真説・恋姫演義 北朝伝 第五章・第六幕
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 「おうりゃー!」

 

 「てやーっなのー!」

 

 ドリル状の穂先のついた槍を持ったその少女−李典・字を曼成と、眼鏡をかけた三つ編みの少女−于禁・字を文則が、巨大な戟を持ったその人物−呼廚泉に、それぞれの武器力の限りに繰り出す。

 

 「くっ!」

 

 「どけ!真桜、沙和!はあーーっ!猛虎蹴撃ぃー!!」

 

 李典と于禁の攻撃により、わずかに呼廚泉が体勢を崩したところを見計らい、李典達の後方に控え、攻撃の機を伺っていた少女−楽進・字を文兼が、その脚に”気”を込め、自身の技を呼廚泉の腹めがけて放つ。

 

 「くうぅぅっっ!!」

 

 その楽進の一撃を、何とかその戟で受け止める呼廚泉だったが、その勢いと威力を完全に消すことはできず、地面を踵で削りながら、楽進らとの距離を大きく開けた。

 

 「へっへーん!沙和たちの実力、思い知ったかなのー!」

 

 「異民族の戦士いうたかて、所詮うちら相手じゃこの程度やっちゅうことや。な、凪?」

 

 「沙和、真桜。二人とも油断するな。……私の今の一撃も、ほとんどその威力を殺されている。そんなに体力は削れていない」

 

 楽進の言葉どおり、呼廚泉は先の一撃からのダメージなどは全くなしといった感じで、再び戟を構えて三人を凝視していた。……不敵なその笑みとともに。

 

 

 北郷対魏の官渡における決戦の中、匈奴からただ一人、出向という形で従軍していた呼廚泉は、遊撃隊として他方に展開していた楽進たちが発見されると、本隊の指揮を執っていた李儒から一部の兵を借り受け、その楽進たちを抑えておく役を買って出た。

 

 「これでも一応、北ではそこそこの武を誇ってましたら」

 

 ニコニコと、そのあどけない顔で笑って見せた呼廚泉。そしてその言葉どおり、わずか二千程度の兵を巧みに操り、楽進たち魏の遊撃隊を散々に翻弄させて、彼女たちの足を見事に止めて見せた。

 

 そんな状況を改善するべく、楽進、李典、于禁の三人は、呼廚泉に対して戦いを仕掛けた。当初、彼女たちは一人づつ、順に呼廚泉に挑みかかっていくつもりだったのだが、逆にその呼廚泉の方から、問答無用で三人同時に戦いを始めたのである。

 

 「……確かに凪の言うとおりやな。あいつ、うちらとこれだけやり合っておきながら、息一つ乱れとらへんで」

 

 「……沙和、結構疲れてるのー」

 

 「だが、我らとてそう簡単に退く訳にはいかん。誇りある曹魏の将として、ここは何が何でも奴を倒し、北郷軍の本陣に切り込むぞ!いいな、沙和、真桜?!」

 

 「あいよ!」

 

 「わかったの〜!」

 

 そんな三人の気合のこもった台詞は、呼廚泉のその耳にも届いていた。

 

 「……フ。いい覚悟をしているな、この三人。けど、ボクだってここで負けるわけに行かないのは同じ。匈奴の誇り、そして、男の意地にもかけて!」

 

 にっと笑顔をその顔に浮かべた後、気を激しく迸らせて、呼廚泉は地を蹴った。楽進たちとの戦いに決着をつけるために。

 

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 丁度その頃の魏軍の本陣では。

 

 「秋蘭が接敵を?」

 

 「はい。おそらくは徐州方面よりの軍勢かと。数はおよそ五千程度ですが、どうやら例の虎豹騎のようです」

 

 楽進たちとは別の遊撃隊を率いていた夏候淵から、北郷軍の別働隊と思しき部隊を発見し、戦闘を開始したという報告が曹操の元へと届けられていた。

 

 「そう。……もしかして、それが彼らの本命かしらね?」

 

