真・恋姫無双 夜の王 第50話
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この作品の一刀は、性格、武力ともに原作とは異なっています。

 

また、一部キャラを否定する場面もございます。

 

ご理解をお願いいたします。

 

 

まだまだ誤字、脱字や分かりにくい表現などもあると思いますが、

 

こんな自分の作品でも楽しんでいただけたら幸いです。

 

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翆が桃香と共に高定と争う少し後、獅堂達が呉と魏の将と戦闘を始める少し前、

一刀が中岳嵩山城にて戦闘の準備に勤しんでいた頃、中岳嵩山城に向かう者達がいた。

 

兵士2「部隊長、何故中岳嵩山城などに向かっているのですか?あそこはなにもない城だったと思いますが」

 

一蝶「何も無いから、なにかに利用されるような気がするのです。心当たりもあります」

 

兵士1「と、いうと?」

 

一蝶「いえね、何と言いますか、他人を利用することを至上の幸福と考える天才軍師を知っていまして、その方が何も無いあそこを何も無いままにしておくとは考えづらいのです」

 

一蝶のその言葉で兵士の間に、「おお」という歓声が上がる。

 

兵士1「流石は部隊長、軍師の考えが読めるなど、すごい」

 

その歓声に一蝶は照れたように顔を少し赤らめながら微笑む。

 

一蝶「格好の良いことを言っておいてなんですが、多分私の考えすぎだと思いますよ。それになんとなく考えがわかるというのも、以外にもその天才と獅堂の嗜虐性が似ているからですし。本音を言うと、中岳嵩山城に向かうのは兵糧の補充が本命です」

 

兵士3「なんだ、そういうことですか、せっかく部隊長を尊敬しようと思ったのに」

 

一蝶「おや、貴方は私を尊敬していないのですか?」

 

兵士3「いやいや、尊敬はしている。董卓軍の頃からお前と獅堂は別格だと思っていたさ」

 

砕けた様子でそう言う兵士に一蝶は窘めるように言う。

 

一蝶「今は仕事中、私は上官なのですから敬語を使ってください。公私混合はいけません」

 

兵士3「おっと、申し訳ありません。部隊長」

 

長年の旧知、そんな間柄の者達はそんな会話をしながら道を馬で駈けていた。

 

 

 

 

鳳薦隊、天の王の名を冠する彼らの部隊は二つある。

黒の鳳旗、鳳薦一番隊。獅堂が率いる隊。

灰の鳳旗、鳳薦二番隊。一蝶の率いる隊。

 

その二つの部隊の構成員は全て、一刀が董卓軍に席を置いていた頃よりの一刀の部下たちだ。

一刀と元に、幾つもの修羅場を駈けた者達。そして天建国時、その生き残り達を二つに分けた。

それが彼ら、鳳薦隊。

 

実力上位の半数、百人は天軍最強部隊として黒の鳳旗の元へ、残りの半数が灰の鳳旗となった。

無論、知っての通り、涼州での一戦以降、天軍最強部隊は一番隊ではなく二番隊。

 

獅堂は黒の鳳旗は最強の証、一蝶の部隊に明け渡すと言ったそうだが、一蝶を含む全員がそれを断ったそうだ。

『あくまでも、灰こそ我らの旗。友の旗を奪うことは出来ぬ』と。

故に今の一番隊は獅堂の元、より抜かれた荒くれ者。いわゆる盗賊上がりの兵で構成されている。

当然、新兵を育てるより、実践経験のある元盗賊達の方が強い。しかし、統率が容易ではない為、

彼らを完全に統率し、慕われているのは獅堂の性格と才覚あって故だろう。

 

もう一つ、彼らについての逸話がある。

涼州からの奇襲によって、一番隊の全滅を知った時、獅堂でさえ涙を流したその時。

二番隊は誰一人として涙を見せなかったそうだ、一滴の涙も零さず涼州と戦い抜いた後、

宴の席で泣きじゃくりながら笑っていたそうだ。

『あいつらは涙で見送った所で喜ばない。最後は笑顔で見送るのが友の務めだ』と言いながら。

 

ちなみに、その全てを語っているのはそれを見ていた他ならぬ一蝶自身である。

 

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そんな彼らが中岳嵩山城に向かっていると、突如一蝶は馬を止めた。

