学くらい怖くないっすよ」

「お前ぐらいなら退学にすることもできるんだぞ!」

お前にそんな権限どこにあるっと思ったがこいつならやりかねないな。

「そうですね、んじゃ止めときますよ」

拓郎と教師の間に割ってはいった。

このままだと本当にまずいことになりそうだ。

「神林か、そんなこと言って行くんだろ? 残念だが俺が橋爪の家にいるから無駄だぞ」

ムカつく奴だ、拓郎が嫌いなのもわかる。

「警告したからな。学校辞めたいなら遊びにこい。はっはっはっ」

笑いながら奴はいなくなった。

 

「どうするの?慶?」

唯が心配した顔で聞いてきた。

「しょうがないから明後日まで待とう」

「そうね。ほんとあいつどうしたのよ」

「大丈夫だって、また笑いながら来るよ」

「そうね。あいつなら大丈夫よね」

「あぁ」

怒りで震えている拓郎を落ち着かせ教室に向かった。

でも、あの温厚な竜祈がなんで喧嘩なんて昔のクセが抜けてないのか?

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 その日と次の日は何かぽっかりと穴が空いている気がした。

たまに誰かが休む時はあるが停学ってことはなかったからかもしれない。

ただの休みと変わらない気もしてるんだがやっぱり心配だ。

早く登校してくる日にならないかな。

唯も拓郎も元気がないのに気にしてないフリをしているのが痛々しすぎる。

 

 竜祈が登校してくるはずの日、俺達は集まりすぐに竜祈のクラスに向かった

「あれ?竜祈いない」

拓郎がキョトンとしていた。

「話だと今日来るはずよ」

「ちょっと聞いてみるか」

教室にいる奴に聞いてみることにした。

「なぁ、竜祈きてないのか?」

「さっき先生と一緒に職員室にいきました」

「そっか、ありがとう」

「い、いいえ」

なんでこいつこんなに怯えてんだ。

「よし、職員室の前で待つか」

「うん、そうしましょう」

俺達は急いで職員室前まで向かった。

 

「まだ出てこないのかな〜、待ちくたびれちゃったよ」

拓郎が退屈そうに座り込んでいる。

「まだ来たばっかりじゃないの。それなら教室に戻ってたら?」

「そんな冷たいこと言わないでよ〜。僕だって竜祈に早く会いたいよ」

「なら黙って待ってなさいよ」

「まあ、唯。それぐらいにしてやれよ」

「うん……ごめん」

「うう……僕には冷たいのに慶ちんの言うことには従うのね」

「お前、その気持ち悪い座り方で泣き崩れるの止めろ」

 

 少しすると職員室のドアがあいた。

 

「あっ!? なんだお前ら! 橋爪を待ってんのか!?」

あのムカつく教師のお出ましだ。

「竜祈は来てるんですか?」

なんでこんな奴に敬語を使わないといけないんだ。

「あぁん!? 来てるがそれがなんだ!? もう授業が始まるぞ。さっさと戻れ!!」

「くっ、戻ろうぜ」

俺は2人を連れ教室に戻ることにした。

 

「なんだよあのクソヤロウ!少しぐらい言い方ってもんを考えろって」

教室に戻る途中、拓郎が怒りをあらわにして歩いていた。

通りすがる生徒はみんなよけ、モーゼの十戒のようになった。

たまには拓郎も役立つもんだ。

 

 

「まあいいじゃないか、竜祈が来てるのがわかったんだ。次の休み時間にでも行こう」

「そうよ拓郎、あと少しで会えるんだから落ち着きましょ」

「あぁ、そうだね」

まだ不機嫌なようだ。

 

 こういう時は唯でも拓郎をなだめるのは難しい。

俺と唯は顔を見合わせふぅっとため息をついた。

「でも竜祈がちゃんと出てきてよかったね」

やはり唯も嬉しかったみたいだ

この2日間見られなかった笑顔があった

「そうだな。意外と存在感あるやつだったんだな」

「体が大きいからじゃない?」

「それもあるかもな」

 

 2人で笑った、たった2日なのに久しぶりのような気がした。

「うぅ……2人だけで楽しそうにならないで」

「お前は1人で怒ってろ」

「仲間に入れてくだしゃ〜い」

足にしがみつく拓郎を引きずり唯と話しながら席についた。

もしかしたら拓郎のなだめかたを見つけたかも知れない。

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 楽しみなことが待っている時に限って時間は進まないものだ。

いつもより授業が長く感じる。時間は進まないがうずうずしている拓郎の席が前後左右に進んでいる。

もはや……気持ち悪い。

唯に怒られしばらく止まるがまた進みはじめる。

そんなやり取りを繰り返している間に休み時間になった。

 

 3人でこれまでにないぐらいのスピードで竜祈のクラスに向かった。

「お〜い、竜祈!!」

拓郎の嬉しそうな声が教室に響いた。

教室の端から竜祈が歩いてきた。

ゴッと鈍い音がなった。

竜祈の拳が拓郎の頭を打ち抜いた。

 

「相変わらずうるせぇんだよ」

「痛いよ〜、でもなんか嬉しいや」

ドガッ、ボゴッ、ガスッ

とりあえず竜祈と一緒に攻撃してみた。

「そうそう、この痛みが気持ちいい……ってそういうことじゃないから。でも唯のなら……」

パ〜ン

「すみましぇん、痛いから勘弁して」

「拓郎は置いといておかえり、竜祈」

満面の笑顔の唯が握手を求めた。

「ただいま。心配かけたな」

がっちり握手を返した竜祈。

 

 やっぱり俺達はこのメンツでいるのが1番いい。

「心配かけたな慶斗」

すっと右手が差し出された。

「もう慣れてるよ」

なんとなく照れ臭かったが差し出された右手を強く握りしめた。

「僕も心配したよ」

拓郎も握手を求めた。

「悪かったな」

握手をするフリをして中指を曲げ拒否。

「いいんだ〜いいんだ〜。僕なんてそんなもんさ〜」

廊下の隅っこでいじけてしまった。

「嘘だって、悪かったな」

「わかってるよ、いつからの付き合いだと思ってんだよ」

言葉とはうらはらに嬉しそうな顔して握手を求めた。

……が再び拒否。

「僕の友達は愛と勇気だけだよ」

「そんなに落ち込むなよ」

竜祈が拓郎の手を引いた。

「今帰ったぜ」

「遅いよ」

拓郎が腕を組み膨れた。

「怒ったか?」

「あったりまえだよ!」

誰からとなく笑いがこぼれみんなで笑った。

久しぶりのみんなで笑った。

落ち着く居場所が帰ってきた。

 

