真・恋姫?無双〜獅子をささえる者〜凪√2
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この作品はキャラ設定が崩壊しております。原作重視の方はご注意ください

 

時代背景とうがめちゃくちゃです

 

一刀くんがチートです

 

それでもいいかたはどうぞ

 

 

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一刀「ん…うぅ…朝か、準備しなくちゃ」

 

体をゆっくりと起こし、重いまぶたを擦りながら一刀はそう呟く。起きたばかりだからか思考がはっきりしていない一刀は、水をくんで顔を洗うことで意識をはっきりとさせる

 

寝間着からおばさんから貰った仕事着を着替えるとそのまま外にでた。外にでると一刀は澄んだ空気を肺一杯に吸い込んだ。さらに、朝日に照らされた市は一刀の目には少し幻想的な光景に見えていた

 

一刀「空気が綺麗ってのはこういうことを言うんだろうな〜。俺のいた世界とは全然違うように感じるし」

 

そんなことを言いながら軽くストレッチをした後に、店の中に戻ると店内の清掃など開店準備を進めていく。黙々と作業を進めていると一刀は背後から声を掛けられる

 

おばちゃん「おはよう北郷ちゃん」

 

おじさん「おはよう」

 

一刀「おはようございます」

 

おばちゃんとおじさんに挨拶を返すと一刀は再び準備に戻る。おばちゃんとおじさんも同じように仕事着に着替えた後に開店準備を進める

 

そしてほどよく市にも人気が出てきたところで一刀は店の入り口を開ける。それがこの店の開店の合図。一刀が戸を開けて外を見ればそこには既に何人かのお客が待っており、一刀に笑顔で挨拶をしてきた。一刀もそれに笑顔で返すと店の中へと招き入れる。ここからはいつもと同じような日常かとも思えたが、この日も一刀にとっては少々違った出来事が起こることになった

 

一刀「食材の買出し…ですか」

 

おばちゃん「この付近では隣の邑でしか売ってない食材がいくつかあってね〜。でね、最近は賊とかが増えたせいで物騒でしょ? でも北郷ちゃんなら平気だと思うのよ〜」

 

一刀「わかりました。でもここからその邑までとなると行きと帰りを合わせて2日くらいかかりますよ?」

 

おばちゃん「安心しなよ。普通に2日で行って来てもらえば十分だよ。1日で行けなんて無理は言わないさ。そこのじじいにならともかくね」

 

おじさん「じじい!?」

 

おばちゃんはそう言いながら一刀の背中をバンバン叩くと、食材用と宿泊用の金銭を一刀に渡した。一刀はそれを懐にしっかりとしまいこむと二階に上がり自らの得物を持つと買出しに出かけた

 

店の外に出た一刀は市の人たちに挨拶をしながら歩き、陳留の城門を抜け、買出し先の邑へと向かった。道中、おばちゃんの心配していたような賊の襲撃などはなく、いたって平和な道のりを一刀は過ごし、日が暮れる前には目的の邑へと到着していた

 

 

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一刀「さてと、まだ市はやってるよな。さっさと買い物を済ませて自由行動といきますか」

 

そう呟きながら一刀は市を廻り、おばちゃんに頼まれていた食材を購入していく。陳留の市とは違った活気、品揃えなど、いつもと違った風景に自然と一刀の気持ちは明るくなった

 

一刀(これならたまになら買出しも悪くはないかな…)

 

そんなことを考えながら一刀はどんどん目的の食材を購入していき。そう時間をかけずに目的の食材を全て購入することが出来た。それでも一刀は市を離れることはなく、キョロキョロと物珍しそうに市をふらついていた

 

そこへ……

 

???「ちょっと!!離してよ!!」

 

市をふらついていた一刀の前方からそんな声が聞こえてきた。少し目をこらせば、一刀の少し先で三人の女の子が三人の男に無理矢理腕を掴まれてどこかへ連れて行かれそうになっていた

 

男A「いいからこっちにこい!!」

 

男B「ぐへへ。まさかこんなところで張三姉妹に会えるとはな〜」

 

男C「グヘヘ、ブヘヘ、ウヘーッヘッヘッヘ」

 

???「っ!! 離してください!!」

 

???「気安く触らないでってば!!」

 

近づいて見てみれば、三人の女の子たちはそれぞれ自分の腕を掴む男を叩きながら必死に逃れようとしているものの、男達はその光景を楽しんでいるかのように、下種な笑顔を浮かべているだけだった。一刀はなぜ自分よりも先にこの事態を見ていた人たちが手を出さないのかと不思議に思ったが、三人の男はそれぞれ腰から剣をぶら下げているために、周りで見ている人たちは下手に手を出して自分が傷つくのを恐れているのだと理解した

 

一刀はガリガリと頭の後ろを掻くと、ゆっくりと三人の女の子と男たちの前に進みでた。そして…

 

一刀「はぁ…」

 

一刀のため息と共に一刀の手元で光が煌く。それと同時に女の子たちを掴んでいた男達の腕から血飛沫が舞った

 

男A「あぁぁあっぁぁぁぁぁあ!!手が!!」

 

男B「うわあああああああ!!」

 

男C「ウホオオオオオオオ!!」

 

三人の男は三者三様の叫び声をあげながらその場から駆け出すと、あっという間に姿が見えなくなった。

 

 

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〜一刀side・始〜

 

 

「ふぅ……」

 

静かに息を吐き出しながら腰に携えた野太刀『備前長船長光』と日本刀『村雨』の位置をなおす。二本とも幼いころにじいちゃんから貰ったものだが、最初この二本の名を聞いたときはさすがにじいちゃんの頭の中を疑った。年だからついに頭がイったと心底思った。そんな俺の表情をじいちゃんに読み取られ三時間正座のまま、この二本の刀についてのありがた〜いお話を聞かされたのも今となっては悪夢のような良い思い出だ

 

そもそもこの二本は実家の道場でしか使う機会がないので道場の蔵に保管されているはずなのだったが…まぁ、俺がこの世界に訳もわからず来させられてるんだからこの二本も色々あってこの世界に来させられたんだ。そうに違いない。というかもう考えるのが面倒だ

 

前までは色々考えていたが、今俺がこの三国志まがいの世界にいるのは否定しようのない事実なのだから仕方ない

 

それにしても最近は陳留付近も賊が出るようになったもんだ。それに…この黄色い布。さっきの奴らが落としたものだろうけど…もといた世界での三国志とこの世界が似たようなものなら…

 

「黄巾党…ねぇ」

 

自然と口からそんな言葉が出てきた。確か張角、張宝、張梁の三人が首謀で民衆と一緒に反旗を翻すんだっけか? なんか違う気もするけど…まぁ、だいたいあってるはずだ

 

???「あ、あの……」

 

しかし黄巾の乱とか言う割には静かなもんだよな。それともまだ黄巾の乱は起こってないってことなのか? まだ火は燃え上がる前でくすぶってる状態とか? う〜ん。ありえそうで怖いな

 

???「もしも〜し」

 

今のうちにおばちゃんたちに言って大陸の中央から逃げるか? いや、店を移動させるとなるとそれなりの理由が必要だ。生半可な理由じゃ話にならないだろうな…俺が他の土地も見てみたい? それならおばちゃんは適当な駄賃一緒にと稼ぐ方法を俺に教えて、笑顔で一人旅でも出すだろうな。どうしたものか……

 

???「ちょっとあんた!! さっきから私達を無視してるんじゃないわよ!!!」

 

「あぁ、俺に話しかけてたのか。どうかしたの?」

 

背後からいきなり怒鳴られて少しびっくりしたが、平静を装って振り返る。そこには先ほど男たちに連れ去られそうになっていた三人の女の子が立っていた

 

紫色で短く切り揃えられた髪。めがねをかけてしっかりしてそうな印象の女の子。ピンク色で長く綺麗な髪。どこかおっとりとした感じの女の子。水色で後ろの方で髪をまとめている。態度から見るに気の強そうな女の子

 

???「先ほどはありがとうございました」

 

そう言って紫色の髪の女の子が軽く頭を下げてくれた。それに続くようにピンク色の髪の女の子も頭を下げてくれた。しかし水色の髪の女の子は、ズビシッという効果音でも鳴りそうな勢いで俺を指差すと

 

???「私達を助けるのは当然の義務よね」

 

と意味不明なことを言って少々控えめな胸を張った。うむ悲しいかな、威厳も色気もなにもあったもんじゃない。というか何故この子はこんなに偉そうなんだ? 

