文と花の幕間劇
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【新聞大会と弱小新聞の黄昏】

 

 姫海棠はたては自室で壁を背に新聞を眺めていた。

 眺めているのは彼女が作った新聞ではない。先日に行われた小さな新聞大会で、今度も優勝を飾った鞍馬諧報のものだ。新聞大会が開かれた際には各記者が作った新聞を持ち寄って交換するのだが、それを一部もらってきた。

 はたては軽く嘆息した。

「やっぱり大手は違うわねー」

 作っているのが大天狗であるというのもそうだが、扱っているネタが幅広いのだ。いったいどこからどうやってこんな事件を拾ってくるのか、そしてどうすればこれだけ事件を大々的に記事にすることが出来るのか、はたてには見当も付かなかった。

 人によっては、鞍馬諧報のことを中身が薄いとか信憑性が無いだとか言う者もいる。それは、はたても感じないことはない。しかし、売れていない者がそんなことを外から言ったところで負け犬の遠吠えでしかない。どんな理由であれ売れているということは、その力はあるということであり、鞍馬諧報はその尺度の上では優勝を飾るのに相応しい新聞である。はたてはそう思った。

 はたての足下には、鞍馬諧報だけではない、他にも山鳴新聞や風神山報といった有名どころ(新聞をやっている天狗の間では有名)の新聞が置かれていた。

 はたては新聞交換会の状況をふと思い出す。鞍馬諧報も、山鳴新聞も、風神山報も大手の有名新聞には多くの人だかりが出来ていた。

「それに比べて、私の花果子念報は……」

 はたては部屋の自室の片隅で山積みになった自分の新聞を見て、もう一度……今度は深く溜息を吐いた。

 今度の新聞大会でも、持っていってくれたのはほんの二十部かそこらだった。いや、それにも満たないくらいだった気がする。全く売れていない。

 新聞大会で、遠巻きに鞍馬諧報等の大手新聞を眺めながら、そして彼女らの新聞を受け取りながら、はたては尊敬の念と同時に切ないものを感じていた。

 はたては鞍馬諧報を横に置き、また別の新聞を手にした。

 「文々。新聞」という文字の隣、見出しのタイトルには「守矢神社で大戦争!? 逆襲の風祝!!」とあった。記事の内容は、最近こちらに引っ越してきた東風谷早苗が、八坂神奈子や洩矢諏訪子達と大喧嘩したとかどうだとか、反抗期の娘は難しいだとかそんなことが書いてあった。

 はたてはくすりと笑った。

 それは相変わらず出鱈目な記事で、でも他の新聞ではどこでも見ることの無いような内容だった。読んでいて心が疲れない内容ばかりで、大手の新聞と自分の新聞を比べてちょっと陰鬱になっていた気分を癒してくれた。

 文々。新聞は決して大手ではない。むしろランキングにすら載らない弱小だ。しかし、はたては何回か前から、新聞大会の度にこの新聞にも目を通すようになった。決して定期購読はしないが。

 鞍馬諧報ほどにネタの幅も広くなければインパクトのある書き方もしていない。山鳴新聞のように大事件をどこまでも深く追っているわけでもない。風神山報のように、矢継ぎ早に情報を出しているわけでもない。しかし、それでも……今回もはたてはこの新聞を手にしていた。

「そうね……そういえば私、大手以外にここの新聞もチェックするようになっているけど……」

 はたてはそこで天井を見上げ、思ったことを口に出すのを止めた。

 胸に浮かんだ感情を声に出して言うのは、何だか悔しかった。他の者がどう評するかは分からないが、花果子念報が文々。新聞にも遠く及ばないとは思いたくなかった。

 と、同時にはたては別の感情を自覚する。弱小といえ彼女も新聞記者としての誇りはあるつもりだ。自分の中に浮かんだ感情……その事実を無視するというのは、その方が誇りを傷つけられる。

 はたては文々。新聞を鞍馬諧報の上に重ねた。右手を握り締め、立ち上がる。

 文々。新聞がどうやってこんな新聞を書いているのか、その秘密を探ってみるというのも何か参考になるかも知れない。

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【楽園の素敵な巫女の憂鬱】

 