 「その可能性は高いと思われます。おそらく、徐州攻略と同時に、我々の後背を突くための別働隊を、こちらへと先行させたのでしょう。その戦力がわずかに五千程度というのも、そうであるならば頷けます」

 

 徐州方面からの、青州進攻。その命を曹操が下したのは、曹仁たちが、青州で敗北して戻ってくる前のことである。もしもその前に、その曹仁たちから戦の顛末を聞くことができていれば、また状況は違ったものになっていたかもしれない。

 

 漢帝劉協の手で、南の孫家を気にしなくて良くなった曹操は、徐州に入れてあった兵のうちのそのほとんどを、青州へと向けて出兵させた。本来はその戦力と曹仁たちとで、青州方面の軍を挟み撃ちにして壊滅させ、曹仁たちはすぐさま?州へと取って返し、北郷の本隊を後方から襲撃……という腹づもりだった。

 

 しかし、現実には曹仁たちのほうが壊滅させられ、徐州から北上した部隊もあっさりと蹴散らされた。

 

 そして現在、徐州はその北郷軍によって、激しく攻め立てられているという。

 

 ……おそらく、徐州の陥落までは、さほどの時もかかりはしないだろう。徐州へと歩を進めた北郷軍の戦力およそ五万。そのうちの五千ほどが、官渡へと先行したとしても、その戦力差は明らか。それ故の、別働隊の先行なのであろう。

 

 「けど、こちらがそういうことに備えていないとでも、彼は思ってでも居たのかしらね?自分が派手に一騎打ちをして囮になっていれば、私たちがそれに気づかないとでも」

 

 少々買かぶっていたかしら?と、曹操はその顔を不機嫌に歪めた。自分が良き好敵手と選んだあの北郷が、その程度のものでしかなかったのかと。

 

 だが。

 

 彼女のその、落胆にも似た失意の想いは、彼女を心底から驚嘆させる形で、裏切った。

 

 「……存在を忘れていたわけじゃあないわ。ただ、北郷という光が強すぎた。それだけよ」

 

 と。彼女は後日、とある人物にそう語った。

 

 

 一刀という、あまりにも強すぎる光に隠れながらも、その人物もまた、確かに独自の光を放つ存在―――。

 

 公孫伯珪の白馬義従一万―――。

 

 それが、西へと沈み始めた夕日に照らされながら、完全に手薄となっていた、曹操の本陣の南側より、一気に襲い掛かった。

 

 

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 「彩香!本陣が!」

 

 「!?なに!?一体何が起こったの?!」

 

 後方での”その異変”に気づいた曹洪が、本陣の方を指差しつつ曹仁にそのことを知らせる。妹のその声に、彼女もまたそちらへとその視線を移す。そして、その視線の先に彼女が捉えたのは、もうもうと土煙を上げて戦闘状態となっている本陣だった。

 

 「本陣が襲撃された?!そんな!一体そんな軍勢どこから……!!」

 

 「……どうやら、ようやく白蓮たちが到着したみたいだな。こっちの大本命が」

 

 「ッ!!……それは一体、どこのどなたのことでしょうか?」

 

 激しい衝撃とともに、その事態に驚愕している曹姉妹の背に、一刀がその顔に笑顔を浮かべて放ったその言葉。それに対し、曹仁は視線だけを一刀に向け、その突然の援軍の正体を問いかける。

 

 「公孫伯珪。世に白馬将軍と謳われし者。俺の同盟者……いや、大切な友人さ」

 

 「幽州軍……!!そんな、一体どこから……!?」

 

 「……船、さ」

 

 『船?』

 

 「そ。幽州から海岸線に沿って、船を使って長江に入り、寿春付近で上陸。でその後は、他には一切目もくれず、この官渡の地を目指して曹魏の後背を突いてもらったってわけ」

 

