模型戦記ガンプラビルダーアナザー2 |
ある日曜日の午前。秋山美加が叔父が経営する秋山模型店に入ると叫び声が聞こえた。
「すっげー! これがガンダムの力なんだ!!」
店奥のガンプラバトルシミュレータ区画から不肖の押し掛け弟子こと台場肇の大声が響く。
嫌な予感を抱きつつ重い足取りで移動する。
「いらっしゃい。おはよう美加」
「おぉ、ししょー。見てくれよ。すごいバトルだぜ!」
丁寧に挨拶する秋山店長と、師匠を敬う気がなさそうな肇。
「おはようございます……」
美加は二人に挨拶を返し、シミュレータインフォメーションに目を向ける。
左右三機ずつ並ぶシミュレーション搭乗筐体Gポッドの中央、観戦用大型モニターには異界の神が映し出されていた。
スペリオルカイザーZとファイナルフォーミュラーだ。
元祖SDシリーズではないので両方とも既存のキットを芯にした改造作品だろう。棚引く多節の長尾や眩いばかりの金塗装がきれいだ。観戦モニターにかじりつく肇の瞳も同じぐらいの輝きを放っている。
この子に余計なこと教えないでほしいなと美加は心の中で嘆息した。
今ガンプラバトル(?)をしているのは秋山模型店が主催する模型サークルの人たちだ。
稼働しているGポッドは3台。中に入っている三人ともサークル主催者の店長を介して美加とは顔見知りで、普段は会社勤めなどで働いていることも知っている。なにより重度のガンダムオタクなことは言うまでもない。
そしてバトルに参加している第三の機体は……。
「オリジナルターンエーってレギュレーション通るの?」
「公式の選手権だと出場できてもクラス分けされるだろうね」
店長は素知らぬ顔で分析する。
ガンプラバトルシミュレータの機材一式は基本的に大元からの貸与物で、管理運営権を各設置店に卸している形のはず。この店の管理者である店長が運営基準を知らないはずも無く、つまりこのバトルはそっち系の遊びということだ。
「ああっ! また地球が壊れた!」
三体のガンダム(?)は色々な光や闇を撒き散らしながら、銀河を破壊したり宇宙創造とかして戦っている。
肇は神の威力に大はしゃぎ。
「この店のノンレギュレーションって人外どころか天外魔境よね」
「何を言うんだい美加。今回のバトルはまだガンダム関連で収まっているじゃないか」
そんな(ガンダムの顔が付いた)複葉機とか(ザクの頭が生えた)宇宙怪獣とかが平気で闊歩する店だから、天も見放す魔境だというのだ。列車砲の弾道観測を嬉々として行ったり、発掘されたアーティファクトで次元を越えようとしたり、『男はいくつになっても子供』という母の言葉を心から納得する。
「それにだいじょうぶ。この環境を楽しむためのレギュレーションは厳守してるさ。他のお客さんに迷惑はかけないよ」
店長の知り合いで創られた模型サークルは、一般客と対戦する場合の規則を定めている。内容は単純で、ハッチャケるのは身内だけ。ただし外道はその限りにあらず。
それで収まればいいのだが。
「うぉぉー! オレも戦うぞー!」
単純な性格の暴れ弟子がすぐに影響を受けてしまうのでやめてほしい。
美加の不機嫌を悟った店長が微笑みかける。
「もっと強い人と戦いたい、もっと勝ちたいと思うのは自然なことだよ。それこそ肇くんはもっとガンプラを作ってたくさんバトルしたほうがいい。そうすれば彼の腕前はこれからどんどん伸びる。
対戦相手がほしいなら僕らがいくらでも受けるし、サークル規定はそのためでもあるんだから」
「……最年少マイスターでも狙っているの……?」
「それは肇くんのやる気と腕前次第だね」
美加はじっと店長の笑顔の裏を見る。
ちがう。肇ではない。それはあっている。
ガンプラビルダーと呼ばれるガンプラ制作者の中には、本営からマスタークラスに認定された人たちがいる。
その名もガンプラマイスター。栄誉ある称号だ。
美加にしてもこの店の模型サークルにしても、趣味がガンプラだけではないのでマイスター称号の取得には消極的だ。
しかし店長に関しては別だ。