 

???「姉さんは少し黙ってて」

 

そんな水色の髪の子に紫色の髪の子が呆れたような表情を向けた後に俺のことを下から上へとじっくりと見てくる。なんというか、品定めされている商品はきっとこんな風に落ち着かない気分なんだろうな

 

そんなくだらないことを考えていると、紫色の髪の女の子は一度頷くと隣に立っているピンク色の髪の子に耳打ちをする。次に水色の髪の女の子にも耳打ちをする。耳打ちを終えると二人とも紫色の髪の子に頷き返した。一体なんの話をしていたのだろうか?

 

???「あの、助けてもらったお礼をしたいので近くの飲食店でご飯でもご馳走させていただけませんか?」

 

二人が頷き返してくるのを確認した紫色の髪の子は俺にそう話しかけてきた。なるほど、さっきの耳打ちはこれか。けどこれをわざわざ耳打ちする必要性はあったのか? まぁ、お礼は素直に受け取るとしよう。いや、別に飯代が浮いてラッキーとかは考えてませんよ? あと可愛い女の子に誘われてテンション上がったりもしてませんよ? 本当ですよ?

 

「では遠慮なくご馳走になります」

 

俺がそう答えると紫色の髪の子は微笑みを返してくれた。なにかその微笑に黒いものを感じるのは気のせいだろう

 

???「早く行こうよ〜」

 

???「ほら、二人ともおいてっちゃうよ」

 

いつの間にかピンク色の髪の子と水色の髪の子は、俺と紫色の髪の子から少し離れたところに居り、こちらに手を振っていた。それを見た紫色の髪の子が何か呟いていたが、まぁ表情から見るに呆れてるんだろうな

 

 

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それから飲食店まで紫色の髪の女の子と話をしながら向かった。なんでもこの子たちは歌を歌いながら各地を巡っているらしい。それで先ほどこの子たちを連れ去ろうとしていた男たちはこの子たちのファンみたいなものらしい。なんとも物騒な話だ

 

しかし、そんな話題も三人の名前を聞いた際に吹き飛んだ

 

???「そういえばまだ名前を言ってませんでしたね。私は姓が張。名が梁。あっちが張角姉さんであっちが張宝姉さん」

 

それを聞いた瞬間に俺の表情は驚きで一杯になっていただろう。だって張角と張宝と張梁がこんな可愛い子ですよ? 髭もじゃもじゃなおっさんじゃなくて。いや、曹操や夏侯兄弟が男じゃなくて女だって話はおばちゃんとかから聞いてたけど、まさか張角とかまでとは…ということは他の有名な人もそうなのかな?

 

などと考え事をしていたら、張梁さんが少し不安そうな表情で俺の顔を覗き込んできた

 

「あぁ、ごめん。ちょっと考え事をね。俺は姓が北。名が郷」

 

と、俺はこの世界にあった形で自分の名前を言う。下の名前である一刀は、この世界でいう真名として使うことにしている

 

まぁ、この真名って言う奴もおばちゃんたちに教えて貰ったんだけどね

 

張梁「北郷さんですか。ちょっと変わった名前ですね」

 

「そうかもしれないね」

 

なるべく動揺を表情にださず自然と会話をする。それにしてもこれから起こるであろう騒ぎの首謀者三人がねぇ…

 

などと思っているうちに目的の飲食店にたどり着いていた。中に入ると既に張角さんと張宝さんは席についていた

 

それから俺は三人と一緒に食事をしながら談笑していた。それぞれ自己紹介を終えると、さきほどまで張梁さんとしていた会話の内容とそんなに変わらないが、それでもこの世界についてまったくと言っていいほど知識のない俺からしたら大分に面白い話であった

 

しばらくそんな感じで話を進めていたのだが、不意に張梁さんが

 

張梁「北郷さん。いきなりで申し訳ないのですが、私達のお願いを聞いてくれませんか?」

 

「…内容によるけど」

 

真剣な表情で張梁さんが俺にそう切り出してきた。これだけ真剣は表情をされると内容もかなり重要なことなのだろうと想像ができるので、俺はとりあえず続きを促す

 

張梁「私達の護衛を頼みたいんです」

 

なんとも簡潔でわかりやすい内容だったが、その重さはこの先を知っている俺としてはかなり悩ましいものだった

 

「どうして俺なのかな?」

 

この質問にはかなり含みを入れてみたつもりだ。護衛が必要な理由は聞く必要はない。ただ何故俺なのか、どうして今まで護衛をつけていなかったのか。それは気になるところだ

 

張宝「もちろん今までも護衛をつけようとは考えたわよ。でもちーたちの護衛に志願してくる人たちってみんな下心が丸見えだったの」

 

と張宝さんが杏仁豆腐を食べながらそう返してきた。なるほど、わかりやすい。しかし…

 

「俺が三人にさっきの男達みたいなことをしないっていう保障はどこにもないと思うが? そもそも俺たちはついさっき出会ったばかりだよ?」

 

張角「でもなんとなく北郷さんなら平気な気がするの」

 

「なんとなく?」

 

張角「そ、なんとなく♪」

 

張角さんはいい笑顔を浮かべながら俺にそう言うと杏仁豆腐のおかわりを注文した

 

「ははは。そうか、なんとなくか」

 

張角さんの言葉に自然と笑いがこぼれていた。普通出会ったばかりの人間を信用するかね。しかも理由がなんとなくって。変な人たちだ。ただ、嫌いじゃないな

 

「了解。俺なんかでよければ三人の護衛役を任されるよ。ただ一つ条件がある」

 

張梁「なんでしょう」

 

俺が護衛を引き受けたからか、張梁さんは安堵の表情を浮かべていた

 

「俺は陳留のほうにある飲食店のお手伝いをしていてね。この邑に来たのもその店で必要な食材の買出しなんだ。だからこの荷物を陳留に運んで、お世話になった人に挨拶をさせてくれること。これが条件」

 

そう言いながら俺は足元の荷物を持ち上げて三人に見せる

 

張梁「それなら全然かまいませんよ。私達の次の目的地は濮陽ですし。少し寄り道する程度で済みますから」

 

「じゃあ交渉成立かな」

 

張梁「はい」

 

それからは俺と張梁さんの二人による給与交渉。宿については三人と同じ宿にいないと護衛の意味がないので、張梁さんたちが出すことに。それ以外に飯代を含めた給与を俺に渡すということだが、無駄に貰ってもこの世界では使い道がないので交渉はそんなに長くはならなかった

 

それから俺たちは店を出ると適当な宿を探してそこで一夜を明かした。途中俺の部屋に張角さんが乱入してくるというハプニングがあったものの、それ以外は特に問題は起こらなかった。そして俺達四人は、次の日の日暮れには無事に陳留のおばちゃんたちの飲食店にたどり着いていた

 

 

〜一刀side・終〜

 

 

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おばちゃん「了承!!」

 

一刀「はや!?」

 

飲食店についた一刀は張三姉妹を中へと入れて飲食店の手伝いをした。そしてその日の営業が終わると張三姉妹を紹介して、自分も一緒に旅に出たいということを伝えた。それにたいして、おばちゃんは一切悩むことも考えることもなく了解していた

 

おばちゃん「北郷ちゃんがやりたいことをやればいいんだよ。お礼ならもう十分もらったからね」

 

おばちゃんがそう言うと、おじちゃんもうんうんと大きく頷く

 

一刀「ありがとう。おばちゃん、おじちゃん」

 

そう言って一刀は深く頭を下げる。そして必要な荷物を持つと最後にもう一礼だけして店を出た

 

 

 

一刀「さてと。これから濮陽に向かうんだっけ?」

 

張梁「はい、濮陽についたらしばらくはそこで過ごすつもりです」

 

張角「ねぇねぇ。濮陽においしい飲食店ってあるのかな?」

 

張宝「ちーにそんなこと聞かないでよ」

 

一刀「あぁ、濮陽の飲食店とか宿屋はおばちゃんに聞いといたから、それなりのものを期待してもいいんじゃないかな」

 

張角「やった〜♪ それじゃあ早く行こう♪」

 

張角は心底うれしそうな笑顔を浮かべると、一刀の手をグイグイ引っ張りながら歩き出した。その後に続くように張宝と張梁の二人も歩き出した

 

 

 

陳留から濮陽までの道のりはいたって平和そのものであった。一刀たち四人を賊や暴漢が襲うこともなく、よる邑々で小さな公演を行い少しずつの旅費を稼ぎ、張角や張宝の衝動買いに張梁が頭を悩ませ。一刀が荷物もちとして引きずり回される。そんな日々であった

