SEASON 7.頑想の季節(4/4)
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部屋に着くと拓郎が落ち込んでいる円を誘いテレビゲームをやり始めた。

さっきまで圧勝だった拓郎が負けることはなかったが接戦続きになっている。

 

 

勝てそうで勝てない円の表情は徐々にいつもの円へと変わっていく。

 

 

様子を見ていると

「ぬ〜〜〜!勝てないよ〜〜〜!」

いつもの口癖までも戻ってきていた。

 

 

円の調子が戻ると拓郎のコントローラー捌きも戻りはじめ圧勝に次ぐ圧勝となっていた。

 

 

「はいはい、ゲームはそれぐらいにして2人共、散らかしたの今から片付けなさい」

 

「ぬ〜、散らかしたのは拓坊だよ。円じゃないよ」

 

「あっ!円、自分だってそこの袋の中身食べてたじゃん!」

 

「もう、いいから片付けないと駄目よ。2人だけの部屋じゃないんだから」

唯に注意されている2人は顔を見合わせ逆らう事もなく渋々片付けを始めた。

 

 

「絶対慶兄が言ったんだよ」

 

「慶ちん何かあるとすぐに唯にチクるもんな」

俺の方をちらちら見ながらの片付けははかどる事はなかった。

 

 

掃除が終わらないうちに唯と里優は自分達に戻り竜祈は部屋の奴らと一方的に話をしている。

俺はというと寝っ転がりながら拓郎達の掃除を見ていた。

 

 

どういう訳か片付けが終わらない。

 

 

それはそうだろう。

 

 

拓郎が片付けた物を円が違う場所に片付け円が片付けた物を拓郎が違う場所に片付ける。

つまりは片付けているつもりが物を動かしてるだけの作業だ。

 

 

言ってやろうかと思ったが掃除が終わるとまた散らかるんだろうと思って観察するだけにした。

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気付くと騒がしい掃除をする音の中で俺は寝ていたらしい。

今でも起きたのかまだ夢を見ているか分からない状態で懐かしい顔が見える。

 

 

何か話しかけられているが頭までは伝わってこない。

 

 

「美優、もうちょっと後でにしてくれないか?頭がぼ〜っとしてるんだ」

もう俺達の前には出てこないと思っていた美優が俺の顔をずっと覗いている。

 

 

時間が経つと霞んでいた景色が開けてくる。

 

 

「お前髪伸びたんだな。まるで里優みたいだ」

双子なんだから髪型が同じならばそっくりなのは当たり前だ。

 

 

「慶斗さん、まだ寝ぼけてるんですか〜?私お姉ちゃんじゃないですよ〜。里優です〜」

体を跳ね上げて周りを見るとまだ片付けをしている拓郎と円、輪を作って話をしている竜祈がいた。

 

 

どうやら俺は現実の世界にいたようだ。

 

 

「悪い、夢なのか現実なのか分からなくてな。あなたは里優で俺は慶斗だよな」

 

「あはは〜、そうですよ〜。私は里優であなたは慶斗さんですよ〜」

 

「それでその慶斗さんの覗いてたけど何かついてるか?」

 

「いいえ〜、ただ寝顔が可愛かったもので〜。これから予定とかありますか〜?無いなら付き合ってもらいたいんですけど〜」

 

「寝てるぐらいなんだから予定なんかないよ。どこ行くんだ?」

 

「ここだと竜祈さんがいますので〜ロビーに行きませんか〜?」

 

「あぁ、いいよ。竜祈にばれないよに行くか」

 

 

竜祈にばれないようにするのは簡単なことだけど、さっきからこっちをちらちら見てくる拓郎と円が面倒だ。

見つかってしまえば一緒にどこ行くのって聞いてくるに違いない。

 

 

「里優、拓郎と円の隙をついて先に行っててくれないか?」

 

「よくわかりませんが〜先に行ってますね〜」

 

 

拓郎と円が向こうを見るのをじっと見る。

両者がこっちを見てない時に抜け出さないといけない。

 

じっと待つと遂にその時がきた。

里優にアイコンタクトで合図しようとしたがすでに里優は部屋を出るところだった。

 

 

あいつは忍びの者なのか?

