真・恋姫†無双〜恋と共に〜 #49 |
#49
「まったく…おにーさんが一人いれば十分な気がしてきましたよ、風は………」
「その通りですぞ!せっかく風とねねが策を練ったのに、それを無視して色々と動き回って、その上、敵をあっさり引き下がらせやがるななのです!」
恋と共に虎牢関へと戻ってきた一刀に向かって、董卓軍の軍師2人は開口一番そんな事を言いながら彼の左右の脛をそれぞれ蹴る。
「痛いって。いいじゃないか、撤退時にはそんなに被害も出なかった事だし」
「だからそれがムカつくと言っているのですよ。勝手に動き回られたら風たちが策を考える意味がなくなるではないですか」
「その通りですぞ!いっその事明日はお前一人で連合を相手にしろなのです!」
そう言って、さらに一刀の脚を蹴り続ける風とねね。そんな様子に苦笑しながらも、一刀は霞に声をかけた。
「それで、孫権は目を覚ました?」
「あぁ。暴れられんように縛ってはあるが、大人しいもんやで。それどころか捕虜になるなど恥だ、さっさと殺せとか抜かしとる」
「………雪蓮も大変だろうなぁ」
いつだか雪蓮から聞いた事がある。彼女の妹は姉を上回る程の才を持っているが、如何せん実直すぎると。奔放な姉に真面目な妹。妹の苦労も想像できるし、そんな真面目すぎる妹に苦笑する姉の姿も容易く想像できた。
「それじゃぁ、少しだけ話をしてくるよ」
「そう言って、おにーさんはまた一人手籠めにする気ですね」
「しねぇよ、コラ」
「この変態!」
「だからしねぇよ!というかいい加減蹴るのをやめろ」
いまだ自分の脚を蹴り上げる2人の少女の襟元を掴むと、子猫を咥えあげる親猫のように少女たちを持ち上げ、そして2人の目線を自分の高さまで上げる。
「陳宮は華雄たちと一緒に被害状況をまとめろ。風は矢の備蓄の確認だ。それが終わったら2人で明日の作戦会議だ」
「むむむ…恋ちゃんと合流した途端におにーさんの対応が意地悪なものに戻ってる気がするのです」
「は、放せなのです!」
「はいはい。華雄、霞」
「おう?」
「なんや」
「それっ」
両腕をぷらぷらと揺らしながらも抗議する2人をそれぞれ華雄と霞に投げつけると、一刀は恋を伴って部屋を出て行く。華雄たちもそれぞれ腕の中に小さな少女を抱えて被害状況の把握へと向かう。
「えぇと、えぇと………待ってください、一刀さぁん!」
独り残された香は、いくらか逡巡したのち自身の役職を思い出し、主の向かう先へと走っていくのだった。
「こんばんは」
「………」
恋と香を引き連れて部屋へと入ると、縄で縛られたまま寝台に座る孫権の無言と鋭い視線が彼らを迎える。一刀はそれを気にするでもなく椅子を彼女の前に置いて座り、恋はその横の壁にもたれ掛って腰を降ろす。香は部屋を見渡して自分の居場所を求めるが、結局は、副官として一刀の後ろへ立つことに落ち着いた。
「そんなキツイ眼で睨まなくてもいいじゃないか」
「………」
「まいったな………」
にこやかに話しかけてはみるものの、孫権は答えない。じっとその眼を一刀に注ぐのみであった。しばらくそうして過ごした後、一刀はおもむろに立ち上がると手を挙げた。
「作戦会議!」
その言葉に恋は方天画戟を壁に立てかけて腰を上げ、3人は部屋の反対側へと集合し、肩を組んで円陣を作る。
「………どうする?何も話してくれないぞ」
「えぇと、一刀さんが怖いのではないでしょうか?」
「あ?」
「いえ何でもないです」
冗談交じりにそう切り出した香だが、一刀のひと睨みで縮こまる。
「恋、どうしたらいいと思う?」
「………雪蓮の妹なら、お酒?」
「でも、彼女の性格は雪蓮と正反対だと聞いたぞ?たぶん、その手は使えない」
恋も珍しく策を練るが、どうも的外れだ。と、香が今度こそはと手を挙げる。
「はい」
「はい、香くん」
「えぇと、お腹が空いているからイライラするんだと思います」
「なるほど、そう言えば今日も午前からずっと前線に出ずっぱりだったからな………よし、恋!何か美味しそうなものを用意して来い」
