少女の航跡 第1章「後世の旅人」30節「影で動く者達」 |
ここは『セルティオン』でもどこの国でもない。誰が支配している土地でも無い、人には知られ
ない大地だった。
全てが静まり返り、今は雷鳴が轟いでいた。外は嵐の予感が漂っている。黒い雲が覆い、さ
ながら夜のようだ。
荒野の土地。生き物の気配もない。生命の気配すらもここにはない。静まり返り、雷鳴だけ
が聞えてきている。不気味なまでの光景。形容するならば、この世の終わりの光景とさえ言え
るだろう。
だがそこには、人知れず、大きな屋敷が一つだけ立っていた。人が踏み入っていないような
土地に、この屋敷は奇妙な違和感と共に建っていた。
誰が住んでいるという気配すらない。まるで、打ち捨てられた古き館のようだ。
だが、そこに屋敷へと駆け込んでいく、一つの人影があった。屋敷の扉が開かれ、そして大
きな音を立てて再び閉まる。
それは、不気味な怪物の装飾が施された扉だった。
雷鳴が一つ轟ぎ、辺りは閃光に包まれる。
その雷鳴と共に声が響き渡った。それは、屋敷中に響き渡る程の声だった。
「おいッ! どういう事だこれは! おれはおまえ達の言った通りにしたぞ! だがこれは何
だ! 王は取り返され、街も取り返された! 何が革命だ! これでは、おれはえらい恥さらし
にあったようなものだッ!」
暗い部屋に響き渡るのは、『ディオクレアヌ』の罵声だった。彼は一人でこの屋敷へと駆け込
んで来ていた。
《リベルタ・ドール城》から護衛を引きつれ、何とか逃げてきた『ディオクレアヌ』。彼は真っ直
ぐにこの屋敷を目指していたのだ。もはや逃げるしかなかった彼にとって、逃げる場所はここし
かなかった。
彼が駆け込んできた広間には、まるで誰もそこにいないかのような気配が漂っている。
だが、そうではない。
そこには、5人の男女がいた。暗い広間に、雷鳴の閃光が輝くときだけ、その影だけが現れ
ていた。
『ディオクレアヌ』はその中の、中央に座っている者に向かって言葉を浴びせていた。その者
は、5人の中で最も大柄で、人よりも大きな体格があった。巨大な椅子に腰をかけている。
「おいッ! 何か言えッ!」
そこには、あの《リベルタ・ドール城》で、カテリーナ達に見せていた、冷静で知的な支配者の
姿は無かった。ただ、感情だけが露になっている『ディオクレアヌ』が、声を張り上げている。
やがて、『ディオクレアヌ』の前にいる、大柄な者は話し出した。
「何を言う…? まだ始まったばかりではないか…?」
それは落ち着いているが、冷酷で、威圧感があり、しかも全てを見透かしているかのような響
きのある声だった。
鉛のような重さのある棘で、何もかもを突き刺されているかのよう。思い扉が開くかのような
声。
「何だと…! 始まったばかり…?」
『ディオクレアヌ』は、その威圧感に押し倒されそうになりながらも、言葉を投げつける。
「我々とお前の利害が一致しているのなら、我々はお前に協力しよう。お前が支配者になりた
いというのならば、そうなるように仕組んでやろう…。それこそが我らの務め。それこそが我ら
の目的…」
『彼』は、『ディオクレアヌ』にそのように呟いた。
『彼』、そしてそこにいる者達の持つ、深い思惑の存在には『ディオクレアヌ』は気付いてい
た。
自分は、もしかしたら利用されているのかもしれない。王になれるという幻想を見せられてい
るのかもしれない。
だが、今は、ただ従うことしかできなかった。
いずれ、お前達の手から離れてやる。お前達の与えたものを逆に利用し、こちらから支配し
てやる。そう、戦乱時代の下克上のように。
だから、今は従ってやる。
そう、今だけは!
再び雷鳴が轟き、稲妻の閃光が室内を強い灯りで照らした。
巨大なレリーフが広間の壁一面に見える。何を模しているのか、そこに描かれていたのは世
界の創造、神が闇に光を与え、大地を作り出してく光景だった。
『彼ら』は、その巨大なレリーフを背負う位置に座っている。
雷鳴の光が映し出す。
そこには、5人の男女の姿が現れていた。
第1章『後世の旅人』 終
『第2章 到来 上巻』へ続く
説明 | ||
第1章における乱の首謀者、ディオクレアヌの影で動いていた者達がいました。暗躍する彼らの登場と共に、第1章は終わります。 | ||
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