真・恋姫無双 黒天編 第7章 「灰色軍旗」中編
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真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第7章 「灰色軍旗」中編 見幻と顕現

 

 

                   ―呉―

 

雪蓮は森の中で明命と会った後、明命の案内により無事に森から脱出することが出来た。

 

そして、二人はすぐに建業へと駆けて行った。

 

建業の城に着くとすぐに、雪蓮はすぐに蓮華の部屋へと向かう。

 

部屋の前には呉の重鎮といえるべき者達が勢ぞろいしていた。

 

「あっ、姉様!!」

 

小蓮はいち早く雪蓮の姿を見つけ、声を上げる。

 

「シャオ、蓮華の様子は?」

 

「いつものお医者さんに見てもらったんだけど、体調は別に問題ないみたい」

 

「そう・・・ふぅ〜、一安心ね」

 

「でも、お姉ちゃん。いつもより元気がないみたい」

 

雪蓮は小蓮の悲しそうな表情を見て、安心させてあげようと優しく頭を撫でてやる。

 

「蓮華には今、会えるの?」

 

「少しは安静にしてあげてってお医者さん言ってたけど、姉様ならいいんじゃないかな?」

 

雪蓮は小蓮に確認を取った後、その場にいる一通りの者達に目をやる。

 

皆も小さく頷いてくれているのが分かった。

 

その様子を見た後、雪蓮は静かに蓮華の部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「蓮華?起きてる?」

 

「あっ、姉様・・・」

 

部屋に入ると蓮華は寝台から体を起こしている状態だった。

 

しかし小蓮が言うとおり、いつもより生気が全然ない。

 

やはり、どこか体調が悪いのではないかと心配してしまう。

 

「ほんとに体は大丈夫なの?」

 

「はい・・・」

 

雪蓮は寝台の近くに椅子を持ってきてそこに座る。

 

蓮華のおでこに手を当てて熱を測ってみても平熱といった感じだった。

 

すると突然、蓮華は両手で雪蓮の両頬を包むように触った。

 

「ちょ、どうしたのよ。突然」

 

「姉様・・・死んでませんよね・・・夢じゃないですよね。冥琳も大丈夫ですよね・・・」

 

蓮華は雪蓮の顔がそこにあるか確認するように触っていく。

 

目の前の姉が夢ではなく、現実なのを確認するために

 

「私の心配をするなら自分の体の心配をなさい。あの程度の相手に私が遅れをとるとでも?」

 

雪蓮は森での襲撃者のことを言ってるのだと思い、そう返事する。

 

「冥琳だって今は中央でがんばってるわ」

 

「うん・・・。祭は?」

 

「祭はさっき会ったんじゃないの?外にいるけど、呼んであげましょうか?」

 

「ううん、いいです」

 

蓮華は雪蓮の顔から手を離し、次は窓から見える景色を眺める。

 

雪蓮はその様子を見て、今は倒れた原因を本人から聞くべきでないと考える。

 

「きっと、今までの疲れが一気に出ちゃったのよね。数日の間は休みなさい」

 

「はい・・・」

 

いつもの蓮華ならたとえ風邪をひこうがケガを負おうが政務はやるといいそうであるが、今日は素直に雪蓮の言葉に従っていた。

 

「それじゃ、私はやることが出来たからもう行くわね。あと、もう少し南海覇王借りるわね」

 

雪蓮が椅子から立ち上がろうとすると

 

「どこかに行かれるのですか?」

 

蓮華がふとそう訊ねた。

 

「ええっ、ちょっとね」

 

「ダメです!!城に居てください!!」

 

蓮華は布団をバサッと跳ね除けて立ち上がり、雪蓮の体にすがりついた。

 

「えっ!?蓮華・・・、どうしたのよ」

 

「ダメです!どこにも行かないでください!!もう私の前から居なくならないでください!!!」

 

まるで駄々をこねる子供のように蓮華は雪蓮の腕を掴んで離さない。

 

「一刀は・・・一刀はどこですか!姉様!!」

 

「蓮華、落ち着きなさい。どこにも居なくならないし、ちゃんと帰ってくるから・・・。ねっ」

 

雪蓮は取り乱している様子の蓮華を優しく抱きしめてやる。

 

「一刀も一緒に帰ってくるかもよ・・・だから、蓮華は休みなさい。絶対、帰ってくるから」

 

「うん・・・絶対ですよ」

 

蓮華はその言葉に納得したのかまた寝台の方へと戻っていった。

 

そして、もう一度雪蓮の姿を確認した後、布団を被りなおし横になった。

 

蓮華の様子を再度見た後、雪蓮は蓮華の部屋から出て行った。

 

 

 

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雪蓮が部屋から出ると、まだそこには小蓮、穏、明命、祭、亞莎、思春がいた。

 

「どうでした?蓮華様の様子は?」

 

「あの子、相当精神的にまいってるわね。あの子に泣き付かれたのなんてもう何年ぶりかしら」

 

「策殿もですか」

 

一番後ろのほうにいた祭が、雪蓮の方へと近づいていく。

 

「祭もなの?」

 

「わしの顔をベタベタと触って、死んでないか確認された後、もうどこにも行かないでと言われましたわ」

 

実は祭が蓮華の部屋に入ったときも雪蓮にした行動と全く同じ行動を蓮華はとっていた。

 

「私達はそうでもなかったのですが・・・」

 

祭以外の者が蓮華の部屋に入っても、いつもよりか元気がないだけであとは普通だった。

 

「なぜ、私と祭だけなの?」

 

「きっと、日々のわしらの行動を心配なさっているのだろう。本当に酒は止めんといかんかのぅ」

 

祭は少し今までの行動を振り返って、軽くため息をついた。

 

雪蓮や祭たちが話をしていると、そこから静かに近づいてくる気配を明命は感じ取った。

 

そして、明命はその場所から静かに離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「周泰様、報告です」

 

「どうでしたか?」

 

「こちらを・・・」

 

少し離れた廊下の端で明命は部下の暗部の者から一つの報告書を受け取った。

 

「他の国の暗部の者も同じことを調べていたようです」

 

「そうですか・・・。!?これは・・・、確かにそこから出てきたのですか?」

 

「はっ、珍しい布ですから、おそらく間違いないかと」

 