 

三人の人気を考えれば不審に思えるのだが、それにもちゃんとした理由があった

 

ある日の夜。宿屋の一刀が宿泊している部屋にとある男が尋ねてきていた。その男は張三姉妹親衛隊代表と名乗り、一刀を集会へと誘いに来たと言った。一刀自身も自分達の周りで動いている者たちがいるというのは、気配などで知っていたために、自分を誘い出すための罠かもしれないと警戒しつつ、それに付いていった

 

その男のあとに付き、邑の中を歩いていると裏路地の先に少し拓けた広場があった。その真ん中では火が焚かれており、それを囲むように何十人もの男たちが輪を描いて座っていた

 

そして代表と名乗った男はその輪の中心に一刀を誘うと集会を始めた。張三姉妹の近況報告などなど色々な報告があったが、後半のほうでは張三姉妹を狙う者たちの始末報告まであった

 

その後、張三姉妹に関する報告はなくなり、話題は一刀自身のことになっていた。親衛隊の面々からすればいきなり張三姉妹の護衛役が出来たのだから、気にならないはずがない。一刀は次々される質問に少し戸惑いながらも答えていった。もちろん一刀からも男達にいくらか質問をしていた

 

そして、適当に時間が経ったところで代表と名乗った男が解散を宣言すると、集まった男達は思い思いの帰路へとついた

 

最後に残った代表と名乗る男は一刀へと近寄り

 

代表「北郷殿。恐らくこれから行く邑々で私と同じように代表を名乗る者が現れ、集会に誘ってくると思いますが、なるべく参加してあげてください。彼らと親睦を深めるというのは、北郷殿にとっても悪いことではないと思いますので」

 

そう言ってきた。一刀がその言葉に頷き返したのを確認すると、代表と名乗る男は、満足そうに頷いて帰路へとついた。その後ろ姿を見送った一刀も自分の宿へと戻るのであった

 

 

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それから一刀は、代表と名乗る男が言う通り、行く邑々で集会に誘われることとなった。それは濮陽の街についてからも同じだった。しかし、一つだけ違うことがあった。それは張三姉妹の集会だけでなく。一刀のための集会が開かれるようになったことである。一刀の人柄に惹かれた人たちが集まって、一刀にこの大陸の情報を色々と教えているのである。そのおかげで一刀は普通の人よりも遥かにこの大陸の情勢に詳しくなっていた

この日も同じように一刀は、自身のための集会に顔をだしていた

 

 

 

男D「そういえば聞きましたかな北郷殿。朝廷が賊の討伐に本格的に動き出したというのを?」

 

一刀「いや。ただ賊の討伐をするのは良いことじゃないのか?」

 

男の言葉に一刀が首を振りそう返すと、男は少々渋い顔をしながら口を開いた。この男は一刀が始めて集会に参加した時に知り合った人物で、それ以来影ながら一刀たちと行動を共にしてきた人物であった

 

男D「確かにただの賊を討伐してくれるのならありがたいのですが、その賊に少々問題があるんですよ。その賊たちは…皆黄色い布を身につけているのですよ」

 

その言葉に今度は一刀の表情が渋いものとなる。張三姉妹の公演は無料ではない、高くないとは言ってもそれなりの料金設定になっている。しかしこの時代、金銭が簡単に手に入らない人がいるのも事実であり、そういった人たちがどのように金銭を得るかというと窃盗、略奪といった犯罪行為である

 

その流れがさらに大きくなったものが賊という形で現れていた。この賊の中には、張三姉妹が有名になる前からの賊も存在した。彼らが黄色い布を身につけている理由は、それをつけていれば仲間を増やしやすいからである

 

それだけならまだいい。張三姉妹の話が広がるのも張三姉妹が活動した地域に限られる。それならば、地方の州牧にでも討伐に動かさせればいい。朝廷などの上が動く必要はない。しかし、どこの誰が広めたのかは知らないが黄色い布を巻いた賊は、現朝廷の政に反旗を翻した者達の集まりとされており、いわば逆賊の象徴とも言うべき存在にされていた。この流れも朝廷が善政を行っていれば自然と収まっていたかもしれないが、善政と言えるような状況ではなく、黄色い布を巻いた賊の集団は、破竹の勢いで大陸中に広がっていた。黄色い布を巻いた集団は日に日にその勢力を拡大させ、ついに朝廷が動き出すこととなった

 

この黄色い布。本来は張三姉妹の公演にて観衆が腕など体の一部に巻きつけているものであり、張三姉妹のファンである象徴であった。故に…

 

男D「そのせいで天ちゃんたちが、この騒ぎの首謀者に仕立て上げられてるんだ。この議題は張三姉妹の方の集会でもでたんだけど…」

 

一刀「それ以上は言わないでいいよ。それよりもこれからどうするかだけど…正直朝廷を相手に俺一人で張三姉妹を守りきる自身はないな」

 

一刀は男の言葉を遮るとそう呟き顔を俯けて考え事をはじめる。まわりの男たちはそんな一刀を黙って見つめていた。そんな時、集団の中から誰かが不意に

 

男E「なら、俺たちも北郷さんを中心に私兵団を作ればいいんじゃないかな?」

 

その言葉にその場にいた全員が顔を上げてその男を見た。全員の視線を一気に受けた男はどこか落ち着きなさそうに腕をバタバタと動かし

 

男E「ほ、ほら。天ちゃんたちも慕ってるけど、それ以上に北郷さんを慕ってる人って多いと思うんだ。俺もそうだし、ここにいるみんなってだいたいそうだろ? そういった人を集めればそれなりの人数は集まると思うんだ」

 

男D「それだ!! なぁ、確かお前色んな地方に鍛冶屋の知り合い居たよな? その人たちに頼んで剣や、槍、弓を安値で作ってもらえたりしないのか?」

 

一人の男の発言からどんどん話は膨らんでいった。一刀を置いて。しばらく呆然としていた一刀であったが、大きく手を振りながら話の静止に入った

 

一刀「ちょちょちょ、ちょっとまった!! みんな何を言ってるのかわかってるのか!? 下手したら本当にどこか他の集団や、官軍と戦うことになるんだぞ? 略奪行為をしている集団の中には、もしかしたらみんなの昔の友人とかがいるかもしれないんだぞ? そんな人たちと殺しあう覚悟は出来てるのか?」

 

一刀の言葉に騒がしかった全員が一気に黙り込むが

 

男D「構いませんよ北郷さん。私達はそれだけの覚悟があってこの話をしてるつもりです。気が付きませんか? 先ほどよりも人数が減っていることに。ここに残ってる者はみな覚悟あってなんですよ。後は…北郷さん、あなたが我々の手を引いてくれるかどうかなんです」

 

そう一刀に言った男の表情はとても柔らかく、周りの者もみな同じような表情を一刀へと向けていた。一刀は頭を掻きながら立ち上がると

 

一刀「わかった。みんながそこまで言うなら、俺はみんなの代表として私兵団の団長をやろう。だが、名目上は張三姉妹の護衛と公演する際の設備建設のお手伝いだ。それに張三姉妹の承諾を得る必要がある。そうだな…あと一ヶ月は濮陽に滞在する予定だから、その間に準備を進めてくれ。俺もその間に張三姉妹から承諾を得ることにする」

 

一刀の言葉に全員が頷きを返すとその日は解散となった。一刀も宿屋に戻ると、その日はさっさと寝ることにした

 

 

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〜一刀side・始〜

 

 

次の日の昼ごろ。俺は天和、地和、人和の三人に話があるということで時間を貰った。三人とは真名を許しあうほどに仲良くなることが出来たので、三人とも文句なく承諾してくれた。そして俺は昨日の集会で決まった私兵団の話を三人にした。説明上ではあくまでも三人の親衛隊として、護衛と設備設営のお手伝いさん。たぶん三人からは反対がでるだろうから、なんとかして説得しなくちゃと俺は気合を入れていたのだが

 

天和「お姉ちゃんは異議な〜し♪」

 

地和「一刀がそうしたいならそれでいいんじゃないの?」

 

人和「私も問題はないです」

 

三人とも素直に承諾してくれた

 

人和「実は私たちもその話をしていたんです。邑を廻るごとに新しく人を集めて、色々お手伝いしてもらってたんじゃ効率が悪いって。それに最近は賊が増えてきたって言いますし」

 

その表情を見るに噂は耳にしているようだ。でも必要以上に気にしている素振りでもないし…俺からは特に何も言わないでいいか

 