 

一蝶「、、、、、、、」

 

兵士2「どうかしました?部隊長」

 

その問いにも首を動かすことは無く、一蝶は只管に前方の地平を睨んでいた。

 

一蝶「、、、なにか、見えますね」

 

一蝶の言葉に兵達も目を凝らすが、その眼には何も映っていなかった。

 

一蝶「確か、真桜が作った望遠鏡というものがありましたね?」

 

兵士2「あ、ああ。いや、はい、あります」

 

手渡されたそれを受け取り、目に当て地平を見る一蝶は言う。

 

一蝶「やはり、軍勢が見えます。旗は、魏?それと蒼い夏旗?でしょうか」

 

兵士3「な、蒼い夏旗って夏候淵か?それに何故、魏の軍勢が。此処は天領の真っただ中だぞ」

 

一蝶「どうやら、私の予想の一歩も二歩も早く戦いは始まっているようです。それに、嫌な予感も当たってしまいましたか」

 

兵士2「どういう意味ですか?」

 

一蝶「忘れましたか、貴方が言っていたことでしょう。”あそこには何もない”。それなのに私達と同じように中岳嵩山城に向かっているということは、”なにか、私達の大切なモノがある”ということです」

 

兵士2「大切な、なにか?」

 

一蝶「最悪、、一刀様があそこに居ます。戦も経験したことが無いような、兵士に囲まれて」

 

兵士1「な、そんな」

 

兵士3「、、、、、」

 

兵士2「そ、そういうことか」

 

一蝶の言葉で、部隊の全員が唖然とする。

 

一蝶「やってくれすね、、、荀ケ様。このような策を打つとは、本当に、性格が悪い」

 

兵士2「ど、どうする。一蝶」

 

あまりの事実に言葉使いが砕けているが、一蝶も今はそれを咎めない。

 

一蝶「どうするもなにもないでしょう。一刀様が窮地だというのなら、それを救うのが私達の役目」

 

兵士3「だが、兵数は多いのだろ?望遠鏡を使わないでもお前の目に見えるくらいには」

 

一蝶「ええ、目算で、大体千は居るでしょう」

 

兵士1「こっちの十倍か、どうする?真っ正面から戦えば勝てんぞ。なにか考えはあるか?」

 

一蝶「策は、あります」

 

そう言う一蝶だが、その顔は希望に満ちたモノでは無かった。

 

一蝶「あの軍が中岳嵩山城にたどり着く前に、一刀様が率いているであろう軍と合流し籠城すれば、援軍が来るまでの間くらい、持ちこたえられるかもしれません」

 

兵士2「先にたどり着く、か。遠回りは出来ないってことか」

 

兵士3「正面突破、いや、背面突破か。まあ、あっちの方が兵は多くて行軍速度は遅い。抜けてしまえば出来なくもないが」

 

兵士1「だが、相手はこちらの十倍、簡単なことじゃない」

 

一蝶「そうです。もし、成功したとしても、半数は死ぬでしょう。やはり、なにか別の策を、、」

 

一蝶がそう呟くと、兵の一人は声を上げる。

 

兵士3「なに言ってんだ。それしかねえんだろ、それで行こう。俺達の半分でも辿り着ければ、籠城は大体問題は無い」

 

一蝶「しかし、それでは半数が死ぬのですよ!いえ、失敗したらそれこそ一番隊の様に、全滅ということも」

 

兵士3「だから、どうしたよ」

 

一蝶「、、、、、、」

 

兵士3「一蝶、お前が言ったんだろ。あいつらは退かなかった。なら、俺達も退けない」

 

一蝶「意地、ですか?」

 

兵士3「気位だよ。それに、心配なんて無用だ。俺達は、”一刀”の為なら死ねる」

 

一蝶は思い出す。昔、兵卒だった頃、自分も一刀のことをそう呼んでいたことを。

洛陽で、彼らと共に、死んだ友たちと共に、獅堂と共に、一刀と共に居た頃を。

 

一蝶「、、、私は、一刀様の為なら死ねます。あなた達も、そうなのですね」

 

兵士2「ああ、死ねるね。笑って死んでやる」

 

兵士1「同意だが、お前、少しは後ろ髪引かれろ。子供生まれたばっかりだろ」

 