「何かに使えるかもしれませんね。冥琳様には・・・」

 

「報告済みです。あと、周泰様に戻ってきてほしいと」

 

「分かりました。ご苦労様です」

 

「失礼します」

 

報告が終わった後、すぐに明命の目の前から姿を消した。

 

「はやく、冥琳様の下にいかないと」

 

受け取った書簡を明命は胸元に収める。

 

「明命?どうしたの?」

 

明命は後ろを振り返ると、そこに亞莎がいた。

 

「亞莎、実は冥琳様からすぐに戻ってくるように命令されたのですが・・・大丈夫でしょうか?」

 

「それはちょうどいいですね。雪蓮様と祭様が襲撃された村に行くって仰ってたし、思春様は蓮華様の護衛だから、明命に冥琳様への報告を言ってもらおうと思ってたんです」

 

「なら、今からでも行ってきてもいいですか?」

 

「分かりました。穏様が報告書を作っていますので穏様の所まで行きましょう」

 

「はい!!」

 

二人はそのまま、報告書を取りに行くために穏の部屋へと向かっていった。

 

 

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雪蓮と祭は今日中に出撃準備を終えようと兵士達に指示を出していた。

 

準備は雪蓮が城に帰ってくる前から始まっていたため、予定通りに出立できそうだ。

 

「そういえば、策殿。その腰にあるのは何なのじゃ?」

 

「えっ・・・、ああ、これね」

 

雪蓮は腰にしまっておいた何かを取り出す。

 

それは、雪蓮が黒布の女を取り逃がした時に感情に任せてへし折った矢だった。

 

鏃(やじり)の方は森へと捨ててしまったが、矢羽の方は無意識に握り締めていた。

 

建業の城へと向かう際にそのことに気づき、一時的に腰へとしまったのだ。

 

「取り逃がした女が放った矢よ。あまりに人をバカにするからへし折っちゃった」

 

「ふむ、矢羽になにか文様があるようですな」

 

「えっ」

 

雪蓮はその矢羽を見てみると、確かにそこには何か文様が書かれていた。

 

「なにかしら・・・、文字?模様?」

 

「どちらにもとれそうですな」

 

その矢羽には「*」と描かれていた。

 

「冥琳あたりなら何か知ってるかしら?」

 

「そうじゃな、出発する前に白帝城へ報告に行く者に渡せばよいじゃろう」

 

「そうね・・・」

 

雪蓮はその折れた矢をじっと見つめている。

 

無意識に手に力が入っているのか、矢を持つ手が震えていた。

 

「・・・、策殿が賊を取り逃がすとは珍しい。相当の手練でしたか?」

 

「ええっ、正直かなりの腕前だと思う。私が近づくことが出来なかった」

 

「それはすごい。敵も天晴れな奴じゃな」

 

「祭、そういう冗談は好きじゃないわ」

 

「いやいや、本気でそう思っております。わしも弓を使いますからな」

 

祭は雪蓮の顔を見て、真剣な顔でそう言う。

 

「森の中で動く敵の急所を的確に撃つ技術、策殿のように強烈な覇気を放つ者相手でも冷静に弓で対応する度胸、どれをとっても天晴れとしか言いようがない。正直、策殿が無事に帰ってこられただけでもわしは安心しております」

 

雪蓮も祭の顔を真剣に見つめている。

 

「私が負ける可能性があったとでも言いたいの?」

 

「いいえ、それは考えておらん。策殿は充分強い。引き際も充分理解しておられましょう。しかし策殿、戦いの空気など久々だったのではないか?」

 

「ええ、天下一品武道会以来かしら?」

 

「いえいえ、そういうのではなくてじゃな。殺るか殺られるかという戦いの空気じゃ」

 

確かに天下一品武道会で各将軍達と力比べ、武力の競い合いは年に数回おこなっている。

 

しかし、殺すことはもちろん御法度になっている。

 

「そうね。賊退治なんて蓮華に王位を譲ってからやってないから大分経ってしまっているわね」

 

「そんな空気など吸わぬことにこしたことはない。しかし、長くその空気を吸わないでいると戦に対して心の中に“恐れ”が出てきましょう。“恐れ”は人の感情を混乱させ、体の動きを止めてしまうこともある。そういったとき、人は自分の実力など充分に出せないじゃろうな」

 

祭の言葉に雪蓮はあの黒布の女に言われた言葉も同時に思い出す。

 

『あなたの勘は確実に鈍っている』

 

昔の自分ならあんな小細工にも引っかからなかったろうし、相手を逃がさなかったかもしれない。

 

確かにあの女や祭の言うとおりかもしれない。

 

「祭の言いたいことはつまり、戦から離れた私が“平和ボケ”してるってことかしら?」

 

「ふふっ、どうでしょうな。この頃鍛錬している姿など見ていなかったもので・・・」

 

「そうね・・・私がなくしていたものをもう少しで取り戻せそうな気がする。ありがと、祭。活を入れてくれて、次こそ奴を捕まえてみせるわ」

 

「それでこそ、策殿じゃな」

 

祭は豪快に笑い声を上げる。

 

「報告、準備完了しました」

 

「それでは、策殿。参りましょか。50里などすぐでしょうからな」

 

「ええっ、行きましょう。・・・皆の者、出陣する!!」

 

二人はすぐに馬に乗り、城門から駆け出て行った。

 

 

 

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城から出発して、半刻が過ぎようかとしていた頃

 

「そういえば、相手の詳しい情報とか聞いてないの?」

 

「いや、特に何も聞いておりませんな。ただ、黒い集団とは聞いておるが」

 

「黒い集団・・・、何者かしら?」

 

「行って、伸してしまえば問題ないじゃろう」

 

「ふふっ、相変わらず豪快ね。祭は」

 

雪蓮と祭は敵の話をしながら、馬で駆けていた。

 

50里など馬で走れば半日もかかる距離ではない。

 

目的地に着けば即戦闘になるかもしれないと考えたため、雪蓮は少しでも情報が欲しかった。

 

すると、二人は前線が少し騒がしいことに気がつく。

 

「ほ、報告!!大変です!!」

 

「どうした!!」

 

この世の終わりといわんばかりの顔をしながら、報告をしに来る。

 