「そうか。承諾してくれてありがとう。俺からの話はそれだけだ。わざわざ時間を取らせて悪いね」

 

俺がそう言うと、天和と地和の二人は席を立ち自室へと戻っていった。一人残った人和は、二人が自室に戻ったのを確認すると

 

人和「それで、一刀さん。実際のところ私達はこれからどうなるんですか」

 

そう単刀直入に訊ねてきた。どう答えたものかと考えたが、ここは正直に答えておこう

 

「俺の予想だと近いうちにこの民衆の反乱に対する朝廷の動きは本格化する。そうなれば首謀者として名の上がっている人和たちは、間違いなく各諸侯から命を狙われることになるだろうね。それこそ大陸のどこにいようと関係なく」

 

俺がそう正直に答えると人和の表情が曇る。無理もない、この動きが本格化すれば彼女たちは朝廷から姿を隠す生活が始まるだろう。そうなれば公演なんて出来るはずもない。それどころか人前に姿を晒すことすら出来なくなる可能性だってある

 

人和「そうですよね…。ありがとうございます。三人で真剣に考えてみたいと思います」

 

「そうしたほうがいい。親衛隊が編成できるまでは、ここ濮陽で足止めだろうからね」

 

人和は俺の言葉に頷くと、軽く頭を下げて席を立ち。自分の部屋へと戻っていった

 

それから数ヵ月後。無事に私兵団の編成も終わり、張三姉妹の公演の手伝いなどをしながら訓練も行い。忙しくも、充実した日々を過ごしていた俺たちだったが、一つの立て札を見ることでその日々は終わりを迎えた

 

 

〜一刀side・終〜

 

 

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一刀たちが私兵団を編成し、訓練や他の賊の討伐をしている最中にも反朝廷、黄巾賊の討伐の動きは拡大していた。そして四人は、立ち寄る邑々で同じような立て札を見つけていた。それは四人がこの騒ぎの渦中へと巻き込まれるに十分なものであった

 

 

 

一刀「この邑にもか…」

 

地面に突き立てられた立て札の内容を見た一刀は一人そう呟いた。内容は黄巾賊討伐のための徴兵、それと付近に首謀者である張三姉妹がいるので見つけたものには褒賞を与えるというようなものであった

 

一刀「こちらの動きは朝廷に筒抜けって感じだな。まだ素顔がばれてないだけましだけど…それも時間の問題だな」

 

一刀たち四人は白馬の小さな邑に滞在していた。ここ数日は天和たちにも公演を自粛してもらっていたのだが、それでも天和たちの足跡を消すことは出来ていない

 

一刀「仕方がない…一か八かの賭けにでるか…」

 

そんな独り言を言いながら一刀は天和たちが居る宿屋の部屋の戸をノックする。すると中から人和の声が返ってくる

 

人和「入っていいですよ」

 

一刀は戸を開け中へ入り、ゆっくりと戸を閉めると三人に視線を向ける。すると地和が真っ先に声を掛ける

 

地和「どうだった?」

 

期待と不安が入り混じった瞳で一刀を見る地和。そんな地和に一刀は大きく首を振る

 

一刀「ここにも立て札があった」

 

その一言に三人とも肩をがっくりと落とす

 

一刀「こう何度もあの立て札を見つけたとなると、大陸中の邑や街にあの立て札があっても不思議じゃない。こうなったら手段は一つだけだ」

 

一刀は三人に最悪の場合に取る手段については旅の道中で説明していた。三人もまた、その手段を取る日が来ないことを祈りながらも承諾していた

 

天和「戦に…なっちゃうんだね」

 

いつものお気楽な表情を浮かべることもなく、とても真剣な表情で天和は呟いた。そんな天和の手を地和と人和が握る

 

一刀「官軍相手に大きな戦を仕掛ける。勝ってもダメだが大敗してもだめだ、下手したら逃げられなくなる。いい勝負をしながらも上手いこと負けて…天和たちを死んだことにする」

 

三人を見つめながら一刀がそう言うと、三人はそれぞれを顔を見合わせた後に、一刀に対して大きく頷き返す

 

それから数日後、一刀たちは白馬近くの廃墟となった砦に上手く潜入した。そしてそこの砦の修理をしつつ、様々な方面に人を送った

 

『張三姉妹が白馬にて勇士を募っている』

 

という噂と共に……

 

 

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陳留・玉座

 

 

曹操「そう。白馬の砦に…」

 

夏侯淵「はっ。白馬付近の邑に立ち寄る商人の数が急激に増えたという報告があり、調べさせたところその邑を経由してその砦に剣や槍、弓や騎馬。さらには砦修復ようの材料などが運び込まれているようです。優秀な将がいるのか、調査に向かったうちの何人かは消されています」

 

陳留の玉座の間にて夏侯淵の報告を受けた曹操は、興味深そうに目を細める。そしてその視線を軍師である荀ケへと向ける

 

曹操「桂花。この状況、どうしたらいいと思う?」

 

曹操にそう尋ねられた荀ケは『はっ』と返事をすると一歩前へと進みでる

 

荀ケ「現在敵の兵力は3万前後、それに対してこちらが動かせる兵力は2万。数の差はありますが、あちらは農民や賊など統率のとれていない烏合の衆。1万程度の差ならばどうとでもなるかと」

 

荀ケの言葉に曹操は満足そうに頷くと、玉座から勢い良く立ち上がり

 

曹操「これより黄巾賊の討伐に向かう!!」

 

そう宣言した

 

 

 

白馬・砦

 

 

職人「北郷様。頼まれていたものを持ってきましたよ」

 

一刀「おぉ!! 早速見せてくれるかな」

 

一刀がそう言うと職人は一刀を砦の広場へと連れて行く。そこには鞍と鐙を装備した騎馬100頭がいた

 

職人「北郷様に教えていただいたときは、本当に驚きましたよ。北郷様は天才ですな」

 

一刀「これを考えたのは俺じゃないさ。それよりも俺の曖昧な言葉だけでこれだけのものを作れた、おっちゃんの方が凄いさ」

 

一刀の言葉に職人は頭を照れくさそうに掻くと、特に何も言わずその場を去っていった。一刀は早速私兵団の馬術に長けている者の中から99人を呼び出して一緒に乗ってみることにした

 

そして、馬に跨った誰しもがこの鞍と鐙に驚き感心していた。一刀はその様子を満足そうに見つめると、その場の全員に聞こえるように大声を出す

 

一刀「皆満足しているようでなによりだ。ただこの装備は乗り心地を良くするだけのものじゃない。皆には今から俺がやるのと同じことを出来るようにしてもらう!!」

 

そう言うと一刀は側に控えていた兵から弓を受け取り駆け出す。そして数十メートル離れた的のど真ん中を見事に射抜く。すると周りから感嘆の声が上がる

 

一刀「これを皆には習得してもらう。期間は設けない。ただ皆はこれが出来るようになるまでは、最低限の訓練を除いてこの訓練に集中してもらうことになる!!」

 

一刀は焦っていた。天和たちのおかげで兵力が集まったのはいい。すでに3万近くの兵が集まった。しかし、集まったほとんどがまともに訓練などしていない賊や農民。さらに集まってくる集団の中には、装備も兵糧もまともに準備していない集団もあった。ある程度兵の質が落ちるのは覚悟していたが、ここまで酷いのは一刀にとっては予想外だった

 

3万のうち使いものになるのは1万。勝つ必要がないとは言っても、ある程度は敵を減らさないと逃げることすら出来ずに、本当に死んでしまう。それだけはなんとしても避けねばならなかった。さらにここ最近は辺りをうろつく鼠が増え、その内数匹は殺し損ねて巣へと逃がしてしまったために、いつ官軍が来てもおかしくはない状況だった

一刀がそんな不安を抱えながら日々を過ごしている中、ついにその日は訪れた

 

 

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伝令「ほ、報告!! 官軍が兵を率いてこの砦に向かっています!! その数およそ2万!!」

 

一刀のもとへと一人の伝令が駆け込み、息も整えずにそう伝えた。側には張三姉妹もおり、三姉妹は不安そうな表情を一刀に向ける。一刀は三人の頭を順々に撫でると

 

一刀「大丈夫。ただいつでも逃げれるように準備だけはしておいてね」

 

三姉妹は一刀の言葉に頷くとおもむろに逃げる準備を始めた。そんな中一刀は人和に声を掛ける

 

一刀「人和。君が持ってる書物を渡してくれ」

 