兵士3「じゃなきゃ、何時までも昇進狙わず一兵卒でいる訳ないだろう」

 

一蝶「、、、わかりました。ならば、行きましょう。我らの王を救いに」

 

一蝶は覚悟を決め、地平を望む。それは、周りの彼らも同じだった。百一人が皆、同じ目をしていた。

 

兵士1「、、、、、、、、」

 

兵士2「、、、、、、、、」

 

兵士3「、、、、、、、、」

 

一蝶「我ら、鳳薦二番隊。大手を振ってまかり通る」

 

兵士達「「「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ」」」」」

 

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透き通るような青空、それを見上げながら私は先にある城に思いをはせる。

 

秋蘭「桂花は、うまくやっているだろうか」

 

戦いは始まった。天での高定による反乱が魏に伝わると、華琳様は破竹の勢いで天進軍の策を練った。

 

秋蘭「この策で、一刀を捕えることが出来れば、、戦いは終わる」

 

終わらなければならないと思う。戦場で戦うには、あの男は危険すぎる。

思い出す。姉者すら凌駕するその武を、幾度となく一人で華琳様の窮地を救ったその武を。

なにも視ていない。まるで赤子を見る様な目で私達をみるその眼を。

 

秋蘭「私は、恐れているのか?」

 

いや、私だけでは無いだろう。皆が恐れているのだ。

姉者も、流琉も、季衣も、霞も、桂花も、稟も、華琳様ですら、例外なく誰もが恐れている。あの男を。

 

秋蘭「わからない。なぜ、お前は裏切ると決めながら華琳様を救った。なぜ、誰一人傷つけることなく私達を裏切った」

 

必然的に、絶対的に、さも当然であるかのように私達に向けられる一種の愛情のようなモノ。

お前が魏に居る間は、それがお前の愛情なのだと思っていた。

しかし、聞けばお前は呉に降った後にも同じようなモノを呉の将に向けていたのだろう?

 

秋蘭「呉に降ったのを責めはしない。しかし、なぜ、お前はすぐに呉の者たちを”愛せたのだ”」

 

お前が女なら誰でもいいというような男ではないことは知っている。

ならば、お前はどうして、誰も彼もを平等に愛せる。いや、もしかしたらお前は、

 

秋蘭「誰も、”この世界の誰も愛してはいない”のか?だから、”誰もを平等に愛せる”のか」

 

特別がいないから、全てが特別なのか?

 

秋蘭「、、、私が考えても、わかる訳がないか」

 

次、あった時に聞いてみるしかない。

 

秋蘭「お前は、私を愛しているか、、、」

 

少し気恥ずかしいが、聞かなければならないことだな。

 

 

そんなことを考えている最中、兵士の声で思考が途切れる。

 

魏兵「夏候淵様!後方より突撃してくる部隊があります!」

 

秋蘭「な、後方だと?後ろは呉の筈、呉の部隊か?」

 

魏兵「いえ、違うようです。剣を抜きすごい勢いで向かって来ます。旗は灰の鳳旗」

 

秋蘭「灰の鳳旗、、、確か、一刀の側近を務めている者の部隊か」

 

ならば、その実力はかなりの物だろう。何故、背後から来たのかは不明だが、考えている暇もない。

 

秋蘭「すぐに鶴翼の陣を作れ!弓にて迎撃する。それと、前の部隊に援護の要請を。決して、抜かれる訳にはいかない」

 

魏兵「はっ!了解いたしました!」

 

兵士が伝令に向かうと私はすぐに兵達に陣形成の指示をだす。

 

秋蘭「まさかとは思うが、桂花の策がばれていたのか?どちらにせよ、思い通りにはさせん。この作戦が破られれば、戦うことになる。天全軍と、一刀と、戦場で」

 

それだけは、避けなければならない。その為にも、退けなければならない。向かってくる者達を。

 

秋蘭「誰だ、私達の邪魔をするのは。どんな者だ、一刀の傍に居るものは」

 

そう思い、目を凝らし向かってくる軍勢を見れば、先頭に立つ男が見える。

 

蒼がかった髪色。一般兵の装備と少しだけ意匠が違う鎧を、きっちりと着こなす男。

あれほど速度で馬を走らせながら、その眼鏡の下の瞳は、私を真っ直ぐと見据えていた。

 

