虚々・恋姫無双 虚参拾 |
魏軍が後退を始める頃、曹孟徳は五胡の巣に着いていた。
・・・
・・
・
「ここで間違いないわね」
紗江が書いてくれた地図通りに付いて来た。
結以の薬のおかげでここまで誰にも気付かれないで来ることも出来た。途中で稟に会ったことがあるけど、まぁ必要経費と言ったところでしょうね。
そして、ここからは私一人でやらなければ行けない。
「あそこかしら」
一目で見ても明らかに他の天幕よりも大きいものがあった。
色も張り方も違い、五胡のものでもないようにみえた。
「あそこに一刀が……」
無事かしら。
あの子のことだから動いてすぐにここに来たとしたら二日が経った。
もしかしたら、もう……
「いいえ、そんなはずはないわ」
一刀は生きている。
それを確信するし、疑わない。
一刀は生きているし、これからも私と一獅ノ生きていかなければならない。
「ここからは歩いて行った方がいいわね」
薬の効果がまだ効いているうちに動かなければならない。
泰山
「曹操が動いたぞ」
「到着したのですか?」
「うむ……しかし、よくもあのようなものを作ったの、孟節」
「左慈さまから教わったものの応用です。見えないというわけではなく、その人を見ることを拒むようにする薬。その人がそこにいるという確信がない限りは、効果は切られません」
「……じゃがの」
「…はい、管路にもそれが通用するとは思いません。……」
――………
「…南華老仙さまは動いてもらえないのですか?」
「……儂が動けばこの場は解決できるじゃろう。じゃが、儂が動くと管路はまたどこかに逃げてしまう。そしたら何も終わらぬままじゃよ」
「そんな……」
――……
「それに、左慈に止められたんじゃ」
「左慈さまが…ですか?」
「儂だけじゃったらもう何度もあそこに行ってあの狐を粉々にしてたのじゃが……左慈は他に考えがあるらしい」
「それって、一体……」
「分からん。儂でも神ではない。増して、管理者の中でも一番険しい道のりをしてきたあやつの考えが読める奴はそうおらん」
「………左慈さま」
――………
「一体、どうなさろうとしているのですか?このままだと、一刀様も、華琳さまも皆……」
――……ぃ
「…え?」
――意地を張り続く……子供のように……大人は子供に勝てない……
「……左慈さま?」
「!孟節、こっちに来てみろい!」
「!どうしたんですか?」
「曹操が管路に気づかれたぞい!」
「!!」
――……子供の……意地…
ピカッ!
「……于吉?」
「なんですか?」
「そこから30糎ぐらい頭を←に傾げなさい」
「…こうか?」
ササーーーッ
于吉が管路の言う通りに頭を傾げた途端、
天幕の端から大鎌が天幕を切り抜いて飛んできて于吉の首筋を透き通った。
その首筋に一線の血の線が描かれて、大鎌はそのまま丸く回転して、管路が立っていた場所を大きく一回りして天幕が切られた横のところをまた切ってブーメランのように戻って行った。
「なっ!」
「誤差は0.1センチですわ」
「何ですか、あれは!」
「大鎌ですわね、ふふふっ」
「笑ってる場合ですか!何故曹操がここに来ていると言わなかったのですか!」
「近くに来るまで気付いていませんでしたわ。何か小賢しい技でも左慈からもらったのでしょう」
「っ!」
ノンビリと天幕の中を歩きながら言っている管路を見て、于吉は苛立った顔をしながら天幕の周りの傀儡らを操り始める。
「そのまま体を椅子ごと後に45cm引っ張る」
「っと!」
管路が言った途端、また二回目の大鎌が飛んできては、今度は天幕の向こう側を切り抜いて大きく戻って行った。
「そろそろ止めなければ危ないですわね。下手してあそこに縛られている一刀君にでも当たっては大変ですし」
「私のことは大丈夫だというのですか!」
「あら、嫌ですわ。だから避ける方法を……」
管路は于吉の方を見て言ったが、
「……いきなり服を脱いでどうしたのですか?」
「切られたのです!」
「だから誤差0.1cmだと言ったではありませんか」
と言いつつも、単に歩いているかと思ったら、二回の襲撃にも管路は傷一つもなかった。
運がよかったというだけではない。的確に来る場所が分かって、避けているのであった。
「さて、三度目が来る前にあそこに知らせてあげましょうかね」
そう言いながら管路は天幕の外へ向かった」
「………彼女、すこし前と様子が違うようですね……御使いの矢に打たれてから段々と性格がまるで……」
ふと、于吉は何か届いてはいけない結論に達した気がした。
「いや、しかし……そんな馬鹿なことを……」
が、それが管路と左慈の大きな賭けごとだということを、于吉は知るはずもなかった。
二回目天幕の方に投げた「絶」が戻ってくるとまたすぐに近くまでとりかかってきた土の兵たちを相手する。
「はぁーーーっ!!」
を振るう度に何体の人形たちが崩れ落ちる。
崩れた兵士たちはそのまま地に吸い込まれるように消えていく。
けど、どこから湧いてくるのかその数は減るところか増える一方。
これじゃキリがないわ。
「ちっ、こうなったらもう一度中に投げて……」
長期戦に行くわけにはいかない。
だけど、ここまでしたのに一刀が出てこないというのは…やはり……!