一刀はただそれだけ言って右手を人和のほうへと差し出す。人和は少し悩むような素振りを見せたが、素直に一刀にとある書物を渡した

 

一刀「ありがとう。じゃあ俺は戦の準備をしてくるから」

 

それだけ言うと一刀は振り返り天幕から出て行く。そして外に待機している私兵団800人と張三姉妹の護衛の任についた1000人の前に立つ

 

一刀「ここまで敵の攻撃がくることはないと思われるが、もしここまで敵の手が伸びてきた場合、君達の活躍によって張三姉妹の生死が決まる!! 各々、奮戦するように!!」

 

私兵団「「おう!」」

 

黄巾賊「「ほわああああああああああああああ」」

 

黄巾賊の変な熱の入り方に一刀は苦笑を浮かべつつも、外壁へと向かった

 

 

 

一刀が外壁に辿りつくと、兵士たちが慌しく動き回っていた。戦の準備をするものと、逃げる準備をするもの。大きく分けてこの二つに分類できた。一刀は慌しく動き回る兵を見ながら外壁の上へと上がる。すると一刀の姿を見た一人の大男が跪いて拳を合わせる

 

一刀はその大男に立ち上がるように言うと、現状を報告させた

 

大男「すでに伝令から報告が入っているとは思いますが官軍が迫っております。旗は曹、夏、楽、李、于、許、典ですからおそらく陳留の曹操でしょう」

 

一刀「そうか。ありがとう。君は後方に下がって作戦通り張三姉妹の護衛を、折を見て俺もそっちに向かう」

 

一刀の言葉に大きく頷いた大男は、走りながら外壁から降り、天和たちのいる天幕の方へと走っていった

 

それからほどなくして、曹操軍は肉眼でも捉えられるほど砦に迫っていた

 

 

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一刀「(本来ならこのまま篭城戦が普通だろうけど、3万の兵を篭城させても平気なほど兵糧に余裕はない…仕方ないな…)東門開門!! 逃げたい奴は今すぐ東門から逃げ出せ!! ただし、背後から矢の雨を浴びたくなければ、装備や兵糧は置いていくこと!! 曹操軍が迫り次第閉門するから急げ!!」

 

一刀は外壁の上から下で動き回っている兵士達にそう叫ぶ。これで大半の兵が逃げてしまうと、それはそれで問題なのだが、数を減らすために野戦に出して下手に曹操軍と戦わせて大敗されても困る。むしろ装備を回収出来ないし、こっちの士気が下がって曹操軍の士気があがるのだから、そっちのほうが損失が大きい

 

一刀(ただ、これでこっちには兵糧の余裕がないってのを、敵に知られることになるだろうな…気が付かないでくれればそれが一番なんだが…そんなに都合よくはいかないよな)

 

一刀の言葉を受け、逃げ出した兵は1万にもなった。それでも、兵糧が少ない状況には変わりは無いが、まだ楽になったほうである。適当なところで東門を閉門して、兵の配置を行う。曹操軍は砦を囲むように正面の門に1万、東と西の門にそれぞれ5千ずつ兵を配置。一刀も残った2万の兵力を正門に8千、東と西に6千ずつに分けて対応させる。命令は唯一つ。絶対にこちらからは開門しないこと

 

一刀自身は正門の部隊の指揮を担当する。見える旗は曹、夏、許の三つ

 

一刀(あの三つということは、曹操と夏侯惇と夏侯淵のどちらか一人か、両方。それに許著か。残りの二つの門に、楽進、李典、于禁、典韋。夏侯惇と夏侯淵がどう配置されてるかが気になるな。それとどう攻めてくるかだけど…兵糧攻め。恐らく火を放つか持久戦を狙ってくるかのどちらかだな。だが、俺たちみたいな烏合の衆を相手に時間を掛けようとは思わないはず。となれば火か…というか、火でくると読んですでに対策を練ってるし、持久戦に持ってかれたらお手上げだからな〜)

 

一刀は持久戦になったときのことを想定する。といっても最後の最後には開門して突撃するしかなくなるが、その場合は自らの手で砦内に火を放ち、張三姉妹が自害したという噂を迅速にひろめる必要がある…

 

そんなことを考えていると、一刀の左側。西の方から騒がしい声が聞こえ始めた

 

一刀「まずは西からか…。さすがに開戦直後に門を壊されたりはしないだろうけど…」

 

一刀は一人そう呟いたもののその表情は不安があった。そして、そんな一刀目掛けて一人の兵士が掛けてきた。その姿を見て、一刀はこれ以上ないほどの不安に襲われた

 

伝令「報告!! 敵軍の火矢により砦内の兵糧庫に火がついた模様!! ですが北郷将軍の言うとおり、兵糧庫をいくつかに分けていたので、被害は最小限に収まっています。すでに鎮火作業も進んでおり、火が消えるのも時間の問題かと」

 

そして、一刀の不安は的中した。兵糧庫が燃えるのは十分に考えていたことだし、そのために兵糧庫をいくつか設けて全ての兵糧が一気に燃えるのを防ごうとした。しかし、そんなことは一刀にとっては問題ではない。本当の問題はこの伝令が口にした『兵糧庫に火が付いた』という言葉を、自分や正常な思考が効く者以外が耳にすることであった。そしてこの伝令は慌てていたためか、今の言葉をかつてないほど大声で報告し、外壁の下で恐怖に怯えている者たちにまで知らしめてしまったのである

 

そして『一部の兵糧が燃えた』という真実は、恐怖によって歪められ『兵糧全てが燃えた』とう形になった

 

兵士たちからざわめきがあっという間に出始め、一刀は頭を抱えそうになるがギリギリのところで思いとどまる。もしここで自分が頭を抱えたときには、それこそ歯止めが効かなくなる。それだけは避けなければ…

 

いっそ噂を口にした者を二、三人斬って自分への恐怖を抱かせて、兵糧庫のことを頭に入れてやろうかとも一刀は考えたが…

 

『ジャーンジャーン』

 

その思考は曹操軍の銅鑼の音によって掻き消された。銅鑼の音と共に正面にいた曹操軍の精兵たちが雄叫びを上げながら迫ってきた。その雄叫びは、砦内にも響き渡り、恐怖に怯える兵士達への止めとなった

 

恐怖によりパニック状態になったのか、正面の門は一刀の意思とは関係なく開門され、兵士達が次々と外に飛び出していく。陣形も隊列もなにもなく。ただバラバラに。その光景を見た一刀はもう止められないと判断して、近くに容易しておいた銅鑼を力強く三回叩く。その音は普通の銅鑼よりも高く、砦中に響き渡った。それは作戦開始の合図

 

その音を聞き取った、一刀の私兵団及び大男は、一部が天幕と砦内に火を放つように動き、残りが張三姉妹を連れて東門へと向かう。張三姉妹は他の兵士たちと同じようにあり合わせの鎧で身を包み、兵士の中へと紛れる。張三姉妹の護衛についていた者の中でも、有能な者は私兵団の動きを察知して付いて行く

 

張三姉妹が東門付近に着くころには、既に一刀も待機しており、再会の挨拶をすることもなく、一刀は兵士達に命令を下す

 

一刀「砦内に火の手が上がった、味方は混乱に陥り壊滅寸前だ。俺たちはこれより東の曹操軍を突破して退却を試みる。俺を先頭に騎馬隊が血路を切り開く。歩兵隊はあとに続け。この砦は放棄する!!」

 

黄巾賊A「あの! 天ちゃんたちは…」

 

大男「張三姉妹は天幕に火を放ち自害なされた。もはやここに残る理由はない」

 

一人の黄巾賊の言葉に大男が答えると、黄巾賊の中に動揺が広まる。この黄巾賊も私兵団が扮している者で、このやり取りも事前に打ち合わせされていたものであった

 

一刀「東門開門!! 全軍突撃!!」

 

一刀は、そう叫び馬の腹を蹴り先頭を駆け出した。その後に騎馬隊、歩兵部隊と続いた。その数およそ1800。偃月の陣を組みながら曹操軍へと突撃していった。視界の中でなびく旗は、楽、李、于の三つ

 

 

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一刀「邪魔だーー!!! 死にたくなくば道を開けろ!!」

 

そう叫びながら一刀は馬上で偃月刀を振るう。迫り来る剣や槍を弾き、邪魔な敵兵を薙ぎ払い、数多の屍を作り上げていく。そんな一刀の前方に三人の将が立ちはだかっていた

 

一刀「あれは…偃月刀で一薙ぎとはいかないだろうね。仕方ない…」

 

