真・恋姫無双 黒天編 第5章 「魏軍、洛陽到着」
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真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第5章 「魏軍、洛陽到着」

 

 

 

 

一面に広がる草原の中

 

大地を蹴る馬蹄の音が規則正しく響いている。

 

青い髪をなびかせながら、追いつこうと馬を走らせる。

 

そして、隊列の後方をとらえるとそのまま追い越していく。

 

隊列の中ほどまで馬を走らせるとそこには春蘭の姿があった。

 

「すまない、姉者。遅くなった」

 

「おおっ、やっと来たのか。どうだった?」

 

「駄目だな。高札は立てさせてもらったのだが・・・」

 

秋蘭は馬の速度を春蘭の馬の進む速度に合わせる。

 

秋蘭は洛陽に向かう途中に小さな集落を見つけたので単独で情報収集に向かっていた。

 

しかし、案の定何も知らないとのことだった。

 

「華琳様や稟には報告しないのか?」

 

「特に何もなかったのだ。する必要もないだろう」

 

「そうか・・・」

 

春蘭は話しながら秋蘭の顔をじっと見る。

 

「ん?どうした、姉者。」

 

「いや・・・」

 

秋蘭に気づかれるとすぐに目線をはずす。

 

「姉者、疲れてるのか?ならここは私に任せて華琳様のもとに行ってもいいぞ」

 

「心配するなっ!私は大丈夫だ。それに、洛陽はもう目と鼻の先だからな」

 

春蘭はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 

その様子を見て、秋蘭も顔を正面へ向け薄っすらと見えてきた洛陽の町を見る。

 

“もうここまで来てしまったのか”とぼそっとつぶやく。

 

次は顔を上に向け、青い空とそこに浮いている雲を眺める。

 

そして、ここまでの旅の行程を思い返してみる。

 

思い返してみての感想は“何もなかったな”だった。

 

どの町に寄ってみても情報はない。

 

誰もが何も知らないという。

 

北郷一刀ももちろんいなかった。

 

思い出せば思い出すほど空しくなってくる。

 

秋蘭は、はぁと一つため息をつく。

 

「秋蘭、お前も疲れてるんだろ?」

 

「いや、私も大丈夫だ。心配しないでくれ」

 

「本当か?洛陽についてもすぐに会議なのだぞ?今のうちに休んでおいた方がいいのではないか?」

 

春蘭はしつこく秋蘭の体調を気にする。

 

「ふふっ、姉者は心配性だな。大丈夫だ」

 

「そうか・・・それならいいのだが」

 

「姉者、私たち二人で先に洛陽に行っておかないか?華琳様にあまり負担をかけたくない。いろいろと準備もあるだろうからな」

 

そういうと秋蘭は乗っている馬に軽く蹴りを入れる。

 

そして、そのまま馬を走らせて行ってしまう。

 

「あっ!待て!!二人で行くのではなかったのか!?」

 

春蘭は追いかけるために馬に活をいれる。

 

二頭の馬はそのまま洛陽の町へといち早く駆けて行った。

 

 

 

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数刻後、

 

魏捜索隊は無事に洛陽に到着し、華琳、稟はすぐに城に向かって行く。

 

城の城門付近に差し掛かると、そこにはいつもどおり頭の上に宝ャを乗せた風が立っていた。

 

「風、わざわざ迎えに来てくれたのですか」

 

稟が少し手を振りながら風に近づいていく。

 

「ぐぅ〜〜」

 

「・・・、分かっていてもいつもどおりやらせるのですか」

 

「むぅ〜〜、稟ちゃん、ノリが悪いです」

 

風は少し頬を膨らませる。

 

「風、久しぶりね」

 

稟の後から数人の親衛隊を引き連れて華琳がやってくる。

 

「はい。お久しぶりです〜〜」

 

「城は変わりない?」

 

「全くもって変わりないです〜」

 

風はいつも通り、のほほんとした口調で返していく。

 

「春蘭さんと秋蘭さんがもうすでに会議の準備を始めていますので、華琳様も王座の間に来てください〜」

 

華琳たちにも夏侯姉妹が先に洛陽に行っているという報告は受けていた。

 

「わかったわ。すぐに始めましょう」

 

風の話を聞き、華琳はすぐに城内へと入っていった。

 

「風、頼んでいた件ですが・・・」

 

稟はその姿を見送ると、風に小さな声で耳打ちをする。

 

「んん?ああ、あの件ですね〜。確認しておきましたよ」

 

「どうでしたか?」

 

「華琳様の証言通りですね。特に稟ちゃんが考えているような仕掛けはなかったと言っていました」

 

風が一枚の紙を稟に手渡す。

 

「まぁ、一応報告を受けてからすぐに暗部の皆さんに監視をしてもらっていたのですが、変な行動はしてないとのことでしたし、稟ちゃんの考えすぎでしょう。これが報告書です」

 

稟はその報告書を受け取り、ザッと目を通していく。

 

「特に不審な点なし・・・か、だがもう少しの間だけ監視を頼めないか?」

 

「くふふっ、そういうと思っていましたので後一月は頼んでありますよ」

 

「そうですか・・・」

 

稟はその報告書を自分の鞄に入れる。

 

「でも、どうして風にこんなことを頼んだのですか?しかも、稟ちゃん個人のお願いでだなんて・・・珍しいですね」

 