 昼下がり、はたては博麗神社の境内へと舞い降りた。

 境内で掃除していた博麗霊夢は、はたての姿を見つけて肩をすくめた。

「何? また天狗なの? 先に言っておくけど、新聞なら間に合っているわよ。お断りだからね?」

「そ、そんないきなり……。初めて会ったのにそれはないでしょ?」

 竹箒の先を向けてぴしゃりと言ってくる霊夢に、はたては乾いた笑みを浮かべた。

「うるさいわねー。今まで見たことない天狗だけど、見たところ鴉天狗みたいだし、どうせあんたもアレでしょ? 新聞作ってるんでしょ?」

「ええまあ、一応作ってはいるんだけどね」

 ほら見なさいと言わんばかりに霊夢は腰に手を当てて、より一層剣呑な視線をはたてに向けた。

「お断りよ。さあ、痛い目遭いたくないならさっさと帰んなさい」

「待って待って、待ってよ? 私、まだ何も言ってないじゃない。確かに新聞は作っているけど、別にここには新聞の勧誘に来た訳じゃないんだってばっ!」

 今にもお札を投げつけてきそうな素振りを見せる霊夢に、はたては慌てて両手を広げて振って見せた。

 その様子に、霊夢は一瞬だけ眉をひそめたが……。

「ああなるほど、取材に来た訳ね。今は仕事で忙しいの。だからそれもお断りよ」

「ちょっと!? だから〜っ! 私の話を聞いてよ? 今日ここに来たのは取材でもないんだってばっ!」

 再び妖怪退治用のお札を投げつけようとする霊夢に、はたては冷や汗を流した。

 霊夢が怪訝な表情を浮かべる。

「……話が見えないわねー。あなた新聞記者でしょ? 新聞の勧誘でも取材でもないって、ここに何しに来たの? お賽銭でも入れてくれるなら歓迎するけど」

「うう、そんな態度だからお賽銭も入らないんじゃないかと思うんだけど。……いや、お賽銭は入れるけどっ!」

 ぴきっと霊夢の額に怒りマークが浮かぶのを見て、慌ててはたては財布を取り出した。そして、ダッシュで賽銭箱に向かってちゃりちゃりと小銭を投げ込んだ。

 その様子を見て、はたてが霊夢の傍に戻った頃には霊夢の怒りも引っ込んでいた。心なしか機嫌もよくなって見える気がする。

 それを見て、はたては小さく安堵の息を吐いた。

「んで? ここに何の用なのよ?」

「ちょっと話が聞きたくてね。ああうん、さっきも言ったけど、あなたのことじゃないし、ここでの話を記事にする気も無いわよ?」

 やっぱり話が見えないと、霊夢は疑問符を浮かべた。

 ぽりぽりとはたては頬を掻いた。

「ええと……私は姫海棠はたてっていうの。さっきも言ったけど、私も新聞記者よ。妖怪の山では花果子念報っていう新聞を書いているわ」

「全然聞いたことのない新聞ね」

「うう……しくしく。聞きたい事っていうのは、射命丸文っていう鴉天狗のことなんだけど。彼女があなたの事を何度か記事にしているので、霊夢さんから見て文はどういう風に見えるのだろうかと思ったのよ。どんな新聞記者なのかなあというか」

「ふぅん? また妙なことを聞きたがるものねえ。まあそれなら別にいいけど」

 霊夢は苦笑を浮かべた。

「それで、文についてだけれど……そうね、性格は強引でかなり捻くれているわ。記事はいっつも嘘八百ばかりで、写真だって盗撮ばっかり。どこが『清く正しい射命丸です』なんだか」

「あ〜、私も彼女の新聞を見てちょっと気になってたんだけど……やっぱりあれ、盗撮していたものも多かったのね」

「そうよ。しかも記事だって妄想だらけだし。たまにはこう、私が格好良く異変を解決したような話を書いたっていいじゃない。結局、花が咲き乱れた異変については新聞にしないままだったし。この前の冬だったかしら? 地上に怨霊が湧いたときだって、人を地底に潜らせておいて、書いた記事が『博麗の巫女、妖怪猫にじゃれつかれる』だとか『怪奇三本足の鴉現れる』だとか『山の神は温泉好き?』だとか……まったく、もうちょっとこう……別の書き方ってものがあるでしょうがっ! 折角、異変を解決したっていうのにっ! どうして『博麗の巫女、地底から湧き出る怨霊を鎮める』とかそういう記事にならないのよーっ!! そうすれば、そうすれば……この神社だってもう少しは信仰だってっ……」

 よっぽど不満が溜まっていたのか、霊夢がぎりぎりと歯を噛み締め、竹箒に力を込める。それを見てはたては、またもや冷や汗を流した。

 もっとも、それはそれではたてに当たり散らしても仕方のないことだと分かっているのか、数秒もしたら霊夢は小さな嘆息と共に怒りを収めた。

「まあ、私の文に対する記者としての評価はこんなものね。人に迷惑かけてばっかりで妄想記事で紙面を埋めてばっかりの三流捏造記者よ。天狗の間でも評価がいまいちらしいけど、納得だわ」

「あはは……あの記事は私も読みましたが、そんな経緯があったんですね。それは霊夢さんが怒るのも無理無いなー」

 乾いた笑いを漏らすはたてに「そうでしょう」と霊夢はうんうんと頷いた。

「しかもそれを言っても全然本人、改める気が無いしねえ。あの面の皮の厚さはつくづく恐れ入るわ」

「なるほど、かなりこう……変に行動力があるみたいね。何か、私も納得」

 霊夢が言っていることは、はたても同様に記事から感じていたことであった。

「でも、その割にはその異変には文に付き合ったんですね?」

「まあねえ。……放っておくと何しでかすか分からないからねえ。厄介な奴に目を付けられたものだと、諦めているわ」

 肩をすくめて、霊夢は苦笑を浮かべた。

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【文屋の戦術と紅の戦略】

 