 一万の騎馬隊を運ぶ船を調達するのは、中々に骨が折れたけどね。そういって微笑んで見せる一刀。なお、その一刀の背後には、すでに彼に敗れて縛られている夏候惇の姿がある。このほんの少し前、最後の力を振り絞って一刀に攻撃を仕掛けた彼女は、その渾身の一撃をあっさりとかわされ、がら空きになった背中に蹴りを食らってその場に倒れ付し、気絶した所を兵によって捕縛されていたのである。

 

 「……なるほど。たいした戦略眼、とでも言うべきかしらね。貴方たち自身も、?州の兵も、徐州の兵も、すべてが囮。本命は、はるばる海を越えてきた幽州軍、か」

 

 「……ほんと、華琳の台詞じゃないけど、虫も殺さないような顔してえげつないことをやってくれるね、北郷クン?」

 

 「褒め言葉として受け取っておくよ。……さて、と。貴女たちからすれば、すぐにでも曹操さんの助けに行きたいところでしょうけど、ここで貴女たちを無座と逃がすわけにはいかない。……その身柄、拘束させてもらいます」

 

 す、と。脇差である玄武を鞘に収め、太刀である朱雀のみをその手に、曹仁・曹洪の二人に対し構えを取る一刀。

 

 「……雹華。彼は私が引き受けるから、貴女は華琳の所に先に行きなさい」

 

 「……あたしもそうしたいけどさ。残念ながら、それはどうやら無理っぽいよ、彩香?」

 

 「え?……ッ!?いつの間に……!!」

 

 曹洪に、先に本陣へと戻って曹操を援護するよう促した曹仁だったが、その曹洪の一言にはた、と気づいた。いつの間にか、彼女たちは完全に、北郷軍の兵たちによって包囲されていたのである。その、独特の形状をした槍をその手に持ち、身に纏っていた鎧のすべてを脱ぎ捨てた、徐庶率いる虎豹騎たちによって。

 

 「……参ったわね。逃げ場はもはやどこにもない、か。……北郷どの?」

 

 「……なんでしょうか?」

 

 「……捕虜の扱いは、丁重にしていただけるんでしょうか?」

 

 「彩香?!」

 

 降伏する、と。曹仁は言外にそう言ったわけである。曹洪はそのあっさりとした曹仁の判断に、思わず驚いて声をあげ、なぜかすがすがしそうにしている姉の顔を見た。

 

 「……雹華、悔しいのは良く分かるけど、この戦はもう私たちの負けよ。なら、後は無様な姿をさらさないこと。春蘭も捕まっていることだしね」

 

 「……はあ〜。しょ〜がないか〜。ねえ、北郷クン。あたしからも一つ聞いていい?」

 

 「?なんでしょう?」

 

 にた、と。一刀にいたずらっぽい笑みを向ける曹洪。その口から出た言葉とはというと。

 

 「……おっきいのとちっさいの、どっちが好き?彩香みたいなたわわに実った果実?それともあたしみたいな青い果実かな?」

 

 「へ?」

 

 「ちょっ!?雹華、貴女は何を……!?」

 

 「むふふ〜。どうせ捕虜になるんならさ、その後のことも考えておこうかな〜、なんて思ったのよ〜。で?どっちが好き?」

 

 つい〜と。いつの間にかすでに武器を捨てた曹洪が、一刀の傍にすすす、と寄ってしなをつくる。

 

 「こ、こら彩音!」

 

 「いいじゃな〜い。もう降伏することに決めたんでしょ?だったら、今度は”そっち”で、北郷クンと一戦交えてみたいな♪……だめ?」

 

 ぐにぐにと。ほとんど洗濯板に近いその胸を、一刀の腕にしがみついて押し付ける曹洪。で、そんなことをされている一刀はというと。

 

 「……いや、その///どっちも別に嫌いってことは……ハッ?!」

 

 そんな状態に、思わず鼻の下を伸ばした一刀だったが、その瞬間、背後にすさまじい”何か”のオーラを感じとった。

 