 

 

俺もチャンスをうかがっているが体の位置を動かすので精一杯。

もう少しで一歩で部屋から出てドアをあけ廊下に出られる位置まできた。

 

 

こっちの思惑を知ってか両者が向こうを見ていることがなくなっている。

 

 

「ちっ、早くあっち向けよ」

何か策はないか考えてみる。

 

 

がこの緊迫した中であっさりと思い浮かぶ事はない。

時間が経つにつれて焦りが増殖していく。

考えれば考える程思考の迷路に迷い込む。

 

 

 

どうすればいいんだ?

 

 

 

立ち上がり辺りをうろうろする。

ダメだ、全然思い浮かばない。

 

 

「慶兄、どこ行くの?」

 

「ロビーだよ。考え事してたら喉が渇いたんだ」

 

「慶斗、俺コーヒーな」

 

「円はオレンジジュース!」

 

「僕はお茶買ってきて」

 

「しょうがないな。後でちゃんと回収するからな」

 

俺は飲み物を買いに部屋を出た。

自販の前に立った俺はある事に気が付いた。

 

 

一緒に出なければいいだけで俺1人出る分には言い訳がつく。

 

 

「よし、この作戦でいこう!」

 

 

さっさと買って戻ろうと金を自販に入れた。

 

 

「私ミルクティーがいいです〜」

 

「ミルクティーか、ほらよ」

 

「ありがとうございます〜。慶斗さん遅かったですね〜」

 

「そうなんだよ、やっと抜け出せる作戦を思いついたんだ。ってここどこだ?」

 

「ロビーですよ〜。どうかしたんですか〜?」

 

 

知らない間に部屋を抜け出しロビーまで来ていたのか。

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「悪いな、なかなかチャンスなくてさ」

 

「いいですよ〜。あっちの方が空いてましたので座りませんか〜?」

 

 

里優に先導され空いている席へと歩みを進めた。

俺達は向かい合って座ったが違和感を感じる。

 

 

「そういえば里優と2人っきりでいたことってあまりないよな?」

 

「そうですね〜。いつもはみなさんいますから〜。遊園地の前で〜竜祈さんと唯さんを待ってる時以来だと思いますよ〜」

 

「いても少しだけ話して終わりだったもんな。それで今日はどうしたんだ?竜祈に聞かれたくない話でもあるんだろ?」

 

「そうなんです〜。最近竜祈さん冷たいんです〜。絶対に浮気してるんだと思うんです〜」

 

「そんな事ないだろ?丸ちゃんの話聞く前に聞いたけどしてないって首振ってたし」

 

「してても慶斗さんには言わないですよ〜。私に伝わってしまうかもしれませんから」

 

「信用されてないってことか」

 

「いえ、そうではないですよ〜。ただ口を滑らすかもしれないってことですよ〜。拓郎さんが円ちゃんに言った言葉も言ってしまいましたし〜」

 

「確かに無意識に話したりしてることあるからな。それならしょうがないか。それで最近冷たいっていつからだ?今まで変わった様子はなかったけど」

 

「修学旅行に来てからです〜。全然私の相手してくれないんですよ〜」

 

 

最近も最近の話だな。

 

 

一緒に行動していたけどそんな素振りは見ていない。

 

 

「いつも男の人と話してて私の相手してくれないんです。きっと男の人が好きになったんですよ」

 

「里優さん…そんな真顔で言われてもありえないから。あれは部屋のやつらと仲良くなるため。同じクラスのやつだっているんだから」

 

「だからって彼女をそっちのけにしますか?」

 

「きっとあいつだって悪いと思ってるさ。里優の事好きでしょうがない奴だからな」

 

「わかりました〜。慶斗さんがそこまで言うなら我慢します〜。もしかして竜祈さんと慶斗さんが…それなら私は潔くひきます」

 

「いや、それもありえないんだけど…」

どんな話をしてもこの勘違いスパイラルは続いていく。

 

 

長い長い説明の末勘違いスパイラルから抜け出し里優の機嫌も良くなったようだ。

 

 

その代償として俺は説明し続けて疲れてしまった。

 

 

「どうしたんですか〜。お疲れの様子ですが〜?」

 

「なんでもないよ、気にしないでくれ」

 

「そうですか〜、では1つ聞いていいですか〜?慶斗さんは好きな方はいないんですか〜?