「りゅ、龍です!!目の前に龍が・・・ひっ、うわああああーー」

 

そう言った後、その兵士は後方へと逃げていった。

 

「待ちなさい!!龍なんて滅多にいないでしょ!!いったいなんだって言うの?」

 

「策殿!先行隊の様子がなにやらおかしい!!」

 

雪蓮が前方を見ると、確かに前方の隊列が乱れに乱れていた。

 

「うわぁぁぁぁ、巨人だーー。逃げろーーーー」

 

「火矢が、火矢が〜〜〜〜」

 

「やめろ・・・、オレに近づくな!!止めてくれ!!!」

 

前方の先行隊の者たちが次々後方へと逃げてくる。

 

その兵士たち一人ひとりが意味不明なことを口走っている。

 

「落ち着きなさい!!どうしたの!!」

 

「ひっ!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

兵士の一人が雪蓮の姿を見るや否や、そのまま地べたを這いずりながら逃げていった。

 

「先行隊はどうなってるのよ!!」

 

「わからん!!とりあえず、行ってみましょうぞ!!」

 

「ええっ」

 

二人は自分が乗っている馬に活を入れて、速度をあげる。

 

馬で先行隊の方へと向かっている間も、兵士たちは次々と後方へ逃げていっていた。

 

その様子を見ながら、二人はさらに馬の速度をあげる。

 

混乱が起こっている中心地へと二人は駆けていった。

 

その途中、どこからか嗅ぎ慣れない匂いがしたのを二人は感じた。

 

 

 

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「ふふっ。来ましたね」

 

黒い服を着た淑女は首にかけられている赤い勾玉を握る。

 

握られたその勾玉はその瞬間、赤黒く輝きだした。

 

「今の外史の状態では全力でもこの程度ですか。まぁ時間稼ぎだけですからね。良しとしましょう」

 

そして、その女は小さく息を吸い込む。

 

『幻よ、現(うつつ)へと見幻なさい』

 

 

 

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「ん?策殿?」

 

祭は今まで併走していたはずの雪蓮の姿がないことに気づく。

 

いや、どちらかといえば急に気配がなくなったという方が正しい。

 

そればかりか、今まで周りで混乱していた兵達の姿もなくなっている。

 

祭は馬から下りた後、周りを見渡してみるが人っ子一人いない。

 

今まで晴れていたはずの天気もどことなく曇っており、周りは霞がかかったように見通しが悪い。

 

「これはいったい・・・ん?」

 

祭は霞の向こうになにやら人影のような物があることに気づいた。

 

「策殿か?」

 

人影らしきものに声をかけるが返事はない。

 

しかし、その霞(かすみ)に写る人影が徐々に大きくなっているように感じた。

 

こちらに近づいてくる。

 

祭はその人影は誰なのか見極めようと必死に目を凝らす。

 

そして、徐々に容姿が見えるようになってきた。

 

桃色の長髪に赤の服を着ているのが分かった。

 

初めは雪蓮かとも思ったが、少し違う。

 

「な!!なぜ・・・貴方様が・・・」

 

ゆっくりと輪郭を現すそれに祭は自分の眼を疑う。

 

眼の前の光景が信じられず、祭は一歩後ろに後ずさる。

 

「久しいな・・・公覆(こうふく)・・・」

 

その人物は一歩一歩、祭へと近づいていく。

 

その人物が近づいてくるたび、祭はその分だけ後ずさる。

 

その人物は雪蓮や蓮華と同じ色の髪を持ち、額には孫呉の証である印が浮かび上がっている。

 

「わしは夢をみてるのか。貴方様がこの世にいるわけが・・・」

 

「ふふ、異なことを言う。現に目の前におるではないか」

 

その人物の手には祭も見慣れた武器が握られていた。

 

その武器の名は「古錠刀(こていとう)」

 

若かりし時の自分の主が愛用していた刀

 

その人物のすべてが込められた古き刀

 

「さぁ、久々に死合おうではないか」

 

刀を構え、祭と対峙するような位置取りをする。

 

「いや、そんなはずはない!!貴方はあの時!!」

 

「ふっ、我の存在を信じぬか・・・。頭が思い出すことを躊躇うならば、体に思い出させてやろう!!」

 

その瞬間、その体からとてつもない覇気が放出される。

 

祭はその覇気を体に受けて、顔を腕で覆い、また一歩後ろへと下がってしまう。

 

「この重くどこか懐かしい覇気・・・」

 

「少しは信じる気になったか?」

 

「やはり貴方なのですか・・・堅殿・・・」

 

「いかにも、我が名は江東の虎、孫文台!!さぁ、公覆!!いざ死合おうではないか!!」

 

孫堅が地面を蹴ったかと思ったそのときにはすでに祭の懐まで飛び込んでいた。

 

そして、祭の胴を薙ぐように一閃する。

 

その一閃は不意に放たれたものだが、その斬撃を祭は辛うじて避けることが出来た。

 

しかし、完璧には避けきることは出来ず、服がその斬撃の後を追うように破れていく。

 

「さぁ、公覆!!弓を持て!刃を持て!久々なのだ!!我を楽しませてみせよ!!」

 

あたり一面に孫堅の声がこだまする。

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「祭?ちょっと、どうしたのよ・・・」

 

先行隊の様子を確認するため祭と一緒に馬で併走していた雪蓮

 

しかし、その途中で急に祭が乗っている馬が止まってしまった。

 

どうしたのかと雪蓮は馬をUターンさせて、祭の方へと近づいていく。

 

その間に祭は馬からも下りてしまっていた。

 

声をかけるが返事は返ってこない。

 

祭の顔を覗き込むとどこか引きつった表情を浮かべていた。

 

「な・・・、あなた・・・・が・・・」

 

口は小さく動いていて、何かを喋っているようだが正確には聞き取ることが出来ない。

 

「わた・・・ゆめを・・・、あなたさまが・・・この世に・・・」

 

「ちょっと!!祭!!もしかしてあなたまでおかしくなったの?」

 

肩を揺らしてみても、まるで反応なし。

 

「祭!!ちょっと!!しっかりなさ・・・くっ!?」

 

すると突然、雪蓮は視界が一瞬歪んだように感じた。

 

