真恋姫無双〜風の行くまま雲は流れて〜第65話 |
はじめに
この作品はオリジナルキャラが主役の恋姫もどき名作品です
原作重視、歴史改変反対な方、ご注意ください
もし
彼女が囚われたりしなければ
もし
裏切りなどなかったなら
もし
袁家を出たりなどしなければ
間に合っていたならば
ほんの少し早く
俺が此処に間に合っていたならば
「斥候より報告です、敵本隊は本陣に帰参、麗羽様もその中に…とのことです」
負傷兵の看護をする月の姿を遠くに見つめる比呂に声をかける斗詩
だが、報告の声にも比呂は動かない
夜の闇に溶け込むかのような黒髪をたなびかせたまま、斗詩に背を向けたままただそこに立ち続けた
沈黙
まるで外界との関わりを断っているかのように
「あの…」
「…続けろ」
ようやくに返ってくる声、聞いていないわけではないようだ
「『袁家』を抜けた者達は一様に官渡に布陣…城内への入場を許可された訳ではないようです」
そこで言葉を区切る斗詩
目の前の男は
やはり微動だにせず
サラサラと草木の揺れる音に合わせてユラユラと黒髪が風に靡く
「…先に申し上げた通り麗羽様、そして此度の裏切りの首謀者である逢紀のみが城に入っていったとのことです」
そしてまた沈黙
「あの…比呂さん?」
先ほどから自身の声だけが辺りに通る
「…終わりか?」
「えっ…?」
自身がかけられた声の意味がわからずに斗詩は瞬いた
視線の先、此方を振り向いた比呂は無表情に、それでいて何かを問いかけるかのように見つめてくる
「此方の残存の数は?負傷兵の数は?」
抑揚のない
何時にも増して感情を抑えた声が低く響く
「現状の戦力差は?敵将の実力は?敵軍の兵器は?何でもいい…情報をくれ」
最後はまるで乞食が懇願するかのように
「ま…まだ…戦うつもりですか?」
「まだ…とは?真意を伺おう」
目の前の将は声を震わせ
いつしか少女に戻っていた
「当主袁本初は捕虜の身、軍師田豊は…戦死」
その死体はすでに土に帰し弔った
死に顔すら見取ってやれぬ友を「あいつ」はなんと言って罵倒するだろうか
「すでに勝敗はつきました…私は貴方と常に戦場を共にしてきましたがこれが…」
将であらんとする最後の「責」が彼女の涙を押し止める
「これが…敗戦というものではないのですか?」
「そうなんだろうな…如何せんにも俺も初めてなものでな」
尚も抑揚のない感情を殺した比呂の声に斗詩は何時しかに胸の内に湧き出た疑問のその答えが見つかった
(ああ、この人は…悔しいんだ)
自分が…
「貴方のせいだ!」
二人の間を割り込むように響いた声の先
「…高覧」
「…」
自身を姉と彼に絶対の忠誠を誓う彼女は怒りに目尻を吊り上げ、噛み付くように剣幕を捲し立てる
「貴方が袁家を出たから…見放したから!悠様はあんな…あんな!」
言葉が続かない
その先を言の葉に乗せようとすれば
悠の首が
宙を舞い地を転がった様が
眼球の裏に焼きついた光景が繰り返し甦る
「貴方のせいで悠様は死んだんだ!…貴方が居ればこんな…こんな!」
記憶の中より思い浮かぶのは比呂と悠が肩を並べた姿
女の身で嫉妬するほどに
互いを信頼し、互いを尊重し、互いを支えるかつての二人
首のない悠の死体に
自身が近づくことも認めることもできなかった彼に
何の躊躇もなく
何時かのように
何時ものように接して見せた彼の親友
悔しくてしょうがない
何故こうも貴方は
彼の死を受け止めれるのか
故に恨めしくでしょうがない
「貴方が悠様を『見捨て』たりしなければ!あんな死に様…!」
何故肝心な時に
あの人の力になれなかったのだろう
「…まさにその通りだ」
思わぬ返答に我が耳を疑う
いつしか手が届くまでに近づいていた比呂のその拳が高覧の頬に触れる
「俺が居さえすれば悠をむざむざ死なせることもなかった」
「っ!?」
ブルブルと震える拳に息を呑む
「…『貴様ら』が『役立たず』のお陰で悠が死ぬ羽目になった」
比呂の真直ぐに此方を睨む双眸に全身が恐怖に震える
震えていた拳がゆっくりと開かれ高覧の頬を撫でる
「とんだ期待はずれだったな高覧…貴様の副将の任を解く」
高覧の頬に手形の形に血が張り付く
震えるほどに力強く握られていたその手は、彼の血で真っ赤に染まっていた
「…一兵卒からやり直せ」
コツコツと響く足音が聞こえなくなっても
彼女は呆然と立ち尽くしていた
「よっぽど…悔しかったんだろうねえ…高覧の言葉が」
水に塗らした布で高覧の頬を斗詩が拭う
その斗詩の頬もまた自身の涙で濡れていた
「悔しいねえ高覧…悔しいよねえ」