一刀は鐙から足をはずすと、馬上で屈んだ状態になり。三人の将へと飛び掛る

 

一刀「でやああああああああああああ!!」

 

楽進「はあああああああああああああ!!」

 

落ちる勢いをそのまま生かし、真ん中に立っていた楽進目掛けて一刀は偃月刀を振り下ろす。対する楽進も一刀の偃月刀目掛けて真っ直ぐに拳を突き上げる

 

一刀の偃月刀と楽進の手甲がぶつかった瞬間に物凄い音が辺りに響き渡る。次の瞬間には一刀の持っていた偃月刀が砕け、一刀と楽進は一定の距離をとっていた

 

李典「でええええええええええええい!!」

 

于禁「やあああああああああああああ!!」

 

楽進と一刀が距離をとると同時に、李典と于禁の二人が一刀を挟み込むように襲い掛かる。一刀は左足を半歩引き、腰を深く落とし『村雨』に手を添える。瞬間、一刀の氣が円を描くように膨れたのを楽進は感じ取った

 

楽進「だめだ!!」

 

一刀の変化に気が付いた楽進が自然とそう叫んでいたが、二人は止まらなかった。そして一刀の氣が描いた円の中に二人が入った瞬間、李典と于禁の体にいくつもの切れ込みが入り、血が噴出してきた

 

楽進「真桜、沙和!!」

 

体から血を流しながら地面に倒れている二人を一瞥した後に、楽進は怒りを露にしながら一刀を睨んだ

 

一刀「悪いが君を相手にしている暇はない。そこをどいてくれ」

 

楽進「ふざけるなああああああああああ!!」

 

怒りに任せて楽進は一刀に突っ込むが、一刀は足元に転がっていた、砕けた偃月刀の柄の一部を楽進に向かって蹴飛ばす。それを片手で弾き飛ばした楽進が目にしたのは、一メートル近くのやけに長細い見たこともない光り輝くなにかを片手に携えて、構えも無く立っている一刀の姿だった

 

刹那、楽進は自分の両肩に風が触れるような感触を感じた。その感触はだんだんと熱さに変わり、ついには痛みとなった。それと同時に、自分の視界の両端に血が飛び散っているのが映った

 

 

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〜凪side・始〜

 

 

両肩に激しい痛みが走り、視界の両端に真っ赤な血飛沫が上がる

 

(私は斬られたのか…いつ…)

 

痛みの中朦朧とした意識で私の目は男の姿を追っていた。男は片手にもった銀色のなにかを黒い布の中にしまっていた。恐らくあれで私のことを斬ったのだろう。どう斬ったのかはわからない。太刀筋なんてまったく見えなかった

 

(こんなに強い奴がいるのか…あぁ、意識が…真桜、沙和。ごめん…)

 

懸命に開いていた瞼が重くなり徐々に閉じていくのが分かる。二人の仇どころか、触れることすら出来ないなんて…私は…非力だ…

 

男「あの二人は死んでない。そこまで深く斬ってないからな。血がたくさんでてるが…まぁ平気だろう。お前は少々深く斬った。傷口に氣を集中させろ。じゃないと助けが来る前に死ぬぞ」

 

男はそれだけ言うと、後ろから来た馬の上に乗っている別の男が差し出した手につかまって馬の背に乗り、どこかへ行ってしまった。二人が生きてる? あれだけ血を流してるのに? それに傷口に氣を集中させるって…

 

春蘭「凪!! 真桜、沙和!! おい、返事をしろ!!」

 

あぁ、春蘭様。私はいいから二人の手当てを

 

春蘭「早くこの三人を運べ!!」

 

意識が無くなる直前。私の目には果てしなく高い空と、黒い煙を上げる砦が映り、耳には勝ち鬨を上げる味方の歓喜の声が聞こえていた

 

 

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真っ暗な闇の中で私は一人佇んでいた

 

「ここはどこだ…私はどうしてこんなところにいるんだ…」

 

辺りを見渡しても何も無く、ただただ闇が広がっていた

 

???「君じゃあ俺には勝てない…」

 

不意に声が背後から聞こえ、慌てて振り返った先には

 

男「君は弱いからね…」

 

男がいた。その男は見たことの無い構えをとりながら私を真っ直ぐに見ていた。私はこの男をどこかで見たことがある…

 

私は構えをとりながら、目の前の男とどこで出会ったのかを必死に思い出そうとしていた。何故だか私は、この男のことをどうしても思い出さなければならない気がしていた

 

真桜「でええええええええええええい!」

 

沙和「やあああああああああああああ!」

 

私が必死に思い出そうとしていると、いつの間にか両隣に立っていた真桜と沙和の二人が、目の前の男を挟み込むようにして襲い掛かった

 

「ぐぅっ…!!」

 

次の瞬間に頭痛が私を襲い、頭の中にある光景が浮いてきた。曖昧な意識と視界の中で見えたのは、どこかの戦場、周りでは黄色い布を巻いた兵と、私達の部隊の兵士が戦っていた。そして、目の前の男が同じように立っており、真桜と沙和の二人がその男を挟むように襲い掛かっていた

 

「真桜、沙和!! その男と戦ってはだめだ!!」

 

頭痛と共に見えた光景と、目の前の光景が重なり、私は自然とそう叫びながら右手を伸ばしていた。それでも真桜と沙和が止まることはなく、男に迫っていく

 

「っ!? 動け…!!」

 

急いで駆け出そうとしたが、手足を何かに掴まれているのかどれだけ動かそうとしてもびくともしない。その間にも真桜と沙和、男との距離は詰まっていき

 

「ぐっ…あぁぁぁ!!」

 

先ほどよりも激しい頭痛が襲ってきた。それと同時に見えてくる光景、その光景は今現在目の前にある光景と重なり…

 

男「また守れなかったね」

 

真桜と沙和の二人は身体中から血を噴出しながら地面に倒れる

 

真桜「凪……」

 

沙和「凪ちゃん…」

 

二人の声は今まで聞いたことが無いほど弱弱しく、目には光がない。そして私に向けて伸ばされた手が空を掴むように握り締められて……地面に落ちた

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 

〜凪side・終〜

 

 

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楽進「うわあああああああああああああああああああああああああああ」

 

悲鳴にも似た叫び声をあげながら飛び起きた楽進の視界にまず入ったのは、どこかで見たことのある壁と窓。そして楽進は視線をそのまま左右に動かすと、ちょうど扉のところで驚いた表情を浮かべて固まっている夏侯淵を見つけた

 

楽進「(秋蘭様ってあんな表情するんだ……)」

 

驚いて固まっている夏侯淵の表情を見た楽進はそんなことを考えていたが、不意に両肩に痛みが走ったために表情を歪ませる。そんな楽進の反応を見て我を取り戻した夏侯淵は、楽進が座っている寝台の側にある椅子へと腰をおろす

 

楽進「そ、そうだ! 真桜と沙和は!!」

 

夏侯淵「安心しろ。二人とも無事だ」

 

楽進の質問にたいし夏侯淵は穏やかな微笑みを浮かべながら部屋の奥を指差す。その指先を追うように楽進の視線も動き

 

李典「すぅ……うぅ〜ん、新作の工具〜……ぐへへ〜、これはウチのもんや〜」

 

于禁「…新作のお洋服〜。こんなに着れないの〜……すぅ…すぅ…」

 

楽進は自身のいた寝台の左二つの寝台に寝ている、幸せそうな(間抜けな)顔をして寝息と寝言を漏らしている李典と于禁の二人を見つけた。二人が無事なのを確認した楽進は安堵の表情を浮かべる

 

夏侯淵「二人は凪が目を覚ます少し前に目を覚ましてな。二人や兵士たちに話は聞いてる。2千人ほどの部隊が凪たちの部隊を突破するために突撃してきた。その部隊は他の部隊と違い旗もあげず、統率がしっかりと執れていた」

 

楽進「はい。今まで戦ってきた黄巾党とはまったく違いました。寄せ集めであれだけの部隊を構成したとは思えません。騎馬隊の一部は馬上から弓を放ってきましたし、恐らく以前からあの男が鍛錬していた部隊なのではと…」

 

楽進の話を聞きながら果物の皮を剥いていた夏侯淵の手が、『あの男』という部分でピタリと止まる。しかし、それも一瞬ですぐに皮むきを再開し、適当なサイズに切り分けると夏侯淵は切り分けた果物を皿にのせ、楽進のそばにある台にのせる

 