「………恋も食べていい?」
「この部屋に持ってくるまでは我慢してくれ」
「………ん」
一刀の指示に、恋は部屋を出て行く。彼の言葉通り食料を用意しに行くのだろう。こうした環境でまともな料理が準備できるとは思わないが、それでも食べ物を目の前にすれば、いくらかはその警戒を緩めてくれるかもしれない。一刀と香は、再び元の位置に戻って孫権と相対する。
一刻後、どうやって準備したかはわからないが、恋の手には点心が入っているであろう蒸篭と、かつて一刀が恋に教えた握り飯が乗った皿が抱えられている。もしかすると兵も炊き出しをしているのかもしれない。湯気がまだ出ているあたり、蒸したて、炊き立てなのであろう。
「さて、孫権さん。一緒に食事をとらないか?」
「………」
「仕方がないなぁ………恋、ちょっと耳を貸して」
「………?」
その食欲を誘う匂いにも彼女は反応せず、一刀は恋を呼び寄せて二言三言と耳打ちをした。
「………じゅるり」
その言葉に恋は涎を垂らしながら蒸篭の蓋を空ける。これまで以上に蒸気が溢れ、そしていい匂いが部屋に充満する。恋はその中からまだ熱々の点心を両手に抱えると、孫権に近づいた。そして――――――
「………?」
「…いただきます」
――――――孫権の目の前で、その手に持つ料理を頬張っていく。モキュモキュと頬を膨らませて美味しそうに食べていく恋の姿に、ほんの少しだけ孫権の口元が綻んだ。
「お?」
「あ」
「………はっ!?」
しかし、すぐに自分がかすかに笑みを浮かべていた事に気づくと、その口をきっと真一文字に結んでしまう。その後も恋はおにぎりや点心を無垢に口に納めていくが、孫権は表情を変えることなく食事は終了した。
「………作戦会議!」
そして二度目の作戦会議。一刀と香は部屋の反対側へと移動し、恋も指についたお米を舌で舐め取りながら合流する。お米の一粒も残さないという心意気は、素晴らしい。
「耐えたな」
「耐えましたね」
「おいしかった…でも、まだ足りない………」
どうやら敵は鋼の意志の持ち主であるらしい。可愛らしい恋の食事姿にも屈することなく、沈黙を守り通した。
「………どうする?」
「はい」
「はい、香くん」
「お菓子など如何でしょう?女の人なら甘いものが好きだと思います」
「なるほど………だが、戦なのにお菓子なんて持ってきていないと思うぞ?」
「えぇと、昨日恋さんが食べてましたよ?」
「………恋?」
香の密告に、一刀は恋に非難の視線を向ける。お菓子というものは、この時代、まだまだ高級品だ。将軍職とはいえ、そのようなものを用意させるのは頂けない。
「…おやつに、って月がくれた」
「大将の贈り物なら仕方がない」
「あっさりですね」
「あ?」
「いえ何でもないです」
一刀の寛大な処置に香がツッコミを入れるも、すぐに一蹴されてしまい、再び縮こまる。
「だが、それも手だな。雪蓮なら菓子より酒の肴を持ってこさせるだろうから、孫策軍に菓子の類はないだろう。よし、恋。そのお菓子を持ってこい」
「………ん」
再び恋は部屋を出て行き、一刀と香も定位置につく。孫権はいまだ黙ったままである。と、つい今しがた出て行ったはずの恋が部屋へと戻ってきた。
「早かったな」
「………」
「どうした?」
一刀と香が振り返るが、恋の手には何も持たれていない。
「………昨日」
「昨日?」
「昨日のが、最後のおやつだった………」
「「………………」」
作戦失敗だ。
「作戦会議!」
本日三度目の作戦会議である。ちなみに、朝行われていたのは簡単な軍議であり、作戦会議ではない。何の関係もないが、という事で本日三度目の作戦会議だ。
再三部屋の隅に集合した3人は、三度目の円陣を組む。
「食べ物系が全滅だとすると、打つ手がないぞ」
「………ごめんなさい」
「いや、恋の所為ではないぞ?」
「恋さんには甘いですね」
「あ?」
「いえ何でもないです」
そして本日三度目の威嚇。香はガタガタと震え出してしまった。
