真・恋姫†無双 外史の欠片 -刀音†無双- 第5話 彼が泣いた日
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※注意※

この作品には以下の点が含まれる可能性があります。

 

 

・作者の力量不足によるキャラ崩壊(性格・口調など)の可能性

 

・原作本編からの世界観・世界設定乖離の可能性

 

・本編に登場しないオリジナルキャラ登場の可能性

 

・本編登場キャラの強化or弱体化の可能性

 

・他作品からのパロディ的なネタの引用の可能性

 

・ストーリー中におけるリアリティ追求放棄の可能性(御都合主義の可能性)

 

・ストーリーより派生のバッドエンド掲載(確定、掲載時は注意書きあり)

 

 

これらの点が許せない、と言う方は引き返す事をお勧め致します。

 

もし許せると言う方は……どうぞこの外史を見届けて下さいませ。

 

 

 

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第5話  彼が泣いた日

 

 

 

一刀と陳宮は賊討伐の為に官軍を率いてきたという女性、張遼に保護を求める事にした。

賊に殺され掛けたという事実と逃亡の間に必死に張っていた気が緩み、疲労となって押し寄せた為である。

特に一刀は恐怖を―――賊を殺した自分が何も感じていない事への―――を抱いていた分それが顕著だった。

彼は張遼が名乗りを上げつつ笑いかけたのを確認した瞬間、崩れる様に気を失ったのであった。

意識を失った一刀に血相を変えて駆け寄る陳宮と、それを生温かく見守る張遼という一コマもあったのだがそれはさておき、

現在一刀達は張遼と彼女が率いてきた兵に保護される形で、彼女らの陣へ戻る途中であった。

 

「しっかし、良くまああんな細っこい剣で五人も切り倒したもんやなあ。この兄さん実は凄腕だったりするんか?」

「いえ、剣を学んだとは言っていましたがそれ程の腕じゃないとも言っていたのです。賊と相対した時も囲まれない様に、

最初に距離を取ってから一人ずつ相手にしていましたし……」

「そか。ちゅう事は少なくとも自分の力量は分かっとるんやな。纏めて相手にしてたらヤバいって事やからなあ。だったらそこら

の兵よりちと出来る、って位なんかなあ」

気絶した一刀を換え馬の鞍に乗せ張遼と陳宮は一つの馬に乗り込み、ゆっくりと馬を歩かせながら語りあっていた。

話題は主に未だ目覚めぬ一刀の事であり、張遼は興味津々といった様子を隠そうともせず色々と訪ねてくる。

陳宮も話しては不味いと思う部分は誤魔化し、或いは話せないときっぱり断りながらも話に応じていた。

 

やがて夕日が辺りを赤く染める頃、一行は張遼の言っていた陣へと辿り着いた。張遼と共に賊の討伐に出ていた兵は凡そ百名と言った所であったが、この陣には比べものにならない程に兵が犇めいている。

陣の広さや天幕の数を考えれば恐らく三千は下らないだろう。

大勢の人間の気配に刺激されたのか、馬上で気絶したままだった一刀の体がぴくりと動くと、ゆっくりと顔を上げる。

状況を把握できていないのか胡乱げな眼差しで周囲を見渡し……自分が馬の上に居る事に気付き、慌てた様に手綱を掴んだ。

 

「うわ!?何で俺馬の上に……そうだ、陳宮!?無事か!?賊はどうなった!?」

が、完全に目が覚めた瞬間周囲を見渡しながら大声で叫び陳宮の無事と状況を確認し始める。

気絶した前後の記憶が混乱しているのだろうか、陳宮を呼ぶ一刀の姿は心底から彼女の身を案じているという風情で、

一瞬呆気に取られた張遼はにやにやと笑みを浮かべながら一刀を見守り始め、陳宮は……。

 

「ほ、北郷殿っ!落ち着くのです、ねねは此処におりますぞ!?賊も張遼殿率いる方々が片付けてくれたのです!

