とあるお菓子作りが得意な魔法少女の話。
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「契約成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した」

 

「あ゛あ゛ぅあああぅぅ・・・・・・」

「朝からホラー映画のような声を出すなよ・・・・・・気持ち悪い」

 青空の下、朝の登校、私の隣で歩く明人(あきと)が失礼なことを言った。

 彼は私の幼馴染で、見た目は少しヤンキー系。そんな彼のげんなりとした顔を見て、思わず、むっ、とする。

 まぁ、確かに不気味だったかもしれないが、他に言い方はなかったのだろうか?

 私は文句の一つの言おうとしたが――。

「大丈夫か? 顔色も悪いし、もしかして風邪とか引いてるのか? 無理して維持はるなよ。辛いなら辛いと言えよ」

 明人のほうが頭一個分くらい私より背が高いので、私の顔を覗き込むように見る。どうやら、本気で心配してくれたようだ。

けど、ち、近い・・・・・・。思わず顔を赤くしてしまい、言いだそうとした罵倒を喉に詰まらせたため、思わず咳き込んでしまった。

「おいおい! 本当に風邪か!? いまからでも家に帰って学校休めよ。なんなら送って行くぞ?」

 ここぞとばかりに、明人は優しく私を気遣う。いつもは全然、優しくもない・・・・・・、訳でもないのだが、こんなときに優しくされるのは卑怯だ。

「大丈夫。ただの寝不足だから・・・・・・」

「ああん? もしかして、またお菓子作りに夢中になったのか? ほどほどにしておけよ。まぁ、好きなことに夢中になる気持ちはわからんでもないが・・・・・・」

「私のお菓子作りと明人の腐らせる悪趣味を一緒にしないでよ」

 この隣に歩く幼馴染は、よく意図的に色んなものを腐らせる変わった趣味の持ち主だ。将来はその道に進むと本気で考えている。何度かなぜそんなことに没頭するのか聞いたのだが、いまだ理解できない。

「なんだよ。悪趣味って・・・・・・。そもそも、発酵と言え! 発酵と!」

「意味は一緒でしょう」

「意味合いが違う。ランクが違う! 人間に有用的な腐敗を発酵って言うんだよ。なんだよ、馬鹿にするなら、今度から俺が作ったチーズあげねぇぞ」

「べ、別に馬鹿になんてしてないわよ」

「食い物が関わると殊勝な態度にとるじゃないか、食い意地がはってるな」

「はってない!」

「俺が作ったチーズ、美味しい美味しいって全部平らげたのはどこの誰だったか……」

「仕方ないじゃない・・・・・・。チーズは一番の大好物なんだし・・・・・・」

 特に明人が趣味の一環で作るチーズが好きだった。更に言うと市販のチーズのほうが大衆に評価を受けるだろうが、私は明人のチーズが一番好きだったりする。もっとも、それを明人に言ったことは癪なので一度もない。

 私が拗ねた様な顔になると、明人は鼻を鳴らした。

「まぁ、思ったよりも元気そうみたいだな。無理してぶっ倒れなかったらそのうちまたチーズを持ってやるから、徹夜はほどほどにしておけよ」

 にかっと笑う明人の思わず顔をそむけてしまう。

 駄目だ。どうしても意識してしまう。『あの日』以来、明人の一つ一つの仕草が、前以上に気になってしかない。

「あっ」

 突然、明人がそんな声を上げたので、彼が見ているものも私は目にした。

 後悔した。一気にお腹奥から、じわじわとやな気分になっていく。

 登校途中にある交差点、そこに一台の車が通り過ぎた。

 軍隊の黒いトラックだった。

 私たちが住む町の近くには軍事施設がある。施設が出来たのは町の後からで、危険だと抗議が何度もあったが今はそれがない。

 結局、軍事施設の存在を黙認する変わりに、この町の住人には国からの色々な保証があるのだ。どうしても嫌だという人間は町を離れるが、ここに住み住人のほとんどはその施設に対して、なんら偏見を持っていない。

 つい最近まで、私もそうだった。

「珍しいな、軍の車がこんな時間に通るなんて・・・・・・」

「そうね」

 明人の言葉に私は素気ない返事をする。

「そういえば、最近まで失踪事件とか色んな事件が減ってきたようなぁ。なんか軍の人を町で最近、よく見かけるし、軍の人たちがボランティアで治安維持してる噂は本当なんかなぁ?」

