SEASON 3.偶像の季節(後編)
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土曜日

俺は竜祈が住む町の駅に立っていた。

 

「遅い…」

 

 

約束の時間はとうに過ぎている。

人を呼びつけといて遅刻とは竜祈らしいがむかついてきた。

おまけに予定があるからこの時間にきてくれって言ってた張本人がこないのはどうなんだ。

 

「わりぃ遅れちまったな」

やっと竜祈がきた。

 

約束の時間から1時間はたっている。

 

「お前な、午後用事あるって言ってたのにお前が遅れてどうするんだよ」

 

「よし、早く俺の家に向かうぞ」

竜祈に引っ張られ駅を出た。

するとヘルメットを渡された。

 

「なんだこれ?」

 

「見てわからないのか?ヘルメットだ!」

 

「それはわかるけどなんで?」

 

「単車で家に向かうからだろ。目の前にあるのが俺の奴だ」

 

「お前がバイクに乗ってること自体知らなかった」

 

「あれ?言ってなかったか?ちょっと出る前に調子が悪くて整備して遅れちまったんだよ。早く乗れよ。行くぞ」

 

 

バイクの後ろに乗り家に向かった。

意外と飛ばすこともなくむしろ安全運転だったのが驚きだった。

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竜祈の家に着いた。

 

「お前アパートに住んでるんだな」

 

「まあな。家賃安いとこ探したからぼろいのが気になるけどさ。まあ入れよ」

 

「お邪魔・・・うわ!なんだこれ?ごみ屋敷かよ」

 

「男の1人暮らしだとこんなもんじゃないか?慶斗んとこは唯が行ってるからキレイに整頓されてるけど」

 

「ここにはこないのか?同じ町なんだし休みの日でもくるだろ」

 

「ああ、俺が断ってるんだよ。自分の力でやってきたいからな」

親元を自ら離れて修行中って訳か。

 

「さて、慶斗。どれだっけあん時の服は?」

 

「それより服はどこに置いてあるんだよ?」

俺は辺りを見渡したがそれらしいものが見当たらない。

 

「どこにあるんだろうかな?布団の下か?」

竜祈が布団を上げた途端綿ゴミが舞った。

 

 

「うわ〜竜祈!窓開けろ!」

部屋中が真っ白になった。

 

 

これでは服どころの騒ぎじゃない。

まずは2人で部屋を片付けることにした。

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「これ…いつ食った時の皿だよ?」

 

「あん?わかんねぇ。大体慶斗んとこで食うから相当昔じゃないか」

平然と答える竜祈。

 

「なんか酸っぱい臭いがするな。この服最後に着たのはいつ?」

 

「あ〜あった!俺のお気に入りの服が。1回着てなくなってたんだ。また着れるぜ」

 

「こんな穴あいて変色したやつをか?」

 

「うっ…さすがの俺もそれは着れないな。それもゴミ袋行き」

なんとか部屋を片付けたが目的の服が見当たらない。

 

「どこにあんだよ。袋からとり出したのか?」

 

「袋?そういやあの袋もねぇな。どこやったっけな。ちょっと便所行ってくるから探しててくれよ」

 

「ったく。なんでこんな目に」

 

俺は部屋中を探したが全然見つからない。

あの日見た全ての服も見当たらないのはおかしい。

ソファーに座り色々推測みた。

 

 

電車に置き忘れた。

1番ありえる話だ。

 

そもそも俺の家から持っていってない。

 

 

それはないか。

それなら気づく。

じゃあどこにあるんだ。

 

「ちょっと竜祈!」

 

玄関の方から唯の声がした。

 

竜祈がトイレから出てくる気配がない。

 

しょうがないから俺が出ていった。

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「あら?慶。竜祈の家に来てるなんて珍しいこともあるのね」

 

「この前選んだ服忘れて覚えてないからまたセットしてくれって頼まれたんだけど肝心の服がなくて大掃除までしたよ」

 

「で見つかったのかしら?」

 

「それが無くて困ってんだよ」

 

「それはそうね。はい、これ」

唯は笑いながら見覚えのある袋を手渡した。

まさにずっと探していた袋と服の塊だった。

 

「なんで唯が持ってるんだ?」

 

「ちょっと汚れてたから洗濯したの。竜祈だと洗濯しなさそうじゃない?だから私が洗って今日持ってくる約束だったのよ」

ガチャと音をたてトイレのドアが開き竜祈が出てきた。

 

「っというわけだ」

 

「ってわけじゃないだろ!掃除までさせやがって!」

 

「ははっすまんすまん。明日の分は奢ってやるから」

 

「絶対だからな」

 

「ああ、任せろよ」

 

大笑いしながら俺の肩を叩いた。

 

 

竜祈が着ていく服をハンガーにかけ今日の仕事は終了した。

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3人でキレイになった部屋でジュースを飲みながら談笑をしていた。

時計を見るともう昼を過ぎていた。

 

「お前午後から用事あるんだろ?そろそろ帰るよ」

 

「悪かったな、それじゃ駅まで送るよ」

 

「慶はこのあと予定あるの?」

 

「いや特にないな。どっかで飯食って帰るぐらいだな」

 

「じゃあ私も一緒に食べようかな。この近くに食べるとこあるからそこで食べましょ。竜祈も行く?」

 

「いや俺は用意しないといけないことがあるから家で食べるよ」

 

「そう、じゃあ慶行きましょ」

 

「2人共サンキューな」

俺と唯は竜祈と別れ近くのファミレスに行くことにした。

 

店に着き窓際の席に座った。

 

飯を食べ2人で話していると花を持った竜祈が道を歩くのが見えた。

 

「もしかして今日里優に告白しにいくのか?」

 

「まさか〜、でも竜祈ならありえる話よね」

 

「どうする?見に行ってみるか?」

 

「面白そうね。行くなら急ぎましょ」

好奇心に溢れた俺達は会計を済ませ店を出た。

俺と唯は竜祈に見つからないようにこっそりとつけた。

尾行しているようで楽しくなってきた。

 

 

「秋原警部、犯人に怪しい動きはありません」

 

「油断は禁物よ、しっかり付いていくのよ神林刑事」

あたかも自分たちが刑事ドラマに出てくる刑事のように話し始めた。

 