「ええ・・・」

 

「お兄さん関連のことでですか?」

 

風の目つきが少しだけキリッとする。

 

「そうです。あとで風の意見も聞きたいのですが・・・」

 

「それはかまいませんよ〜。華琳様にも“内密に”ですか?」

 

「それで、お願いします」

 

稟はそう言い終わると城内へと向かっていった。

 

「稟ちゃんはお兄さんのことになるとすごいですね〜」

 

風の言葉を聞いて稟の身体が少しだけ飛び上がる。

 

「ふ、風!?別にそんなわけじゃ・・・」

 

稟が少し顔を赤くしながら振り返る。

 

「風もできる限りのことはやります」

 

そこにはいつになく真剣な顔をした風の姿があった。

 

「風もお兄さんのことが心配でなりません・・・。お兄さんを見つけるためならどんなことでもします」

 

「風・・・」

 

「お兄さんが天の国に帰ってしまったとしても、風は必ず天の国に行く方法を探し出してみせます。この国の軍師を辞して、大陸中でも、はるか西方にでも探しに行ってみせます」

 

風はそのまま稟を追い越して城内へと入っていく。

 

稟は風の言葉に並々ならぬ決意が込められているというのを感じる。

 

その決意は稟の中にもあるものだった。

 

稟も風と同じことを考えていた。

 

どんなことをしても、必ず見つけてみせると・・・

 

稟は追い越していく風の姿を見ながらフッと小さく息を吐く。

 

「そのときは私も一緒ですよ」

 

風に聞こえるようにそう言う。

 

心の中では“その気持ちの大きさ、私も負けてはいない”と呟いていた。

 

そして、稟は風の後についていき、王座の間へと向かっていった。

 

 

 

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華琳が王座の間へ向かっている途中

 

「華琳様〜〜〜〜〜」

 

と呼びながら後ろからドタバタ走ってくる人物がいた。

 

そこには、いつもとは違う服装をした桂花の姿があった。

 

「桂花、久しぶりね。走ったりしたら駄目じゃない」

 

「華琳様がお戻りになったと聞いて、この桂花、いてもたってもいられず飛んでまいりました!」

 

華琳と会うのが久しぶりだった桂花は、華琳が帰還したとの報告を受けるとすぐに部屋から飛び出していた。

 

「その様子じゃ身体は大丈夫のようね。でも無理しちゃ駄目よ。子供に何かあったらいけないでしょ?」

 

「はい・・・」

 

桂花は自分のおなかの辺りを撫でながら少しシュンとする。

 

「でも、いつも思うのだけれど、まさか桂花が私達の中で一番先に身ごもるなんて思ってもいなかったわ。お仕置きをしすぎたかしら」

 

「今からまた忙しくなるという時に私をこのようにして、何考えてるのかしら、あいつ。こうなってからというもの、つわりがひどくて大変だわ、華琳様のお傍にはいられないわ、本当に・・・もう!!」

 

華琳の言葉を皮切りに桂花は次々と一刀の悪口をはいていく。

 

しかし、本当に嫌そうな顔はしてはいない。

 

華琳はその表情を見て、少しの母性のようなものを感じていた。

 

その様子に少しだけ羨ましく感じる華琳であった。

 

「私を先に孕ませたのも、あいつの陰謀の一つなのかもしれません。華琳様も注意してください」

 

桂花の一刀に対するいつもの悪口は健在なようで華琳も少し安心する。

 

「ふふっ、桂花は相変わらずね。さて、あなたはもう部屋に戻りなさい」

 

「いえ、私もその会議には参加します。話は聞いていますので」

 

「そうなの?ほんとに大丈夫?」

 

「はい」

 

今までの桂花の雰囲気が一変し、華琳の心配をよそに桂花は短い一言で片付けてしまう。

 

「あのバカのことなら稟からの手紙で知っています。はやくあいつを見つけて罵倒してやらないと気が収まりませんので。さぁ、華琳様、行きましょう」

 

桂花にしては珍しいぐらいの淡白な口調で王座の間へと向かっていく。

 

“やはり桂花も心配しているのだな”と華琳は思い、桂花の後について行く。

 

しかし、華琳が考えている以上に桂花の心は乱れていた。

 

 

 

 

 

 

 

稟からの手紙を読んだ後、誰にも言ってはいないが桂花は少し体調がおかしくなったのだ。

 

自分付の侍女に対しても口止めを行っている。

 

たまたま洛陽近くに来ていた華佗に体調を見てもらったところ、気の巡りが悪くなっていたとのことだった。

 

そうなった理由を聞くと、何か不安に思うことや嫌なことが起こるとたまに妊婦にはこのような症状が出るとのことだった。

 

それを聞いて思い当たる節があった。

 

北郷一刀行方不明

 

稟からの手紙を読んだときも胸を締め付けられるような痛みを感じていた。

 

そして、その痛みを感じてからの体調の悪化

 

原因はこれしか考えられない。

 

華佗の検診を受けた晩、桂花は眠りながら考えていた。

 

そして、改めて自分の本当の気持ちに気がついた。

 

私はやはり、あの男が好きなのだと

 

 

 

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華琳たちが王座の間につく頃には会議の準備は完了していた。

 