「違うでしょう。町の治安維持は警察の仕事、あの人たちの仕事は・・・・・・もっと物騒なことよ。しかも、肝心なときにはなにも役に立たない。逆に私たちに危害を加えるのよ」

「・・・・・・、菜緒(なお)って軍の人たちって嫌いだったけ?」

 私がそう言うと明人は怪訝な顔をする。

 いけない・・・・・・。

「別に、ただの想像・・・・・・」

「なんだよ、それ? 漫画とか影響か?」

「そんなとこかな・・・・・・」

「なんだよ、まさに中二病ってやつかよ。最近まで全然そんなのに興味なかったくせに目覚めちまったのか?」

「そんなとこかな・・・・・・」

「・・・・・・、否定すると思ったけど、マジか・・・・・・、まぁ、人それぞれ趣味は色々だもんな・・・・・・」

 明人がなぜかばつが悪そうな顔になった。

 勘違いしてくれたようなので、そのまま訂正せずにしておこう。

 実際に漫画のような奇跡や魔法もある。

 これは紛れもない現実だ。

 なぜなら、私、日坂菜緒(ひさか なお)は正真正銘、ファンタジーにしかいない存在になのだ。

 私は魔法少女だ。

 

 夜――。

 私は刀を一閃し、魔女を両断した。

 そして、魔女の卵であるグリーフシードを手に入れ、魔女の結界から抜け出す。

「いやはや、たいしたものだね。日坂菜緒」

 結界から抜け出した途端、白い兎か猫のような生き物が私の足元に現われた。

 この子はキュゥべぇ。私を魔法少女にした不思議生物だ。

「君は正直、才能がなかった。でも、君は魔女やその使い魔たちとの戦いを苦なくやり遂げている。やはり、君の願いによって発現した《能力》が強力だからだろう」

「そうね・・・・・・」

 自分の願いを叶えて契約を交わし、魔法少女になる。

 そして、魔法少女の個々の《能力》は契約するときに願ったもので決まる。

 それによって私が魔法少女として手に入れた能力は《消滅》だ。

 文字通り、どんなものでも消滅する。

 魔女の使い魔だろうが、魔女の攻撃だろうが、魔女自身だろうが、私が力を使えば消え失せる。

 魔法少女の役目は、解るとおり、魔女を狩ることである。正直、こんな力でなければ、昔からお菓子ばかり作っていた私なんかに魔女は倒せないだろう。

 しかし、そんな物騒極まりない力もさることながら、私の武器は刀、それも身の丈はあるぐらいの長刀である。魔法少女と聞いたとき、こんなものは全く想像していなかった。

「でも、油断は禁物だよ。その能力事態は強力だけど、その分、消耗も激しい。いつのまにかソウルジェムが汚れる場合もある。更にその力に慢心して危険な目にあう可能性もあるからね」

「わかっているわよ。無暗やたら魔法を使うとソウルジェムが汚れて、大変なことになるんでしょ? 油断や慢心、あと消耗も抑えるために、最近は刀だけでできるときまで頑張ってるわ」

「その心構え、姿勢はすごいね。さっき、才能がないと言ってしまったけど、それは失言だったみたいだよ。すまない」

「別に・・・・・・、そんな才能なんてほしくないよ。私はただ・・・・・・」

 私はただ、明人とずっと一緒にいたいだけだ。

 なぜ、こうなってしまったのだろう?

 わかってる。明人とずっと一緒にいたいから、こうなったのだ。

 そのお陰で、日課だったお菓子作りはほとんどしていない。

毎晩、魔女狩りで町に出向いてる。

正直、怖い。もう止めたい。

でも、契約だから、やめるわけにはいかなかった・・・・・・。

再び、なぜ、こうなってしまったのだろう? と疑問を持ち、心に黒い火が灯る。

ああ、そうだ。あいつ等のせいだ。

そう思うと、ソウルジェムが黒ずんでるのに気づく。どうやら、先ほどの戦いで消耗したようだ。早く、グリーフシードで浄化しないと・・・・・・。

今日はもう帰ろう。早く寝て、そして、また、朝、明人と一緒に学校に行くんだ。

 

こんな日が来るとは思ってなかったわけではない。

しかし、タイミングが悪すぎる!