もちろん恋愛感情としてですよ〜」

 

 

唐突に変な事を聞いてくるな。

 

 

「好きな人か、あんまり考えた事ないな。自分でもいるのかいないのかわからないな」

 

「慶斗さんらしい答えですね〜。私が思うには〜気付いていないんじゃないかとも思いますよ〜」

 

「気付いてないってどういう事だ?」

 

「あはは〜、そのままの意味ですよ〜。あまり〜気にしないで下さいね〜」

 

「気にするなって言われてもな」

 

「そういえば〜飲み物を買いに来たんですか〜?私の分しか買ってないですけどよかったんですか〜?」

すっかりとあいつらに頼まれていたのを忘れていた。

自販で飲み物を買い里優と一緒に自分の部屋を目指す。

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「そういえば唯はどうしたんだ?」

 

「唯さんは呼び出されてどこかに行きましたよ〜」

 

「呼び出されたって因縁でもつけられたのか?」

 

「物騒な話ではないと思いますよ〜。そんな雰囲気ではなかったですから〜」

 

「なら大丈夫か」

 

 

廊下の角を曲がろうとした時何故か里優に腕を引っ張られた。

 

 

「あの人ですよ〜、唯さんを呼び出した人は〜」

 

 

そっと覗いてみるとそこには学校一のイケメンと称される男と唯が言い争いをしていた。

 

 

「この僕が付き合ってくれって言っているのに何故断るんだ?僕には君の思考回路がわからないな」

 

「だからさっきから言ってるじゃない。好きでもない興味もない人と付き合えないわ」

 

「自慢じゃないが言わせてもらうけど僕は顔もいいし、背も高い、文武両道、それに御曹司だ。何か足りないものがあるというのかい?」

俺には自慢にしか聞こえない。

 

 

「足りないものなんてないんじゃない?彼氏にするには最高の条件だと思うわよ」

 

「ならわかるじゃないか。よく考えてくれ。それにいつまでもあんな奴らとつるんでたらダメになるぞ」

 

「あいつらって私の大切な人達の事を言ってるの?」

 

 

ぐっと唯の手に力が入る。

 

 

「当たり前だろ!?他に誰がいる?まともに学校にこれない男3人にその内の1人の彼女、ずっと学校を休んでた

小さいのが1人。君にとって何のメリットがある?」

俺の手にも力が入る。

 

 

自分の事を言われる分には構わないがあいつらのことまで馬鹿にされるのは許せない。

 

 

里優に飲み物を渡し飛び出そうとしたが

 

 

 

パーン!

 

 

 

男の頬を唯の掌がとらえた音が廊下に響き渡った。

 

 

「どう考えてもあなたとは付き合えないわ。私の大切な人達を馬鹿にするような人は好きになれないわ。私にはお金にも何にも代えられない存在なの。話は終わりね、私戻るから」

男は突然の事にその場にへたり込んでしまった。

 

 

 

その姿を見下し背を向け唯はこっちに歩いてきた。

 

 

「この馬鹿女が!よく考えればわかる事なのにな!後悔して後から来ても俺はしらないからな!」

唯の背中へと怒声が飛ぶ。

 

 

その声に反応するように唯は立ち止まる。

 

 

「後悔なんて絶対にしない。あなたと付き合った方がよっぽど後悔するわ。それに考えたって好きになる事はないわ。

私は頭で恋愛をしてない、心でしてるから。私の心はずっと昔から同じ人想ってる。あなたの入る余地はないわ」

 

 

唯は振り向く事なく男に止めを刺した。

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そのまま唯はこっちへ向かってくる。

 

