恋姫無双 〜決別と誓い〜 第二話 |
彼女が話す言葉を理解するのに数秒を有した。心臓の動悸が速くなる。
俺は声を出そうとしたが、喉に舌が張り付いたようで出せずにいた。だがなんとか出せた第一声はひどく乾いて、しゃがれた声だった。
「助からないって、そんな他人事みたいに・・・・!」
彼女は悲しそうに、
「王として、物事全てを客観的に見る癖がついちゃったみたい・・・」
「だけど、・・・もう良いのよ一刀。私はもうだめ。。・・・・・・その事実は動かし難いわ」
寂しそうに笑うだけだった。俺には理解できない。
もうすぐ死を迎える人間がどうしてそう笑っていられるのかが。
「だけど・・・」
彼女は俺の訴えかけるように真っ直ぐ目を見て
「その前に蓮華には、そして一刀にも私の背中を見ていて欲しいの」
「王として、そして孫家の人間としての誇りと生き様を・・・・」
かすれた声で懇願する。つらかった。何故、どうして彼女がこんな目にあわなければならないのだ。
それは大勢の人を彼女が殺してきたからか?
ぶつけようがない怒りだけが頭の中をぐるぐると蠢いている。
「誇りと、生き様を・・・・・」
俺は情けない声で彼女の云った言葉を繰り返した。
彼女はゆっくりと頷くと静かに口を開いた、
「だからね一刀・・・。この事は皆には黙っていて・・・・」
「私の天命はここまで。あとは蓮華とあなたが継ぐのよ・・・・」
それでも俺は彼女の話が到底納得できるものではなく、天命を受け入れられるほどこの当時の俺は器も大きくはなかった。
どうして?なぜ?
そればかり考えていた。
そんな俺に雪蓮は微笑んで、
「おかしいことなんて無いわ。・・・人はそうやって歴史を積み重ねてきた。私も・・・・長い長い歴史の一片になるだけなんだから------」
笑いながら自分の死を受け入れろと言う彼女の台詞を遮り
「っ!!!!どう・・して・・・・・そんな風に、冷静に云えるんだよ・・・・・!!」
途切れ途切れの言葉を発する。
彼女の顔が歪んで見えなくなる。
その時自分が泣いているのに気が付く。
俺が流す涙が、頬を伝い彼女の顔に落ちる。
「一刀・・・・。私のために泣いてくれるの・・・?」
俺は涙で顔が見れなかったが、彼女の声は驚きとそしてどこかしら嬉しさが入り混じっていた。
「当たり前だろっ!!こんな・・・こんな理不尽なことが許されて・・・・たまるかよ
!!」
倒れた体を強くかき抱いた。
トクン トクン
心臓の音が聞こえる。
この音がどうか、どうか途切れませんようにと居もしない神に訴えることしかできない俺は本当は何もできない口だけの理想狂だとこの時初めて思い知った瞬間でもあった。
俺はあふれ出る涙を必死に堪えて目を乱暴に擦り、彼女を見る。
その顔は今まで見たことがない、泣きそうで悲しい顔だった。
震える声で弱々しく、
「そうね・・・。現実って酷いよね・・・。私、もっともっと一刀と生きていたかった・・・。もっともっと一刀と過ごしたかった・・・・。
でも、悲しまないで・・・・。私ね、今まで楽しんでこれた日々。それが重要なんだってね。
死は人として当然の結末。例えそれがどのような結末であったとしても・・・ね」
ああ。俺も雪蓮と一緒だ。
お気に入りの場所で雪蓮ともっと昼寝したり、酒飲んだりしてさ、仕事サボってやろう。
冥琳と混じってさ、バカやって雪蓮と俺で二人して冥琳に説教されるんだぜ。
お前たちは相変わらずだってさ。
だからそんなことを言わないでくれ・・・・・!!
俺を、皆を置いていかないで・・・・・!
