真・恋姫?無双外伝 〜〜受け継ぐ者たち〜〜 第二話・『アイ・マイ・メモリー』 |
第二話 〜〜アイ・マイ・メモリー〜〜
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『ねぇ、お父さん。 僕のお母さんって、どんな人なの?』
『ん? どうしたんだいきなり。』
『だって、ボクお母さんのこと何にも覚えてないんだもん。』
『あはは、そう言えばそうだな。』
『ねぇ、教えてよ〜。』
『そうだなぁ・・・・・。 章刀のお母さんはね、父さんにとっては太陽みたいな人だったよ。』
『・・・・・たいよう?』
『そう。 厳しいところもあるんだけど、とても優しくて。 すっごく強いんだけど、ほんの少しだけ寂しがりやで。 父さんをいつも守ってくれた。』
『?・・・・・・お父さんがお母さんに守ってもらったの?』
『ああ。 情けないけど、父さんは弱かったからね。 いつもお母さんに助けられてばっかりだったなぁ。』
『へぇ〜。 なんだかカッコいいね、お母さん。』
『そうだよ。 章刀のお母さんは、本当に素敵なひとだったんだ』
『?・・・・・・お父さん?』
そう言う父さんの顔は、いつもの様に優しく笑っていた。
だけど少し・・・・・・・ほんの少しだけ、その笑顔が悲しそうに見えたんだ
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・・・・・・ピト。
「ん・・・・・・・っ」
なんだ・・・・・?
なんだか、いきなり額に冷たい感触が・・・・・・・・
「あ! 目が覚めた?」
「え・・・・・・・・・?」
今度は急に聞こえた聞き覚えのない声に、俺はゆっくりと目を開けた。
するとそこには、一人の女の子が俺の顔を笑顔で覗き込んでいた。
その構図から、どうやら今自分が横になっているのだということに気付く。
「気分はどう? どこかケガとかしてない?」
「え? えっと・・・・・・・」
気分はどこも悪くないし、特に痛みを感じるところもない。
だけどその質問にすぐに応えられなかったのは、もちろんこの状況に混乱してるってのもあるけど・・・・・正直に言うと、目の前にある女の子の笑顔に見とれていたからだ。
眩しいくらいの笑顔を向けてくれるその女の子は、桃色の長い髪をしていて、窓から差し込む光に照らされてキラキラ光っている。
それに、これだけお互いの顔が近くにあるんだ。
なんだか女の子特有の甘い香りがして、ちょっとドキドキする。
「・・・・・どうかした?」
「え!? ああ、いや・・・・・・・・」
なかなか応えない俺の様子に、女の子は少し不安そうに眉をひそめて尋ねて来た。
まさか初対面の女の子に、『君に見とれてた』なんて言う訳にもいかないので、俺は少し慌てて首を振った。
しかし、これは一体どうなってるんだ?
まだ目が覚めたばかりで、状況がほとんど理解できない。
俺は確か、森の中で知らない女の子と出会って・・・・・・・・・
「そうだ、あの女の子は・・・・・・・・・・・・・うっ・・・・・!」
気を失う以前の記憶を何とか思い出して、一気に体を起こそうとする。
だけど、なんだか体が妙に重い。
「あ! まだ起きちゃダメだよ!」
辛そうな俺の様子を見て、寝台の隣に座っていた女の子が慌てて俺の肩を支えてくれた。
「えっと、君は・・・・・」
「いいから! もう少し寝てなきゃダメ!」
俺の言葉を放つ余地もなく、女の子は俺の身体をもう一度そっと寝かせてくれた。
そしてそのまま、右手を俺の額へと当てる。
女の子の小さくて柔らかい手のひらの感触が、少し心地いい。
「うん、特に熱は無いみたいだね。 それじゃあ、もう手ぬぐいはいらないかな」
女の子は満足そうにそう言って笑うと、俺が体を起こしたせいで額から落ちた手ぬぐいを拾って、傍に置いてあった桶に入れた。
・・・・・・だけど、どこか変だ。
いきなりの状況で気付かなかったけど、この子はさっきから一度も手元を見てないというか、
それ以前に一度も目を開けていないんじゃ・・・・・・・・。
「! 君、もしかして目が・・・・・・・」
「え? ああ、うん。 見えてないよ」
俺の言葉に対して、女の子はまるで気にしていないようにさっきと同じ笑顔で応えた。
もちろん、目は開けないままだ。
「生まれつきなんだ。 だからもう慣れちゃったけどね。」
「・・・・・・そっか。 ごめん、変な事聞いちゃって・・・・・・」
「ああ、いいよそんな事気にしなくて! 私は全然気にしてないから!」
「・・・・ありがとう」
軽はずみな事を言ってしまったとすこしうつむく俺に、女の子は慌てたように両手を振ってフォローしてくれる。
なんていうか、すごく優しい子だな。
優しくて・・・・・すごく強い。
俺は目が見えなくなった経験なんてないから分からないけど、きっと想像もつかないくらい辛いこともあったはずだ。
なのに、初めて会った俺の事をこんなに気遣ってくれて、こんなにも自然な笑顔を向けてくれる。
まだ会って数分しか経っていないのに、不思議と俺の心はこの女の子に引き付けられていた。
「あ、そう言えばまだ自己紹介してなかったね」
「え? ああ、そう言えば・・・・・」
二人の間に流れた少しの間を気にしたのか、女の子は急にそんな事を言ってきた。
確かに、なんだか知らないけど看病までしてもらっておいて、まだ彼女の名前を聞いていない。
さっき聞こうとした時は、なんだか勢いに負けちゃったし。
「えっとね、私は劉禅。 劉禅公嗣(りゅうぜん こうし)って言うの。」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
・・・・・この子、今何て言った?
