真・恋姫?無双〜獅子を支える者〜凪√3
[全12ページ]
-1ページ-

この作品はキャラ設定が崩壊しております。原作重視の方はご注意ください

 

時代背景等がめちゃくちゃです

 

一刀くんがチートです

 

それでもいいかたはどうぞ

 

 

-2ページ-

一刀が張三姉妹を曹操のもとに預けてから、さらに月日が経ち、朝廷は黄巾賊討伐の奉公として様々な諸侯に領地などを与えていた。それは大陸を治める者としあるべき姿であった。しかし、今の朝廷の支配力を考えればあまりにも軽率な行動であったと言える。領地を得た諸侯は力を蓄え己の野望や志の為に、今か今かと機会をうかがっていた。そして、その機会はそう時間をかけることなく訪れた

 

 

陳留付近の邑

 

 

一刀「反董卓連合ね〜。どう思う雲義」

 

そう言いながら一刀は自身の隣に立つ大男、雲義に顔を向ける。この雲義という大男は一刀が私兵団を結成した際に集まった者たちの中の一人であり、一刀が真名を許している数少ない人物の一人である。名は張翼、字は伯恭と言う

 

雲義「茶番…と言ったところだな。中央の情勢については一刀に言われた通り、可能な限りを把握している。洛陽を治めている董卓は暴政なんか行っていない。むしろ荒れていた洛陽を、よくこの短期間で今の状態にまで復興させたと褒めるべきだろう」

 

一刀「なら、この戦いは権力を持ってる董卓に嫉妬した諸侯が起こそうとしてるものか。曹操さんの言うとおりなら首謀者は袁紹、あとは袁家つながりで袁術とかかな? まぁ、その辺はこの際どうでもいいとして…俺はどちらにつくべきだと思う?」

 

雲義にそう尋ねる一刀の表情はどこまでも無表情。それ故に雲義は一刀の表情から心を読み取り、意見をあわせることは諦めて本心をそのまま口にする

 

雲義「連合軍側だろうな。董卓軍側に呂布、張遼、華雄、賈駆という有能な将が配下におり。水関と虎牢関の二つの堅牢な関を持っていようとも、今回は分が悪い。連合側にはかなりの数の勢力が集まることになりそうだからな。何より一刀は色んな勢力の君主や将を見てみたいんだろう?」

 

一刀「まぁね。ただ董卓軍にだって勝機はあるさ。水関と虎牢関で時間を稼げば、連合軍は自然と瓦解する……ただまぁ、そのためには洛陽の主要たる将を可能な限り前線に送らなきゃいけない。その隙を洛陽にいる古狸どもが見逃すとも思えないけどね〜。で、兵数はどの程度集めれば」

 

雲義「俺たちの兵数が今は1千人。うち剣兵4百、槍兵2百、弓兵2百、騎馬2百。連合に参加するには、剣兵1千5百、槍兵1千、弓兵1千5百、騎馬1千の総数5千は欲しい。でないと相手にされないだろうからな。それに集めるのも不可能じゃない。すでに付近の小規模な義勇軍には声を掛けている。その内のいくつかは既に俺たちの集団に吸収されることに合意してくれている。確か…3千くらいだったか? だから俺たちと合わされば4千、足りないのはあと1千くらいだな。それと騎射が可能な兵を増やしたいな。鞍と鐙の数も馬の数だけ揃えたい。兵糧については近いうちに補給するつもりだったから、いつもより多めに取引すればいいだろう」

 

一刀「じゃあ、義勇軍との話し合いと兵糧については任せるよ。兵器の確保は俺がやろう。連合軍が洛陽に進軍するために集まるのはまだ少し先になるだろけど、作業は急いでくれ。兵糧の確保は遅れれば遅れるほど損をする。兵についても訓練は念入りにしたいからね」

 

雲義「了解した。では…」

 

雲義がそう言って振り返ると、一刀に一歩前に進み出るように視線で促すとその場に跪く。一刀も同じように振り返る。一刀の視線の先では兵士たちが腕を後ろで組み、足を肩幅ほど開いて一刀の言葉を待っていた