「認めたくないよね・・・。でも・・・、それが現実・・・・・」
「その現実を一刀、受け止めて。・・・・そして私はあなたにも残しておきたい・・!!」
「私の生き様を。・・・・そしてその生き様があったからこその、この私の死に様を・・・!!」
俺は彼女の云った言葉を、そして今ある現状を出来るだけ納得しようと努力した。
たとえできなくてもそれが彼女の願いなら、俺の愛している人ならば・・・・。
心でそう無理矢理納得させようと努力した。
「さて・・・、一刀。手を貸してくれる・・・・?」
「・・・・ああ」
俺はそう返事をして彼女の手をつかんだ。
「ふふっ・・・。一刀の手あったかいね・・・・・」
耳元でそう囁く彼女の手は弱弱しくて冷たかった。
だが彼女はそれでも背筋を伸ばし、自分の足で大地に立つ。
そして彼女はニヤリと口の端を上げ、呟く。
「さあ・・・・。孫伯符。一世一代の大芝居よ・・・・・」
俺は彼女について行った。彼女の生き様、そして死に様を目に焼き付けるために・・・・・。
私はこれから戦う相手に胸を躍らせていた。なんせ相手は「江東の小覇王」という呼び名がある孫策伯符率いる呉の軍団だ。
私は反董卓連合の時私達の国以外に生き残る国を大体確信していた。
その国は二つ。
一つは、劉備率いる蜀。あの国は王の劉備こそ大した力を持っていないが、関羽、張飛といった一騎当千の力を持つ武将が多い。そして、その武将を操る諸葛亮と鳳統。恐らく大軍もってしても攻め滅ぼすのは難しいだろう。
そしてあの当時袁術の客将の身分であった孫策伯符率いる呉。
確かにあの国は蜀のように武将は多くないが、国民の王への忠誠心。そして関羽に匹敵する武を持ちなおかつ、王としての能力が高い孫策伯符。さらに錬度の高い水軍を持つ呉は私個人としては蜀よりも厄介な相手だと思っていた。
では何故その呉と先に戦うのであろうか?
魏の多くの軍師でさえ蜀と呉、どちらを攻めるのか真っ二つの割れていたにも関わらずだ。
「簡単なことじゃない」
私は独り小さな声で云い、笑みを浮かべた。
より強い国と戦い勝利する。それが私が貫くやり方だからだ。
確かに今思うとあの軍議で相当な無茶を云ったものだ。
しかし私が云う無茶をこうして実行という形に移してくれた家臣たちには言葉で言い表せないほど感謝している。
「華琳さま。右翼から秋蘭の隊が合流します。・・・これで状況は全て整いました。」
猫の形をした変わった帽子をかぶった少女、荀ケこと桂花が小走りにこちらにやってきて、報告する。彼女は私が信頼する軍師であり、また愛する人の一人でもある。
「ありがとう桂花。・・・・いよいよ英傑、孫策との戦いが始まるのね。胸が高鳴るわ」
私はそう云い彼女に微笑みかけると彼女はそれに呼応するように笑顔で返してくれた。
「敵は英雄孫策に率いられ、勇猛謳う呉の兵士。・・・新兵の多い先方部隊がどれほど持ちこたえるのか、気になるところではありますけどねぇ〜」
後ろから独特の音程で話す程cこと風が気配無く急にでてきた。
桂花は急に出てきた彼女に怪訝な顔をしたが、すぐに元の顔に戻り話を進める。
「その件では抜かりないわ。意気地のない新兵を奮い立たせるのは、褒美をちらつかせるのが一番」
「戦場で名ある将を討ち取った者には、千金の褒美を出すという掲示を出してあります。これで少しは意気地が出ましょう」
彼女は意地悪くニヤリと笑って私にそう云った。
「兵は主義では戦えぬ・・・・・か。それもまた当然でしょうね」
もっとも名ある将を新兵などが討ち取れるはずもない。桂花のさっきの笑みがそれを暗示している。そもそもそんな新兵がいたら私はもっと早く天下を取っているだろう。