夏侯淵「その男についてだが、名乗り上げたりはしてなかったか?」

 

楽進「いえ。その暇もなく…」

 

夏侯淵「そうか…」

 

そう言うと夏侯淵は少し残念そうに肩を落とす

 

楽進「申し訳ありません」

 

そんな夏侯淵に楽進は申し訳なさそうな表情を浮かべるが、夏侯淵は楽進に微笑みを向ける

 

夏侯淵「いいや。気にすることはない。凪たちが戦った男は恐らく『黄巾の勇将』と呼ばれる将らしくてな。黄巾賊とは別に私兵を率いて戦い、何人もの将がその男一人に討ち取られている。これは噂だが、何進の1万の兵に2千の兵で勝利したとも聞いたことがあるぞ」

 

楽進「それはさすがに…」

 

最初はいたって真面目な顔をしていた夏侯淵も、さすがに後半部分を話しているときは冗談言っているときの柔らかな表情を浮かべていた。楽進も後半部分については苦笑いを浮かべていた

 

夏侯淵「それで、そんな男と対峙してみて…どうだったんだ?」

 

夏侯淵の言葉に楽進は、その時のことを思い出すように目を閉じ、ブルブルと身体を震わせながら目を開き、独り言のように呟きだした

 

楽進「最初、馬上から飛び降りての一撃を受けたときに、今までの黄巾賊の将とは違うというのを感じました。しかし、そのときは三人なら勝てる程度の強さだと踏んでいたんです」

 

そう言いながら楽進は李典と于禁に視線を向ける

 

楽進「自分が男の一撃を弾いたときに二人が動き出してるのは感じてました。でも二人の武もそれなりのもの。二人がかりなら男に十分通用すると思ってました…私もすぐに反撃に出るつもりでした…ですが…」

 

夏侯淵「男の武は予想を超えていた…か」

 

夏侯淵の言葉に楽進はゆっくりと頷き返す。その反応だけ見ると夏侯淵は再度黙り込み、話の続きを無言で促す

 

楽進「真桜と沙和が斬られた時は、太刀筋は全てではありませんが見えてました。ですが、自分が斬られた時…あの時は何も見えませんでした。両肩に風が触れるような感覚を感じて…次の瞬間には血が噴出していて意識が遠のいて…男がいつ武器を抜いたのか、いつ私を斬りつけたのか…まったくわかりませんでした」

 

楽進の言葉を聞きながら夏侯淵は何かを悩むように顎に手を添えていた。そしてその手を自分の膝の上に戻すと、気になっていたことを正直に口にした

 

夏侯淵「正直に答えて欲しいのだが…姉者と…どちらが強い」

 

その質問に楽進は気まずそうな表情をした後に、顔を俯ける。それだけで夏侯淵は答えを汲み取り

 

夏侯淵「姉者よりも上…か…」

 

真剣な表情を浮かべてそう呟いた夏侯淵はゆっくりと立ち上がると、楽進の頭を軽く撫でる。頭を撫でられた楽進は恥ずかしいのか、頬を若干朱色に染めながらも、じっと撫でられていた。そして、夏侯淵は楽進に背を向けて部屋の扉の方へと歩いていく、そのまま扉に手を掛けたがふと楽進の方へ振り返り

 

夏侯淵「黄巾賊の本隊が滅んだといってもまだまだ残党がいる。今はしっかりと身体を休めて、早く体調を万全にして戻ってきてくれ」

 

それだけ言って部屋から出て行った。楽進は夏侯淵が部屋から出て行くのを見送った後、寝台に身を預けるとそのまま眠りにおちていった

 

 

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官渡・とある邑

 

 

一刀「今日の訓練はここまで。明日も同じ時間に訓練を行うから遅れないように。以上、解散」

 

一刀の言葉に私兵団の面々は一度頷き返すと、組んでいた隊列を崩してその場に座り込んで休みながら談笑をする者、空腹を満たすために飲食店に向かう者など、各自好きなように動き始めた。一刀自身は、解散を宣言するとさっさと自分が住んでいる家へと戻っていった

 

一刀「ただいま」

 

天和「おかえり〜」

 

地和「おふぁえふぃー」

 

人和「おかえりなさい。一刀さん」

 

玄関をくぐり家の中に入りながら一刀はそう呟く。その声に三つの声が返事をした

 

一刀「三人ともただいま…って。どうしたのその肉まんの山」

 

そう言う一刀の視線の先には机の上に山のように積まれた肉まん。そして、天和、地和、人和の三人はそれを囲むように椅子に座っている

 

地和「肉まん屋のおじさんがくれたのよ。これもちーの人気のおかげね」

 

地和は口の中の肉まんをゴックンと飲み込むと、肉まんの皮がついた指をペロリと舐め、慌しく席から立ち上がると胸をはってそう一刀に答えた。そんな地和に一刀は適当に相槌を打ちながら自分の部屋へと入る

 

一刀「(あの戦からもう半年…。傭兵稼業をしながら色んな邑を転々としてきたが、もうそろそろあの三人が動いても平気かな)」

 

そう考えながら一刀は今までのことを思い出していた。曹操軍を突破して無事に逃げ延びたのは、1千8百人中1千人だった。一刀は、生き残った人たちに部隊に残る必要はなく自由にして構わないと言ったが、誰一人として部隊から抜けることはなかった。張三姉妹も一刀と行動を共にすることを望んだ。大きな変化があったと言えば、張三姉妹が名を捨てて真名のみを使用するようになったことと、一刀の名が有力な傭兵として知れてきたことぐらいであろう

 

一刀「(そういえば…この付近に、黄巾党の残党狩りに曹操が来てるんだったな)」

 

少し前のことを思い出してる内に、一刀は今朝間諜から受けた報告を思い出した。それは、一刀たちが居る邑から東にいった所に潜んでいる黄巾党の残党を狩るために曹操が動いたというものだった

 

人和「一刀さん。隊の人が来たんですけど」

 

一刀「すぐ行くから、そのまま待たせておいてくれ」

 

扉の向こうから聞こえた人和の声に一刀はそう答えると、着替えをさっさと済ませて自分を待つ人物のもとへと向かった

 

一刀「どうしたんだ?」

 

家の前で待っていた大男に一刀はそう声をかける。一刀と張三姉妹の家に兵士ならともかく、大男が訪ねてくることなど滅多に無いことだったので、一刀は不思議に思っていた

 

大男「はい。その…曹操軍のことなのですが…」

 

大男の言葉に一刀の表情が真剣なものに変わる

 

一刀「なにか問題でも」

 

大男「はい。曹操軍は無事に黄巾党の残党の討伐に成功したのですが、なぜか軍の一部を率いて曹操自身がこの邑に向かっているようなのです」

 

一刀「ほんとか!? 何故そんな無意味なことを…兵糧を無駄にしているだけだと思うが…まさか…」

 

一刀が大男に視線を向けると、大男は大きく頷く

 

大男「恐らく北郷様の武名がこの辺りに知れすぎたために、北郷様に曹操自ら会いに来るのかと。噂では曹操はかなりの人材好きらしく。すでに曹操の周りにはかなり優秀な人材が多数いるとか」

 

一刀は大男の言葉に渋い表情を浮かべるが、すぐに笑みを浮かべる。諸侯から逃げている今、この状況はあまり笑えるような状況ではないはずなのに、一刀の顔に笑みが浮かんでいることを不思議に思った大男は、首を傾げるが一刀はそんなのは一切気にせず

 

一刀「君は部隊をいつでも動かせるように準備を。それと曹操軍から使者が来た場合には丁重に迎えてくれ。部隊の皆もすぐに集めてくれ」

 

それだけ言うと一刀はさっさと家の中に戻ってしまった。大男は後ろ頭をポリポリ掻きながらも、一刀に命令されたことを実行するために動き始めた

 

一刀「天和、地和、人和。話がある」

 

三人は未だに机を囲んで肉まんを食べていたが、一刀が部屋に入ってくると三人同時に顔を向けた

 

一刀「あと数日の内にこの邑に曹操が部隊を率いてくる。そこで俺は三人を曹操のところで引き取って貰うように交渉するつもりだ」

 

天和と地和は一刀が何を言っているのか理解できないような表情をしていたが、人和だけは眼鏡の位置を直すと

 

人和「私達を曹操が引き取って得することが無い限りは、上手くいかないと思います。少なくとも私達の頸を取ること以上の利益がないと」

 

そう言う人和の視線は鋭かった。一刀のことを信用しているとは言っても、今回ばかりは話が違う。下手すれば殺されかねないのだから。自分が、そして自分の大切な人たちが

 