「んで、なんで停学になったんだ?」

俺はあえて喧嘩のことは聞かなかった。

違ったら嫌だったから。

「ち〜とな。ムカついたからお仕置きしたぐらいなんだがな」

 

やっぱりなのか……

「あなたのお仕置きは痛そうね」

「いや、本当に軽くだぜ?拓郎を叩くよりも」

「ムカついて僕より軽くって……それより強く叩かれている僕の身になってよ」

「いや、お前は慣れてるからな」

「まあね!」

褒めてないと思うぞ。

 

「それより、もう喧嘩なんかしないでね」

「あぁ、もうしないよ。多分……」

「絶対!」

「はい! すんません!」

さすがの竜祈も唯には頭が上がらないみたいだな。

「それで……なんでムカついたんだ?お前らしくないな」

俺は核心をつくことにした。

「言わなきゃだめか?」

「当たり前だろ!」

「う〜ん、じゃあ話すよ。実はな……」

「あの〜、すみませ〜ん」

間延びした声が俺達に向けられ声がした方を振り向いた。

そこには可愛いらしい女の子が立っていた。

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「うん? あっ、悪い。教室入るのに邪魔だったな」

俺は入口から避けた。

「いえ、違うんです〜」

「んじゃ、なんだ?」

「実は〜橋爪さんにお礼を言いたくて〜」

「ええ〜!!」

 

 俺達はいっせいに竜祈を見た。

なんでお前顔赤いんだ?

それになんか湯気みたいなの出てるぞ。

 

「やっ、やっ、やぁ」

「お前、テンパりすぎ!」

「うるせぇ!」

「ええと、2人はどんな関係なのか説明してくれる?」

「唯、ちょっと怖いぞ」

「うるさいわね! 慶だって気になってるでしょ」

「あの〜話してもいいでしょうか〜?」

ニッコリと笑っている彼女の声が会話を遮った

「いや、俺の方から話すよ。この子はな……」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「すごいタイミングでチャイムなるね」

拓郎も苦笑い。

「んじゃ昼飯食いながらでも話すよ」

「そうだな。その方がゆっくり聞けそうだ」

「きっ、きっ、君もその時でいいでしょうか?」

「は〜い、どちらに向かえばいいんでしょうか〜?」

「学食に、行く、時に、でも、むか、迎えに行きますよ」

「わかりました〜。私廊下で待ってますね〜」

そう言い残して彼女はゆっくり教室に戻っていった。

 

「くくくっ……どんだけ緊張してんだよ」

「そうだよね、こんな緊張してる竜祈初めて見たよ、ねぇ唯?」

「ほんと、笑いこらえるの大変だったわよ」

「うるせぇよ、ってことで昼休み行くからな」

「りょ〜かい!」

 

 

まったく話が進まないまま休み時間終了。

昼休みまでわからずじまいか。

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「ねぇ、慶ちん」

机にうつぶせになってる拓郎が声をかけてきた。

「なんだ? 金ならないぞ」

「そんなことじゃないよ。もしかして竜祈あの子に惚れてんじゃないかな?」

「そうか?」

「じゃなかったらあんなに緊張しないと思うんだよね」

「そうかもしれないけど相手が女の子だったからじゃないのか」

「いいや、絶対そうだよ。中学の時普通に話してたし、卒業式で壇上でウケ狙いで屁をこいた奴だよ」

「あいつそんなことしてたのかよ!?」

「だから絶対にそうだよ。昼休みその辺もつっついてみるよ」

ケタケタ笑ってる拓郎がいたずら好きな少年のように見える。

ちょっと面白そうだから俺も乗っかるかな。

 

「なあ、唯」

黒板から戻った唯の背中をシャーペンの後ろでつついて呼んだ。

「あっ……ちょっと何よ」

なんか最初に色っぽい声が聞こえましたが。

「竜祈って好きな子にはどんな反応するんだ?」

「さあ? 昔からういた話聞いたことなかったからわからないわね」

「だよね〜。前から女子と普通に話してたもん」

「そうね。拓郎も知らないなら私もわからないわよ」

「残念だな。昔の話でも聞けばつっつきまくりだったのにな」

「どういうこと?あっ!だから私の背中つっついたの?」

「違うって。さっき拓郎と竜祈があの子が好きなんじゃないかって話してたんだ」

「ふ〜ん、ちょっと面白そうね」

 

 唯も参戦か……

竜祈よ……こんな友達をもったこと不幸と思うなよ。

類は友をよぶっていうからな。

 

昼休み突入の合図がなる。

「お〜い! 飯食いに行こうぜ!」

クラスがざわついた。

2日振りに問題児が現れたんだからしょうがない。

 

「あれ〜、あの子先に迎えに行かなくていいのか?」

拓郎……早速か。

「べ、別に順番なんていいだろうが。さっさと行くぞ」

明らかに動揺してる。それを見て唯は笑いをこらえてる。

「よし、行くか。あの子の所へ」

竜祈の肩に手を乗っけた。

「な、なんだよ慶斗まで。学食に行くんだよ!」

「あの子を迎えに行ってからでしょ?」

「唯までなんだよ! もう1人で行くからいい!」

「まあ、そう言うなよ。ほら早く行こうぜ」

竜祈を連れあの子を迎えに向かった。

 

「おっ、竜祈あの子が見えてきたぞ」

いたずらに言ってみた。

「な、何言ってんだよ。わかってるよ」

「でもなんか寂しそうな顔してるわね。どうしたのかしら?」

「あっ、本当だ。どうしたんだろう? 竜祈が早く行かなかったからじゃない? 僕が走って行ってくる?」

「遅くなったのはお前らがくだらないこと言ってるからだろ!いいよ、俺が呼んでくる」

「お〜!」

3人同時に声があがった。

 