「しかし、一部の部隊が抜け駆けの気配を見せていますからねぇ〜。気を付けなければ」
風が思案顔になる。
風の言葉を聞き、私は桂花に命じた。
「その部隊に数人を付け、挙動を監視しておきなさい。英傑との戦いを無粋な愚人に穢されたくない」
「御意」
しかしあの魏の大剣といわれる夏候惇こと春蘭が抑えきれない部隊があることに、驚きつつも嫌な予感がしていた。
呉の部隊の展開の遅さが目立つ。
もしかして孫策の身に何かあったのだろうかという考えが浮かぶが、私はすぐにその考えを振り払った。
どのようなことが遭っても私は全力で敵を粉砕するだけだ。自分を信じてくれている国民。そして兵士のために・・・。
その時は私はそう思っていた。
俺は彼女の体を支えて歩いていた。
彼女はもはや自分で歩けないほどにまで衰弱していた。
彼女の体がどんどん冷たくなっていくのが支えていて感じ取れた。
それでも雪蓮は自分の足で歩き続けた。
「私がこんな状態だと知ったら、兵が動揺するわ。それはなんとしても避けなければならないこと。
一刀、兵の前では貴方は手を貸さなくていい。ただ私のそばにいてくれるだけでいいから・・・」
フラフラとした足取りでも彼女は頑として手伝いを拒み続けた。
王はどんな状況でも気丈でなければならないと前に雪蓮が行っていたのを思い出す。
彼女は死ぬまで王として生きると覚悟したのだろう。
それでも毒が体を蝕み、着くまでに吐血したり倒れたりを繰り返した。
もう時間がない。
そう認識せざるを得なかった。
俺は彼女に励ますように優しく声をかけた。
「雪蓮!みんなが外に出てきてる。・・・雪蓮を待ってくれてるぞ」
「見えてるわ・・・・。一刀、離れて」
「え・・・?でも・・・」
口についた血を手でぬぐうと目に力が宿る。
これから死のうという人間がこれほどまでにエネルギーを爆発させられるのだろうか?
このとき俺は決意した。
彼女の死をそして生き様を見届ける・・・・と。
「雪蓮、俺は最後まで君の生き様を見届けるよ・・・・」
「一刀・・・・・。ありがとう。私は大丈夫だから手を離して・・・・?出陣前なのに、王が身体を支えられているなんて情けない姿見せれないでしょ」
彼女はそう云うと青白い生気のない顔で笑った。
「・・・・私は孫呉の王。・・・・・その誇りが今私を支えてくれているわ」
妹である孫権と雪蓮の右腕でもあり断金の友でもある周瑜が雪蓮に駆け寄ってくる。
「姉様!!」
「雪蓮!!」
「・・・おまたせ。二人とも出陣するわよ。」
「やはり・・・治療を受けてくれないのですか・・・・・?」
「私は孫呉の王。・・・・その言葉の重さを、あなたに見せないといけないわ」
蓮華は泣きそうな顔をしていた。姉のように勘が鋭い彼女のことだ。もう自分の姉がどのような結末になるのか薄々判っていたのかもしれない。
雪蓮は微笑んで妹の頭に手を置き優しく撫でた。
「私はまだまだ元気よ。・・・・・この戦いが終わったら、蓮華の云う通りにするわ。約束する」
「・・・約束ですよ」
「ええ。約束するわ。・・・・・さぁ部隊に戻りなさい。そして皆と共に私の背中を見ておきなさい」
「はい。姉様。」
蓮華はそう云うと踵を返して戻っていった。
彼女も覚悟したのであろう。そして自分の姉が妹に王としての生き様と死に様を見て欲しいという心中を蓮華は汲み取った。俺はそう思えた。
蓮華が去った後、周瑜こと冥琳は小さな声で
「・・・・あとどれくらい持ちそうだ?」
彼女は今までの振る舞いが演技だとばれていたのが分かると苦笑して
「・・・・わかる?」
そういう彼女に冥琳はいつものように深いため息をつきこう云った。