春蘭と秋蘭はすでに王座の横に控えていた。

 

華琳が王座に座り、桂花も自分の席に座る。

 

そして次に稟と風が一緒に王座の間にやってくる。

 

「霞はどうしたの?」

 

「霞ちゃんは翠ちゃん達のお手伝いに行っていますよ」

 

霞は今、翠の要請により涼州へ遠征している。

 

翠たちが少し本国へと戻っている間、代わりに守護をしてくれないかということだった。

 

「私は聞いてないわよ?」

 

「おかしいですね〜。定期連絡の使者に報告を頼んだのですが」

 

華琳の問いに対し、風が少し首を傾げてみせる。

 

「華琳様・・・、先日の定期連絡のときに使者が言っていたではありませんか・・・」

 

秋蘭が華琳の耳元に小声で言う。

 

「えっ・・・、あっ!?」

 

華琳はつい最近の定期連絡のことを思い出す。

 

確かに報告の最後の方でそのような連絡と書類を受け取っていたような気がしてきた。

 

しかし、そのときの華琳は最後の方の報告などまるで聞いていなかったに等しいだろう。

 

なにせ、そのときに月達からの一刀行方不明の報告があったのだから

 

「ごめんなさい、確かにそうだったわね・・・」

 

「まぁ、人間誰しもそのようなことはありますよ。では、今回の会議を始めましょかね〜」

 

風が会議の開始を宣言すると、各自が手元にある数枚の報告書を手に取っていく。

 

「今、皆さんが見ているのは洛陽周辺の村々からの報告書です。ざっと見ただけでも分かりますが、お兄さんの目撃情報に関しては特にめぼしい情報はありませんでしたね」

 

華琳たちは次々と書類に目を通していくが、風の言うとおり特になしという報告がほとんどだった。

 

「それでですね〜。行商人や旅人たちの噂などで御遣い様がいなくなったというのは、大都市では伝わっているみたいですね」

 

「おそらく行商人が各村で立てた高札などを見て、各地で流布しているのでしょうね」

 

「はい〜、それでですね。少しやっかいなことになってきてるんですよね」

 

風は次の資料を見るように促す。

 

「御遣い様がいなくなったのは“乱世を鎮めるという役目を終えたからだ”という人がぽつぽつと出てきてます」

 

「まぁ、管輅の占いがあるからな。そう思う者も出てこような」

 

「それはまだいい方なのですよ。中には“御遣い様に見放された”とか“この平和がもうすぐ終わる”とかそんなことを言う輩も出てきてるんですよね〜」

 

民にしてみれば御遣いは“平和の象徴”として認識されている。

 

三国同盟は御遣いの、北郷一刀の威光が礎になっていると考えられている。

 

その御遣いがいなくなったのだ。

 

多少なりとも民達が不安に思うことは仕方ないと言える。

 

「さらに酷くなると“世界の破滅だ”とか“オレが新しい天の御遣いだ”などとほざく輩や変な宗教も出てきてます。山賊などの報告も少しずつですが増えてきてますし」

 

報告に連れて風の言葉にだんだんとトゲが出てくる。

 

民の中にはこんな平和な世はつまらないとか、傭兵に関しては仕事がなくなったなどと言う者もいるのは間違いない。

 

しかし、大勢の者がこの平和な世を喜び、歓喜している。

 

そのなかで、そういう心無い言葉は言うに言えない雰囲気があった。

 

今回の状況を見て、そういう輩が再び動き出し始めた。

 

「まぁ、町の警備兵にはそういう輩を見つけ次第、警告や捕縛などの対処はしていますが、根本的な解決にはなっていません。問題の元を断たないダメですね」

 

北郷一刀行方不明の影響がついに自分達だけの問題ではなくなってきたということを華琳たちは悟る。

 

華琳や稟はこうなるということは多少予測していたが、あまりに早すぎるのではないかというのが正直な感想だった。

 

そういう噂は得てして伝わる速度が速いというが、華琳たちにとっては少し予想外のことだった。

 

「以上が今現在のお兄さんに関する大体の報告ですかね」

 

風がそう言って報告を終了する。

 

 

 

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「次はこちらの報告をしましょう。秋蘭、お願いできるかしら」

 

「御意」

 

秋蘭は稟や風、桂花にあらかじめまとめておいた書類を手渡していく。

 

「まずは北郷がいなくなった日のことと三国会議の話なのだが」

 

と秋蘭が話し始めたとき

 

「そのあたりについては稟の手紙で知ってるわ。このとおりで間違いないかしら?」

 

桂花が秋蘭の話を遮り、机の上に稟から来たという手紙を置く。

 

秋蘭は一度、稟に向かって“中を見てもいいか”という目配せを行う。

 

意図を察した稟は軽く頷いた。

 

そして、秋蘭がそれを手にとって、内容を検めていく。

 

「うむ、この内容で間違いないだろう。華琳様もご覧になりますか?」

 

「いいえ、秋蘭がそれでいいというならその内容で間違いないでしょう」

 

「わかりました。では、洛陽までの道程についての報告をしよう」

 

秋蘭は軽く咳払いをして、次の報告に入る。

 

「行軍過程において樊城周辺、新野城周辺、南陽周辺の各邑で情報収集及び聞き取り調査を行ったがこちらも特に何もなかった」

 