 竜祈は1人で歩いて行ったが手と足一緒になってるし歩き方が兵隊の行進みたいで気持ち悪い。

「やっと着いたみたいね」

「完全に回りはひいてたけどな」

「僕もうお腹減ったよ〜。早く行こうよ」

「もうちょっと待てよ。竜祈がきてからだろ」

「そうなんだけどね。あっ竜祈戻ってきた。またあの歩き方だけど……」

みんな笑うのをこらえるので必死だ。

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 やっと学食についた。

来る途中もからかっていたらなかなか進むことができなかったのだ。

 

 それぞれが飯を買い席につく。もちろん竜祈の隣はあの子だ。

竜祈の背がこれ以上真っ直ぐになるのかわからないぐらい伸びている。

 

 両隣の肩が微かに震え笑いがこぼれている。

あの子がそれを見てキョトンとしていた。

 

 おいおい!誰か話してくれよ。

微かな笑い声が2つ、キョトンとした子が1人、銅像化した男が1人、なんとなく気まずい俺。

会話がなく黙々と食べる。

 

「あの〜、いいですか〜?」

「はい!」

4人共びっくりして思わずそう答えてしまった。

「私、二宮里優と申します〜。初めまして〜」

この子二宮里優(にのみやりゆ)っていうのか。

「そういえば自己紹介してなかったわね。私・・・…」

「みなさんの事は知ってます〜。秋原唯さん、神林慶斗さん、五十嵐拓郎さん、橋爪竜祈さんですよね?」

「よく知ってたな」

「みなさん有名ですから〜」

「ははは、色んな意味でだろうね。里優ちゃんか、よろしくね」

差し出した拓郎の手が途中で止まった。

「どうした?」

「竜……祈の………目が……」

ちらりと見てみる。

目って凶器になるのか?

 

「橋爪さん、この間は〜ありがとうございました〜」

里優はぺこりと頭を下げた。

「えっ、いや、別にたいしたことしてないからそんなのいいよ」

照れているのか頬かきながら答えた。

「いえ、本当に助かりました〜。とても怖かったですから〜」

「あんなことならいつでも頼んでくれ」

「はい!」

 

「慶ちん、なんかいい感じになっちゃってるよ」

確かにあそこだけ空気が違う。

「意外とこのままいっちゃうんじゃないか?」

「これで竜祈も落ち着いてくれるかも知れないわね」

「さっき僕目で殺されましたけど……」

もう2人と3人で話していた。

 

 ワイワイ盛り上がっていると

「そういや、停学の理由話してなかったよな」

竜祈が話し始めた。

すっかりと忘れていたことに気づく3人。

今日の1番大事なことを。

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「あの日拓郎と別れてからCDを買いに行ったんだよ」

「なんだ、CDなら地元でもよかったじゃん」

「地元じゃ売ってないんだよ。インディーズだからさ。それで買い終わって駅に向かう途中でこの子を見かけたんだ」

「そこで一目惚れしたわけね」

「そうなんだよ……って違う!」

ナイスタイミングだ唯。

「違うんですか〜?」

君が食いつくか?

「いや、その、どうなんでしょうね」

里優にはその調子なんだな。

「またまた〜」

「拓郎、調子乗ってるとまた目で殺されるぞ」

拓郎を見るともう石化してる。

 

「まあ、それで電車に乗ろうかなってとこにこの子が変な奴らに絡まれてるのを見て助けに行ったんだけど、そいつら俺のこと知らないみたいで逆に絡まれた感じだな」

「竜祈のこと知らないなんて普通な奴だったのね」

「そうだな、高校デビューって感じだったな。手出さないつもりだったんだけどそれをいいことに殴ってきやがって振り払ったらすぐ泣き入りやがってさ。運悪くちょうどおまわりがきて補導されちまった」

「あっちゃ〜! ついてないね」

「まあでもこの子が無実を証明してくれて即釈放ってなわけだ」

「じゃあなんで停学になったのよ? 無実なんでしょ?」

「そうだよ! おかしいよ!」

「なんか前例がないからとりあえず停学にしたらしい」

「なんだそれ?」

「まあいいじゃねえか。こうやって戻ってきたんだし」

「そうね、そういうことにしときましょうか」

拓郎は納得していなかったがしぶしぶしょうがないことにしたみたいだ。

 

「んじゃそういうことで久々に慶斗の家でまったりしに行くからよ!」

「ああ、わかった。そうだ君もくるか?」

里優にも聞いてみた。

竜祈をまったりさせないように。

何より見ていて面白い。

まあくるわけはないと思っていたが

「お邪魔じゃなきゃ〜行ってみたいですね〜」

意外とあっさりと来ることになった。

 

 放課後5人で家に向かう。

いつもは4人でいるのに1人多い。

 

 何故だろうか。

違和感がまったくなかった。

何より昔から一緒にいたような感覚まであった。

 

 

 家に着くまで色んな事を話した。

里優は隣町に住んでいて電車通学。

部活などはしておらず学校が終わると真っ直ぐに帰っているらしい。

友達と遊んで帰ったりしないのかと聞いてみたがあまりしないらしい。

クラスで話す相手はいるらしいがそれほど遊んだりしないという。

地元の友達との方が仲が良く遊んでいるみたいだ。

家族のことを聞くと周りと変わらない一般的な家族らしいが時折悲しい顔をしたように見えた。

 

 その会話の間竜祈は緊張しっぱなしで何も話せなかった。

見た目と違って可愛い奴だな。

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 家に着くと各々いつもの席に着いた。

唯はすぐに夕飯を作る準備を始めていた。

里優は何故か部屋の入口に立っている。

「里優ちゃん、そんなとこに立ってないで座ったらいいんじゃん!」

「いえ〜私も〜お料理するの手伝おうと思いまして〜」

「気にしなくていいわよ。今日はお客なんだからゆっくりしてて」

「いいえ〜、そんなの悪いですから〜」

「ありがとう。じゃあ今度来た時は里優にお願いするわね」

「はい。ではどこに座ればよかったでしょうか〜?」

「とりあえずそっちに唯が座るから竜祈の方に座ってくれよ」

「なんでだよ!」

「照れんなよ。だってそっち側2人座れるだろ?」

「お前の方も座れるじゃねえか」

「俺は家の主だから広々使うんだよ」

「では〜橋爪さんの方に座りますね〜」

「えっ、あっ、どうぞ」

 

 台所から何かが落ちた音がした。

「唯、どうしたの?」

「ううん、ちょっと手が滑ったのよ」

笑いをこらえているのが俺の座ってる所からは見える。

前を見ると竜祈と里優が並んで座っている。

なんとも表現できない面白い光景だ。

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「おまちどうさま。さあ食べましょ」

テーブルに料理が運びこまれた。

 

「相変わらず美味しそう! いっただきま〜す!」

拓郎がいの一番に食べはじめた。

お前は子供か!

