SEASON 7.頑想の季節(3/4) |
寝る前にベッドの上で今日の出来事を思い出してみた。
今は紗南は嫌われていると勘違いしている。
気を使って、これでもかってぐらい気を使って
その結果
勘違いをさせていた。
寧々には自然体でいろって言われた。
確かに勘違いをされているぐらいならありのままでいて勘違いされた方がましだ。
何より楽だ。
「よし、これからは自然体でいくぞ!っていうか俺の自然体ってどんな感じだろう?」
はっきり言ってわからない。
「それで珍しく授業さぼって俺達に相談?」
4時間目にようやく来た夏樹と蒼が屋上のフェンスに寄りかかりながら呆れ顔をしていた。
「そんな顔するなよ。俺はこれでも悩んでるんだぞ」
「俺には悩んでるようには見えるけど自然体って何?ってことで悩んでるようには見えないぞ」
「夏樹、何言ってるかさっぱりわからんぞ」
「だから悩んでるのが丸わかりなのがマルらしいって事だ。最近はそういうの隠そうとしておかしかったからな」
そんなにも最近の行動はおかしかったのか?
「蒼はどう思ってた?」
「夏樹と同じ。なんかからかいづらいとこはあったよね。妙にかっこつけてるって言うか壁作ってるっていうか」
思い返せば2人からのからかいが少なかった。
それはきっと紗南の事で協力してくれているからだと思っていた。
単にからかいづらい行動をとっていたからだったのか。
「まさか寧々がそんな忠告をするとは思わなかったな」
俺の思考を切るように夏樹がどこか遠くをみながらぼそっと言葉を吐いた。
「んっ?何か言ったか?寧々がどうのって」
「いや、聞こえてないならそんなに大事な事じゃないさ」
「気になるだろ。教えてくれよ」
「いつか気づくと思うから今は言わねぇ」
「なんだよ、もったいぶりやがって。蒼も何か知ってるのか?」
「いつか気づくと思うから今は言わねぇ」
「夏樹と同じ事言うなよ。いつか絶対気づくんだな?それなら今は聞かないけど」
「でもマルだと気づかない可能性ないか?夏樹に教えられるまでわかんなかったし」
「わかんなかったんじゃなくて忘れてたの間違いだ。よく忘れられるな。お前の頭の中はどうなってんだ?妄想用の脳しか積んでないのか?」
「随分な言い草だな。これでもちゃんと機能してますよ!」
俺からするとどうでもいい言い争いが続く。
いつか気づく寧々の事ってなんなんだろうか?
気になるけどいつか気づくと夏樹達は言う。
それは今は知らなくてもいいって事なんだろうか?
今は知ってはいけない事なんだろうか?
パニックに頭を抱えたくなる。
「別に今知らなくていいんじゃないか。今お前がやりたい事をやってればすっきりするよ」
俺の思考を読んだように夏樹が話しかけてきた。
「お前はエスパーか。それともお前は俺か?」
「話の前後とお前の動き、仕草を見れば大体わかるよ。まっその方がいつものマルらしくていいんだけどな」
「夏樹の言うとおりだぜ、マル。もしかしたらお前の求めてる自然体なんじゃないの?答え見つかって良かったな」
これが俺の自然体…
ある意味こんな自然体でいいのかと疑問が残る。
だけど体と心がずれている感覚はなくなり合致している。
認めたくない部分もあるけどこれが俺の自然体なんだ。
やっぱりこいつらに相談して良かった。
「にしても気づいてるなら何か言ってくれよ。前から気づいてたんだろ?」
「言ったろ?この件については協力しないって。てめぇの事はてめぇでやってくれ」
「でもこうやって相談のってくれてるだろ。これだって協力してるのと変わらないと思うぞ」
「相談にはのってやるよ。ただ色んな工作はしないって言ってんだよ」
「そういうことですか。わかりましたよ。頑張らしてもらいますよ」
「よし!話が済んだところで教室に戻ろうぜ。そろそろ昼休みだろ。俺腹減っちまった」
「そうだな。マルもいつも通りに戻ったし今日から楽しく飯が食えそうだ」
「よし、行きますか。俺も今日から気楽に飯が食えるぜ」
3人で屋上から教室に戻る。
少しだけ残っていた授業時間を教師から逃げて潰しながら。
教室に戻ると寧々達は弁当を食べる用意をしていた。
「ちょっとあんた達どこ行ってたのよ?夏樹達はいいとして…マル!あんたはクラス委員なんだから授業さぼるなんてありえないわよ。紗南にも迷惑かかるでしょ」
凄い剣幕で寧々が俺の胸を突きながら文句を垂れてくる。
