剣帝?夢想 第二十二話
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赤壁での戦いからほぼ一週間、随分と数を減らしたとの報告を受けた魏との最終決戦に向け、レーヴェたちは速やかに再編成と準備を終わらせる。そして、国境沿いの城を出発し、曹操が入城したという新野城へと進軍した。

 

 

 

「朱里、雛里、現在の状況は?」

 

 

「はい。新野城へと入城した曹操さんの兵力は大幅に削られて私たちとほぼ互角、または若干下くらいになっています」

 

 

「その、曹操さんのいる新野城ですが、減ったとは言っても、依然として大軍である魏軍を収容するには狭すぎるため、最後は野外での決戦になると思います」

 

 

朱里と雛里の報告を聞いてレーヴェは軽く頷く。曹操の性格から考えて、負ける覚悟を決めているにしても、勝つつもりでいるにしても、籠城して全て終わり、ということはないだろう。間違いなく野外での、正真正銘の最終決戦を挑んでくるだろう。自身の全てをかけて。

 

 

「兵力はほぼ同じということは、勝てるかもしれんし、負けるかもしれんということか。勝つも負けるもわしら次第。腕が鳴るのぅ」

 

 

桔梗が好戦的な笑顔を浮かべながら唇を軽く舐める。言葉こそだしはしないが、他の武将も高揚しているようだ。

桃香は、と見てみれば覚悟を決めた顔で愛紗たちを見ていた。そしてレーヴェの視線に気がつくと、真剣な顔で口を開いた。

 

 

「ご主人さま。この戦いで曹操さんを打ち破り、何としてでも話し合いの席についてもらう。それが、天下三分の計というのを成功させるために必要なことなんですよね?」

 

 

 

「ああ、そうだ。曹操は、一度完膚なきまでに敗北させないと、よほどのことがない限りはその覇道を捨て、こちらの言うことを聞こうとはしないだろう」

 

 

「うん。美以ちゃんのときは、戦うことなく事を治めることができた。だけど、そんなことがいつもいつも起こるわけないんだよね。戦って、戦って、その中で分かりあって、そして勝敗が決まってから話し合う。それの繰り返しなんだよね。だったら私は戦うよ。皆が皆、多分この国のことを思って戦ってる。そして今は、天下三分の計を成功させることがこの国にとって最善だと思う。それを曹操さんに分かってもらうために、私は戦う」

 

 

桃香はそう毅然と言い放つ。優しすぎる桃香にとってその決断はかつて言っていた自分の理想とは違うもの、決意することにかなりの葛藤があっただろう。それでも、現実を見て決断した。レーヴェはそんな桃香の頭を優しく撫でてやる。桃香が決断したのであれば、自分はその決断を無駄にしないために自身の力を全力で振るうだけ。

そ考えると、決戦に備えての軍議に参加するために呉の軍と蜀の軍の境目に設けられた場所へと足を運んだ。

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「あら、遅かったじゃない」

 

 

集合場所へと到着すると、そこにはすでに雪連と周瑜がいた。雪連は待ちくたびれたのか、少し口を尖らせて言ってくる。

 

 

「悪いな、少しだけこれからのことを考えていた」

 

 

「天下三分のことね。それとも桃香、曹操と戦いたくないなんて言うんじゃないわよね」

 

 

「いえ、曹操さんと話し合いで解決できるとはもう思っていません。私は曹操さんと戦う覚悟はもうできています。だけど、考えてしまうんです戦いが終わった後、どうしたら曹操さんを説得させることができるんだろう、って」

 

 

桃香の言葉に周瑜がそれも問題だな、と頷いた。

 

 

「いくら戦で勝ち、魏を下しても曹操は簡単には首を縦に振ることはしないだろう。それこそ、三国で協力しないと対処できないような何かがなければな」

 

 

「その三国で協力しなければならない事態は近そうだがな…」

 

 

周瑜が呟いた言葉に、レーヴェは誰にも聞こえない声で呟いた。この戦いが終われば、ようやく長い戦いに終止符が打たれる。そのはずである。だが、密偵の持ち帰った五胡の情報にある異人の姿がレーヴェにいやな予感を感じさせていた。一応その予感が当たった時のために、国境に常駐している兵士たちには厳重に警戒するようにということと、ヤマアラシをはじめとした兵器も配備させてある。それでも悪い予感がしていたのだった。

 

 

「ともかく、まずはこの戦いを勝ち抜くことから始めるとしよう。曹操の性格、そしてこれまでのことからも考えて、籠城戦での勝利は間違いなく望まないだろう。そうなれば、やつの取る行動は一つ。雪連と桃香の首を取ることだ」