 「……ずいぶんと、楽しそうになさっていますね、一刀さん?(に〜っっっこり)」

 

 「イヤアノ、輝里サン?コレハベツニ浮気トイウワケデハケッシテ」

 

 「……とりあえず、後でたっぷり、O☆HA☆NA☆SI☆が、ありますからね?」

 

 「……ハイ」

 

 にこにこと、とってもいい笑顔をしていながらも、背中に何かを背負っている徐庶のその言葉に、一刀は蛇ににらまれた蛙の様に、ビシッと固まったまま返事をしたのであった。

 

 「……あの娘、怖い」

 

 「……同感。ていうか、いつの間にこっちに来ていたのよ貴女は」

 

 いつの間にやら一刀から離れ、曹仁にしがみついて震える曹洪と、そんな彼女に半ば呆れつつ同意する曹仁であった。

 

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 そのほぼ同刻。魏軍本陣にて。

 

 「たりゃー!」

 

 「せえーい!」

 

 その体格にとても似つかわしくない、巨大な鉄球と、巨大なヨーヨーを振り回し、大立ち回りを演じる二人の少女。それに相対するは、自慢の戟を片手に、ひらひらと蝶のように優雅に舞う一人の女性。

 

 曹操親衛隊の許緒と典韋が、王?を相手に激闘を繰り広げていた。

 

 「あ〜ら、二人とも、(相変わらず)その小さい体で、よくもまあそんな大きなものを振り回せること。おねえさん、感心し・ちゃ・う♪」

 

 「ちっさいっていうな!ボクだっていつかは、春蘭さまみたいなばいんばいんになるんだからな!」

 

 「ちょっと季衣!そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!華琳さまと引き離されちゃってる今、何とかしてこの人を倒さないと……!!」

 

 「流琉にいちいち言われなくてもわかってるよ!こんのおーっ!!」

 

 ぶおん!!と、再びその巨大な鉄球を、王?めがけて振り回す許緒。それにあわせる様にして、典韋も巨大ヨーヨーを投げつける。

 

 「あら〜ん、そんなんじゃあ、私には当たんないわよ〜ん?ほ〜らほら、おにさんこ〜ちら、手の鳴るほうへ〜♪」

 

 「くっそー!馬鹿にしてー!」

 

 「季衣ってば!ちょっと落ち着いて!」

 

 王?のその挑発に、完全に頭に血を上らせてムキになる許緒と、その彼女を何とか抑えようとしつつ、王?をけん制する典韋。

 

 (うふふ。やっぱりまだまだお子ちゃまねえ〜。すっかりこっちのペースにはまってくれたわねん♪白蓮ちゃん、今のうちに曹操ちゃんを捕まえちゃって頂戴ね♪……ちょ〜っと、荷が重いかもしれないけど)

 

 公孫賛に着いてきた王?の役目は、曹操の直衛を勤めている二人の将−許緒と典韋を彼女から引き離しておくこと。その間に、公孫賛が曹操本人の身柄を拘束するというのが、その段取りである。だが、その曹操本人も、相当な実力をもった武人であることに変わりはなく、果たして公孫賛にそれが務まるかと、正直最初にその作戦を聞いた李儒がそう危ぶんだのではあるが、公孫賛はその彼女にこう答えた。

 

 「……私だって、ただ毎日机に向かって政務ばかりしていたわけじゃないさ」

 

 その言葉のとおり、彼女は一刀たちと同盟を結んだ直後から、とある人物を相手に、ひそかに鍛錬を続けてきた。そして、その成果を今出そうとしていた。

 

 覇王、曹孟徳を相手に。

 

 

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 「はあー!」

 

 「ふん!」

 

 金属同士のぶつかる音とともに、公孫賛の剣をこともなげにその鎌−絶で受け止め、鼻で笑って見せる曹操。

 

 「……まさかね。この私に挑んでくる北郷の切り札が、普通人の貴女ごときとは。見くびられたものだわ、公孫伯珪」

 

 「ふん。普通人で悪かったな。けど、普通だからこそ、まだまだ成長の余地があるとは思わないか?曹孟徳」

 

 「……なるほど。つまり、貴女は私に勝てるほど成長していると、そう言いたいわけ。ふ、ふふふ、あははははは!……はあっ!!」

 

 ぶん!