秋蘭「守る者の瞳、と言う訳か」

 

私もまた、その男を見据えながら、弓と矢に手をかけた。

 

秋蘭「一矢一殺、我が弓の前に屍を晒せ。第一射、放て!!!」

 

    

   ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 

 

一千もの矢が、眼前の部隊に向かって行った。

 

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一蝶「各個、迎撃!」

 

騎馬での突撃において、一千の敵兵が放った弓の壁の前では将はそう叫ぶしかない。

その事実を今は果てしなく悔しく思う。

 

兵士3「そんな顔、すんなよ!」

 

兵士2「そうだ、この程度どうと言うことは無い」

 

一蝶「そう、ですね!」

 

そんな考えは、彼らに対するすぐに侮蔑だと考え直す。

弓の大群に臆することなく、彼らはただ前に進んでいた。ただ、前へ。

 

確かにこの状況、騎馬での突撃には難点が多いが、それは敵も同じ。

馬で駈ける敵を射抜くなど、無理もいいことろ。だからこその、百に対する千という物量。

それほどの物量差が無ければ、弓は届かない。

 

しかし、例外というものは何処にでも存在する。

 

一蝶「流石、ですね」

 

一本、一矢の矢だけはそれが定めであるかのように一直線に私の左胸めがけて飛んでくる。

 

一蝶「流石は魏武の蒼弓、私は信じていましたよ。貴方なら、この距離でも私を射殺せると。外すことなく、確実に命を奪える心の臓を狙うと、信じて、見えていました。故に」

 

    キンッ

 

迫り来たその矢を剣で弾く。それを見ていただろう夏候淵将軍の驚きの表情がよく見える。

 

一蝶「なに、人より少し、目が良いのですよ」

 

聞こえる訳もないが、私はそう言うとさらに馬を走らせる。

 

第二射を指示する声が聞こえるが、この速度ならその前に敵前曲にたどり付ける。

そうすれば、弓はもう使えない。後はただ駆け抜けるだけ。

 

一蝶「この勝負、私達の勝ちです。無論、無傷とはいきませんでしたが、、」

 

第一射が終わる頃、後ろで騎馬が倒れる音が聞こえた。おそらく二十ほど、、死んだ。

 

一蝶「けれど、彼らは犬死ではありません!その血と肉が、一刀様を救う。さあ、通していただきましょう。その道を!」

 

終わると思った。これで、私達の勝ちだと。しかし、その瞬間、聞こえてはならない声が聞こえた。

 

  「援護、第二射、放てぇぇぇ!!」

 

  ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 

一蝶「な、あ、、、」

 

有ってはならないことが起こった。起こってはいけないことが起こった。

第一射、潜り抜けた弓の壁。その後、間髪を入れずに再び、弓の壁が私達の前に現われた。

完全に、気を抜いていたその最悪の瞬間に、、、

 

 

幾人もの友が突如現れた弓に倒れていく中、蒼い夏旗の後ろにある旗を見る。

何故、見ていなかったのだろう。驕っていたのかも知れない。自分のその眼に、

 

大地に高々と、銀色の黄旗が掲げられていた。

 

一蝶「黄、蓋、将軍」

 

祭 「、、、、、今回は、見逃してはやれんぞ」

 

直後、二矢の矢が真っ直ぐと私の方へと飛んできた。

 

一蝶「くっ、この程度で、この程度で!!、、っが!」

 

二振り、それで矢を打ち落とした瞬間、左腕に矢が突き刺さった。

 

秋蘭「私が居るのを、忘れたか、、、」

 

一蝶「くっっ、、はあああああああ!!!」

 

進んだ、ただ、前へ進んだ。後ろを見ずに、自身も見ずに、ただ、一刀様を救いたいという思いだけで。

そうして、敵の前曲にたどり着く頃には、友は十人しか生きてはいなかった。

 

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秋蘭「助かった、礼を言う。黄蓋殿」

 

祭 「うむ、こういうことを想定しての同盟だからの。礼には及ばんわ」

 

前から近づいて来た呉の宿将に礼を言いながらも、私は敵の将から目を離すことはなかった。

何故だか、あの眼は頭から離れない。あの、強固な意志を持った目は、、

 