だから落ち着いて……ぬあ!?ちょっ、離すです!どうしてねねを思い切り抱き寄せますか〜〜〜〜!?」

顔を真っ赤にして一刀の方へ馬を寄せた瞬間、ぐいと引き寄せられ守る様に抱きしめられた。気恥ずかしさと照れから

じたばたと暴れるも、普段の優しい様子とは異なり力の込められた一刀の腕は全く揺るがず振りほどけない。

抱きすくめられた陳宮が赤面してあうあうと唸り始めた所で我慢できなくなったのだろう、張遼が腹を抱えて笑い出した。

 

「あはは、お二人さん随分仲がええなぁ?兄妹みたいなんかな〜って思ってたけどひょっとして恋人だったりするん?

年の差はありそうやし大変そうやけど……せやったらウチは応援するで?」

愉快そうに言う張遼の顔の上に猫の耳が見える気がする。愉快そうなその表情は良い玩具を見つけたと言わんばかりで、

一刀と陳宮を二人同時に固まらせるには十分な効果があった。

 

「「いや、違……っ!?」」

そんな張遼の言葉に一刀と陳宮は二人とも顔を真っ赤にした上、声を揃えて否定しに掛かる……息は実にピッタリであった。

当然それを聞いた張遼は笑みを深くし二人を弄りからかいに回る。周囲に居た兵達も笑いを堪えて肩を震わせていた。

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「んじゃ、疲れとるかも知れんけど付いて来て貰うてええか?アンタ等の話を聞かせて欲しいんや。

さっき別動隊で賊を追った奴らも戻ってきたって言うてたからな、紹介も兼ねて」

厩にそれまで乗っていた馬を繋ぐよう近くにいた兵士に命じると、張遼が一刀と陳宮にそう述べた。

恐らく二人の緊張がほぐれるのを待っていたのだろう、彼女の纏う空気はそれまでの明るく気安い雰囲気から一転して、

将としての貫禄と責任感に溢れている様に見えた。二人はこの申し出を断る理由もない為彼女について陣の奥へ向かう。

やがて見えてきたのは一際大きな天幕、恐らくこの舞台の指揮官が使用している物だろう。

一刀はそれを見て張遼の天幕かと思ったが、張遼は少し待つ様に言うと先に一人で天幕へ入っていく。

中へ入る際に挨拶の様な事をしていた為、陳宮は彼女より目上の指揮官がこの部隊を率いているのではと予測を立て、

一刀に小声で口調や礼儀はしっかり守らねばなりませぬぞ、と注意を喚起していた。

 

「お〜い、二人とも入って来てええよ」

と、張遼が天幕の入り口から顔を覗かせると手招きしつつ声を掛けてきた。彼女に頷き返すと、一刀と陳宮は

緊張しながらも天幕の中へと足を踏み入れて……。

 

「ワンワンッ!」

「え、うおわぁっ!?」

「北郷殿!?」

突然顔に飛びかかってきた何かによって大きく後方へ倒れ込む一刀。頭と背中の痛みでぐるぐると回る視界の中、

何か生暖かい物が顔の上を這い回っている……まるで、犬に嘗め回されている様な……?

 

「って、犬!?何でこんな所に……って、おい、ちょっと、あまり舐めないでくれ!」

「だ、大丈夫ですか……?一体何が……」

未だに顔を嘗め回している犬を抱きかかえる様に顔から引き剥がす。ぱたぱたと尻尾を振りながらわふわふ鳴いているのは、

首にスカーフを巻いた一頭のウェルシュコーギーであった。予想だにしなかった状況に混乱する一刀と陳宮、そして。

 

「あははははっ!いきなりそう来るか!やっぱ面白いわあ、あはははは!」

「……セキト、懐いてる」

「あらあら〜、セキトちゃん嬉しそうね〜♪」

張遼の笑い声と、ぽつりと呟かれた聞き覚えのない女性の声。そしてのんびりとした感じの声の三つであった。

セキトというのはこの犬の名前だろうか、と身を起こしながら一刀が声のした方に目をやると、

張遼の傍に二人の人間が立っている。

一人は赤い髪をした腹部や手足が剥き出しの薄着を纏う少女。彼女はじっと優しい視線を犬の方へ向けている。

もう一人は藍色の長い髪を垂らし白い鎧を纏った女性。にこにこと楽しげに微笑む彼女は、張遼やもう一人の少女より幾らか年上に見えた。

 

(この二人も将なのかな……だったら、有名な将の可能性もある。一体誰だ……?)