「りゅうぜんって・・・・・それが、君の名前?」
「そうだよ。 よろしくね♪」
「ああ、いや・・・・・」
りゅうぜんと名のった女の子は、変わらずに満面の笑顔のままだ。
けど、当然俺の頭の中はパニックな訳で。
りゅうぜんって・・・・・・どう考えても日本の名前じゃないよな?
それに、りゅうぜん・・・・・・・劉禅って確か、三国志で有名な劉備の息子の名前じゃなかったか?
「そう言えば、あいつも確か貂蝉って・・・・・・」
そうだ、裏山であったあの大男も、自分の事を貂蝉とか言っていた。
貂蝉も確か、三国志時代の人物の名前だったはず。
貂蝉に劉禅・・・・・この二人の名前の共通点が、偶然とはとても思えない。
俺の頭の中に、うっすらと一つの可能性が浮かび上がってきた。
「・・・・ねぇ、どうかした?」
「え? ああ、何でもないよ。」
一人黙って考え込んでいると、劉禅が不思議そうに首をかしげた。
いらない心配を与えたくはないので、俺は笑ってごまかしながら部屋の中をぐるりと見渡す。
改めて見てみると、俺が今いる部屋は俺の知る物とはかなり雰囲気が違っていた。
床や壁は石造りだし、ドアや机だけでなく、どうやら俺が今寝ているベッドも木製だ。
更には部屋のところどころに見える細かな装飾も、どう見ても現代日本の物とは思えない。
「ねぇ、劉禅・・・・・ちゃん?」
「なぁに?」
「ここってさ、日本・・・・・じゃないよね?」
「・・・・・・・にほん?」
「いや、何でもない。」
・・・・・・・・・やっぱりか。
日本という言葉を聞いて、劉禅はきょとんと首をかしげている。
これは、俺の予想が少しずつ現実味を帯びてきたようだ。
「じゃあさ、ここの地名は何て言うのかな?」
「ここは成都。 蜀漢の都だよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
マジですか?