その日、私は左腕を魔女に喰われた。

意識が飛びそうになりながらも、魔女を倒し、結界から脱出する。

左腕を喰われたのはショックだった。痛みよりも、そのこと自体が怖い。

けど、そのあとキュゥべぇが私のソウルジェムに触れると、腕が再生して、元通りになった。

別にないままでよかったわけじゃない。喰われたときはショックだ。けど、元通りになる光景はとてもグロテクスだ。骨が伸び、肉が生まれ、皮が貼り付けられて傷一つない左腕がそこにはあった。

これでは化け物じゃない!?

だが、なによりも――

 

その光景を明人に見られた!

 

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明人は夜遅く町に出かける私を、おそらく善意で心配してくれて、尾行し、そして、見た。私が魔女の結界に入る瞬間、結界から出てきた腕のない私を、映画で見た化け物のようになくなった腕を生やす私をっ!!

いつかはばれるとは思ったが、こんなのはあんまりだ・・・・・・。

明人は呆然としていたが、すぐ私に説明を求めた。怒っているような混乱してるような、そんな明人の顔を見るのは初めてだ。

ポツリ、ポツリと事情を全て話す。

ただし、私が願いを叶えて魔法少女になったことだけは誤魔化した。そこだけは、絶対に言えない。

 全て説明すると明人は黙っていた。

 もう、終わりだ。

 もう、明人は昔のように接してくれない・・・・・・。

 誰もこんな化け物と一緒にいてくれない!

 視界が歪がんだ。気づいたら、私は泣いていた。

 子供のように、あの時のように、また、私は地面に膝をついて泣きだした。

 ああ、最悪だ。泣いても、なにも――。

 

え?

 

「なに、泣いてるんだよ・・・・・・?」

 泣きわめいてる私の頭に、そっと手を優しく乗せられ、眼の前に明人の顔があった。

「だって・・・・・・」

「怖いか? 魔女って変な化けモノと戦うの」

「えぅ・・・うん、怖い。でも、もう、明人と、ひくぅ、一緒に入れないから・・・・・・」

「なんでだ! 魔法少女ってばれたら、一緒にいちゃいけない決まりとかあるのか!?」

 明人がいきなり大きな声を上げたのでびっくりしたが、私はすぐ首を横に振った。

「違う、そうじゃない。だって、明人、こんな腕とか生える化け物と、一緒にいるの嫌でしょう? 今度は巻き込むかもしれないし、だから、私は――」

「ふざけんなっ!」

 さっきよりも大きな声で明人が怒鳴った。

「魔法少女だから一緒にいたら駄目かっ!? 化け物だから一緒にいたら駄目かっ!? そんなの誰が決めたんだよ! もし、そんなふざけた糞ったれな決まりをあるなら、俺は問答無用で破ってやる!!」

「あ、明人?」

「だいたい、菜緒は俺がお前がそんなのになったから、俺がお前から離れるとかそんな小さい奴に見えていたのかよ! 馬鹿にするな! どこの世界に惚れた女が泣いてんのに何もしない奴がいるんだっ!」

「えつ・・・・・・」

「!?」

 明人は少しだけ、顔を赤くして、すぐに開き直った顔になった。

「ああ、そうだよ。俺はお前に惚れてるよ! だから、ほっておけるわけねぇだろう!」

「・・・・・・・・・・・・、明人、私が好きなの?」

「そうだよ・・・・・・。迷惑かもしれないけど、な」

「迷惑じゃない・・・・・・」

「え?」

「私も、明人、好きよ・・・・・・、一番好き・・・・・・、だから、一緒にいれなくなるのが、怖かったの・・・・・・でも、こんな私でも明人は一緒にいてくれる?」

 私が尋ねた瞬間、ぎゅっと、明人が私の体を抱きしめた。

「馬鹿野郎。お前が嫌にならないなら、俺はずっとお前の傍にいる」

「嫌になるわけ、ないじゃない・・・・・・」

 明人の体はとても温かった。

 ああ、私の願いは、本当の願いは、叶えられてるんだ。

 私は幸せだ・・・・・・。

 

 今度は唐突だった。こんな日がくるとは想像もしなかった。

 私はいま軍事施設に連れてこられている。

 そう、私たちの町の近くにある軍事施設だ。

 この施設はオカルト的な力を認知する過程で研究している。それを今、聞いた。

 そして、私が魔法少女だということがどこからばれて、連行された。

 私は素直に連れてこられたわけではない。

 明人が、彼らに攫われた。

 返してほしければ、我々に協力しろと言った。

 人道的ではない、正気を疑う。

 無理やり抵抗すれば、なんとか明人は助けれるかもしれないが、でも、死人は出るだろう。もしかしたら、明人にも危害が加えられるかもしれない。

できるだけ、穏便にすませたい。

抵抗したい気持ちを抑えて、浅はかな私は、彼らに協力した。

私は明人と一緒にいたい。できるだけ、平凡に。そして、彼のチーズを食べて、彼のチーズを使い、チーズケーキを作って、明人がそれを食べる。

そんな綺麗な夢。

 

なにが、あったのだろう?