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そんな事を一刀が考えて居ると、再び張遼が声を掛けてくる。

 

「紹介しとくで。こっちの赤い髪のが呂布、こう見えても武に関しては天下無双と呼んでも良い位の凄腕や。

その犬はセキト、恋の家族みたいなもんやな。簡単に人には懐かへんのに、こんなに早く懐いたんは初めて見たで?

それからこっちがウチらの大将、丁原はんや。呂布のオカンでな、官軍の中でも叩き上げの武将なんやで。

霧はん、恋。この二人は北郷一刀と陳宮。賊に襲われとってな、討伐の現場に居合わせたんで保護して連れてきたんよ」

 

(この子が呂布だって!?それに丁原って……確か呂布の裏切りで殺される人だよな……ん?張遼さん?)

呂布の名に驚愕していると張遼が目配せをしてくる、どうやら自己紹介しろと言う事だろう。

目上の相手が口を開く前に喋るのは礼儀に反する、と言われた記憶もあったのだが許可が下りたのだろうと言う事で三人の前に跪き、自己紹介を始める一刀。

 

「私は北郷一刀と言います、字と真名は持ち合わせておりません。張遼殿には危ない所を助けて頂き、感謝しています」

「ねねは名を陳宮、字を公台と申します。漢中と天水へ向かう途中に賊に襲われ危うい所を救われました、感謝の言葉もございませぬ」

陳宮も一刀の隣に跪くと深々と頭を下げて自己紹介を行う。

 

「大変だったのね〜。私は丁原、字を建陽というの〜。もう大丈夫だから安心してね〜?」

「ん……恋は呂布……字は、奉先。……よろしく」

丁原と呂布の二人もにこやかに自己紹介を返すと、一刀と陳宮へ楽にする様にと微笑みかける。

その言葉に甘えて跪くのを止めると丁原が微笑みながら口を開いた。

 

「二人とも、漢中や天水に向かうなら付いてくるかしら〜?私達も漢中や天水は通るから連れて行ってあげるわよ〜?

今あの辺りは賊が跋扈し始めて危ないから二人だけだと危ないわ〜」

「「……!!」」

丁原の言葉に思わず顔を見合わせる一刀と陳宮。賊が暴れているのはこの近辺、それも先程張遼達によって討伐されたと考えて居た為、その発言は今後の旅に大きく関わる事である。

陳宮は官軍と言う事で若干抵抗はある様だが同行させて貰おうと訴える。

一刀もその意見には賛成なのであるが……ずっとこちらを見ている丁原の視線が気になっていた。

(この感じ、爺ちゃんと手合わせしてる時みたいだ……こっちの隙を、じっと伺ってる時の…………まさか)

 

「…………監視も兼ねて、ですか?」

ふと脳裏を掠めたその考えを、気付けば一刀は口に出していた。監視、そう。監視だ。

この言葉を聞いた張遼は愉快そうに眼を細め、呂布は興味が無いと言わんばかりにセキトと戯れ、そして丁原は。

 

「一刀君は頭も良いのね〜?陳宮ちゃんも気付いていたみたいだし〜、ますます付いて来て欲しくなったわ〜」

先程までと変わらず微笑みを浮かべながらも、細めた眼でじっと一刀と陳宮を見据えている。

 

「私としては大丈夫だと思うけど〜、今回の状況を見ると賊の仲間という見方も出来ちゃうのよね〜。

此処で解放してうちの子達に被害が出たらそれこそ大変だから、付いて来て貰えるかしら〜?」

微笑みながらも目が笑っていない。その様子に寒気を覚えながらも一刀と陳宮は頷いた。

 

