変態司馬懿仲達物語 反董卓連合 7 |
董卓は十常侍に利用された犠牲者の一人である。
この噂は瞬く間に大陸中に広まり、悪逆非道の董卓は人々の記憶から姿を消した。
長安に避難していた洛陽の民がその証人となり、反董卓連合の諸侯たちは罪のない董卓に刃を向けてしまったことを謝罪し、董卓も自分が非力だったからだ、と逆に諸侯たちに頭を下げた。
董卓に頭を下げるなんて御免だと言う諸侯も中にはいたが、まだ幼いなりにも天子の座にいる劉協が董卓は悪ではないと発言したところが大きかった。
劉協は家臣の者たちと共に長安へ避難しており、いつの間にか戦場から消えていたケ艾が発見して洛陽まで護衛したのだった。
洛陽が焼けてしまったのは董卓が戦場となるかもしれない洛陽よりも長安の方が安全だと考慮して民と一緒に劉協を逃がした結果、洛陽に潜伏していた黄巾の残党が暴れまわりこのような姿になってしまったのだった。
董卓への謝罪が終わると諸侯たちから利用された董卓をこのままにしていいのか、という議題が浮上し、董卓は連合軍の総大将だった司馬懿が監視すると言う事で話がまとまり、それぞれ燃えてしまった洛陽の復旧に取り掛かっている。
司馬懿は徐庶を連れて各地の復旧状況を見て回っていた。
「どこもかしこも復旧を血眼で進めていますね。怖い怖い」
「何を言っているんですか? ここでの活躍はそのまま大陸中に広まり、風評に繋がります。自分たちがどれだけ民のことを想い尽力するか。それを見せているんですよ」
「確かに。しかし、がむしゃらに復旧しても意味はありません。最小限の物資と人数で最大限の利益を得る。ただ闇雲に行なうだけでは駄目です」
「だから民より天子さまを優先したんですか。あ、報告が来ていました。ケ艾将軍は天子さまを無事に許昌に送り届け、そのまま護衛に回るそうです。藍花さんからは董卓、賈?、李儒の三名は炊き出しの仕事を率先してやっていると報告がありました」
「彼女たちは働き者ですね。一刀くんはどうしていますか?」
徐庶は少し言い辛そうに顔をしかめた。
「思いつめた様子だそうです。何かを悩んでいるようだ、と監視させている兵士から報告がありました」
「……そうですか。一刀くんは頑張っているようですね。感心します」
「どういう意味ですか?」
「一刀くんの悩みは自身の存在の理由でしょう。自分が必要なのか悩むと言う事はそれだけ役に立とうと考えている証拠です。ふむ、ここは何か励ましの言葉をかけるべきか、それともわざと突き放して自立を待つか」
「まだ報告があります。何かを思いついた様子で飛び出していったと。行き先は孫策軍が担当している地区です」
「…………それは、見逃せないかもしれませんね。彗里、わたしは一刀くんを向かいに行ってきます。あなたはこのまま他の諸侯の動きを観察しておいてください」
「わかりました。くれぐれも注意してください。董卓での一件、まだ終わってはいないと思います」
「わかっています。彗里も気をつけて。では」
司馬懿は一刀を迎えに孫策軍が復旧を担当する地区へと向かった。
一刀は走っていた。
陣営からずっと走りっぱなしで息も絶え絶えで今にも倒れそうだが、一刀は歩みを止めずにある場所を目指していた。
史実なら江東の虎、孫文台が手に入れるはずの帝の証。しかし、一刀の知る三国志とは違うとすれば今ここで孫策がそれを手に入れてもおかしくない物。
玉璽である。一刀はそれを見つけ出す為に急いでいた。
炊き出しをしていた李儒から洛陽で井戸のある場所を聞き、孫策が担当している地区の井戸に玉璽は必ずある。
これは一刀が天の御遣いだからこそ断言できる知識であり、やっと見つけた司馬懿の役に立つ事だった。
陣営で悩む一刀に突然何かが舞い降りたように玉璽の事が頭を過ぎり、それを巡って孫堅が殺された事を思い出した。
三国志とは違うとしても全て違う訳ではない。一刀はそう信じ復旧を進める孫策軍を避けながら井戸のある場所を目指していた。
「あった。ここだ」
一刀は孫策軍が担当する地区で唯一の井戸の前にやってきた。
井戸は倒壊した家の瓦礫でほとんど姿が見えないが、少しだけ井戸らしきものが見えている。
