ウサギの迷信 |
どう見たってアレはくそ生意気なウサギではないか。
ピョンピョン飛び跳ねては身体にまとわりついて。
鬱陶しいことこの上ない。
「お兄ちゃん。今暇? 暇だよね?」
「悪い。ちょっと今手が離せない」
そこらへんに転がっていた漫画を重ねて両手に持つ。
ペンケースの乗った不安定な土台のバランスを崩さないように歩く姿は、至極残念ながらさくらの目には入らなかったようだ。
草食動物であるウサギの例に漏れず、広範囲を見渡せる反面視力が悪いらしい。
「デートしよう! デート!!」
「いやゴメン、お前とのルートに入った覚えはないし」
「What? root? ……平方根?」
「どっちかってーと道筋のほうじゃないか? 多分」
「I see ! I see ! どのrouteでデートしようかって話だね?」
「何をI seeしたんだお前は。誰と話してるんだお前は」
勝手に話進めてるよコイツ。
まかりなりともデートの相手ガン無視で花より団子やら高台やらと、デートコースを練っていく従妹に悪寒が止まらない。
「工業区の見学もいいし、さくらパークも行きたいな。けど商店街も見てまわりたいし」
「島一周するつもりかお前は」
「それもいいねー。お兄ちゃんといく、初音島一周の旅ー」
「一日を48時間に伸ばしてから来い」
そうはいったものの、コイツなら本気でやりそうで怖い。
一日で島一周も、一日を48時間にするのも。
「だぁって、休日って暇なんだもん。学校無いし、お兄ちゃんに会えないし」
「今目の前にいるのは紛れもなくお兄ちゃんだ。良かったな。目的達成だぞ」
「だからお兄ちゃん、デートしよ!」
「いや、だから手が離せねっつーの」
本音を言えば、今日は特に何かがあるわけではない。
予定は空白。さくらで、もとい、さくらと遊んでやってもかまわないのだが、どういうわけだかコイツのお誘いは一度断らなければならないような気分になるのだ。
誘われれば断る。追いかけられれば逃げる。
仲良く喧嘩する猫と鼠よろしく、一つのコミュニケーション手段だと思っている。
「第一、ホントにどのルートでデートするんだ?」
「What? root? ……平方」
「もうそれはいいから」
「自分だって天丼してるくせにぃ。っていうか、いい加減それ置いてよ」
「俺もそろそろ疲れてきた」
無意味なバランスゲームをとりあえず止めにして、元あった場所に戻す。
「本音を言えばね。どこでもいいよ。お兄ちゃんとなら」
漫画を本棚に戻したところで、背中に声がかかった。
窓から入ってきた不法侵入のウサギは、人のベッドの上に座り込んでいる。
かまってビームから一転、その魅力を最大限に引き出したプルプル戦法に180度変えてきやがった。
黙ってれば良くできた造りの少女なのだから、抗体のある俺でも多少怯む。
「……なら、朝倉純一の部屋でいいんじゃね?」
「ブーブー。せっかくのお天気なんだから外でようよぉ」
本格的に拗ねてきたウサギに苦笑する。
そろそろ折れてやらないことには、致命的な事態になりかねない。
人参をバリバリ貪るウサギの歯を舐めては大怪我する。
使いどころのない学習机のイスにかけたジャンバーに袖を通した。
「どこいくの?」
「昼飯。何処で食おうか迷ってるんだが、いい場所あるか?」
「んー、ボクのほうが教えて欲しいくらいなんだけど」
「なら商店街でもブラブラするか」
「……そっか」
準備を進めても一向にベッドのさくらは動こうとしなかった。
普段こっちの事情お構いなしに擦り寄ってくるくせに、妙なところで空気を読もうとする。
嫌われないよう、離れていかれないための防衛本能のようなものなのだろう。
そんなところまで小動物そっくりだ。
「いつまで座ってんだよ」
「……え?」
「さっさと降りてこないとおいてくぞ」
そこまでいって、ようやく晴れやかな笑顔を見せた。
背景に花まで散らしてステップを下りると、飛びついてくる。
「お兄ちゃんのおごりだね」
「よかろう。とっておきの人参スティックかってやるから、一人貪ってやがれ」
「人参スティック?」
「なんならピーマンつけてやろうか?」
腰周りで青ざめたさくらに、意地悪い笑みを浮かべてやる。
晴れた昼下がり、このウサギを引きつれどこを廻ろうか。
顔に張り付いた笑みは、いつの間にか少しだらしないものになっていた。
説明 | ||
3月27日は『桜の日』らしいです。 ということでD.C.のさくらss投下。 個人的にさくらのイメージはウサギです。猫は音夢。わんこが美春で、ハミングバードの小鳥。 (追記)up当初「桜の日」を「ウサギの日」と間違ってしまってしました。 何勝手に記念日創作してんじゃい…… |
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