この店を拠点とするガンプラマイスターが居ることは、格好の宣伝材料になる。本営もその手の販促効果を狙っているであろうし、ましてそれが最年少ガンプラマイスターともなれば同世代の小中学生のから多くの羨望を集め、集客率が飛躍的に伸びるだろう。
しかし、それほどの潜在的逸材など易々と見つかるものではない。
ガンプラマイスターを名乗るには作成物への高い評価が欠かせない。最年少マイスター所属店の栄誉を勝ち取るには、申し訳ないが肇では根本的に技術力が足りない。
だが、違和感が拭いきれない。
訝しむ美加を後目に、ガンプラバトルが終了した。
Gポッドから出てきたサークルメンバーと店長が戦況推移とシミュレーション判定の分析を始めた。会話の端々で管理端末の動作ログチェックだとか、スキャナー立体物判定のリスト細分化など、怪しげな言葉が出てくる話し合いだ。
「それじゃあ、こっちも始めましょうか」
「おう。今日もよろしくお願いします、ししょー」
美加と肇は店内にあるカードゲーム用プレイスペースに置かれた長机を挟んで向かいに座る。
肇が荷物を広げるが、出てきたのはカードゲームではなくガンプラと工作道具だ。
あの邂逅戦以降、結局は押し切られる形で美加は肇に模型造りの手解きをすることになった。とはいえ本格的なものでもなく、基礎的な技巧の練習を指示する程度の簡単なものだ。
肇は教えられる技に驚き、楽しんで作っている。それこそゲートの二段切りや、紙ヤスリの目の番号程度にさえだ。
そんな少年から不躾ながらも師事され、悪い気はしなかった。
最初は面倒臭いことを押しつけられたと思った。
美加は責任感の強い自分の性格を読んでの店長の計略とみていたが、先ほどのやり取りで少し揺らいだ。
肇をガンプラマイスターにする気がないなら、店長から見てこの講習には何の価値があるのだろう。
ほんの小さな不安を抱えつつ肇に向き直る。
「これが最後の塗装チェックね。出来はどう?」
「ちゃんとやってきたぜ。見てくれよ」
肇は自信満々に掌に乗せた日本刀のミニチュアを差し出す。
真四角の鞘に収まる小さな刀は、肇の塗装練習と次のガンプラバトルへの準備を兼ねて、美加がプラ版の端材で作成した胴太貫の模型だ。
メインスライドと銘打たれたその武器は、ネタ元に似せて肉厚の刀身に薄い反りを持つ。胴太貫をモデルに選んだ理由は、偏に美加の拘りではあるが他の理由もちゃんとある。
塗装の練習用に単一面で塗装面の一辺が長いものが欲しかったからだ。筆先を長辺沿わせて筆につける塗料の量を意識するのもよし。短辺を主眼にして塗り重ねと塗り斑を実感するのもよし。
美加は肇からメインスライドを受け取ると、鞘から銀塗装された刀身を抜き出す。
握りを持ってメインスライドをじっくりと検分する。
「うん。よく出来てる」
「よっしゃあっ!」
師匠の高評価に肇がガッツポーズをする。
鞘から抜き取る時に切羽詰まる事もなかった。初戦で見たような塗り溜まりもない。
肇の努力の逸品だ。
「ちょっと待ってね」
美加は店に置いてある自分の道具箱を持ってくると、手早くメインスライドを解体する。ストッパーである柄頭を外し、握りを左右に開いて外す。鍔も本身から中込を通して抜くと、何の装飾もない白刃が残った。
紙ヤスリを刀身に当て、力加減に注意しながらゆっくりと引き抜く。鑢掛けを何度か繰り返すと、刀身に刃紋が浮き出てきた。裏返して両面に同じ処理を施す。
再度の組立の時、解体したパーツではなく道具箱から取り出した部品を使う。鍔は緻密な彫刻が施され、金色に輝いている。握りには菱形の柄巻きモールドが刻まれ、金色の柄頭からは赤い飾り紐が垂れる。
鞘も独自のもので刀身と合致する緩い湾曲の胴をしている。その白い胴に赤い紐が飾られ、メインスライドを納抜刀し易いように半ばから開く構造になっている。柄頭に合わせて鐺も金取りに飾り紐付きだ。
出来上がったのは玩具の範囲を超えた、日本刀のミニチュアモデルだ。
肇は目を丸くして感嘆する。
「かっけぇ……」
「塗装練習を頑張ったプレゼントよ。よくできたわね」
美加の好みでいえばもっと無骨な装飾がしたかったのだが、贈り物なので肇が好きなアストレイレッドフレームの諸設定に合わせてみた。押し掛け弟子がメインスライドを手に固まっているところ見ると、これで良かったと胸をなで下ろす。