「これを退かせ……るかな?」
とりあえず近場の木から退かそうと力を込めるが、ビクともしない。
「そこで何をしているんですか!?」
もう一度瓦礫を退かそうと力を込めようとすると殺気の混じった声が響いた。
一刀がそちらを見ると、長い黒髪を揺らして背中の長刀に手をかける少女が数人の兵士を連れて立っていた。
「あなたは何者ですか? 孫呉の人間じゃありませんね?」
「俺は北郷一刀。ごめん、ちょっと探し物をしてて……力を貸してくれない?」
「北郷……あ、もしかして司馬懿仲達の下に居るという天の御遣い様ですか?」
「そう言われてる。ちょっと手伝ってくれないかな? ここに玉……探し物があるんだ」
「そうなのですか? わかりました。あ、でも……」
「あ、無理ならいいんだ。一人でやるよ。ごめんね、気を使わせちゃって」
「い、いえいえ!? とんでもないです! あの、手伝わせていただきます!」
「え? いいの?」
「はい! ここはわたしが任された場所ですから問題ないです!」
「ありがとう。助かるよ。それじゃこっちを持って……どうしたの?」
一刀は手伝うと言って動こうとしない少女に目を向けた。
「え……あ、な、なんでもないです!」
少女は大きな目を見開いて一刀を見つめていたが、一刀に指摘されて我に返りブンブンと手を振って何かを否定していた。
「さ、探し物を見つけましょう! これを退かすのですね?」
「うん。井戸があるでしょ? そこに探し物があるんだ」
「井戸……あ、ありますね。二人じゃ厳しいですね。皆さん、手伝ってください」
「よろしくお願いします。それじゃ、押しますよ。せーっの!」
一刀と少女、それに兵士たちも加わって瓦礫に一気に力が込められる。
瓦礫が崩れ、現われた井戸からは眩い光が輝きを放ち、井戸の中から龍が飛び出してきた。
「え? なんですか、あれ!? ぶわーって光が出て龍がぶわーって!?」
混乱する少女を尻目に一刀は井戸の中を覗き込んだ。
眩しくてよく見えないが、確かに何かがある。
「ロープとかないかな? あ、ここじゃ綱って言った方がいいんだっけ」
「綱、ですか? ありますけど、もしかして井戸の中に入るおつもりですか?」
「そうしないとアレが取れないからね」
「き、危険じゃありませんか? あんな光が出てるし、龍が飛び出して来て」
「きっと大丈夫だよ。根拠になるか分からないけど、天の御遣いだから分かるんだ」
「天の御遣いとはそのような力があるのでございますか? 凄いです! 素晴らしいです!」
目の中をキラキラと輝かせる少女の視線に照れくさいものを感じて、一刀は頭をかいた。
「あの、よろしければわたしが井戸の中に入って探し物を取ってきましょうか?」
「え、いや、そこまでしてくれなくても綱さえあれば自分で」
「あなたのような凄い人にもしもの事があったら大変です! わたし、こう見えても隠密部隊を任されるくらい身軽なんです。行かせてください」
「そうなんだ。君、凄いんだね」
「て、天の御遣いさまに褒めてもらえるほど凄くはないです! わたしより凄い人なんてたくさんいます!」
「隠密部隊ってアレでしょ? 暗殺とか斥候とか危険な仕事を引き受ける精鋭で、厳しい訓練を乗り越えてきているんだよね?」
「はい。厳しいですけど、孫呉の為ですから苦じゃありません」
「凄いな、やっぱり。それじゃあ、お願いするよ」
「わかりました! ちょっと待っててください」
少女はひょいっと井戸に乗って飛び降りるような形で井戸の中に消えていった。
そういえば、と一刀は今更ながら少女の名前を聞いていなかった事を思い出す。
戻ってきたら聞こう、と考えているとと井戸から少女がよじ登ってきた。
「お待たせしました。これが光ってたんですけど」
「これが……」
一刀は少女から光る物を受け取った。
龍が彫られた判子のような形をしたそれは間違いなく玉璽だと一刀は確信した。
後はコレを司馬懿の元に届ければ、と踵を返して走り出そうとするのだが、
「ねえ、それってもしかして……玉璽?」