成都に蜀漢・・・・・・・認めたくはないけど、どうやら確定の様だ。
俺の予想通り、ここは中国・・・・・・しかも現代ではなく、三国志時代の、だ。
どうやら俺は、現代の聖フランチェスカ学園の裏山から何百年も前の中国の森の中に飛ばされていたらしい。
タイムスリップ・・・・・なんてやつが本当にあるとは思えないけど、目の前に居る劉禅と名のる女の子に加えてこの部屋の感じとくれば、信じないわけにもいかないな。
「はぁ〜、なんてこった・・・・・・」
いきなり自分の身に起こった非常事態に、気分は最高に重くなる。
まさか自分がこんなSFドラマみたいな展開に巻き込まれるなんて思ってもみなかった。
「大丈夫? やっばりまだ気分が悪いんじゃない?」
「ああ、ごめん。 大丈夫だよ。 心配してくれてありがとう。」
ため息を吐く俺を心配して、劉禅がまた表情を曇らせる。
そうだよな。
どうしてこんなことになったのかは分からないけど、この子に心配をかけるなんてのはお門違いだ。
俺がここに居る理由なんて今考えても仕方ないし、とりあえずこれ以上この子を不安にさせないようにしないと。
「でも、本当に良かったよ〜目が覚めて。 森で倒れたあなたを、愛梨(あいり)ちゃんがここまで運んで来たんだけどね。」
「・・・・・愛梨ちゃん?」
「あ、そっか。 えっとね、愛梨ちゃんって言うのは・・・・・・」
“ガチャ”
劉禅ちゃんが言葉を続けようとした時、丁度俺の向かい側にある木製の扉が軽い音と共にゆっくりと開いた。
「失礼します。」
「! 君は・・・・・・・・」
扉を開けて礼儀正しい挨拶と共に入ってきたのは、一人の黒髪の美少女だった。
そう。
俺が気を失う前に森で出会った、あの時の女の子だ。
「あ、愛梨ちゃん。」
「え?」
入ってきた少女の方を向いて、劉禅が少し嬉しそうに彼女をそう呼んだ。
どうやら、愛梨っていうのはこの子の事みたいだ。
しかし笑顔の劉禅とは対照的に、愛梨と呼ばれた少女は彼女の顔を見るなり少し不機嫌そうに眉をひそめた。
「・・・・・・・桜香(おうか)。 どうしてお前がここにいる?」
「え!? えっと、それは・・・・・・・えへへ♪」
少女にすごまれて、劉禅は少しバツが悪そうに頭をかく。
「えへへ、じゃない! お前は体調が良くないのだから、部屋で大人しくしていろと言っただろう!」
「あう・・・・・ごめんなさ〜い。」
まるで親に怒られた子供だ。
劉禅は肩を小さくしてうなだれた。
「あの・・・・・さ・・・・・・」
「? ああ、これは失礼。」
すっかり二人のやりとりに置いていかれていた俺は、恐る恐る扉の前に立つ少女に声をかけてみる。
すると、少女は少し慌てたように応えてくれた。
「目が覚めたようですね。 無事で何よりでした。」
「いや。 君が俺を助けてくれたんだってね。 本当にありがとう。」
「いえ、当然の事をしたまでです。」
そう言いながら、優しい笑顔で応えてくれる。
むぅ・・・・・河原で刃を突き付けられたのが嘘みたいだ。
「申し遅れたました。 私は関興(かんこう)、字は安国(あんこく)と申します。」
「・・・・・・・・関興ちゃん。」
「はい。」
なるほど。
劉禅に加えて関興か・・・・・・こりゃ間違いないな。
あれ?
でもちょっと待てよ。
「ねぇ。 君の名前って、愛梨ちゃんじゃないの?」
さっき劉禅は確かにそう言ってたし、この子もそれに反応してたんだけど。
「ああ。 それはね、真名っていうんだよ。」
俺たちの会話を隣で聞いていた劉禅が、ひょっこりと顔をだして言った。
「・・・・真名?」
「真名というのはその名の通り、真の名。 その者の本質を表す名前の事です。 他人の真名を知っていても、決して勝手に呼ぶことを許されない大切な名です。」
「へぇ〜。 そんなのがあるんだ」
そう言えば、さっきこの子も劉禅の事を桜香って呼んでたような。
あれも真名ってやつなんだろうか。
「・・・・・てちょっと待って! 勝手に呼んじゃいけないって、俺今・・・・・・・」
さっき完全に愛梨ちゃんって言ったぞ・・・・・・
「ああ、そんなに慌てずとも、あなたなら構いませんよ」
「え?」
てっきりとんでもないことをしたと思ってたんだけど、関興は意外にもそう言って笑ってくれた。
「あなたになら、真名を預けても構いません。 私のことは愛梨と呼んでください。」
「あ〜。 じゃあじゃあ、私も真名で呼んでいいよ。 私の真名は桜花だからね♪」
「いいの? だって大切な名前なんだろ?」
「ええ。 だってあなたは・・・・・・・・」
「俺がどうかした?」
「! いや、何でもありません」
「・・・・・?」
俺の顔を見ながら何か言いかけた見たいだったけど、途中で慌てたように関興は目線をはずした。
まぁ良く分からないけど、二人が良いって言ってくれるならありがたく呼ばせてもらうことにしよう。
「ねぇねぇ、お兄さん。 良かったらお兄さんの名前も教えてもらえないかな?」
「え? あ、そっか・・・・・・・」
こんな状況だからすっかり忘れてたけど、まだ俺は名前すら言ってない。
二人には真名まで教えてもらっておいて名乗らないなんて、さすがに失礼すぎるよな。
「ごめん忘れてた。 えっと、俺の名前は北郷章刀って言うんだ。 よろしくね。」
「「!っ・・・・・・・・・・」」
「?」
俺の名前を聞いたとたん、二人とも少し驚いたようにお互いの顔を見合わせた。
どうしてかな?