「寧々、そんなに怒らないで。私迷惑だなんて思ってないから」
優しく笑いながら寧々を静止してくれた。
「でも、悪かったな。面倒なことあっただろ」
「気にしなくていいよ。でも、さぼる時はちゃんと言ってね。授業開始の挨拶するの丸山くんでしょ?いないの気付かなくて先生に私が怒られちゃったから」
「それって迷惑かけてるよな?めちゃくちゃ迷惑かけてますよね?」
「だからさぼってるのわかってれば私がちゃんとするから。それなら大丈夫でしょ?」
「なんかずれてるような気がするけどちゃんと言うからな」
「うん。よろしくね。でもなるべくさぼらないでね」
俺と紗南の間にいつもにない和やかな空気が流れる。
思いっきりにやけてるような気がする。
っというより夏樹達の顔を見れば思いっきりにやけてるのが分かる。
でも今更修正する気はない。
にやけっぱなしでいてやる。
「紗南、授業はさぼっちゃダメだよ。マル君、にやけてて気持ち悪い」
この空気を愛李の一言で切り裂かれてしまった。
「いきなり気持ち悪いは無いだろ、愛李」
「そうよ、言い方が悪いよ」
「ってことはお前も気持ち悪いって思ったのか?」
「えっ、あっ、そうじゃなくて…」
「いつも見ない顔するから悪いんだよ。そんな顔ほとんど見た事ないもん」
「そうだよね、愛李。いつもしかめっ面しか見てないからびっくりしちゃった」
「それは悪かったな。でも俺だってこんな顔もできるよ」
「いつもその顔でいてくれたら素敵なんだけどな…って、あれ?私何言ってるんだろう?」
紗南は顔を紅くして俯いてしまった。
俺もつられたかの様にどんどん顔が熱くなってきて
「いや、その…ありがとう」
そう言いながら俯くしかなかった。
「はいはい、2人の熱い空間はそれぐらいにしてお弁当食べよう。お腹減ったよ」
今度は寧々にいい空間を切り裂かれてしまった。
せっかくいい雰囲気だったのにと渋々席に着いたが
目の前にいる紗南の笑顔がいつも以上に輝いている気がする。
弁当に舌鼓を打ちながら紗南を見ているとやっぱりいつもより嬉しそうに見える。
「何かいい事あったのか?さっきの俺じゃないけどずっとにけてるぞ」
「べべべべ別ににににににやややにゃ…」
「猫か?」
「別ににやけてなんかないよ。丸山君の気のせいだよ」
「そんな事ないだろ?なあ、夏樹達もそうだろ?」
「すんませ〜ん。この辺暖房入ってるみたいで熱いから冷房入れてくださ〜い」
夏樹は教室中に大きな声で入りもしない冷房を頼みやがった。
「おっ、お前でかい声で言うなよ」
「マル君の声の方が大きいよ。お弁当全体的に茶色いのに」
「クラス委員の人〜!マルがうるさいで〜す。ってマルがクラス委員か」
「ちょっと誰か冷た〜〜いジュース買ってきてよ」
ここぞとばかりのからかいが大きな波となって俺に襲い掛かってくる。
「お前らな、いい加減に…」
この大波に終止符を打つために立ち上がろうとしたが
「クスクス。今日のお弁当は楽しいね。みんなが生き生きしてる」
紗南の小さな喜びが打ち消してくれた。
みんなも納得したのか微かな笑みを浮かべていた。
っと思ったが愛李だけは何を言ったかわかってない様子でまた動きが止まっていた。
みんなに遅れること5分、全員が注目するなか微かな笑みを浮かべた。
「遅すぎだ〜〜〜!」
夏樹と蒼は椅子から転げ落ちてリアクションをとった。
今までにはなかったいつも通りの笑い声が自然に俺から零れ落ちた。
こんなに楽しい昼飯は久しぶりにむかえられた。
「寧々、ありがとな」
「んっ?ばび?」
「なんでもない。聞こえてないならいいさ」
「んぐんぐ…変なの、似合わないよ」
「うるせぇ!」
楽しかった弁当の時間もこうして幕を下ろしていった。
授業が始まると何も変わらない時間が始まる。
教室内を見渡せば夏樹と蒼は授業開始早々に眠りについてるし
寧々は教科書に隠しながらマンガを読んでるし
愛李は目を開けながら寝てるかの如く動かない。
紗南を見ると真面目に授業を受けている。
さっきまでの楽しかった時間が無かったの様にいつもどおりだ。
もし変わった事があったと言えば
ふと紗南が後ろを向いた時に目が合えば優しい笑顔を見せながら手を振ってくれるようになった事だ。
今までなら後ろを振り向くこともなかった。
ある意味奇跡的な出来事だ。
今までなかった事に驚いてどうすればいいかわからなくっていると