 

一刀「これからの俺たちの方針が決まった。一度しか説明しないから一回で覚えるように。質問は後で各隊ごとに隊長がまとめて俺のところに持ってくるように」

 

兵士たちの中の数名が頷いていることを確認した一刀は言葉を続ける

 

一刀「ある程度噂を耳にしているかもしれないが、近いうちに洛陽にて暴政を振るう董卓に対する連合が組まれる。俺たちはそれに連合軍側として参加することになる。しかし、今の俺たちの数では連合に参加しようとしても相手にされないだろう。そこで、近いうちに付近の義勇軍を俺たちが吸収して兵力の増強を計る。その際に新たに加わった兵士に俺たちの強さを示すためにも、一層訓練に励むように。それと、馬術に自信がある者はこの後張翼のところに行ってくれ。騎射の訓練を行ってもらう。もちろん、騎射が出来るようになればその分給与を上げるつもりだ。一人でも多くの参加を願っている。話は以上だ、解散」

 

一刀が解散と言うと同時に百人ほどの兵士が雲義の元へと集まる。雲義は集まった兵士たちを一瞥すると無言のまま歩き出したが、一刀はその横顔が僅かにニヤついているのを見逃さなかった

 

一刀「雲義は特訓大好きだからな〜。南無」

 

一刀は一人そう呟くと兵士たちに手を合わせ、思考を反董卓連合へと切り替える。今回一刀が参加する理由は、名誉などのためではなく諸侯の情報と洛陽に保管されているであろう資料である。一刀は私兵団結成当時からどんな些細な情報でもいいから集めようとしていた。しかし、たんなる私兵団が集められる情報には限りがあった。一刀がなにより困ったのがこの時代の地図の不正確さであった。戦を行うにあたって重要になる、地形を正確に把握するということが、一刀たちが現在持っている地図では非常に困難であった。しかし、洛陽に保管されている資料を得ることができればかなり正確な地図どころか、各地の城や砦の図まで得られるかもしれない。それだけでも一刀にはこの戦いに参加する意味が出てくるというものであった

 

一刀「(洛陽をおとした際に誰かが持ち出す可能性もあるだろうけど…)そうなったら仕方ないと思うしかないよな」

 

そう呟いて、少し遠くから聞こえた兵士の悲鳴と雲義の笑い声に苦笑を浮かべながら一刀は、鍛錬を行っているであろう兵士たちのもとへと歩き出した

 

 

それから半年の月日が流れ、一刀たちは付近の義勇軍と邑で集めた義勇兵の合計四千を新たに仲間とした。兵糧の確保には少々苦労したものの、それなりに余裕がある量を確保することが出来た。そして、一刀は兵五千を率いて連合軍の集合地点へと向かった

 

-3ページ-

連合軍・北郷軍陣内

 

 

一刀「雲義から聞いてある程度想像はしてたけど…すごかったな…あれが今回の連合の総大将候補だろ?」

 

雲義「そうだ。どうする? 今から董卓側に行くか?」

 

一刀「んなこと出来るか。いい性格してるぜ」

 

一刀が深いため息を漏らす。雲義はその横顔を見ながら大きな声で笑っていた。一刀たちは連合軍の集合場所に着くと袁紹の兵士の指示された場所に陣を建設した。部下に陣の建設は任せ、一刀と雲義の二人は袁紹のところへと挨拶に向かった。一刀のため息の原因は会話からも分かるように袁紹であった。一刀は雲義からある程度、袁紹についての説明を受けてはいたが本物は一刀の想像以上に

 

袁紹「おーっほっほっほっほ」

 

酷かった

 

雲義「まぁまぁ。今回の連合については総大将なんてのは名ばかりだ。行軍の際には指示に従う必要があるかもしれないが、いざ戦いが始まれば現場判断ということでどうとでもなるさ」

 

雲義は笑いすぎて腹が痛くなったのか、腹に手を添えて目に涙を浮かべながら一刀にそんなことを言っていた。そんな雲義を一刀はどこか恨めしそうに横目で睨んでいた

 