「比較的小さな集落にも行ったのだが、やっぱり何もなかったな」

 

秋蘭の報告に付け加えるように春蘭が話す。

 

「蜀や呉などの他の地方を捜索している隊からの報告もあるにはあるのだが、どこも同じ状況だということだ」

 

「凪達からの情報はどうなの?」

 

「逐一報告はされているが、進展はないそうだ」

 

「ふむふむ〜、結局はどこもお兄さんに関する有力な情報はまだ得られていないということですね〜」

 

風は秋蘭から手渡された書類の一枚一枚に目を通していく。

 

「それで、これから風達がとる行動というのは魏全体をくまなく探しまわるということでいいのでしょうか〜?」

 

「ああ、我々は部隊を幽州方面、涼州方面、徐州方面の三部隊に分かれることになっている」

 

秋蘭は魏全土が記されている地図を机の上に広げる

 

「幽州方面の隊は白蓮達と合流、涼州方面の隊は翠と霞と合流した後、調査が済み次第すぐに白帝城へ戻るという流れでお願いしたい」

 

地図に指をさしながら各隊のおおむねの予想通路をなぞっていく。

 

「“ろ〜ら〜作戦”というやつですね」

 

「ろ〜?なんだって?」

 

「天界の言葉らしいですよ。前にお兄さんが迷子の猫を探すときに使っていました。あのときのお兄さんの行動から推測するにしらみつぶしに捜していくという意味でしょうね〜」

 

「まぁ、特にあいつに関する手がかりとかないし、そうするしかないっちゃないんだけどね」

 

桂花は資料を手で振りながら悪態をつく。

 

「その三隊の編成については稟が説明してくれる。お願いできるだろうか」

 

「はい、分かりました」

 

返事をした稟は自分の鞄から一枚の紙を取り出す。

 

「まずは涼州方面ですがこちらは風に行ってもらいたいのですがよろしいですか?」

 

「はいはい〜、大丈夫ですよ」

 

風は宝ャと一緒に右手を上げる。

 

「幽州方面は春蘭様と秋蘭様にお願いします」

 

「??何故我らは二人なのだ?」

 

「いえっ・・・、春蘭様だけに任せるとなんだかいけないような気がいたしまして・・・」

 

「なんだと〜〜!私だけじゃ頼りないって言うのか〜〜!?」

 

「姉者、落ち着け。幽州には今白蓮殿の他に麗羽達がいるのだぞ。姉者はそれらと話し合いなどできるのか?」

 

秋蘭の言葉を聞いて、春蘭はあの三人組を頭に浮かべる。

 

「・・・、無理だ!斗詩はともかく、麗羽に関しては迷わず切り落としてしまう自信がある」

 

春蘭はあっさりとそう結論付ける。

 

「という訳で、お二人にお願いします」

 

「むぅ・・・」

 

春蘭もしぶしぶとしながらも了解する。

 

徐州方面を任せてもよかったのだが、戦以外のことで春蘭を単独行動させるのは危険というのは言うまでもない。

 

たまに戦でも暴走するのに

 

「残りの徐州方面は私が向かいます。華琳様と桂花は洛陽の町に留まっていてください」

 

「待って、私も行くわ」

 

「ですが、華琳様の身に何かあってはいけません。ここは洛陽に留まって・・・」

 

「稟、私がそれで納得すると思っているの?」

 

華琳からはいつもの会議のとき以上の覇気を稟に飛ばす。

 

しかし、稟も引き下がらない。

 

「ですが、あまり王の身である華琳様があちこちに転々とするのは危険です。ただでさえ一刀殿騒

動で民達の心が不安定になってますし、山賊も出没しているのですよ」

 

「あら、戦時中より今の方がよっぽど安全だと思うけれど」

 

「しかし・・・」

 

「稟、ちょっと待ってくれ」

 

稟が華琳に言い返そうとしたとき、秋蘭が遮るように口を挟む。

 

「華琳様も捜索に加えてもよいのではないか?」

 

「秋蘭様まで!?」

 

「稟の気持ちも分かるが・・・、華琳様の気持ちも少し考えてもらえないか」

 

秋蘭の言葉を聞いて、稟は少し考え始める。

 

三国会議のときの様子を思い出すと、華琳に待っていろというのは酷な話というのも理解できる。

 

しかし、華琳は魏地方を束ねる王であることに変わりはない。

 

稟の立場としては一刀の他にも華琳の身の安全を考えることは当然のことである。

 

「・・・」

 

「稟・・・、私はただ待っているだけなんて性に合わないのよ。一刀は私が見つけてみせる。たとえ何があろうともね・・・」

 

稟は華琳の言葉の中にある大きな決意を読み取ることができた。

 

その言葉を聞いて稟はさらに考え込んでしまう。

 

「・・・、はぁ、私は納得してはいませんが、華琳様がそう言うからにはたとえ部屋に軟禁状態にしても城の外へと出て行くのでしょうね」

 

「ええ、なんとしてでも抜け出して、一人ででも探しに行くわよ。ふふっ」

 

華琳はいたずらっ子のような笑みで稟に笑いかける。

 

「・・・、では、春蘭様と華琳様が徐州方面へ行ってください。華琳様を五胡と接する地域には行かせたくありません。秋蘭様と私で幽州方面に向かいます。それでいいですか?華琳様」