 

「秋原警部、ターゲットであるはずの二宮里優と接触するには駅に向かわないと行けない気がするのですが」

 

「そうね、現在地と神林刑事の家の間の町に住んでいるからこっちにくるのはおかしいわね」

 

「実はもうコンタクトをとっていて待ち合わせしているという線もありますね」

 

「これはじっくりついていくしかないわね。集中しましょ」

こうして俺と唯の刑事ごっこは続いた。

しばらく歩くと竜祈は墓地に入っていった。

 

 

「こんなムードの無いとこで告白するつもりでいるんでしょうか秋原警部」

 

「そっか、今日は月命日だったわね」

悪ふざけは終わりいつもの唯に戻っていた。

 

「月命日?誰か亡くなったのか?」

俺は唯に問いただした。

 

「あれ?慶ちんと唯?こんなとこで何やってるの?」

振り向くと拓郎が立っていた。

 

俺たちは竜祈が見える近くの公園に移動した。

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「今日はね、竜祈のご両親の月命日なの。それで用事があるって言ってたのね」

 

「竜祈の両親ってもう亡くなってるのか?」

 

「僕らが中2の時だったよね。交通事故で亡くなっちゃったんだ」

確かに持っていた花は告白するのに相応しい物ではなかったな。

 

「そうだったんだ。あいつ家を出て一人暮ししてたわけじゃないんだな」

 

「うん、住んでた家は売ってあのアパートに住むようになったんだ。さすがに一軒家に1人は寂しいだろうしね」

 

「そして、竜祈が荒れ始めたのもそれからなの。きっと寂しかったんだと思うわ」

 

「そうなのか。全然知らなかったよ」

 

「竜祈だってあまり話したくないだろうからね。今日はそっとしといて僕らは帰ろうか」

俺達は公園から出ることにした。

 

 

あいつはそんな過去をもっていたのか。

少しショックを受け顔を上げられないまま歩き始めた。

 

 

「お前らこんなとこで何してんだよ」

帰ろうとしていた竜祈が公園にきた。

 

 

俺は気まずくなってしまった。

 

里優に告白するんじゃないかと思い面白半分で付いて来てしまった。

恥ずかしさで一杯だった。

 

 

「今日は月命日だったわね」

唯が竜祈に話し掛けた。

 

「ああ、そうだ。お前らも墓参りしてくれよ。俺の友達が来てくれたって喜んでくれると思うからさ」

俺達は墓地に移動し竜祈の両親が冥る墓に手を合わせた。

 

「なんだ慶斗、元気ねぇな」

 

「いや、知らなかったからさ。ここにいるのも里優に告白しに行くのかと思って面白半分できたんだ」

 

「そうか、それは悪かったな。親のことは話したことなかったもんな」

竜祈はしゃがみ手を合わせた。

 

「親父、母ちゃん。今日は唯も拓郎も来てくれたよ。そうそうこいつ神林慶斗って言うんだ。高校で出会った友達だよ」

俺のことを友達だと紹介してくれている。

 

「初めまして。神林慶斗です。竜祈とは仲良くしてもらってます」

俺も一緒に自己紹介をした。

そこには誰もいないはずなのに優しく迎えられた気がした。

 

 

墓参りも終わり墓地を出て公園に戻った。

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「竜祈も色々あったんだな」

 

「なんだよ慶斗元気出せよ。つまんねぇじゃねぇかよ」

いまいち切り替えられない俺を励ましてくれている。

このままの調子でいたら竜祈に悪いと思い元気を出した。

 

 

「せっかく4人集まったんだからどっかに遊びに行かないか」

竜祈が楽しそうに誘ってきた。

 

「そうするか」

 

「おっ、慶斗も元気が出てきたみたいだし行くか」

俺達は遊べそうな場所に移動しようと公園を出た。

 

「どこ行こうか、ボウリングでもしない?僕得意なんだよ」

 

「あら、私も負けないわよ」

 

「おし、ガチンコ勝負だな。ビリは全員にジュースな」

 

「決まり〜!じゃあ早くいこ…、あれ里優ちゃんじゃない?」

拓郎が指差した方を見ると墓地に入って行く里優の姿があった。

 

「里優もお墓参りかしら」

 

「それじゃ里優ちゃんも誘おうっか」

拓郎が走り始めた時

 

「今日はそっとしといてやれよ」

竜祈が暗い声で制止した。

 

「どうしたんだよ竜祈。そんな声出して」

拓郎はきょとんといている。

 

「悪い、墓参りってことは大事な人が亡くなってるんだ。そっとしといてやろうぜ」

 

「そっか。そうだよね。それじゃ行こうか」

 

 

何かひっかかることがあるがその場を離れることにしボウリング場へ向かった。

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「おっしゃ〜!」

竜祈の雄たけび。

 

「やった〜!」

唯の喜ぶ声。

 

「おし!」

俺の気合の入った声。

 

「う〜、なんで」

拓郎の落胆した声が場内に響いていた。

 

拓郎のスコアが悪いわけじゃない。

調子だって悪いとは言えない。

周りのレーンの人よりは断然によかった。

 

「俺は炭酸系な」

 

「私はお茶系ね」

 

「俺はスポーツ飲料な」

 

「はいはい、竜祈が炭酸、唯がお茶、慶ちんがスポーツ飲料ね」

相手にした人が悪かったんだ。

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日曜日

俺は遊園地の入り口で待っていた。

 

 

里優と2人で

 

 

 

「遅いなあいつら」

 

「そうですね〜。どうしたんでしょうか〜」

約束の時間は過ぎていた。

 

里優に昨日のことを聞いていいのか迷っていたら

「そういえば昨日墓参りに行ってなかったか?」

聞いてしまっていた。

 

「はい、行ってました〜。なんで知っているんですか〜?」

 

「昨日竜祈と墓参り行ってな。帰りに入ってくのを見たんだよ」

 

「そう…なんですか〜」

里優は複雑そうな顔をした。

 

やはり聞いてはいけなかったのかもしれない。

それからうまく会話できなまま2人を待っていた。

 

 