祭 「気になるか?あの男。残念じゃが、あの男はもう売れておるぞ」

 

秋蘭「知っているのか?」

 

祭 「なんじゃ、軽口くらい付きあわんかい」

 

秋蘭「、、、、、、」

 

私の態度に、黄蓋は「やれやれ、お堅い。冥琳みたいじゃ」と、呟きながら語る。

 

祭 「夜天揚羽、寛項。忠臣、ということになるのかの。確か兵卒時代からあの男の部下だった男じゃ、呉が蜀と手を組み、ぬしの主を狙った時、一度戦ったがその時は命を捨てて儂を止めおった」

 

秋蘭「忠臣、か。、、、、なら、行こう。それ程の男を一般兵では止められない」

 

祭 「ああ、そうじゃな」

 

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一蝶「そう言えば、知っていました!「がはっ」」

 

兵士3「なにをだ!「ぐはっ」」

 

一蝶「一刀様が言っていたのですが、蝶のように舞い、蜂のように刺す。という言葉があるそうなのですが、「っっ」恰好が良いと思いません?」

 

兵士3「はい?「ぐはさっ」」

 

一蝶「どうせなら、「ひぃ」獅堂の真名に蜂が入っていれば「ぐっ」すごく格好の良い二人組「た、助け」だったと思うんですよね?」

 

兵士3「お前は、戦闘中になにを言ってんだ?」

 

そう、戦闘中だ。たった十人では突破は無理、否、できた所で無意味だろう。

故に、生き残った十人は皆、わかっていた。せめて、死ぬのなら、少しでも多くの敵を殺して死のと、

誰が言う訳でもなく、馬を降り乱戦に興じていた。

 

一蝶「おや、戦闘中だから言っているのですよ。最後は、笑って死んでいきたいですからね!」

 

兵士3「まあ、それは同意だ!「がはぁ」、、おかげで、笑って死ねそうだ」

 

一蝶「、、、、ええ、お疲れ様です」

 

兵士3「ああ、、、、先に地獄で待ってるぜ」

 

    

     バタンッ

 

 

一蝶「、、、、、、、、」

 

そんな、不吉な言葉を最後に、さっきまで笑いながら話していた友が一人、また死んだ。

 

一蝶「、、、、、まあ、私が地獄行きなのは間違ってはいませんか。途方もない人殺しですし」

 

そう言いながら、向かってくる五人を回転しながら斬り殺す。

 

一蝶「残っているのは何人でしょう?」

 

兵士1「こいつと、」

 

兵士2「お前と、」

 

一蝶「私ですか。三人、まあ、よく残った方でしょう」

 

一蝶の言う通りだろう。馬から降りて数分で魏の兵士の死体は三十を超えていた。

負傷者はその数倍は居る。

 

魏兵「たった、十人で、、、化け物か、こいつら」

 

一蝶「そうでもないでしょう。五倍の兵を皆殺しにした、死した同胞達と比べれば、十人で三十人、

それもそれが七人失っての結果だとは、不甲斐無い限りです」

 

魏兵「、、、、、、」

 

一蝶「さて、お次は誰です?流石に、九八もの友の死を見送ったとあっては、流石の私も少々、機嫌が悪いですよ?」

 

魏兵「ひっ、ひぃ」

 

 

秋蘭「華琳様の兵ともあろう者が、情けない姿を晒すな!」

 

一蝶の怒り、いや、恨みとも言えるなにかが場を支配しようとした刹那、その声が響く。

 

一蝶「、、、、夏候淵、将軍。それと黄蓋将軍ですか、お早いお着きで」

 

秋蘭「流石に、一般兵ではお前達の対処は無理のようだからな」

 

一蝶「、、、さて、どうします?貴方は私を知らないでしょうが、私は貴方を知っています。昔話にでも花を咲かせましょうか?それとも自己紹介から入った方が良いですか?」

 

秋蘭「、、、、、、、、」

 

まるで十年来の友人に会った様に、気さくな調子で話す一蝶。

それを受けて、秋蘭は驚くでもなく理解する。ああ、この男は狂っているのだと

 