 

「ありがとう。稟」

 

「華琳様はこの夏候元譲に任せておけ!!」

 

「秋蘭様もこれでよろしいですか?」

 

「うむ、異論はない」

 

「では、出発は二日後ということで各自準備してください。私からはそれで以上です」

 

 

 

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「それじゃ、これで本日の会議はお開きということでいいのかしら?」

 

「待ってくれるかしら、皆に聞きたいことがあるの」

 

会議はもう終わりの雰囲気が少し流れていたが、その流れを華琳が止める

 

「いかがなさいました?華琳様?」

 

皆が華琳の方を見てみると、華琳は発言したにもかかわらず一向に話し始めない。

 

なにやら考え込んでいるようだ。

 

「華琳様?」

 

「ああ、ごめんなさい・・・。話すか話さないかで少し迷ってしまってね」

 

「華琳様らしくないですね。いかがなされたのですか?」

 

華琳が判断を渋るなんて珍しい。

 

一同は静かに華琳が何か話し出すまで待つことにした。

 

「・・・、今から少し変な話をするかもしれないわ・・・。でも、これは私にとってすごく真面目な話なの」

 

華琳はそう前置きを述べた後に話し始める。

 

「稟には三国会議の夜に少しだけ話したのだけれど、あなた達の中に・・・、一刀が消えていなくなってしまったという記憶がある者はいない?」

 

「「「!!」」」

 

華琳の言葉を皮切りに場の雰囲気が一気に凍りついた。

 

この話は三国会議翌日に皆に話そうと華琳は思っていたが、すぐに捜索隊の準備が始まったので話す機械が今までなかった。

 

季衣や流琉も体調が悪そうだったので、辛い話を聞かせるのは少し躊躇してしまった。

 

洛陽へ向かっている途中に春蘭と秋蘭には聞いておこうとも思っていたが、機会がなく今まで先延ばしになっていたのである。

 

「私はそのような記憶はないですね。救護室でも言ったと思いますが・・・」

 

「でも、急に胸が苦しくなったとは言っていたわよね」

 

「ええ・・・、その時にふと一刀殿を思い出したのも間違いはありません」

 

華琳の問いかけに対していち早く答えたのは、一度この話を聞いたことがある稟だった。

 

「稟ちゃん・・・、その話、本当ですか?」

 

次に口を開いたのは風だった。

 

「もしかして、風もそういう一刀殿の記憶があるのですか?」

 

「いいえ、風には華琳様の言うような記憶はありません。なにせ、以前にそのようなことがあれば三国中が今のように混乱になるでしょうから。ですが、稟ちゃんからの手紙を読んだときに胸が締め付けられるような痛みを感じました。同時にお兄さんのことも頭を過ぎったのですよ」

 

「風もですか・・・。偶然といえばそれまでですが、皆さんはどうですか?」

 

稟が他の者からも話を聞こうと話を振る。

 

しかし、春蘭、秋蘭、桂花もまた風と同じように顔を伏せている。

 

しかし、風以上に切迫した雰囲気が伝わってきた。

 

「どうしたの、春蘭、秋蘭」

 

華琳は両横に控えている春蘭、秋蘭を交互に見る。

 

華琳は二人の様子を見て、身体を少し震わせているように見えた。

 

「桂花もどうしたのよ・・・」

 

華琳は次に桂花の方を見やる。

 

「え・・・、はっ!」

 

華琳の声に反応して桂花が辛うじて声を上げた。

 

「その様子だと、何か心当たりがあるのかしら。別に無理に聞き出そうとは思わないけど」

 

「いえ・・・、大丈夫です・・・」

 

桂花はいつもとは違う弱弱しい感じで返事をする。

 

「稟からの手紙を読んだときなのですが・・・、私も一瞬ですがあのバカの顔が頭を過ぎりました。それと同時に自分が体験したことのないはずの記憶も幾つか頭の中を過ぎりました」

 

「私と同じね・・・。記憶の内容はきいてもいいかしら」

 

「辻褄が合わないといいますか、断片的なものばかりといいますか・・・。記憶の内容が支離滅裂で話そうと思ってもうまく話せないのです。申し訳ありません・・・」

 

ただ、その断片的な記憶の中には自分の部屋で悲しみに暮れているという記憶が確かにある。

 

何故悲しんでいるのかという理由は分からない。

 

その記憶の中の自分が何かを呟いている。

 

“どうして・・・急に・・・いなくなるのよ・・・”

 

しかし、いつもそれ以上鮮明に思い出すことはできなかった。

 

自分でも整理できていないことを桂花は話すことができなかった。

 

「そう・・・、春蘭達はどうなの?」

 

華琳は改めて春蘭、秋蘭達に話を振る。

 

しかし、二人は何も反応しない。

 

「春蘭・・・?」

 

華琳は様子のおかしい春蘭に触れようと手を伸ばす。

 

そして、華琳の指先が少し春蘭の身体に触れたとき、何の抵抗もなく春蘭の身体はドサッと倒れてしまった。

 

「えっ・・・」

 

「春蘭様!?」

 

稟が勢い良く立ち上がり、春蘭のもとへと駆けていく。

 

続いて風も秋蘭のもとへと歩み寄っていく。

 