「長かった。厳しかった。でも、これで完成だっ!」
肇が師匠から受け取ったメインスライドをガンプラの背中に付ける。
秋山美加監修、台場肇作成のHGストライクガンダム。肇が新たに作ったガンプラだ。
両肩にソードとランチャー両パックの装備を載せている、いわゆるSDガンダム発祥のスーパーストライク装備だが、背中にはエールストライカーではなく大型実体剣メインスライドを背負う。両手にはビームライフルとシールド。それに伴いソードストライカーのロケットアンカーが右側に変わっている。
以前のストライクフリーダムレッドと同じく全体に塗装がされているが、美加の師事を受けたので無駄な厚塗りは解消されている。塗装色は白を基調に赤と金がポイントで散らされている。メインスライドとの一体感もなかなかのものだ。
名前もずばり、ストライクブランシュ。
「本当にその名前でいいの?」
「かっこいいじゃんか。ししょーは嫌なのか?」
「その名前がこそばゆいって男の人を知っているだけ。あなたが好きならいいんじゃない」
同じ名前の白雄猫を飼っている友人宅があるのだが、その父親が『フランス語なんて男には洒落過ぎる』と強固に反発しているのだ。
美加たちが産まれる前から代を継いで3匹も同名の白猫を飼っていながら頑固過ぎる。ようは命名主の母親に甘いだけだと友人は笑っていた。
ストライクブランシュ命名の切っ掛けは、肇が公式に設定されている派生機体ストライクノワールの名称が黒を指す単語と知ったからだ。それじゃあ反対の白は何というのか。興味を示し調べてみて、かっこいいと惚れ込んだのだった。
美加は弟子のネーミングが前回に続き色を含んでいることに気づき、これがどこまで続くのか楽しむことにした。
白いストライクが完成したその時、二人の少年が入店してきた。ともにHGガンプラの箱を持っている肇の友達だ。
「はよっ」
「おはよう肇」
やや長め髪に砕けた口調の叶徹谷と、メガネを掛けた背の低い日笠昇。今回ガンプラバトルで肇とチームを組むメンバーだ。
「おう。徹谷に昇、今日は楽しもうぜ」
「白ストライクも完成したみたいだし、肇がどれだけ強くなっているか楽しみだぜ」
「あれだけ汚かった肇のガンプラがこんなにカッコ良くなってるし。すごそうだね」
「まかせとけっ! 絶対に勝つぞー!」
少年たちの様子を見ていた美加に、あるアイデアが思い浮かぶ。
「今日はこの三人でチームを組むのね。それなら少し提案があるのだけれど」
「なんだよ。助っ人役なら三人いるからいらないぜ。あ、もしかして久しぶりにししょーがガンプラバトルしてくれるのか?」
「違うわ。三人チームで対戦するのではなくて、二人とブランシュに分けての二対一をやってはどうかしら……」
「?」
スーツに着替えた肇たちがそれぞれのガンプラを手にGポッドに乗り込む。
「徹谷! 負けても恨みっこなしだかんな」
「ったりまえだ! そっちこそ言い訳考えとけー」
「ほらほら。肇も徹谷も、バトル始めるよー」
これだけの軽口を叩きあえるなら勝敗が今後の友情に影響することは無いなと思いつつ、美加は観戦モニターに注目する。
押し掛け弟子のセットアップを確認して、ワイヤレスヘッドセットのスイッチを入れた。
「感度テスト。聞こえるかしら?」
「ばっちりっす。ししょー」
Gポッド内の肇から明るい応答。特別気になるノイズも無しのチェックグリーン。
そのまま口頭でレギュレーションを伝える。
「今日はジュニアクラスのカテゴリーD。コリジョン判定と弾数管理が今までより厳しいわ。
ステージは砂漠地帯よ。足元に気をつけなさい」
「ストライクブランシュなら問題ない! 台場肇、いくぜー!」
「このゲームは、その場しのぎの設置圧変更なんてできないわよ……」
出撃コールを聞きながら、アニメ本編の設定がそのままガンプラバトルには適応されないことを指摘する。
ガンプラバトルには幾つかの対戦規定が存在する。
大きく四つのクラス、キッズ、ジュニア、レギュラー、そしてマイスターに分類される。
