ママのお話 |
「ママ、ママ。何かお話してよ」
子供達にせがまれた“ママ”は
彼等の頭を撫でながらゆっくりと話し始めました。
「今日は砂漠の国のお話」
「わぁい」
昔々、ある所に砂に覆われた国がありました。
真っ赤な太陽がさんさんと降り注ぐ一年中暑い国だったので
其処に住む人々は何時も水を求めていました。
「暑いよ、暑いよ」
「喉が渇いたよ」
男の人も女の人も皆、喉が渇いていました。
折角作物を育てても、水が無いので直ぐに枯れてしまいます。
毎日暑い砂漠の国には雨が殆ど降りません。
熱い砂を掘っても、水が出てくる事はありませんでした。
砂漠の国の王様は困っていました。
このままでは皆、暑さにやられてしまう。
食べるものも無くなってしまう。
「誰かいい知恵を持っている者は居ないか?
無くならない水を持って来た者には、望みの褒美を与えるぞ」
王様は砂漠の国中におふれを出しました。
しかし、誰も王様の所に行けませんでした。
一人分の水を用意するだけでも、難しい問題だったからです。
すっかり困ってしまった王様の前に、ある日旅人が訪れました。
色々な国を旅してきた知恵を王様に分けてあげようとやってきたのです。
旅人は笑いながら、王様の耳元でそっと話しかけました。
「これは凄い!」
王様は直ぐに旅人の言葉を実行しました。
喉が渇いて乾いて我慢の出来なかった王様は、国中の皆にまたおふれを出しました。
『若い娘を残らず連れて来なさい。連れてきたら水を分けてあげましょう』
国中の皆は吃驚しました。
女の人を連れて如何するのだろう?
でも男の人も女の人も水が欲しかったので、王様の言うとおりにしました。
やがて王様の前に沢山の女の人達がやってきました。
王様は旅人に教えて貰ったとおりに、女の人達を一つの部屋に閉じ込めてしまいました。
「何をするの、王様?」
「私達、悪い事はしていません」
王様の所に行けば水を貰えると思っていた女の人達は、次々に騒ぎ出しました。
「王様、約束が違います。 王様の前に来たら水を分けてくれるんじゃないんですか?」
水をくれ、水をくれと女の人達は口をそろえて文句を言います。
そうすると、王様は女の人達の前にやってきてこう言いました。
「約束は破っていないぞ。 今から水を分けてあげよう」
王様が言った途端、女の人達が入っていた部屋に蛇がやってきました。
丸々と太った蛇は女の人達をじーっと眺めています。
王様が手を一度叩くと、その蛇は女の人達を次々に食べてしまいました。
「お父さん、助けて!」
「お母さん、助けて!」
「王様、助けて!」
泣いてお願いしても王様は助けてあげませんでした。
やがて一人、また一人と女の人達は蛇に食べられてしまい
最後の一人を食べ終えた蛇もまた、“水”の底に沈んでしまいました。
そう、王様が旅人に教わった方法とは
“涙を水にする”方法でした。これなら泣く度に水が増えるからです。
王様は国の中で一番偉いので、誰も王様に逆らえません。
そうして王様は、“涙水”を国の皆に分け与えたのでした。
子供達が帰ってこない事を心配した父親の一人が
ある日王様の所に内緒でやってきました。
『王様の所で幸せに暮らしている』と伝えられていた父親でしたが
子供から全然連絡が来ない事を不思議に思っていたからです。
王様が寝ている間にやってきたその父親は
子供の姿が見えなくて大変驚きました。
「愛しい我が娘よ、居るのなら返事をしておくれ」
だけど声は聞こえません。
父親の声に目が覚めて、王様が代わりに答えました。
「お前は娘が流した涙を水と思って飲んでいたんだぞ」 と。
王様は娘を蛇に食べさせた事を伝えると、父親は泣きながら家に戻りました。
王様はとても満足そうです。
これでまた泣く人が増える。
また水が増えて、喉が乾かなくなるぞと思ったからです。
泣いて帰ってきた父親の話を聞いた皆は
王様の思うとおり、次々に泣き始めました。
王様の望みどおりに涙は水になり、国中の皆が泣いたので
砂漠の国は水がいっぱいある“水の国”になったのです。
「さあこれで喉が渇く心配が無くなったぞ」
嬉しくて仕方の無い王様は、国の皆に会いに行きました。
でも、如何した事でしょう。国には人が誰も居ません。
みんな涙を流し疲れて死んでしまった事を、王様は知りませんでした。
王様は寂しくなりました。
皆の為にと思って水を準備したのに、水を欲しがる人が誰も居ないからです。
それだけではありません。
“水の国”には王様以外誰も居なくなってしまったので
話し相手も居なくなってしまいました。
王様は泣きました。
「皆、水はあるぞ! 何処へ行ってしまったんだ!」
わんわんと泣く王様の涙は、国中に広がりました。
“水の国”は王様の涙によって、とうとう水の中に沈んでしまいました。
王様に知恵を与えた旅人は
水の中に沈んでしまった国を眺めてこう言いました。
「王様、私の望みを叶えてくれてありがとう」
旅人は水が欲しかったのです。
とても一人では飲みきれない水を貰った旅人は、水の近くに家を建てて
末永く幸せに暮らしたとさ。
おしまい。
説明 | ||
以前ブログで書いた、昔話風の話です。 テスト投稿も兼ねています。 |
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コメント | ||
女であり、男であり、母親であり、父親であり、菩薩であり、鬼であり。そんなママの一部を目指しました。 コメント有難う御座います!(螺郷) うまくて面白かったです。 ”ママ”が子供に話すにはちょっと怖い内容の話かもとも思いましたが(枡久野恭(ますくのきょー)) |
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