今度は口パクで何かを伝えようとしている。
口元に注目してみるが全くわからない。
俺も口パクで何?と聞いてみた。
すると俺の後ろの方を指差している。
振り返ってみると教師が立っていた。
「丸山、さっきからどこ見てるんだ?」
思いっきり教科書で叩かれてしまった。
放課後になり紗南が俺の席までやってきた。
「頭大丈夫?」
「どういう意味で?」
「中身の方だよ」
「紗南さ〜ん、馬鹿にしてますか〜?」
「ごめんごめん。先生に叩かれたでしょ?すごい音したから心配」
頭を少し傾けて本当に心配そうな顔をしていた。
「大丈夫だよ。体だけは丈夫だからな。中身の方は元々あまり良くないけどな」
「そっか、良かった。せっかく教えたのに伝わらなかったのはちょっと残念」
今度は逆の方に頭を傾けて残念そうな顔をしていた。
「悪かったな、せっかく教えてくれたのに。やっぱり中身が壊れたのかもな」
「それ大変。急いで病院行かないと」
「冗談だよ。あれ?そういやみんな帰ったのか?しょうがないな。部活ないなら一緒に帰らないか?」
「そうだね。一緒に帰ろうか」
まさかこんなやりとりで紗南と2人っきりで帰る事になるとは予想していなかった。
「2人っきりで帰るの初めて。ちょっと緊張」
「そうだな。回りががやがやしてないと落ち着かないよ」
何より隣を同じ速度で歩いている紗南が気になって落ち着かない。
「よく一緒に帰る気になったな。しかめ面しかしてなかった俺と」
「今日の丸山君は違う。一緒にいて楽しい」
それは完全に俺のセリフだ。
自然体でいようと何も考えずにいるだけでこんなにもたのしくなるなんて…
「それにしても紗南も何か変わったよな。さっきから気になってるんだけど」
「丸山君も変わった。変わったって言うより戻った。だから私も話し方戻した」
「ちょっとカタコトっぽいよな。もしかして帰国子女とか?」
「ううん、日本人。何故かこんな話し方。でもこっちの方が楽。おかしい?からかわれたからみんなと同じように話せる様にもしたんだよ」
「器用だな。俺にはできない芸当だよ。おかしくも何でもないよ。紗南が楽ならそのままでいた方がいいと思うぜ」
「ありがとう。時々混ざるけど許して」
「許してやるよ。って許すも何もそれが紗南なら俺は受け入れるさ」
似合わないキザったらしい言葉を吐いてしまった。
紗南が変に思ってないか横を見ると口を押さえて涙を流していた。
「あっ、ちょっと、俺何か悪い事言ったか?」
「ううん、違う。これ…嬉し涙。悲しい涙じゃないから大丈夫」
「びっくりしたぜ。心臓が止まるかと思ったよ」
「今心臓止まっちゃダメ。もう少しで修学旅行。私楽しみ」
「そういえばそうだな。夏樹と蒼と同じ班になるんだろうな。見張り役として」
「できればみんな同じ班がいい。すごい楽しくなると思う」
「俺も一緒の方が楽しくなると思うよ。でも残念な事に男女一緒はないだろけどな」
「わからないよ。寧々が実行委員。すごい事してくれる」
「あいつなら何かしてくれそうだもんな」
「後、愛李と夏樹君と蒼君も実行委員」
「ほう、それはそれは大変な事になりそうだ」
「大変な事になりそう。あっ、私こっちだから。また明日」
にっこりと笑いながら自分の家の方へ歩いていった。
紗南と別れ歩きながら今日の事を思い出す。
自然体に戻っただけで今まで積み上げた分の紗南との仲が一気に深まり
知らなかった紗南の事も知れた。
全ては寧々の助言のおかげだな。
それに夏樹と蒼、明日にでも何かお礼でもしないとな。
「はいは〜い、今日のホームルームは修学旅行の話をしま〜す」
お礼をしないといけないと思っていた当日、教壇には寧々が立っていた。
「長い長い戦いだった。どれだけの仲間の心が折れたことか」
座っていた夏樹が教壇の方へ話しながら向かっていく。
「それでも俺達は屈することなく戦い続けた」
蒼も夏樹に続いて教壇に向かっていく。
「なんやかんやで勝ち取った」
重要なとこはしょりながら愛李も向かっていく。
「もう愛李!いいとこでアバウトにしないでよ。さっき練習したでしょ?ほら、やり直し!」
「あんなに長い台詞覚えられないよ」
「長くないでしょ、私達はついに自由を勝ち取った。これだけじゃん」
確かに長くないし練習すればできるような気がする。
「今寧々が言っちゃったから私の出番は終わりね」
もしかして愛李の作戦の内だったのか?
