仮面ライダーEINS 第五話 逆鱗 |
――2011年9月23日
――学園都市理系学区、医療学部
――一騎の研究室
「……学園都市外ってことか」
「うん」
晴彦が一騎に差し出した書類は華岡博士の供述調書だ。
学園都市に自治政府があるのが幸いだったか。一騎の口添えもあり華岡博士には執行猶予付きの判決が下されるだろう。
しかし今の二人にとって重要なのはそこではない。二人が話し合っているのは華岡博士が入手したタイプセルのアンプル入手方法だった。
「どう思う?」
「前に日本政府主導で作られたカウンターテロ部隊があったでしょ?」
「ああ、反倫理行為で解散した……」
「その強化人間の研究施設もある。ちょっとアングラに行けばそういう技術はたくさんあるよ」
「タイプセルの研究が続けられていても疑問ではない……か。だがこの方法はおそらく……」
資料に同封されていたのは、悪徳政治屋襲撃のマニュアルといっても過言ではないものだ。
学園都市視察の際の経路や時間帯はもちろんだが、学園都市が裂いている戦力や警備方法、巡回経路までご丁寧に。
どうやら学園都市外に滞在中、宛名のない手紙の中にこのマニュアルとタイプセルのアンプルが入っていたようだ。
「そもそもタイプセルの製造がまだ続いていたなんてね」
「技術的には『新世紀の悲劇』の連中の応用だ。アレは人間という種族に恐怖の二文字を遺伝子的に植え付けた」
「それに対抗するために作られたタイプスティールまでも悪用されるなんて……ね」
「どのみちテロリスト風情には過ぎたオモチャさ」
一騎はそう言いながら立ち上がり、服装を整え始める。
「どこ行くの?」
「市長に会いに行く。一応耳に入れておいた方がいいと思ってな。それといろいろ愚痴も言わなきゃならん」
「ははっ。こっちがアクティブに動けないのは辛いね。如何せん自治政府の警察じゃムーブメントできない」
「常に攻性であり続けるのには人数が足りなさすぎる。それにアインツは武器じゃない。防具なんだ」
「OK、一騎。その意見には僕も……彼も賛成するさ」
その言葉に今度は一騎が肩をすくめ、ソフト帽を頭の上に載せるのであった。
EPISODE5 逆鱗
――2011年9月23日
――学園都市、中央区、事務科
――市長室
その部屋に入るのはいつも気が引けた。市長は学園都市の祖の一人でもあり、学園都市最高機関十人評議会の一人だ。嫌いと言うわけではない。むしろ尊敬に値する武人でもある。
(要するに苦手ってことか?)
あるいは年上だからどう接すればいいか分からないか。
目の前にいる初老の男性…逆光によって顔はよく見えないが…は、そんなことを考えている一騎を見透かすように話しかけた。
「どうした、雨無君?」
「あ、いえ。それで俺が推測するに……学園都市の存在を快く思っていない連中、学園都市をデータ採取場所とかと勘違いしている輩……というところですか」
「五年前、我々と共に学園都市に着手したときから既に分かっていた事だ」
「まさか中央区が出来てすぐに喧嘩売られるとは思いませんでしたがね」
学園都市はそんなに歴史は長くない。太平洋に浮かぶように建設が開始された学園都市は、少し前に採決された大学改革法案、教育改革法案などの後押しもあり、僅か五年で首都よりも大きく膨らんだ。まあ大学としては非常に歴史が長く、附属校も多数存在していた。
だが急速に肥えたせいか、脂肪を抱えたり免疫が低下したり腫瘍になったりと問題が多い。
「アインツはそのために作った。そうだろ、雨無君」
「と言うことは……やはりアクティブに動くわけには行かないと?」
「敵が大きすぎる。英雄が足りないのだよ」
市長はそう言って窓へ近づいた。ただでさえ逆光で見えなかった彼の姿が余計に認識できなくなった。
「概念的と言っても良い。アレは悪意の塊だ」
だからこそ確認できたか。今一騎の目に映っているのは逆光で見えない市長ではない。一つの悪意が迫ってきていた。
「市長!伏せてください!」
4――9――1――3
条件反射的に一騎は市長を自分の後ろに押しのけ、自分は前に出て、迫ってくる悪意にタイミングを合わせてアインツコマンダーをドライバーに差し込んだ。
――変身!!
