IS<インフィニット・ストラトス> 〜あの鳥のように…〜 第十話 |
「ふ、ふざけるなっ!」
「な、なんだぁ?」
痛む身体を引き摺ってやっとこさ部屋に戻って来たと思ったら、ドアノブに手が触れたところで部屋の中から鼓膜を突く程の箒の怒鳴り声が聞こえてビクリと身体を震わせて咄嗟に手をドアノブから離してしまう。まだ中にも入っていないと言うのに怒鳴り声で迎えてくるとか少し酷すぎやしないか?此処まで戻ってくるのに結構苦労したんだぞ?
「いやぁ、篠ノ之さんも男と同室なんて嫌でしょ?気も遣うし。のんびりできないし。その辺、あたしは平気だから代わってあげようかなって思ってさ」
と、思っていた所。箒とは別の女性の声が聞こえてきた。どうやら客人がいるらしい。しかもこの声は…。
「…鈴か?」
そう、鈴だ。忘れようとて忘れられない。俺が苦労して身体を引き摺りながら部屋に戻る原因となった張本人。というか加害者。先に戻ったと思ったら俺達の部屋で何してんだアイツ?幼馴染の奇行に訳が分からなくなりながらも、俺はどう言う理由で騒がしくなっている自分の部屋へと踏み入れるのだった。
「べ、別に嫌だとは言っていない…。それにだ!これは私と一夏の問題だ。部外者に首を突っ込んで欲しくない!」
「大丈夫。あたし幼馴染だから」
「だから、それが何の理由になるというのだ!」
俺が帰って来たというのに反応するどころか口論はますます激しさを増す一方。一体何を言い争っているんだコイツ等は…。聞こえてきた会話から察するに部屋を代われとかどうとか言ってるみたいだが会話が噛み合ってない。徹底的に噛み合って無い。鈴は我を通す正確だし、箒は箒で人一倍に頑固だ。こんな二人が言い争って互いが納得いく結果が得られるのは絶望的だろう。それを決定付けるのが鈴の足元にあるバッグ。恐らく鈴の荷物なのだろうが、既に鈴はこの部屋に移る気満々だ。鈴は譲るつもりはない。箒も何故か譲るつもりは無いらしい。つまりそういう事。それにしてもさっき鈴が言っていた幼馴染が二人いる事を覚えとけってのはこう言う事だったのか…。
「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」
「ふざけるなっ!出ていけ!此処は私の部屋だ!」
このままじゃいつまで経っても堂々巡りだな。いい加減止めないと…。そう思い、俺は二人の間に割って入る。
「お前ら、とりあえず落ち着けって」
「い、いいいい、一夏!?」
「何。いつ帰って来たの?」
突然現れた…と思っているのだろう。間に割って入った俺に顔を真っ赤にして慌てる箒と鈴はあっけらかんとしていつ戻ったか訊ねてくる。さっきから居たよ。お前等が気付かなかっただけだろ…。
「さっきから居た。鈴。あんまり箒に迷惑掛けるなよな?」
鈴は周りの人の事を考えずに突っ走る事が多いからな。主な被害者は俺と弾だけど。
「なに?一夏はその子の肩を持つの?」
「いや、そういうのじゃなくてだな…」
「では私ではなくその無礼者の味方をするのかっ!?」
「おれにどうしろってんだ!?」
まさにあっちを立てればこっちが立たず状態だ。
「今はそう言う話をしてるんじゃない。常識面での話だ」
幾らなんでも無理やりすぎるだろ。箒の都合も無視してのこの行動は。何か理由があるにしてもだ。ちゃんと箒に了承を得てからにするべきである。
「俺にとっても箒にとっても突然過ぎるし、ましてや箒は代わりたくないって言ってる。それを一方的に代われって言うのは駄目だろ?」
「そ、そうだそうだ!」
「むっ…」
俺の言葉とこの勢いを見逃さんとする箒の小物臭漂う追撃に流石の鈴も何も反論できなくなる。正論なだけに言い返し様がないのだろう。
「それにここは学園の寮だ。部屋替えにも学園の許可がいる。勝手に代えちゃいけないだろ?」
「わかった…わよ」
振り絞る様な声でそう答える鈴だったが表情は全くと言っていい程納得して無かった。何をそんなに拘る必要があるんだ?どの部屋も同じ作りの筈なのにな。
「同じ部屋に拘らなくたって、寮は同じなんだし直ぐに近くだろ?遊びたくなったらいつでも来いよ。歓迎するから」
「なっ!?私は許して無いぞ!?」
折れろよそこは。ややこしくなるから。
「それじゃ駄目なのよ。馬鹿…」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない!」
「そ、そうか…」
確かに何か呟いてた気がするんだけどな。気のせいか?