 

〜一刀side・始〜

 

連合軍・本陣

 

「雲義め……なにが『兵站の準備と兵士への指示は俺がやっておくから安心して軍議に行ってこい』だよ。軍議で方針が決まらないと兵站の準備もクソもないだろうが…兵士への指示だってもうほとんど終わってたろう。本心が見え見えなんだよ。というか最終的に『働きたくないでござる!!』ってなんだよ。もう本音ダダ漏れじゃないかよ。はぁ…軍議行きたくないでござる」

 

そもそも俺たちみたいな弱小勢力が軍議に出る意味はあるのか? 軍議が終わったら兵士に伝令として走ってもらって、軍議で決定した内容を伝えればいいだけじゃないのか? 雲義は『本来なら弱小勢力が呼ばれることはないが、俺たちは少々有名だからな。もしかしたら袁紹が気を使ってくれたのかもしれないぞ』とか言ってたが…ま、考えるだけ無駄か。軍議には有力な諸侯が集まるだろうからな。顔を見るにはちょうどいい機会だな

 

曹操「あら、北郷じゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」

 

「曹操さんか……ん? 一人? これから軍議に向かうんだよな?」

 

曹操「ええ。北郷もそうでしょう?」

 

自然に俺の隣に並んで歩きだした曹操を見ながらそう訊ねると、曹操は俺に怪訝な表情で俺を見てくる。普通軍議には軍師とかをつれて来るものだと思うのだが…俺の場合は雲義に断られたから一人なわけで…訊いてみるか

 

「軍議って軍師とかと一緒に出るものだと思ってたからな、つい不思議に思ってしまって。俺が一人なのは軍師がいないからな」

 

曹操「あぁ、そういうこと。袁紹にはもう会ったかしら?」

 

曹操の言葉で俺はあの袁紹について思い出してしまった。そうだ、これから向かう軍議にはあの袁紹がいるんだったな…

 

「あぁ、会ったよ。ここに着いた際に挨拶をしたからね」

 

曹操「そう。あれとは私は古い付き合いでね…たぶんあれが今回の連合の総大将になるでしょうから、今回の軍議を仕切るのもあれになるわけ。そうなるとせっかくの軍師を、あんなのが仕切る軍議につれていくなんて時間の無駄でしょう?」

 

「なるほど」

 

確かに納得いったが、袁紹さんをあれ扱いって。なんとまあ、今回の連合内では最大の兵力を持ってるのに…袁紹が少し可哀想に思えたな

 

???「華琳様――!! っ!? 貴様、何をしている!!」

 

そんな会話を曹操としていると背後から大きな声が聞こえてきた。その声に反応したのは隣を歩いていた曹操だった。そして殺気を向けられたのは俺。恐る恐る振り返ってみれば、大剣を振りかざした黒髪の女の子が全速力でかけて来ていた

 

???「死ねーーーーーーー!!」

 

曹操「やめなさい春蘭!!」

 

???「っ!?」

 

殺気全開で俺に迫ってきていた女の子は、曹操の一言でピタリと動きを止める。そして大剣を振り上げたままの姿で硬直している。なんか銅像みたいだな…とりあえず名前を聞くか

 

「で、この動きを止めながら殺気だけで俺を殺さんとしている人は誰?」

 

曹操「この子は夏侯惇。私の配下よ」

 

俺の質問に対して曹操はなんとも簡単に説明をしてくれた。これが未来で魏の大剣とまで呼ばれる将、夏侯惇か…というかいつまで大剣振り上げたまま固まってるつもりだ?