「さて、香は放っておいて会議続行だ」
「…ん」
「復活です」
「早いな、おい」
しかし彼女も慣れたもので、すぐに復活して円陣を再構成すると、手を挙げた。
「はい」
「はい、香くん」
「先ほどは、恋さんの食べる姿に少しだけ理性が負けていました。という事で、可愛いもので攻めればいいと思います」
「なるほど………では何を使う?」
「セキトちゃんがいいのではないかと」
「妥当だな。恋、セキトを連れてこい!」
「………ん」
そう言って恋は部屋を出て行き、一刀と香は定位置につく。ちなみに、3人の作戦会議は須らく丸聞こえである。しかし孫権は何もしゃべらない。否、呆れてものが言えないでいた。そして、一刀たちはそれに気づかない。あえて気づかないフリをする。そして数分後―――。
「おぉっ!?」
「りょ、呂布将軍!?」
「うわああぁっ!!」
なんだか廊下が騒がしい。恋の名前が聞こえてきたという事は、彼女がセキトを連れて戻って来たという事だ。しかしながら、扉が開かれるとそこには――――――
「なんでそっちを連れて来るんだよ!?」
「わわわ、恋さん、赤兎馬さんじゃないですよぉ!」
――――――扉の所為で部屋に入れないでいる赤兎馬と、馬を必死に引っ張り込もうとする恋の姿。
「ぶふぅっ!」
その光景に、孫権はとうとう噴出してしまうのであった。
「へーい!」
「いぇー!」
「…へい」
顔を真っ赤にする孫権をよそに、3人は両手を挙げてハイタッチを交わす。しばらくそうして3人だけで盛り上がった後、それぞれ最初の位置に戻った。
「さて、孫権。そろそろ折れてくれないか?」
「………はぁ、わかった。それで何が望みだ?」
いまだ顔を赤らめながらも気丈に振る舞おうとする彼女の姿に、一刀は思わず笑ってしまう。
「何がおかしい!」
「ごめんごめん、さっきは噴き出してたくせに、そうやって強がってる姿が可愛くてね」
「なっ!」
「ほら、怒らない怒らない。という訳で縄を解くけど、暴れないって約束してくれるか?」
「大丈夫よ。もう怒る気力もないわ」
その返事に一刀は立ち上がると、腰の短刀を抜いて孫権を縛る縄を切る。ようやく自由になった腕をさする孫権を見ながら、一刀は再び彼女の正面に腰を降ろした。
「なに、ただ話をしてみたいと思っただけだよ。俺が孫策のところで客将をしていた話は聞いた?」
「あぁ」
「なら、真名を預けてもらった事は?」
「聞いている」
「そっか。まぁ、そういう訳だ。一つ先に言っておくと、俺は君を懐柔するつもりも、人質として利用するつもりもない」
「それは、私に人質としての価値がないという意味か?」
一刀の前置きに、孫権の眼がすっと細まる。僅かに漏れる殺気に香が反応するが、一刀はそれを手で制した。
「違う違う。さっきも言っただろう、話がしたいだけだって。いずれ雪蓮のあとを継ぐことになる孫仲謀という人間の事を知りたいと思っただけだよ」
「………それは?」
「そうだな………」
一刀は少しだけ口籠り、後ろに立つ少女に気を遣る。だが、それも本当に僅かの時間で、彼はすぐに言葉を続けた。
「信じる信じないは自由だけど、いずれ君たちは独立を果たし、呉を建国する。復国と言った方が正しいか?…まぁ、いい。君が、雪蓮のあとを継ぐに足る存在かどうか確かめようと思ってね」
「ふん、試験でもするつもりか?」
「それも面白そうだが、あまり長時間ここに引き止めてもな。という訳で、一つだけ答えてくれればいい」
「………なんだ」
予想外の言葉に孫権の眼が見開かれるが、すぐに表情を鋭くすると、彼女は一刀に問い返す。
「君は…呉をどんな国にしたい?」
「………」
一刀の問いに、孫権は口を閉ざす。これまでは、孫呉の独立の事ばかりを考えていた。袁術によって各地へと姉妹バラバラに分断され、ある種幽閉されたような日々。いつか袁術へと反旗を翻し、そうして母・孫文台が築き上げた呉の国を復興させるという明確な目的ならある。では、その後は?