「やめた方が宜しいですわ」
「…!」
声がした方を向くと、女一人がそこに立っていて、
「そこで動かないことですわ」
「!」
一瞬で土人形たちの間を通って私の前に立っていた。
「お初お目にかかりますわ。わたくしめが管路、この土人形たちの群れを作った黒幕でございます」
「!あなたが一刀を…!」
一歩離れて絶を構えようとすると
「うおぉおおー!!」
「!しまっ!」
後にあった土の兵士が攻撃範囲まで迫っていることを気付かなかったわ!
反応が……
「イケナイ子たちですわね」
パーン!!
「……へっ?」
私を攻撃しようとした土の兵士が……そのまま爆発した?!
パーン!パーン!パーン!!
「なっ」
そして、周りの兵士たちも、同じくまるで中から何かを爆発させたように壊れていった。
「ママがお客と話しているのに騒ぐのではありませんわ」
「……あなたが、やったの?」
「ええ」
「何故?何のつもり?一体何が目的で一刀を…!!」
「……ふふふっ」
管路を自分を紹介した彼女は口を隠して妖艶に笑った。
「ちょっと、どういうつもりです、管路!」
ちょっとすれば、天幕の中から今度は男の姿がみえた。
「私の傀儡らを勝手に壊すとは……!」
――うるさいですわ。
「っ!!」
――于吉、あなたにもう用はありません。
「く、かァァっぐぁ…ああぁぉぉ……!」
管路が男を睨んで言った途端、男は跪いて、息が苦しそうに頸を掴んで喘ぎ声を出し始めた。
「わ、私を……」
「まさか…殺したりはしませんわ。少なくともわたくしめは……あなたなどを殺すなんて未来は、わたくしめの前にありませんの」
「あぁっ……!」
管路が虚空で何かを捕まったように手を丸くすると、于吉はその何もないまま虚空に吊らされて虚空に浮かれた。
「ただ、そうですわね。あなたをとても、とても殺したいと思っている人が、他に居るとしたら………それもまた一つの余興ですわね」
「…ま、まさか!あなたは…!」
「………ふふふっ、今更…遅いですわ」
そして、管路がその手を強く握りしめると、
「ちょおおおおせえええええん!!!」
男は最後の断末魔を叫びながら、足元からその姿がどんどん消えていって、まるで最初からそこに居なかったかのように消し去ってしまった。
「………」
その姿を見た私は何も言えず、ただ口を閉じることを忘れていた。
「…これで女同士の話し合いができますわね」
更に、彼が居なくなってあの女の笑顔があまりにも清々しくて、私はまた口を開けてしまった。
泰山
「于吉を……!」
「…あれは…殺したのですか?」
「……信じられん……まさか管路があれほどとは…あれじゃあ、儂が行ったところで簡単には収まらなかったやもしれん」
「!それほどなのですか?」
「……儂が見ない間、あれほどの力を得ておったとは……」
「……じゃあ、華琳さまは助ける方法はないのですか?」
「…言ったじゃろ。左慈の頼みじゃ。儂らは見守っているだけで良い。もともと管理者の仕事はそういうものじゃ」
「………酷いです。そんなのあまりです」
「……」
「死にゆく人を見ても助けられず、助けられる人を死なせて、ただ力あるものが弱きものを虐める世の中。それを正す力がありながらもただ見るだけだなんて……」
「…それは違うんじゃよ、孟節よ」
「…南華老仙さま」
「儂らは神ではおらぬ。外史の問題をもっともうまく解決できるのは外史に住む人たちじゃ。儂らはただ、異変があればそれを止めるぐらいすれば精精。それも天の御使いという存在を得てしてのことじゃ」
「ですが、このことを招いたのはあなた方管理者なのでしょう?」
「…いや、これさえもまた、外史の意思じゃ」
「そんなのただの責任回避です!」
「お主は子供が他の子たちにいじめられておるといつも大人のお主が行ってそれを手伝えるかえ?」
「!」
「何度か助けてやることはできるじゃろう。じゃが、そうやってあの子が大人のお主にずっと頼るようになってしめば、いつになっても子供はいじめられるばかりじゃ」
「それは……」
「力を持ってるとそれを持って外史を助けることはできるはずじゃよ。じゃが、それではいつまでも外史は成長せぬ」
「………」
「お主も分かると良い。これからはお主にも助けてもらわなければならぬからの」
「……へ?」
「と、管路と曹操が動いたか」
「一刀!」
管路の後を付いて天幕の中に入ると、そこ天幕の端っこに一刀が両手を縛られたまま気を失っていた。
「一刀!一刀!!」
「………」
起きない。
どれだけこんな風にされていたの?