 

曹操「春蘭、剣を下ろしなさい。すまなかったわね北郷。さぁ、軍議に向かいましょう」

 

俺に軽く謝罪をすると曹操は何事もなかったかのように歩き出した。いや〜、そこはもうちょっと罪悪感があってもいいんじゃないか? 仮にもおたくの部下に俺斬りかかられそうになったんですよ? まぁそんなこと言うと、面倒なことになりそうだから言わないけど

 

夏侯惇「あぁ、まってくださいよ華琳様。(キッ)」

 

夏侯惇は剣をしまうと、一回俺を睨みつけて曹操の後を追って行った。俺なんか夏侯惇に睨まれるようなことしたか? むしろ俺が睨むなら分かるが

 

そんなことを考えながら俺も軍議が行われる天幕へと向かった。ほどなくして俺は軍議の行われる天幕に到着した。中には既に何人かおり袁紹、曹操、夏侯惇の姿も見えた。適当に空いている場所の中から、天幕の隅を選らんで腰を下ろす

 

知り合いなどいるはずもないので、俺はただ黙って軍議が始まるのを待っていた。こんなことなら本当に雲義を連れてくればよかった…。それにしても本当に女の子ばっかりだ。この居心地の悪さは、この場にいる男が極端に少ないというのが関係してるんだろうな〜

 

袁紹「それでは、軍議を始めさせていただきますわ」

 

そんなことを考えていた俺の意識は袁紹の言葉によって引き戻された。見ればいつの間にか天幕内にもかなりの人数が集まっていた。さてさて、一体この中の何人が呂布、張遼、華雄とかの部隊をまともに相手に出来るのかね。ま、俺たちも向こうの強さなんて知らないから、なんとも言えないんだけどね

 

袁紹「それではまず…この連合の総大将を決めたいのですが…誰か我こそはという御方はいますか? まぁ、常識で考えれば。この中では最も官位の高いこの袁本初が務めるべきでしょうが?」

 

最初俺は袁紹が何を言っているのか理解することが出来なかった。やりたいのならやればいいと素直に考えてしまったのだが…どうやら袁紹は誰かから推薦されるのを待っているらしい。この時代だ、自ら立候補して総大将をやったとしよう。この場合はこの連合軍がもし董卓軍に敗退した場合に最も非難を受けるのは、立候補して総大将になった人だろう。しかし、これが推薦されたとしたら、非難はされるだろうが自ら立候補した場合に比べれば微々たるものだろう。ようは袁紹は負けた時のことを考えて、誰かからの推薦を待っている。そして他の諸侯は火の粉を浴びないように身を屈めている…と…

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら天幕内の諸侯を見渡していると曹操と目が合った。向こうも俺と目が合ったのに気が付いたのかジッと俺の目を見てくる…まるで何かを伝えるような…

 

「あぁ、そういうこと…」

 

曹操が俺に伝えたいことは理解した。理解したが正直めんどくさい…出来ることならやりたくない…この思いよ届け!!

 

そう考えながら曹操を見つめ返すが、冷たい視線を返されついには顔を逸らされた。はい、やれと。そうですか。わかりましたよ!! やりますよ!! なんだよ、面倒ごとは他人に押し付けちゃってさ。汚ねぇんだ!! 心の中で曹操に軽く愚痴を言いながら俺は手を上げる

 

袁紹「あら? そこのあなた、何か意見でも?」

 

俺が手を上げたことに即座に反応した袁紹は、どこか期待を込めた目で俺を見てくる。あぁ、そんな目をされると悪戯をしたくなるが…さすがにこの場所では無理だよな

 

「総大将は袁紹さんでいいんじゃないか?」

 

袁紹「あら、いいことをいいますわねあなた。どなたか反対する方は居りますか?」

 

そう言いながら袁紹が周りの諸侯を見渡す。居るわけないだろうっての…さて、後は曹操の仕事だ。そう考えて俺が曹操に視線を向けると、曹操もどこか仕方がないといった表情を浮かべてゆっくりと立ち上がる

 

曹操「それじゃあ、次は洛陽までの経路の決定ね」

 

袁紹「そ、それは…」

 

???「沿道を進むしかないだろう。水関、虎牢関を突破しなくてはならないが仕方ない」

 

袁紹「そ、そうですわね。わ、私もそう―」

 

曹操「行軍の順番は」

 

???「くじでいいんじゃないか? どうせ戦いになったら変わるんだろうし」

 

曹操「そうね。ではこれで軍議は終わりでいいかしら?」

 

袁紹「ちょ、ちょっと華琳さん!?」

 