『EINS』
アインツに変身する際に飛び出るリングは、変身途中に無防備になりやすい装着者を守る役目がある。それは装着者が前に出れば、必然的に後ろにいる人間は守られるという事を示している。
外から放たれたエネルギー弾は、回り始めたリングに衝突しついでに市長室を破壊した。外から見れば黒煙の中に白く輝く光球が確認できるだろう。その光が振り払われた時、学園都市の仮面ライダーが姿を現した。
「ハル、敵の位置は?」
『一時の方向、距離500。突然の呼び出しはラブコールのほうが良かったよ』
「ならさっさとその無精ひげを剃るんだな。そうもアンテナが多いと電波が乱れるぞ」
捉えた。遠いがビルの屋上からの狙撃のようだ。
「市長、奥にお願いします」
アインツが市長の方を振り返るが、市長はただ直立しアインツを見つめていた。その目は焦りや恐怖は一切無くむしろ優しい、まるで子供を見る目をしていた。
そんな市長を気になって声をかけようと思った瞬間、再び部屋に爆風が流れ込んできた。
「初めまして!仮面ライダー!!」
聞こえてきた若い男性の声。そして眼前に怪人。機械的なそのシルエットはタイプスティールに分類されるものだ。それだけなら今までに多数戦ってきた。しかし目の前のそれは今までの物と明らかに一線を画している。
「飛行タイプか」
なんらかのエネルギーを下向きにバーストさせ浮力を得ている。そう見えた。
「いやはや、まさか学園都市のTOPを襲撃したら仮面ライダーまで釣り上げられるとはな!」
「釣られてねえよ!」
足下に転がっていた椅子を相手に向かって思いっきり蹴飛ばす。
椅子自体に破壊力は備わっていないが、アインツのキックによって初速を得たそれは凶器であった。そして予期せぬ武器と攻撃に飛行タイプのタイプスティールはそれに直撃してしまう。
当たってくれて御の字だが、この攻撃の真意はアインツコマンダーにコード入力するための隙を作る事であった。
2――2――2――
――超変身!!
『SPLASHFORM』
緑の光に包まれアインツが棒を携えたスプラッシュフォームに再変身する。
『一騎、相手は戦いに慣れてなさそうだけど飛んでいるというのはそれだけでアドバンテージだ。気をつけて』
「了解」
『敵の識別はタイプスティール・ペガスス』
「はっ、天馬にはほど遠い駄馬だな!」
緑のスプラッシュフォームの長所は機動力。基本フォームである白のエナジーよりも速く、高く移動することが出来る。
その犠牲として上半身、特にパンチ力が低下しているが、それを考慮しても得た機動力はビルが乱立している学園都市では有効である。
「ちっ」
「おい、自分の方が有利なのに逃げるのかよ」
前よりも簡単な仕事になりそうだ。そう思いながらアインツは学園都市の空に跳躍した。相手が空を飛んでいようが、スプラッシュフォームのジャンプ力があればパルクールを行いながら追いかけることは可能だ。
明日の新聞の一面になることが確実な追走劇だが、実装されたスプラッシュフォームのテストにも良い相手かもしれない。
「ハル、予想される経路とその付近にある高いビルをピックアップしておいてくれ」
『了解。伝えるのも煩わしいと思うから目で見えるようにしておくね』
有能なオペレーターに感謝しながら次のビルに跳躍する。
タイプスティール・ペガススは逃げている。戦うそぶりすら見せないのはどういうことだろうか。
アインツの考えは誘導か伏兵か、ということになっていた。そしてアインツが表示されているデータに気付いたのは着地した瞬間だった。
「ここは!」
降り立ったビルの四方はほぼ同じ高さのビル。アインツの目に被ロックの警告が鳴り響く。おそらく四方のビルからグレネードが発射されていたのだろう。状況判断していたアインツはトラップとして仕掛けられていたグレネードを跳躍で躱す。そしてタイプスティール・ペガススがエネルギー弾を連射し突っ込んでくる。完全に予想済みだ。汚点は罠を速く見極められなかった事。
エネルギー弾の連射をスプラッシュロッドで弾き飛ばし、当の本体はすれ違いざまにロッドで叩き落とした。