「秋蘭様もこれは大丈夫そうではないですね」

 

風が秋蘭の顔を覗き込むと顔が真っ青になっており、目には涙がたまっているのが分かった。

 

「誰かある!」

 

華琳がすかさず兵を呼ぶ。

 

するとすぐに女性の衛兵二人が駆けつけてくる。

 

「誰か医者を呼んできなさい!!」

 

「華琳様、今城下には華佗が来ています。華佗を捜しましょう」

 

桂花が華琳にそう進言する。

 

その会話を聞いた衛兵一人がすぐに華佗を捜しに城下町へと走っていった。

 

「あなたは他の者たちも呼んで、この二人を寝台へ寝かせてあげて」

 

「はっ」

 

残った一人も命令を受けてすぐに応援を呼びにいった。

 

華琳の目の前には春蘭と秋蘭が寝かされている。

 

この二人を見て、あのときの私もこうだったのかと考えてしまう。

 

その後、すぐに衛兵達の手によって春蘭、秋蘭の二人は救護室へと運ばれていった。

 

華琳と桂花もその後をついて行った。

 

「あの時もこのような感じだったのでしょうか」

 

「そうでしょうね〜」

 

稟は朱里や冥琳から三国会議でのことを聞いていただけで実際に見たわけではない。

 

風もその稟からの手紙を読んだだけなので具体的なことは知るはずもない。

 

ただ、聞いただけの印象と実際に見たときの印象は全く違う。

 

「とりあえず、今は華佗殿が来るのを待つしかないわけですね」

 

「ですね。では、動ける私達が少しお片づけをしてからお二人のお見舞いに行きましょうか」

 

 

 

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会議修了から半刻ぐらいが経ったとき、衛兵が華佗を連れて救護室へとやってくる。

 

「患者はどこだ?」

 

「この二人よ。お願いできるかしら?」

 

「わかった。少し診てみよう」

 

「そういえばいつも一緒にいるあのおぞましい生物2体はどうしたの?」

 

「えっ?ああ、貂蝉と卑弥呼か?何か急に用事が出来たとかでどこかに行ってしまったな」

 

案内された華佗はそう答えた後、すぐに診察に取り掛かった。

 

「・・・・・・」

 

春蘭を先に診た後、秋蘭にも同じように診察していく。

 

「ふむふむ・・・」

 

「二人の様態はどうなの?」

 

診察に集中している華佗に痺れを切らして華琳がそう訊ねた。

 

「詳しい検診や問診などを行わないとはっきりした事はいえないが、現状では気の巡りの乱れが考えられるな」

 

そういいながら自分の鞄の中から医療道具を取り出していく。

 

「まぁ、鍼(はり)を打てばすぐに意識は回復する。少し離れていてくれ」

 

華佗の言葉に華琳達は少し寝台から離れていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ、一鍼同体!全力全開!病魔覆滅!元気に、なぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

見てるこちらが恥ずかしくなるような決め台詞を叫びながら、春蘭の首に光る針が打たれる。

 

「ふぅ、これで大丈夫だ。次だ!!」

 

春蘭を治療?し終わった華佗が次に秋蘭のもとへと行き、先ほどと同じように処置をしていった。

 

「これで早くても今日の夜には目を覚ますだろう。一応二人に詳しい話を聞きたいからオレもここに残っていてもいいか?」

 

「ええっ、こちらからもお願いするわ」

 

「了解した。まぁ、ついでと言っちゃなんだが、曹操殿の頭痛の病魔の様子を少し診ておきたい。ここに座ってもらえないか?」

 

そういえば、このごろ華琳は頭痛がひどくなってきたのではないかと感じていた。

 

ちょうどいい機会だと思い、華佗の言葉に甘えて診てもらう事にする。

 

「では、失礼する・・・」

 

華佗は華琳の主治医でもあるので、華佗は手馴れた手つきで診察していく。

 

「・・・・・・!?ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

いつもと同じように鍼を打とうとした瞬間、華佗が壁際まで吹き飛ばされる。

 

「「え?」」

 

華琳とその様子を見ていた桂花は何が起こったのか全くもってわからない。

 

「ば・・・ばかな。何故急にここまで・・・。オレだってあのときより成長しているはず!!もう一度だ!!」

 

華佗は鍼を持ち直して、また打とうとするが

 

「ぐわぁぁぁああぁぁああ」

 

とまた吹き飛ばされていた。

 

「・・・・・・」

 

周りにはもう何がなんだか分からない

 

「くっ・・・。何故だ!!」

 

華佗が悔しそうに地面を殴りつける。

 

「・・・、華琳様・・・、あの者は何をやっているのですか?」

 

「知らないわよ・・・」

 

「くそっ!!こうなったら・・・」

 

華佗はおもむろに医療道具の中から、いかにも大切な物が入っていそうな箱を取り出した。

 

そしてその中から、銀色に輝く針を取り出した。

 

「一刀や貂蝉から銀には魔よけの効果があると聞き、そして五斗米道の教書をもとに作ったこの銀の針・・・、これなら・・・・」

 

華佗は銀の針を構えて、少し華琳から離れる。

 

「いまからすこし荒療治に入る!!もう少し離れていてくれ」

 

「いや・・・、前にも言った気がするが、頭痛如きに何を大げさな・・・」

 