魏に流れる話で聞けば、狂っているということで有名なのは一蝶では無く獅堂の方。

現に秋蘭は一蝶を知らずとも獅堂のことは知っていた。聞いていたと言ってもいい、危険な敵として。

 

秋蘭「一応だ。言っておこう、剣を置け。必ず私がお前の安全を保障しよう」

 

一蝶「そうですね、魅力的な言葉ですが、無理です。なぜ、私が一刀様を裏切らねばならない」

 

当り前のように、否、当り前に一蝶はそう言い切る。

九八の友の死を見て、残った二人を救いたいと思わない程、一蝶は薄情な男ではないし、

此処で死にたくないと思わない程、強い男では無い。

 

ならば何故?問うまでもないだろう。

 

一蝶「”一刀様の為に”退くわけにはいかぬのですよ」

 

秋蘭「やはり、一刀に狂っているか。”私は華琳様に魅入られているのと同じように”」

 

そうでなければ、何故、あれほど嫌っていた桃香と楽しそうに会話など出来よう。

獅堂のように、あるいはかつての蓮華や思春のように、降将など信用できないのが普通なのだ。

嫌うのが普通。避けるのが常識。

なのに、一蝶は桃香の為に笑えた。一刀が、桃香を好いていたから。

彼の世界の中心は、一刀だったから。狂う程の、忠義。

 

一蝶「狂っているなどと、貴方もそれは同じでしょう。何故?自分を捨てた男の真名など呼べるのです?主が、一刀様を恨んでいないからでしょう」

 

秋蘭「、、、、ふふ、それも、そうだな」

 

似ていた、二人は限りなく同じに近かった。

可笑しな話だが秋蘭の姉である春蘭より遥かに、一蝶は秋蘭に似ていた。

否、似ているとは案外そう言うことなのかもしれない。

兎にも角にも、鏡映しかと見まごう程、二人は似ていた。思想も、主に対する思いも、愛情も。

 

一蝶「ふ、ふふふ。あなたの顔が遠くからでも良く見えたのは、そう言うことですか」

 

秋蘭「ふ、ふふふ。お前の顔がどうしようもなく気になったのはそういうことか」

 

ただ二つ、違いがあるとすれば、性別と、仕えるべき主が違うという点だけ。

 

秋蘭「退かないか、お前が私だとすれば、私もこの状況、決して引かない」

 

一蝶「どいてはくれませんか、まあ、私も同じ立場ならどきませんが」

 

秋蘭「なら、私がすることは一つ」

 

一蝶「なら、私がすることは一つ」

 

一蝶は負傷した左腕を無理に動かし両腕で剣を握る。秋蘭は矢を持ち、弓を構える。

 

一蝶「死んでいただきましょう。一刀様の為に」

 

秋蘭「死んでいただこう。華琳様の為に」

 

忠臣は、此処に相対す。

 

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兵士1「がっは、、、黄、がい、、」

 

兵士2「、、、、、、、、、、、、」

 

隣で死んでいく友を見ながら、兵士は動揺することなく、儂を見据えていた。

優秀だ、優秀すぎる、もう兵士などと呼べぬほどに相対した二人は武人だった。

小国なら、将であってもおかしくない程、規格外の兵士であった。

 

祭 「見事じゃな、兵士として、武人として、完全に完成しておる」

 

兵士2「それは、どうも、ありがとうございます」

 

祭の言葉に感動する訳もなく、かといって受け取っていないわけでもないおどけた口調で兵士は喋る。

 

祭 「まだ若いというに、悔いはないのか?」

 

兵士2「悔いならあるさ、この間、子供が生まれたんだ。出来れば、孫の顔も見たかった」

 

祭 「ならなぜ、命を賭ける。剣を置け、そうすれば悪いようにはせん。意地は張るな、ぬしらの負けじゃ」

 

兵士2「勝ち負けじゃない、あんたもわかるだろ?武人ってのは、生き死にで恰好を付けたがるもんだ。それに、俺は武人である前に、夫である前に、親である前に、男なんだよ」

 

祭 「、、、、、、、」

 

兵士2「隣で死んじまった友達が居んのに、退けるわけが無いだろう!」

 

向かってくる男に、連続で矢を射る。一本目は避けるが、二本目は男の胸に深く突き刺さった。

 

兵士2「っっ、、、、、は、ははっは」

 