「と、とりあえず今日はひとまず自分の部屋に帰れって。な?」
「……分かった。そうする」
鈴はしぶしぶと頷くとドアへと歩いて行く。そしてそのまま出て行くと思ったが、ドアノブに手が触れたところで鈴はピタリと立ち止まってしまう。どうしたのだろう?見送っていた俺は怪訝そうに突然立ち止まってしまった鈴の背中を見守っていると、鈴は此方を振り向かず背を向けたまま俺に問い掛けてくる。
「…ねぇ、一夏。あの約束覚えてる?」
「…約束?」
『約束』その単語に俺は首を捻る。はて、俺はどんな約束を鈴としただろうか?小学生の頃かそれとも中学の頃か。いろいろと記憶を漁っている内に一つだけ思い当たるものを見つけた。確か―――。
「確か、鈴が料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「覚えててくれたんだ!?」
ぱぁっと表情を明るくして振り返った鈴は―――。
「―――奢ってくれるってやつか?」
そのまま表情をぴしりと音をたてて固まらせてしまう。
「………はい?」
「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺にメシをごちそうしてくれるって約束だろ?」
しかもタダである。こんなに有り難い物は無い。持つべき物は幼馴染だな。
「いやぁ、俺は自分の記憶力に関し「ふざけんなぁあああああっ!」ぐふっ!?」
鈴の雄叫びと共に俺の腹に突き刺さるドロップキック。しかしその勢いはそこで止まる事は無く俺は本日二回目の宙に舞う事になる。唯一の救いなのは落下地点がベッドだったと言う事か…。
「最っっ低!女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴!犬に噛まれて死ね!」
バタンとこの階全体に響き渡ったのではないかという位の大きな音を響かせてドアを開けると、そのまま鈴は自分の部屋へと帰ってしまった。
何がいけなかったか。分からない。だが、完全に俺が悪かったのだろう。あの怒りようは尋常ではない。しかし男の風上にも置けないと言うのはちょっとカチンときた。そこまで言われる程の約束だったか?
…でも、鈴の声。震えてたな。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。顔は見えなかったけど。だとしたら、やっぱり悪いのは俺か…。
「一夏」
「お、おう。なんだ箒」
「馬に蹴られて死ね」
箒。お前もか…。
俺はそのままベッドにガクリと力尽きるのだった…。
第十話「言葉の意味。その重さ」
「…ってなことがあってな」
「もぐもぐ…」
俺は食堂で朝食を食べながら昨夜の事をミコトに話していた。鈴と箒は此処には居ない。誘ったのだが昨日の事で怒っているらしく話し掛ける前にプイッと顔を逸らして何処かへ行ってしまった。のほほんさんはいつも通り寝坊らしく此処には居ない。
「何がいけなかったのかなぁ?」
あれから何度も考えてはみたが全然わからない。何をそんなに鈴は怒っていたんだ?何がいけなかったんだ?