 はたては小さく溜息を吐いた。

 彼女は目の前に建つ紅色の屋敷を見上げ、そして再びその門の前にいる門番に視線を移した。

 緑色のチャイナ服を着た紅い髪の門番は、壁を背にして眠っていた。

 そもそも、博麗神社を訪れたのは射命丸文が取材の対象にすることが多いからのことであった。今度は、博麗霊夢と同じく彼女が取材対象にすることの多い霧雨魔理沙に文の事を訊いてみようと思ったのだが、霊夢から教えてもらった自宅を訪ねてみると、どうも留守のようだった。運がよければ神社でも会えるかと思ったのだが。

 そういうときは紅魔館に本を読みに行ったり盗みに行っていることが多そうだと文の過去の記事から判断して……更に言えばここ紅魔館も何度か記事になっていることから、文のことが聞けそうだと思ったので、こちらに来たのであるが……。

 その門番はこうして寝ているわけである。

「起こした方が……いいのかな?」

 しかし、それで追い返されてもそれはそれで本末転倒である。せめて、ちょっと中の様子を覗くくらいはしておきたい。

 はたてはしばし黙考する。

 そして、頷いた。

「結論。寝ている方が悪い」

 そう答えを出して、はたては門の中へと入ろうとして……。

「うぇっ!?」

 呻き声と共に、彼女は仰け反った。

 恐る恐る視線を左へと移すと、壁の縁にクナイが突き刺さっていた。それが彼女のすぐ目の前を通り過ぎていった。

「え……と……起きていたの?」

 はたては首を回し、今度は門番へと視線を向けた。門番は眠そうにあくびを手で押さえ、目を擦った。

「いいえ? 眠っていましたよ? ですが、それでもここら辺一帯は私の持ち場で、気を巡らせています。無断侵入の意志があれば、誰だろうとそれは許しません。まあ、あなたはこう……敵意、殺気……そういうのは無さそうなので、脅かすだけにしましたけど」

 緊張感無く、若干微笑みながらそう言ってくる門番に、はたては軽く戦慄を覚えた。仮に敵意やら何やらを持っていたなら、この門番はどんな攻撃をしてきたのだろう?

「ええと、その……ごめんなさい。私もやっぱり無断侵入はよくないって思うんだけど、でもあまりにも気持ちよさそうに眠っているもので、つい」

「あ〜、それを言われると私にも非があるから強く怒れませんねえ」

 照れくさそうに門番は苦笑した。

「でも、あなたは何の用でここに来たんですか? 見たところ鴉天狗のようですけど、私の記憶が確かなら、初めてお会いしますよね? この館の誰かとお知り合いなんですか?」

 はたては首を横に振った。

「ううん、私はここの人達とは知り合いじゃないわ。あ、怪しいものじゃないわよ? 私は妖怪の山で新聞記者をやっている姫海棠はたてっていうんだけど……」

 はたてが名乗ると、門番はちょっと困った表情を浮かべた。

「はあ……新聞記者さんですか。ああ、申し遅れましたね。私はここ紅魔館で門番をやっている紅美鈴っていいます。で……それでですね? 生憎ですが新聞の勧誘もアポの無い取材もお断りさせて頂いているんですが」

「ああああ、そうじゃない。そうじゃなくって。私はこちらに新聞の勧誘をしに来たわけでも取材をしに来たわけでもないのよ」

「……ほほう?」

「……って、えええっ!?」

 美鈴がはたての前で素早く構えを作った。

「つまり、こんな真っ昼間から泥棒に来た……と?」

 美鈴の問いにぶんぶんとはたては首を横に振った。

「違うわよっ! 私はその……ただ、もし霧雨魔理沙がここに来ていたら呼んできて貰いたかっただけで……その……」

「魔理沙? 魔理沙さんを探してここに来た……と、そういうことですか?」

 こくりとはたては頷いた。

「ええそうよ。自宅を訪ねても留守だったから。それならこっちにいる可能性が高いかなって思って」

 それを聞いて、ぱちぱちと美鈴は瞬きした。

「ええと、じゃあ魔理沙さんに取材に来たんですか?」

「ううん、そうじゃなくて……こう……射命丸文っていう天狗が霧雨魔理沙から見てどう見えるのかって聞いてみたかっただけ。記事にするとかそんなんじゃないわ」

「はあ……あの鴉天狗ですか……」

 取り敢えず、泥棒でもなさそうだと美鈴は構えを解いた。もっとも、これはあくまでも彼女なりの冗談だったのだが。

「でも、残念ですね。今日は魔理沙さんはこっちにも来ていませんよ。確かに、パチュリー様の図書館に来たり妹様の遊び相手になったりと、こちらに来ることは多いんですが……今日は森の中で魔法用のキノコ採集とかしているのかも知れないですねえ。もしくは、魔法の森の中には人形遣いもいるんですが、そっちの家の方に行っているのかも。ああ、後は香霖堂っていうお店かも知れませんね」