「………」
彼女は考えた事がなかった。目の前の状態も打破できないのに、その先を考えるという余裕もなかったからではあるが、それでも、その問いにドキリとさせられた事は事実だ。問いに沈黙でしか答えられないでいる孫権に、一刀は助け船を出した。
「国の政策とかそんな難しい事を聞いているわけじゃない。君の理想を聞きたいだけなんだ。思ったままを答えてくれればいい」
「………」
その言葉に、少しだけ肩が軽くなった気がした。いつも言われている、自分は真面目過ぎると。かつてない質問に、彼女は思っていた以上に真剣に考えすぎてしまっていたようだ。その後もしばらく沈黙した後、彼女はようやく口を開く。
「私は―――」
「私は………私は、呉の民が安心して暮らせる国を作りたい。侵略しようとする敵がいるならばそれを討ち払い、略奪をする賊がいればそれを駆逐し、そして我らの領内では笑顔に満ちた民たち………そんな国を作りたいんだ」
それは奇しくも、彼女の姉が甘いと斬り捨てた理想と同じ夢。望むは、ただ民の安寧。しかし、そこに孫権と劉備の決定的な違いが顕れる。劉備が大陸という茫漠とした範囲を見ているのに対し、孫権は自国という限られた、それでいて己の眼の届く範囲を見据えているのだ。理想に生き、それでいて現実を忘れない。己に出来る事と出来ない事を明確化し、そこに邁進する。
「(………雪蓮よりも大きいかもな)」
ふと、一刀はそんな事を思う。少なくとも独立を果たすには雪蓮の力が必要だ。兵を率い、将を率い、軍の最前線で戦う王。その姿こそが孫武の象徴であるのだから。では国を建てた後は?その後は戦よりも内政に力を入れなければいけない。雪蓮に出来ない事はないが、それでも得手不得手はある。孫権の不得手が雪蓮の得手であり、雪蓮の不得手が孫権の得手なのだ。
「まったく、上手くできているよ。ホント……」
「何か言ったか?」
知れず一刀が呟いた言葉は、孫権の耳には届かない。一刀も独り言だと誤魔化して立ち上がった。
「ありがとう、孫権」
「あのような答えでいいのか?」
「あぁ、十分だ。正解なんてない。君が正解と思う道を進めばいいさ」
「………そうか」
「さて、それじゃぁ外まで送るよ」
「え、もう解放するの!?」
一刀の言葉に、孫権の素が出てしまう。自分でもそれを理解しており、すぐに毅然とした表情に戻すと、彼女も寝台から腰を上げた。
「そんなに怖い顔しなくてもいいと思うけどな。その辺りはもっと雪蓮を真似るといい」
「………考えておく」
「そうだな」
それだけ言葉を返すと、一刀は背を向けて扉へと向かう。孫権の腰には剣がさげられているにも関わらず、まるで友人を案内するかのような仕草で扉を開き、彼女が部屋を出るまで扉を抑えている。
前に一刀、後ろに恋と香を連れて、孫権は虎牢関内を歩く。ふと石壁に空いた穴から外を見れば、霞と華雄が仕合をしているところだった。華雄の武は水関で目の当たりにしている。なぜ、あのように強くなれるのだろうか。姉が彼女に対抗出来るならば、自分にもそれが出来るのではないのか。様々な想いがよぎるなか、孫権は自分の名を呼ぶ声に意識を戻す。
「どうした、孫権?」
「………いや、なんでもない。案内を続けてくれ」
「……ふぅん」
誤魔化すような彼女の口調に、一刀は何も言わない。彼女が何を考えるかは彼女自身が決める事であり、勝手な口出しをすることは出来ない。だからこそ一刀はほんの少しの指針を与える。目の前の目標も大切だが、その先を見据えらえてこそ、人の上に立って国を動かせる。いずれ呉は建国し、華琳と劉備を交えて三国県立の時代がやってくる。その場に雪蓮がいるかどうかはわからないが、どちらにせよ、呉における孫権の果たす役割は大きくなるはずだ。