彼女が懸念しているのは一刀達が今回の賊の仲間であり、連中に情報を流される事である。

賊討伐に向かう目的地の途中で「偶然」少数の賊を発見し、「偶然」襲われていた旅人を救出した。

だが、もしこれが賊の一味による自作自演であったらどうか。

今回引き連れてきた部隊は己が手塩に掛けて鍛えた兵達であり賊如きに遅れは取らぬという自負はある。

しかし自分の前に討伐を行っていた領主らの軍であればどうだったか、官軍の中でも弱兵では……。

そんな「あり得るかも知れない危険」を考えれば二人を解放する訳にはいかない、手元に留める必要があった。

 

逆に彼らが無関係であるならば尚更だ。彼らは賊の一味を切り捨てている、報復の対象となる可能性が高い。

ここでむざむざ二人を危険に晒す事もないだろう、丁原はそう考えていたのである。

 

「……わかったのです、ひとまずは漢中までの道中、よろしくお願いするのです」

先に返事をしたのは陳宮であった。最初に賊と通じているかもと疑われ多少は頭に来ていた物の冷静に考えれば

丁原の危惧はもっともな事であり、むしろそう言った可能性を見逃さない視野の広さに尊敬を覚えた。

ならば無理に断り二人で危険な道を行くよりも言葉に甘えて同行すべきだ、陳宮はそう考えたのである。

 

「俺は……そうだな。陳宮が行くなら俺も一緒に居ないとな。丁原さん、お世話になります」

そして一刀もまた同じ結論に辿り着くと丁原に対してふかぶかと頭を下げる。

こうして、一刀と陳宮は丁原率いる官軍と共にまず漢中を目指す事となったのであった。

 

 

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「なーなー、北郷。ちょっとあっちで手合わせせえへん?ウチ、アンタに興味あるんよ」

漢中までの道程の途中、その日の行軍を停止し野営を始めた丁原軍。一刀も天幕の設置を手伝い、

一息吐いた所で張遼に見つかり発せられた第一声がこれである。

 

「いきなり何ですか張遼殿……手合わせだなんて、俺はまだ死にたくないですよ」

張遼とはここ数日で随分と打ち解けてきた――あまり堅苦しい喋り方は止めてくれと頼まれた――一刀と陳宮であり、それ故にこの様な冗談交じりの返答も出来ている。しかし張遼は本気だったらしく口を尖らせて食い下がってきた。

 

「アンタ随分強いって陳宮から聞いとるで?なあ頼むわ、最近相手が恋か霧はんばっかりで飽き飽きしとるんよー。この通りや、頼む!」

一刀は嘆息しながら、両手を合わせて頼み込んでくる張遼を見て腹を括る。この分では何時までも頼み込んできそうだし、

一度相手をすればきっと満足するだろう。そう考えて一刀は口を開いた。

 

「分かりましたよ、なら手合わせ願います……では、明日からでも……」

「ホンマか!?よっしゃ、なら早速やろうや!腕が鳴るわー♪」

「え?ちょ……引っ張らないで、引きずらないでっ!!」

明日から始めようと言う一刀の台詞は張遼の歓喜の声により途中で遮られ、そのまま張遼の腕が一刀を掴む。

一分一秒が惜しいと言わんばかりに一刀を引きずり広場のような場所へ向かう張遼。その顔には楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

 

「それじゃ、よろしゅう頼むで!」

「はぁ……わかりましたよ、お願いします」

「北郷殿、頑張るのですぞ−!」

「二人とも、頑張ってね〜♪」

「……がんばれ」

開けた場所で向かい合う張遼と一刀、その手にはそれぞれ刃を潰した偃月刀と模造刀が握られていた。

何故か見物に来ている陳宮に丁原や呂布の事は気にしない様にと自分に言い聞かせる一刀。

構えを取る張遼からはかなりの気迫が伝わってくる、その威圧感は祖父と向き合った時の様であったが、まだ余裕がある。

祖父から感じる威圧感よりも圧迫感が低いからである、だが油断して良いというレベルではない為、初めは部活の時の様に剣道の要領でぶつかろうと思って居た一刀も考えを改め蜻蛉の構えをとり、じりじりと隙を伺う。