「おまたせ。もう聞いてよ竜祈こんな日に寝坊してるのよ。私が起こしに行かなかったらまだ寝てたわね」

 

「2人に言うことはないだろ。悪かったな2人共。結構待ったよな」

 

「待ちくたびれて里優と帰るかって話してたとこだよ。なあ里優?」

 

「はい。後5分ってとこでしたよ〜」

 

「すまねぇ」

竜祈は深々と頭を下げた。

 

「それでは〜中でアイスクリームをご馳走してくれますか〜?ねぇ唯さん?」

 

「そうね、それで許してあげるわよ」

 

「奢らせていただきます」

パスポートを買い中に入った。

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すごい人混みだ。

 

「まずは何から行こうか?」

1番ウキウキしていたのは唯だった。

どうやら待ちきれないらしい。

 

「ジェットコースターから行きましょうか〜」

里優も待ちきれないみたいだ。

 

 

先を歩く女2人の後を男2人がついていく。

少し長い列に並び話しながら順番を待つ。

いよいよ俺達の番がきた。

 

「里優と竜祈一緒に乗りなさいよ。一応あなたたちのデートなんだから」

恥ずかしがる竜祈を里優の隣に並ばせた。

 

「すみません、ここまでです」

 

調度竜祈達のところが最後尾になった。

俺と唯は次の順番に回された。

 

「じゃあ行ってらっしゃい」

2人を手を振り送り出した。

 

 

徐々に2人を乗せたジェットコースターは頂上に向かっていった。

 

次の瞬間一気に滑り落ちた。

 

「きゃあ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

すごい悲鳴が聞こえてきた。

 

「里優の悲鳴は強烈だな」

 

「そうね、聞いてるこっちが怖くなるわ」

 

2人で笑いながら悲鳴を聞いていた。

 

いよいよ俺たちの順番になり最前列に座った。

頂上が近づくにつれて少し緊張していたら唯が手を握ってきた。

うかつにもドキッといてしまった俺は唯を見た。

もう既に目をつぶっている。

 

「唯どうした?」

 

「実は私苦手なのよ。2人の為に乗ったんだけどやっぱり…」

 

「やっぱり?うっ!」

 

 

落下開始

 

 

 

「きゃ〜〜〜〜〜!!」

手が強く握られた。

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フラフラになった唯を支えながら2人の元に向かった。

2人の姿が見え声をかけた。

 

「お〜い、見てくれよ唯フラフラになっちゃって里優は…だ…いじょ…ぶ…」

よく見るとぐったりしてるのは竜祈の方だった。

 

「唯さん大丈夫ですか〜」

 

「大丈夫よ。ちょっと怖かっただけだから」

 

「竜祈どうしたんだ?」

 

「実は初めて乗ったみたいです〜。こんなに怖いとは思わなかったって言ってました〜」

手を口に当て笑っていた。

 

「もしかしてあの悲鳴って…」

 

「竜祈さんです〜」

あれは竜祈だったのか。

 

その風貌から想像できない声をだしジェットコースターが怖いとは意外すぎて驚けない。

 

 

少し休んだあと色々なアトラクションを回った。

全ての絶叫系で竜祈が絶叫したことは言うまでもない。

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時間は昼になっていた。

もうぐったりした竜祈を休ませるのもあり昼飯を食べることにした。

 

「私お弁当作ってきました〜」

 

 

シートを引き弁当を広げた。

 

 

「お〜!」

 

「これ1人で作ったの?」

唯が驚くほど豪華で大量の弁当。

 

「私お料理好きなんです〜」

 

好きでここまで作れるのか?

 

「よ〜し、早く食べようぜ!」

豪華な飯の前に竜祈も元気になっていた。

 

「お口に合うか分かりませんがどうぞ召し上がってくださ〜い」

 

「いただきま〜す」

 

 

みんなで話しながら弁当に手をつけた。

あまりの美味さにあれだけあった豪華な弁当はすぐになくなってしまった。

 

 

満腹になった4人はしばらく暖かい日差しの中話しをして過ごした。

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「そういえば竜祈、食後のアイスないわね」

 

「わかったよ、今買ってくるよ。慶斗行こうぜ」

 

「溶ける前にちゃんと帰ってきてね」

 

「あいよ!」

アイスを買い終え2人のところへ戻る途中竜祈に里優のことを聞いてみた。

 

「お前里優に惚れてんじゃないのか?」

 

「何言ってんだよ。そんなんじゃねぇよ」

 

「本当か?嘘くさいな」

 

「ああ、わかったよ。惚れてないって言ったら嘘だな」

 

「やっと認めたか。告白しないのか?」

 

「いやちょっと迷っててな」

 

「何を迷ってるんだよ、お前らしくないな」

 

「そうだよな、でももう少し考えたいんだよ。告白する時は言うからそれまでは待っててくれよ」

 

「わかった、それまで楽しみにしてるよ」

 

「なあ、慶斗」

 

「なんだ?やっぱり今日いっちゃうのか?」

 

「道に迷った気がするんだけど」

見覚えの無い景色が広がっていた。

 

 

「これは迷ったな」

 

「やばい、溶け始めてきたぞ!急ぐぞ慶斗!」

 

 

 

道を間違えながらもなんとか2人のもとに辿りついた。

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「やっぱり迷ったわね。溶ける前にってそういう意味だったんだけど」

「竜祈の頭じゃそこまでわかるはずないだろ」

 

「だから慶斗を連れて行ったんじゃねぇか」

 

「でも2人が無事でよかったです〜」

 

 

アイスを食べながら午後からの予定を唯から話され今日は2人のデートなんだから別々に行動しようと決まった。

シートをしまい竜祈たちを見送った。

 

 

「やっぱり竜祈は里優が好きらしいな」

 

「やっと話してくれたんだ。里優もまんざらじゃないみたいよ」

 

「それじゃうまくいきそうだな」

 

「本当に世話がかかるわね」

 

「まったくな。ん・・・今日は勝負靴を履いてるんだな」

 

「これね。だって今日は大事な日じゃない」

 

「確かにそうだな。そろそろ俺達も行くか」

 

「絶叫系は避けてね。これ以上は辛いわ」

 

「わかったよ」

 

 

 

 