「さぁ、この扉を開けば向こうはもう戦場だ。もっとも今は休戦中だけどね」
気付けば、4人はひと際巨大な扉の前に立っていた。一刀の言う通り、これが虎牢関の門なのだろう。入る時は気絶をしていて見れるわけもないが。
「………本当にいいのか?」
「何故?人質にされたかった?」
「そんな訳ないだろう」
「だったらいいじゃないか。君も見てる通り、将を暗殺しなければならないほど、こちらが切羽詰まっている訳でもない。俺は、単純に君と話がしたかっただけさ」
「そうか………」
「あ、だったら自陣に戻る際に、一つだけ条件をつけてあげるよ」
「おかしな物言いだな。なんだ?」
「雪蓮に伝えてくれ。俺が手助けするのはおそらくこれが最後だ、と」
「姉様に?」
「あぁ、それだけでいい」
「………わかった。確かに伝えよう」
「頼んだよ」
一刀の念押しの言葉には返事を返さず、その扉がゆっくりと開くのを待つ。彼の考えがまったく読めない。冥琳や穏であったら、彼の言いたいこともわかるのだろうか。そんな疑問に駆られたが、本人たちがいない今、考えても仕方がない事である。帰ったら聞いてみよう。それだけ決めて、孫権は振り返った。
「それでは」
「あぁ」
短い言葉を交わし、孫権は外に出る。関の内側からではわからなかったが、今日もよく晴れている。空には下弦の月が輝いている。それは正確な半月ではなく、まるでその弓を引き絞ったかのように、弦が張っていた。
「まるで戦を象徴するかのようだな」
そんな事を思いながら、彼女は右翼へと向けて歩き出す。ゆっくりと歩くその足元にはうっすらと影が浮かび上がり、彼女の存在を肯定する。そういえば、と彼女は思う。
「話がしたいと言っていたくせに、すぐに終わってしまったな」
実際に交わした言葉は少ない。しかしながら、彼女は一刀の言葉に何かを感じ取っていた。それを確かめたいという気持ちはある。だがまずは―――
「………姉様は酒でも飲んでそうね」
―――在るべき場所へと帰るとしよう。
「あら、早かったわね」
「それが人質に囚われていた妹を迎える言葉ですか」
陣に戻った孫権を迎えたのは姉の雪蓮だった。そのまったく心配していないという声色に、孫権が溜息を吐いてしまうのも仕方がない。
「だって、一刀だし。それで、何を話したの?」
「………質問を一つだけされました」
「へぇ?」
「呉をどんな国にしたいか、そう問われました。私はそれに応えて、それで終了です」
「そっか。まぁ、一刀だしね。蓮華も今日は疲れたでしょう。早めに休みなさい」
「え、あの…私がどう答えたか聞かないのですか?」
「そんなの聞く必要ないわよ。だって…呉が独立を果たしたら、貴女はそれを見せてくれるのでしょう?」
「………はい!」
それは姉からの信頼。自分たちが必ず独立を果たし、その暁には妹がその国造りに尽力し、結果を出すという信頼であった。
「あ、そういえば、あの男から言伝があります」
「あら、愛の言葉でも貰ってきてくれた?」
「違います!………姉様の手助けをするのは、おそらくこれが最後。そう伝えるように言われました」
「そっか………ありがとね」
「いえ……」
そう言って背を向ける姉の姿は、どこか少しだけいつもと様子が違っていた。しかし、孫権はその理由に辿り着くことなく、甘寧の待つ自身の天幕へと入るのだった。
「華雄さん、お世話になりました」
「あぁ。修行は続けろよ」
「はいっ!」