ニッコリと笑顔を浮かべた女性が一刀の前に立ちはだかった。
「誰、ですか?」
一刀は振り絞ったような声で言った。
ニッコリと笑顔で一刀に話しかけてきている女性は息をする事が辛いほどの殺気を一刀に向けていた。
なんとか意識は保っているが、真っ向から受けるその殺気は普通じゃないと感じさせる。
「わたしは孫策。ねえ、お願いがあるんだけど、聞いてくれないかな?」
「………」
「孫呉に来て欲しいの。悪いようにはしないし、むしろ役得だと思う。ねえ、どう?」
「どう、と言われても」
この人は一体何が言いたいのだろう、と一刀は考えた。
その考えがまとまる前に女性は一歩一刀に近付いてきた。
「具体的に何をすればいいのかって言うとね、孫呉の将を口説いてまぐわればいいの。ね? 役得でしょ?」
「まぐわ……!?」
「あはは、顔真っ赤になっちゃった。結構この手の話には疎いのね。けど、そんなんじゃ女を口説いて回るなんて出来ないわよ」
「そんな事しません! 通してくれませんか?」
一刀が孫策の脇をすり抜けようとするとそれを阻むように彼女が横にずれた。
「断れる状況だと思う? あなた、孤立無援なのよ?」
孫策の言葉で一刀はようやく囲まれている事に気がついた。
「周泰! 彼を拘束なさい!」
孫策の声が響いたかと思うと一刀は後ろから強い衝撃を受けて地面に倒れた。
腕を後ろに回されて抑えこまれ、一体誰が、とそちらを見ると一刀の手助けをしてくれた少女だった。
「何をするんだ!?」
「ごめんなさい御遣い様。でも、雪蓮さまの命令ですから」
申し訳なさそうにする周泰と呼ばれた少女は一刀が痛みを感じないよう工夫していた。
「あなたには来てもらわないと困るの。天の御遣いが孫呉を選んだって風評は必ず力になる。それに孫呉百年の大計には天の御遣いの子孫が必要なのよ」
「俺の……子供?」
「孫呉の将軍との間に子供がいれば孫呉を支える大きな柱になる。だから口説いてまぐわれって言ったのよ。もう一度考えてみて。決して悪い話じゃないはずよ」
「無理やり連れて行って勝里さんが黙っている訳がない」
「あなたがキッチリと司馬懿に別れを告げてくれば何も言えないわよ。完璧♪」
ゾクリと背筋を何かが這いずり回る感覚がした。
孫策は先ほどまでと同じ笑顔だが、今は先ほどとは比べ物にならないくらいの重圧感が一刀を押し潰していた。
「コレが最後よ。孫呉に来てくれない?」
「俺には勝里さんに拾われた恩がある。だから、孫呉には行かない」
「そう、残念ね。でも、これは貰うからね」
孫策は足元に転がっていた玉璽を拾い上げた。
「これは孫呉の繁栄の為に必要な物。大事にするから安心して」
「返せ! それは俺が見つけたんだ!」
「見つけたらその人のものってことかしら? それで返せなんてただの駄々っ子ね」
一刀は歯を食いしばって孫策を睨みつけた。
見下ろす孫策は背を向けて歩き出そうとする。
待て、と叫ぼうとした時、視界の隅にある人物を見つけた。
「駄々っ子というのはまだ子供という事です。これからの成長が楽しみではありませんか?」
「司馬懿仲達……」
「お久しぶりです、孫策さん。わたしの部下に一体何をなさっているのですか?」
司馬懿はニッコリとした笑みを浮かべて歩いてきていた。
「勝里さん……」
「大丈夫ですか、一刀くん? それくらい脱出できないのは鍛錬が足りない証拠ですね。もっと厳しくするべきでしょうか」
「あはは、この子強いですよ、普通に」
「そうですか? わたしには……」
孫策の横を通り過ぎた辺りで司馬懿はダッと地面を蹴り一気に一刀に近付いた。
そして一刀を押さえつけている周泰の顔目掛けて掌を突き出した。
咄嗟の事だったが、周泰は一刀の拘束を解いて後ろに飛び何とか避けた。
「まだ未熟に思えます。辰と比べて、という話ですが」
一刀を起き上がらせた司馬懿はぐるりと周囲を見渡した。
周泰への攻撃が周囲の兵士を刺激したらしく、腰の剣に手をかけている者までいる。
一刀も護身用に持たされた剣を抜こうとしたが、それを司馬懿に止められた。
「孫策さん、もしやと思いますが、わたしを殺そうなどと考えていませんか?」