そして俺達は辺りが赤く染まるまで遊び続けそれぞれ家路についた。

「ふぅ、疲れたな」

 

 

 

家に着いた俺は着替えることもなくすぐにベッドに横になった。

1日中遊び続けたせいか睡魔が襲ってきていた。

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「やっとってとこか。自分の気持ちに気づくの遅いのよね」

 

夢の中でしか聞いたことのない声が聞こえる

 

そうか、もう夢の中に入っているのか

 

「でもまだ何か引っかかってるみたいね。あの時言ってた言葉嘘なのかな」

 

1人で何を言っているんだろう

 

「いざとなったら出てくしかないか」

 

ずっと独り言を呟いている

 

「なあ、お前は誰なんだ?」

 

「あら?久しぶりね。多分わからないと思うわ。前にも言ったじゃない」

 

「起きたら覚えてないしな。でもこの中だと思い出せるんだよ」

 

そう今は前に話したことまで思い出せる。

 

今まで声だけだったが今回はおぼろげながら姿が見えている

 

「前にも言ったけど時がくればわかるわ」

 

「それはいつなんだよ?」

 

「近い将来、もしかしたら遠い将来かもね。私にもわからない」

 

「待ってればいいんだな」

 

「そう、でもこれだけは言える。その時は必ずくるから」

 

彼女はそういいどこかへ消えていった、見覚えのある何かが光りその光に包まれて

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カーテンの隙間から差し込む朝日に起こされた。

 

 

感覚だけが覚えていた。

夢の中での会話、見覚えのある何かと共に。

はっきりとは思い出せない。

しばらく考え込んだが記憶の片隅にもない。

 

 

「くそっ!」

 

 

昨日帰ってきてから着替えてないことに気づきシャワーを浴びた。

 

 

風呂場を出るまでに出した結論

「いつかわかるだろう、それに夢だし」

 

考えすぎると疲れる。

俺の頭が出せる最高の結論だ。

 

学校に行く支度をし家を出た。

 

学校に行く途中の道

「なんだったんだろう?」

頭から離れない。

 

「あら、慶斗?今日は早いわね。疲れて今日は来ないかと思ってたわよ」

教室に着くと唯がきていた。

 

「昨日帰ってそのまま寝たからな。それに…」

椅子を引き座りながら答えた。

 

「それに?」

 

「いやなんでもない」

思い出せそうにない事を言ってもしょうがない。

 

「よう!慶斗。今日は早いな」

 

「そういう竜祈こそ早いな」

 

「昨日帰ってそのまま寝たからな。キレイな部屋で寝るのって快適だな」

 

「よかったな…って昨日奢ってもらってないぞ」

 

「なんの話だ?」

 

「部屋の片付け手伝ったから奢ってくれる話だっただろ」

 

「ああ、悪い!忘れてた。しかも今金欠なんだ」

 

「んじゃいいよ。俺も楽しんだし」

 

「みなさん、おはようございます〜」

 

「あっ、里優おはよう」

 

「唯さん、おはようございます〜。昨日は楽しかったですね〜」

 

「竜祈の悲鳴とかね」

 

「唯…恥ずかしいから言うな」

思い返せば昨日のことが夢のようだ

 

 

今はいつも通りの笑い声が広がっていた

いつも通り…

何か足りない…

 

 

「昨日って何?みんな楽しそうだね」

 

こいつがいたか。

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昨日の話に間違い無くついてこれない男の登場だった。

 

《空気が読めない男・拓郎》

 

一瞬に凍りつく3人。

 

ポーカーフェイス里優発動なのか里優だけがいつもと変わらないように見えた。

 

「おはようございます〜拓郎さん」

 

「里優ちゃんおはよう」

よかった、いつもの拓郎だ。

 

「それで昨日がどうしたの?」

一瞬にして人相が変わってしまった。

 

「実はですね〜昨日〜竜祈さんにお礼を兼ねてお食事してたんですけど〜唯さんと慶斗さんに会いまして〜」

 

「ふ〜ん」

 

「みんなで買い物にいったんです〜」

 

「なんか嘘臭いよ」

 

「それでこれを拓郎さんにプレゼントです〜」

里優は拓郎にキーホルダーを渡した。

 

 

なんか見たことのあるデザインだ。

昨日行った遊園地のマスコットのキーホルダーだった。

遊園地名が入っている部分を取り外した状態になっている。

それでも絶対にばれるだろ。

拓郎でもあそこには行ったことがあるはず。

浅はかだ里優!

 

 

「みんなで〜遊んでるのに〜拓郎さんいないのは悪いと思いまして〜みんなで買ったんです〜。喜んでもらえますか〜?」

 

「こんなもの…こんなもの…嬉しいっす!みんな〜嬉しいっす!」

 

「まさか泣いてるのか?」

 

「泣いてなんかないやい」

拓郎は涙を見えないように拭いながらどこかへ走っていった。

 

「まさかあの話で納得するなんて」

竜祈は唖然としていた。

 

「拓郎らしいって言ったら拓郎らしいかもしれないわね」

 

「里優もよくそんなに話を作れたな」

俺はそっちの方に驚いた。

 

「あはは〜、嘘も方便ですから〜。それにあれは私が拓郎さんに買ってきたものですから〜本当の所もありますよ〜」

そうだとしてもあそこまでの機転は唯を凌駕するものがある。

1番の実力者は里優なのか?