 

 

「そうだろうな。二人の首を取られればこちらはかなりの打撃を受ける。そうなれば劣勢を覆すことができる。だが、野戦を選ぶ理由としてはもう一つあるだろうな」

 

 

周瑜の言葉に皆が首を傾げる。そしてその答えを言ったのは雪連だった。

 

 

「曹操はレーヴェの城門崩しを恐れているのよ。レーヴェが城門を叩き斬ったというのはレーヴェの武を表すものでも有名な逸話になっているわ。あなたがどこまでの城門を斬れるのかというのはあなた以外は誰も知らない。だからこそ、籠城した際に、あなたに城門を斬られて、一気に落とされるのを警戒してるんでしょ」

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雪連の言葉を聞いて皆が納得する。城門を崩されてしまえば、籠城の意味がなくなるどころか窮地に立たされてしまう。だからこその野戦ということなのだろう。ここにきてレーヴェの名が曹操の取る道を限定させたのだった。

 

 

「ならば、私たち蜀は左翼。呉軍の方は右翼ということでどうでしょうか?」

 

 

「いいだろう。陣形は曹魏の軍を包み込むような形でいいな?弱体化したとはいえ、いまだ曹魏の軍は強力だ。ならばがっぷり組んでの戦闘は避けるべきだろう。では軍を展開させるとしよう。あまり時間をかけても相手に準備の時間を与えるだけだからな」

 

 

周瑜の言葉に皆は頷き、呉軍は呉軍、蜀軍は蜀軍とそれぞれ去って行った。桃香は必ず曹操を説得すると決意して。

 

 

 

 

 

 

「全軍聞け!これが最後の戦いとなる!曹魏を降し、我らは明日への道を拓く!」

 

 

「曹魏は強大なれど、我らはあのとき逃げるしかなかった我々ではない!今度は我らが曹魏を破る番だ!」

 

 

愛紗、星がそれぞれ兵士たちに向かい、檄を飛ばす。それを兵士たちは真摯なる態度で受け止め、喉よ嗄れよとばかりに声を張り上げる。そして、その視線が、剣を地面に突き立て、その瞳を閉じている主の一人、レーヴェへと向けられる。そして皆の視線を受け、レーヴェはゆっくりとその瞼を開いた。

 

 

「…この戦い、負ければ我らは全てを失う。なにもかもだ。だからこそオレは剣帝の名に誓おう。この戦い、我が全力を持って必ずや勝利に導こう。戦いに必ずというものは存在しない。だが、オレは敢えて言おう。必ず、平和に繋がる道をお前たちに捧げるということを。だが、オレだけの力では意味がない。だからこそ…戦え!己が家族のために!愛する者のために!友のために!そして世界の明日を担うべき子どもたちの未来のために!」

 

 

「おおおぉおおおおおっ!!!」

 

 

レーヴェの言葉に兵士たちは今までで最高の雄叫びを上げた。そして皆が一斉に配置へとついた。そして時をおかずして曹魏の軍も展開を終えたようだった。そしてその中から、ただひとりが前に進み出た。

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「レオンハルト、劉備、孫策よ!我が舌鋒を受ける覚悟はあるか!」

 

 

戦場全てに響くような、そして変わらぬ覇気のこもった声がその人物から響く。その声を聞き、雪蓮の方を見れば、好きにしなさい、というように肩をすくめるのが見えた。そしてすぐそばに視線をむければ、こちらを見上げてくる瞳。

 

 

「…いってこい。桃香の思うこと、感じること、すべてをぶつけてこい」

 

 

レーヴェのその言葉に桃香は嬉しそうに頷くと、すぐに真剣な顔になり、全軍の前に出て曹操と対峙する。そして、口火を切ったのは、やはり、というべきか曹操だった。

 

 

「…この国を覆う暗雲を取り払うこと。それこそが庶人の夢であり、高貴なるものの負うべき役目!私はそのために戦ってきた!なぜそれの邪魔をする?この国が一つになること、それこそが平和を永続させるただ一つの方法!その大義もわからず、自国の利益のために同盟を組むなど、愚かにもほどがある!」

 

 

「それは違います!私も、ご主人様も、孫策さんも、皆この国を思って行動しています!それに、暗雲を取り払うって具体的になんなんですか!?庶人…国の皆の夢って、なんなんですか!?…曹操さんは、国の子供たちと遊んだことがありますか?街の人達と笑い合ったりしたことがありますか?皆が望んでいることはほんの些細なことなんですよ。ただ、家族や友達、大切な人たちと笑って暮らしたい。戦に巻き込まれることなく、ただ明日というものがほしい。それだけなんですよ!そんな些細な願いすら今の世の中は叶えてくれない…だから!」