 美鈴の返答にはたては小さく肩を落とした。

「はあ……それじゃあ、中には入れて貰えないわよね。出来れば、ここの人達にも文のことを聞いてみたかったんだけどなあ」

「ん〜、そうですねえ。アポがある訳じゃないですからねえ。まあ、私でよければ文さんについて話をしましょうか?」

「え? いいの?」

「ええ、それくらいおやすい御用ですよ。でも、天狗の好奇心を満たせるような話はないと思いますよ?」

「それでもいいわ。射命丸文がどういう新聞記者なのか、あなたが見たり聞いたりした感想を聞きたいの」

 はいはい、と美鈴は笑いながら頷いた。

「ちなみに射命丸文ですが、私の感想としては……う〜ん、そうですね、好奇心の塊ですね。それでもって、自分に素直な人です。我が道を行くって言うか……。魔理沙さんじゃないですけど、しょっちゅう『突撃取材ですっ!』とか言ってここに押し入ってくるんです。アポ無しのことも多いし。ちょっとはプライバシーってものを重視して欲しいものです」

「うーん、それって仕事の邪魔なんじゃ……」

「はっきり言って邪魔ですね。ちゃんと手順を踏んでくれれば私だって考えなくもないのに。それに、最近は鴉が多くって生ゴミを捨てるのが大変だって、咲夜さん……うちのメイド長もしょっちゅうぼやいてくるんです」

「……鴉は全然関係ないと思う」

 呟くはたてに、美鈴は苦笑を浮かべて見せた。

「果たしてそうですかね?」

「え? どういうこと?」

「もし仮にですね? 射命丸文が鴉を使ってここを見張っているとしたら、どうです? 誰も何も伝えていないのに、彼女はパーティとか何か騒ぎを起こそうとする度に飛び込んでくるんです。そんな手口って、考えられませんかね?」

「ええっ? そんな方法って……う〜ん、どうなんだろ。ただの鴉だと、やっぱり直ぐに話を忘れちゃうもの……鳥頭だし。もしそんなことやったとしても、信憑性とかがねえ。何か知らせてくれたとしても、無駄足の可能性が圧倒的に高くなるから、私だったらやらないかなあ」

 数秒、考えてみるがそれでもやっぱり自分はやらないとはたては頷いた。自分には念写の能力がある。自室にいながら無数の情報を収集し、それを重ね合わせて真実を探ることが出来る。それなのに鴉などという信憑性の薄い情報源に頼って四方八方を駆けずり回るというのは、ナンセンスだと彼女には思えた。

「ふむ……まあ、事実はどうでもいいですけどね。もっとも……しょっちゅう紅魔館に来られると、秘密がばれるのを嫌がってお嬢様が大規模な悪巧みをしなくなるから、ある意味でこっちとしてはメリットもありますけどね。お嬢様達に振り回されると、私も大変なので」

 はたては疑問符を浮かべた。

「あれ? それって、逆に言うと文がここに取材に来るから、紅魔館は大事件とか異変を起こさないって事? 文が大事件を追っているとしたらそれって……何か、馬鹿じゃない?」

「そうかも知れませんね。特ダネをものにするっていう目的を達成する上では、まるで甘いですねー。戦術がよくても戦略的視点で修行が足りないかもです。小魚ばっかり釣って、それを餌にする大魚を逃がすっていう感じですか……。幻想郷の平穏には一役買っているかも知れませんけどね」

 くすくすと美鈴は口に手を当てて笑った。

「ははあ……なるほど。でも、それって私に言っちゃっていいの?」

 逆に、この話は文が大人しくすれば紅魔館は大事件を起こす意志があるのかも? そんな風にも受け取れる。

 記事にしないとは約束したものの、文屋との会話としては失言ではないだろうかと、はたては訝った。

「さて、どうでしょうね? 私がこれを伝えることで、それであなたが何を考えそしてどう動くのか? それこそが狙いかも知れませんよ?」

 にやっと不敵に……しかしどこか愛嬌のある笑みを美鈴は浮かべて見せた。

 真っ昼間から昼寝をしているあたり、相当に惚けた妖怪かと思ったが、案外と食えないものを持っているのかも知れない。

 はたては、紅魔館という底知れない勢力の片鱗を見た気がした。

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【希有を愛でる購読者】

 