彼女の言葉は
彼の言葉は正に図星を突いたものだ
彼に恋焦がれた『役立たず』
彼を補佐に到底適わなかった『役立たず』
親友の傍を離れたがために死なせてしまった『役立たず』
高覧の嗚咽が止むまで
斗詩はその背中をさすり続けた
「で…どないすんねん?」
陣を張った先頭
曹魏が陣を取った古城とその前にて腰を下ろし開城を待つ『逢紀』の軍を見つめるその背中に霞が問いかける
その手には何処から拝借したものなのか一本の徳利…その中身は確かめる必要もない
「あまり自由に歩き回れても困るな」
少し困ったようにはにかむ視線の先の主は
「だって暇なんやもん」
非は此方にあるかのように唇を尖らす
ぷらぷらと徳利の紐を持ちそしてぐるぐると回す…既に中身は空のようだ
「なら丁度良かった」
「あん?」
徳利の口を覗き込みながら首をかしげる霞に比呂は腰に手を当てて正面に見据える
「貴公をこの場にて解く…よろしいか?」
「なんや…華琳に口利きしてほしいんか?」
「根本は違う…が、まあ似たようなものだな」
再び古城へと視線を移す
松明の火に照らされる横顔からは彼の真意が汲み取れない
「夜明けと共に張?儁乂、御首頂戴に馳せ参じる…それまで我が主の身柄、丁重に持て成すように」
そう伝えてくれるかと語った
横目に見るその目は
空を覆う闇すらも飲み込む程に暗く…目を奪われるほどに綺麗だった
そして此方とは視線を向かい合わせぬままに
「月を…同行願う」
その後姿に
比呂に
彼の覚悟に
何も言い返せぬまま
霞は踵を返した
「馬…一頭貰うで」
貸すではなく
貰い受けると
返す必要もないと
あとがき
ここまでお読みいただき有難う御座います
そしてご無沙汰しておりました
ねこじゃらしです
自身の話で申し訳ないのですが
幼少より転勤一家で生活の様変わりには割りと慣れていたつもりですが
ある日突然にこれほどまでに様変わりするとは思いもよりませんでした
真っ暗な体育館で回りに知る人もなく過ごしたあの日から一ヵ月半ほど…
少しづつではありますが…というより割と結構
「あの日」以前の生活に戻ってたりはしてます
それでも未だ復興整理の進まない場所を見やったりすると
電気のない真っ暗なあの夜を思い出したりします
車の中(煙草吸いたいが為にw)で毛布に包まりながら思っていたのは
(昔の人はこんな暗がりの中でよくも過ごしていたもんだなあ)
というわけのわからん感心w
ほんとにね
6時なると真っ暗なのよwww
そんで余震の度に消防車のサイレンが鳴り響くんです
生活感の音が一切ない中に聞くあの音は
正直怖いなあとぬるいビール片手に思っておりました
とまあキリがないので
さて2ヶ月近くほったらかしにしていた『コレ』ですが
ちゃんと最後まで頑張ります
多分…メイビーアバウト…おそらく
まあブランクにもこりずにお付き合いいただければ幸いです
それでは次回の講釈で
説明 | ||
第65話です。 いろいろあったけど…私は元気です。 |
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コメント | ||
サラダ様、コメント頂き有難う御座います。怒っています、いつになく怒っています…が彼の想いはそれとも別に。脱エアー目指して奮闘する彼にご注目くださいw(ねこじゃらし) 胸に秘められし強すぎる怒気。彼が向かう先は、はたして。……やっぱり比呂は主人公なんだなあ。いないと空気になってしまうけれど。(R.sarada) 濡れタオル様、コメント頂き有難う御座います。地味にM県S市民でしたwちょくちょく携帯からTINAMIは覗いていたのですが、皆さんどこも大変だったようですね。フラグ…悠のそれまで散々踏み倒して来たからなぁ…(ねこじゃらし) Night様、コメント頂き有難う御座います。殴りません…八つ当たり故にwでも本当は喚き散らして当たりたいんだろうなぁと。桂花…うーむ。(ねこじゃらし) まず、おかえりなさい。被災されていたんですね……けど、無事で良かった。作品の感想ですが、比呂に死亡フラグの気配がビンビンで続きを読むのが怖いような、見たいような……。(濡れタオル) 更新お疲れ様です。グーでは殴らないのか、比呂偉いなぁ・・・と妙なところで関心をしつつ、意地を張っての決戦に挑むのか、華琳がそれを受けるのか、桂花は・・・続きを楽しみにしております。(Night) |
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