定年退職6年前
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 私の名前は杉村健一。

 とある会社に勤めて30年がたつ・・・が、今はそんなことはどうだっていい。

 私は今窮地に陥っているのだ。

 私は6年ほど前から鬘をかぶっている。

 理由?そんなもの言うまでもない。

 そして今私は何年ぶりだろうか・・・。

「君たちいい加減にしなさい!!!!」

 歳も気にせず老体に鞭を打ち全力で走っていた。

 相手は小学生。

 容赦はしない。

 大人気ないなどとは思わない。

 捕まえたら・・・どうしてくれようか・・・。

 いや・・・そもそも捕まえられるのか?

「ま・・・待ちな・・・さい。」

 ・・・無理なようだ・・・。

 老体に鞭を打って走ったところで走ったところで走れたのは・・・。

「はぁはぁはぁ・・・100m・・・走れた・・・か?」

 運動をしていなかったこの身では良く走れたほう?などと自分で自分に感心しながら本来の目的を思い出す。

 今・・・私には鬘が無い。

 そう、近所に住む小学生に持って行かれてしまったのだ。

 6年間私と共に歩み続けてきた友がさらわれたのだ。

「6年間隠し続けてきたのにこんなことでばれてたまるものか。」

 後半分・・・後半分のところまできたのだ。

 ここでばれるわけには行かない。

「あの子は確か・・・3丁目の土田さんの家の子供だったな。それとおそらくもう一人は2丁目の・・・名前が思い出せない・・・。」

 こんな所でまたも歳を思い知らされながらもくじけることなく前を向く。

 なんとしても今日中に取り返さねばならない事情がある。

 なぜなら明日は会社があるからだ。

 不幸中の幸いかご近所さんとの仲はいいし私が鬘なのも知られている。

「恥は無い!」

 小さい声で決意を表し向かう先は3丁目の土田さんの家である。

 相手は小学生でしかも2人とも自転車に乗っている。

 そんな2人に対して真っ向から身体能力で戦おうとするほど杉村健一54歳はバカではない。

「まずは親に手回しだな。」

 そう、親に事情を伝え帰宅したとき確実に鬘を取り返すため最善の一手を打ちに向かう。

 しかし、ここはその地区ではないその家がある地区はもう一つ向こう側なのだ。

「・・・後何分かかるか・・・。」

 しかしどちらにせよ追いかける体力が無い時点でこうするしかないのだが・・・。

 15分後やっとの思いで3丁目の土田さんの家に着く。

 普段ならそこまで疲れることの無い距離なのだが全力疾走がきいたせいか疲労はいつも以上にい大きく杉村は疲れ果てていた。

 

 ピンポ〜ンとありきたりなインターホンがなると家の中から土田さんが出てきた。

 そして出てきた土田さんの第一声はというと。

「・・・えぇっと・・・、お茶いりますか?」

「・・・お手数数かけて申し訳ない・・・。」

 冷たいお茶お一杯頂きのどを潤し先程起きた事の説明をする。

「そんなことが・・・申し訳ありませんでした。帰ったらしっかり言っておきますので。えっと鬘のほうは帰ってきたらもって行かせます。」

 一つ目の手回しが終わり、ついでにもう一人の名前も聞いた。

 うれしい事にそちらの親には土田さんが電話を入れておいてくれるとのことだ。

「・・・走ったところで取り返せるわけでもないし・・・家で待ちますか・・・。」

 時刻は5時半を回っている。

 小学生2人が家に帰り自宅に電話が入るのも時間の問題だろう。

 杉村は帰宅することにした。

 電話が入ったのは家に着いて20分後、夕飯を作っている途中だった。

 そしてその10分後2人の親が子供を連れて杉村の家に頭を下げに来た。

「ほんとに申し訳ありませんでした。ほらちゃんとあんたも謝りなさい。」

「「すいませんでした。」」

 2人とも親にたんまり叱られたのか目に涙が浮かんで見えた。

「いえいえ、鬘も返ってきたことですし。2人とももう二度とこんなことをやってはいけないよ。やられた人はとても困るんだからね。わかったかい?」

「「・・・はい。」」

 そして4人を見送り自分も家に入る。

 定年退職まであと6年昨日と変わらぬ明日に杉村は安心の笑みを浮かべた。

説明
完全オリジナルです。
主にカツラのとったとられたの物語ww
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コメント
テンポがよく面白い作品だと思いました。 オチに当たる部分が弱かったのと、題名の『定年退職6年前』という設定をもう少し活かせたらともっと良かったと思います(枡久野恭(ますくのきょー))
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