「はぁ、ガンガンに盛り上げて修学旅行に行くぞって空気にしたかったのに」
「まあいいじゃねぇか。聞いての通り俺達は先生達に長い間交渉を続けて自由を勝ち取った」
夏樹がうな垂れている寧々の代わりに話を進めていく。
「例年だと先生に勝手に決められた班で修学旅行を過ごす。苦痛だろ?苦痛だよな」
確かに気の合わない奴と過ごすとなると楽しむ事はできないよな。
「だから俺達は自由に班を組めるようにした!俺達は自由だ!」
夏樹の右腕は高々と上がる。
それに反応したかのように教室から歓喜の声が響く。
夏樹達は革命を起こしやがった。
これなら紗南と一緒の班になって修学旅行に行ける。
最高にかっこいいぞお前達。
「まだ喜ぶのは早いよ。これには蒼と夏樹が知らない事実があるんだから」
寧々の言葉に教室は静まり返る。
「何なんだよ、俺や夏樹が知らない事実って」
「そうだそうだ。俺がせっかく盛り上げてやったのによ」
「あんた達が出てった後に条件を付けられたの」
何か嫌な予感がする。
「夏樹、蒼。あんた達修学旅行まで無遅刻、無欠席で過ごす事」
寧々の発言に教室中から溜息が洩れる。
やっぱり教師達はわかっている。
こいつらにはかなり高いハードル、いや不可能に近いハードルだろう。
夏樹達もどこか遠くを見て諦めている。
「そういう事でクラス委員で地元が一緒のマル!あんた毎朝2人を迎えに行ってね。んじゃ叶うかわからないけど班を組んじゃって。あっ、言い忘れたけどクラスは関係ないからね」
号令と共に教室から廊下に出て行き始める。
賑やかになるかと思われた班決めは他のクラスの生徒も知っているのか俺達の教室を見る度溜息を零していく。
俺だって溜息を零したい。
なんでまた2人を迎えに行かなきゃならないのだろう。
「っと言う訳で私達は実行委員とクラス委員の計6人でいいよね、っていうか決定だから」
こっちの自由はないのか。
「丸山君、私楽しみ」
紗南がいるだけでも良かったか。
「ふぁ〜あ、ねむ〜」
ホームルームも終わり今日最後の授業が終わると寧々の見事なあくびが聞こえてくる。
よくもまあ教室中に聞こえるように言えるもんだと。
完全に後ろの席の奴に迷惑がかかっているぐらい腕と体を伸ばしている寧々を見ていると
「ちょっと、どこ見てんのよ!この変態!」
腕で胸を隠しぎゃあぎゃあ大きな声で騒ぎ始めた。
「誰も見てねぇよ、そんな小さい胸。小さいって言ってもまな板だけどな」
「やっぱり見てるじゃないの。まな板なんてかなりの侮辱ね、覚悟はできてる?」
右拳を固く握って寧々は睨みを利かせてくる。
周りの生徒はその迫力にひいていたが
流石に中学からの付き合いだけあって少しだけで済んでいる。
いつ飛んでくるか身構えていると背中を叩かれた。
振り向いてみると何故か愛李までが怒っている顔をしていた。
「マル君、寧々の胸はまな板じゃないよ!エ〜〜〜〜〜〜ッダァッシュ!だよ」
どうやら物凄い勢いで寧々の胸の大きさを教えてくれたようだ。
愛李の発言に教室中の注目は寧々の胸に注がれた。
「いや…これでも…その…Bは…あるんだけど…」
胸を隠したままモジモジしながら愛李の発言を訂正した。
嘘か本当かはわからないが寧々の言葉を信じてみんなは散り散りに教室を出ていった。
教室に残っている俺達に向かって寧々がくる。
「ちょっとマル!何てこと言わせるのよ!恥ずかしいじゃない」
「まな板じゃないわよ!締めるわよ!って言っとけば終わった話じゃないか」
「だってエ〜〜〜〜ダッシュだって叫ぶもんだから」
「それは愛李が言った事だ。俺じゃない」
「エ〜〜〜〜ダッシュじゃないよ。エ〜〜〜〜ダァッシュだよ」
「お願いだから愛李、もう言わないで。それにBだから」
愛李の両肩に手を置きながら寧々はうなだれている。
それに構うことなくエ〜〜〜〜ダッシュの言い方が気に食わなかったらしく連呼が止まらない。
こうやって見ると寧々が可哀想に見える。
「その辺にしといてやれ愛李。これ以上言うと寧々が泣いちまうぞ」
俺の言葉を理解するまで時間がかかるのか暫く止む事はなかった。
どんどんと寧々の体から力が抜けていく。
精神的にきているのだろうと思う。
「ごめんね、寧々。ちょっと言い過ぎた」
やっと今の状況と俺の言葉が分かったのか言葉攻めが終わった。
「もうちょっとで再起不能になるとこだった」
へなへなと座り込んだ寧々の目には涙が溜まっている。
俺達ではこんな状態にもっていくことはできないだろう。
恐るべし如月愛李
「大丈夫?寧々?このハンカチ使って」
紗南が差し出したハンカチを受け取ると寧々は俺達に見えないように涙を拭い始めた。