「本当に美味しそうですね〜。秋原さんお料理上手なんですね〜」

「よく作るからいつの間にかできるようになったのよ。子供が3人もいるからね」

「俺達のことか!?」

3人同時に声があがった。

「あら、他に誰がいるの?」

「竜祈と拓郎は知らないけど俺は違う」

「何!? 慶斗と拓郎は知らんが俺はガキじゃねぇ!」

「2人の中で子供確定!? 僕は子供じゃないよ」

「はいはい。ほらね子供が3人いたでしょ」

「あはは〜、本当ですね〜」

落ち込む3人のでかい子供。

このいい争いはまさしくそうだと認識した。

 

「でも〜みなさん仲がとてもいいんですね〜」

「そうか? 普通だと思うけど」

「そんなことないですよ〜。私はこんなに言い争った事ないですし〜」

「こいつらはいつもこうよ」

「そうなんですか〜? なんかうらやましいです〜」

「里優も仲間に入れるわよ。こんなやつらだけど」

「こんなで悪かったな」

「そうだよ。唯だって同じだよ」

「お前、自分は省いてんじゃねぇよ!」

「何よ! 一緒にされたくないわね!」

「何!?」

また言い争いが始まった

唯……

やっぱりお前も一緒だよ。

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「さぁ〜て、やりますか」

「僕らの運命の時間だね」

「待ちわびたぜ」

「なんのお話ですか〜?」

「お皿洗いジャンケンよ。大体慶が負けるんだけど」

「もう慶ちんでいいんじゃない?」

「何を! 今日は勝つ!」

「あの〜、私が洗いますので〜いいですよ〜」

「悪いがこれは真剣勝負なんだ」

「そうなんですか〜、私も真剣にいきます〜」

睨み合う5人。

 

 いつにない緊張感、いつもなら誰が何を出すか考えてるが……

今日は1人癖がわからない奴がいる。

俺はジャンケンをする前にみんなの顔を見渡すがまったく表情が変わらない。

読めない……読めなさすぎる……

ポーカーフェイス里優。

 

「くっ、強敵だ」

「よし!いくぜ!」

緊迫感のある空気が部屋を埋めつくした。

「ジャ〜ンケ〜ン!」

5人の声が部屋中に響く。

「ホイ!」

まず一抜けしたのは里優。

「あはは〜、勝ちました〜」

「ジャ〜ンケ〜ン!」

再び5人の声が響く。

「ホイ!」

二抜けは唯。

「ごめんね。あなたたちの出すものはわかってるわ」

「ジャ〜ンケ〜ン!」

5人の声はやまびこの様に返ってくる。

「ホイ!」

三抜けは拓郎。

「やった〜!」

「また残っちまった」

「悪いが勝たせてもらうぜ、慶斗!」

「勝負だ!」

「ジャ〜ンケ〜ン!」

熱を帯びた5人の声がさらに勝負を熱くさせた。

「ホイ!」

勝負はきっした。

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「そういえば里優は私達のこと苗字でさん付けよね?」

「そうでしたね〜。嫌ですか〜?」

「別に嫌って訳じゃないんだけどしっくりこないのよ」

「そうだよね。下の名前で呼ばれた方が自然だよ」

「そういう訳で下の名前でいいわよ」

「わかりました〜。では唯さんに拓郎さんに慶斗さんに竜祈さんですね〜」

「さんはいいわよ。同い年じゃない」

「これは癖でして〜。友達にも同じに呼んでますよ〜」

「そうなの? わかったわ。これからそう呼んでね」

「はい」

「慶、水出しっぱなしは勿体ないからちゃんととめなきゃ」

「はいは〜い」

畜生、早く終わらしてあっちに戻りたい。

 

「みなさん面白いですね〜。聞いてた話とは全然違いました〜」

「どんな人達なんだろうね? 僕らって」

「けなされているのは知っているが内容まで知らなかったな」

「私が聞いているのは〜盗んだバイクで走り出したり〜夜校舎の窓ガラス壊して回ったり〜触るものみんな傷つけてるって聞いてます〜」

「なんか聞いたことのあるフレーズだな」

「でもこうやって暖かくむかえて頂きました〜。ちゃんと話してみないとわからないですね〜」

「わからないわよ。今から突然化けるかもしれないわよ?」

「みなさんタヌキさんなんですか〜?」

「いやいや、それならもう化けてるだろ」

「それもそうですね〜。本当にみなさんと仲良くなれればいいですね〜」

「仲良くなれるよ。僕らはいつでもウェルカムさ、ねっ竜祈?」

「あっ、あぁそうだな」

「嬉しいです〜。こんな私ですが宜しくお願いします〜」

「よろしくね。いつでも私達の所にきてね」

「わかりました〜。あっ、ではすみません〜そろそろ帰りますね〜。遅くなると親が心配しますので〜」

「あれ? もうそんな時間か〜。じゃあ竜祈送ってあげなよ」

「えっ、みんなで行けばいいだろうが」

「僕はもうちょいまったりしてくよ」

「んじゃ、唯行こうぜ」

「私も漫画読みたいから」

「1人で大丈夫ですよ〜」

「ダメよ。また絡まれたら大変でしょ!」

「あっ、すみません〜」

「ちゃんと守ってあげなさいよ、竜祈!」

「へいへい。んじゃ行きましょうか」

「はい」

照れあがった竜祈と里優が仲良く家から出ていった。

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「このままいけばいいんだけどなあ」

前に聞いた女の子の声が聞こえてきた

 