 

 「っと!!」

 

 曹操が思い切り振るったその鎌を、公孫賛は何とかぎりぎりでかわし、彼女と間合いを取って再び剣を構えなおす。

 

 そんな二人の周囲では、公孫越が指揮する白馬義従一万が、荀ケ・郭嘉の指揮で動く曹魏の親衛隊を相手に、互角以上の戦いを見せている。公孫賛と曹操の一騎打ちを、邪魔させないようにするために。

 

 「わたしはね、公孫賛?今まで、無能どもを馬鹿にこそすれ、侮ったりだけはしてこなかったわ。なぜだか分かるかしら?」

 

 「……窮鼠猫を噛む……そうならないようにするため、なんだろ?」

 

 「あら。良く分かってるじゃない。なら、私が貴女に対してどうするかも、理解してくれているかしら?」

 

 「……曹孟徳の全力、か。……さすがに、体が震えて仕方がないよ」

 

 ふふふふふ、と。互いに笑みをこぼす曹操と公孫賛。互いのその実力は、曹操を十とすれば、公孫賛は六か七、といったところであろう。常識的に考えれば、誰の目にも結果は明らかなはずの実力差。

 

 そう。

 

 ”普通”であれば、公孫賛には、万に一つの勝ち目も無い……はずである。

 

 「さて。それじゃあ今度はこっちから行くわよ?……あっさり死んじゃったりしないで頂戴ね?」

 

 ヒュン!

 

 その言葉の終了とともに、曹操は公孫賛めがけて一気に踏み込んだ。その死神の鎌が、公孫賛のその首を刈るべく、高速で襲い掛かる。

 

 「くっ!!」

 

 公孫賛はそれを、なんとか”紙一重”でかわし、逆に自身のその剣を曹操に対して繰り出す。だが、そう簡単には彼女を捉えられるはずも無く、彼女の剣はむなしく空を切る。

 

 「遅すぎるわね」

 

 「……やっぱ、そう簡単に勝てる相手じゃない、か。分かっちゃいたことだとは言っても、悔しいもんだな」

 

 (……やっぱり”あの手”しか、こいつに勝てる手は無い、か)

 

 

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 「っ?!」

 

 ちゃり、と。

 

 何を思ったのか、公孫賛はその剣を鞘に収め、無手のままで構えを取った。その構えは、曹操からすれば始めて見るものだった

 

 「……剣で勝てないからといって、素手での格闘なら私と渡り合えるとでも?」

 

 「さあ、な。けど、私がお前に勝つには”これ”しか手段が無いんだ。……いくぞ!曹操!!」

 

 「!!」

 

 加速し、一気に懐に飛び込む。そして、左右のジャブを交互に繰り出し、続けて右のストレート、左のフック、と。息を尽かさぬ連携攻撃―――。

 

 「くっ?!拳しか使わない戦闘手段ですって?!……このっ!ちょこまかと!」

 

 「っ!!」

 

 スウェーバック。曹操の絶を寸ででかわし、フットワークを巧みに使い、彼女の左へと回り込む。

  

 「ふっ!!」

 

 「ちっ!」  

 

 左ストレートが曹操の顔面を掠める。上体をわずかにそらしてそれをよけた曹操に、今度は右のフックが、まるで鞭のように襲い掛かる。だが、さすがの曹操である。それすらもぎりぎりでかわし、公孫賛から距離をとろうとする。

 

 だが、”そこ”が彼女の狙い目だった。

 

 「もらったぞ!曹操!!」

 

 「なっ!?」

 

 腰の剣を、鞘ごと抜き去り、曹操にまっすぐ投げつける公孫賛。それを、曹操はなんとか叩き落すが―――。

 