もうばれているのがわかってないらしい。
拭い終わった寧々はハンカチを紗南に返すと
「ごめん、今日部活休むね。先生に言っといて」
とぼとぼとドアに向かって歩き始めた。
「あっ、ちょっと、寧々…」
「まっ、そういうことだからよろしくな。後は3バカに任せてよ。夏樹、蒼行くぞ」
心配している紗南の肩を叩き俺達は寧々を追った。
寧々を追いながら夏樹は
「にしてもあんな寧々見た事あるか?俺の記憶では全くないんだけど」
と聞いてきた。
「俺も記憶を探ってるけど見た事ないな。蒼は?」
「ある訳ないだろ?俺達いつも一緒にいたんだから」
「そうだよな。まさか寧々が乳のでかさを言われただけでへこむとはね」
「寧々も一応女の子だって事だろ?男だって似た事はあるし」
「それなら俺が揉んで大きくしてやるのに」
蒼は何もない場所を揉みだした。
俺達の会話と蒼の行動を寧々が知ったら俺達の処刑は確実だろう。
見られてない事を願う。
寧々に追い付いたのは校門を抜けたところだった。
「よう、彼女、今、暇?」
夏樹が寧々の後ろから声をかけた。
振り向いた寧々の顔は明らかに気力を失っていた。
「元気だせよ。そんなに気になるなら俺が揉んで大きくしてあげるから」
またもや蒼は空中を揉み始めた。
「お前そんなことしたら…」
一撃が蒼に下されると思われたが、ふっ笑うだけでまたとぼとぼと歩き始めた。
かなりの重症のようだ。
どうしたらいいものかと考えてみるが何も浮かばない。
思い浮かんだといえば
「俺、お前たちにお礼がしたかったんだ。ちょっとついてきてくれよ」
こんなことぐらいだ。
場違いな事を言ったとは思ったが
夏樹と蒼は何言ってんだって顔をしていたが寧々を連れてついてきてくれた。
いざお礼がしたいと言ったのはいいがどういう風にしてやればいいのかが思い浮かばない。
なんとなくで歩きついた場所は俺達の懐かしの場所
駄菓子屋、神楽屋
「おお、懐かしいな。中学以来だな。おばちゃん元気?」
「あらあら、夏樹君に蒼君。久しぶりね」
「俺達は元気だけど、これが…」
廃人と化していた寧々をおばちゃんの前に出す。
「どうしたの寧々ちゃん?悩み事?」
「実は…」
「っと話を聞く前に男の子達は外でお菓子を食べてて」
「なんで?俺達も聞くよ」
「もう一度言うわよ。外でお菓子を食べてなさい」
いつも優しいおばちゃんが怖く見える。
優しい人程怒ると怖いってのは本当だな。
きっとギャップの効果だろう。
おばちゃんに追い出された俺達は道端に座り込みながら駄菓子を食べて寧々が出てくるのを待っていたが
「なかなか出てこないな。何話してんだろ?」
いい加減に待つ事に飽きた夏樹が帰りたがっていた。
「今あそこには俺達が踏み込んではいけない空間が広がっているんだろ。もうちょっと待とうぜ」
お礼を兼ねてここに来たのに帰られては困る。
「でも、いつまでかかるんだろうな。俺、中に行ってくるよ」
「おい、やめとけよ。おばちゃんに怒られるぞ。でも流石に長いな」
気になった俺は店の奥の方を覗き込むと寧々のでかい笑い声が聞こえてきた。
奥で一体何が起きてるんだ?
店の奥から出てきた寧々はすっきりとした顔をしていた。
「よう、なんか元気だな。さっきまで死んだような顔してたのに」
笑いながら夏樹が寧々を出迎える。
それに寧々はハイタッチで答える。
「俺が揉むのも必要なくなっちゃったらしいな」
蒼には内臓一発で答える。
「元気になったはいいけど何を話したんだ?教えてくれよ」
「まあまあ、小さい事は気にしない、気にしない」
小さい事ってどっちの話なんだ?
「それで私達にお礼がしたいって言ってたけど、何の話?」
「そういえばそんな話だったっけな。俺達何かしたっけな?」
「お前達には紗南の事で協力してもらったからな。寧々達に言われた通り自然体でいたら本当に仲良くなれてきたよ。ありがとう」
「べっ、別に協力したわけじゃないんだからね。あんたはあんたらしくないと面白くないって事よ」
何を照れてるのか食べているお菓子の箱を俺に差し出してきた。
ありがたく中身を頂戴させてもらった。
「お前達がどういうつもりだったか知らないけど俺は嬉しかった。だからお礼がしたかったんだ」
「それでお礼って何?何してくれる訳?」
「実はこれって思いつかなくて…そうだ!神楽屋の駄菓子食べ放題でどうだ?」
「ありっちゃありだけど、なんかしっくりこないな。蒼は?」
「俺もしっくりこないな。寧々は?」
「私は全然納得できない。夏樹や蒼が何したか知らないけど、私はきっかけ作ったりアドバイスしたりしたんだから」
そうだ。
寧々には一番世話になった。