「昨日の夜ぐらいに来ましたから、半日ぐらいはずっとあのままですわね」
「…一刀に何をしたの!」
「わたくしめは別に何も……ただ、あるべき形に戻したまでです。元彼が感じるべき悲しみ、苦しさ、そして痛み。そんなものたちを蘇らせたまでのこと…特別扱いは良くありませんからね」
その話を聞いた瞬間、あまりの痛みに叫ぶことさえできないでいた一刀の姿が脳裏に浮かんだ。
「ふざけないで!一刀を元に戻して頂戴!」
「それはできないご相談ですこと」
「……戯れはそれまでよ。もう一度言うわ。一刀を放しなさい。さもないと…」
「さもないと…何ですか?曹魏の泣き虫王さま?」
「…殺す!」
「絶」を構え、彼女に迫る。
「ふふふっ」
「はぁあああっ!!」
ガチッ!
「なっ………」
何、今の……虚空でいきなり何かにぶつかるように……
「ふふふっ…」
驚く私を見て、管路ただその笑いを続けた。
「あなたを殺すことはとても簡単なこと……ですが、あなたを殺すためにあなたをここに呼んだわけでもありませんわ」
「……なんですって?」
「さぁ、あの子の名前を呼んでくださいませ。これぞわたくしめと左慈との賭け。左慈が、それだけ信じていたあなたたちに力を見せて頂きますわ」
そう言ったとたん、管路の手には先までなかった剣が一つが握られてあった。
「!……体が…」
動けない!
足がその場で根を下ろしたように動こうとしない。
これもあいつの術?!
「くっ…こんな……!」
「さぁ、呼ぶのです。あの子の助けを……そして、わたくしめを楽しませてくださいませ…!」
管路は手先を私に向けた。
さっきみたいにまた虚空で爆発を起こすつもりなのね!
だけど、あいつが望むことが何かしらないけど、
一刀のここに巻き込むわけには行かない!
ガチッ!
絶を振り切るを途中で爆発が起こって、私は絶を落としてしまった。
「……中々意地があるようですわね」
「当たり前よ。大体、子供のあの子をこの戦に巻き込んだこと自体、今は後悔しているのだから」
「…ふふっ、そうですか。それなら、少し方法を変えてみましょうか」
ドクン!!!
「か、体に感覚が……」
手足に力が入らない!
「手足に感覚がないでしょう。ありがたく思ってください」
「何を……」
「さぁ、北郷一刀。早く起きた方がいいですわよ。でないと、
あなたの大好きなお姉ちゃんの四肢が吹き飛ばしてしまいますので……」
「!!」
こいつ……!
「何をする気!」
「あの子は自分の痛みより人の痛みに何十倍も苦しむやさしい子。そんな子が一番心を委ねている人の目を、腕を、脚を一つ一つ切り落としてしまうのです。そしたら、いくら絶望に落ちている子だとしても夢から目を覚まさざるをえなくなる。いい策だと思いませんか?」
「…!」
「そうですね…まずは、軽く右腕から始めましょうか」
「っ!!」
管路はゆっくりとその右手の先を私に向けた。
あのままだと、私はあの土人形のように粉々にされてしまうかも知れない
「っ!!」
一刀…!