「ここから水関まではそう距離はないだろう? 今のうちに水関での戦いで関を攻める順番を決めてもいいと思うが?」

 

曹操「北郷が一番手でもいいわよ?」

 

袁紹「あら華琳さん。私と同じことを―」

 

「冗談はよしてくれ。俺たちの兵力は五千だぞ? そんなんで関攻略なんて敵が野戦に出てくるような馬鹿でもない限りは無理だろうな。俺たちよりも兵力が多い曹操さんこそやったらどうですか?」

 

袁紹「あの―」

 

曹操「そうね。不可能ではないけれど、ここは総大将様の顔を立てて、総大将様自らの軍に関攻略の一番手をして貰おうかしらね」

 

袁紹「へ?」

 

「それは名案だな。もしそれで突破できたなら兵士の士気はものすごく上がるだろうし。何か反対意見がある人はいるかな?」

 

俺がそう言いながら諸侯を見渡すが、特に誰も動かない。うん。皆素晴らしい心の持ち主だな

 

曹操「それでは解散しましょう。時間は無駄にはできないわ」

 

曹操の言葉と同時に諸侯たちは立ち上がって次々と天幕から出て行く。なんというか、半放心状態の袁紹には少し同情するな。というかこんなに酷い扱いを受けた総大将が過去に居たのだろうか? まぁ、俺に面倒ごとが来ない限りはいいや。袁紹が放心状態から戻ってくる前にさっさと天幕から出よう

 

〜一刀side・終〜

 

-4ページ-

連合軍・北郷軍陣内

 

 

軍議が終了して、陣に戻った一刀は、行軍の準備を進めていた。準備を始めてからしばらくすると、袁紹の伝令が訪れた。内容は行軍の順番、そして水関攻略の一番手についてであった。一刀は報告を終えて立ち去ろうとしている伝令の後ろ姿を見送ると、すぐに雲義を呼んだ

 

雲義「行軍はだいぶ後ろにまわされたな。まぁ、前に行けるとは思ってはいなかったがな」

 

一刀の話を聞いた雲義は真っ先にそう漏らす

 

雲義「それにしても水関攻めをやらされたりしないで良かったな。布陣からして俺たちも他の弱小勢力と同じように一番手をやらされると思ったんだがな。あ、でも確か一つだけ大きめの勢力があるか…こ…公…」

 

一刀「公孫?だよ。さっき言ったばっかりだろう。話聞いてなかったのか?」

 

雲義「いや、すまんすまん。どうにも抜け落ちていたようだ」

 

一刀が雲義を冷たい目で見ると、雲義は居心地悪そうに頭の後ろを掻いて誤魔化していた。そんな雲義の姿に、一刀は呆れながらも話を進める

 

一刀「たぶん俺が袁紹を総大将に推薦したから多少は気を利かせてくれたんじゃないか? と言っても推薦したのは俺の意思じゃなくて、仕方なくだけどね。他の諸侯と違って俺は風評だの気にしないし。でも軍議では袁紹が一番手をつとめることになったはずなんだけどな…」

 

雲義「どうせ無理矢理やらせようとしたんだろう? さて、無駄話はここらにしておいて劉備たちが負けてた時のことを考えよう。俺たちに出番が来ないとも限らないからな…。あ〜やだやだ、劉備が突破してくれないでござるかな? 戦いたくないでござるよ。働きたくないでござるよ。水関の守将は華雄だったな…影で猪将軍とか呼ばれてるくらいだから、篭城しないで突撃してきたりしないものか…どう思う一刀!!!」

 

一刀「水関の守りが華雄だけだったらまだしも、張遼に呂布も居るって聞くし無理じゃないか?」

 

雲義「( ´・ω・)」

 

少しの間無駄話をしていた二人であったが、適当なところで切り上げるとお互いに行軍の準備に戻った。それから丸一日後、連合軍はついに洛陽へと進軍を開始した。道中敵の襲撃も予想はされていたが、董卓軍が攻めてくることは一度も無く、特に大きな問題が起こることもなく連合軍は水関へと辿りついていた。一刀と雲義はこのことを不審に感じていた

