真説・恋姫演技 〜北朝伝〜 第五章・序幕 |
一刀達が、河北にて奮闘していた丁度その頃。
大陸各地においても、各諸侯がそれぞれに、独自の動きを見せ始めていた。
初めに動いたのは、江東の虎こと、孫文台だった。
周家や陸家を初めとする、揚州の各有力豪族との誼を深め、その戦力を増強した彼女は、あくまでも自身に従うのを良しとしない者たちを、武を持ってその軍門に下した。そうして瞬く間に江東の地を制した彼女は、地盤固めもそこそこに、その矛先を、今度は荊州へと向けた。
自ら先頭に立ち、江夏の地へと攻め入った孫堅だったが、やはり、どこかに慢心があったのだろう。江夏の守将である、黄祖が仕掛けた罠に気づいたときには、もうすべてが遅かった。
頭上から落ちてくる、大量の大岩や大木。そして、折からの大雨で緩んでいた地盤もあいまって、彼女は、大勢の部下とともに長江へとその姿を消した。
後続の部隊を率いていた孫堅の長女孫策は、何とか追撃の手を逃れて、本拠地である柴桑へと戻ったものの、その彼女に追い討ちをかける事態が、江東の地にて起こっていた。
孫堅によって、力づくで従わせられていた一部の豪族達が、孫家に反旗を翻したのである。
その後、孫策は義姉妹である周家の長、周瑜や、陸家の陸遜、魯家の魯粛ら、孫家側についたもの達の助力を得て、再び江東の地を制圧することに成功する。そして、今度こそ、火事場泥棒的な反乱が起きない様、しっかりと、そして、じっくりと腰を据えての地盤固めに取り組んだ。
……行方不明の母、孫文台の消息は掴めないままなものの、死体が発見されていない以上は、必ずどこかで生きていると。孫策はそう信じていた。
「……あの母様が、ただで死ぬような玉じゃないのは、娘の私が一番良くわかってるわ。なんといっても、江東の虎といわれた母様だもの」
「……それは、いつもの”勘”か?」
「……ま、ね」
江東の小覇王、孫伯符は、断金の誓いを交わした生涯の友、周公瑾にそう笑って見せたのだった。
一方で、その孫堅を撃退した荊州では、二つの勢力が現在にらみ合いを続けていた。
片方は、荊州北部にて、州の牧を務める劉景昇。そしてもう一方は、南の四郡をまとめる袁公路。
とはいえ、主に戦をふっかけているのは劉表側のほうで、袁術側は防戦一方という状況である。そしてさらに、その劉表軍に関しては、その実権を握っているのは当主の劉表ではかった。
現状、実際の権限を握っているのは、劉表の後妻の兄である、蔡瑁という男。少し前に行われていた、劉表軍による益州侵攻も、この男の指示によるものだった。そして劉表本人はというと、すでにその全身を病に侵されており、もはや明日をも知れぬ容態となっていた。
長女の劉gは、蔡瑁の独断を何とか止めようとしているのだが、腹違いの妹であるjの身を案じ、思い切った行動に出れていないのが現状。それでも、現在の小競り合い程度で、どうにかこうにか歯止めを利かせていられるのは、苑に駐屯している荊州刺史、丁原の協力によるものが大きかった。
呂布という、天下無双の将が、敵対している劉g側につき、北でにらみを利かせている。そのことが、蔡瑁に思い切った行動を取らせるのを、ためらわせていたのである。
一方で袁術側はというと、袁術の腹心である張勲と紀霊の二人を中心にして、日々北からの進行を防いでいた。少し前にこの地に流れ着いてきた、袁術の従姉妹である袁紹と、その部下の顔良と文醜の協力もあり、何とか戦線を維持していられた。
「……麗羽姉さまが来たときは驚いたものじゃが、そのお陰で、人手不足も解消できたしの」
「そうですね〜。”あの”!麗羽さまが、まじめに!お仕事に取り組んでいてくれますからね〜。……ここに来るまでに、いったい何があったのやら」
「無一文で南皮を追い出された後、相当に苦労したそうだ。しかし、多くの人々の善意に助けられて、どうにかこうにか命をつないできたらしい。……そのお陰で、民の心情というものがよくわかったと。袁紹さまは言っておられましたね」
「……あの麗羽姉さまがの〜」
「人って、変われば変わるもんですね〜」
紀霊の言葉に、しみじみとうなずく袁術と張勲であった。
そんな緊張状態にある荊州の西。益州へとその目を転じると、そちらはそちらで内乱が発生していた。
益州の主は、劉璋という。