「2人とも頑固なとこあるから厳しいかな」

 

「2人の事知ってるのか?」

 

「あらら、聞こえてたんだ。昔にちょっとね」

 

「それを聞きたいんだ」

 

「いいじゃない。今度じっくり話してあげるわよ」

 

「今でもいいんじゃないか?」

 

「だってそろそろ朝になるからさ。私も行かなきゃだめだし」

 

「行くって?」

 

「じゃあまたね」

 

 

 

 

辺りが真っ白になり何も聞こえなくなった

 

 

 

 

「なんなんだ? 一体?」

色々考えていると目が醒めた

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 俺は学校に行く途中夢の内容を思い出していた。

いや思い出そうとしていた。また全然思い出せない。

女の子と話したという内容しか思い出せない。

それほど重要なことではないんだろう。

 

 気づけば自分のクラスに着いていた。

「あら、慶。おはよう、今日は早いわね」

「また変な夢を見てな」

「ふ〜ん、でまた覚えてないの?」

「そうなんだ。一体なんなんだろう?」

「何か意味あるのかしら?」

「それさえわかればいいんだけどな」

2人で考えこんでみたが何も解決しなかった

 

「そうそう、慶、今度の日曜日予定入ってる?」

「いや、別にないけど」

「後で竜祈にも言われると思うけど拓郎がいないうちにね」

「拓郎がいるとまずいのか?」

「少しね、実は昨日竜祈と里優一緒に帰ったでしょ。その時にデートする約束をしたんだって」

ひやかすように唯が説明してくれた。

「へぇ、あの竜祈がね……意外だな」

「里優がお礼をしたいから何でも言って下さいって言われたから頑張っていってみたらOKされちゃって今テンパってるわよ」

「だろうな。それでなんで俺の予定が関係してるんだ?」

「それはね……」

「唯〜! 俺、何着てけばいいんだ〜!?」

取り乱した竜祈が教室のドアを豪快に開いて頭をかかえ吠えていた。

「なあなあ、唯どうすればいい? まじでやばいっすよ。どぎゃんすればええんじゃ〜!」

取り乱しすぎである。

 

「ほら竜祈、ちょっと落ち着いて。まだ日にちはあるんだから」

「そげなごどいっだってまじでやばすでございますであります」

「はいはい、じゃあ今日適当にみてあげるから」

「うす! よろしくお願いします!」

やっと落ち着いた竜祈は俺の存在に気づいたようだ。

「おっ! 慶斗、早いじゃないか! 日曜よろしくな」

「まだ聞いてないけど……」

「あれ? 唯まだ言ってなかったのか?」

「途中であなたが入ってきてまだよ」

「悪いな、どこまで話したんだ?」

「デートってとこまでよ」

「いや〜デートって。やべっ! また緊張してきた。どうすりゃいいんだ〜」

またテンパり始めたか。

 

「竜祈はほっといて、それで1対1だとどうすればいいかわからないから私と慶もきてほしいんだって」

「なんだよそれ? 意味ないんじゃないのか?」

「私もそう言ったんだけどどうしてもってしつこくて。でもWデートって考えると楽しいじゃない」

「まあな、それなら拓郎でもいいんじゃないのか?」

「拓郎だと空気読まない可能性が高いから」

「確かにそうかもな」

「ってことだからよろしくな!」

いつの間にか竜祈が我に返っていた。

 

 竜祈が教室から出ていった後、改めて唯に聞いた。

「それで里優は知ってるのか?」

「そういえばそうね。竜祈、勝手に決めちゃいそうだから」

「一応確認しとくか」

「そうね。次の休み時間にでも聞きに行きましょ」

「あぁ」

「そういえば学校休みの日に会うのって久しぶりじゃない?」

「1年からつるんでるんだけどな」

「そうよ。竜祈とかはたまに会うけど慶は会わないからね」

「そう考えると楽しみだ」

「本当に楽しみね。でも拓郎には内緒ね。意地でもついてきちゃうから」

「わかってるよ」

 

 今度の日曜は楽しみだが俺1人で竜祈をフォローできるのか不安だ。

-17ページ-

 次の休み時間、まだ拓郎は来ていなかった。

チャンスとばかりに里優のもとに向かった。

 

「あ〜唯さ〜ん、慶斗さ〜ん、おはよ〜ございます〜」

相変わらずまったりとした間だな。

「里優おはよう、竜祈から聞いたんだけど……」

「日曜日のことですね〜、こちらこそお願いします〜」

「あれ? 最初からそういう話になってたのか?」

「はい、2人きりだと緊張してしまうので〜。よろしくお願いします〜」

「こちらこそよろしくね。みんなで出かけたりするの久々だから楽しみ」

「私も楽しみです〜。あっ、唯さんどんな服着ていけばよかったでしょうか〜?」

竜祈と同じ悩みだな。

「わかったわ、竜祈と一緒にみてあげるわよ」

「ありがとうございます〜。実は持ってきているので見てもらえますか〜?」

「えっ? それじゃ放課後、慶の家で見ましょ」

「わかりました〜。ありがとうございます〜」

 

 まさかの服持参という里優の驚き行動に予定を変更しないといけなくなってしまった。

お互いの当日着ていく服を選ぶのに同じ日、同じ場所で決めるなんてわけがわからないことになってしまう。

「っというわけで竜祈の服は明日ね」

「そりゃないぜ! 唯! 俺、ドキドキして寝れねぇじゃねぇか!」

予定を変更してもらうために訪れた竜祈のクラスの前、竜祈はごね始め

「しょうがないでしょ。里優は持ってきちゃってるんだから」

「ちくしょう! わかったよ!」

そう言い残しどこかへいなくなってしまった。

 

「どうしたんだろうな」

「本当何考えてるのかわからないわ。いじけちゃったのかしら?」

「意外と繊細?」

「あの体に似合わないわね」

 

 2人でクスクス笑っていると聞き慣れた声が聞こえた。

「おっはよう、何? なんか楽しそうな話じゃない?」

やばい! 今1番聞かれてはいけないやつが登場してしまった。

唯の顔を見るとなんとかごまかしてくれって顔をしていた。

「竜祈をからかっていたら突然走り出してあの体で繊細なのかなって話してたんだよ」

「だから竜祈学校から出てったんだね」

唯と顔を見合わせた。余計にあいつの考えがわからない。

 