そりゃ、この世界では珍しい名前かもしれないけど。
「・・・・ねぇ、お兄さん。 ひとつ訊きたいんだけど・・・・」
「なに?」
「その、ね・・・・・。 私たち、どこかで会った事ないかな?」
「え?」
いきなりそんな事を言われても正直言って困る。
そもそも、多分ここは俺がいたのとは別の世界な訳で。
当然の世界に来るもの初めてだし、この二人と会ったことがあるはずもない。
「・・・・・ごめん。 多分人違いじゃないかな。」
「!・・・・・。 そっか・・・・・・そうだよね。」
俺の返事を聞くと、桜花はなぜか少し悲しそうにうつむいた。
声には出さないけど、隣に立つ愛梨も似たような反応だ。
「えっと・・・・俺、何か気に障るような事言ったかな?」
「え!? ううん、違うの! 気にしないで!」
「・・・・・そっか。 ならいいけど」
桜花はすぐに笑顔で否定するけど、動揺してるのはバレバレだ。
多分俺が、二人の大切な人に似ていたんだろう。
見ず知らずの俺にここまでしてくれたのもきっとそのせいだ。
なんだか悪い事しちゃったかな・・・・・・・
「・・・・・桜花、私は仕事に戻る。 北郷殿の事は任せたぞ。」
「あ、うん。 頑張ってね。」
“バタン”
静かに言い残して、愛梨は部屋を出て行った。
でもその背中は、やっぱり少し悲しそうだった。
「・・・・・・・・・・・・」
「あのさ、本当に気にしないでね? 私たちが勝手に勘違いしただけなんだから」
「・・・うん。 ありがとう」
俺の考えてる事がわかったのか、桜花は笑って俺の顔を覗き込んできた。
本当に優しい子だな。
このまま暗い雰囲気を引きずってても仕方ない。
少し話題を変えてみるか。
「そうだ。 桜花と愛梨ってどういう関係なんだ?」
「ああ。 愛梨ちゃんは私のお姉ちゃんだよ」
「え! そうなの?」
意外だ。
二人ともお互いの事は名前で呼んでたし、てっきり友達とかだと思ったんだけど。
「うん。 とっても優しいんだよ、愛梨ちゃん。 ちょっと真面目すぎるところもあるけど、昔から身体が弱い私の事助けてくれて。 さっき怒ったのだって、私の身体の事心配してくれたからだしね。」
「そっか。 いいお姉さんなんだね。」
「うん♪ 大好きなお姉ちゃんだよ」
頷いて、今までで一番の笑顔を向けてくれる。
どうやら、話題をすり替える作戦は成功したようだ。
「さて・・・・・・・」
「あ、まだ起きちゃダメだってば」
「大丈夫だよ。 ちょっとトイ・・・・・厠に行くだけだからさ」
こんな異常な状態でも生理現象ってヤツは正直にやって来るものらしい。
俺はゆっくり身体を起こして、寝台から降りる。
さきに比べれば、大分身体も楽になったみたいだ。
「着いて行かなくて大丈夫?」
「へーき、へーき」
とういか、女の子にトイレに付き添ってもらうなんてさすがに恥ずかしい。
俺はひらひらと手を振って、部屋を出て行った―――――――――――――――――――――
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章刀の出て行った扉を見ながら、一人部屋に残った桜花は今までの笑顔を消してうつむいた。
「人違い・・・・・・・か。 ・・・・・・・・そんな訳、ないのにね」
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「ふぅ〜」
用を足し終えた俺は、石造りの床を一人で歩いていた。
しかし部屋の外に出て初めて気付いたけど、どうやら俺が今いるここはかなり大きな城の中らしい。
廊下の途中には幾つも部屋があるし、その中からはたくさんの人の話し声が聞こえて来た里もする。
中庭なんかもあったりして、いつかテレビで見たような古い城そのものだ。
「ま、それも当然か」
桜花・・・・・・・劉禅は、俺の記憶が正しければ蜀漢の初代皇帝だ。
つまりここが本当に三国志の時代なら、この城は皇帝の屋敷ということになる。
あの穏やかな女の子が一国の王なんて、いまだに信じられないけど。
「ちょっと散歩でもしていこうかな」
ずっと寝ていたせいか、身体がまだ本調子じゃない。
ちょっとした見学も兼ねて、俺は廊下の途中で見つけた中庭へと出てみた。
「ん〜〜〜、いい天気だ。」
降り注ぐ太陽の光の下で、思いっきり伸びをしてみる。
空は雲ひとつない快晴だ。
「こんな大昔でも、空は大してかわらないんだな。」
そんな風に、空を見上げながら独り言を言っていると・・・・・・・
「ワン! ワンワン!」
「?」
どこからともなく、犬の鳴き声が聞こえて来た。
声の主を探すべく、辺りを見回す。
「ワンワン!」
「お!」
発見だ。
というか、向こうから俺の方に走って来た。
子犬かな?