 ドアに下げられた鈴が乾いた音を立てた。

 薄暗い店内にはよく分からないものが所狭しと、そして無造作に置かれていた。

 香霖堂の詳しい場所は、はたてはここに来るまでは知らなかったが、この表の看板とこの店内の様子から見て、まずここに間違いあるまい。

「おや、お客さんかい? 値段は書いてないけれど、何か気に入ったものがあったら僕に言ってくれ。値段を伝えるから」

「おい香霖、よく見ろよ。来たのは鴉天狗だぞ? ここにあるものを買っていくようなお客様のわけ無いだろうが?」

 店のカウンターの奥に座って本を読んでいた店主は、品物の中に立つ魔法使いの格好をした少女に言われ、少し渋い表情を浮かべた。

「魔理沙、別に鴉天狗の用は新聞を勧誘しに来るか取材に来るかだけじゃないだろう。ここは道具屋だ。つまりはまずは品物を見に来た可能性を疑うべきだよ」

「いや、その理屈はおかしい。鴉天狗であるということは、その用件は新聞の勧誘か取材であることを疑うべきだ。……と、いうわけでお前はここに何の用なんだ? 泥棒だとしたら、この正義の魔法使い、霧雨魔理沙が黙っていないぜ?」

「むしろ泥棒は君だと思うのだけれどね。あと、疑う選択が増えていることに僕は突っ込まないよ?」

 霖之助は小さく嘆息した。

 はたては目的の一人であった霧雨魔理沙に会えたことを幸運だと思いつつ、苦笑する。予想通り、賑やかな少女のようだ。

「ええと、ここに来たのは店主さんには悪いけれど、品物を見に来たわけでも買いに来たわけでもないわ」

 ほれ見ろと言わんばかりににやにやと笑みを浮かべる魔理沙に、霖之助はより一層表情をしかめて見せた。

「悪いけれど、新聞ならもう間に合っているよ。取材も、事前に連絡をくれるならいいけどね」

「ううん、それも外れよ。私がここに来たのは――」

「そうかっ! 泥棒かっ! こんな日の高い時間からなんと大胆な奴っ!」

「それも違うわよっ! 話を最後まで聞いてよっ!」

 八卦炉を向けてくる魔理沙に、はたては叫んだ。

 どうして射命丸文の取材対象はみんな最後まで話を聞かないのだろうと、がっくりとはたては肩を落とした。

「まったくもう……鴉天狗っていうだけで誰も彼もが新聞の勧誘と取材しか頭に思い浮かばないのかしら」

「鴉天狗だからな」

 さも当然だろうと言わんばかりに胸を反らして笑う魔理沙を見て、はたては深く溜息を吐いた。

「私がここに来たのは、霧雨魔理沙……あなたを探していたのよ」

「ん? 私か?」

 よほど意外だったのか、魔理沙がきょとんと目を丸くした。

 しばらくして、魔理沙は上機嫌に、ぽんと手のひらを叩いた。

「ああそうか、優秀な何でも屋にして異変解決請負人である大魔法使い霧雨魔理沙さんに仕事の依頼をしに来たというわけだな? いやはや、店を留守にしてしまったばかりに、面倒を掛けて悪いね」

「そう思うなら、君はちょくちょく出歩かない方がいいと思うのだがね。というか、君に仕事を頼むような物好きがいるわけ無いだろう」

 霖之助のぼやきを魔理沙は聞こえていないふりをした。

「残念だけど、そっちも違うわよ? 私は、射命丸文っていう鴉天狗がどんな新聞記者なのか、聞いてみたくて探していたのよ。自宅にいなかったから、紅魔館とかこことかにいるだろうなって」

 肩すかしを食らったような表情を浮かべる魔理沙に、霖之助はほれ見たことかと言わんばかりの表情を浮かべた。

「わざわざ私を捜しに来るんだから何の用かと思えば……どうして私なんだよ?」

「彼女の新聞で割とネタになることが多いからよ。ちなみに、博麗の巫女のところも、同じ理由で既に行ってきたわ」

「なるほど、ご苦労なこった」

 魔理沙は小さく笑みを浮かべた。

「文ねえ。そうだなあ……『幻想郷一早くて確かな新聞』とか自称しているくせに、扱うネタが一週間とか一ヶ月前のことだったりして結構遅いんだが、それってどうなんだろうなって思うな。真実しか書かないとも言っているが、結局は自分が書いていて楽しそうかどうかだけでネタを判断しているんじゃないか? 情報収集の役には全然立ってないな」

「なるほどなるほど」

「それに、色々と食えない奴だな。この前の間欠泉から怨霊が湧いた異変のときもそうだけど、あの手この手であの霊夢を担いだり、紙舞だとか適当なこと言って新聞読ませたり。……後で気付いた霊夢にぼこられていたが。とにかく、自分の目的のためには手段を選ばない奴だ。嘘も平気で吐くし。とにかく、あいつにとって面白い新聞が作れればそれ以外はどうでもいいっていうか、立ち止まるとかそんなことってあまり無いんじゃないか?」