辺りにはなにもなかった。

確か、私はどこかの建物にいた。

ああ、そうだ。その建物を私が消したんだ。

なんでだっけ?

ああ、明人という男の子が無理やりこの建物から出ようとして、誤って、建物のなかの人たちが拳銃で撃って、それでその男の子は動かなくなったんだ。

そしたら、私は全部消してしまった。

なんで、あの男の子は出ようとしたんだろう? 誰かを助けようとしたみたいだけど・・・・・・

ま、いっか!

それよりもお腹がすいたなぁ・・・・・・。

よし、お菓子を作ろう。イチゴのショートケーキにガトーショコラにミルフィーユ、飴細工にフルーツタルトをいっぱい作って、いっぱい食べよう。

でも、大好物のチーズだけ作れない。なんでだろう? なんで作れないのだろう?

いままでどうしてたっけ?

わかないから、誰かに持ってきてもらおう。

ああ、甘い。甘い。美味しい。美味しい。

私は幸せだ。

 

  ★

 

 また一人、魔法少女が魔女になった。これでまた、少しエネルギーを回収できた。

 一匹のインキュベーターは日坂菜緒が契約した日を思い返した。

 ある日、軍事施設の実験が失敗し、偶々現場近くに居合わせた人間たちが死んだ。

 その中に、彼女の幼馴染がいて、彼女は願った。

 こんな哀しい出来事をなかったことにしてほしい・・・・・・。

 契約は成立した。

その事件は空白のものとなり、彼女は魔法少女になった。

 その願いの資質なだけに、消滅の能力は驚嘆したが、元々才能がなかったため、魔女となった彼女はそこまで強大ではないだろう。いずれ、どこかの魔法少女に狩られる。

 そんな魔法少女だったものを思い返した。

 それだけだ。

 ああ、そういえば、この星のあの施設、結局、魔法少女のことを教えても大した成果をだせなかった。やはり、自分たちだけで動いたほうがエネルギー回収の効率は良い。

 さてと、この町に魔法少女になれそうな人間はいないので、次の町にいこう。

 

  ★

 

「あ゛あ゛ぅあああぅぅ・・・・・・」

「朝からホラー映画のような声を出すなよ・・・・・・気持ち悪い」

「失礼ねぇ・・・・・・ただの寝不足でそこまで言われる筋合いはないわ」

「どうせ、またお菓子作りに夢中だったんだろ」

「そうだけど、今朝は変な夢を見たんだよね」

「変な? どんな?」

「馬鹿にするから言いたくない」

「しないしない」

「本当?」

「本当本当」

「じゃあ言うけど。私が魔法少女になって怪物になって違う魔法少女に倒される夢・・・・・・」

「ごめん、馬鹿にするわ! はっはっはっはっは!!」

「最初に謝ったなら許されると思ってるの!?」

「いや、だって、変過ぎるだろそれっ!」

「だって、夢なんだから仕方ないじゃない」

「まぁ、そうだけどよ。む?」

「なに? どうしたの?」

「いや、見かけない子がいたから・・・・・・」

「ああ、あの子? 黒くて長い髪ねぇ。美人・・・・・・。明人はあんな子が好みなんだ?」

「ち、違うって!?」

「本当に?」

「俺は、その・・・・・・、ああ、そういえばあそこにある軍事施設! 武器庫の武器をまるっきり盗まれて、犯人が特定できなかったから、管理不足とかなんかで解体されてなくなるらしいぜ!」

「いきなり違う話題でごまかせると思ってるの?」

「なんで怒ってるんだよ!?」

「別に・・・・・・、はぁ、明人とはずっとこのままのかなぁ」

「なに今度は溜息はいてるんだよ?」

「別に、ずっと一緒なんだろうな、って思っただけ!」

 

END

 

説明
魔法少女まどか☆マギカの2次創作小説です。
ここではこの作品が初投稿になりますね。
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コメント
>枡久野恭  コメントありがとうございます!!(貫咲賢希)
きゅうべえさん、素敵なほど怖いですね(枡久野恭(ますくのきょー))
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