 「隙ありだッ!!」

 

 「?!」

 

 剣を叩き落した時にできた、そのわずかの隙。すばやく踏み込んだ公孫賛が、曹操のその腕を掴み、

 

 「おうりゃあーーーー!!」

 

 「あっ?!」

 

 と、曹操が思ったその瞬間、彼女は地面に思い切り叩き付けられ、その意識を手放した。

 

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 後に、官渡の奇跡と呼ばれ、世に語り継がれていくこととなる、この一騎打ち。

 

 公孫賛はこの時の事を、後にこう言っていたという。

 

 

 「……私の人生で、一番、いや、唯一、目立てた時だったかも知れないなあ……」

 

 

 ……事実、彼女の目立った功績は、この日のこと位しか、後世のどの史書にも、記されていないそうである……。

 

 

 余談はさておき。

 

 こうして、公孫賛の活躍によって曹操は囚われの身となり、ここに北郷対魏による、官渡の戦いはその決着を見た。

 

 その後。

 

 囚われの身となった曹操たちを引き連れて、一刀たちは許へとその軍を進めた。

 

 だが。

 

 そこにいるはずの、漢の皇帝・劉協の姿が、すでに何処にも無くなっていたことにより、一刀たちはもちろんのこと、曹操たち魏の諸将もまた、その心に強い衝撃を受けたのであった……。

 

  

                                 〜続く〜

説明
北朝伝、五章・六幕のお届けですw

バトルバトルの連続で疲れました。

てことで、官渡決戦の決着です。

とってもありえない事態が作中にて起こってますが、

例によって、誹謗中傷はご勘弁くださいね?