 

 

「…っ。それを実現するためには国を一つにする必要があるのだ!それは今までの歴史が証明している!この国を平和にしたいというのならば、私に降れ!さすれば、すぐさま平和になる!」

 

 

桃香の言葉に、曹操はほんの一瞬だけ、言葉を詰まらせた。桃香が言っていた理想は基本的には曹操にとって現実のみえていない戯言にも等しかった。しかし、先の言葉は違う。恐らく、ここにいる王の中で最も庶民と近い位置におり、そしてそうあろうと接してきた。そして、その守るべき人たちと接してきた中で出した一つの答え、それは今までの言葉の中で格別の重さを持っていたのだった。

 

 

「たった一人の王を頂点としても、その人がいなくなったらどうするんですか!?その人と次の人がいい人でもその次の人がそうだとは限らない。もし、私欲に走ることになれば、誰も止められない以上、平和は崩れるだけなんですよ?でも皆が手を取ることが出来ればそれは変わるんです。一人を乱そうとしても、他の人たちが止めることができるんです!」

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お互いの言葉は止まらない。いや止められない。どちらにも捨てることのできないものがある。だからこそ話は平行線のまま。このまま、戦いに移るしかない、とレーヴェが思い、一歩前に進み出たそのとき、空から一羽の、傷ついた鳩が降り立った。レーヴェはその鳩を見て、厳しい顔つきになると、すぐさま胸元に付けられた筒の中から文を取り出すと、鳩を伝令に預け、読み始める。そしてすぐに口を開いた。

 

 

「曹操、桃香、雪蓮、すぐに軍を再編成して国境へ向かわせろ!五胡の襲撃だ!」

 

 

「何を言っている!そんな詭弁で私を退かせようという気か!そんな手にかかる私ではない!」

 

 

レーヴェの言葉に曹操は信じられないと声を上げるが、レーヴェはそんなことに構っていられないというように指示を出し始める。最初は眉をひそめていた雪蓮だったが、レーヴェの厳しい表情や、その淀みない指示に真実だと感じ取ったのか、同じように軍を再編するべく指示を出し始め、レーヴェと同じようにまずは進行を食い止めるために足の早い部隊から編成を始める。それをみて、桃香は曹操へと声をかける。

 

 

「曹操さん、こんな戦いをやっている場合じゃありません!ご主人様があそこまで厳しい顔をしているんですから、きっと五胡が攻めて来ているのは本当だと思いますから。だから私はいきます。今こそ一丸となって国を守る。それが私たち、この国を愛するものの役目だと思いますから」

 

 

桃香はそういうと、曹操に背を向け、レーヴェのもとへと向かっていく。

 

 

「各員、可及的速やかに戦場へ急行しろ!やつらの侵攻を止めることができなければ、この国の未来はないぞ!オレはドラギオンで先に行く!」

 

 

「「「おう!」」」

 

 

レーヴェの言葉に、先発隊の面々が声を上げる。そのとき、魏呉蜀三国の兵士がこちらへ走りこんできた。

 

 

「レオンハルト様、申し上げます!すでに届いていると思いますが、南西より五胡の軍、約百万が侵攻を開始!新兵器によりなんとか食い止めていますが、突破されるのも時間の問題です!」

 

 

「南方も同様に百万の五胡が侵攻!こちらはすでに国境を突破され、北上されています!」

 

 

呉の兵士が雪蓮に対して報告する。それをきいて、雪蓮はレーヴェを一瞥し、やはり本当だったか、という顔をする。

 

 

「西方も同じく突破されました!五胡の軍勢は虐殺、略奪など非道の限りを尽くしております!曹操様、指示を…どうか指示を!」

 

 

自国の兵士の報告を聞き、珍しく顔を蒼白にしていた。レーヴェはそれを一瞥だけして、空へと飛び立とうとする。そこに声がかけられる。

 

「…待ちなさい」

 

 

レーヴェはその声に視線だけを向けた。そして視線で先を促す。

 

 

「呉と蜀だけで三百万もの敵を防げないでしょう。…春蘭、秋蘭!関羽、張飛とともに南西へ赴きなさい」

 

 

「華琳様、覇王の衣を脱ぎ捨てるのですね」

 

 

曹操の言葉に、夏侯淵が静かな声で、ただ確認するように問いかける。それに対し、曹操はいつものような素敵な笑みを浮かべた。

 

 

