真・恋姫無双 〜中華に鳴り響く咆哮〜 第四話「忠犬、一刀」
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時刻は現代で言う深夜0時。

 

あの後、使用人が一刀の部屋を訪れ、翌朝の案件を伝えた後再び劉弁、劉協と合流し夕食を取り(今度は言われた通りちゃんと加減したが、それでも劉弁に怒られた)、暫く一緒に夜風に吹かれながら星空を見た後二人と別れたが、一刀は暫く部屋の窓から月を見上げていた。

 

「・・・・・・」

 

一刀は不思議な心地でいた。

 

――――――あの暗くて、痛くて、怖かった研究室と比べて、今日一日は最初怖かったけれど、でも協と弁に会って、楽しくなって、嬉しくなって、胸がポカポカして、また楽しくなって――――――

 

そんな思いが一刀の頭の中でグルグルと周っていた。

 

いつしか顔はにやけてしまっていたが、一刀はそれに気付かなかった。

 

―――でもあのポカポカは何だったんだろう?

 

ふと頭に過ぎったもの・・・霊帝に「ここに居ていい」と言われたとき感じたものが、未だに一刀は判らなかった。

 

―――だけど、嬉しくなって、安心して、嫌なことが全部忘れてしまいそうだったあの感じ。

 

―――あの人の事を協と弁はなんと言っていたっけ・・・?

 

「・・・お・・・かあ・・・さん?」

 

その言葉を口にした途端、またあのポカポカが一瞬胸に現れた。

 

手を胸に当て、一刀は首を傾げたが、それでも満足したのか顔を上げて――――――

 

――――――頭上で光り輝く月に向かって、透き通るような声で遠吠えをした。

 

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翌朝。

 

劉協と劉弁は一刀の部屋へと向かっていた。

 

「あの子起きているでしょうか・・・」

 

昨夜でいつの間にか一刀の事をあの子と言うまでになった劉協は、心配そうな声で言った。

 

「なに、アイツのことだからまだ寝ているだろうさ。昨日も協が行くまで起きていなかったのだろう?」

 

劉弁はそんな妹を見ながら言う。

 

「しかし、昨日の今日でもう協はアイツにご執心なのだな。」

 

軽い口調で劉弁は劉協をからかおうとしたが、返ってきたのはいつもの溜息とは別の溜息だった。

 

「それはそうですよ、弁姉さま。あの子はどこか母性を刺激するというか、守ってあげたくなってしまうなってしまって・・・まるで飼い犬のようなのです。」

 

その言葉になるほど、と同意の意を示す劉弁。

 

「確かにな。アイツは雰囲気が犬に似ているというか、何と言うか・・・っと、ここだったな。」

 

立ち止まった二人は、昨日の二の舞にしないべく、劉協が静かに扉を開けた。

 

「一刀、起きていますか?」

 

「朝食を取りに行くぞ、一刀。」

 

そう言いながら入る二人だったが、寝台は少し大きい膨らみがあるだけで、人らしいものは無かった。

 

「・・・・・・もしや、既に起きてしまったのでしょうか?」

 

部屋を見渡す劉協だったが、そこで寝台がモゾモゾと動き出した。

 

「?」

 

不審に思った劉弁は寝台に近づき、毛布を勢いよく剥ぎ取った。

 

するとそこには――――――中型の銀浪が心地良さそうな寝息を立てて眠っていた。

 

「!?」

 

驚いた劉弁はすぐ後ろの椅子にぶつかりながら後退した。

 

その音でパチリと目を開けた銀浪は、起き上がると気持ち良さそうに伸びをし、そして二人を見た。

 

劉協は口に手をあてて驚き、劉弁は劉協を守るように背へと追いやった。

 

数分間そうしていただろうか、銀浪はそんな二人を見て襲い掛かることはなく、むしろおかしなものを見るように首を傾げた。

 

そこで劉協はポツリと呟いた。

 

「・・・・・・一刀?」

 

「・・・・・・は?」

 

その単語に劉弁も後ろを振り返ってしまった。

 

しかし銀浪はその単語に反応して、ウォンっと鳴いた。

 

呼ばれて嬉しかったのか、美しい尾をパタパタと振りながら劉協を見る銀浪――――――一刀。

 

その様子を見て劉弁を横に押しやって近づき、一刀を撫でる劉協。

 