「そんな事するわけないじゃない。剣を退きなさい。命令よ」
孫策の言葉に兵士たちは素直に従った。
「良く統率されている。しかし、今はどうでもいいです。孫策さん、説明していただけますか? 何があり、どういう理由で一刀くんを拘束したのか」
「ちっ、面倒ね。ちょっとお話して、一緒に来て貰おうとしただけよ。話の途中だったのに逃げようとして、思わず捕まえたの」
「それはそれは。一体どのようなお話を?」
「孫呉に天の御遣いの血を入れたかったから将とまぐわれって話よ。好条件で待遇も良くするって話、普通断る? 司馬懿、あなたならどうする?」
「孫呉の将ですか? 生憎と好みの方がいなかったのでお断りします。一刀くんもおそらく同じ理由なのでしょう。藍花さんが呉に行けば分からないかもしれませんが」
「だから、どうして勝里さんは俺と荀ェをくっ付けようとするの!? それに今はそんな話してる場合じゃないでしょ!?」
「以前にも言いましたが、わたしの楽しみの一つに一刀くんの子供を抱っこするというものがあります。最短路が藍花さんだというだけです」
「どう見ても一番遠いと思うんですけど……」
「一刀くん、女心とは複雑なものです。わたしとて完全に理解できていません」
「あぁ、なんとなくわかります。って、違う! そんな話してる場合じゃないんですってば!」
相変わらずの自分勝手な会話に翻弄される一刀を取り囲んでいた孫呉の人間も呆然としているしかなかった。
「雪蓮! 一体何をしている?」
「うわ、やば……」
呆然とさせた空気をぶち壊したのは孫策の軍師、周瑜だった。
「何やら揉めていると聞いて駆けつけてみれば……これはどういうことだ?」
「あ、いや、天の御遣いをね、孫呉に引き入れようとして……」
「その話なら却下したはずだ。焦る気持ちも分かるが、敵を作るような真似をしてどうする? 我らにはそんな余裕はないぞ」
「ごめんなさい」
「このようなことはこれっきりにしてくれ。司馬懿殿、孫策が迷惑をかけた。孫策は短気ゆえにたまに暴走してしまう。今回は大目に見て欲しい」
「いえ、こちらこそ使者も送らず部下共々お邪魔してしまって申し訳ありませんでした。これで失礼しますので、これにて」
「見たところ護衛がいない。周泰、司馬懿殿たちを無事送り届けろ。失礼のないようにな」
「いえ、その必要はありません。こう見えても強いですよ、わたし」
「董卓の件がある。ここで刺客に襲われでもしたらこちらが困る。安心してくれ。周泰は隠密に関しては文句なしだ。話が聞こえない距離で護衛をさせる」
「ならばお願いしましょう。一刀くん、行きますよ」
「ちょっと待って勝里さん! 玉璽が……」
「歳でしょうか。最近耳が遠くなってしてよく聞き取れません。さあ、行きましょう」
「そんな年寄りじゃないでしょ!? 実年齢知らないけど」
司馬懿に腕を掴まれてひこずられるように去っていく一刀たちを見送り、周泰もその後姿を追いかけるようにして消えた。
「さて、良い訳を聞こうか? 雪蓮」
「わたし、ちょっと野暮用が……」
「逃がすと思う?」
「……思いません」
孫策は大人しく周瑜の説教を受けた。
「待ってくださいよ! 孫策さんに見つけた玉璽を取られたんです! 取り戻さないと」
「玉璽? あぁ、あれですか。必要ありません。あれは役に立たない代物です」
「どういう意味ですか?」
ようやく腕を解放されて自由に歩けるようになった一刀が尋ねた。
「玉璽があれば帝の証明になる。しかし、天子がいるにも関わらず帝を名乗れば逆賊になるのは必須。あれを欲するのは意味がないのですよ」
「つまり、どうする事も出来ないって事ですか?」
「まさか、玉璽を持ってるから自分が皇帝だ! なんて名乗る阿呆はいないでしょう。いたとしてもすぐに討伐されます。ですから、一刀くんの言うとおり玉璽を孫策が手にしていたとしても意味がないので放置です。それよりも一刀くん? どうしてそんな無茶をしたのですか? 危うくわたしは部下を一人失うところでした」
「ごめんなさい。俺……」
一刀は自分の悩みを打ち明けた。