「…私は私として振舞うわ。覇王でなくなったとしても曹孟徳は曹孟徳。だからこそ、この国のために私は動く」

 

 

「「御意」」

 

 

曹操の言葉に夏侯淵、夏侯惇はともに頭を垂れた。それを見て曹操は満足そうに頷き、さらに指示を出し始める。それを見ると、レーヴェはドラギオンを操作し、空へと舞い上がった。

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魏呉蜀の戦場から最も離れた街。そこでは、五胡の襲来を聞き、男達や兵士は必死に家族や女子ども、老人を逃がそうとしていた。街の外では兵士たちが五胡を迎え撃とうと僅かな部隊を展開しているが、その目には悟ったような光が浮かんでいた。僅かな兵士だけでは百万の敵を食い止めるどころか、時間稼ぎすらできはしない。大切な家族や友人もあっという間に蹂躙されてしまう、と。そして、その目に、大量に巻き上がる砂埃が映る。そして、諦観の思いと、少しでも時間を稼ぐという気持ちでそれぞれが武器を持ち直す。

そして、敵の姿がはっきりと見えるくらいの位置まできたとき、一人の男が兵士たちの前に立った。

 

 

「お、おい。あんた、ここは危険だ!早く逃げろ!俺たちが時間を稼ぐから!」

 

 

男に兵士が声をかけるが、男は兵士たちに向かって柔らかい笑みを浮かべただけだった。その笑みを見た兵士たちはなぜか皆が同じことを思ったのだった。

 

自分たちは助かったのだと。五胡の刃が自分に届くことは決してないのだと。

 

男は持っていた剣を抜き放つと、高く飛び上がる。そして上空で地面に向けて一閃する。直後、地面が砂埃をあげて、大きく裂けていた。五胡の兵士たちはそれに驚き、その裂け目のまで停止をした。

 

 

「そこが境界線です。死にたくないものは即刻国へと帰りなさい。もし、その線をまたぐものがあれば…殺します」

 

 

ぞっとずるような声音だった。最後の一言にはとても冷たい意思が込められ、その殺意を向けられていない三国側の兵士までも背筋を寒くした。そして敵には本能が訴えかけていた。今すぐ逃げろ、と。しかし、五胡の兵士たちはその本能に従わなかった。そして死の境界線を、一歩、ただの一歩踏み越えた。

 

 

「…残念です」

 

 

本当に残念そうな声で、それでいてなんのためらいもなく、男は真横に剣を一閃した。その瞬間、線を踏み越えた兵士十数人が血しぶきを上げ、胴を両断されて地に転がった。

 

仲間の死を、何があったかもわからずに見た五胡の兵士たちは動揺し、後ずさる。しかし、すぐに武器を構えなおして線へと近づいていく。

 

 

「これはそう簡単には退いてくれそうにありませんね。では、貴方たちには地獄を見てもらうことにいたしましょう。『神剣』マクスウェル、参ります」

 

 

敵兵が線を踏み越えるのと同時に、マクスウェルも同じく踏み込んだ。

 

 

 

兵士たちは語る。あのとき、自分たちを救った男が負けるところなど想像するどころか、彼がカスリ傷を負うことすら想像もできない。それほどに凄まじい、一方的な蹂躙だったと。

 

 

 

「この程度ですか。まぁ、この世界でいうところの武将クラスは一人もいないようでしたし、仕方のないことではありますか」

 

 

マクスウェルは、退却していく五胡の兵士を見ながら呟いた。彼の目の前にはすべてが一撃で両断された敵兵が転がっている。その数は数えることもできない。少なくとも千や二千ではないだろう。そしてその死体は、一つとして線を越えていなかった。例外は最初の十数人だけだろうか。

 

 

「もうここにはこないと思いますが、あとはレーヴェたちがどうにかするでしょう。私の役目は…あと一つくらいですか。ああ、そこのあなたたち、適当に穴を掘って遺体を埋めてもらえますか?放置しておくと、疫病が発生しますし、外観も悪いですから。よろしく頼みましたよ」

 

 

マクスウェルの言葉に兵士たちは急いで頷き、それを確認したマクスウェルは悠々とそこを立ち去っていった。

それからしばらくして到着した三国連合の兵士たちはその話を聞き驚きと共に戦慄したのだった。

 

説明
お久しぶりです。久々の更新です。世間では地震などで大変ですね。関係の無い地域に住んでいる私には全く被害はありませんでしたが。それはそれとして最新話、楽しんでいただけるならば幸いです
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コメント
とても面白いです!続きを待っています!(海平?)
続き頑張ってください(ハクア)
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