それじゃ全然恩を返し切れない。
「そうね、紗南とうまくいったらそれをお礼としてもらうわ。よし、決定!紗南とうまくいったっていう報告、私がもらうお礼はそれね」
「おっ、流石は寧々!いいのが浮かぶね。俺もそれを受け取る事にする。蒼も文句ないよな?」
「しょうがない、俺もその先の報告を細かく聞きたかったけど始まりを聞かない事には始まらないもんな」
「そういうこと。わかった、マル?私達はそれしか受け取らないからね。期限は修学旅行が終わるまで。
せっかく同じ班になったんだからチャンスはいっぱいあるし」
「それなら修学旅行中におれは告白するよ。絶対に!」
「覚悟は決まったみたいね。頑張りなさいよ。へぼいことしてたら蹴り飛ばすからね」
寧々は笑ってエールを送ってくれた。
俺は絶対にそれに応える。
「その前に夏樹と蒼が遅刻、欠席しないように管理宜しくね」
告白の前に重大な任務があるのを忘れていた。
「それじゃ、修学旅行に向けて景気付けしましょ」
「景気付け?酒でも飲もうってのか?それこそ行けなくなるだろ」
「まさかそんなマネしたら私が許さないわよ。ちょっとそこで待ってて」
そういうと店の中に入って行き
「マル、これ買ってよ。これがないと始まらないのよね」
俺も店の中に入るとアレを持っていた。
「なるほどな。あいつのリアクションで景気付けって訳か。わかった、買ってやるよ。おい夏樹、ちょっと来てくれ」
おばちゃんに金を渡しアレを買った。
「なんだよ。んっ?こんなんあったっけ?」
「あったのよ。2人共私の掌にに手を乗っけて。行くわよ!」
俺達はアレを3人の手で包みながら蒼の前へと進んでいく。
「何してんの?なんでそんなに真顔なの?」
更に俺達は蒼へと近づき禁断の呪文を唱えた。
「「「バルス!!!」」」
手の中から光が漏れ辺りを光で覆いつくす。
わけがないが
「目が〜!目が〜!」
見事過ぎる程のリアクションが修学旅行への景気付けとなった。
次の日の朝
いつもより早く家を出てある場所に向かった。
それはもちろん夏樹と蒼を遅刻させないためだ。
集合場所を決めていたがあいつら起きてるなんて考えられない。
ならば家に直接行って起こすしかない。
「っと言う訳で起こしにきたぞ。さっさと用意してくれよ。蒼も起こしに行かないといけないんだから」
「…マル…自由は諦めよう。自由より今の欲情を満たしたい」
また寝始めた夏樹の布団を剥ぎとり強制的に起こした。
用意をさせ終わらせ寝ぼけてる夏樹を引っ張りながら蒼の家に向かった。
「…マル…自由は諦めよう。自由より今の欲情を満たしたい」
夏樹と同じセリフを吐きやがった。
また寝始めた蒼の布団を俺が剥ぎとり夏樹が目覚ましを蒼の耳元で鳴らして強制的に起こした。
用意をさせ終わらせ寝ぼけてる蒼を引っ張りながら学校に向かった。
学校に着き2年の教室がある階に俺達が降り立つと拍手で迎えられた。
何がおきているのか全く把握できない。
「丸山君、ちゃんと連れて来た。約束守る、えらい」
紗南に褒められたが何がどうなっているかわからなかったが
そういえばこれは学年全体を巻き込んでいるんだったな。
拍手の中自分たちの教室に向かう。
教室に入ると更に大きな拍手に迎えられた。
「2人共やればできるじゃない。この調子で修学旅行まで来なさいよ」
寧々も嬉しそうにしていたが最後にまだ終わってない事を告げてきた。
それから修学旅行までの日々は
朝起床、夏樹を起こし、蒼を起こし、学校に向かう
2人が授業をさぼらないように見張り、昼休みは楽しく弁当を食べて、一緒に帰って
次の日を迎える。
そんな日々だった。
辛かった事は風邪をひいた時と寧々にくらった攻撃の打撲が痛かった時だ。
打撲に関しては俺達が原因だが。
でも嬉しかった事は毎日紗南に
「今日も来た。丸山君すごい」
と褒められた事だ。
「みんなも知っての通り明日は修学旅行だ〜!」
教壇に立つ寧々は嬉しそうに拳を突きたてた。
それに反応した生徒達の声で教室は微かに振動した。
それ程の偉業が成し遂げられた瞬間でもあった。
「まずはこの2人を毎日迎えに行ってくれたマルに挨拶してもらいましょう。マル!前に出てきてなんか言いなさいよ」
全員の視線が俺に向けられる。
しょうがなく俺は前に出る。
あえて言おう!
このシチュエーション、大好きだ!
「え〜最初はだるいなって思っていたけど、途中からは2人もちゃんと起きてたから楽だったよ。俺はただみんなと一緒に修学旅行を楽しみたかっただけだ。だから別に何もしてない。まあ修学旅行行ったら思いっきり楽しもうな!」
どこで俺の話を聞いていたのだろう?