夜も更け、虎牢関の反対側では華雄率いる歩兵隊と弓隊が整列していた。この夜は夜襲もなく、予定通り長安へと撤退するためだ。
「そろそろ出ないとな」
「せやな………ほんじゃ、華雄も気ぃつけてな」
「あぁ」
言葉を交わして、今度こそ出発の時となるが、彼女は動こうとしない。
「………一刀」
「あぁ」
「…世話になったな」
「俺の方こそ………またな」
「あぁ」
華雄がそっと呟き、一刀を抱き締める。今回ばかりは霞も風もからかうような真似をせずに、それを見守った。
「生き延びろよ」
「わかってるさ」
一刀もしっかりと華雄を抱き締め返す。しばらくの沈黙の後華雄はその身体を離すと、背を向けた。もう振り返る事はしない。
「それではこれより、我らは長安へと発つ。幸い月も出ているからそれほど危険ではないが、それでもしっかりと注意していろよ」
夜という事もあり、華雄の声は大人しい。兵達も首肯で返すのみで、声を上げる者はいなかった。
「………行ってもうたな。一刀はえかったんか、あれだけで?」
「なに、生きていれば会う事はできる。これは別に今生の別れという訳でもないさ」
「せやな……さ、ウチらも戻るか。明日に備えて休まなあかん」
「…くぁあ………眠い」
霞の言葉に、恋が欠伸で返す。一刀はもう一度だけ背後を振り返り、地平線にかすかに浮かぶその姿を眼に納めると、関へと戻っていった。こうして、虎牢関の戦いの初日は終わりを迎える。
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コメント | ||
蓮華さん手傷を負った獣みたいだな。(matsu) >>はりまえ様 戻ってきたぜw(一郎太) いっちゃらめー!!??(黄昏☆ハリマエ) >>320i様 でも、その2人なら策を練る必要がない気がしないでもないですがねwww(一郎太) >>ヒトヤ犬 作者は性格が歪んでるから、あまりそういう事は言わない方がいいぜwww(一郎太) >>はりまえ様 ………orz 吊ってきます(;´Д`)(一郎太) あとがきの作者の行動が俺とまったく同じなんだがW実は二人は似た者同士?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) 一郎太サン・・・・マジですTOT(黄昏☆ハリマエ) >>東方武神様 まぁ、気にしてもしょうがないですね。うん、長かった。そろそろ終わってしまいたいんだが、いかがなものだろうかorz(一郎太) うーむ・・・批判も捉え方次第だと思うが。さて今回で初日がやっと終わりましたね。長かった・・・次回は更に激戦になるかと思います。頑張ってください。(東方武神) >>はりまえ様 ……マジすかorz(一郎太) 微妙だよ・・・(黄昏☆ハリマエ) >>M.N.F.様 これもイジられキャラの見本のような娘ですのでw(一郎太) >>こるど犬 ホントにひでぇ男だwww(一郎太) 一刀「あ?」 香「いえ何でもないです」 ・・・相も変わらず香の扱いが・・・(M.N.F.) 冗談まじりに殺気をwwww(運営の犬) >>2828様 一刀くんの事だから、冗談交じりに殺気を放つと思うんだwww(一郎太) あ?コレが出るたびガクブルw(2828) >>kashin様 風にもなびきそうになってますが、作者が創造主権限を使ってそれはさせないぜ!一刀は恋ひとすじでいかせますwww(一郎太) 一刀君は好々爺だったのね。もしくは好きな子には冷たく接しちゃうっていう小学生みたいな・・・それはねーわ TINAMIはだいぶ平和ですね(kashin) >>劉邦柾棟様 貴方のお言葉で、作者がなんでこの二次創作を書き始めたのかを思い出しました。