サヨナラわたし、頑張れ私
[全1ページ]

 

顔も良くて、スポーツ万能で、成績優秀。おまけに社交性も高く

先生からの覚えもめでたい、自然と人を集める人気者。

クラスに一人は必ず居るタイプのA君が、わたしの初恋の相手。

ライバルは勿論沢山居て、わたしは彼女たちに勝てる自信は最初から無かった。

 

155cm、80kg。付いたあだ名は“はなちゃん” これがわたしで私。

一見可愛らしく聞える名前だが、此処で騙されてはいけない。

はなちゃん→鼻ちゃん。満月顔に浮かぶ一際大きい凸凹である“ダンゴ鼻”を指しての

中傷であり嫌味だ。

それでも一時期言われ続けてきたチャーシューより、ずっと響きは良いと思う。

私の水着姿を見て、水着にくっきり刻まれる三段腹から名付けたらしい。

良いじゃない。熟成させれば美味しくなるのよ。

……と、声に出して言っていれば、まだ違った環境下に居たのかもしれないが

神様は贅肉を私に与えてくださったけれど、残念ながらアドリブセンスやユーモアまでは

気が回らなかったようだ。

 

デブは恋してはいけない。

デブは夢を見てはいけない。

デブは二次元にのみ生存を許される。

デブはいわゆる美形に近付いてはいけない。

そんなオーラが日常的に蔓延する中学校時代だったから、クラスの人気者に

近寄れるはずも無く、近寄ったが最後、取り巻きたちに白い目で見られるのは必定。

逆らえば最後、次の日からはクラス中から総シカト攻撃を貰おう。

わたしも面倒ごとは嫌だったから、なるたけ教室内では空気を目指した。

 

空気みたいな存在。居ても居なくても大差ない。それがわたし。

桜が咲いても、ヒマワリが花開いても

コスモスが風に揺れても、クロッカスが健気に顔を覗かせても

あってもなくても大差ない。既に風景の一部と化しているそれらに対し心を動かすのは

情緒豊かな人か、でなければ相当の物好きだ。

 

遠い世界。遠い憧れ。夢物語の王子様A君。

でもね、デブだって夢を見ても良いじゃない。

二次元よりも素敵な三次元を夢見ても良いじゃない。

精神美、貴方だけを見ている

乙女の真心、信頼 ――

似合わないと言われても気にしない。だって本当のことだから。

自分の気持ちに嘘は付きたくない。

 

初めて誰かを好きだと思えた。A君のことを想像するだけで胸がキュウと締まる。

視線も心臓も落ち着かないし、脂汗ばっかり流れ落ちる。

デブなわたしが、身分不相応にもA君に熱視線を送っているなんて周囲にバレないように

息を殺して、潜めて、何時も以上に周囲の視線を気にして、それでもずっと追いかけた。

 

夢を見る世界から別れを告げて、何時かきっと声に出して言いたい。

「A君が好き。中学1年の時からずっと」って。

玉砕は端から承知の上よ。私が言わなきゃ、この気持ちは何処にもいけないまま腐ってしまう。

 

私が変わろうと思えた切欠を作ってくれたA君。

中学校の卒業アルバムの前で、これからずっと一方的に話し掛ける世界から離れたい。

 

 

 

明日から私も高校生だ。

A君と同じ学校に通いたくて、塾に通い詰め夜食のケーキを我慢した甲斐があった。

 

何時もと同じ春になるかは私次第。

頑張れ、私。

体型を気にする前に、私の心を綺麗にするところから始めよう。

心の中から腐敗臭を先ずは消して、皮肉を言われても笑い返せるぐらいに強く。

長年、後生大事に積み重ねてきた贅肉は減らし難いけど、それも私の個性の一つだと

恥じる事無く、自分に負い目を、引け目を感じる事無く言い切れるぐらいに、強く。

 

「私だって生きてるの!恋だってしたいし、お洒落も色々いっぱい!」

 

明日から3年間を戦い抜く、適正サイズを探すのに大分苦戦した戦闘衣装を前に

私は力強く両手を握り締めた。

 

 

説明
あまずっぺー文章に挑戦したつもりです。つもりです。
一歩間違えるとストーカーです。匙加減が難しい。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
329 322 1
タグ
オリジナル 高校生 

螺郷さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com