学校中から拍手が聞こえ始めた。
俺の任務が終わった合図が鳴り響き続けた。
「丸山君と2人で帰る、久しぶり」
「そういえば2人っきりは久しぶりだな。ちょっと照れ臭いな」
みんなと一緒に帰る事はあっても2人っきりはなかったから免疫が薄れてしまったのだろう。
「これで一緒の班、嬉しい」
「その為に頑張ってきたんだからな。やらないといけない事もあるし、あいつらの為に…なによりも俺の為に…」
「丸山君どうしたの?またしかめっ面になってる」
「いや、なんでもないさ。修学旅行楽しみだな」
「うん、楽しみ。今からドキドキ。早く明日になってほしい」
「もう明日か。長いなって思ってたのにあっという間だったな」
「楽しい事待ってる。時間早く流れる」
「だな。あまりにも早くて心の準備がすんでないのに」
「心の準備?何かあるの?」
「いやいやいや、何でもない、何でもない」
久し振りに一緒に歩く帰り道は告白計画がばれてしまうんじゃないか気が気ではなくなってしまった。
あれだけ楽しみにしていた修学旅行の朝
何故か俺は夏樹と蒼を迎えにきてしまっていた。
習慣ってのは怖いものだ。
まさか修学旅行出発当日に遅刻するやつなんて
「って何寝てんだよ!早く起きろよ。間に合わなくなるだろ!…もしかして…」
夏樹を叩き起し蒼の家に向かう。
「お前もかよ!今までの努力は何だったんだ!」
蒼も早急に叩き起し集合場所である駅まで全速力で走り続けた。
駅に着いた頃には
「あんた達、当日に遅刻しかけてどうするの?最悪遅れたら新幹線すら乗れないのよ」
寧々の文句に答えることもできないぐらい疲弊していた。
修学旅行中の記憶はこれと言ってない。
行きの新幹線の中は疲弊し過ぎて着くまで爆睡。
着いてからはよくも知らない場所を巡るバスツアー。
班を決めたところで班行動のない初日と二日目が終わっていく。
一応夜にチャンスをうかがって告白しようとしたが
初めの頃のように話せなくなってしまっていた。
初日はどうしたのだろうという顔をしていたが
二日目には少し不機嫌になっていた。
最終日の班行動
楽しくなるはずの班行動は紗南の不機嫌もあり
更に何故か寧々まで不機嫌になっていて会話のないまま終わってしまった。
最終日の夜
「マル〜どうなってんだよ。最悪につまんない事になってんじゃねぇかよ」
夏樹が布団に寝っ転がりながら文句を言い始めた。
「俺のせいかよ!俺だって困ってんだよ!」
「完全にマルのせいっしょ。紗南ちゃんが機嫌悪いってお前が絡んでるはずなんだから」
椅子に座ってる蒼からも文句が飛んでくる。
「お前何したの?まさか夜這いでもかけて失敗したのか?」
「んなことしない!ただ夜に話をしてたんだけどどんどん不機嫌になっていったんだ」
「変な事いったんじゃないのか?これじゃお礼はもらえなさそうだな。お前告白してないだろ?」
「まだ…してない。チャンスを探ってるけどなくてな」
「チャンスがないんじゃなくて踏み出せてないだけだろ?約束破るんだな」
「破るわけないだろ。よし!今から行ってきてやるよ」
俺は勢いに任せて告白しに向かった。
呼び出したまではいいが今隣にいる紗南は不機嫌極まりない。
「今日は星綺麗だな」
「空曇ってる。星見えない」
その通りでございます。
「話、何?私、今トランプ中」
「いや…あの・・・その…」
「丸山君…」
「はっ、はい!」
「最近ずっとそう。もういい」
紗南は俺の話を聞かないまま戻って行ってしまった。
俺は何も言えずにその後ろ姿を見ていることしかできなかった。
告白が失敗した俺は部屋に戻った。
部屋に入ると結果が気になっていたのかドアの前に座っていた。
「どうだった?マル。うまくいったか?」
「もちろんうまくいったんだろ?なら2人でくれば良かったのに」
こいつらの嬉しそうな顔が鋭く胸に刺さる。
「いや、それが…ダメ…」
目の前がどんどんと滲んでいく。
それに気づいた夏樹と蒼は俺を部屋の中まで入れてくれた。
へこんだ俺に何も聞く事もなく飲み物とお菓子を俺の前に置いてくれた。
きっとこいつらなりの気遣いなんだろう。
「このチップスうすしおじゃなくてこいしおだな」
「きっとそれは青春の味だよ。また今度いい事あるぜ」
夏樹と蒼が肩に手を置いて慰めてくれた。
「そうだな。きっと次は…」
ダーン!
部屋のドアが勢いよく開いた。
そこには怒り狂った寧々が立っていた。
「ちょっとマル!あんた何紗南泣かしてんのよ!」
土足のまま寧々は俺の方へと向かってくる
その姿はまるで鬼神。
「泣かせてなんか…」
「言い訳なんか聞かない!立ちなさい!」
俺が立つより先に胸倉を掴まれ立たされた。
「どうせあんたまだ告白してないんでしょ?いざ言おうとして腰が引けたんでしょ?」
俺の胸を人差し指で押しながらどんどんと窓際まで運んでいく。
「好きなら好きって言いなさいよ。言わない事には始まらないでしょ。この際はっきりと言ってあげるけど紗南は告白されるの知ってるのよ」
「なっ、なんで知ってるんだよ!?」
「私がばらしたからに決まってるからでしょ!」
「何お前勝手な事してんだよ!だから不機嫌になったんじゃないのか?」
「そんな訳あると思ってるの?ウラ〜〜〜!!」
ケツを思いっきり蹴られドアの方まで飛ばされていた。
「もう1つはっきり言っとくけど、紗南はあんたの事好きなんだよ。好きでもなかったら告白前に断られてるでしょ?あんたがはっきりしないから不機嫌なの!さあ行きなさい!紗南はあんたを待ってる!」
俺は何も考えずにホテルの廊下を走っていた。
紗南に思いを告げるために、あいつらの想いに答えるためにも
紗南がいる部屋に向かったが愛李にどこかに行ったっと告げられ
ホテル中を探し回った。
最後に行き着いた場所はロビー。
やっと見つけた紗南は俺の姿を見つけるや否や
ロビーから立ち去ろうとして遠くへ行ってしまう。
どうしようか考えたが何も浮かばない。
何も浮かばない中浮かんだのは。
「紗南ぁぁぁ!!!お前が…好きだぁぁぁ!!!」
そう叫ぶ事だった。
「っとまあ、こんな感じの学生生活だったよ」
「ぬ〜!そこで話終わり?円、その先が気になって仕方ないよ」
「円、今丸ちゃんと紗南ちゃんが付き合ってるんだからわかるんじゃない?」
「ぬっ、うまくいったんだね。おめでとうだよ」
女性陣はこの話に更に花を咲かせている。
「んで、なんで紗南ちゃん怒ってたんすか?何かやらかしたんすか?」
竜祈の質問に丸ちゃんは動揺を隠せない。
「今話してた事に関係してるかも知れないな」
って言う事はもしかして
ダーン!