 

 

〜一刀side・始〜

 

水関・連合軍後衛

 

「正直なところ。水関に着くまでに一度か二度は、董卓軍の襲撃を受けると思っていたんだけど…」

 

雲義「ふむ。よほどここ水関の守りと、虎牢関の守りに自信があるのか…はたまた討って出れない理由でもあるのか…」

 

俺の言葉を隣で水関をじっと見つめている雲義が代弁する。俺の考えかたがおかしいのか? 相手には天下無双と謳われている呂布や神速の張遼なんて呼ばれてる、いかにも強そうな人がいるんだぞ? 華雄だって前者二人には劣るかもしれないが、決して弱いわけじゃない。そんじょそこらの部隊なんて相手にもならないはずだ。でもこの評価は噂を聞く限りだしな…この時代の噂が無駄にスケールが大きくなって広まることも理解しているつもりだし、もしかしたら実際はそんなに強くはないのかもしれない。それでもこれだけの呼び名がつくのだからそれなりの人物のはずだ…水関にたどり着かせるまでに一度や二度戦いを仕掛ける有用さは理解できるはず。時間稼ぎに敵戦力の詳細把握、もし噂どおりの強さなら弱小勢力の一つや二つは壊滅させることだって出来たんじゃないのか? それでも出てこないとなると、それ相応の理由があるはずだ…兵糧不足? ありえなくはないが考えにくいな…この連合軍の動きはだいぶ前に察知できるはずだ…。内部分裂? これも考えにくい。董卓軍の内部で各武将の仲が悪いとか聞いたことないしな。あとは…洛陽から離れられない…とか? 何故? 董卓が極度の寂しがり屋で定期的に会いに行かないといじけるとか?

 

次の瞬間、俺の頭に某無双ゲームのぶくぶくに太った髭もじゃもじゃのおっさんが、瞳を潤ませながら上目づかいで『寂しいの』などと言ってくる図が浮いてきた

 

「うおぇ…」

 

途端に心の底から不快感が湧き上がり…気持ち悪くなってしまった

 

雲義「どうした一刀?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

そんな俺を雲義が心配そうな表情で見てくる。変な想像をして気持ち悪くなったなんて知られたら、なんて言われることか…。というかこんなことで心配してもらうのも、なんか申し訳ないな…。さて考えを戻して、洛陽から離れられない理由か…雲義にも聞いてみるか

 

「なぁ、雲義。もし水関の守りをしている将が洛陽から離れられない理由があるとしたら…何が考えられる?」

 

俺の突然の質問にも雲義は真面目に悩む。普段は不真面目なふりをしているが、根は真面目な奴なんだよな

 

雲義「実は水関から出陣しようとした際に、密かに俺が行っていた祈祷のおかげで董卓軍全体が、かつてない腹痛に襲われ―わかった。真面目に答えるからその俺の喉もとに突きつけている刀をおろしてくれ」

 

前言撤回。こいつはどこまでも不真面目だ。俺が刀をおろすと、雲義は額の汗を拭くふりをする。実際には汗なんて一滴も流れてはいないが

 

雲義「相変わらず一刀のその剣術。居合抜きと言ったか? 不思議な剣術だな。この間俺も試してみたんだがどうにも上手くいかなくてな。今度また見せてくれ、そっちの長いほうも一緒にな」

 

「かまわないけど…そもそも雲義は剣使うことないじゃないか。いつも槍かあれだろ? まぁ、いいけどさ。で、洛陽から離れられない理由は?」

 

雲義の趣味は武器を見たり触ったりすること。人の武器、特に見たこともないような珍しい武器を見たり、許可がでたなら触ることが趣味という奴だ。俺の日本刀を見たときも興味津々といった感じで、俺の日本刀の説明を熱心に聞いていた。まぁ、もう一つの武器については雲義も使ってるってことでそんなに興味を示さなかったけど…

 