ボクの名前を呼んでくれる人が居る。
――かずと…
それはボクの名前。
――…かずと……
誰にも渡さない、ボクだけの……ボクの存在を定義するもの。
――…かず…と……起きて…
ボクを知っている人、ボクを愛してくれる人が居る。
誰でも良い。どんな人でも、どんな事をしたとしても、
例えそれがボクをこんな風にしてしまった人でも、
例えそれが何十万の人たちを殺してきた覇王でも、
例えそれがボクを見捨てた人だとしても、
――一刀……目を覚まして…
ボクはあの人たちを大切にしている。
守ってあげたいと思っている。
例えそれが報われないことだと知っていても、ボクはあの人たちの涙を見ることができない。絶望する姿を見ることが嫌い。
――一刀…私と一獅ノ居て
でも、ちょっとだけ我儘を言うと、
ボクも大切にして欲しい。
――一刀、私を守って…
「…うん」
スッ
「なっ!」
「……」
「っと!」
管路が私に向かって手を伸ばした途端、私と管路の間に突然一刀が割り込んできた。
そして、
パーン、
一刀が宙にて管路の伸ばした手先を蹴りで外すと、手は私から天頂を指した。
上を指した手の先、虚空で爆発音がすると思ったら天幕の上に風穴が開かれてしまった。
同時に、管路の服の袖から何か光るものが地面におちた。
「!」
同時に体に力が戻ってきて、また動けるようになった。
「いけませんわね。このあたりは砂風であまり居心地が良くないというのに……」
「…一刀?」
一刀が、私を守ってくれた?
「……」
「一刀、大丈夫な…」
「……っ!」
けど、
一度私を振り向いた一刀はそのまま膝を折って倒れた。
「一刀!」
私が倒れる一刀を抱きしめたら、
ビクッ
ビクッ
彼の体の振動が伝わってきた。
「っ…!!ぁ…!かはっ!!」
「何、どうなって…!」
「発作しているのですわ」
発作……!
「痛みのあまりに気を失っていたのに、気を戻してまた痛感を感じ始めたのです」
「説明はいいわ。早く元に戻しなさい!」
「それが今その子の元あるべき姿ですわ。死を迎えているその子は、苦しみを抱えながら死んでゆくのが天命……」
シャキッ!
「おっと!」
「一刀は殺らせないわ!」
思いっきり振った絶を管路はあっさりと避けてしまった。
「何か勘違いを…しているようですが…別にわたくしめが殺すわけではございませんわ。それがその子の終点です」
「そんなこと納得するわけないでしょ!?」
「納得するかどうか、そんなことは関係ありません。真実は常に人に残酷でしかありませんことで……」
「勝手に決めないで……」
「…一刀!」
痛みで震えている体を一人で起こさせて、一刀は私と管路の顔を真っ直ぐ見て言った。
「ボクが幸せだったかどうだったかはボクが決める。天命とか…そんなの関係ない」
「一刀…」
「なら、聞きましょう。今のあなたは幸せですか?」
管路は一刀に聞いた。
「……幸せ?ボクのせいでボクの大切が人が傷つくのを見ているのが…楽しいわけないでしょう」
「それもまたあなたの天命ですわ」
「ううん、天命なんかじゃない」
一刀は頭を振った。
「ようやく分かったんだ。ボクがどうして今まで幸せに居られなかったのか。どうしていつも苦しんで絶望しなければいかなかったのか……」
「……」
一刀が苦しんできた理由。
そんなの決まっているじゃない。
あの子の親のせい。そして、私のせい。
子供に耐えることのできるはずもない絶望を与え続けていたのはいつも私たち大人だった。
だから、今度こそあの子を幸せにしてみせると……そう思っていた。
だけど、一刀の口からでた答えはまったく別のものだった。
「それはボクのせいだよ」
いつか……いつか聞いた言葉があった。
「今まではお主の意思に関わらず不幸はお主に宿っていたが、これからはお主の意思でそれを選ぶことができるじゃろう…精々、せっかくの機会をちゃんと掴めるといい」
華琳お姉ちゃんたちに出会ってそれほど長く立たなかった時に、街で出会ったある人から聞いた言葉。
占いを信じるわけじゃない。
でも、結局その通りだと思った。
子供の時のあの不幸がボクの力でどうにかできることでない事故だとすれば、その後、ここに来てからの出来事は何もかもボクの手に届くところにあった。
どころか、ボク自身がそうだと分かっている上で、自分で不幸に身を投じる時もあった。
少なくとも、ボクはこの世界に来てから自分の手で自分の不幸を選んできていた。