「そうだ、慶ちん今日の晩ご飯何にしよっか?」

「悪いけど今日は用事あるからうちにくるな」

「へっ? そうなの? んじゃ、仲良く帰ろうか唯」

「あんた来たばっかりで帰りの話? ごめんね、私、里優と出かけることになってるから」

「うぅ、僕は1人か……竜祈はどっか行ってるしなぁ。寂しく家に帰るよ」

拓郎はトボトボと教室に歩いていった。

 

「ちょっと可哀相かしら?」

肩を落とし歩く拓郎の姿を見送りながら唯はこぼした。

「でもしょうがないんじゃないか? あいつ変な時だけ勘が鋭いことあるから隠すなら徹底的にやらないと」

「それもそうね。私達も教室に戻りましょ」

「そうだな」

 

 教室に戻るにつれてやけに空気が重くなってきた。

こんな負のオーラ感じたことはない。

見えない重圧で足が前に進まない。

やっとのおもいで教室についた。

-18ページ-

 電気がついているはずのクラスが暗く見える。

窓際の方の1番後ろから溢れ出ているようだ。

落ち込むにも程があるぞ。

「たっ、拓郎?」

「えっ、な〜に〜。これはこれは今日は用事がある慶ちんさんじゃないですか〜。こんな私めに何かご用事でもありまして〜」

やばい、このオーラに負けてしまいそうだ。

「そんなに落ち込むなよ。また明日があるだろ」

「僕の今日は今日しかないんですよ〜。帰ってこないんですよ〜」

拓郎はブツブツ呟きながら俯せになってしまった。

 

「唯、どうする?」

「う〜ん。わかったわ、なんとかしてみるわ」

唯は拓郎に近付いて耳元で何かを囁いている。

拓郎の肩がピクッと上がりまじで?という声が聞こえた。

さっきまでの様子が嘘のような動きで起き上がり

「いや〜慶ちん! 今日はいい日だね」

しまいには鼻歌を歌うご機嫌ぶりだ。

まさに拓郎 ON STAGE

 

「何を言ったんだ?」

「たいした事じゃないわよ。昼に焼きそば大盛りおごってあげるって言っただけよ」

「それだけか?」

「それだけ」

 

 難しいのか簡単なのかわからないやつだ。

そして浮き沈みが激しいやつだな。

「おら〜! 五十嵐! 授業始まるから机から降りろ!」

「うぃ〜す! 丸ちゃん今日もカッコイイね〜」

有頂天すぎてうざい。拓郎の相手も疲れたし昼まで寝るかな。

-19ページ-

「お姉ちゃん、待ってよ〜」

 

「ほら早く来なよ」

 

どこからとなく楽しそうな声

 

辺りでは賑やかな音楽

 

何もかもが楽しそうな場所にいるらしい

 

「あれ〜、お姉ちゃんどこ〜」

 

はぐれてしまったのかキョロキョロ辺りをみわたし立ち尽くしている

 

「ほら〜、あんたはとろいんだから!行こう!」

 

「うん!あっ、これいいね〜」

 

「お気に入りなんだ」

 

「もしかして……」

 

「その通り!」

 

「もう私行っちゃうね〜」

 

「あっ、待ちなさいよ!」

 

楽しそうな声が遠ざかっていく

-20ページ-

「慶……慶……て……慶!」

「おぼぶはぁ〜!」

「もうお昼よ。ご飯食べに行きましょ」

「焼きそば大盛りだよ」

いつの間にか寝ていたようだ。

気づけば昼休みになっていた。

 

「唯、大盛り過ぎないか?」

「そんなことないわよ、ねっ、拓郎?」

「あっ……あっ……あっ……」

 

 目の前にいるはずの拓郎が茶色い麺の山で見えない。

いくら分盛ればこんなになるんだ。てかどこから食べればいいんだ。

 

 焼きそば山の脇から拓郎に声をかける。

「おい! 拓郎!」

彼は上を見上げ口を開き頂上を指差しながらカタカタ震えて答えてくれた。

 

「10分で食べないと拓郎の自腹だからね。用意……スタート!」

 

 自腹と聞いた拓郎は我に帰り急いで食べはじめた。

 

 食べ始めて1分経過

さすがは食べはじめ、すごいペースで減っていく。

 

 2分、3分と経過

ペースが落ちることはない、むしろ上がっていやがる。

 

 4分、5分経過

あれだけあった焼きそばが残り2人前程度になってるじゃないか。

さすがは焼きそば野郎。

ここまでくると尊敬してしまう。

 

 しかしやつのペースはここまでのようだ

残り1人前ぐらいのところで動かなくなった

「唯! 時間は!?」

「残り2分よ!」

 

 拓郎の腕がじわりじわりと動き出した。

皿を掴み持ち上げ一気に食いきる戦法に出る。

 

「1分!」

唯の声が学食にこだまする。

 

「うぅぅぅぅぉぉぉお!」

流し込みだ。すごいぞ拓郎!

 

「全部飲み込むまでの時間だからね」

皿の上にあった山は消え何もなくなっていた。

膨れ上がる拓郎の頬に詰め込まれたのだろう。

もう忘れることはないだろう。今日のお前の姿。

そう、残り1秒でむせて咳込み鼻から麺を出しているお前の姿を。

 

「あら、残念ね。残り1本食べきれてれば奢ってあげたのに」

やはりあの鼻から出ている分でアウトか。

「そんな〜、こんなに頑張ったのに? やっぱり今日の僕はダメなんだね」

再び落ち込み始めてしまった。

「拓郎そう落ち込むなよ。俺が奢ってやるよ。唯、いくら?」

「あれ20人前だから……1万円ね」

「拓郎、自分で払ってくれ」

「うぅ……やっぱり最悪だ」

「嘘よ。私が奢る約束だからいらないわよ」

それを聞いた拓郎はお茶をすすりながらホッっとしていた。

 