 

「慶斗さん?どうしました〜?私の顔に何かついてますか〜?」

 

「いや、別に」

 

 

朝のHRが始まるチャイムが鳴りそれぞれ自分のクラスへ戻っていった。

 

拓郎はなかなか戻ってこず戻ってきたのは昼休みが終わってからだった。

それまで色々な人に見せびらかし、家で写真を撮ったりしていたらしい。

 

 

しかし

 

 

どこかに落としてしまったらしく泣きながら帰ってきた。

 

 

「ううぅ、ごめんよ。みんなの優しさをどこかに落としちゃったよ」

午後の授業中ずっと泣いていた。

拓郎の手に残ったのはマスコットの付いていないキーホルダーとマスコットが無事な頃の写真だけだった。

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それからというもの里優も俺の家に来ることが増えた。

俺には残念なことが増えた。

皿洗いのじゃんけんに強力な敵が増えてしまったことだ。

 

 

しかし残念なことばかりではない。

里優と唯が一緒に飯を作る日がある。

その日は格段に美味かった。

唯と里優の感性が見事に合致している。

 

 

さらにたまに里優が弁当を作って来てくれる日ができた。

その時だけは学校で宴が開かれている気分になる。

 

 

そんな日々を過ごしたある日の放課後

 

「慶斗、拓郎、唯、俺は告白する!」

 

「なんだよ竜祈。今更僕らの事好きだって言うの?改めて言われるとてれるじゃん!」

ゴフッと音と共に拓郎は吹っ飛んでいった。

 

「あの野郎!茶化しやがって」

 

「拓郎にはあの事話してないんだろ?勘弁してやれよ」

 

「そうよ、それでいつ?」

 

「この後学校近くの公園に呼んであるんだ」

 

「そうか、頑張れよ。俺たちじゃもう何もできないからな」

 

「明日お前らに良い報告できるといいな」

 

「何最初から弱気になってるのよ。良い報告しか聞かないわよ」

俺たちは竜祈を笑顔で送りだした。

 

 

いたずらな笑顔だと竜祈は気づいていないだろう。

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「おい!拓郎早く起きろよ」

 

「う〜ん、いたたたた。あれ?竜祈は?」

 

「今からビックイベントだ。急ぐぞ」

 

 

俺達は近くのおもちゃ屋に駆け込みパーティーセットを買い公園へ急いだ。

公園に着くと竜祈がベンチに座っている。

竜祈から姿が見えないよう茂みにしゃがみこみ今か今かと待っていた。

 

 

「ねぇ、今から何があるの?」

髭眼鏡、アフロのカツラ、三角帽を装着した拓郎が聞いてきた。

 

「ぶっ、なんだよその格好。笑っちまうだろ」

 

「慶ちんがつけさせたんじゃん」

 

「今から竜祈が里優に告白するんだよ」

 

「しかも100%うまくいくわよ」

 

「それで僕達でお祝いをやるんだね。OK!任しといてよ」

 

 

 

 

しばらくすると里優が公園にやってきた。

 

里優は竜祈に気づきベンチに向かった。

さすがに里優に慣れた竜祈でも緊張している。

その緊張感はみているこちら側まで伝わってくる。

自分の唾を飲む音が聞こえるぐらい感覚が研ぎ澄まされていく。

なかなか切り出せない竜祈は世間話をし始めた。

里優もそれに乗って話始めた。

 

 

 

いつも家で見る光景だ。

世間話ものってか和やかな雰囲気になっている。

俺達も竜祈達に見つからないように談笑していた。

すると妙な緊張感が辺りに広がり空気が変わっていく。

 

 

俺達は話を止め竜祈たちの方に耳を傾けた。

ついにその瞬間が訪れる。

竜祈は立ちあがりベンチに座る里優に話し始めた。

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「里優…」

 

「はい?どうしました〜?」

 

「俺は頭も悪いし短気だし思ったことは言っちまうし男としてだせぇ人間だけど…」

 

「そんなことないですよ〜。竜祈さんいっぱいいいもの持ってますよ〜」

 

「そんな俺だけど…里優が好きなんだ。付き合ってくれ」

 

 

小さい声でお〜と盛り上がる3人。

 

里優は下を向き何かを考えてる。

 

いや何かを言っているような気がした。

 

 

うんうんと頷くと顔を上げ

「私でいいんですか〜?それなら〜こちらこそ〜宜しくお願いします〜」

「本当か?」

「本当です〜。私も竜祈さんのこと〜好きですから〜」

 

 

俺たちは感動の場面に立ち会った。

夕日がやたらと目に染みる。

 

 

みんなでガッツポーズをしクラッカー鳴らしながら駆け寄ろうと立ちあがった瞬間

「実はプレゼントがあるんだ」

ブレーキをかけられてしまった。

 

 

出過ぎた拓郎は慌てて茂みにダイブ、その音に2人はこちらを見たがばれずにすんだようだ。

 

竜祈はカバンから包装紙に包まれた箱を取り出し里優に手渡した。

 

「開けてもいいですか〜?」

 

「その為に買ったんだからな」

がさがさと包装紙をとり箱を開けた。

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その瞬間

 

 

 

 

里優の表情が固まった

 

 

 

 

「古臭いけどなんかお揃いのものつけたいなって…」

 

 

 

 

「わ……お……じゃ……い……」

 

「里優?」

 

 

 

 

「わた……おね……ない……」

 

「おい?どうした里優?」

 

 

 

 

「わた……はおね……じゃない……」

「里優?」

 

竜祈が里優の肩に手を乗せた瞬間

 

里優はその手を払い

「私は!私はお姉ちゃんじゃない!!」

目に涙を溜め叫んだ。

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そして箱を竜祈に投げつけ走り去っていった。

竜祈は呆然と立ち尽くしている。

 

 

 

俺達も何がどうなっているのかわからないままその姿を見ていることしかできずにいた。

一度はうまくいったと思った矢先に終わってしまった。

 

 

 

何故なんだろう?里優の叫んだ言葉の意味がわからない…

 

 

 

「ねぇ、慶」

唯が竜祈のところに行こうとうながした。

 

 

俺達はゆっくりと近づいていった。

その足音に気づいた竜祈は痛すぎる程の笑顔で俺達を迎えている。

 

 

「なんだよ、拓郎その格好は。お前らなら来るとは思ってたよ」

無理に笑っているのがわかる。

 

「竜祈…」

誰もがなんて声をかけていいのかわからない。

 

「なんかふられちまったみたいだな」

 

 

そういい里優に渡すはずだった箱を拾い上げた。

その中には竜祈がいつもしているネックレスと同じ物が入っていた。

 

「お前…それを渡すつもりだったんだな」

 

「お揃いの物つけるなんて意外と俺もロマンチストだったみたいだ」

ふっと笑い俺達から視線を外した。

肩が微かに震えている。

 

 

「そうだ!これからパーとやろうよ!ねっいい考えじゃない?」

心配して拓郎もうまく笑えていない。

 