これがまた気弱な人物で、腹心である張任以外とは、ほとんど口も利かないような少女だった。そのため、政はほかの部下たちに丸投げし、自分は張任とともに城の奥に引っ込んで、めったに出てこないという有様である。
それを良いことに、彼女の部下の一部が、国を私物化して好き勝手に動かしており、民たちは塗炭の苦しみに喘いでいた。
そして、巴郡を治める厳顔、黄忠、魏延の三将が、とある人物を迎えたことでついに決起した。
そのとある人物とは、以前、平原の地を追われた後行方不明となっていた、劉備一行である。冀州を脱出した後、劉備たちは一時、荊州の水鏡塾にその身を寄せた。きっかけは些細なことだった。その塾に所属する二人の少女を、賊からたまたま助けたのが彼女たちだった。
劉備はその水鏡塾で、水鏡先生こと、司馬徽からの教えを受けた。
大徳と呼ばれ、清廉潔白を旨とするのは良い。しかし、今の乱世、力なき徳は無力。あえて力を行使し、なおかつ、その責任を背負う覚悟無き者に、理想を掲げ、それを為す事は絶対にできないと。
その言葉で、劉備は己が甘さを痛感した。そして、泣いて司馬徽に請いた。
「良き知者を、私を導いてくれる、私の間違いを正してくれる、そして、民を笑顔にする策を持つ者を、ご紹介いただけませんでしょうか」
と。司馬徽のそれに対する答えは。
「伏龍・鳳雛。そのどちらかならば、お答えできるかもしれませんね」
その日から、彼女の日参が始まった。
伏龍・鳳雛が滞在する庵に、それこそ足繁く通い、助力を請うた。……まあ、まさかその伏龍と鳳雛が、自分たちが助けた、あのときの少女たちだったと知ったときは、結構な衝撃を受けたが。
それはともかく。彼女の熱意が通じたのか、伏龍こと諸葛孔明と、鳳雛こと?士元の二人は、劉備の陣営に加わることを決め、その最初の献策として、益州へ入ることを彼女に勧めた。政情不安の続くかの地であれば、劉備のその徳の高さを示し易く、食い込むことも容易だろう、と。
その言葉どおり、巴郡についた三千ほどの劉備一行は、その到来を知った民たちから、諸手を挙げて歓迎された。どうして彼女たちが、この益州に来ることを彼らがあらかじめ知っていたのかが、少々の謎ではあったが、それもすぐに氷解した。
巴郡太守の厳顔が、彼女たちの益州入りを聞き届け、その大徳と呼ばれる人物像を、少々誇大に宣伝したのである。……クーデター、いや、益州に巣食う奸臣たちを取り除き、民を苦しみから救い出すために。
厳顔たちは、劉備をその旗頭とすることを選んだのであった。
その益州から北で、事件は突然に起こった。
涼州連合を率いる馬騰が、ある日突然、漢の都である長安を急襲したのである。王允らによって、傀儡とされている皇帝・劉協を救い出し、漢に昔日の栄光を取り戻す。それを大儀に掲げて。だが、彼女の思惑は成し遂げられなった。
劉協は、馬騰らが都に到達する前に、禁軍将軍の張遼と董承の手引きにより、都からひそかに脱出し、洛陽の復興作業を行っていた曹操の下に保護されていたのである。
尚、王允であるが。彼は、馬騰たち涼州連合軍が都に辿り着いた時には、王宮の奥、玉座の間にて、すでに物言わぬ姿になっていた。
そして、馬騰は長安の東にある函谷関を抑え、対曹操への防備を準備した。皇帝奉戴に失敗した以上、二人目の逆賊にされることは、火を見るよりも明らかだった。
しかし、曹操に保護された劉協からは、そのような勅が発せられることはなかった。
それをいぶかしみつつも、馬騰は周辺への警戒をさらに強化し、その戦力を増強させていく。思惑が外れたことによる、部下たちの不協和音を感じながら。
そして、思わぬ形で皇帝を奉戴することとなった曹操は、早速その皇帝からの勅を受け、”徐州”をその掌中に納めた。
形式上は、賊の対応に四苦八苦している徐州を援助するという、そんな名目の下に。
これにより、大陸は大きく、七つの勢力に分かれることになった。
河北を有し、異民族とも手を組んだ一刀たち北郷軍。
中原を領し、皇帝を戴く曹操軍。
揚州全土を掌握した、孫策軍。
荊州の劉、袁の両軍。
益州では、すでに劉備が成都を落とし、劉璋から国を譲り受けており。
そして涼州には、馬騰ら涼州連合が、その勢力を保持。
妙な均衡状態。
どこも大きく動くには、もう一つ決め手に欠ける状況となり、皮肉にもそれが、大陸にわずかな平穏の時をもたらした。
初めに動くのはどこか。そして、滅びの憂き目に会うのは……?