「いいから離れろ!巻き込まれるぞ!!」

 

華佗の様子をみて、桂花や衛兵は言われたように華琳から少し離れた。

 

しかし、その場にいる大半の者は何故離れなければならないのか分からない。

 

「いくぞーーーーーー!!でぇぇぇいやぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!」

 

気合を入れながら華琳のもとへ走りこんでくる。

 

そして、針をキラッと輝かせて一気に華琳の頭へ打とうとする。

 

しかし、その針は華琳の頭の少し手前で動きを止めてしまった。

 

「くっ!さすがに手強いな!しかし・・・まだまだ!!はぁぁぁぁあぁーーーー」

 

華佗はさらにその針に力を込めている・・・ように見える。

 

だが、その針はピクリとも動かない。

 

想像力が豊かな人にはあの周りにはバチバチと火花が散っているのが見えるだろう。

 

まるで、刀同士の鍔迫り合いを見ているような気さえしてくる。

 

「あれって、針をどこに刺そうか迷ってんじゃないの?」

 

華琳を見てみると、目の前で何が起こっているのか理解できず、ただただジッと座っていた。

 

そういう状況が少し続いた後

 

「よし!!このままいくぞ!!!」

 

華佗が何かの手ごたえを感じたらしく、さらに力を入れる。

 

すると拮抗していた状態の針がだんだんと華琳の頭の方へと向かっていく。

 

そして、チクッと華琳の頭に鍼が打たれた。

 

「ぐっは!!」

 

鍼を打ち終わった後、華佗の身体はなぜかまた壁際の方まで吹き飛ばされていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・、お・・・終わったぞ・・・」

 

ぜぇぜぇ言いながら華佗は華琳にそう告げる。

 

「・・・、あ・・・ありがと」

 

華琳はその様子に戸惑いながらも一応礼は言っておく。

 

 

-8ページ-

 

 

華琳と桂花は華佗の息が整うまでじっと待った。

 

「華琳様、お二人の様子は大丈夫ですか?」

 

そうすると、扉から稟と風が中に入ってくる。

 

「・・・、華佗さんはなぜこんなにも辛そうなのですか?」

 

「知らないわよ・・・」

 

部屋に入ったとたん、目の前には辛そうにしている華佗の姿

 

部屋に入ってきた二人には何がなんだか分からなかった。

 

もちろん、部屋に居たものでも何がなんだか分かっていない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・、曹操殿に伝えなければならないことがある」

 

「何よ・・・」

 

「今まで定期的に診てきたが、症状が進行しているということはなかった。だが、今日診てみたらなぜか病魔が急速に成長していた」

 

華琳は華佗の言いたいことは何となく分かっていた。

 

治療に何かてこずっていたし・・・

 

「その原因はおそらく気の乱れだな。何か嫌なことがあったのか?この二人もその可能性があるし。よければ悩みぐらいなら聞くぞ?」

 

華佗は親切心から華琳にこう提案した。

 

しかし、華佗に相談したぐらいで解決するような問題ではない。

 

「悪いわね。おそらく気の乱れとやらの原因は私達の問題だわ。あなたに相談してもどうしようもないの」

 

華琳ははっきりと断った。

 

「そうか・・・。ならば、これ以上聞くわけにはいかない。曹操殿の悩みが早く解決することを祈っておこう」

 

華佗は医療道具を片付けている。

 

「ん・・・ぅ・・・。ここは・・・」

 

すると、秋蘭が寝台から身体を起こした。

 

「秋蘭!!よかった・・・。大丈夫?」

 

華琳はすぐに秋蘭のもとに駆け寄る。

 

「華琳様・・・、ここは・・・救護室ですか?・・・私はまた・・・」

 

秋蘭は額に手を当ててはぁっと一つため息をつく。

 

「ふわぁぁぁ、良く寝た〜〜」

 

隣の寝台からも春蘭は大きなあくびをしながら起き上がった。

 

「さすが魏の優秀な武官達とでも言っておこうか。こんなにも早く鍼が効くとは」

 

「お前は・・・華佗か?」

 

華佗は春蘭に近づき、簡単な診察をしていく。

 

「なぜ私はこのようなところで寝ていたのだ?」

 

春蘭は近くにいた桂花に話しかける。

 

「あんたはまた、会議中に倒れたのよ。秋蘭と仲良く一緒にね」

 

「なに!?そんなはずは――あっ・・・」

 

春蘭は言葉が詰まるとそのまま俯いてしまった。

 

「二人ともごめんなさい。私があのようなことを聞かなければ・・・」

 

「いえ、あの程度のことで倒れてしまうとは・・・しかも二度も・・・」

 

秋蘭はまだ、額に手を当てたまま自己嫌悪感に浸っていた。

 

「春蘭様、秋蘭様、倒れる直前のことを聞かせてもらえないでしょうか?」

 

「ちょっ、こら、風。お二人は今起きたばかりなのですよ。そういうことはもう少し後でも」

 

稟は風の言葉を諌める。

 

しかし、秋蘭は嫌な顔一つせず答えてくれた。

 

「すまないが、私にはよく分からないのだ。急に頭が真っ白になって気が遠くなってしまったからな。姉者はどうだ?」

 

