東倣麗夜奏 終 |
東倣麗夜奏 〜 Phantasmagoria of Nostalgic Flower.
楽園の外に棲む妖怪達による些細な話。
最終話
伊都美桜子は元々、神代桜と呼ばれる桜の樹を管理していた妖怪だった。
その昔、この樹は一度枯死しかけた事があった。
彼女は自分にはどうする事も出来なかった樹を人間達が復活させたのを見て
樹の管理を周囲に住んでいる人間達に任せるようになった。
神様に命じられた桜の管理だが、その神様もいつの間にか姿を消し
自分を縛るものが無くなった彼女は樹海の奥へと隠居した。
それでも、彼女は年一度、春になるとこの神代桜を訪れるのである。
定期点検という大義名分のもとに。
桜子 「今年も桜は異常無し。 花の密度もいつもどおりだわ。」
樹の下に座って満開の桜を見上げて楽しんでいた彼女は、
心地よい春の日差しを受けて短い時間の眠りについた。
−−−−−−−−−−
桜子 「はっ。 いけないいけない、つい寝てしまったわ。」
どれほど寝ていたのかは知らないが、太陽があまり移動していないのを見ると
それほど時間は経っていないようだ。
彼女は立ち上がると軽く背伸びをし、帰る支度をし始めた。
そんな時である。
? 「あら、この樹は人間達が管理していたから
あなたはもう居ないものかと思っていたのに・・・」
樹の幹を挟んだ後方から、何者かが話しかけてきた。
どこか聞き覚えのある声だと思ったが、そういえばいたなぁと
昔同じように幹を挟んで話をしていた妖怪を思い出した。
戸隠麗峰は、桜子がこの桜の樹にやって来る前から山に棲んでいた妖怪である。
昔はよく暇つぶしの相手としてつるんでいたが、いつからか姿を見なくなっていた。
桜子 「あんたこそ、何やってたのよ。
もう居ないものかと思ってすっかり忘れていたわ。」
麗峰 「私はずっとここにいたわ。」
桜子 「そうだっけ?」
この妖怪が現れるのは、決まって樹の幹を挟んだ後方であった。
滅多に姿を見せないので桜子も声だけしか記憶していないが、
姿を見せない妖怪なんていくらでもいる。 そう思って気にしていなかった。
桜子 「まあいいわ。
姿を見せないのは相変わらずなのね。」
麗峰 「もうすっかり忘れられて、姿なんてあっても無くても同じだわ。」
桜子 「そりゃあねぇ。」
麗峰はずっとここにいたと言った。
しかし、毎年この場所に来ている桜子でも声をかけられるまで気がつかなかった。
麗峰も桜子と同じくそれなりに古い妖怪であるにも関わらず、今まで気配すら
感じなかったのは少々不自然なのではないか。
麗峰 「幻想郷を知っているかい。」
そういう事か。
麗峰の一言で、桜子の疑問は考える前に解決した。
この妖怪にはもう何の力も残っていないのかもしれない。
存在そのものが曖昧になっているから、向こうが動くまで気づかなかったのだろうか。
桜子 「妖怪の楽園とかいうけれど、生憎私はそんなのに興味は無い。」
麗峰 「あら、あなたなら興味ありそうだと思ったのに。
最近暇で暇でねぇ。 そりゃもう姿が見えないくらいに。
この際、素敵な楽園生活も悪くないんじゃないかってね。」
桜子 「暇潰しのネタが無くなった時の、最終手段よね。 楽園。
それは別に好きにしたら良いと思うけど、どうするの?
だって、あんたは・・・」
麗峰 「本当に楽園なのかもわからないし。
もしかしたら、楽園かと思ったら実は成仏してました。 だったりね。
でも、もうこっちには未練なんて無い。」
桜子 「そう。
最近は神様も見なくなってるし、案外楽園生活満喫しちゃってるのかもよ。」
幻想郷といえば、妖怪の楽園があると言われているあの結界の向こう側である。
方法は知らないがどうやら麗峰はそこへ行こうとしているらしい。
実際、幻想郷がどんな場所かは噂に聞くだけで詳しい事は誰も知らない。
はっきりとわかるのは、容易に突破できる結界では無い事、
突破できてもその代償は大きい事くらいだ。
自身を幻想の存在とする事は、信仰心を力とする神様や棲んでいる土地に依存した能力を
持っている妖怪にとって全てを失う事に近い。
麗峰はその能力ゆえに、この桜の樹がある山から離れる事は無かった。
−−−−−−−−−
桜子 「久しぶりに話をしたってのに、唐突ね。」
麗峰 「このまま、山に引きこもってたって退屈じゃない。
昔、あなたはこの世界に浪漫を求めていると言っていたけど私は
そっちには興味無いの。
それに、人間も妖怪も神様も私を知っているものはいない。
あなたが最後のひとり。
ここまで来たら一度リセットしてみても良いんじゃないかってね。」
桜子 「ふーん・・・色々あるのねぇ。
まあ、うまくいくように祈っておいてあげるわ。 もう会う事も無いだろうけど。」
麗峰からの返事は無かったが、特に気に留めなかった。
妖怪や神様がいなくなるのは今どき珍しい事では無い。
今回も、ただ誰が居なくなったのかを知っているかそうで無いかの違いでしか無い。
桜子はもう少しだけ、満開の桜を愉しんでいく事にした。
春の日差しはいっそう強くなり、目の前がやさしい光に包まれていくような気がした。
その光の中で、桜子は何か不思議なものを見た。
鉄塔の無い、はるか昔に見た自然のままの山々
魚の泳ぐ湖を取り囲む森
今では観光名所として復元されたものしか存在しない、古風な人里
そして、雰囲気は違うが見覚えのある神社・・・
−−−−−−−−−−
桜子 「ん?