雲義「ふむ…軽く考えてみたが、洛陽内にまだ汚い鼠がいるとかだろうな。鼠どもからしたら、董卓が一人で美味い餌を独り占めしているのだからな。決しておもしろくはないだろう。さぁ、真面目に答えたぞ! どうせ一刀はこの後考えるのに没頭して俺を無視するのだろうから、武器を渡せ!! 俺は俺で楽しむ!」

 

「わかった。渡すからあっちいっといで」

 

俺が二本の日本刀を雲義に渡すと、雲義はスッキプするような足取りでどこかへ行ってしまった。なんというか…病気みたいだな…。さてと、雲義の意見は中々に参考になるものだったな。鼠か…確かにそれなら武闘派はなるべく近くに置いておきたいだろうな…。詳しいところを確認したいが情報がない。もどかしいね〜

 

そこで俺は考えるのをやめた。これ以上考えても収穫はないだろうからな。それよりも水関攻めはいつ始めるんだ? 今日はそれなりな距離を行軍したから、疲れもあるだろう。まぁ、明日攻めることになるだろう。俺たちは相変わらず後ろだから…兵士達はゆっくり休んで貰うかな

 

兵士「北郷将軍。総大将から伝令が来まして、『水関攻めは明日早朝から。攻める順番に変更はなし』とのことです」

 

「わかった。ありがとう。今日はもうやること少ないだろうから適当なところで切り上げて、明日に備えてゆっくり休むように。飯もいつもより少しだけ豪勢にするように、戦の前の景気付けってことで」

 

兵士「はい!!」

 

兵士はなんとも元気な声で返事をすると、足早に目の前から去っていった。いつもながら態度が段違いだこと…

 

 

〜一刀side・終〜

 

-5ページ-

一刀「暇だ…」

 

雲義「うむ…暇だ」

 

一刀「あ、追加の兵糧を」

 

雲義「さっき送ったばかりだろうに」

 

一刀「きっと伝令の一つや二つ」

 

雲義「俺たちの担当じゃないな」

 

一刀「………」

 

雲義「………」

 

一刀「平和だね〜」

 

雲義「………」

 

一刀「ごめんて〜」

 

水関の戦いにおいて後衛を担当している一刀たちの軍は、あまりにもやることが少なく暇を持て余していた。というのも、董卓軍は何を考えたのか華雄の部隊のみで連合軍に突撃をしかけてきたのである。そして、その後を追うかのように張遼隊、呂布隊が出陣。華雄隊と合流すると、瞬く間に虎牢関へと退いていったのである。そのおかげで水関の守りは崩壊。今は水関内に残っている董卓軍の掃討に移っている。予想よりも遥かに早く決着がついたこの戦。兵糧を前衛に運ぶのが仕事であった一刀たちは、あっという間に仕事がなくなったのである

 

一刀「でもさ、おかしくない? もうちょっと俺たちに仕事があってもいいんじゃない? なんでこんなに仕事ないのさ」

 

雲義「俺たちに仕事が来ないのも当然だろう。ここには有力勢力に知って欲しい、覚えて欲しいと思っている弱小勢力がわんさか居るからな」

 

雲義の言葉を聞いた一刀は手を合わせると、どこか納得のいったような表情を浮かべる。そして、肩をガックリと落とすと大きなため息をついた。一秒ほど俯いていた一刀であったが、顔を上げると自分の頬を軽く叩いて気持ちを切り替えた

 

一刀「水関を特に大きな被害もなく突破できたのは収穫だよな。これで虎牢関の攻略が大分楽になるはずだ。兵糧も兵数も士気も十分ときた…不安要素と言えば」

 

雲義「呂布隊の異常な強さだな。張遼隊と華雄隊も十二分に強いが、呂布個人と部隊の能力はどちらの隊をも凌ぐ強さだ…正直あの部隊には真正面からぶつかろうとは思わん。なんらかの策を練りたいところだが、地形的に無理だな。地の利も相手にある。となると、圧倒的な兵数差をもってそれなりの被害を覚悟した包囲殲滅を狙うしかなさそうだが…それができるのは袁紹軍ぐらいだろう。ただ如何せん、袁紹軍の兵は弱い。呂布の隊とぶつかれば瞬く間に士気が下がり瓦解するだろうな」