それを周りの人たちの幸せに繋がることだと錯覚して。
「でも、今は分かった。ボクが不幸せになることが、皆の幸せに繋がらないってことを……なら、ボクはボクが幸せになる道を選ぶよ」
「なるほど……それで、あなたはこれからどうするのですか?」
「……この戦を止める」
皆が幸せになるなら、それでいい。
そして、この戦いが終わって、大陸の皆が幸せになれる第一歩を踏み出すことを見られるのなら、ボクはそれで十分幸せ。
「…結局、それですか」
「うん、結局変わらないよ」
変わったことがあるとしたら……それは自覚。
ボクはどれだけ幸せを求めていたのかへの自覚。
周りの人たちの幸せな姿を見たいと思っていたのは、実は自分がそんな気分になりたかっただけだったということ。
だけど、ボクにはもうそれができないから…
「結局あなたは子供ですわね」
「………」
「それは結局、あなたのそれほど強かった覚悟を自分で崩しただけのこと。あなたの自覚はあなたを弱くしましたわ」
そこに、ボクは落とした指輪が落ちてあった。
さっきあの女の人の袖から落ちてきた。
指輪を拾い上げると、それはいつものような弓の姿になった。
「それではわたくしめを殺せませんわよ」
「…やって見なければ分からない」
「………」
サシュッ!
打った矢が女の人の胸に刺さる。
もう一本!
サシュッ
もう一度!
サシュッ
サシュッ
延々と…矢が尽きるまで……!
「っ!」
「無駄と言ったはずです」
だけど、女の人はビクともせず、矢はそのまま消えていく。
駄目、これじゃ本当に埒があかない。
「左慈の弱った魂で、倒れるわたくしめではありませんわ」
「………みたいだね」
「さぁ、どうしますか?」
「……」
無駄……
これじゃ勝つことができない。
「…逃げましょう、一刀」
「華琳お姉ちゃん?」」
振り向くと、つっと立ってる華琳お姉ちゃんが居た。
「今の私たちじゃ力不足よ。私はあなたを連れて行くためにここまで来たわ。あなたは管路あの女を殺すつもりで来たみたいけど、あなたのその弓も通用しないし、私でも手も足も出ないわ」
「逃がすとお思いで?」
ガチッ!
「ッ!」
「華琳お姉ちゃん!」
また前みたいに虚空で何かに押されるようになって華琳お姉ちゃんは後に飛ばされた。
「華琳お姉ちゃん!」
「……だ、大丈夫よ」
「!…血が…」
途中で何かにぶつかって華琳お姉ちゃんの額から血が流れていた。
「言っておきますが、わたくしめを殺さない限りはあの土人形たちは延々と増え続けますわ。今この時でも、戦いはより酷なものになっています。さぁ、どうしますか、天の御使い。この場面があなたがこの戦を止める最後のチャンスですわよ?」
「……帰るよ」
「……なんですって?」
戦?そんなの知ったことじゃない。
華琳お姉ちゃんが怪我してる。早く戻って治療しないと…
「逃がしませんわよ」
「邪魔しないで」
そして、目の前に華琳お姉ちゃんを穢した人がいる。
ボクの華琳お姉ちゃんを…!
お前が…!!
しゅっ!
「!」
「なっ!!」
?
目の前の女の人が驚く。
そして、ボクはその原因に気づいた。
矢が、赤くなっていた。
いつもは白く光っていた矢が、
今は血に滲んだ赤で光っていた。
泰山
「なっ!!」
「何ですか……あれは?どうして矢の光が…」
「……あれは御使い自身の魂じゃ」
「…へ?」
「左慈よ!あれはお主の魂だけを射たものではなかったのか!」
――………
「……左慈?」
――………
「左慈、答えぬか!」
「…左慈さま?
――………
「……左慈よ……まさか……」
………
………
………
………
説明 | ||
幸せも不幸も、結局その手から出てきた。 天命も、運命でもない。 これからも、自分の道は自分で切り開く。 そう誓う時、人たちを幸せにさせたいという気持ちは、子供の駄々から大人の覚悟になる。 ただし、子供の駄々はただだ。 そして、大人の覚悟には、対価が必要だ。 |
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3ページのそう言いながら管路は天幕の外へ向かった」の」はいらないのでは?さっちゃん、あなたは何をしたんだ。(山県阿波守景勝) | ||
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