・・・いけないいけない。 つい寝てしまったわ。
そういえば何かいたような・・・まあいいや。」
いつの間にか二度寝していた彼女は、今度こそと帰る支度を始めた。
色々と話したり、見たりした気がしたが眠っていたので夢なのかそうで無いのか
いまいちわからない、不思議な気分だった。
桜子 「ついでにあの神社の桜でも見に行ってみようかな。」
境界の神社周辺の桜も、そろそろ満開になる頃である。
毎年恒例になってきた妖怪達の宴会の準備もしておかなくてはならない。
桜子 「もしかしたら、もう始まってるかもしれないけどね。」
桜子は神代桜に別れを告げると、境界の神社へと飛び立った。
○戸隠 麗峰(Togakushi Reihou)
No Data.
おまけ
*東方霊夜葬 〜 Soulful Flower Flow.
桜に恋し、より美しい桜を求めて旅に出た少女はその桜に出会った。
人間の生気を吸ったその桜の下で、多くの人間が永遠の眠りについた。
彼女もその一人だった。
妖怪桜の下で死んでいった生物の魂から生まれたのが桜子であった。
ある日、妖怪桜が居なくなり取り残された桜子は大好きな桜の木を求めて
各地を彷徨っていた。
桜の木は桜子の親であり、憧れでもあった。
しかし、桜子は桜の妖怪でも春の妖怪でも無い、小さな命の霊を操る死霊の妖怪であった。
桜の妖怪になりたかった彼女は、自分の能力を使って桜の妖怪のフリをするようになる。
小さな死霊を桜吹雪に見立てて使役していた彼女は、
やがて桜を散らせる春風の妖怪と呼ばれるようになった。
しかし、大量の死霊を操る彼女の能力による影響を問題視した八坂の神は
彼女に自分の神体のひとつである桜の木の管理を命じ、
行動を制限する事で死霊の拡散を抑えたのだった。
その昔、とある人里に妖怪退治を生業としている退魔師の一族がいた。
そこで生まれた三姉妹の長女、七椿奏は家のしきたりで次期当主として育てられるが、
彼女には妖怪退治の才能が無かったのである。
次期当主となる者がこれでは面目が立たないと、長く厳しい試練の末
彼女はようやく退魔師として認められたが、両親はすでになく、妹達も独立していた。
そんな時、彼女は初めて退魔師として妖怪退治の依頼を受ける。
死霊をばら撒く春風の妖怪を退治してほしい。
依頼を受けた彼女はその妖怪を退治しにいった。
力の差は歴然だった。
退魔師一族の当主と聞いて警戒していた春風の妖怪も
哀れに思ったのか、命まではとらないでいた。
毎日のように妖怪に挑んでは負けて帰っていくのを繰り返しているうちに
妖怪と奏はいつの間にか仲の良い話し相手になっていた。
当主となるべく育てられた奏は実の姉妹とも話す事は無く、友人もいなかった。
春風の妖怪は彼女にとって初めての友達だった。
しかし、里の人間はいつまでも妖怪を退治できないのに大した怪我も無く帰ってくる
奏に対して不信感を抱いていた。
そして、奏が妖怪と協力して里を襲おうとしているのでは無いかという噂が立ちはじめた。
里の人間から迫害されている奏を見かねた春風の妖怪は、
やる事ができたと言い残し、奏の前から姿を消した。
春風の妖怪を見かけなくなった事で、奏への誤解は解け妖怪は退治された事になった。
それからというもの、奏の元には次々と妖怪退治の依頼が入るようになる。
それから間も無く彼女は妖怪に敗れ、あっけなく命を落とした。
私にはやる事ができたから、ここを去る。
私はお前が退治したという事にしておけばいい。
またいつか会う事があれば、一緒に酒でも呑もうではないか。
その言葉が忘れられなかった奏は死後、自縛霊となって里に留まった。
そして月日は流れ――
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・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。 | ||
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