立ち位置を変えつつ睨み合いが続く中、ぴくりと張遼の偃月刀が動く。反射的に動きそうになる体を押し止めると張遼はニヤリと笑い、

再び位置を変え始めた。

 

「今のに掛からんか、やるやないか。にしても変わった構えやなあ……ええで、最初の一撃は打ち込ませたる。来いや」

「そうか、だったらお言葉に甘えて……っ!!」

「……く、重っ!?」

偃月刀を構えたまま余裕の表情で告げる張遼に対し、一刀は十分に溜めを作ってから相手の懐へ一足飛びに飛び込んでの

斬撃を持って答えた。速度と体重を乗せた重い一撃は受け止められた物のその勢いを殺しきる事は出来なかったらしい。

(これだけ接近していれば突きか、薙ぎ払いか……少なくとも動作の大きな切り下ろしなんかは繰り出せない筈だ。

距離を取られればわざわざ受ける様な事はしないだろう、チャンスはこの一回だけ……ならこのまま押し切る!)

 

一、二歩衝撃で後ずさったのを認識した瞬間追撃に入ろうと一刀は手首を捻り横薙ぎに斬撃を繰り出す。

否、正確には追撃するしかないという焦りもあった。距離を取られれば相手の武器の射程の方が長い為、攻めきれなくなる。

以前祖父に模造刀と棒で打ち合いをさせられた際のトラウマが蘇りかけるのを必死に押さえ込み、さらに前へ踏み込んだ。

 

「おっと、甘いでぇ!そらそらあ!」

が、張遼が振るう偃月刀の柄が眼前に迫り反射的に模造刀を立てて防御を試みる。防ぎきったら再度前進を……。

その目論見は予想を遙かに超える衝撃で粉々に打ち砕かれた。刀を通して伝わる痺れる程の衝撃に思わず後ずさる。

その隙を狙う様に繰り出される連続の刺突によって防戦一方の一刀、突きの軌道が見えてはいるが体が付いてこない。

受け続ける事数分、とうとう突きを捌き切れずに大きく体勢を崩した所で腕を打ち据えられ模造刀を取り落とした。

 

「なかなか良い腕やったけど、まだまだやな。ウチの勝ちやで♪」

「くぅ……参った。やっぱり強いな」

良い笑顔を向けてきた張遼に苦笑していると、観客だった周りの兵達からも歓声が上がる。

兵達は凄いじゃないか、今度自分とも手合わせを等と興奮した様子で話しかけ、肩を叩いたりしながら持ち場へ戻った。

 

「二人とも凄かったわ〜、良い物見せて貰ってありがとう〜♪今度私ともやって欲しいわ〜♪」

「……ん」

「北郷殿、大丈夫ですか!?怪我などしておりませぬか!?」

兵士達が去った後その場に残った丁原や呂布、陳宮がこちらの方へと近づきながら口を開く。

丁原は心底感心したという様子で、呂布はさほど興味がなさそうに。そして陳宮は駆け寄ってくると全身をぺたぺたと触り、

怪我がないのかを一生懸命に確認してきた。その様子を見て張遼はにやにやと笑っている。

 

やがてその場に響くのは複数の賑やかな笑い声。すっかりこの一行に馴染んだ一刀と陳宮なのであった。

 

 

 

 

 

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その日、見張りを残した僅かな兵を除いて殆どの物が眠りに就いている夜も深い時間帯。

真っ暗闇の中で身を起こすと、ゆっくりと天幕の外へ向かう一つの人影があった。

人影は篝火が辺りを照らすだけの薄明かりの中を移動し、夕方に立ち会いのあった広場へ向かう。

 