「ごくん…ん。一夏は、たぶんわかってない」
口の中のスクランブルエッグをちゃんと飲み込んでからミコトは喋り出す。ミコトはこう言うマナーに対してはしっかりしている。たぶん親がそう言うのに厳しかったのだろう。
「わかってないって?」
「料理。むずかしい。私はいっぱい練習した。クリスにいっぱいおしえてもらった。それでも作れるのはこれだけ」
そう言ってスプーンでスクランブルエッグを指した。ミコトは料理が苦手なのか。意外…所か自然だな。むしろ勉強出来ること自体が不自然だから。
「それを、鈴は毎日つくってくれるって言ってる。すごく大変」
まぁ、確かに大変だよな。俺だってたまにはインスタントとか食べてるし。毎日は料理を作るのは面倒だと思うし疲れる。
「何で、大変なのに食べさせる?料理をつくると思う?」
「そりゃ、食べて貰いたいからだろ?頑張って料理を作れるようになった訳だし」
「ん。食べてほしいから。褒めてもらいたいから作るでも…ちがう」
最初は俺の言葉に肯定していたと言うのに後からそれは違うと言って首を振り否定する。違う?何が違うんだ?
「あってるけど、ちがう。それに、一夏は大事な事を忘れてる」
「大事な事?」
何だ?何の事だ?
「毎日食べさせる。これは傍にいなきゃできない事。一緒にいなきゃできない事」
「あ…」
毎日、一緒…?
「一緒にいないと食べられない。離れてると食べられない。だから、クリスのつくってくれたごはんも食べられない…」
「ミコト…」
ミコトが寂しそうに語る。今直ぐにでも泣きだしてしまいそうな程に…。
ホームシック病という奴だろうか?ミコトが何処の国の出身かは知らないが少なくとも名前からして海外だと言うのは明らか。故郷ははるか遠くだ。気軽に戻れる距離でも無いのだろう。例えどれだけ会いたいにしても…。
ずっと一緒、か…。
「ごちそうさま」
そう言うとトレーを持ってミコトは席を立つ。気付けばトレーの上に乗ってある食器は全て空になっていた。何時の間に食べ終えたのだろう。
「一夏」
「え?」
「がんばる」
「……おう!」
小さく微笑んで応援してくれるミコトに俺は笑顔で応える。
「ん」
それを見て満足したのか、ミコトは小さく頷くとカウンターへ食器を返してのほほんさんの朝食だろうか?おばちゃんから菓子パンを受取ると自分の部屋に戻っていった。俺も残りの朝食を口の中へとかけ込み味噌汁で流し込むとカウンターに食器を返却して校舎へと向かう。
とりあえず謝ろう。
あの約束にどんな意味が込められていたのかは分からない。でも、きっと鈴にとって大切な物だったのだろう。だから謝ろう。ちゃんと…。
そして、丁度良いところに生徒玄関前で鈴の奴を発見。俺は慌てて鈴に声を掛ける。
「おい!鈴!」
「…何?」
明らかに不機嫌な顔にもう挫けそうになったが負けずに俺は話を続ける。
「昨日は悪かった。すまん!」
俺は素直に頭を下げる。何で怒ったのかは分からないけどちゃんと頭を下げれば許してくれる筈だ。
…しかし、そんなに都合良く行く訳がなかった。
「……何で謝るの?」
頭を上げた時見えたのは更に不機嫌さが増した鈴の顔だった。その顔を見た瞬間、俺は血の気が引いたのが分かった…。やってしまったと…。
「いや…だって、俺が悪かったんだろ?」
「だから、何で謝るのよ」
「でも俺が―――」
パァン!
乾いた音が校庭に響く。一瞬、何をされたのか分からなかった。でも、頬に走る痛みと熱で自分が叩かれたんだと気付くとはっとして鈴を見る。鈴は…泣いていた。
ざわめき出す野次馬達。しかし俺と鈴はそんなものは気にして無かった。いや、視界にすら存在すら気づいてなかった。
「訳も分からないのに謝らないでよ!あの約束は…そんなに軽い物じゃないんだから!」
「…悪い。最悪だな。俺…」
とりあえず謝ろうなんて考えが甘えだったか…。
本当に最悪だ。ミコトの期待にも裏切って。また鈴を泣かせて…。男の風上にも置けないってその通りだよな…。
「ぐすっ…いいわよ。アンタがそんな性格だって忘れてたあたしが馬鹿だったんだし」
鈴はツインテールを揺らして俺の目の前から立ち去ろうとする。俺は慌てて立ち去ろうとする鈴の手を掴んだ。
「待て!鈴!」
「離してよ…」
「まだ、まだ俺は謝ってない!」
「分からんないの!?謝っても意味無いんだって!」
「それでも!俺は鈴を泣かせた!」
このまま鈴を放置するなんて俺は俺が許せない。たぶん、一生…。
「教えてくれ!どうしたら鈴は許してくれるんだ?」
「普通それをあたしに聞く?」
分かってる。本当なら俺が自力でその答えに辿り着かないといけないだって事は。でも、分からないんだ。ならこうするしかないだろ!?
「頼む!」
俺は頭を下げる。男が何度も頭を下げるのは情けないことこの上ない事だろうが鈴が教えてくれるまで何度だって下げてやる。だから…。
「…」
「頼む…」
「…いいわ。今度のクラス対抗戦で、あたしに勝ったらあたしが怒った訳を教えてあげる」
「ほんとか!?」
「ええ、でもあたしが勝ったら理由は教えてあげないし、あと、何でも言う事。これが条件」
「ああ!それでいい!」
可能性があるだけで十分だ。それだけで希望が見えてくる。
「…それじゃあね。逃げるんじゃないわよ?」
「ああ!当たり前だ!」
これ以上、鈴を泣かせたくないからな!
俺は立ち去っていく鈴の背中にそう答えると、鈴が消えて行った校舎へ続く様にして歩いていく。その足取りは歩く。先程の暗い気持ちは嘘のように晴れやかだった。
――――Side 篠ノ之 箒
「…」
私は野次馬の中に紛れて二人の様子を黙って眺めていた。何度も乱入したい気持ちを爪が喰い込む程強く握り締める事で耐えながら…。
一夏は分かっているのだろうか?あの言葉の意味が。その結果が意味する事が…。どれ程重みのある事か…。
「っ…一夏」
嫌だ。そんなの嫌だ…。
認めたくない。認められる筈がない。私だって幼馴染だ。幼い頃から一夏を想って来たんだ。ずっと、ずっと。それなのに…。
「それなのに…」
目頭が熱い。でも耐える。人前で涙なんて見せたくないから。そして思う。もし、私も彼女のように涙を流せば一夏も私を見てくれるのか、と。そんな馬鹿な事を…。
「一夏…っ」
何故、私はこんなにも駄目なのだ…。
素直になれば。もっと素直になれば気持ちを伝えられるのに…。
「いち…か…」
また、離れ離れになってしまうのか…?
あとがき
今回はすごく短いです。その理由はまぁ、無理に詰めるとごっちゃごちゃになってタイトルかんがえるのが難しくなるからですけどね!(オイ
にしても原作読んでいて思うのです。何で皆一夏に惚れるんだろう?弾は「鈴も気の毒に」とか言ってますが人が出来過ぎてるだろ。普通ならぶん殴られてるぞw
説明 | ||
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コメント | ||
鈴ちゃんが健気でかわいいですね(ダブルフォルト) 純粋無垢な小鳥だからこそ言える言葉ですねぇ・・・・・さて、箒お母さんと鈴お姉さんは一夏お父さんとどんな展開になるのか・・・(D,) 理屈じゃないのが恋心ですからねぇ。 二人とも素直じゃない所に可愛さが、そしてミコトちゃんが良い味出していますね。もう母性本能全開でぎゅっとしたくなるくらいに可愛いです♪ (うたまる) |
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