その後、すぐに頭が締め付けられるような痛みに襲われる。

 

「ぐっ・・・がっ・・・」

 

強烈な頭痛により、雪蓮は立つことさえ困難になってくる。

 

雪蓮は倒れるわけにはいかないと思い、南海覇王を杖代わりにしようと手を伸ばす。

 

そして南海覇王の柄を掴んだその時、不思議なことに今まであった頭の強烈な痛みがスッと消えていくのを感じた。

 

しかし、全快というわけにはいかず、少しの眩暈だけが残る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・いったいなんなのよ・・・」

 

なんとか体勢を立て直した雪蓮は南海覇王から手を離し、再び祭の様子を確認しようとする。

 

しかしその瞬間、またもや強烈な頭痛が雪蓮を襲った。

 

「ぐあっ!?くつっ!!」

 

雪蓮はたまらず次は地面に片膝をつけてしまう。

 

雪蓮は再び南海覇王を杖代わりにと柄に手を伸ばす。

 

柄を握り、鞘から引き抜こうとしたその時、雪蓮を襲った頭痛は再び沈静化し始めた。

 

「どうゆうこと・・・南海覇王を握ると痛みがなくなる・・・そんなまさか・・・」

 

刀を握ると直る頭痛などそんな都合のよい持病は持ってはいない。

 

しかし、現に刀を握っている今はあの強烈な頭痛は襲ってこない。

 

雪蓮は試しに南海覇王から手を離してみる。

 

すると、すぐに強烈な頭痛が雪蓮を襲う。

 

「ちっ・・・ならば・・・」

 

雪蓮は再び南海覇王に手をかける。

 

すると、また頭痛の痛みがスッと消えていった。

 

その状態でしばらくジッといてみたが一向に頭痛が来る気配がない。

 

「どうやら、ほんとに私の思っているとおりのようね・・・。信じられないけど・・・」

 

南海覇王を握っている間、頭痛はこない。

 

そう確信した雪蓮は南海覇王を抜き放つ。

 

「でも・・・いったいなんで・・・」

 

『南海覇王・・・さすがにこの外史の宝剣には今の中途半端な幻術などあまり効きませんか』

 

「!?」

 

突然の後ろからの声に雪蓮はすかさずその相手と距離をとる。

 

「何者!!・・・、ほんとに今日は次から次へと変なのに会うわね」

 

「お初にお目にかかります。私の名はカガミと申します」

 

カガミと名乗った女が美しく優雅に雪蓮にお辞儀をしてみせる。

 

黒のロングドレスに後ろの景色が透けるほど薄い白いマントを背にたなびかせている。

 

黒のロングの髪型、首にかけられている真っ赤な宝石はその女の美しさをさらに引き立てている。

 

風貌だけを見るとどこかの美しい占い師を連想させる。

 

「こんなおかしな状態にしてくれちゃったのはあんたなのかしら?」

 

「はい・・・、実に残念なのですが、あなたをまだこの先には行かせることは出来ません」

 

「ってことは、村を襲ったのもあんたの仕業ということね。まだ、証拠を隠しきれていないと」

 

「お察しのとおりでございます。なので、私がここであなた様方の足止め・・・つまりは時間稼ぎのお相手をさせていただきます」

 

「細っこいどこぞの占い師に私が止められるとでも?」

 

雪蓮は南海覇王をカガミに向けて構え相手を威嚇する。

 

しかしカガミに動じた様子はなく、さも自然に装っている。

 

「確かにあなたと私では武の力は違いすぎますし、私に勝ち目はないでしょう・・・」

 

「なら、さっさと祭や兵士たちを元に戻しなさい」

 

「ふふっ、言ったでしょう。私はあなた様方と勝負するためにここに来たのではなく、足止めに来たのだと・・・」

 

そういった後、カガミは首にぶら下げている真っ赤な勾玉を両手で握る。

 

「あなた・・・何者なの・・・?あの黒布の女の仲間・・・」

 

『私は幻術士・・・さぁ、追憶なさい。あなたの外史の一片を・・・見幻なさい』

 

「えっ・・・」

 

その言葉の後、雪蓮の視界がよじれ曲がり、景色がぐにゃぐにゃに混ざっていく。

 

 

 

 

 

 

 

そこは見覚えのある母様のお墓の近くの小さな小川

 

なぜか左肩が焼けきれるほど熱い。

 

そして、なぜか地面に倒れている。

 

いや、正確には違う。

 

誰かに体を抱きかかえられている。

 

誰かなんて分かってる。

 

自分の愛した相手、自分が初めていいなと思った男

 

その男がなぜか涙を流している。

 

その涙がポタポタと自分の頬に落ちてくる。

 

「私のために泣いてくれるの・・・?」

 

「当たり前だろっ!?こんな・・・こんな理不尽なことが、許されて・・・たまる、かよ・・・」

 

「ふふっ・・・そうね。現実ってひどいよね。・・・もっと一刀と過ごしたかった・・・」

 

愛しい彼と話しながら、自分の命の灯火が徐々に小さくなるのを感じる。

 

私の物語がもうすぐ終わる。

 

最後は愛しいみんなに囲まれて、自分の最後がやってくる

 

そんな記憶・・・

 

 

 

 

 

 

 

「私に・・・こんな記憶は・・・ない・・・はず・・・」

 

雪蓮は気がつくと、あの夢と同じように地面に倒れこんでいた。

 

いや、あの夢とは違う。

 

愛しきあの人が体を抱いてくれていない・・・

 

「おや、もう戻ってきましたか・・・これも南海覇王の力ですか・・・。まぁ、充分時間稼ぎも出来ましたし、これでまた力の制限も少し解除されましょう。力も徐々に馴染んできたようですしね」

 

カガミは雪蓮に背を向けて歩いていく。

 

そして、歩きながら真っ赤な首飾りを両手で握る。

 

『戻っておいで・・・、現(うつつ)よ、顕現なさい』

 

 

 

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「さ・・・どの・・・さくどの・・・策殿!!」

 

「んっ・・・えっ・・・さい?」

 

「策殿!!大丈夫ですか?」

 

「祭!!あなたこそ大丈夫なの!?」

 

雪蓮は急いで体を起こし、祭の肩に手を乗せた。

 