天の御遣いである自分に何が出来るか悩んでいた事、乱世を治める為に必要なものを知識で補おうとした事。包み隠さず全てを打ち明けた。
司馬懿は一刀の言葉を黙って聞き、それが終わるとため息を漏らした。
「一刀くん、わたしは一刀くんに天の御遣いとして何かしてほしいとは思っていませんよ。天の御遣いという存在をそれほど重視していません。おそらくですが、我が軍で誰も一刀くんをそのような目で見ていませんよ」
「それって役立たずって意味……」
「違います。確かに出会った当初はわたしたちとは違う存在なのかと思いましたが、時間が経つとそれが間違いだったと気付きました。一刀くんもただの人間。わたしたちと何ら変わらないただの人です。特別な力でもあればそうは思えなかったでしょうが」
「はは、確かに俺には特別な才能とかないですね」
「才能とは開花するもの。一刀くん、あなたは何かしらの才能を持っていますよ。それを見出し、開花させればいいだけの話です。難しいかもしれませんが、それを見出せれば自ずと悩みも解決するはずです」
「俺の才能……」
「悩み、挫折し、立ち上がり、また挫折してください。それを繰り返していけば、必ず最後に見出す事が出来ます。それだけの覚悟と努力が必要ですが」
一刀は立ち止まり空を見上げた。
どこまでも続く青空はまるで自分の気持ちを表しているようだった。
悩みを打ち明けてその答えがもらえたような気がした。後は自分次第。一刀の目は揺るぎない決心に満ちた強い目になっていた。
「勝里さん、俺やってみるよ。自分の才能を見つけてみせる」
「ふふ、そうですか。楽しみにしています。一刀くん、わたしにあなたの行く先と成長を見せてください。それもわたしの楽しみの一つです」
「はい!」
力強い返事が響く。一刀の新たな決心の表れであった。
「大、こっちの炊き出しなくなりそうだけど、そっちは?」
「こっちもなくなりそう。たぶん作ってると思うから追加持ってくる」
「一人じゃ無理よ。月、ちょっと離れるけど大丈夫?」
「大丈夫。そんなに大変じゃないし、行ってきていいよ」
「ごめん、すぐ戻ってくるから。行くわよ、大」
空になった鍋を持って李儒と賈?は炊き出しを作っている場所へと向かった。
炊き出しは劉備軍と合同で行なっている。
兵士たちに出すご飯を合同で作るというのもおかしな話なのだが、これは司馬懿と諸葛亮が洛陽入りをした時の状況を考えての配慮だった。
民の救済ではなく、見向きもせずに朝廷へと向かった司馬懿軍へ不信感を覚えた兵士は少なくない。ましてそれを率いていたのが関羽ならばその思いも強いだろう。
将軍の言葉に心打たれる兵士は少なくない。関羽の部隊と司馬懿の兵士たちとの間には大きな溝が出来ていた。
それを払拭する為に炊き出しを共に行い、少しでも溝を埋めようとする動きである。
「大、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「ん? なに?」
「アンタ、月との事どうするつもりなのよ。月から聞いたわ。アンタが壊れた日に何があったのか」
董卓が李儒に想いを告げ、死ぬつもりだった李儒が拒んだ日の出来事の事である。
反董卓連合が解散された今の今まで董卓も李儒もその話題には触れず、賈?はもやもやした気持ちを抱いていた。
それを今ぶつけてきたのだ。
「どうって?」
「月との関係よ。まさか、このままなんて言わないでしょうね?」
「言わないよ。あの日、僕は月の気持ちを裏切った。でも、それでも月は僕の事を想ってくれていた。彼女の気持ちに応えないのは男として終わってると思う」
「そうね。さっさとけじめつけるべきよ」
「僕は月が大好きだ。それに負けないくらい詠の事も大好きだ」
「はあぁっ!? いや、ちょっと待って。この話の流れで何でボクの事が出てくるのよ!?」
「月なら分かってくれるよ。いや、むしろ歓迎してくれると思う。優しくて寛大な子だからね」
「いやいやいやいや、おかしいわよ。どうしてボクまで引き入れようとするのよ? ボクは月が幸せになれればそれで……」