それでは。

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コメント
…う〜む、白蓮が徒手空拳で戦うのは確かに意外だ。が、華淋だって格闘家である凪を配下にしてるんだし、その戦い振りを目にしてるだろう事を考えれば、もう少し息詰まる激闘な感じに描写しても良かった気がしますが?(クラスター・ジャドウ)
siriusさま、それは是非にお願いしたい!白蓮も泣いて喜ぶことでしょう!www(狭乃 狼)
白蓮がんばった!何時か貴女のイラストも描こう!もちろんピン(一人)で!!(Sirius)
ルサールカさま、そーですね。十分以上の功績ですよねw(狭乃 狼)
村主7さま、たぶん、地味にどっかにはあるかもw(狭乃 狼)
ハセヲさま、泣くほど感動しましたかw(狭乃 狼)
2828さま、オハナシされるのは一刀だけですよ?w (狭乃 狼)
poyyさま、それはもう、僕の嫁二号ですからwww(狭乃 狼)
Raftclansさま、ある意味彼女が最強かも、ですねw(狭乃 狼)
Daisuke_aurora_0810さま、普通に有能。それがこの外史の白蓮ですw(狭乃 狼)
hokuhinさま、それだけこの場の活躍に全力を注いだというわけですw(狭乃 狼)
人生唯一の目立った場がコレだけだったとしても、覇王捕縛であるなら十分だと思うんですけどね。(ルサールカ)
本人談で言ってる事なので探せばきっと「目立っていた」箇所が・・・恐らく、いやきっと有る筈(汗  でも白蓮さんみたいなタイプは組織という枠組みでは必要不可欠な存在なので・・・大丈夫、この作品見てる我々は応援続けているのでw(村主7)
白蓮おめでとう!!感動した(T_T)(ハセヲ)
曹洪も輝里のO☆HA☆NA☆SI☆ですかねwついでにぶるぁ文字どうり遊んでないで捕まえるなりやれやw(2828)
白蓮にとってこの外史は天国ですねwww(poyy)
白蓮って、普通普通と言われていますが、太守でありながら普通の武将や軍師の代わりもやってるんですよねぇ。弱点らしい弱点が無いんですがw(Raftclans)
普通は普通でも「普通に有能」な白蓮さんでしたね。 魏王捕縛はホントお手柄でした。この存在感ある白蓮なら史実の雨乞いネタを劉協にやっても許しちゃうw(Daisuke)
白蓮さんは一生分の活躍する場を、華琳さま捕縛にかけたのかw(hokuhin)
mokiti1976−2010さま、一刀補正、それはご都合主義ともいうwww(狭乃 狼)
白蓮さんが華琳に勝った・・・! 一刀補正恐るべし!!願わくばその補正が今後も生かされることを・・・。(mokiti1976-2010)
闇羽さま、大丈夫、大して目立てなくても、活躍の場はちゃんとある!・・・はずですw(狭乃 狼)
東方武神さま、それは何かのフラグになっちゃうかも・・・www(狭乃 狼)
アロンアルファさま、たっぷり祝福してあげてくださいw(狭乃 狼)
namenekoさま、一長一短ある者より、平均的な者のほうが重宝される。それが世の中ってものですよねw(狭乃 狼)
紫炎さま、じゃあ、そのうち言わせてあげましょうかね。どこでかはわかりませんがw(狭乃 狼)
劉邦柾棟さま、あくまでも、”目立った”、功績についてですwその他はきちんと残ってるそうですw(狭乃 狼)
M.N.Fさま、どっかに上限があるのも普通の特徴だったりしてw(狭乃 狼)
全体的にレベルが高ければ突出した技能を持つ相手にも戦いようでは勝てるってことですなー  でもこれっきりは可哀想だ_| ̄|○(闇羽)
白蓮「我が世の春が来たァ!!」とか言ってそうだな・・・(東方武神)
白蓮目立てて良かったね(ホロリ(アロンアルファ)
普通人間は時としてどんな特化型人間よりも最強だからな白蓮は強くなるな(VVV計画の被験者)
普通?言いたいやつには言わせてやればいい。私はそれを後悔させてやるだけさ。なんて言えたらかっこいい。白蓮の見せ場がある小説はあんまりないからこれ以降も見せ場を作ってほしいです(紫炎)
連続失礼。  そして、一刀対華琳の戦いの結果知った雪蓮たち呉と劉協が利用しようとしている桃香たち蜀はどんな動きをみせるのか。 次回が楽しみです。(劉邦柾棟)
白蓮が報われる日ってあるのかなwwwwwww? 白蓮の活躍があんまり歴史に残らないって本人としては最悪じゃんよwww。 華琳も『一刀の光が強すぎた』っていってるけど本音を言えば完全に忘れていたんだろうなwww。 白連哀れ・・・合掌。 一刀達が劉協の姿が無いのを知ってこれからどうするのかが気になります。(劉邦柾棟)
公孫伯珪が真に完成された時が恐ろしいな。 普通=オールラウンドだっていうならば・・・。(M.N.F.)
ほわちゃーなマリアさま、機嫌のいい輝里とやつれた一刀・・・その辺のくだりでも拠点で書いてみようかな?w 白蓮はまあ、うん、ハムだししょうがないということでwww(狭乃 狼)
輝里必殺の“ヤるか”と書いて、O☆HA☆NA☆SHIを喰らった一刀は後日、とても機嫌の良い輝里とまるで漢女に襲われたようなげっそりした一刀の姿があった・・・。そして白蓮が「ついに、ついに私の時代が来たぞー!!」と叫んでいますね、もう目立つ事はないのに・・・(ほわちゃーなマリア)
砂のお城さま、ボクシングと柔道、誰に習ったのかは・・・いわずもがな、ですねw 何でもこなせる白蓮故の万遍なさ、ですねw(狭乃 狼)
はりまえさま、協ちゃんの心中とは?そして白蓮の出番はもう来ないのか?(笑 さあ、今後どうなっていくでしょうかね〜w(狭乃 狼)
陛下、何があなたを変えたのか…・。そしてハム目立つことがこれきりとは・・・・・(泣)(黄昏☆ハリマエ)
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