「悪いな、そんな気分じゃない。気使ってくれてありがとな」

ネックレスをカバンにしまうと竜祈は公園を出ていってしまった。

俺達はそれを見送ることしかできなかった。

-23ページ-

喧騒が辺りを包み込む。

今まで何もなかったかのように。

 

 

 

なんでこんな結末になってしまったのだろう。

絶対にあの2人なら大丈夫だと信じていたのに。

家で1人そのことをずっと考えどうにかできないかと考えもしたが

何も浮かんでこない何もできない自分に腹がたつ。

じっとしていたら爆発していまいそうだ。

とりあえず本を読んだりテレビをみたりして気を紛らわせていたがその間もずっと考えてしまう。

 

気晴らしに散歩に出た。

空を見上げると嫌味なくらい星空が広がっていた。

近くの自販機でジュースを買いしゃがみこんでまた星空を見上げた。

今まで考えていた事が全て抜けていく。

心が落ち着いていった。

そのまま眺めていると流れ星がスーと夜空を裂いていった。

それを見届け家に戻りすぐにベッドに入る。

気持ちのいいまま明日を迎えたかったからだ。

するとすぐに睡魔に襲われ眠りに落ちた。

-24ページ-

「慶斗君!慶斗君!」

 

誰かに呼ばれている

 

これはあの夢の中の声か

 

「また来たのか?」

 

もうこの状況には慣れた

 

「大事な話をするからよく聞いてね。明日っていうかある意味今日か、里優と竜祈を夜、みんないなくなった学校につれてきてほしいの」

 

「ああ、2人を知ってるんだっけ?あいつらはもう一緒にはいたくないんじゃないかな」

 

「そんなことない!」

 

「そんな強く言われたっておまえは事情を知らないだろ」

 

「もうダメ。短くなってきてる。お願いだから連れてきてね。私にはもう時間はないから」

 

「なんだよ時間って?起きたらまた忘れてるんだから無理だろ」

 

「絶対にだよ。お願い」

 

「おまえ話聞いてるのか?覚えてないんだから…っていない」

 

さっきまであった気配が感じられない

 

「覚えてないんだから」

 

そう呟くと辺りが明るくなり目が覚めた

-25ページ-

「はぁ、はぁ…」

 

回りをみると自分の部屋にいる。

 

 

 

でもいつもと違うことに気づいた。

 

「里優と竜祈を連れていく」

 

俺は着替えて学校に向かった。

もう放課後近くになってしまっていた。

 

 

 

起きた後しばらく考えた。

 

前までは所詮夢の中の話だと思っていたが今日だけは何かあるような気になった。

 

気づくとあっという間に時間は流れていた。

 

全速力のまま教室に着くと唯にすぐに話しかけた。

 

「里優は来てたか?」

 

「どうしたの慶?そんなに慌てて。今頃登校とは遅いわね」

 

「来てるのか?」

 

「うん。来てるけど会釈されるだけで話せなかったわ。あっ、慶!?」

俺は再び走り出した。

 

 

時間はもう放課後…急がないと帰ってしまう。

うつむきながら歩く里優を見つけ声をかけた。

しかし会釈をし俺を通り過ぎようとしていた。

 

 

 

俺は腕を掴み引き止めた。

「聞いてほしいことがある。嘘だと思うかも知れないけどお前を呼んでいる奴がいる。誰なのかはわからないんだけど。今日の夜、生徒がはけた後の学校に来てくれ。時間がないらしいんだ。頼む!」

俺は里優に頭を下げ頼み込んだ。

 

 

 

しかし里優は何も言わず行ってしまった。

 

 

俺は遠くから

「絶対だぞ!里優!」

そう叫ぶしかなかった。

-26ページ-

一旦教室に戻り唯に竜祈がきているか確認しまた走り出した。

 

「竜祈!」

 

「おお〜!慶斗。今日は来てなかったよな。今来たのか?」

 

「ああ、お前に大事な話があってな」

 

「なんだよ、その為に来たのか。明日でもよかったんじゃねぇのか?」

 

「今日じゃないとダメなんだ。何も言わず俺の言う事を聞いてくれ」

 

「ずいぶん真剣だな。早く言ってみろよ」

 

「今日の夜、生徒がはけた学校に行くぞ。誰なのかはわからないがお前を呼んでいるやつがいる。そいつに頼まれたんだ。連れてきてくれって」

 

「誰かわからないってなんだよ。会ったことあんのか?」

 

「夢の中でな」

 

「夢の中?ははは、慶斗にしちゃ面白い冗談だな。座布団やろうか?」

 

「冗談なんかじゃない!竜祈…頼む。一緒に行こう」

 

「勝手に行ってくれよ。気分じゃないからな」

竜祈はそのまま帰ってしまった。

 

 

 

きっと俺にできることはやれたはずだ。

後は2人を待つしかない。

-27ページ-

「うわ、怖いな」

 

俺は1人で学校に忍びこんだ。

まあ堂々と下駄箱の方から入ったのだが、警備とかどうなってるんだこの学校は…

 

 

薄暗い校舎をうろうろ回った。

 

学校に来いとは言われたが細かいとこまでは聞いてなかったからだ。

 

どこからか音がするのに気づいた。

 

「まじで怖い。来るんじゃなかったかな」

少しだけ後悔した。

 

音のする方に歩いていくと音楽室についた。

 

「手だけでピアノ弾いてたり変な髪形のやつの目が動いたりするのか?」

入るか入らないか迷っていたがもう音楽室の中にいた。

 

 

 

ピアノの方を見ると制服をきた女の子がいる。

 

その子は俺に気づきこっちを見て話しかけてきた。

 

「こんばんわ、慶斗君。こうやって会うのは初めてだね」

夢の中の声の主だった。

 

「まさか本当に2人に頼むとは思わなかったわ。ありがとう」

 

「でもあいつらまだきてないだろ」

 

「ううん、確かに来てないけど頑張ってくれたことが嬉しかったの」

 

「いや、俺にできることをしただけだ」

 

「そ・れ・で・も、だよ」

薄暗いからか表情があまり見えないけど嬉しいっていう気持ちは伝わってくる。

 

「慶斗君、いつもあの2人と仲良くしてくれてありがとう」

 