カテゴリーは、それぞれのクラスでの再現度合いの指標だ。再現といってもアニメーションや紙面媒体の劇中を優先するのか、それとも模型を元にするかで、二次関数的な区分けがされている。
これは小さな子供からコアな知識を持つ大人まで一緒に楽しむためのものだ。
例えばキッズクラスは武装や部位の破壊が無い。さらにキッズとジュニアクラスには年齢による参加制限が設けられている。
レギュラークラスで一番解りやすい指標は、公式選手権のバトルロイヤルだろう。レギュラーの名の通り基礎となる再現バランスをしている。後で知ったことだが、美加と肇の遭遇戦もこのレギュラークラスだった。
また選択されるカテゴリーによっては、武器の利用は時限回復するゲージで表され総弾数の設定がなくなる。機能を阻害する煩わしいバットコンディションもなく、純粋に自分が作ったガンプラを動かして遊ぶことが出来る。
今回の二対一変則バトルでは、普段から肇たちの仲間同士で使っているジュニアクラスを選択。カテゴリーを変えているのは若干肇が有利なように偏らせているからだ。
美加がヘッドセットを付けている理由は、ストライクブランシュのナビゲーターを務めるためだ。人数差を徹底的な美加の援護で埋めようという考えだ。
美加がこのバトルを提案した動機は、肇の成長を確かめてみたかったから。
自分が教えた少年が同世代の子供たちと比べてどれほどの水準を示せるのか。気にならないはずがない。
それは間接的に美加自身の技術にも影響する。
肇に教えることで自分の技能を再確認出来た。工作道具の使い方から発案のアイデアまで、肇と関わったことで見直しや開拓された分野もある。メインスライドはその最たるものだ。拝一刀の差し料を模型世界に持ち込むなぞ今までの美加では考えもしなかっただろうし、飾り紐などの展示品作成では敢えて避けてきた手芸の取り入れもそうだ。
そういった意味では、
「アストレイシリーズの破天荒な設定はやりやすいということかしら?」
「そうだな。今はバクゥヘッドがとっても欲しいぞ」
「話が飛んでるわ……。そして少しぐらいは身を潜めなさい」
戦場にて索敵もせずに歩き出すストライクブランシュに突っ込みを入れる。ボディカラーが多少視認性を下げるが堂々と闊歩しては無意味だ。
「あー、はやく刀を抜きたいなー」
肇が物騒なことを言う。
ストライクブランシュの両手にはシールドとライフルが握られているため、すぐにはメインスライドを抜刀できない。開始当初はお互いに距離があるわけだから、格闘武器よりも射撃武器を装備するのが定石だ。
開けた砂漠地形なので相応の広さもある。射ち合いになるまで、まだ少し時間が掛かる。
美加はフィールドマップの対角線上から近づく二機を見る。
叶徹谷の機体はウィングガンダムだ。ウィングゼロやアーリータイプ、カスタムでもない一番最初のウィングガンダム。ただしメインウェポンが扱いにくいバスターライフルからドーバーガンに代わっている。
日笠昇はガンダムエックス、ショルダーバルカン付き。HGでは可変しないシールドバスターライフルの代わりにディバイダーのビームマシンガンを持ち、左腕に1/100ガンダムダブルエックスのシールドを装備している。
対戦相手の堅実な武装選択に感心する。
美加が感心している間に徹谷と昇が二手に別れた。直後飛び上がったウィングガンダムが一気に加速する。
「バードモードに変形して飛んでくるわ……。おそらく時間差攻撃よ」
案の定ガンダムエックスも加速した。サテライトキャノンのリフレクターを使ったホバーモードでの移動だろう。ウィングガンダムよりは遅れるが、砂漠を歩くより断然速い。
バード形態のウィングガンダムを視界に捉えた肇がファーストトリガー。
「当たれぇ!」
「当たるかよぉ!」
高速飛行するウィングガンダムはビームの火線を避けて変形。自由落下状態から標的をロックオン、ドーバーガンを撃ちおろす。
「目標を確認。破壊するっ!」
「狙いが外れてるぞー」
徹谷の攻撃はストライクブランシュの前方10mに着弾する。
それ眺めるだけの肇を、美加が叱責する。