    バタン

 

死した武人を一瞥した後、祭は視線を二人の方へと向ける。

 

祭 「似ているが故に喰い合うか、同族嫌悪かの」

 

偶然、否、巻き添えをくわぬ為必然的に開かれた兵士の居ないその場所で、二人の忠臣が相対していた。

 

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秋蘭「はあっ!」

 

   ヒュン ヒュン ヒュン

 

一蝶「ふはは」

 

   キンッ キンッ キンッ

 

迫りくる三本の矢を、一蝶は笑いながら打ち落とす。

 

秋蘭「見たか、寛項」

 

一蝶「見ましたよ、夏候淵将軍。また、友が二人死んだ」

 

秋蘭「そうだ、お前が剣を置けば死んでいなかった者達が死んだ。何故、お前は戦う。何のために」

 

一蝶「何のために?聞きたくありませんね、そんな余裕のある言葉!」

 

   ダッ

 

一蝶「はあああ!」

 

   ザンッ

 

秋蘭「っっ」

 

一蝶からの一閃を避け、秋蘭は再び距離を取る。一蝶はそれを追うことはせず、剣を肩の上に担ぎ動きを止める。

 

一蝶「いちいちそんなことを聞く位なら、貴方は戦わなければいいでしょう。それとも、聞いておいて安心したいのですか?私の戦う理由が大したことは無いモノだと決めつけて、私を殺すことが正しいことなのだと!」

 

秋蘭「、、、、、、」

 

一瞬、秋蘭の顔が曇ったのを見逃さず、一蝶は距離を詰め斬りかかる。

 

一蝶「ええ、そうですよ!私の戦う理由など、くだらないでしょう。けれど、それは誰だって同じでしょう。自分以外が見る夢や理想など、全てが総じてくだらない!曹操様が目指すモノだって、

私にとってはくだらな過ぎる!」

 

   キンッ キンッ

 

秋蘭「どこが、、くだらないという!華琳様の覇道の何処が、くだらない!」

 

一蝶「覇道?大体それは何なんですか?やっていることは侵略略奪でしょう。それを恰好を付けて覇道などと、お笑いもいいところです」

 

秋蘭「なん、だと、、」

 

一蝶「大体、あの女にそんな才覚がある訳が無い。完璧超人?はっ、器用貧乏の間違いでしょう。

女を誑かすしか能の無い者が、枕仕事で大陸制覇でも目指すつもりですか?」

 

秋蘭「、、、もういい、死ね。華琳様の志も知れぬ、下郎が」

 

   ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 

   キンッ キンッ キンッ 

 

一蝶「がっ、、、っっ」

 

打ち落とせるのは三本まで、残りの一本は一蝶の体に突き刺さる。

 

秋蘭「、、、貴様の主も、一刀もそれは同じだろう。大義など略奪の詭弁。将達を誑かし、魏を裏切らせた、違うか」

 

一蝶「ええ、そうですよ!それがどうかしましたか!」

 

秋蘭「なっ、」

 

   ギンッ

 

一蝶「そうです、貴方の言う通り。ですが、それがどうかしましたか?どうもしませんよねえ、どうにもできる訳が無い。どうでもいいのですよ、そんなこと、私はそれが一刀様の道だというのなら気にしない。その他の全てを、、」

 

秋蘭「たとえ、それが間違っているとしてもか?」

 

一蝶「ええ、幾人の友が死のうと、幾千の民が死のうと、たとえ国が滅びても、私はあの方を信じている。正しいのだと、信じられる」

 

秋蘭「狂っているのか、お前は」

 

一蝶「いえ、しかしそれが、”私達”の道の筈でしょう。夏候淵将軍、”私達には迷うことさえ許されない”」

 

秋蘭「、、お前、、、」

 

一蝶「貴方もそれを知っておくべきだ。私と同じ位置にいる者として、曹操様の忠臣として、そして、私を殺す者として」

 

距離を取った秋蘭は見る。血まみれの一蝶の体。顔にすら自身の血を被っていた。

その体は、既に、限界を超えていた。

 

一蝶「先刻、あなたは聞きましたね、何のために戦っているのかと、夏候淵将軍。あえて答えるのなら、もちろん、一刀様のためですよ。私は、あの人に出会って以降、あの人の為にしか戦っていないことを何よりの誇りにしています。それは、貴方も同じなのではないですか?」