「はっ、何とかこのとおりなのですが・・・くっ!?一生の不覚じゃ!!」

 

祭は何かを思い出したのか顔をしかめる。

 

「まさか、敵の術中にはまってしまうとは・・・」

 

「やっぱり、祭もあいつの術にやられてたのね・・・」

 

「あいつとは?策殿は術者と会ったのですか!?」

 

「ええっ、カガミと名乗ってたわ」

 

「カガミ・・・、五胡の妖術使いでしょうか?」

 

「五胡の女という感じはなかったわね。それに自分のこと幻術士とか言ってたし」

 

雪蓮のカガミに関する記憶はここで切れてしまっている。

 

その後、相手がどこにいったのかなどは全く検討もつかない。

 

「わしはその幻術とやらで堅殿と戦わされたのか・・・」

 

「祭は母様に会ったの!?」

 

「あの覇気の質に、あの太刀筋・・・本物の堅殿と全く相違なかった」

 

祭は幻術の中で孫堅とずっと戦わされていた。

 

しかし、戦っている最中に突然視界がぼやけだし、徐々に暗転していった。

 

次に目を覚ましたとき、祭は自分の馬の横で立ち尽くしていた。

 

そして、斬られた体の傷を調べるもそこには傷跡一つもなかった。

 

目の前には多数の兵士が倒れており、その中に雪蓮の姿を発見する。

 

祭は急いで雪蓮の下へと近づき、動ける者に天幕を張らせて寝かせ、そして今に至る。

 

「策殿も体は大丈夫か?」

 

「ええ・・・あの記憶は何?」

 

「あの記憶とは?」

 

「私が母様の墓の近くで倒れてて・・・それを一刀が・・・」

 

自分の体験したことを少しずつ言語化していく。

 

しかし、言語化していくうちに改めて思うことがある。

 

この記憶はどこかで体験したような気がする。

 

しかし、“今の自分”は絶対にそんな経験をした覚えはない。

 

なぜなら、あの記憶の最後の私は死んでしまうのだから・・・

 

「なるほど・・・しかし、それは奴の見せた幻じゃろう。現に策殿は生きてらっしゃるのじゃからな」

 

「そうね・・・」

 

雪蓮はなんともいえない違和感を持つ。

 

ほんとにただの幻なのか

 

「それで、これからのことなんじゃが・・・今日は一日兵を休ませるのはどうじゃろうか?兵達も混乱しておるようじゃし・・・」

 

「そうね・・・、相手の思う壺なのがすごく腹立たしいけどね」

 

兵士たちも何がなんだか分かっておらず、多少の混乱が出ていた。

 

雪蓮たちはしかたなく、ここで野営をすることにする。

 

 

 

 

 

半日もかからない筈の道程を一日かけて行くことになってしまった

 

 

 

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                    ―蜀―

 

廃墟と化した村の中心

 

先ほどまでこの村は荒れてはいたものの、辛うじて村としての形は保っていた。

 

しかし、今は跡形もなく、そこに本当に人が住んでいたのかと疑ってしまう。

 

周りには崩れた石や木材が乱雑に散らばっていた。

 

それらはもともと、ここの村にあった家や壁などの形をしていたのだろう。

 

他の人が見ればこの村はいったいどれだけの大軍で襲われて、荒らされたのだろうかという悲惨な光景を思い描くかもしれない。

 

この光景がたった二人の戦いの跡など思いもよらないであろう

 

「でえぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

愛紗は縦一直線に相手に向かって偃月刀を振り下ろす。

 

その一撃の速度はとても眼で追えるものではない。

 

その一撃を男は難なく刀で防いでみせた。

 

しかし、相手の両足が少しだけ地面にめり込んでいる。

 

威力もいうまでもなく相当なもので、そのまま地面に突き刺さっていたら小さなクレーターは出来てしまいそうだ。

 

そのまま刀と偃月刀との鍔迫り合いの状態になる。

 

「さすがは軍神関羽、速度も威力も半端じゃないな」

 

そういいながらも相手は涼しい顔で愛紗の力と拮抗している。

 

「確か・・・ツルギとか言ったな」

 

「ああん?なんだ?」

 

「えらそうな口をきいていた割にはこの程度なのか?防戦一方ではないか」

 

ツルギは先ほどから防御や敵をいなすためにしか刀を使っていない。

 

たまに攻撃をしてきてもそれは愛紗に牽制を入れているにすぎない。

 

「おいおい、戦いは長いほど燃えるに決まってんだろ。もう少し楽しんだらどうなんだ?」

 

「黙れ!!!!」

 

愛紗は鍔迫り合いの状態から偃月刀を後ろに引き、その勢いのまま石突で相手の腹を狙う。

 

それもお見通しといわんばかりにツルギは後方に少しだけ跳んでそれをいなす。

 

間髪いれずに愛紗はツルギの体を肩口から斜めに斬りつける。

 

その袈裟切りも体を少し屈めることでかわしていく。

 

ツルギはそれを躱した後、今度は後ろに大きく跳んで愛紗との距離をとった。

 

「いやいや、さすがだなぁ〜。まるで舞踊を見てる気分になるくらいすばらしい太刀筋に、相手を仕留めて殺ろうとする気当たり・・・見事、見事、オレ感服」

 

「ふざけるのも大概にしろ・・・私は貴様と違って忙しい身なのだ。戦う気がないのならさっさと縛につけ!!」

 

「戦う気がないって、オレは充分戦う気満々だぜぇ。だがなぁ〜、一級品の美術品は出来れば長く見ていたいって思うだろ?オレ美術とかわかんねぇけど」

 

「ふっっざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

愛紗は怒りの表情のまま相手の懐に飛び込んでいき、偃月刀を真下に振り下ろす。

 

その斬撃をツルギは左足を高々と上げてなんと足の裏で受け止めてみせる。

 

「ッ!?」

 

愛紗はその行動に驚きはしたものの、この状態なら押し切れると偃月刀にさらに力を込める。

 

しかし、押し切ることは出来ず、また鍔迫り合いの状態になってしまう。

 

足と武器との鍔迫り合いなど愛紗は見たことがない。

 

その状態のまま、ツルギは不敵な笑みをこぼす。

 