「相手は二人組なのよ。足を止めないで動き続けなさい」
「うーん。やっぱり秋山さんがナビするのはズルいなぁ」
今度は横合いからビームマシンガンが撃ち込まれる。後続の昇だ。
シールドに隠れて身を守るストライクブランシュに、着地してしっかりと構えられたドーバーガンの砲撃が直撃した。
もうもうと砂煙が舞い上がる。
「ああん。もうっ、バカ弟子が。時間差攻撃って言ったのに……」
「秋山師匠にはわりぃすけど勝たせてもらいますよー」
「待って徹谷。肇の反応は消えてないよ」
砂煙を切り裂いてビームブーメランが飛翔する。向かうは先はウィングガンダムだ。
ビームブーメランはドーバーガンの砲身を切り落とし、投擲手の元へ戻る。
砂煙が収まった後に立つストライクブランシュはシールドとビームライフルを失っているだけだった。
「ししょーに塗装を教わっていなければ即死だった……」
「壊れたの武装だけかよ。なんて装甲してやがんだ」
「ガンプラバトルはフェイズシフト装甲無しなのに。ホント、肇のストライクだけズっこいよねー」
「はっはっは、くやしかったらししょーのシゴキに耐えて見ろ」
美加はこう言われるほど厳しい指導をした覚えはない。心のメモ帳にそれなら本気で教えてやると書き込む。
「しかし、これで封印は解けられた。ストライクブランシュの真の力を見るがいいっ!」
肇が啖呵を伐る。渾身の一作である主武装を披露できることが嬉しいのだろう。ノリノリだ。
「シールアウト!
メインスライド、ゲットセット!」
背負う鞘の鯉口から半ばまでが大きく開き、銀色の輝く刀身が熱砂に晒された。
白いストライクは柄を握り締めゆっくりと胴太貫を抜き放つ。
「いざ、これより介錯仕る!!」
観戦用メインモニターに、巨大剣を呷りで見るサンライズ勇者パースが映し出された。
「どういうことよ……」
横で観戦している叔父に美加の鋭い視線が突き刺さる。マイク側のスイッチだけを切っての追及だ。
「なにがだい?」
「刀剣を構えたときのアレよ。機材を勝手に改造してもいいの?」
「あれはデフォルトの設定だよ」
「え……?」
「このバトルシミュレータがどこから貸し出されているのか忘れたのかい? 当然アニメ制作スタジオには筋を通してあるさ」
「……疑ってごめんなさい」
「それに安心して。改造はちゃんと別口にしてあるから」
やっぱりか。
にこにこ笑顔の店長を再度睨む美加であった。
距離を取ろうとするガンダムエックスとウィングガンダム。
肇は真っ直ぐにガンダムエックスに突っ込む。
「チェストー!」
「それは示現流……。胴太貫なら水鴎流でしょう」
「狙われるボクとしてはどっちでもいいです」
美加の突っ込みも冷淡なら、こちらも冷めている昇はオーバーサイズの盾で防御する。
が、ダメ。
メインスライドの軌道に沿ってダブルエックスのシールドが切り裂かれてよろめく。
「うそぉ!?」
「うおっとと……。これ、ガーベラストレートより全然重いな」
勢い余って砂に刺さった切っ先を払いながら肇がメインスライドを構え直す。さらに相手に向かって踏み込むストライクブランシュ。
「まずいまずいまずい。肇と剣で戦うなんて」
昇は慌ててサテライトキャノンを旋回させ、シールドを失った左手で砲身の最後部にマウントされている大型ビームソードを掴む。
間一髪、ビームソードと実体剣が打ち合わされる。
「ぅごくな、昇!」
徹谷が肩部マシンキャノンで援護射撃。
さすがに肇も間合いを外してよける。
「昇もバルカンだ。肇を近づけさせるな」
「うん。ラジャー」
「お前らバルカンの撃ちすぎだー」
ガンダムエックスのブレストバルカンとショルダーバルカンを加えた弾幕に追い立てられ、ストライクブランシュはブースタージャンプで砂の丘陵を超えて隠れる。
「ざぁっくりやられたな。一回でシールド破壊かよ」
「さっきの肇じゃないけど、シールドが1/100でなけれは即死だったよ。HGのシールドだったら左手まで斬られて、次の攻撃を受けとめられなくてばっさりだったね」
オーバーサイズの1/100シールドにはHGの手でも持てるようにいくつかの部品を継ぎ足していた。