「・・・、私も分からんな。なにせ倒れたという記憶もあいまいだ。気がついたらここに瞬間移動しているみたいな感じだからな」

 

どうやら倒れた直前のことは全く覚えてないらしい。

 

「そうですか」

 

「オレからも一ついいか?」

 

「なんだ?」

 

「いままで、こういうことはなかったのだな?」

 

華佗はなにやら紙を取り出してそう訊ねてきた。

 

「これで二回目らしい・・・。それ以前は気を失ったことなどはない」

 

「なるほど・・・、ちょっと失礼・・・」

 

そう言うと華佗は春蘭の身体をジーッと見つめる。

 

「な・・・なんなのだ・・・」

 

春蘭を見つめ終わると次は秋蘭の身体も同じように見つめる。

 

「やはり・・・、少し気の乱れ方がおかしいな。何故だ・・・」

 

華佗が鞄から教本を取り出して、パラパラと中身を見ていく。

 

「ふむ・・・」

 

華佗が本を睨み付けながら、何かを考えていると廊下からなにやら騒がしい音が聞こえてきた。

 

その音がだんだんと近づいてきて、救護室の扉が開け放たれた。

 

「ほ・・・報告!!」

 

なにやら慌てた様子の兵士が扉を開けた勢いのまま救護室内へ入ってきた。

 

「何事!?ここは救護室よ。静かになさい」

 

「そ・・それが、青洲の一部の村が壊滅状態とのこと・・・」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

「いったい何があった!!」

 

「生き延びてきた者によると、およそ百人の軍団がいきなり攻撃してきたらしいです。敵の所属は不明。ただ黒い兜を被った一団だったとのことです」

 

その報告を受けると、春蘭が寝台から飛び出していく。

 

「行くぞ!!秋蘭」

 

「待て!!姉者。相手が何者か分からないのだぞ。それに私達は今日洛陽についたばかりだ。準備が全く整っていないのに、そのようなところに行けるわけがないだろう」

 

「では、このままほっとけというのか!?私は一人でも出るぞ」

 

春蘭は頭に血が上ってしまっている。

 

そのまま、春蘭は出て行こうとする

 

「待ちなさい!!」

 

しかし、華琳の一喝でその動きが止められてしまう。

 

「ですが・・・」

 

「今はまだ情報が少なすぎるわ。それに私達も疲れている。出発は明日よ」

 

「はい・・・」

 

華琳に勢いを殺された春蘭は扉の前で立ち尽くしてしまう。

 

「風、悪いけど明日までに徐州方面の隊だけでも編成できないかしら?」

 

「仰せのままに〜」

 

「稟は明日、春蘭と一緒に青洲に向かいなさい。その後、幽州方面の隊の準備が出来次第、私と秋蘭が後を追うわ」

 

「御意」

 

華琳の指示を受けて、稟と風が救護室から出て行った。

 

「あなた達二人は今日ここで休んでおきなさい。明日のためにね。桂花には悪いけど、冥琳に会議の内容とこのことを伝えるための伝令を送ってくれないかしら」

 

「はっ。あなたも私についてきて。詳しい話を報告したいから」

 

桂花は来た兵士と一緒に部屋を出て行く。

 

「華佗は明日までにこの二人を動けるようにするというのはできるかしら?」

 

「なにやら緊急事態のようだからな。了解した。五斗米道の名にかけて」

 

その後、華琳も一人で救護室から出て行った。

 

「くっ・・・、急に何でこんなに悪いことが続くのよ!!」

 

華琳は解決が出来ていない問題で押しつぶされそうだというのに、またさらに問題が積み重なっていく。

 

心に余裕がなくなってくる。

 

しかし、問題はまだ全体の一部にしか過ぎなかった

 

 

END

 

-9ページ-

 

 

あとがき

 

 

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか。

 

予定より遅くなっちゃいました。すみません・・・

 

さて、この黒天編では萌将伝の舞台を基本にして書かせてもらっています。

 

それでですね。萌将伝の物語が繰り広げられているあの城はいったいどこなのか。

 

黒天編ではどこにしようかと今まで考えてきたのですが、

 

一応、白帝城にしようかなと思います。

 

樊城や襄陽、江陵などいろいろ迷ったのですが

 

萌将伝はどちらかといえば「真・恋姫」の蜀ルートをベースに作られているのではないかと感じました。

 

なので、蜀寄りの白帝城がいいのではないかと考えました。

 

まぁ、安易な考え方ですよね。

 

という訳で、冥琳などのお留守番組は白帝城にいるという設定で行きたいと思います。

 

あと、4章と5章、次回の6章の三つの時間軸は大体同じという設定でご理解してください。

 

 

 

 

 

 

 

それでは、次話予告を一つ

 

健業に到着するとそこにはいつもの景色があった。

 

悠々自適な姉と天真爛漫の妹の姿

 

しかし、そこに思わぬ事態が襲い掛かる。

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第6章 「既視感」

 

 

では、これで失礼します。

 

説明
どうもです。5章になります。

あらすじ
一刀捜索のために大陸全土に渡って捜索隊が派遣される。
蜀捜索隊も情報収集を行うも進展はほとんどない。
しかし、一つの小さな希望も見え始めていた。
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真・恋姫無双 恋姫無双 黒天編 華琳 春蘭 秋蘭 桂花   華佗 

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