「ただ好きでいるだけだから」

 

「自分の気持ちに素直なのね」

 

「わがままなだけだろ」

 

「そうとも取れるわね」

クスクス笑う声が聞こえてくる。

 

「それと唯さん。本当に面倒見がいいのね。あなた達の世話するの大変そうだもの」

 

「あいつはそういう奴なんだよ。俺らの姉さん的な感じだな」

 

「お姉さんか…」

感慨深そうにかみ締めていた。

 

「あと拓郎君。あの子面白いわね。泣きながら走るなんて子供みたいだわ」

 

「いつもの事だよ」

 

「でもあんまりいじめちゃダメだよ」

いじめている訳ではない。

 

「からかいたくなるんだ。こればかりはどうしようもないな」

 

「そうかも。私も一緒にいたらしちゃいそうだもん。いいな、私もあなた達と一緒に学園生活送りたかったな」

 

 

羨ましさの中に寂しさが混じっている。

心が苦しくなる言葉だった。

 

 

「なあ、電気つけていいか?」

どんなやつなのか拝んでおきたい。

 

「誰か来るとまずいからそれはダメ。ちょっと待って」

 

 

そう言うと下を向いた。

するとそいつの体は光に包まれた。

 

 

 

「ほら、少しは明るくなったでしょ?」

 

「お前…どうやって…」

俺は光で浮かび上がった顔を見て驚いた。

 

 

「似てる…」

 

 

彼女はクスリと笑った。

「今なら私の名前聞こえるかな?私は…」

 

 

 

 

 

 

「美優!?」

後ろから竜祈の声が聞こえた。

-28ページ-

「竜祈、久しぶりだね。2年振りくらいかな」

 

「なんでお前がここにいるんだよ?」

 

「あら?忘れたの?一緒にこの学校に行こうねって約束したじゃない。どう?制服姿。この学校の制服可愛いよね」

 

「そんなこと聞いてるんじゃねぇよ!なんでこの世界にいるんだよ!?」

 

 

俺の頭の中は混乱している。

全然状況が掴めない。

この世界ってなんだ?

 

 

「ほらほら、慶斗君固まっちゃったよ。順をおって話さないと」

 

「いや、俺もわけわかんねぇよ」

 

「じゃあ私が話すわよ?じゃあ改めまして私は川瀬美優。竜祈の元カノで〜す」

 

「元カノ?初耳だ」

 

「そしてなんと竜祈も知らない新事実!なんと私は…」

 

「お前は…俺の考えが正しければ里優の…」

 

「お…ねぇ……ちゃん?」

振り向くと音楽室の入り口に里優が立っていた。

 

「里優も来てくれたんだ。よかったわ、最後に2人に会えて」

 

「お姉ちゃん、なんで・・・なんでここにいるの?」

 

「竜祈と同じリアクションしないの。他にないのかな〜、感動の再会みたいなの」

竜祈の元カノで里優の姉…余計に混乱してきた。

 

「お姉ちゃんって苗字が違うだろ。顔はそっくりだけど」

純粋に疑問を投げかけた。

 

「そうね、1から教えてあげないとわからないわよね。じゃあね…」

 

「美優、俺から話す」

 

「ぶ〜、人と話すの久しぶりなんだからいいじゃん」

 

「お前が話すとややこしくなりそうだ」

少し沈黙が続き竜祈が重い口を開けた。

-29ページ-

「俺と美優は幼馴染なんだ」

 

「そして元カノで〜す」

 

「頼むから少し黙ってろ」

 

「は〜い」

 

「お前は俺の親がいないのはこの前知ったよな。そしてその頃から荒れ始めたのも」

 

「ああ、そして唯と拓郎に救われたんだよな」

 

「そうだ、実はお前にもあいつらにも話してない事がある。昔のツレが離れっていったくらいの頃俺は人を信じるのが怖くなった。また仲良くなっても離れていくんじゃにかってな。それがさらに拍車をかけて暴れたんだけどな。そんな時に話しかけてきたのが美優が」

 

「あの頃の竜祈単なる狂犬だったんだから」

 

「その狂犬に説教かましてたお前はなんなんだ?」

 

「女王様?」

 

「なんでもいいや、小学校は一緒だったんだが中学は別でな。久しぶりに会ったと思ったら即ビンタだぜ。

考えられねぇよ。それから会うたんび説教の日々だった。同い年のやつに説教するか?」

 

「それはあんたが悪いからでしょ」

 

「でもこいつは本気で俺を心配してくれていると思った瞬間また人を信じようと思えるようになったよ。

そして気づいたら付き合ってたって訳だ」

 

「ちょっと待てよ。小学校が一緒なら里優のことはなんで知らないんだよ。それに同い年?」

 

「それは私が話します。私とお姉ちゃんは双子なんです。そしてまだ生まれて間も無い頃に養護施設に預けられそれぞれが違う家に引き取られました。なので自分に姉妹がいるなんて知りませんでした。でも不思議なもので双子って引き合うんですかね。中学1年の時に道端でばったり出会いました。そしてこう思ったんです。この人は私の姉妹なんじゃないかと」

 

「それで2人も里親を問い詰めたのよね」

 

「うん。それからは連絡を取り合ったり遊びに行ったりしました」

 

「それでね、私は2人に同じ高校に行こうって行ったの。そしたら2人も受かってるんだもん。すごいって思ったよ。特に竜祈。小学校の時はよかったけど中学校があれだったkら心配だったのよね」

 

「それでお前だけ落ちたわけか」

 

「ううん、受けてないの」

 

 

ペロッと舌をだしておどけていた。

 

 

 

「誘っといてか?」

 

「美優は中3の夏に…………死んだんだ。交通事故で」

 

「なっ…」

 

 

 

竜祈の言っている言葉の意味がわからない。

現実に今目の前に美優はいる。

俺の目線に気づいた美優はにっこり笑って返した。

-30ページ-

「嘘なんだろ?」

それしか言葉は出てこない。

 

 

「嘘じゃねぇ。だから俺も驚いてるんだよ。死んだはずの美優がここにいるんだ」

 

「私も驚きました。なんでここにいるのか」

 