部屋のドアが勢いよく開いた。
そこには怒り狂った女性が立っていた。
「ちょっとマル!あんた何紗南泣かしてんのよ!」
土足のまま女性はは丸ちゃんの方へと向かってくる。
その姿はまるで鬼神
「いや、ちょっと待て。今生徒の…」
「言い訳なんか聞かない!立ちなさい!」
丸ちゃんが立つより先に胸倉を掴まれ立たされていた。
「どうせあんたまだプロポーズしてないんでしょ?いざ言おうとして腰が引けたんでしょ?」
丸ちゃんの胸を人差し指で押しながらどんどんと俺と隆起がいるところまで運んでいく。
「言わない事には始まらないでしょ。この際はっきりと言ってあげるけど紗南はプロポーズされるの知ってるのよ」
「なっ、なんで知ってるんだよ!?」
「私がばらしたからに決まってるからでしょ!」
「何お前勝手な事してんだよ!今回は自分の力だけでやりたかったのに!」
「あんたがしっかりしないからでしょ!ウラ〜〜〜!!」
ケツを思いっきり蹴られドアの方まで飛ばされていた。
「もうわかってるんでしょ?ならさっさと行きなさい!紗南はあんたを待ってる」
謎の女性に言われた通りに丸ちゃんはどこかへ走り始めた。
「ふぅ、ようやく言ったわね。あら?ごめんなさい、変なとこ見せて」
取り繕ってはいるがもしかしてこの人さっきまで話していた。
「寧々、またお節介焼きか?俺達に気づかないでマルが走っていったって事は…」
「夏樹も来たんだ。行ったわよ。そろそろロビーの方から叫び声でも聞こえてくるわよ」
「寧々!マルが…」
「蒼は後で誰かに聞いてね」
「寧々、マル君走ってたけどどうしたの?」
「後で説明してあげるわよ」
「寧々、私っぽい子がいるよ」
愛李と呼ばれた人が円を指差していた。
「そんなに似てないよ。背の大きさぐらいじゃない?」
「そうだね、でも私の方が大きいし胸も大きい」
円はショックを受けてへたりこんでしまった。
「………結婚してくれ〜〜〜!!!」
どこか遠くで丸ちゃんの叫び声が聞こえる
「さてさて私達も行きましょうか。お祝いしてあげないとね」
寧々と呼ばれていた人が出て行こうとした時
「今更だけど、お前本当に良かったのか?あの時協力した事後悔してないのか?」
夏樹と呼ばれていた人がよくわからない事を聞いていた。
「何の事?よくわからないけど。協力したのは大好きな男の子と大好きな女の子の為にした事じゃない。他に何があるの?」
「お前がそういうならいいよ。んじゃ、お祝にでも行きますか」
丸ちゃんの友達と思われる人達がロビーへと向かって出て行った。
丸ちゃん達がいなくなった後の部屋に俺達は呆然と立ち尽くしていた。
今まで聞いていた丸ちゃんの話で2人の馴れ初めがわかったと思えば
その話の中に出ていた人達が歳をとって登場してきた。
と思えば丸ちゃんは生徒達が聞こえるぐらいの大声でプロポーズをしていた。
何が何だかわからないうちに凄い事が始まり終わっていた。
「あの人達が私達に似てる丸ちゃんの友達だよね?」
唯もまだ何が起きたのかわかっていないようだ。
「多分、そうじゃないか?丸ちゃんと紗南ちゃんも合わせて6人だし」
「慶斗は単純だな。だからって決まったわけじゃないだろ」
「決まってますよ〜。みなさんのお名前一緒でしたし〜」
「あの小さい人なんて円みたいだったしね」
「円はその人よりも小さいんだって。背も…胸も…」
唯の時よりもショックだったのか泣きだす事なく不気味に笑い始めた。
「おい、円?大丈夫か?」
「ぬっ?どうしたの慶兄。円はいつも通りの円だよ」
どう見てもいつもの円には見えない。
心配した俺達は俺達の部屋まで連れていくことにした。
部屋に着く途中、教師である丸ちゃんが廊下で正座させられ説教を受けていた。
壁の陰で紗南ちゃん達はそれを見て笑っていた。
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今までの俺は<俺>であって<俺>じゃなかった。 ずっと見ていてくれていた仲間達が言うなら間違いないな。 よし、これからはあるがままに・・・ |
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