フサフサな毛並みの、可愛らしい三角耳の犬だ。
「ワン!」
「お〜、よしよし。 お前、どこから来たんだ?」
随分と人懐っこい犬だな。
毛並みも綺麗だし、首輪・・・・・じゃないけど、なんだか首に赤い布が巻いてある。
きっとこの城の誰かが飼っているんだろう。
「クゥーン」
頭を撫でてやると、犬はもっと撫でろとでも言うように頭を擦りつけてくる。
「はは、かわいいやつだな。 飼い主はどこに・・・・・・」
「セキトー」
「?」
そんな風にじゃれていると、今度はどこからか人の声がした。
この声は、多分女の子だ。
「ワンワン!」
「おっと・・・・・」
すると、その声を聞いたとたん犬は俺の手から抜け出して、物すごい勢いで声のする方へと走っていく。
その姿を目で追うと、そこには赤い髪の少女が立っていた。
「もう・・・・・勝手にどっかいっちゃ、だめ」
「ワン!」
少女は走り寄ってきた犬を撫でながら、優しく言う。
どうやら、この子が飼い主らしい。
「・・・・・・・・・?」
あ、目があった。
「や、やぁ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
声をかけてみたけど、少女はこっちを見るだけで表情ひとつ変えようとしない。
かと思えば、トテトテと俺の傍まで歩み寄ってきて・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え、えっと・・・・・・・・・」
今度はじっと俺の顔を眺め始めた。
こんなかわいい子に顔を近づけられたら、かなり照れるんですけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・ぴと。
「っ!?・・・・・・・・・」
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
いきなりだ。
俺の顔を覗き込んでいた少女は、いきなり俺の身体にしっかりと抱きついてきた。
いやいやいや、男としてはこんなシチュエーション嬉しすぎるけど、さすがに状況がつかめん!
「ちょっと、君・・・・・・・・」
「・・・・・・・お帰り」
「え?」
いきなりお帰りって言われても、なんのことかさっぱりだ。
・・・・・・もしかして、この子も俺を誰かとかんちがいしてるんだろうか?
「ごめん、ちょっと離れてくれないか?」
「?」
俺は少女の肩を抱いて、密着していた体を押し返す。
柔らかい感触は少し名残惜しいけど・・・・・・ってそんなこと言ってる場合じゃない。
「・・・・どうして離れる? 好きな人には、ぎゅってする」
「えっと・・・・・悪いけど、俺は君の好きな人じゃないんだ」
「・・・・・・・・・???」
俺の言ってる事が理解できていないのか、少女は俺の顔を見つめたまま首をかしげる。
う〜ん・・・・・ずいぶんとマイペースな子だな。
「あのね、君が好きな人と俺は、多分違う人なんだよ。 人違いだと思う」
「・・・・・・・ひとちがい?」
「そう。 悪いけどね」
「・・・・・・・・・・・・・そう」
納得はしてくれたのかな?
少女は短くそう言うと、少し肩を落としてうつむいた。
仕方のないこととはいえ、やっぱり少しやりきれない。
「・・・・・・行こう、セキト」
「ワン!」
犬の名を呼び、少女は元気のないまま茂みの方へと消えていった。
桜花と愛梨の時といい、そんなに俺はその誰かに似てるんだろうか?
「まぁ、考えてもしょうがないか」
桜花にでも直接聞けばわかるんだろうけど、そんな雰囲気じゃないもんな。
トイレと言って出て来ただけなのに、もうずいぶんと経ってしまった。
あまり桜花に心配をかける訳にもいかないし、そろそろ部屋に戻ろう。
「・・・・・あれ? そう言えば・・・・・・・」
そう思って元居た部屋の方へと歩き出した時、一つの事が頭に引っ掛かった。
そうだ、俺は確かにトイレに行くと言って部屋を出た。
だけど、何かおかしい。
だって俺は・・・・・・・・
「そういえば、どうして・・・・・・・・・」
――――――――――――――――どうして俺は、場所を知っていたんだ?―――――――――――――
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