「そういえばさ、拓郎好きな人いないの?」

唯の口から思いもつかなかった言葉が出た。

ついでに拓郎の口からお茶が飛び出した。

「何? 急に」

「竜祈はあの子が好きなのは間違いないとして拓郎はそういう話竜祈と同じぐらい聞かないもの」

「確かに聞いたことないな」

「慶ちんだって唯だって聞いたことないよ」

そういや俺たちはそういう話をしたことがなかったな。

 

「そうね、それじゃまず拓郎から言ってみようか」

さすがは唯。

まず拓郎にふっといて自分は逃げるつもりでいるな。

俺はそれに便乗すればいい話だ。

「ねぇ拓郎どうなの?」

「どうなんだ?」

2人もわくわくしながら拓郎からの答えを待つ。

「ごめん、悪いけど2人には言えないよ。もちろん竜祈にも言ったことないし」

 

 意外な言葉だ。いつも通りおちゃらけた感じで唯が好きだとかで逃げると思っていたが真剣な顔をしどこか悲しさが混じっていた。

「なんで言えないの? 私達の仲じゃない」

「それでも言えない事ってあるじゃん? 唯だって慶ちんだってあると思うよ」

 

 拓郎のいうとおりだ。みんなが全てを話しているわけじゃない。

話したくないことだってある。拓郎にとってはこういう話はしたくないのだろう。

「そうだな、それに休み時間も終わりそうだし教室に戻ろうぜ」

「そうね、拓郎変なこと聞いてごめんね」

「いや、僕も空気壊してごめんね」

 

 教室に戻る途中に

「頼むから教えてくれ!」

と不意打ちで聞いてみた。

「実は……って言わないよ!」

頑張れば話させるかもしれないな。

-21ページ-

「それじゃ里優つれて後から行くからね」

拓郎に聞こえないように唯が耳打ちしてきた。

「あぁ、先に帰ってるよ」

「じゃあね、拓郎、慶、また明日ね」

唯は駆け足で里優のもとに向かっていった。

 

「じゃあな拓郎。、俺、用事あるから帰るよ」

「じゃあね。今日は家でまったり寝ることにするよ」

「あぁ、地球のためにもその方がいいかもな」

「今なんか言いました?」

「なんでもない。気にするな。じゃあな」

俺は拓郎をおいて教室を出た。

 

 俺の使命は終わったはずだった。

「やっぱり……やっぱり寂しいよ、慶ちん!」

涙を流しながら拓郎が走ってきた。

 

 こうなると拓郎のしつこさは増す。

「だから今日は用事があるって言ってんだろう!」

逃げる俺。

走り回っていると唯と里優が歩いているのを発見した。

「唯〜里優〜かまってくだしゃ〜い!」

あまりにも突然のことに2人は固まってしまっていた。

「唯! 里優! 逃げろ!」

俺は2人の腕を掴み再び加速した。

 

「なんで拓郎が私達まで追っかけてくるのよ?」

拓郎に聞こえないように小さな声で話しながら走った。

「あはは〜、鬼ごっこですか〜。私頑張りますね〜」

里優は楽しんでいる。

「里優、さっき固まっていたのはびっくりしただけか?」

「びっくりしただけです〜。他に何かあるんですか〜?」

「俺らの計画・・…・いや、そんなことより今の拓郎はしつこいぞ。唯、わかってると思うけど気を付けろよ」

「わかってるわ。それじゃ後で慶の家で合流しましょ」

俺達は2手に別れて逃げ始めた。

この鬼ごっこは学校全体を使い1時間程行われ、その後、俺と唯達は家の近くで合流した。

 

「疲れたな。走りすぎてもう足ガクガクだよ」

「本当ね。こんなに走ったのは久しぶり」

「まだ息きれちゃってますね〜。またやりましょうね〜」

「いや、当分やりたくないな」

お互い感想を話ながら家に向かうと

「慶の家の前に誰かいるわよ?」

「まさか拓郎?にしても体がでかいか」

近づくにつれてなんとなくわかってきた。

 

「お〜い! 慶斗! 一緒に服選ぶの手伝ってくれ!」

片手には大きな袋を抱えて手を振っていた。

「ちょっと、もしかしてあの後家に戻ってたの?」

「言ったろ、このままじゃ寝れねぇって」

「竜祈さんも洋服選びですか〜?」

「えっ? なんで一緒におられるんですか?」

「里優の服見るって言ったでしょ。聞いてなかったの?」

「そんなこと言ってましたっけ?」

「それでは〜、2人共見てもらいましょうか〜」

結局デートの日に着てく服を今日見てしまうよくわからない展開になっているが2人共それでいいのか?

-22ページ-

 家に入ると服選びよりまずはみんなで談笑を始めた。

やっと竜祈も里優に慣れてきたのかいつものあいつらしさが出てきた。

「竜祈らしくなってきたわね」

「やっぱりあいつはこうじゃないとな」

「それにしても……」

「うん?」

「よく里優も竜祈のペースについていけるわね」

「そうだな。ついていけるのは女子では唯しか知らないな」

「私は昔からの付き合いだから。でも里優はここ最近なんだよ」

「マイペースとマイペースだからかもな」

「そうかも。慶も拓郎もだもんね」

「まあな」

 

 再び前を見ると話してる2人がとても仲良く見えてほほえましいがたまに会話が繋がってないように感じているのは俺だけなのか?