タイプスティール・ペガススが受けた衝撃はビルに衝突した時よりも高いだろう。文字通り撃墜されたタイプスティール・ペガススはビルに叩きつけられ、アインツはやや反動を受けたものの同じビルに着地する。
「なんだ、この程度か」
タイプスティールは強化外骨格をなんらかの方法で転送している。その方法は様々考えられるが大きなショックを与えることで変身が解除されるのは共通だ。
倒した。そう安心した瞬間再び被ロックの警告が流れる。
「!?」
スプラッシュロッドでガードを試みるがどの方向から攻撃されるか分かっていない。あたりが爆発に巻き込まれる。
その爆風の中でアインツはもう一つの影を確認した。
「もう一体か!」
「その通り」
やや高い空中に先ほどとは色違いのタイプスティール・ペガススが確認できた。先ほどとは違い老成し始めた声。それだけで熟練を思わせる。だがネイティブの日本語ではないのは明らかに分かった。
「所詮は捨て駒、陽動しか使えない」
タイプスティール・ペガススが手にエネルギー弾を形成し、捨て駒に使われた男性に放つ。
しかしこの攻撃は、不殺を誓ったアインツが弾き飛ばす。
「ほう、敵に情けをかけるとはな」
「貴様とは違って仮面ライダーは防具だ!」
「はっ、仮面ライダーもタイプスティールも所詮兵器だ!」
「貴様ぁ!」
アインツに向かって一番言ってはならない台詞だ。
「例えどんな技術でも善し悪し決めるのは人だ!貴様らと俺を一緒にするな!」
タイプスティール・ペガススがエネルギー弾を連射し始める。この攻撃に対してスプラッシュロッドを回転させて防御を固める。無論後ろで転がっている先ほどの変身者を護りながら。
「お荷物抱えてこいつに勝てるかな、仮面ライダー」
「ハル、ブラストだ!」
『冗談。威力が高すぎで封印したのはどこの准教授さんだっけ?』
「調整はした!無論死なない程度という注釈付きだが!!」
一旦連射の手を緩め タイプスティール・ペガススが空中に四つのエネルギー弾を形成し始める。
スプラッシュフォームのジャンプ力なら易々とあの高さまで跳躍できるだろう。しかしその間に何をされるか分かったものではない。使っていないカードも調整不足だ。下手をすれば相手が死にかねない。
防御しかない。そう覚悟を決めればダメージはアドレナリンが軽減してくれる。
ガードを固めた次の瞬間、ビルの屋上が火の海と化した。
敗北らしい敗北。敗北したことがないと言えば嘘になるが、少なくとも片手で数えられる程度しか敗北していない。
あの後アインツを退けたタイプスティール・ペガススは撤退した。その後いくつかの施設が襲撃されたという連絡が入ったが、どうやら無事のようだった。
「まさか二人いるとはね」
「……」
普段は引きこもりっぱなしの晴彦が現場にくるのも珍しい。
「俺のせいとか思わないでよ。一体だと思い込んで索敵を怠った僕に責任がある」
裏切られた若い男性は、金とスリル目当てに捨て駒をかってでたらしい。もっとも彼がそれを知っていたかどうかは不明だが。
外見年齢を考えるとおそらく学園都市の生徒だ。
「一騎……」
「分かっている。どうも最近、クールになれない仕事が多い」
目の当たりにした現状にショックを受けていると考えていた晴彦だが、いつもの一騎を確認して胸をなで下ろした。
とはいえ内心はおそらくクールになれていないだろう。それは相棒としても分かっているし、本人も自覚しているはずだ。
「どこの組織か分からないけど喧嘩の売り方はご大層にね」
「はっ、潰してやる」
そういって一騎は不適に笑うのであった。
次回予告:
――ちっぽけだな、仮面ライダー!
――傭兵風情が!
――超変身!!
EPISODE6 蒼穹
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この作品について ・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。 ・999回記念がクウガの正月編並のノリですね。 執筆について ・隔週スペースになると思います。 ・日曜日朝八時半より連載 |
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