第二の春秋戦国時代。
史書にはこの時の状態が、そう記されている。
新たな日輪は、いったいどこに輝くのか。
その結果が出るのは、そう遠くないことかもしれない。
時は移ろい行く。
ただ静かに。
そして、無常に。
二人の少女とともに、一刀はただ黙して天を見つめる。
?の城の欄干に立つ三人を、月と星は静かに照らすのだった……。
〜続く〜
説明 | ||
北朝伝の五章、その序幕です。 ・・・・・・やっと書き直せました。 内容的には、一刀たちが河北で戦っていた間の、 大陸各地での様子のダイジェストって感じです。 それではどうぞ。 |
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コメント | ||
1 1=11さま、ご解説ありがとうございますw すみませんが、桃の子の出番は当分ありませんwww(狭乃 狼) つまり、いきなり洲牧に任命された桃香さんは、劉籍を認められたに等しいのですヤッホウ! と、言うわけで狭乃様、楽しく拝見させていただいておりますm(_ _)m 桃の人にさらなるお慈悲をノ(1+1=11) 後漢末期の刺史と洲牧は、一応同列(洲牧制度が復活したため同じ役職である刺史と被った)ですが、格付けで洲牧が上とされ、刺史には兵権に若干の制限が付きました。また、洲牧は皇帝に近しい臣下などが選ばれ格付けに一役買ったのです。(1+1=11) hokuhinさま、美羽がどれだけまともに仕事をしているか。そこがポイントでしょうね。従姉妹喧嘩が起きないといいんですが。・・・七乃が煽ったりとかしてねw(狭乃 狼) 麗羽様がまともになって美羽様と一緒になるとは・・・これはかなり袁家手ごわくなったな。(hokuhin) 砂のお城さま、さあ、そこはどうでしょうね。水鏡センセの教えをどう受け止めたか・・・。そこが鍵かもですね。(狭乃 狼) ゼニガメさま、州牧は州の政軍すべての統括、刺史は主に治安維持。そんな感じで役目が分かれていると思ってください。史実でどうだったかはしりませんがwww(狭乃 狼) mokiti1976−2010さま、役目はすでに終わったということでw 麗羽はどの程度まで改心したでしょーね?w(狭乃 狼) ほわちゃーなマリアさま、王允・・・すべては予定通り(ぇw(狭乃 狼) 州牧がいれば刺史はいないんじゃないですか? 間違ってたら土下寝します。(ゼニガメ) 王允あっけない終わり方ですね。もはや行数を割く程の価値もなかったということでしょうか?それはそうと麗羽さんちょっといい人になったようで何よりです。(mokiti1976-2010) 七乃さーん。それは(国主的な)死亡(一刀のO☆SHI☆O☆KI)フラグですよ。そして王允さん涙目ですね。「私の扱いが、酷い」と言い残していたみたいですよ(ほわちゃーなマリア) 村主7さま、王允とのやりとり、よくご存知でwwwま、見極めは厳しいのは確かですね。 ももかおり(仮名)wさん・・・これでまた当分出番なしです。はい^^。(狭乃 狼) 柾棟さまさん、お気遣いありがとうございます。更新はかなりゆっくりペースになると思いますが、じっくりお待ちくださいませですw(狭乃 狼) おまけ 「台詞・・・ 喋れるのがこんなに嬉しい事なんて(感涙)」(ももかおりさん・仮名)・・・と勝手に妄想をw(村主7) 王允「た、頼む 一行退場だけは」神(狭乃さん)「じゃ一行と数文字で」王允「9(゜A゜)プギャーw」そんな遣り取りが見えた感じがw<4p目 ともあれ静観か動くか、見極めの厳しい状況には変わりないですが(村主7) 更新お疲れ様です。 溜めていた話のデータがすべてなくなったと時はさぞ大変でしたでしょう。 自分も似た事があるのでお気持ちお察しいたします。 今回の話はなかなか考えさせられるものでした。 それぞれの勢力がどんな動きを見せるのか? そして、裏で蠢く者達の思惑はどんな事態を結果を生み出していくのか? これから先の展開がとても楽しみです。(劉邦柾棟) 東方武神さま、とりあえずゆっくりお待ちくださいなw 別勢力ねぇ〜・・・クスクス^^。(狭乃 狼) ここいらでいきなり別の勢力が出てきて一気に戦乱へ・・・とか想像しちまうな〜。次回もゆっくりとお待ちしてます。(東方武神) よーぜふさま、さ〜どこでしょうね〜www(狭乃 狼) namenekoさま、それは無いです(きっぱり)w一応更正してますからwww(狭乃 狼) まともな風味をかもし出している麗羽さんだからなぁ・・・ほんとどっからくずれていくんでしょ??(よーぜふ) 勢力バランスを崩すのは袁家で理由は華琳さんのくせにいい人材を持ちすぎですわ・・・・・・・・・とか?(VVV計画の被験者) はりまえさま、さっそくどうもですwさて、始めにバランスを崩すのはどこでしょうね?・・・くすw(狭乃 狼) 確かに微妙なバランスをかもし出してるな・・・どこかの勢力がバランスを崩せばあっという間に戦が始まるな。難しいばかりだ。(黄昏☆ハリマエ) |
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