「でも、相手があまり何もしてこないんじゃぁ、確かに興がそがれちまうな。なら・・・」

 

ツルギは足を瞬時に離して偃月刀の刃の上に踵を乗せ、それを踵落としの要領で踵を振り落とす。

 

今まで拮抗していた力と踵を振り落とす力が合わさって偃月刀は地面に深く突き刺さってしまう。

 

「なっ!?」

 

予測不能な行動だったため、その力に愛紗は振り回されてしまう。

 

そして、深く突き刺さった偃月刀を踏み台にして愛紗の顔をめがけて鋭い右膝蹴りを繰り出す。

 

「!!」

 

あまりの変則的な攻撃に愛紗はかなり驚いたものの、その攻撃を愛紗は偃月刀から手を離し、体を大きくひねることによって辛うじて避けてみせる。

 

そして、その膝蹴りは愛紗の顔の横スレスレを通り過ぎていく。

 

当たっていない筈なのにその鋭さによって頬に小さなかすり傷が出来ていた。

 

「今のを躱せるか・・・やっぱり最高の相手だな。武器をとっさに手放して・・・ふふっ」

 

ツルギはその後着地してから愛紗の方へ振り返る。

 

その顔は緩みに緩みきっており、今にも大声で笑いそうだ。

 

「武器は武官の心だから手放すなどもっての外(ほか)などほざく輩がいるが、それは違う。武器は使い手が居てこその武器だ。命があってこその戦いだ。武器に使われる奴など弱者だ」

 

ツルギは必死に笑いをこらえながらも、饒舌に語っていく。

 

「それに武器というのは戦いの最中にとっさに放せるものじゃない。体が戦いの気によって緊張し、武器を放すなど危険だと判断するからな。それが出来るということは、やはりおまえは一級どころか特級の強者だな・・・くふふっ、あーーはっはっは〜〜〜〜〜楽しい!!楽しいぞ!!関羽!!」

 

その様子に愛紗は少し引いてしまう。

 

こいつはきっと春蘭以上の戦好きで、雪蓮の切れた時以上にやばい

 

そして、このまま野放しにするのは危険だと判断する。

 

「ツルギとやら・・・悪ふざけもそろそろ終わりだ。関雲長の全力を持ってお相手しよう」

 

「はぁ〜〜〜っ、最高・・・。オレが本気出すに値する相手だと今分かったよ。なんだよ・・・この外史にはこいつ以上の規格外がいるってのかよ。楽しいな〜」

 

愛紗の言葉をツルギは全くといっていいほど聞いていない。

 

「ならば、オレも本気を出そう。あんたも後のことなんか考えないで、全力でこい!!」

 

ツルギの不適な笑い声は急に止まり、空気が今まで以上に振動したのを愛紗は感じた。

 

 

 

-10ページ-

 

 

ツルギは右手に持っていた刀を愛紗の方に向ける。

 

「この刀の名は月白(つきしろ)、この刀はただの刀じゃない。全世界、全外史で唯一オレに使われるために生まれた刀だ」

 

普通の刀よりも刀身が薄く、少し長い片刃の刀のようだった。

 

目を凝らしてみてみるとどこか淡く、ほんとに淡くだが刀身の周りの空気が青白く光っているような気がした。

 

「そして、オレは闘気拳刀士・・・闘気を使って闘うことを得意としている。お前の仲間にもいるんじゃないのか?闘気を刀にまとわせる奴、闘気をそのままぶっ飛ばす奴・・・」

 

「だからなんだというのだ?」

 

「そいつらの闘気の色は何色だ?」

 

質問を質問で返されて、愛紗は隠すこともせず露骨にいやな顔をする。

 

「それを今答えてどうなるのだ。時間稼ぎをしようとしてるのなら話は終わりだ!!」

 

そう答えながらも愛紗は闘気を使える凪と前の天下一品武道会で使っていた春蘭のことを思い出す。

 

凪はどちらかといえば黄色に近い赤色の気を放っていたような気がする。

 

春蘭は真っ赤な闘気を剣にまとわせていた。

 

「まぁいい、闘気には色がある。赤、青、黄、緑・・・それ以外にも様々な色がな。オレはその様々な闘気を使い分け、月白に纏わせて戦える。いま見せてやるよ」

 

ツルギは刀を地面と水平になるように横に向けて、左手で少しだけ刀身に触れる。

 

すると、見る見るうちに刀身の周りに微かに漂っていた青白い何かが、燃えるような真っ赤な赤色に変わる。

 

天下一品武道会で使っていた春蘭の闘気とは比べ物にならないほど凄まじいものを感じる。

 

「こ・・・これは・・・」

 

「これがオレの赤の闘気の色“猩々緋(しょうじょうひ)”・・・、別に炎を纏ってるわけじゃねぇ。あくまでも闘気だ」

 

そして、横に向けていた刀を縦に持ち直して愛紗に向けて構える。

 

「あんたも今の外史の状態なら闘気が放てるはずなんだがなぁ。制限が緩くなってるし。まぁ、今は仕方がないか。しかしだ・・・全力でいかせてもらうぞ!!」

 

ツルギはそのまま高く飛んで、愛紗の脳天を叩ききろうと刀を振り下ろす。

 

愛紗は一瞬偃月刀で防ごうかとも考えたが、武道会の雪蓮の姿を思い出して、大きく後ろに飛びのいて躱す。

 

大振りな攻撃だったため、躱すのは容易だった。

 

しかしツルギの刀が地面とぶつかった瞬間、その場所が爆発して轟音が鳴り響く。

 

その後すぐに、そこから発生した爆風が愛紗を襲う。

 

顔を庇いながら愛紗はでたらめな威力に絶句してしまう。

 

そうしている内に、その爆煙の中からツルギが急に飛び出して愛紗に向かって突進してきた。

 

そして、そのまま斬り上げてくる。

 

また避けようとしたが、愛紗は瞬時にあることに気がつき、その攻撃を偃月刀で迎え撃つ。

 

ギィィィンという金属音が当たりに鳴り響いた。

 

受けきった後、今度は愛紗がツルギから少し距離をとった。

 

「ほぉう、今度は避けず何故迎え撃った?」

 