 まったくもって、迷惑な奴だと魔理沙は肩をすくめて見せた。それを見て霖之助は魔理沙も霊夢も似たようなものだと思ったが。特に、手段を選ばないあたりが。

 ふむふむと、はたては頷いた。

「つまり、魔理沙にとっては文々。新聞は新聞としてほとんど無価値だし射命丸文も三流の記者でしかない。そういう認識なのかい?」

 口を挟んできた霖之助に、魔理沙は頷いた。

「そうだな。だいたいはそんなところだ。香霖は違うのか? そういや、あれを定期購読しているようだが。まったく、物好きな奴だ」

 定期購読。その言葉にはたては一瞬、胸に痛いものを感じた。花果子念報には定期購読してくれる読者はまだいない。

「出来れば、新聞を窓の外から投げ込んでくるのを止めて欲しいけどね。それともかく、僕はあれをそこまで酷い新聞だとは思っていない。君は魔理沙に話を聞きに来たようだけれど、僕も話をしていいかな?」

 時間の都合もあって、射命丸文と接点の多そうな人物を選んで話をしようとしてきたわけだが、どうせならなるべく多くの人から話を聞いた方がいい。

 はたては霖之助に頷いた。

 それを見て、霖之助もそれじゃあと口を開いた。

「まず最初に言っておくと、僕も基本的には魔理沙との感想は変わりないよ。速報性はあまり無いし、記事の内容だって手広くやっている訳じゃない。新聞としては欠点も多いだろうね」

「おい香霖? じゃあ何だってそんなもの購読しているんだよ? 窓のガラス拭きにでも使っているのか? それとも、焼き芋を焼くためか?」

「確かにガラスを拭いたり焼き芋を焼いたりするのにも使っているが、それだけを目的にわざわざ購読するわけないだろう? 一応、読むためだよ」

 言っていることが分からないと、魔理沙とはたては疑問符を浮かべた。

「じゃあ、何だってそんなもの読んでいるんだよ?」

「決まっているだろう? 『面白い』からだよ」

 ますますもって理解不能だと魔理沙は首を傾げた。そんな魔理沙を見て霖之助は苦笑する。

「『どこが?』などと聞かれる前に、言っておくよ。そうだね……彼女の書く新聞の優れたところは、他のどこの新聞ともネタが被らないこともそうだが、大きく人が傷つくような記事というものが無いということだ。記事は事件を大げさには書いているが、事件を更に大きく煽り立てようというような書き方ではないんだよ。どちらかというと扱っている事件も賑やかで気楽な雰囲気のものが多いしね。彼女の性格がそうさせるのかどうか知らないけれど、安心して読むことが出来る。これは僕が知る限り、他の新聞には無い優れた特色だよ」

 そういった点に加えて、霖之助の場合は人の寄らない道具屋を営んでいるわけで……速報性というものをそれほど重視していないというのもあるのだろうが。

「それはただ、刺激の強い事件から目を背けているだけじゃないのか?」

「勿論、そういう意見もあるだろう。しかし、より強い刺激を欲するために、かえって事件というものが大きくなっていくことがあるということを、新聞を作る者も読む者も知るべきだよ。そういう点で、内容には問題も多いけれど、彼女なりに事件を煽らないよう注意を払って真実を書こうとしているように僕には見える。そう、あの新聞は事件を煽らないよう気を遣っている分、他の新聞よりは事実に近い情報を得ることが出来ると、僕は思うね」

 そう言われても納得出来ないのか、魔理沙はいまいち腑に落ちない表情を浮かべていたが。

 結局のところ、ここは感覚の違いでしかないと、霖之助は肩をすくめた。

「購読数だけで新聞の優劣を決めるというのは、僕は危険なことだと思っている。新聞というものは事件を通して読者に考察を促すものだ。それが出来ていない新聞は、どれだけ情報が多く、そして興味を引く書き方をしていても、優れているとは思わないね。むしろ知識というものを勘違いした輩を生み出すという悪影響の方が多いと思う」

「つまり、あなたにとっては射命丸文は優れた新聞記者である……と?」

「少なくとも、購読数が多いだけの大天狗達よりはね」

 霖之助の答えに、はたては自分の目の付け所に対して自信を深めると同時、少し悔しいものを感じた。

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【第三の目が視る誇り】

 

 大きな屋敷の大きな部屋の中で、はたてはきょろきょろと周囲を見渡した。座っているふかふかのソファもそうだが、壁に並べられた高そうな調度品に、落ち着かないものを感じた。