「それじゃ、そろそろやるか」

「そうだな。お前のやつ見せてみろよ」

 

 袋の中から出てきた服はかくし芸や出し物で着るようなものばかりだ。

「竜祈君? これは一体何かな?」

「あん? 俺の一張羅だ」

「お前センスなさすぎ。まいったな、唯〜ちょっと来てくれ!」

違う部屋で里優の服を選んでいる唯を呼んだ。

「何? えっ、何これ? まさか……」

「一張羅だそうだ」

「はぁ……センスないわね。なんとかしてみるわ」

 

 服の山の中からいろいろ組み合わせ竜祈に着させた。

「あれからこんなにもなるんだな」

「竜祈は元はいいからなんとかなるわよ。私は里優のとこに戻るね。あの子元もいいし服も可愛いから1つに絞るの大変なの」

「どおりでワイワイ聞こえるわけだ。女の子はこういうの好きそうだからな」

「やべぇカッコイイ! これはワンセットで置いとかないと」

竜祈はずっと鏡の前でポーズをとり続けている。

 

 どれぐらい時間がたっただろう。

「次こそとどめをさしてやるぜ、竜祈!」

「簡単にはやられないぞ!」

俺と竜祈はやることがないのであっちむいてほいをしていた。

白熱した勝負に最初は座っていたがいつの間にか立ち上がっていた。

 

「いくぜ! あっち! むいて………ホイ!」

俺はドアを指差し竜祈もドアを見ていた。

「盛り上がってるとこ悪いんだけど決まらないから3人で決めましょ」

ドアには唯が立っていた。

 

「それじゃまずこれからね」

ドアの脇からひょこっと里優が出てきた。

 

「おぉ〜!」

男2人から歓声と拍手がわく。

 

「次ね」

「よ〜よ〜ねぇちゃん、いろっぺぇぞ!」

竜祈が親父化していた。

 

「次」

「か〜わ〜い〜い!」

大盛り上がりの男性陣。

 

「とりあえずこの3つから選ぼうと思うんだけどどれがよかったかしら? 私は最後がいいと思うんだけど」

「俺も最後かな」

「竜祈は?」

「う〜ん、難しいな。どれもこれも捨て難い…」

「じゃあもう2票入った最後のやつに決定ね」

「俺の意見は?」

「お前のセンスじゃな」

「大道芸人で悪かったな!」

「あはは〜、ではこれにしますね〜。今度のお休みが楽しみです〜」

2人の服装も決まりみんなで夕飯を食べて解散した。

-23ページ-

 次の日学校に行ってみると拓郎が元気な姿を見せていた。

「おはよう慶ちん」

「ああ、おはよう」

「昨日どこに隠れてたの? 全然見つけられなかったよ」

どうやら拓郎の中では鬼ごっこからかくれんぼに移行していたらしい。

「実はこの学校には秘密の隠し部屋があるんだ。そこにいたよ」

もちろん嘘だ。

拓郎なら確実に信じ込むだろう。

「えっ? そんなのがあるの? 知らなかったよ」

やっぱりそういうリアクションか。

「簡単なやつで助かるよ」

「なんか言った?」

「いいや。何でもない。いつまで探してたんだ? 全然来ないから帰ったけど」

「気づいたら夜になってたんだよね。なんかもう1人の僕がいてそいつが探してた感じなんだ。音楽室で女の子に会ってみんな帰ったよって言われた時に我に却ってね」

「そいつはお疲れだったな」

「だから僕はもう寝るね。昼ご飯になったら起こして」

そのまま机につっぷしてしまった。

 

「お〜い、慶斗、飯食いに行こうぜ」

竜祈がくる時間か。

「それじゃ行くか」

「拓郎は起こさなくていいのか?」

「ああ、昼飯の時に起こしてくれって言われたけど今日のとは言われなかったからいいだろ」

「そうだな、日曜の話もしたいから調度良かったかもな。じゃあ行こうぜ」

拓郎を起こさずに学食へ向かった。

 

 久々に2人で飯を食べる。

いつもは3,4人で食べているから少し恥ずかしい。

「唯がいなかったけど違う奴と食べてるのか?」

「里優と食べるって行って出てったよ。結構気が合うらしくて嬉しいらしいぞ」

「俺らと居ても違和感ないからな」

 

 飯を食べながら里優の話を続けた。

話しているときの竜祈の顔はとても嬉しそうで拓郎が前に言っていた惚れている疑惑が徐々に確信に変わってきた。

 

「それで日曜どうすればいいんだ? 明日は土曜だから打ち合わせできないから今聞かないとな」

「おお、わりぃ。すっかり忘れてたぜ」

大事なことを忘れるぐらい里優が好きなわけか。

 

「ダイアモンドランド入り口に10時集合って事になってるけどいいよな?」

「ああ、構わないよ」

ダイアモンドランドとは遊園地で小学校の時に遠足で行った以来だ。

「竜祈にしてはまともな場所を選んだな」

「これでも色々考えたんだぞ。だけどみんなで楽しむならあそこでいいだろうっと思ってな」

「1日中いるのか?」

「まあその予定だ。さすがに疲れたら帰ろうぜ」

「そこは任せるよ。お前のデートだしな」

「なっ、馬鹿か? そんなんじゃねぇよ!」

赤面して否定してる。

竜祈らしくていいとは思うが認めてくれた方が楽なんだけどな。

「ちゃんと服の用意もできてるし日曜を待つだけだな」

「やべ! あの服どこにしまったっけ? 慶斗わかるか?」

「わかる訳ないだろ」

「どんなセットかも忘れちまった! 覚えてるか?」

「なんとなくだけどな」

「それじゃ明日家にきてくれよ。頼む!」

「面倒くさいから嫌だ」

「そこを頼むよ慶斗、いや慶斗様?」

「わかったよ、でもお前の家どこだか知らないぞ」

「駅まで行くから大丈夫だ。よろしくな。午後から用事があるから10時ぐらいにきてくれよ」

「わかったよ。ちゃんと時間通りにこいよ」

 

 こうして明日の予定が入ってしまった。

学食から戻りまだ寝てる拓郎をよそに考えた。

「1年の頃からつるんでるのに家の場所も知らないんだな」

いくら友達とはいえ謎な部分はあってもいい。

でも家を知らないのはどうなんだろう。

 

 3人についても同じだ。

性格などはつかんできたが過去に何があったのかまでは知らない。

全て分かり合えるものではないのもわかっている。

でも何故か寂しいものだなと感じた。

 

 今まではこんなことは考えなかった。

あいつらに出会ってから少し変わってきたのかも知れないな。

今その輪に里優が入ってきている。

昔ならいい気はしてないと思う。

あいつだから許せるのか? ほかの奴でも許せたのか?

それは分からないがきっと里優も仲間なんだと思える。

 

 その仲間と仲間が結ばれたらどれだけ嬉しいものなんだろう。

そう考えると日曜が待ちきれない。

説明
夢に出てくる女の子・・・誰なのか全然わからない。
そんな中、竜祈が学校に来なくなってしまった。
その原因は・・・
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