一刀「それについては心配無用。三人の歌による徴兵力を売り込めばまったく問題ないはずさ、もっとも…三人がそれに納得すればだけど。まぁ、相談してみてくれ。まだ時間はある…少しだけど」

 

それだけ言うと、一刀はさっさと家から出て行ってしまった。残された天和と地和、人和の三人は、まず人和が一刀の言葉を噛み砕いて二人に説明することから始めた

 

三人の解答は一刀の予想を超えて早く出た。答えはYes。三人の夢や現状を考えればある意味当然のことと言える判断であったのかもしれない

 

それから数日後。ついに曹操が一刀たちの居る邑へとやって来たのであった

 

 

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曹操軍・陣

 

 

曹操軍の使者により、曹操に呼び出された一刀は部隊の者たちにいつでも動けるように命令をすると、曹操の陣へと張三姉妹を連れて向かった

 

曹操の陣に着いた一刀は、武装を預けようとしたが何故かそれを曹操の兵士に断られた

 

一刀「(よっぽど余裕があるんだろうな…こうも余裕をかまされると、ちょっと悪戯したくなってくるけど…まぁ、いっか)」

 

一刀は、そんなことを考えながら兵士に連れられながら歩いていた。すると、兵士は不意に立ち止まり一歩横にずれるとその場で跪く。一刀は見覚えのある人物を三人ほど見つけた

 

一刀「(あの三人は確か俺たちが逃げる際に斬った人たちだな。どうやら生きてたみたいだな)初めまして…でいいですよね。北郷と申します」

 

曹操「私が曹孟徳よ。 ところで、その言い方だと私とどこかで面識があるようだけれど?」

 

曹操が一刀にそう尋ねると、一刀は自分の後ろに立っていた張三姉妹を自分の隣に立たせながら

 

一刀「では改めて紹介を。この三人は、こちらから張角、張宝、張梁の張三姉妹。そして、俺は黄巾の勇将などと呼ばれていました」

 

不敵な笑みと共に一刀がそう言うと、曹操の周りに控えていた将たちが一気に殺気だつ。張三姉妹はビックリして素早く一刀の後ろに逃げ込む。肝心の曹操と、名だたる将の殺気を一身に受けている一刀はとても涼しげな表情で見つめ合っていた

 

曹操「そう、あなたがあの…。ということはわざわざ私に会ったのもそれなりに理由があるのでしょう?」

 

まるでおもちゃでも見ているような目で一刀を見る曹操の声は、さきほどよりも明るいものになっていた

 

一刀「さすが曹操さん。俺があった理由はただ一つ。この三人をそちらで保護して欲しい。こちらが望むのは、この三人に曹操さんの領土で公演を行うのを許可すること。それに対しての見返りが、徴兵力。この三人に公演を行うたびに、『戦う男は素敵』、『自分達は曹操軍を応援している』といったことを観客に言ってもらう。黄巾賊の兵力の多さを知っている曹操さんにならこれ以上の説明は不要だろう?」

 

曹操の質問に対して、一刀は曹操が必要としてそうな事を一気に説明した。それに対して曹操の表情は、無表情とも感じ取れる真剣なものから、一刀との会話を楽しんでいるような、嬉々としたものに変わっていた

 

曹操「あなたの提案は喜んで受けさせてもらうわ。次は私の話を聞いてもらってもいいかしら?」

 

一刀「もちろん」

 

一刀が快く返事をすると、曹操は満足そうに頷き返す

 

曹操「黄巾の勇将…5千の私の部隊を2千の兵で突破した統率力。さらには三人の将を瞬く間に切り伏せた武力。その人物があなただという確証を見せてはくれないかしら?」

 

そう言いながら一度俯き、再度顔を上げた曹操の目は鋭く。見つめる相手の全てを見抜きそうな眼光であった。しかし…

 

『ガタンッ』

 

突然に音に何事かと、その場に居合わせた将たちが警戒をしながら音の元。一刀の両脇に立っていた松明を見る。その松明は燃えていた部分だけが綺麗に切り落とされており、台の部分はそのままの位置にあった

 

曹操「これは…」

 

曹操含めた将たちが一刀に視線を向けると、一刀はなんとも楽しそうな笑顔を向ける

 

一刀「用件は済んだようですので、俺はこれで。三人のことはよろしくお願いします」

 

そう行ってその場を去ろうとした。そんな一刀の後姿に曹操は

 

曹操「最近私のところに袁紹から檄文が届いてね。近いうちに洛陽の董卓に対する連合が組まれて、董卓に戦いを挑むことになると思うわ。その際には各地の諸侯も集まるし、無名の義勇軍も集まると思うわ。もし他の諸侯などに興味があるなら、参加してみてはどう?」

 

そう一刀に声をかけた。一刀は首だけ動かして、肩越しに曹操を見ながら

 

一刀「そのつもりですよ」

 

それだけ答えて、今度こそ曹操の陣から去っていった

 

 

-19ページ-

 

どうもkarasuです。いかがだったでしょうか。楽しんでいただけたでしょうか?

 

今回は一気に黄巾の乱終わりまで行きましたね。そのせいで長くなってしまったので分割しようかとも思ったのですが、とりあえず一纏めにして投稿しました。もし分割のほうがいいという場合は、改めて分割して再投稿します。その場合にはコメントを残すためにもこの作品は消さずに、投稿することになると思います

 

魏の忠犬√なのですが、書いている途中でこのままだと黄巾√にでも行きかねないなと自分で思ってしまいました。最初は凪に一刀くんを拾ってもらおうかなと考えていたのですが、私の作品は√のキャラが拾うことが多いので、今回はちょっと変化をつけてみました。進め方はそれなりに大佐がたの考えを裏切れたのでは? と思いつつドキドキしております

 

それと今回、個人視点の途中でページをかえたりしてたのですが、読みにくかったりしますか? どうにも長くなったので分けたのですが。その辺の内容、書き方に対するアドバイスや意見もお待ちしております。もちろん、アドバイス、意見を貰ってもそれを作品に確実に反映させられるとは限りませんが、努力します!!

 

次回は反董卓連合になりますが、今回と同じように一気に書くつもりです

10分くらい放置してしまったインスタント麺を食べる時くらい期待しないようにしてください

 

 

ここまで読んでいただきまことにありがとう御座います

これからもほそぼそと続けさせていただきたいと思います

 

 

 

 

 

説明
投稿です。
いつも通り過度な期待はせずに生暖かい目で見てください

<●><●>
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コメント
例えが……。インスタントラーメンって……。(sinryu)
berufegoal大佐:報告ありがとうございます。訂正しておきますorz(karasu)
クォーツ大佐;報告ありがとう御座います。訂正させていただきます(karasu)
反董卓連合での一刀無双に期待w(なじゃせん)
かっこいい〜〜〜♪一刀かっこいいなw(RAGUNA)
執筆お疲れ様です。見捨てたり、三人を売ったりしないのが流石。三人を宜しくと言う事は一刀だけ別行動でしょうか?連合に付くのか、月に付くのか・・・ 次作期待 P.S「いきなり倒れた二つの松明」と「台の部分は未だにしっかりと立っていた」に矛盾が・・・松明倒れたのに、台が立っている?(クォーツ)
紗詞大佐;報告ありがとうございます。訂正しておきました(karasu)
うむ、かっこいい!(よーぜふ)
一刀かっけえぇwww(無双)
なんか敗軍に味方する将みたいでかっこいいな(流狼人)
神崎さんの技かな?(紗詞)
6p 陳留から濮陽までも道のりはいたって平和そのものであった。一刀たち四人を賊や暴漢が襲うこともなく、よる邑々で小さな公園を行い」 公園ではなく公演だと思いますよ(紗詞)
今回の一刀の能力は・・・。ねn(以下略(ポーザン)
カッコいいなw黄巾√かと思ったといかこのまま黄巾もいけたんじゃないかと思ってしまった。更新がんばってください!!(スーシャン)
華狼さんと同意見。インファイトかとオモタ・・・ま、面白いから問題なし!!!(森羅)
今度は月たちの側に行くのかな? (劉邦柾棟)
おばちゃんの了承の速さ…どこぞの秋子さんww(サーメット)
これは次回が楽しみだ(VVV計画の被験者)
前回肩を砕いた描写があったので、てっきり凪同様手甲装備のインファイト系とか思ってました。しかし居合いに流鏑馬に気、とは。多芸多才。(華狼)
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