恋の萌えポイントを書きたいが為にこれを始めたんだったwww もう、戦闘シーンとか真面目な会話は適当でいいよね?w(一郎太) 一刀と蓮華の笑えるやり取りが最高でした。 恋・・・馬のセキトを連れてくるなよwwwwww。(劉邦柾棟) >>なじゃせん様 初コメありがとうございます!風の言う通り、恋ちゃんと合流したので、他への対応が酷くなってるのかもwww(一郎太) >>yosi様 ギャグパートなのでw(一郎太) >>NSZ THR様 一刀くんが魏か呉にいけば、原作通りならそのフラグも回避できるかもw ちなみに、東京都府中市の某居酒屋で出てくるんだが、軟骨揚げにマヨネーズと梅肉がついてくる。これはマジで美味しいw(一郎太) >>氷屋様 なんというか、ここまで盛り上げてしまったが為に、反董卓連合以降の戦いはもっと盛り上げないとと自分でハードルを上げている気がしますorz(一郎太) >>ネムラズ様 作者も書いていて楽しかった。やっぱ真面目な話は性に合わないwww(一郎太) >>よーぜふ様 香ちゃんもギャグキャラとして頑張っているようですw(一郎太) >>はりまえ様 一番最後に参加してますw(一郎太) >>博多のお塩様 聞いてますよ。ただ下述の通り、作者はゆるぎないほどにツッコミ型の人間なので、友達のボケがないと自分がボケてしまうのですw(一郎太) >>アロナルファ様 自分に重ねているのかもしれませんwww(一郎太) >>dorie様 作者はどこからどう見てもツッコミタイプなので、友達がボケをかますまで待っているのですwww でも、実際に作者はいつも聞く側なので、こんな感じwww(一郎太) >>ma様 自分の期待にそぐわないからそういうレスとかするのかもしれないですね(一郎太) >>ヴォルフガング様 その発想はなかった………だから恋が一番好きなのかもwww(一郎太) >>砂のお城様 そんなにあるんですか…哀しいことですorz 史実でも孫策が孫権に言う通り、蓮華は治世に優れているという方向でこの外史は行くと思います(一郎太) 一刀の香への対応がw(なじゃせん) 蓮華よりも香の扱いの方が印象に残るねw(yosi) 主ひでぇ 雪蓮死亡フラグはほんとに神のみぞ知るになってしまった 私は揚げ物全般(かつも含めて)醤油またはつけない派です (NSZ THR) さていよいよこの虎狼関もクライマックスですな、続きがたのしみ〜(氷屋) 上から目線のってのはほんと指摘してやってんだからありがたく思えってのがおおういですな、以前このTINAMIで書いてた作者の方がメッセでひどい批判等を送られて意気消沈して止められた方もいましたし(氷屋) 鋼の意志も赤兎には敵わず……確かに耐えられなさそうですね。後書きの会話にも吹いたw(ネムラズ) いえーいw 一郎太様のフリーダムぶりにもいえーいw そして香ちゃんドンマイいえーいw(よーぜふ) 会話に参加しようよ・・・・(黄昏☆ハリマエ) 面倒でも友達の話は聞いてあげましょうよ(博多のお塩) 恋の食事風景に負けないないなんて・・・(アロンアルファ) 会話を文章にしているということは、答えるのが面倒なので聞いてないといったのですね、わかります。(dorie) おもしろくなくなったら、読まなけれいいだけだと思うんだけどなぁ。(ma) 黙々と食べる作者が、恋に見えてきましたwww(ヴォルフガング) |
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