それでもストライクブランシュのメインスライドはシールドのグリップまで切り裂いていたのだった。
メインスライドの刀身は、熱したプラ版三枚を万力で締め上げて形成した本格派。サンドイッチ構造のプラ版は硬度に差があり、硬さと柔軟さを併せ持つ。その特性は水鴎流の武器破壊が再現出来るほど本物に近しい。
「そんなことをしているから身幅の厚い胴太貫になっちゃっただけなんだけど……」
おとなしく軽金属の削り出しにしておくべきだったか。でもそれは自分で使いたいし……。
美加は自分が設計したメインスライドの威力に満足しつつ、今後のことを考えて煩悶する。
ちなみにプラ版積層構造での硬度増強は、模型サークルでの検証とテストで判明したことだ。
「ホントなら肇を先頭に俺たちが後ろから射撃するつもりだんだからよぉー。戦って再確認する味方の怖さってヤツか」
「ボクたちの考えは正しかったんだよ。正直もう肇の前には立ちたくない」
二人の会話を聞きながら美加は弟子にメインスライドを託したのは間違いではなかったと心の中の拳を握った。
聞けば肇は小さい頃から祖父が主の剣道場に通っていて、同学年ではそれなりに名の通った存在であるらしい。思い返してみれば、白刃取りなんて離れ業をやっているのだから納得の履歴だ。遭遇戦でのストライクフリーダムが塗装不良でなければ、店長の第一の思惑通り最初の勝ち星は肇が取っていたのかもしれない。
肇がモビルスーツの武装選択で実体剣を取り入れるのは、本人曰く扱いやすいからだそうだ。肇の腕に胴太貫は、まさに鬼に金棒。
そんな白鬼状態の弟子に、美加はささやかな援護を送る。
「二人ともお喋りが過ぎるわ。肇、ミサイルとブーメランよ」
「!」
ストライクブランシュが砂丘から顔を出して右肩のミサイルを撃つ。
対してウィングガンダムとガンダムエックスは再度機関銃武装でミサイルを迎撃する。続いて大きく回って飛来するビームブーメランにも銃口を振り向けて撃ち落とした。
また隠れたストライクブランシュを探そうする昇は、あることに気がつきメガネをずり落とす勢いで悲鳴を上げる。
「ああ! やっぱり美加さんのナビ付きはズルい!」
「なんだってんだい。俺たちに攻撃を教えてくれたんだろ」
「そうじゃなくてさ。徹谷、バルカンの残り弾数いくつ?」
「んっ、さすがにほとんど残ってないって……。そういうこっかよ!」
「残りのバルカンは装甲で防げるわ。吶喊しなさい」
「うおっっしゃー!!」
砂の丘を駆け降りるストライクブランシュはメインスライドを下段に構えている。切っ先が僅かに砂を切り、走り去る軌道を残す。
「徹谷、プランSにしよう! でも、あの刀は絶対に受けちゃだめだよ」
「わかっとるぅ!」
下がるガンダムエックスを背にして、ビームサーベルをシールドから抜いたウィングガンダムが前に出る。
二機の間合いがみるみる詰まり、ストライクブランシュは腰を落とした姿勢のまま砂の上をするすると滑るように進み出した。
「うわっ、やっぱ剣じゃ肇に勝てる気しねえ」
「これも師匠と一緒に作ったストライクブランシュだからできることだぁ!」
裂帛の気合いを吐く弟子が下段から切り上げる。
徹谷は足を止めて大きくよけるしかない。
肇がスティックレバーとペダルを小刻みに動かす。流れるような追撃の踏み込み小手打ち。
「ただでやられるか!」
ウィングガンダムはビームサーベルを持った右腕を犠牲にシールドバッシュ。シールドの尖った先でストライクブランシュの右肩コンボウェポンユニットを破壊する。
覆い被さるようなウィングガンダムに肇は体当たりで間を広げ、左腕も切り飛ばす。
「俺は!」
返す刀で袈裟切り。
「スペシャルで!」
臑切り。
「二千回で!」
ウィングガンダムの胸部クリスタルにメインスライドを突き刺す。
「模擬戦なんだよぉ!!」
砂漠に倒れるウィングガンダム。
残心で佇むストライクブランシュは、ゆっくりと居住まいを正すとメインスライドを鞘に納める。
「徹谷、最後動かなかったろ」
「武器有りの格闘でお前に勝てるかよ。
それに言ったはずだ。ただではやられんと!