「刀の色が先ほどよりも薄くなっている。先ほどのでたらめな攻撃は防ぎようがないと思ったが今なら容易い!!どうやら連続では使えないようだな」

 

「観察力もさすがだな・・・、ちっ、まだ馴染みきれてないのか」

 

「何が原因かは知らんが貴様はまだ全力が出し切れないようだな。今なら推しきれる!!我が全力を持ってお前を捕らえてみせる!!はぁぁぁぁあぁあ!!」

 

愛紗は偃月刀を軋む音が聞こえるくらい強く握っている。

 

そして、偃月刀をくるりと一回転させた後、ツルギの懐めがけて飛び込んでいった。

 

「これだから、戦いはやめられねぇんだ!!何があるかわかんねぇ!!さぁ、関羽よ!オレを捕まえてみろ!!オレを殺してみせろ!!!」

 

ツルギは再び構えなおし、迎えるのではなくこちらからも愛紗に向かって飛び込んでいく。

 

 

 

-11ページ-

 

 

愛紗とツルギの互いの武器がもうすぐでぶつかり合いそうだったそのとき

 

「!?」  「なんだ!?」

 

急に二人の間に一本の矢が飛んできて、互いに攻撃を中止してそれを避ける。

 

また、お互いに距離をとる形になってしまう

 

「貴様!!卑怯だぞ!!」

 

「はぁん!?お前の仲間じゃねぇのか!?興を削ぎやがって・・・ぶっ殺してやる!!誰がやりやがった!!出てきやがれ!!」

 

二人は矢が飛んできた方向を見ると、そこには黒い布を体に巻きつけた一人の人物が立っていた。

 

その手には弓矢は持たれてなく、何か変わったものを持っていた。

 

「ツルギさん!!あんた目的忘れとるやろ!!もう十分やから戻って来いって言われとんで!!」

 

そこから、大声でツルギに呼びかけている。

 

「やはり、貴様の仲間ではないか!!」

 

「・・・、だあああああ!!いいところだったのに!!!!どう落とし前つける気だっ!ゴラァァァァァ!!」

 

ツルギは地団駄を踏んだ後、黒布の人物を指差しながら怒鳴り散らす。

 

「そないなこといわれたって・・・、今、カガミさんから連絡があったんやからしゃーないやん!!はよ戻らな、メッチャ怒られんで!!」

 

「お前は男のくせにこの激しい戦いを見たいとも思わねぇのか!!」

 

「だって、あの二人怒らしたらメッチャ怖いやん!!カガミさんはあんまり知らんけど、あの子はメッチャ怖いし・・・。つーか、ツルギさんの仕事は時間稼ぎやろ!!もう十分とちゃいます!?戦いに参加させてもらわれへんかもしらへんで!!」

 

「うっ・・・、それは嫌だな・・・。ていうか、当たったらどうするつもりだったんだ!!!お前、明らかにオレ狙ってただろ!!」

 

「女の子とか狙えるわけないやろ!それにあんたやったら避けれるって思っとったし」

 

愛紗を置いてけぼりにして、二人はなにやら言い合いをしている。

 

そして、会話の中から愛紗は気になる単語をきいてしまう。

 

「“時間稼ぎ”だと・・・、やはり貴様・・・私を・・・」

 

「そうじゃねえ!!オレはあんたと本気で殺り合いたかったんだ。時間稼ぎなんて考えちゃいねぇ!!」

 

「やっぱり、本来の目的を忘れてはったか、戻りますよー。カガミさんも、もうそろそろ戻って来はるみたいやしー」

 

「そんなの関係ねぇぜ!さぁ、関羽!!仕切りなおしだ!!」

 

「んじゃあ、カガミさんに報告しとくでぇ〜」

 

「ちょっとそれは待ちやがれ!!・・・・・・」

 

ツルギは顎に手を当てて、何かを考えている。

 

この隙を狙ってもいいものかと愛紗も少し考えてしまう

 

「だぁぁぁあぁぁ!!わかったよ!!戻りゃぁいいんだろ戻れば!!」

 

突然、叫んだかと思うとツルギは、愛紗に背を向ける。

 

「そちらで勝手に話が進んでいるようだが・・・逃がすとでも思っているのか!!」

 

「・・・、今回は本当に悪かった。オレも楽しみにしてたんだが・・・仕方ねぇ・・・。オイ!!旗をよこせ!!」

 

ツルギは口調に特徴がある黒布の男に何かを要求している。

 

「えっ!!わざわざ、残してくの!?」

 

「ああっ、せめてもの侘びだ!」

 

「はいはい・・・、ほな、ちょっと待ってや〜」

 

黒布の男は何か後ろを向いてごそごそと何かを漁っている。

 

「これでええか・・・。いくでぇ〜」

 

男は旗のような布を矢の鏃に突き刺して、その矢を今まで手に持っていた変なカラクリの様な物に装着した。

 

「よっと」

 

男が何かをしたかと思うと、装着された矢が放たれこちらに向かって勢いよく飛んできた。

 

そして、それがツルギと愛紗の立ち位置の間くらいに刺さった。

 

「オレを楽しませた褒美と戦いを中断してしまった詫びの意味を込めて、あんたの質問に少しだけ応えてやる。その軍旗を持ち帰んな」

 

「これで私の気が済むと思っているのか!」

 

「いや・・・、だが、これが最後じゃない。また近いうちに・・・」

 

愛紗はツルギがまだ持っていた刀の色が赤みがかっていたのに気づく。

 

「この外史はもうすぐ黒天の世になる!!そのときにまた会えるだろうさ!!!!」

 

そう叫んだ後、刀を地面に向けて振り下ろして軽い爆発を起こす。

 

その爆発の影響であたり一面に土ぼこりが舞い散って、愛紗の視界を遮る。

 

「くそっ!!待てっ!!」

 

愛紗はその土ぼこりの中に入っていき、ツルギの行方を捜す。

 

しかし、まっている土ぼこりの中、姿を探すことはできなかった。

 

そして、徐々に土ぼこりが晴れていき見通しがよくなってくる。

 

案の定、そこにはツルギの姿も黒布の男の姿も発見することは出来なかった。

 

「逃がしたか・・・」

 

愛紗が辺りを再度見回すと、黒布の男が放った矢が一本地面に突き刺さっているだけだった。

 