「……あれから結構経ったのに、相変わらず……か」

己の掌をじっと見つめながら、人影……一刀は自嘲する様にぽつりと呟いた。彼は賊を切り捨てたあの日から、

ずっと考えて居たのである。即ち人を切り捨てた、殺した事に何故罪悪感や恐怖感を感じないのか、を。

初めは実感が湧かないから、気が動転していたから、必死だったから……そう理屈を付ける事も出来た。

賊の追跡の最中であったから考えない様にしているのだろうと思い込む事が出来た。

 

しかし賊の手から逃れ、官軍と合流して安全が確保できて随分経ったというのに、一向に何も感じない。

これまで読んだ本や見て来たドラマなどでは、殺人を犯した者は大抵恐慌状態に陥るか発狂するか、或いは味を占めて殺す事を喜びとするか。

いずれも遠慮はしたい結果ではあるが、何かしらそう言った心情の変化があるのだろうと思っていたのである。

だが実際に自分がそう言った立場に立ってみると何事もなかったのである。

 

「一刀君〜?こんな時間にどうしたの〜?」

「え?あ、丁原さん……いえ、何でもないです。少し寝付けなくて」

背後から掛けられる声、振り返れば丁原が不思議そうな顔でそこに立っていた。一人黄昏れていた所を見られた気恥ずかしさから、何でもないと取り繕う一刀であった、が。

 

「それじゃあ、どうして一刀君は泣いてるの〜?何でもないなら泣かないと思うわよ〜?」

「え?いや、泣いてなんか・……」

「嘘〜。顔に出て無くてもずっと泣いていたじゃない〜、何も言わないからずっと気になってたのよ〜?」

ずい、と顔を近づけてそう言う丁原に、思わず気圧される一刀。昔稽古で無茶をして母親に怒られながらも心配された、

そんな記憶が蘇ってくる。知らず知らずの内に体が震えだしている事に一刀は気付いていなかった。

 

「そんなに我慢しなくても良いのよ〜?大丈夫。おか〜さんがしっかり聞いてあげるわ〜。だから、泣かないで〜」

丁原が背の方へ手を回し、優しく一刀を抱きしめる。堪えられなくなった一刀の目から涙が零れだした。

 

「俺……怖いんだ。初めて、人、殺して……っ、なのに、何も感じなくて……おかしいんだ。

怖いとも、悪いとも、思わないんだ……何日経っても、全然っ……俺、どうかしてるんじゃないかって……っ」

声を震わせながら一刀が漏らす言葉に丁原はうんうんと頷きながら、ぽんぽんと優しく背を叩く。

 

「一刀君は何も感じないのが怖いの〜?だけど、おか〜さんは一刀君がおかしいなんて思わないわ〜。

だって最初に会った日、一刀君は陳宮ちゃんの事を凄く心配してたんでしょ〜?霞ちゃんは笑ってたけれど〜。

誰かを大切に思って、心配できるならおかしい訳が無いわ〜。一刀君は間違いなく、優しい子よ〜。

……だから。優しすぎるから、何も感じていない……そんな風に考えちゃうのかも知れないわ〜」

 

「優し……過ぎる……から?」

丁原の言葉の意味が分からず、一刀は顔を上げて丁原を見つめる。丁原は一つ頷くと微笑みながら言葉を紡いだ。

 

「そうよ〜。だって泣いたり悔やんだりしたら手に掛けた人の事もいつか忘れられるでしょ〜?でも一刀君は悩んでるの〜。

人の命を奪ったのにどうしてって、殺した人の事を思い浮かべてるんでしょ〜?忘れても良い、忘れた方が良い事なのに〜。

毎日殺した人の死を悼んで、思い出して、忘れない様にしてるんだわ〜。一刀君は、優しすぎるのよ〜」

丁原の言葉に一刀は何も返せない。その通りだと囁く部分もあればそれは違うと否定する部分もある。

思考がぐるぐると渦を巻き纏まらない、混乱の度合いがどんどん強まってくる一刀の背を再び丁原の手が叩く。

 