「詠は月のことを完璧に理解できてないんだね。月の幸せは三人一緒って事だよ。だったら、そういう関係になるのも三人一緒の方が月は絶対に喜ぶ」
「それは……そうかもしれないけど、そこまでしなくても」
ごにょごにょ言葉を濁す賈?に痺れを切らせた李儒は彼女の名前を呼んで顔を向けさせ、そのまま唇を重ねさせた。
あまりにも急な過去とに言葉にならない言語を発した賈?は吊り目を大きく見開いて顔を真っ赤に染めた。
「これでも大胆なんだよ、僕。さあ、どう言い逃れる?」
「あああああ、アンタ!? こんな事してどうなるかわかって……!」
「分かってる。これで三人一緒だ。そうでしょ?」
「ぐぅっ………」
林檎のように顔を真っ赤になった賈?を置いて李儒は歩き出した。
「あ、待ちなさいよ! まだ聞く事があるんだから」
横に並んだ賈?はもう一つの疑問をぶつける。
「司馬懿から太平要術の書を返されてたけど、どうするの? 凄い本だって事は分かるけど、持ってると争いになるかもしれないわ」
「ああ、あれは……偽者だよ、たぶん。いや、本物かもしれないけど、詠や他の人たちが思ってるほど凄い力なんてない、と思う」
「どういうこと?」
李儒は懐から太平要術の書を取り出し、パラパラと中身をめくっていく。
「張角はこの書を使って黄巾党を結成した、と考えてたけど、たぶんそれは張角自身の才能なんだと思う。僕だって元々蛇を自在に操る事は出来た。毒蛇は危険だったからこの書を手に入れるまで手を出さなかったけど、別にこの書がなくても大丈夫だったと思う」
「それじゃあ、その本はまったく意味のないものってこと?」
「いや、わからない。けど、それでいいんだと思う。知る必要はないんだ。それに、得体の知れないものをいつまでも傍に置いておくほど僕は危ない橋を渡らない」
「よく言うわよ。自分を犠牲にして月を助けようとしたくせに」
「それだけの価値があったって事だよ。ほら、炊き出し貰って戻ろう。月が待ってる」
「はぁ……そうね。月だけにいつまでも働かせる訳にはいかないわ」
二人は炊き出しの補充を貰い董卓の元へと戻っていく。
李儒は太平要術の書を焚き火の中に放り込み、燃えていく事を確認してから歩き出した。
どうもお久しぶりです、傀儡人形です。
今回で反董卓連合は終わりとなります。長かったようで見返すと酷い文と意外と短かったと課題が増えてしまったような気がします。
いつもより長いのはさっさと終らせたかったのと区切る場面が中途半端だったから一気に終らせました。
さて、今回一応登場した劉協ですが、今後は言葉は出てくるかもしれませんが、人物として登場させるつもりはありません。
恋姫無双で全く触れていない太平要術の書と玉璽も触れないつもりです。
だって公式でも放置で意味のないものだったから必要ないかなって思うから。
そんな訳で公式で触れていない部分はほとんど触れないつもりです。あしからず。
では本日はこの辺で失礼します。
あ、あとわたくし三国志SAGAというものやってますので、もしやっている方で見かけるような事があればお手柔らかにお願いしますね。
では、これにて。
説明 | ||
どうも傀儡人形です。 かなりの駄文。キャラ崩壊などありますのでご注意ください オリキャラが多数出る予定なので苦手な方はお戻りください 書き方を試行錯誤しているのでおかしな箇所あります。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1899 | 1661 | 6 |
コメント | ||
チート司馬懿の引き立て役以上の価値を与えられない一刀が憐れ過ぎる この一刀にゃ感情移入しちゃいけないね(bal) ここの一刀がチート性能ならムカツク孫策をボコってやれたものを!くぅ〜!!(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) |
||
タグ | ||
真・恋姫†無双 司馬懿 一刀 李儒 孫策 | ||
傀儡人形さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |