月の詩〜月へ届けと、彼は唄えど-ending-〜 |
“届け”
そう願って、もう何年経つだろうか
少なくとも五年は経ったと思う
だけど・・・そこからはもう、あまり思い出せない
そもそも、何を届けたいのか
誰に届けるつもりだったのか
俺には、未だにわからないのだから
おかしくて、思わず笑ってしまいそうになる
夢でも見ていたんじゃないかって
そう思ったりもした
『一刀・・・』
けど、さ
『ばかっ・・・ばかぁ
ほんとに消えるなんて・・・なんで私のそばにいてくれないの・・・っ?
ずっといるっていったじゃない!!』
だったら、“コレ”はなんだ?
この引き裂かれるような胸の痛みは?
この、毎晩のように流れる涙は?
わからない
何もわからないまま、何年もの月日が流れてしまった
そして、俺は未だに願い続ける
届け・・・と
何処にかは、未だにわからない
だけど、それでも願い続ける
この憎らしい程に、美しい月の下
俺は・・・唄い続けていたんだ
≪月の詩〜月へ届けと、彼は唄えど-ending-〜≫
“何か”が、足りなかったんだ
その何かがわからないまま、俺は毎日を過ごしていたんだと思う
目的もなく
夢もないままに
毎日をただ惰性のままに、俺は過ごしていたんだ
それが、俺の・・・“北郷一刀”の日常
「いや・・・今も、か」
呟き、俺は苦笑する
ああそうだ
未だに、俺は変わっていない
相変わらず、毎日をただ意味もなく過ごしている
高校を卒業し、大学も卒業し
特にやりたいこともないままに、テキトーに仕事を見つけ
そして今に至る、と
「何だかなぁ・・・」
頭を掻き、俺は溜め息を吐きだした
あまりの自分の情けなさに、もう笑うことしかできない
けどさ・・・
「足りないんだよ・・・」
“足りない”
それこそ、自分にとって大切だったはずのものが足りない
そんな気が、ずっとしていたんだ
言い訳にしか聞こえないかもしれない
実際、俺もそう思ったことがある
だけど、きっと違う
そう、心のどこかで言い聞かせる自分がいたんだ
「はっ・・・わけわかんねぇなぁ」
わからない
自分が・・・わからない
悩んだところで、答えなんて出てこないわけで
だからこそ、こんな風に過ごしているわけで
結局・・・俺は、ずっとこのままなんだろう
「けど・・・」
このことで悩むのは、嫌いじゃなかったんだ
むしろ、このことを忘れてしまうことの方がずっと嫌だった
“悪循環”
答えの出ない悩みのせいで、こんなんなのに
俺はこのことを忘れたくないから、懲りずにまた悩むんだ
どうしようもない
本当に・・・どうしようもないよな、俺
「っと・・・着いたか」
そんなふうに考え事をしている間に、俺は目的の場所についていた
寂しげな丘の上
そこにある、一つの墓の前へと
「久しぶり・・・じいちゃん」
言って、俺は持っていた花を墓前に置いた
そしてその場にしゃがみ込む
「俺さ、相変わらずだわ」
苦笑し、零れ出た言葉
俺は、じいちゃんのことを思い出し泣きそうになった
“大丈夫か?”
情けなくって、どうしようもない俺のことを
じいちゃんは、いつだって心配してくれていた
それこそ、自分が死ぬ直前まで
そのたびに俺は、“大丈夫だよ”って笑ってたっけ
そんな・・・下手くそな嘘をついてたっけ
「じいちゃん・・・俺、全然大丈夫じゃないよ」
大丈夫なわけ、ないじゃん
こんな何もかもが中途半端で、どうしようもないくらいに情けない自分が
大丈夫なわけないじゃんか
「俺さ・・・全然ダメなんだ」
そう言って、また苦笑してしまった
どうせ、バレてたんだろうな
俺のあんな下手くそな嘘なんて、じいちゃんにはバレていたんだろう
だけどそれでも、じいちゃんは俺のことを見捨てないでいてくれた
最期の瞬間まで・・・ずっと
ーーーー†ーーーー
墓参りを終え、俺は一人帰路につく
墓についた頃は太陽は真上にあったハズなのに、今はもう沈みかけ空は朱く染まっていた
「随分と、長くいたみたいだな」
呟き、俺は少しだけ歩みを早めた
この季節、夜はとても冷える
だから、日が落ちる前に家へと帰りたかった
「ん・・・?」
そんな中、ふと電気屋の前で足が止まる
そこには新商品のテレビによる、ニュースが流れていた
『中国にて、あの“三国志”で有名な曹操の墓が見つかったとのことですが・・・』
「へぇ・・・曹操の墓、ねぇ」
あの曹操の墓か
本当に本物なのだろうか?
曹操はたしか死んだ後に自分の墓が暴かれないように、幾つもの墓を作ったって話を聞いたことがある
それも、そのうちの一つなんじゃないのか?
『しかし、あの曹操の墓ですか
曹操は確か、幾つもの墓を作っていたそうですが・・・これは、本当に本物なのでしょうか?』
「ほらな」
やっぱり聞かれた
そもそも、今から千八百年も昔のものだ
今さら、どれが本物かなんてわかるわけないだろ
「はぁ・・・さっさと帰ろ」
こんなとこで、突っ立てるわけにもいかない
ここから家まで、結構距離があるんだ
あんまりゆっくりしてると、夜になってしまう
だから、急がないと
そう思い、踏み出した一歩
しかしそれは・・・
『しかし、今回の墓からは曹操が書いたと思われる“手紙”が発見されたそうです』
この一言で、またすぐに止まってしまうことになる
「曹操の書いた・・・手紙?」
俺はその言葉に、また視線をテレビへと向けた
画面の中では、曹操の墓だと思われる石の前で専門家が一枚の古ぼけた紙を見つめていた
『これによれば、曹操は・・・』
“落ちてしまえばいいと思った
私から大切なモノを奪っていった
あの憎らしい月なんて
この空から、無くなってしまえばいいと
そう思った
そして、この狂ってしまった世界ごと
この、何もかもが足りていないこの世界ごと
私のことを、消してくれればいいと思った
どうせ、夢だったというのならば
全てが、幻だったというのならば
全部、消してほしい
そして・・・また、夢をみさせてちょうだい
もう二度と、消えることのない
愛しい貴方の夢を・・・”
「・・・っ!」
言葉が、出てこない
胸が、張り裂けてしまうんじゃないかと思う程に・・・痛い
『これは、いったい誰に宛てて書いたものなんでしょうね?』
『一説では、曹操の愛人に対するものではないかとも言われていますが・・・それにしては、恋文とは少し言い難いものですね
曹操は晩年、病に伏していたと言う話です
それに伴い、精神も病んでいったというらしいですから
これは不安定な精神の中書かれた、曹操の妄想や・・・』
そんな中、淡々とテレビの中の声は勝手に話を進めていく
俺はその声に、激しい苛立ちを感じていた
“違う”
拳を強く握りしめ、俺は心の中で叫ぶ
“違うんだ”
何度も・・・何度も
心の中、この想いを叫び続ける
「悪いのは・・・全部、俺なんだよ」
ああ、そうだ
悪いのは俺で・・・“彼女”じゃないんだよ
「くっ・・・そ!」
気付いた時、俺は駆け出していた
何処に?
そんなもの、自分でもわかっていない
だけど、そんなことはどうだってよかったんだ
ただ今は、ジッとしていられなかった
「はぁ・・・はぁ・・・」
そうして、辿り着いたのは・・・じいちゃんの墓だった
太陽はもう完全に沈んでしまい、かわりに浮かぶのは憎らしい程に美しい満月
その月を見上げ、俺は乾いた笑みを浮かべる
「俺さ・・・本当に、駄目な人間なんだ」
何が足りないか、わからない?
何も覚えていない?
違うだろ?
そうじゃないだろ?
俺は・・・
「覚えてるんだよ・・・全部」
俺は、何一つ忘れてなんかいないんだ
彼女のことも
あの世界でのことも
“俺は、全部覚えてるんだよ”
「俺さ・・・夢だって
あの世界でのことは、全部夢だったんだって
そう思ったら、諦められると思ったんだ」
あの日・・・あの美しい月の下での別れの後
俺は、もといた世界へと帰ってきた
そこには当然、愛した彼女達の姿はない
そして、改めて実感したんだ
もう二度と、彼女達には会えないのだと
俺は・・・ただ一人、子供のように泣いた
それからだろうか
俺はあの世界でのことを、夢だったと思うようにしたのだ
あれは全て、長い長い夢だったのだと
俺が見た、ありえない夢の中での話なのだと
そう思うようにした
「けどさ・・・駄目なんだよ」
駄目だったんだ
何処にいたって
何時だって
俺は・・・“彼女達”のことを忘れることが出来なかったんだ
それでも、俺は忘れようとした
諦めようとした
そのせいか、最近では“何も覚えていないと思いこむことが出来るようになった”
「は・・・はは・・・」
だけど、見てくれよ
ふとした切欠で、またこのザマだ
また、最初からだ
またこの行き場のない想いが、俺のことを締め付けてくる
「届けば、いいのに」
あふれ出る涙をおさえることもせず、俺は月を見上げた
あの、憎らしい程に美しい月を
そして、手を伸ばしたんだ
この大切な人の涙さえ拭えない、情けない手を
「あの月に・・・この想いが、届けばいいのに」
ああ・・・もし、この想いがあの月に届いたのなら
君に届くだろうか?
君が月を落とすというのなら
俺は、その落ちていく月に想いをのせよう
そしたら、また君に会えるかな?
君の涙を、笑顔に変えることができるかな?
また、君は俺の名前を呼んでくれるかな?
「なぁ、教えてくれよ・・・“華琳”」
≪一刀・・・≫
「ぁ・・・」
不意に・・・“トン”と、背中に何かが当たった気がした
それにより、一歩踏み出した足を
俺は、自分でも呆れるくらいに間抜けな顔で見ていたことだろう
けど、そんなことが気にならないくらいに・・・俺の意識は“あること”に持っていかれていた
「今・・・」
声が、聴こえた気がしたんだ
聞き覚えのある、優しい声が
「は、ははは・・・」
空耳?
幻聴?
聞き間違い?
ああ、ちくしょう・・・
「そんなこと・・・どうだっていいだろ」
ああ、そうだ
そんな些細なこと、どうだっていいんだ
俺の未練が生んだ、幻聴だったのかもしれない
あまりの俺の情けなさを、じいちゃんが怒りにきたのかもしれない
けど、そんなのどっちだっていいだろ?
重要なのは、そこじゃないんだから
「背中を・・・押されたんだよな」
今、確かに押された気がした
この、ちっぽけな背中を
この頼りない背中を
誰かが、押してくれた気がしたんだ
“トンッ”と、押された背中
そして・・・踏み出した一歩
本当に小さな、俺の“歩み”
これが、“答え”なんじゃないか?
俺が長い間探してきたことの答えなんじゃないのか?
「そっか・・・そういうことだったんだ」
俺はずっと、“此処にいたんだ”
彼女達との別れからずっと、此処にいた
ジッと突っ立ったまま、歩みだすこともないまま
俺は、此処にいた
けど、それじゃ駄目なんだ
このままじゃ、駄目だったんだ
じゃあ、いったいどうすればいい?
「そんなの・・・」
そんなの、決まってるだろ?
「歩けば、よかったんだ・・・」
歩いていく
歩き続けていく
大切な人への想いを背負ったまま
大切な約束を抱え込んだまま
歩いていく
此処じゃない、何処かへ
過去じゃない、未来へ
この道の、遥か先まで
まだ見たことのない・・・この、月の向こう側まで
俺は、歩いていく
それでいい・・・それだけでいい
そうして歩いて行った先
俺は、きっと辿り着くから
だから・・・
「待っててよ」
待っていてほしい
勝手に消えたくせに、都合が良すぎるかもしれないけど
今さら何言ってんだよって、そう思うかもしれないけど
それでも・・・待っていてほしい
君がそう思っていてくれる
そう思うだけで俺は、きっと何処までも歩いていけるから
だから・・・待っていてほしい
遅くなってしまったけど
もう長い間、待たせてしまったけど
俺は・・・此処から、歩き出すから
「きっと、会いに行く」
そう思い、踏み出した一歩
相変わらず頼りない、本当に小さな一歩
だけど・・・何よりも、“大きな一歩”
ああ、そうだ
此処から始まるんだ
長い間止まっていた、俺の物語が
此処から、また始まるんだ
「絶対に・・・会いに行くから」
歩み出す、新たな“物語”
頬を、優しい風がすり抜けていく
もう、大丈夫
じいちゃん・・・俺は、もう大丈夫だよ
嘘じゃない
下手くそな笑顔なんかじゃなくて
心から、大丈夫だと
俺は笑う
ああ、もう大丈夫だ
俺はこうして、歩いて行ける
「さぁ、始めよう・・・」
大分遅くなってしまったけど
長い間待たせてしまったけど
此処から、始めよう
「俺の・・・俺たちの物語を」
伸ばした手
夜空に浮かぶ、黄金の月
“届け”じゃなくて
“待っていろ”と、無邪気に笑いながら
たった今始まった、俺の物語
ゆっくりと
だけど、確かなこの道を
歩いていく
歩き続けていく
“唄いつづけていく”
そして、いつかきっと辿りついてみせるから
この・・・美しい、黄金の月まで
曹操の墓が見つかり、その中から曹操が書いたとされる手紙が見つかった
それから、数日後のことだった
そこから、また新たにもう一枚の手紙が見つかったのだ
“届けばいいと思った
俺の愛する人が待つ、あの月へと
あの美しい月まで
この空を飛び、何処までも飛んでいけたらいいと
そう思った
そして、この寂しい世界から
この、何もかもが足りていないこの世界から
俺を、連れて行ってくれればいいと思った
どうせ、夢だと思えないのなら
全てが、幻だったと思えないのなら
全部、信じたままで
そして・・・また、会いに行きたい
もう二度と、消えることなく
愛しい、君の傍で・・・”
お世辞にも上手いとは言えない字で書かれた・・・一枚の手紙
その特徴的な書体から、この手紙は最初に出てきたものとは著者が違うのではという結論に至った
仮にこの墓が曹操のものだとして、最初に出てきた手紙が曹操のものだとしよう
では、この手紙はいったい誰が書いたのだろうか?
曹操の墓に彼女の手紙と共に埋められるくらいである
相当、親しい間柄であったはずだ
発見当初は“夏候惇”ではないかという意見も多数出た
しかし最近になって、新たな人物の姿が浮かび上がってくる
それは・・・あの曹操が、“唯一愛した男”
乱世の終わりと共に、天へと還ったとされる・・・“伝説の存在”
“天の御遣い”
創作上の存在とされていた人物で、実在していなかったとされる男
この架空の存在である彼が、実は実在していたのではないか?
そのような意見が、最近になって多数出てきたのだ
無論、真実は未だにわからないままだ
確かめようにも、もう遥か昔の出来事なのだから
しかし、この話がもし・・・もし、本当だったとするのならば
彼女の願いは、叶ったのだろうか?
彼の詩は、届いたのだろうか?
この、月に唄った二人の物語・・・その結末は?
≪月の詩≫
そう名付けられた、この二枚の手紙
その物語の行く末を、我々は知らない
≪月の詩〜月へ届けと、彼は唄えど-ending-〜≫
〜END
☆あとがき☆
皆さん、さっきぶりですねw
月千一夜ですww
まずはここまでお読みいただき、まことにありがとうございますw
ここまでのあまりの温度差に、お腹を壊したりしてませんか?wwww
さて、次でいよいよ最後になります
≪月の詩〜そして僕らは月に唄う-epilogue-〜≫
今回の短編集≪月の詩≫
月に願った、彼女の物語
月に唄った、彼の物語
その結末を、どうかお楽しみください♪
説明 | ||
どうも、こんばんわですw ≪月の詩≫ 第七作目です こっから先は、シリアスオンリーw 物語の終わりは、もう間もなくです |
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コメント | ||
なんか こういうのいいなぁ(qisheng) ZEROさん<どうぞ、いっちゃってくださいww (月千一夜) よし、見に行きますかな。(ZERO&ファルサ) namenekoさん<そこの解釈は、皆さまにお任せしますw色々な考え方を探すのも、また面白いのでw (月千一夜) 最後は史実の性別が変わってないか?(VVV計画の被験者) mightyさん<そうですかね?wむしろここまでの温度差で、みんながお腹壊していないかのほうが心配ですwwww (月千一夜) 悠なるかなさん<ラストはやっぱり・・・ね?w (月千一夜) よーぜふさん<さぁ、たんとお食べww (月千一夜) やばっ、ちょとウルってきた;;ぶる夜さんで上げて、一夜さんで落とす。美味いですな・・・(mighty) 彼女の物語 彼の物語 きっと交わるときが来ると信じています(悠なるかな) つづきまだー?w(よーぜふ) |
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