その矢に近づいていき、矢に付けられた布らしきものを広げてみる。

 

それは確かにツルギが言っていたとおり旗だった。

 

旗の中心には「*」のという形の文字のような物が記されていた。

 

色もどちらかといえば黒味がかった灰色をしていた。

 

「灰色の軍旗・・・か。この文字も・・・とりあえず、雛里に見せてみるか」

 

何もない場所に居ても時間の無駄だと判断した愛紗は、軍旗と放たれた矢を持って鈴々と雛里が待つ場所へと行くことにした。

 

釈然としない気持ちを抑えながら

 

 

 

-12ページ-

 

 

「ホンマに頼みますわ〜ツルギさん。あの子に怒られんのオレなんですよ〜」

 

「わぁーてるよ!オレだって“戦いに参加したらいけません”なんてカガミに言われたらシャレになんねーよ!!アイツにこの外史から追放されちまうだろうが!!」

 

ツルギはあまり似ていないカガミのモノマネを入れながら平原を歩いていく。

 

「やっぱりツルギさんもカガミさんが怖いんですか?」

 

「いや、別に・・・アイツとは同期でね。昔からコンビ組まされてた。あいつが知っててオレが知らねぇことはねぇ。逆もまた然りだ。だから、こんなときにアイツが何するかとか分かっちまうんだよ。しかも、アイツはそれをマジでしやがる」

 

「なんや、ツルギさんとカガミさんってそんな仲やったんか」

 

「オレ達にそんな間柄はねぇよ。ただ、目的のために仕事をする仲、一緒に出世してきた仲、それだけだ」

 

「目的ちゅーのはやっぱり・・・」

 

「外史を潰すことだ」

 

ツルギは一言そう言った。

 

「特にカガミはこんな外史は大嫌いだからな。オレは強い奴、規格外の奴と戦えたらそれでいい」

 

「まぁ、あんたらの仕事やねんやったらそうしたらええわ。オレもあの子と一緒に目的を達成するだけや。それまでよろしゅう」

 

「ああ・・・、このあたりか・・・」

 

二人は不意に立ち止まる。

 

すると、目の前の空間が突然歪んでいく。

 

そして、人一人が通れるくらいの大きな穴が出来上がった。

 

そこから、女が一人コツコツと音をさせながら出てきた。

 

「そっちはどうだ?カガミ、うまくいったのか?」

 

「ええ、時間稼ぎは出来ました。おかげで妖幻術の制限も“始まりの外史”ぐらいにまで落とせました。これで時空を移動できます」

 

「・・・、ホンマにファンタジーみたいやな」

 

「それが外史というものです。でも、ここまで落とすのに結構苦労したんですよ」

 

「まぁ、それはこの目で見てきたからよう知ってるし、協力もしてきたしな」

 

「ほんとに感謝してますよ」

 

黒布の男に対して、カガミは小さくお辞儀をする。

 

「それよりこいつの連れはどうしたんだ?」

 

黒布の男を指差しながら、カガミに訊く。

 

「あの子なら屋敷に戻っています。傍にいてあげたいと・・・」

 

「やっぱり、あの子もアイツには優しいねんなぁ〜。うらやましい・・・」

 

「ふふっ、自分をしっかり磨きなさい。そうすれば、振り向いてくれるかもしれませんよ」

 

「ええ〜、無理やわ」

 

「ところで・・・いつ決行するんだ?」

 

「1週間後を考えています。そのとき、この外史を黒天の世にします」

 

「連れて行くのか?」

 

「それがこの外史をつぶす絶対条件でしょう」

 

「そうか・・・、戦わせるのか?」

 

「もともと素質はあります。この外史の武人以上のポテンシャルは絶対あるのです。それを心が抑えているだけ・・・、あの子には期待してるのです。私達の後を引き継いでくれますよ」

 

その答えを聞いた後、ツルギは“そうか”と一言小さく呟く。

 

「その資質は私が引き上げてみせます。きっといい働きをしてくれるでしょう。我が弟子達以上のね」

 

「あいつらにはもう期待してねぇよ。あいつらの失敗の尻拭いをオレらがしてるわけだからな」

 

「なんや、“あの”とか“この”とか“その”とかが多いな〜。オレに聞かれたない話やねんやったら他所でしたらええのに」

 

「すみません。さぁ、最後の準備といきましょう。入ってください」

 

カガミの誘いを受けて、真っ先にツルギがカガミの出てきた穴に入っていった。

 

「えぇ〜、ホンマには入んの〜?落ちて死なへん?」

 

「死にません。それっ!」

 

「おわっ!カガミさん、押したらあかんやろ!って、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

そのまま、黒布の男は穴へと入っていった。

 

「ほんとに・・・もうすぐですよ・・・」

 

そして、カガミもまた時空の穴へと入っていった。

 

その後、穴はゆっくりと閉じていく。

 

 

そしてそこには、もう何もない。

 

 

 

END

 

-13ページ-

 

 

あとがき

 

どうもです。

 

いかがだったでしょうか?

 

今回の最後の方は本当に指示語ばっかりで申し訳ないです。

 

その指示語の指すものは後に必ず分かるようにいたしますのでそれまでご容赦ください。

 

あとですね、「見幻(けんげん)」という言葉は造語です。

 

あるかと思ったんですが意外となかったです。

 

 

 

 

さて、次回予告を少しだけ

 

各捜索隊は今まであったことを報告するため、白帝城へと伝令を出す。

 

一方その頃、白帝城にいる冥琳らになんらかの進歩はあったのか?

 

そして、白帝城に今までにない危機が迫まる

 

次回 真・恋姫無双 黒天編 第7章 「灰色軍旗」後編 蒼天の霹靂

 

もじっただけで間違いではありませんのでよろしくお願いします。

 

では、これで失礼します。

 

説明
どうもです。第7章中編です。
もくじ
p1〜p8 呉捜索
p9〜p11 蜀捜索
p12   ???

あらすじ
愛紗たちは報告のあった襲われたという村へと到着した。
そこで待っていたのは、ツルギと名乗る男だった。
一方、魏の春蘭、稟も報告のあった村へと到着
そして、賊の討伐を見事成し遂げたのだった。
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