 

秋蘭「確かに、、、そうだ。私は、華琳様の為に戦ってきた。華琳様の全てを、正しいと信じられた。姉者と共にどこまでも、華琳様と共に。、、、、、お前は、どこまでだ」

 

一蝶「無論、死すまで。死した先でも、ですよ」

 

一蝶はその顔に笑みを浮かべながら、死に体の体で剣を握る。

 

秋蘭「、、、まさか、敵に諭されるとは思わなかった。確かにお前の言う通りだ。私達は、迷うことさえ許されない。なら、私は迷わず、お前を、、、、殺す」

 

一蝶「ええ、それでいい。私の言葉など聞き流しなさい。私の命など踏みにじりなさい。私の願いも、理想も、貴方にとってはくだらないのだから、気になどしなくていい。他者の戦う理由など、聞くべきではない。迷わず、恥じず、考えず、ただ、主の為に。、、、、、、それでこそ、一刀様に心奪われて以降、私が心動かされた女性です」

 

 

互いに賭ける物は忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、忠義、そして、狂う程の愛情。

 

 

秋蘭「一つだけ、聞きたいことがある」

 

一蝶「なんでしょうか?」

 

秋蘭「もし、仕えるべき主が同じだったのなら、私達は良き友になれただろうか」

 

一蝶「ええ、しかし、無意味な問いです。お互い、違う相手に仕える世界など、嫌でしょう」

 

秋蘭「ああ、そうだな」

 

 

一蝶「天軍、鳳扇二番隊隊長。夜天揚羽、寛項。参る!」

 

秋蘭「魏軍、二翼が片翼、夏候淵。来ませい!」

 

 

 

一蝶「はあああああ!」

 

   ダッ

 

秋蘭「はあああああ!」

 

 

  ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 

  キンッ キンッ キンッ グサッ グサッ グサッ

 

秋蘭「、、、、、、」

 

一蝶「、、、、、、ああ、そういえば忘れていました。夏候惇将軍にお伝えください。貴方の、副将は、立派な武人であった、と、、」

 

一蝶は、放たれた三本の矢を防ぎ。

戦いは、終わった。

 

-10ページ-

 

天と魏呉同盟との大戦の初戦にて、百の天兵と一人の将が倒れる。

 

黒天を羽ばたき続けた鴉揚羽の蝶は、己と同じ忠義の徒の矢にその羽根を射抜かれて、

 

虫ケラのように大地に落ちる。しかし、その顔には確かな笑顔が浮んでいた。

 

 

片割れの蝶、その死を知った獣は一体どこに向けて吠え叫ぶのか、、、黒天は崩れゆく。

 

説明
真恋姫無双夜の王50話。落ち行く、夜の蝶
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コメント
一蝶さんかっこよすぎる(qisheng)
一蝶さんに敬礼!! そして、ありがとうございました。゚(゚´Д`゚)ゞ(soul)
一蝶さんあなたの事は忘れない!!(poyy)
一蝶さんかっけー  一蝶さんに敬礼!!(アレン★ゼロ)
敬礼!!・・・俺もこれくらいの文才が有ればなぁ(流狼人)
一蝶、絶対に忘れない!最高の将でした!(韻)
むしろ春蘭は秋蘭に外見も中身も一番似てないんじゃ・・・(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ)
敬礼!(運営の犬)
一蝶さんかっけーな・・・(きの)
みごとな最後だ。黒天の獣と王がどうなるのかが気になる(VVV計画の被験者)
一蝶さんに敬礼!! (TOT)>(タケダム)
見事な最後・・・武人の誉れ(黄昏☆ハリマエ)
一蝶さん・・・ (=ヘ=)\(よーぜふ)
志・目指す物は同じだった・・・ それ故にお互い譲れない物の為に戦い蝶が散ったか・・・ 最後まで己の誇り・信念を持ち闘った一蝶さんに敬礼(村主7)
3pやってくれすね→やってくれますね 2番隊全滅か・・・(2828)
一蝶さんが…(sin)
一蝶さーーん!この人に死んで欲しくなかった。(ryu)
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真恋姫無双 一刀 

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