「考え過ぎちゃダメよ〜、悩むのも考えるのも、いつでも出来るわ〜。今は泣けるだけ泣いてゆっくり休みなさいね〜」

丁原の優しい言葉に、彼女に抱きついて涙を流し続ける一刀。やがて疲れもあって一刀は彼女の腕の中で意識を失った。

 

「こんなに良い子なのに、ずっと悩んでいたのね〜……陳宮ちゃん、今夜は一刀君の傍にいて上げてね〜?」

泣き疲れて眠る一刀を軽々と抱えると、丁原は背後を振り返る。そこには心配そうな顔をした陳宮が立っていた。

一刀が天幕を抜け出した事に気付いた陳宮は心配して追いかけてきており、丁原が一刀を抱きしめた場面で固まっていたのだ。

 

最初はまさか逢い引きかと驚きもしたが、一刀が何かに悩んでいる事に気付けなかった事、一刀が泣いていた事。

そして自分が一刀の力になれなかった事。それらを目の当たりにした今は無力感に苛まれていたのである。

 

「陳宮ちゃんも落ち込んじゃダメよ〜、陳宮ちゃんと一緒にいたから一刀君も頑張れていたんだわ〜。

陳宮ちゃんは十分一刀君の力になっているのよ〜……だから、一刀君を助けてあげてね〜?」

「……い、言われるまでもないのです。ねねは北郷殿にまだまだ恩を返していないのですっ」

慰められた事に頬を赤らめながら、丁原に言い返す陳宮。

 

こうして、その日の夜は更けていったのだった。

 

 

翌朝、目覚めた一刀が隣で眠る陳宮に固まったり丁原に微笑みかけられて赤面し、それを見た張遼らにより

一騒動あったのだがそれはまた別のお話である。

 

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今回は此処まで、オリキャラ2人目として登場しましたのは丁原さん。

設定としてはこの様な感じになります。

 

・丁原

真名:霧(きり)

外見:藍色のロングヘア、琥珀色の瞳、高身長、巨乳

所属:官軍(武官)

武器:双錘・妖雲砕(錘部分が直径1メートル程、柄を入れて2メートル程の長さの鈍器。

非常に重く並の兵が数人係でようやく持ち上げられる程。霧はこれを軽々と扱う)

 

一人称は人前では私、身内相手にはおか〜さん。間延び口調でほわほわした性格。

部下の一人一人を我が子同然に可愛がっている。武術の腕はさほどでもないが、持ち前の怪力を

活かしての一撃必殺で戦果を上げ出世してきた。統率力や戦略眼はそこそこ。

恋の義母であると同時に自宅で沢山の動物を飼っており、親子揃って動物好きである。

 

 

こんな感じの癒し系……?を目指して見ました。こちらもストーリー的に重要な立ち位置のキャラとなります。母親ポジションになるのかな……?

次回は漢中でのお話になると思います、のんびりとお待ち下さいませ。

 

それでは、またいずれ。

説明
こんばんは、第5話が完成しましたので投下します。
今回は二人にとって2度目の、大きな意味を持つ出会い。
この出会いが二人に何をもたらすか……。

それではどうぞ暖かく、時に厳しく見守って下さい。
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コメント
甘露さん>可愛く可愛くと念じながら書いていますw丁原さんは小物・悪役での登場が多いのでこんな形にしてみました。(ネムラズ)
ねね可愛いなぁもう!(ぉ 丁原様良いキャラしてますねぇ(甘露)
FALANDIAさん>表現に悩んだ部分ですがやはり断定形でない方が良いですね、ご意見ありがとうございます。後程修正する事にします。(ネムラズ)
氷屋さん>残念ながらまだ陳宮キックは未習得です。習得イベントは近いうちに(待(ネムラズ)
忘れるべき、というのは少し表現がキツい気がしますね・・・。忘れた方が気が楽になるのに、といった感じの方がいい気がしますがどうでしょうか。(FALANDIA)
目が覚めたら横には添い寝してるねねがいると、ちょっとうらy・・・ゲフンゲフン、からかう霞にそのうち陳宮キックがお見舞いされると面白いですw(氷屋)
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