「当たり前だ・・・。何年一緒に過してきたと思っている・・・」
「ちぇ。ばれちゃったか。そうね・・・・・あと少しかな・・・」
「・・・・毒か?」
「ええ」
「分かった」
彼女はそう云い頷くと直ぐに戻っていった。
俺は冥琳に対しての振る舞いに憤りを感じていた。
彼女と冥琳の絆の深さはこちらが嫉妬するくらいであったはずだ。なのに今その親友が死にかけているのにもかかわらず優しい言葉すら投げかけてやらないとは・・・・。
俺が怒っているのが顔に出ていたんだろうか。
彼女は俺に云った。
「冥琳はね、ちゃんと泣いてくれたもの。・・・・心の中でね・・・・」
俺は冥琳を見た。
いつもは真っ直ぐで凛とした冥琳が、今回は酷く小さくて泣いているように見えた。
「曹操様。敵軍より単騎で出てくる影あり。・・・・まだ誰なのかは詳細は不明ですが・・・・」
伝令兵からの知らせを聞き、いよいよ始まる聖戦に胸を躍らせていた。
「あれは孫策ね・・・。侵略してきた我らの非を鳴らし、兵を鼓舞する、か。・・・定石ね」
「その舌鋒が何処までこの曹孟徳の心に響き渡るのか。・・・・・大人しく聞いてあげましょう」
「はっ!!」
伝令兵は返事をし、敬礼をした後持ち場に戻っていった。
「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」
彼女はなんとか一人で馬にまたがっていた。
俺は彼女に無駄かもしれない言葉を発した。
「やっぱり、戻ったほうが・・・・」
「大丈夫。一刀。・・・辛いかもしれないけど表情は隠しておきなさい。兵が見ているわよ」
「貴方は立派な呉の将なんだから、しっかり前を向いてその内心を兵に悟られないようにね」
それは彼女が俺に云った、最初で最後の王としての言葉だった。
「見ていてね一刀・・・・。私の生き様・・・・、そして死に様を・・・・・」
彼女はそういうと最後の力を出して兵士に向かって第一声を上げた----------
どうもコックです。第二話いかがかがでしたでしょうか?
現段階では真恋姫無双のシナリオに自分なりの解釈をいれてやらせて頂いております。
ただあくまでも「自分なり」の解釈ですので、
「こんなの違う!!」
という人は申し訳ありません。
さて次回からはいよいよ我らが王の(?)雪蓮は死んでしまいます。
その時一刀は彼女の死をどう受け止めどうすべきかを模索していくことになります。
前述した通りオリジナルキャラは出しません。話が崩壊する可能性がありますので(汗)
他の恋姫のss見ると結構オリジナルキャラだしてますよね。
真名とか名前とか性格とか決めなきゃならないし大変ですよね。
それでいて面白いんですから、ほかの人たちは凄いなぁと思う次第です。
ただ主人公である一刀はゲームとはだいぶ違う性格になるとおもいます。
これから起こる出来事、そして一刀の成長をどうか温かく見守ってやってください。
説明 | ||
前回の続きを投稿します。 それと一話同様、今回も若干加筆、修正を加えました。 一刀の心情をもっと全面に出したほうが臨場感が出てくるかなと。 誤字脱字等の指摘宜しくお願いします。 誤字を修正しました。 コメントありがとうございます。 |
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心臓の動機が速くなる。⇒動悸(黄金拍車) 追加です!あとがきの所です!新恋姫無双じゃなくて真恋姫無双です!(タケダム) 誤字発見!明琳じゃなくて冥琳です!(タケダム) |
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