 ここまで案内してくれた妖獣が淹れた紅茶と、皿に盛られたクッキーがいい匂いをさせていた。

 かちゃりと扉が開く。

「お待たせして申し訳ありませんね。姫海棠はたてさん。初めまして、古明地さとりです」

「あ……いえ、こっちの方こそ忙しい中押しかけちゃってすみません」

「いえ、気にしないで下さい。ちょっとくらいならペットに任せておけば大丈夫ですから。ふふ……そんなに固くならなくても大丈夫です。どうぞくつろいで下さい」

 微笑みを浮かべて、さとりははたての前のソファに座った。

「それで御用件は……ははあ、『射命丸文さんについて聞きたい』ですか。珍しいですね。ええ、すみません。私もてっきり取材か新聞の勧誘だって思っていました」

 苦笑するさとりを見て、はたても似たような笑みを漏らした。

「そうですね。射命丸文さんは……ええ、だいたいはあなたが今日、霊夢さんや魔理沙さん達に聞いた通りの方ですよ。とにかく好奇心が旺盛で、新聞のネタのためなら何でもするっていう感じの方です」

「あー、やっぱりそうなんだ」

 はたては頷いて、テーブルの上に置かれた紅茶を啜った。香りもそうだが、いい茶葉を使っているのだろう、美味であった。

 さとりは目を細めた。

「ですから、今まではたてさんが聞いていないような面の話をした方がよさそうですね。はたてさんも、私が文さんの内面を視た上での話を聞きたくてこちらに来たようですし。あ、紅茶気に入って頂けたんですね。有り難うございます。私も大好きなんですよこれ」

 ポットから自分用のカップに紅茶を注いで、さとりはにこやかな笑みを浮かべた。それを見て、はたても少し緊張が解けるのを感じた。

「『文さんについて、はたてさんがまだ聞いていない面とは何か?』ですか。ええ、どちらかというと香霖堂の店主さんの話に近いかも知れませんが……彼女は新聞記者として彼女なりの誇りや信念を持っていますよ」

「誇りや信念……ですか?」

 さとりは頷いて見せた。

 確かに、香霖堂の店主は割と好意的に文を見てはいたが、それでもあの新聞には問題が多いと言っていた。そして、はたてもどこか魅力はあるとは感じていたが、それでも出鱈目な部分だらけの新聞だと思っている。そんな新聞を書く記者に、どんな誇り、そして信念があるというのだろう?

「はたてさんが感じているその疑問はもっともですけれどね。そうですね、前に地霊温泉饅頭の取材に来たので、そのとき視たのですが……あの人は新聞記者は自分の目で事実を追うべきだという信念を持っています。そして、それこそがあの人の誇りなんですよ。あと、新聞は人の心を豊かにしなくちゃいけないとも思っていますね。だから、読んでいて嫌悪感を招いたり、事件を更に煽り立てるような記事も書かないみたいですね」

「ふ〜ん。……そう……なんだ」

 射命丸文を侮っていたつもりはない。

 しかし、彼女なりにあるという誇りを聞かされて、はたての心は小さく揺れた。

 そんなはたてに、さとりは微笑む。

「不安に思う必要なんて、無いですよ。私の視たところ、はたてさんにも、はたてさんなりに新聞記者としての誇りがあるみたいですし。そう……記事はいくつもの情報を重ね合わせて検証し、推敲を重ねた上で書かなければ真実には辿り着けない。独りよがりな視点で書いた記事には中身が無いという信念があるんでしょう?」

「う……うん。そりゃまあね」

「その信念も、私には間違ってはいないと思いますよ。それに、さっき私は彼女のことを『ネタのためなら何でもする』って言いましたが、それはあなたも同じでしょう? はたてさんもこうして、私に心を悟られることを覚悟した上で、ここに来ているんですから。ですから私は、はたてさんが文さんより劣る記者だろうとは思いません」

「新聞記者だけが、一方的に隠し事を暴く何てなんてのは卑怯よ。暴かれる側の痛みを忘れたら、それはときとして、暴力以外の何ものでもない記事になるもの。だから私は……記者も常に覚悟を持たなくちゃいけないと思うわ」

 それは、滅多に人には語らないはたてなりの信念であったが、それでも譲れないものであった。

「そういう信念を持った人は、私は好きですよ。ふふふ……安心して下さい。私もさとり妖怪としての誇りがあります。心を暴かれる痛みと恐怖を食らう卑しいさとり妖怪故に、心の大切さ……本当に隠したいことを悟られることの痛みと恐怖はよく知っているつもり。ですから、必要以上に心を暴き立てるような真似はしませんし、口も堅いつもりです。はたてさんのプライバシーに関わるような部分は読んでいませんし、読んでいたとしても口外はしませんよ」

 ウィンクしてさとりはカップの紅茶に口を付けた。

 軽い口調と態度で言ってくるが、それでもそこには何の澱みも無かった。さとりの言っていることは本当のことだと、はたても疑わない。

「それにしても、あなたと文さんは正反対のようですけれど、似ていますね。はたてさんが文さんのことを気にするのも分かる気がします」

「……え?」

 射命丸文がネタを追い求めて四六時中幻想郷を駆け回るのに対し、はたては情報の質を求めて自室でそれを整理している。それは確かに正反対であり、そして互いに譲れない信念を持っているという点で似通っている。