呆気にとられる劉弁だったが、やがて頭を掻きながら一刀に寄っていった。

 

すると一刀も反応して、頭を撫でてもらいたいかのように、黒い毛を生やした頭を近づけた。

 

「・・・・・・本当に一刀なのか?」

 

撫でながら質問する劉弁に答えるかのように、フンッと鼻を鳴らす一刀。

 

どうやら、そうだと言っているみたいだった。

 

頭を撫でられて目を細める一刀を余所に、劉弁は劉協に向きながら言った。

 

「協よ、よくコイツが一刀だと判ったな。」

 

すると劉協はフフッと笑った。

 

「だって、私達を見て首を傾げるなど、母様以外一刀しか居ませんもの。先程見たでしょう?」

 

「そう・・・だな・・・。」

 

まだ一日しか会っていないというのに(厳密に言えば二日だが)、よくもまぁ相手の特徴が判るものだ、と劉弁は内心思った。

 

しかしどうしましょうと顔に手を当てて困った風に溜息を付く劉協。

 

「一刀にこのような特技があったのは驚きですが、今日は簡単とはいえ、任官式です。この姿では少し不味いですね・・・」

 

「そういえばそうだったな。――――――一刀よ、元の姿・・・人間の姿に戻ることは出来るか?」

 

その質問に暫く唸っていた一刀だったが、やがてウォンッ!!と答えた。

 

その返事に二人はホッと息を吐いた。

 

「では今戻ってくれるか?昨日聞いたと思うが、今日はお前の任官式。簡単だとは言え、やはり正装しなければいけないのだ。今の姿だと・・・何分問題があるのでな。」

 

そこで立ち上がった劉弁と劉協は、扉へと向かった。

 

一刀はお座りをした状態で二人を見る。

 

「私達は先に食堂へと向かっているから、一刀も人間に戻ったら来い。道は判るだろう?」

 

「ウォンッ!!」

 

「いい返事だ。・・・じゃあまた後でな。」

 

そこで扉は閉められた。

 

再び一人・・・もとい一匹になった一刀は、徐々に姿を変え始めた。

 

全身を覆っていた、美しかった銀毛は人肌へと変わり、頭部に生えていた黒毛は漆黒の頭髪へと伸び変わった。

 

数分後、銀浪は消えそこには青年が裸体で佇んでいた。

 

一刀は適当に引き出しから衣服を取り出し(これは劉協から教わった)、袖を通した後二人を追うため外へと飛び出していった。

 

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朝食を取った後(今回は怒られなかった)、すぐさま一刀は二人に連れられ、政務室より若干広い部屋へと案内された。

 

そこで着替えをさせられ、暑苦しいものを何枚も着せられた後、マントと鎧を装着し、祭壇へと向かわされた。

 

「・・・・・・」

 

一刀は不機嫌そうな顔で低く唸りながらも、重たい体を引きずって、二人に教わったとおり腰を落とし、両手を目の前で突き合わせた。

 

本人は気付いていないが、周りから見ればその様は初めてとは言えないほど美しかった。

 

祭壇の上では、霊帝がその様子に微笑みながら傍にあった模擬刀を手にした。

 

その模擬刀を一刀は受け取れるように両手を霊帝へと差し出し、顔を下に向けた。

 

「一刀よ、汝は剣となり、楯となり、この大陸を守るべくその力を我に捧げることを誓うか?」

 

「(コクリ)」

 

間髪いれず一刀は頷いた。

 

それに満足したのか、霊帝は優しげに笑みを溢しながら、その模擬刀を一刀へと手渡した。

 

「・・・・・・これより一刀は我が剣となった。願わくば、その力によって世に永久の平安をもたらさんことを。」

 

そして一刀は手渡された刀を腰に差し、立ち上がって宣言した。

 

「・・・皆・・・守る・・・」

 

今ここに、一人の将が誕生した瞬間であった。

 

説明
第四話。

前回のコメントに作中の時間の表現についてありましたが、これは読者の皆様がわかり易いようにと配慮したものです。希望がありましたら、当時の表記に致します。

その他何かありましたら、コメント、もしくはショトメで受け付けておりますので、宜しくお願い致します。
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コメント
わーお・・・人狼とは驚きの発想・・・楽しくなりそう!!(黄昏☆ハリマエ)
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