 

「やばい、唯こっちくるぞ」

 

「慶斗さん、隠れるところありませ〜ん」

あまりの気まずさに俺達は逃げようとしたが時はすでに遅し。

 

 

「慶?里優?こんなところで何してるの?」

あっさりと見つかってしまった。

 

 

「あはは〜、それではこれ運んでおきますね。唯さん、また後で〜」

逃げるように里優は行ってしまった。

 

 

「もしかして今の話聞いてた?」

さっきまでの勢いなく顔を紅くして唯は俯いてしまった。

 

 

「いや、何も聞いてないし聞こえてないな」

 

「本当は?」

 

「聞いてました。どうもすみません」

 

「まあしょうがないわね、慶達の部屋はこっちの方だもんね」

 

何故か唯は気まずそうに辺りを見て俺の方を見ない

 

「唯でも好きな奴いるんだな。それなのに俺達と一緒にいていいのか?」

 

「…………」

 

「んっ?何か言ったか?」

 

「なんでもないわよ、いいのよ。私にはその時間が重要なんだから」

 

「それならいいけど」

にしても俺の方を見ないのだろう?

いつもなら目を見て話すのに。

 

 

「それより片付けは終わったのかしら?」

 

「まだやってるんじゃないか?協力するって事をわかってないみたいだったし」

 

「なら慶達の部屋に行きましょ。飲み物里優もってちゃったんでしょ」

 

「そういえば俺の分まで持ってかれたんだっけ」

 

「じゃあ行きましょ」

唯はそそくさと俺達の部屋へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

案の定部屋の片付けは終わってなく、それどころか喧嘩を始めていた。

 

 

「お前らなにやってんだ?」

 

「ぬっ、慶兄聞いてよ!せっかく円が片付けたのに拓坊が散らかすんだよ!」

 

「違うよ慶ちん!僕が片付けたのを円が散らかすんだよ!」

 

「拓坊がだよ!」

 

「円だ!」

おでことおでこをくっつけ睨み合う2人を呆れた顔で唯が見ていた。

 

 

「もう、円はそっちを片付けて。拓郎はそっち。私はここをやるから」

 

 

唯の命令に2人はまた文句を言わずに渋々片付け始めた。

すると今まで時間がかかってたのが嘘の様に終わった。

 

 

「僕達の苦労は一体なんだったんだろうな、円」

 

「拓坊、円達頑張ってたよね?必死だったよね?」

 

 

部屋の隅で拓郎と円は小さく体育座りをして落ち込んでいた。

 

 

「2人共頑張ったわね。もうゲームしてもいいわよ」

唯の一言に落ち込んでいたはずの2人は目を輝かせてテレビの前へと移動した。

 

 

「こんなに早く片付くもんなんだな」

 

「コツさえ掴めば誰だってできるわよ」

 

「俺の家はほとんど唯にやってもらってるからやる機会がないんだよ」

 

「それならもうやらない方がいいの?」

悪戯な笑顔が俺の顔を覗いてくる。

 

 

「それは困るな。これからもお願いするよ。願いついでに修学旅行中の洗濯物もいいか?」

 

「しょうがないわね、帰った次の日休みだからその日でもいい?」

 

「ついでに飯も…」

 

「ついでに作ってあげるわよ」

隣に座る唯は嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

里優も竜祈達の輪の中に入っていて

拓郎と円はずっとテレビゲームに集中していて

俺と唯は並んで座りそれを見ていた。

 

 

 

そこに丸ちゃんと紗南ちゃんが消灯の時間を知らせにきた。

持ってきていたのかも知らなかった指輪を薬指にはめて。

 

 

 

こうして俺達の修学旅行は終わっていった。

 

 

もしかしたら丸ちゃんの修学旅行も今日終わったのかもしれないな。

 

 

2つの修学旅行に幕が下ろされ夜は更けていく。

 

説明
丸ちゃんの昔話が目の前で再現されるなんて・・・
でもその仲の良さはうらやましく感じる。

俺達はどうなっていくんだろう?
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