「多分ですけれど、文さんもはたてさんの新聞を読んだら、面白いと思うと思いますよ? 反発することも多いですが、互いに自分に無いものを持っている存在に人は惹かれるのですから」

「わ、私は別に、文々。新聞なんて――」

「面白いからわざわざ幻想郷のあちこちを飛び回って文さんについての話を聞いて、あまつさえこんな地底深くまで来られたんでしょう?」

 断言するさとりに、はたては顔を赤くした。

 そんなはたてに対し、さとりはにやりと笑みを浮かべた。

 心を読む妖怪に嘘が吐けるわけもなく、はたては顔を赤くしたまま押し黙る。

「ごめんなさい。ちょっと意地悪でしたね。ですが、意地悪ついでにもう一言言わせて下さい」

「……なによ?」

「そんなにも気になるのなら、私達の話を聞くだけじゃなく、文さんを直に追いかけてみてはどうですか? 様々な視点による情報と分析も大切ですが、百聞は一見に如かずという言葉もあります。きっと、はたてさんにとって新たな発見が多く見つかると思いますよ?」

 さとりの言葉は抗いようもないほどに心に突き刺さってきて、それ故にはたては素直にそれを受け入れる素振りは見せられなかった。

 唇を尖らせながら、はたてはどうしてこの物腰穏やかな妖怪が忌み嫌われるのか、その本当の理由が分かった気がした。「恐らくこの思考も読んでいるんだろうな」等と思いながら。

「ええ、勿論読ませて頂いていますよ」

「口に出すなっ!」

 恥ずかしさを紛らわせようと紅茶を一気に飲み干すはたてを見ながら、さとりはくすりと笑った。

-6ページ-

【そして、ダブルスポイラーへ】

 

 帰宅後、自室の中ではたては文々。新聞を眺めた。

 読んでいるのは、つい最近手に入れたものではなく、少し前のものだ。流石に古いものは捨てているが、ここ二、三ヶ月くらいのものはまだ取っておいてある。

 それらの新聞の中では、どの写真も……今日はたてが会いに行った少女達が、賑やかに騒いでいた。

 はたては記事を読み返した。やっぱり出鱈目だと思った。でもやっぱり読んでいて、惹かれるものを感じた。

 そして、それが彼女には気に入らない。どこかで、それに対して反発する気持ちが抑えられない。

 射命丸文。彼女に対する人々の評価は、概ねはたても同意するものであった。けれど、感情的には受け入れられないものもあった。

 故に、記事を読み返すたびに一つの考えが思い浮かぶ。

「そうよ……こんな出鱈目な記事。私だったら……私ならもっと凄い記事に出来るんだからっ!」

 はたては、射命丸文とは違った視点で……自分だったらどうやって記事を書くか、幾度も想像する。

 博麗の巫女が抱く不満の件もそうだ。あれだけの事件を妖怪猫が巫女にじゃれついただとか、そんな記事にするのはあまりにも……そう、ネタを殺している。はたてにはそう感じられ、許せなかった。

 文の紅魔館への取材の仕方も、不満が残る。自分だったら……突撃するだけが能じゃない、もっと慎重に取材をするだろう。もっとも、それでもあの門番や……紅魔館の住人達の手の平の上なのかも知れないが。

 文々。新聞には多くの問題がある。そこは、はたても感じていたものだった。それでも、この新聞を……自分にはない魅力を認める者だっていた。では、文々。新聞が抱えている問題を無視していいものだろうか? それは否だと思う。魔理沙の言うとおり、彼女はきっと自分の好みで記事を書いている。さとりは、文は文なりに記者としての誇りや信念を持っていると言っていたが、それが事実だとしても……いつまでもこういった問題が解消されないというのは、文の記者としての甘さであり怠慢ではないだろうか? そこを正せば、もう一歩上に行けるかも知れない。そこが、はたてには口惜しい。

 拳を握り締め、はたては大きく頷いた。

 

“そうね。やっぱり……負けたくはないわね。射命丸文には”

 

 今まで、まともに会って話をしたわけでもない相手にここまで入れ込むのはおかしな事かも知れない。しかし結局のところ、色々な人物に話を聞いて確認したかったことは、それがすべてなのかも知れない。

 そして、その感情を偽ることは、やはり……これ以上は出来そうになかった。

 さとりに言われたことをそのまま行動に移すというのはちょっぴり癪だが、いい記事を書くためには、そんな些細なことで立ち止まるなんて記者として失格だろう。

 はたては、今度は文を直接追うことを決意した。

 

 

 ―END―

 

説明
東方二次創作
姫海棠はたては文々。新聞のことが気になるようです。
文もはたても新聞記者としては色々と未熟な点を抱えていますが、それでも自分なりのポリシーを持って新聞を書いている姿というのは、見ていて楽しいものがあります。
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コメント
いいですねー。かっこいい美鈴というのもなかなか貴重です。出てくる人物の特徴もそれぞれよく出ていると思いました。(きみたか)
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