「それはね、あなた達2人が見てて歯痒いから最後のお説教にきたってとこかな」

 

「もうお前に説教される覚えはないぞ」

 

「そうね。今回の竜祈は合格点ギリギリってとこね。問題は里優よ」

 

「えっ?」

 

「里優…竜祈の事好きなんでしょ?付き合えばいいじゃない。私の事は関係ないわよ」

 

「でも…私はお姉ちゃんじゃないから…」

 

「そんなのわかってるわよ。竜祈もちゃんとあなたを好きになったのよ」

 

「違う…お姉ちゃんと私は双子だから代わりでしかない…あのネックレス…お姉ちゃんが竜祈さんからもらった物と同じ…私に面影を重ねてるだけ…」

 

「もしかしてこれ?」

美優は首につけているネックレスを取り出した。

 

 

 

それは竜祈、里優に渡すはずだった物と同じものだった。

 

 

 

「これは私が真似して買ったのよ」

 

「嘘!遊園地でもらったって言ってた…すごい嬉しそうに…それに竜祈さんはずっと付けてる…お姉ちゃんとお揃いだったから…」

 

「ごめんね、あの時言った事が嘘なの。それに竜祈がずっとつけてるのは…」

 

「親父と母ちゃんが最後にくれたプレゼントだからさ」

 

「そういうこと。だからあれはあなたへのプレゼントよ。私じゃない、里優へのたった1つのプレゼント」

 

「ごめんなさい…」

何回もその言葉を呪文のように繰り返し里優は泣き崩れてしまった。

-31ページ-

ずっと張り詰めていたものがあるんだろう。

勘違いで竜祈を傷つけてしまったことを悔やんでいるんだろう。

 

 

 

美優は里優に近づき抱きしめ頭を撫でた、まるで小さな子供をあやすように。

里優は優しい姉の胸の中で泣き続けた、迷子になった子供が母親に抱きしめられ泣くように。

長い間泣きつづけていたが少しずつ泣き声が小さくなってきた。

 

 

 

それを見ていた俺の顔の前を小さな光が過ぎていった。

掴もうとしたがすり抜けていく。

 

 

「里優…ごめんね。もう少しこうしていたいけどそろそろ時間が来ちゃう」

里優を包み込んでいる体から光が離れ始めている。

 

 

「12時になったら私は行かないといけないから」

時計の針は12時になりかけている。

 

 

美優は里優を離し2人の前に立った。

 

 

「やだ!お姉ちゃんいかないで!」

 

「そうしたいけど私はもうこっちの存在じゃないからね。竜祈、里優…お説教は終わりこれからどうするかは2人次第。本当に私の事思ってるなら2人は幸せになってね」

 

「美優、またな」

 

「あっちで待ってるよ」

 

「お姉ちゃん!」

 

「私の分まで生きて幸せになるんだよ」

うっすらとだが涙が見える。

 

 

「ばいばい、またね」

美優は消えてしまった。

時計の針は12時を指していた。

-32ページ-

「きゃあ〜〜〜〜〜〜!」

「相変わらず竜祈の悲鳴はでかいな」

 

「何回聞いてもビックリしちゃうわね」

 

 

 

俺達はまたあの遊園地に来ていた。

今度はちゃんと拓郎を連れて。

 

 

 

「そろそろご飯にしようよ。僕、お腹減ったよ」

 

空気を読んでくれ…

 

シートを引きみんなで弁当を食べ始めた。

 

「うっ!詰まった…」

 

「竜祈さん、大丈夫ですか〜。はい、お水です〜」

 

「悪いな、ありがとう」

 

「いや〜里優ちゃんも戻ってきてよかったよ。これでいつも通りだね」

 

「その節はご心配かけてすみませんでした〜。あっ、でもいつも通りではないですよ〜」

 

「へっ?どういうこと?」

 

「私は今〜竜祈さんの彼女ですから〜」

 

里優はあのネックレスを自慢気に見せた。

 

「え〜!慶ちん知ってた?」

 

「当たり前だろ」

 

「唯は?」

 

「常識よ」

 

 

 

拓郎には何があったか話さずにいた。

どんな反応をするか楽しみだったし。

 

驚きのあまり声が出ず口が開きっぱなしになっている。

 

「でもなんで俺の夢の中に出てきたんだろうな?」

 

「それは〜お姉ちゃんと慶斗さんが似てるからじゃないでしょうか〜」

 

「全然似てないと思うけど」

 

「似てますよ〜。人を思う心だったり誰かの為に動いたりするとこなんかは特にですね〜」

 

「あと馬鹿みてぇに真っ直ぐに行動するとことかな」

 

「竜祈、馬鹿にしてんのか?」

 

「それだけ純粋だってことだよ」

 

「おかげで私達は〜こうしていられますから〜」

 

「ありがとな。まっ、意味わかんねぇ事言われて学校に呼び出されただけだがな」

 

「あの時の慶斗さん〜面白かったですよ〜」

 

 

 

誉められているのかわからなかったが嬉しかった。

こんな俺でも役に立てたみたいだから。

 

弁当箱を片付け遊ぶ準備を始めた。

 

 

すると拓郎は何かを見つけそっちを見つめ続けている。

 

「どうした?」

 

「キーホルダーに付いていたのが歩いてる…ん?あれ、僕がもらったキーホルダー…」

風船を渡してるマスコットと売店が目に入った。

 

 

「やばっ…竜祈、唯、里優…逃げるぞ」

 

 

4人でその場から忍び足で離れた。

 

 

 

「やっぱり…やっぱり…みんなで遊んでたんじゃないか〜!!」

 

 

 

 

 

猛ダッシュで拓郎が追っかけてきた。

 

俺達も笑いながら走り始めた。

 

 

 

回りの賑やかな音の中を駆け抜けている時はっきりと

「ありがとう」

そう聞こえた。

 

 

 

「慶斗さん、慶斗さん」

里優が走りながら話しかけてきた。

 

 

「今度私、お姉ちゃんのお墓参りに行って報告してきますね〜」

 

「なんて?」

 

「私は今幸せだよって」

 

説明
急展開な話に戸惑いながらも2人がうまくいくことを願う。
でも、まだ夢に出てくる女の子の事がわからない・・・
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