だからネタに走った。そしてすっげぇ楽しかった。コーラサワー人気の秘密がわかった気がした!」
「うん。さっきのお前、すっげぇ輝いてた」
そして二人で笑い合い、美加に怒鳴られる。
「なにやってるの。まだバトルは終わってないわよ!」
「おっまたせ〜。今週のビックリドッキリキャノン、発射準備開始〜」
昇の間延びした声と、明るい砂漠でもはっきりと見える一筋の光線。
光の筋の両端は空に浮かぶ白い昼の月と、サテライトキャノンを担ぎリフレクターを輝かせるガンダムエックス。ストライクブランシュと距離をとっての最大火力砲撃だ。
肇は最大のピンチに焦りまくる。
「そ、そんなんありかよ!」
「ふははは、俺はただじゃやられないのさ。もう白ストライクには射撃武器が残ってない。これで終わりだ!」
「いやっ、まだだぁ!」
肇は徹谷の捨て台詞を聞きながらガンダムエックスに向けて走り出す。
二機の距離を見て美加は届かないと判断した。なにより下は砂漠。足場が悪すぎる。肇が徹谷の口上に気を取られなければ、せめて何かしらの飛び道具が残っていれば。いやメインスライドの製作に時間を掛け過ぎず、ロケットアンカーを飛ばせるようにしておけば。様々な悔恨が浮かんで消える。
「サテライトキャノン、発射!」
「しなばもろともぉ!」
しかし少年はまだ諦めていなかった。
肇はメインスライドを鞘ごと大上段に構えると、X字に輝く相手に目掛け振り下ろした。
まっすぐ飛んだ鞘はガンダムエックスのサテライトキャノンに命中。
「「「あ」」」
全員を巻き込んで大爆発した。
バトル終了。
「二対一で引き分けなら、オレの勝ちだ!」
「ぅっせー! 秋山師匠がいなけりゃやられてただろう。大人しく結果を受け入れろ!」
Gポッドから飛び出した肇と徹谷がヘルメットを被ったままギャーギャーと騒ぎあう。
のんびりと最後に出て来た昇が周囲を見渡す。
「あれ? 秋山さんは?」
「なんか次の対戦の員数合わせをするって言ってたぞ」
「おおっ! ってことは秋山師匠のノーマルスーツ姿が拝めるのか。実は俺、秋山師匠のガンプラバトル見たことないんだよな」
「秋山さんのスーツって誰かキャラの色してるの?」
「ししょーはポケ戦のクリスカラーだぞ」
「髪も長いし、員数合わせや展示品作成のシューフィッターを掛けてのチョイスか。いいな」
いろんな期待を胸に抱く男の子たちの前に、併設のロッカールームから美加が出てくる。
「「「あ」」」
美加のノーマルスーツはオレンジを基調としたデザインだった。ご丁寧に長髪をシニョンで纏め、赤いカチューシャを付けている。手に持っているガンプラはなんと珍しいリグシャッコー。
どう見てもベスパのイエロージャケットだった。
「「「おかしいですよ。秋山さん」」」
「それ、定番にするつもりなの……?」
*
Cパーツ予告:
師の導きを受け、ガンプラ道をひた走る少年たち。
「えっ……? 早苗ねえさん、マイスター称号取ったの?」
「は〜い。だってうちのお店から誰も申請しないんですもの〜」
遂にガンプラマイスターが彼らの前に姿を現す。
「そんなにすごいんですか?」
「美加の前任者と言えばわかるかな」
その強大な存在に驚愕する少年たち。
「ししょーのこどもっ!?」
「香奈はわたしの従妹よ」
戦いの舞台を1/100スケールに移し、ガンプラマイスターとのバトルに挑む!
「それじゃぁ、早苗を入れよう。これで3VS3だ」
「ねえさんとマイスタークラスで1/100戦? ……終わったわ」
果たして戦火の向こうに待つものは……。
「こども(だんな)はきらいだー。ずうずうしいからー」
「本音が漏れてるーー!!」
次回、機動戦記ガンプラビルダーアナザー。
Cパーツ『マスターグレードマイスター』
「美少女ガンプラマイスター秋山早苗。十七歳、Dカップです」
「おいおい」「AirD乙」「3アウトでチェンジだね」
予告は冗談です。
説明 | ||
改稿:11/05/11 模型戦士ガンプラビルダーズの二次創作。 凸凹ガンプラ師弟の秋山美加と台場肇。 美加の師事を受けた肇の新作ガンプラが完成した。 さっそく友達と一緒にバトルしようとした時、師匠からある提案がされた。改稿暦:11/04/24 Bパーツ『二対一』 |
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