 

雲義の袁紹軍に対する容赦のない評価に一刀が苦笑を浮かべていると、そこに一人の兵士が近寄ってくる

 

兵士「先ほど袁紹軍より伝令が来ました。本陣の天幕にて虎牢関攻めに関する軍議を行うので、至急向かうようにとのことです」

 

兵士に一刀が返事をすると、兵士は一礼して二人の前から去って行く

 

一刀「随分と急ぐな。俺たちは特にやることないからいいけど、前衛にいた軍は負傷兵の運搬とかで忙しいだろうに。雲義は今回どうする? 着いてくる? それともここに残る?」

 

雲義「俺は母親に、いいえとしっかり言えるような人間になりなさいと言われながら育った人間でな」

 

一刀「ずいぶんと素敵な母親だな」

 

雲義「そうだろう。さぁ、安心して行ってくるがよい!!」

 

『ガシッ』

 

そんな効果音がなりそうな勢いで一刀は雲義の腕を掴むとそのまま歩き出す。対する雲義は、完全に身体から力を抜いて反抗を示す。しかし、一刀はそんなことなど気にもせずズルズルと引きずっていく

 

雲義「いやだ〜。働きたくないでござる〜」

 

一刀「いいから素直に歩きなさい」

 

その図はまるで駄々をこねる息子を引きずる母親のようであった。そんな姿に一刀の兵士たちは、戦場以外での雲義の情けなさに呆れたように一斉にため息を吐くのであった

 

雲義「一刀はほんと強引だな。というか自分で言うのもなんだが、俺を簡単に引きずるとかどんな筋力してるんだ」

 

結局天幕にたどり着くまで雲義が自分で歩くことはなく、天幕についた今も若干いじけていた。そんな雲義に一刀も慣れたのか、雲義の愚痴を右から左に聞き流していた

 

しばらくすると軍議が始まった。虎牢関攻めの順番で一悶着あるかと一刀は予想していたが、意外なことに袁紹と袁術が虎牢関攻めの一番手に立候補したので、特になにも起こらずにその後の順番も決まり軍議は終了した

 

一刀「水関攻めが上手くいったから油断してるんだろうな…不安しかないな」

 

雲義「まったくだ。まぁ、初日に董卓軍が討って出てこないことを祈ろうじゃないか」

 

そう言いながら二人は空を見上げて……そっと祈りを捧げた。そんな二人の祈りが通じたのか、董卓軍が討って出てくることはなかった。もちろん、袁紹と袁術は虎牢関に攻撃を仕掛けるが、難攻不落と呼ばれる虎牢関を前に手も足もでずに無駄に被害を増やすだけなのであった。そして、袁紹と袁術はとくに活躍することをなく順番が次にまわり、今度は曹操軍と劉備軍などの弱小勢力が虎牢関攻略に挑むこととなった。そして、弱小勢力の中には一刀たちの軍も含まれていた…

 

-6ページ-

 

〜凪side・始〜

 

連合軍・曹操軍陣内

 

「北郷軍に向かい、虎牢関の戦いにおいてこちらの軍を、援護してもらうように頼めばいいのですね」

 

私が華琳様の命を復唱すると、目の前の華琳様は満足そうな笑顔で頷いた

 

北郷か…以前黄巾賊本隊との戦いで私と真桜、沙和の三人を一蹴した男。華琳様が一目置く存在。戦場でのことを気にしてはいない。ただ純粋に私達が弱く、北郷が強かった…だから私たちは負けた…。それに負けたのはこれが初めてじゃない。春蘭様にも手合わせでは勝てたことがない…なのにどうして…どうしてこんなにも北郷のことが気になるのだろう…

 

「会ってみればわかるか…」

 

そう一人呟くと私は北郷軍が陣を構える場所へと向かった。道中、陣内で絡繰をいじる真桜と自分の髪をいじっている沙和を見つけた。両方ともやるべきことはやってるだろうからいいが…私としてはもう少し緊張感を持って欲しい…無理か…

 

 

連合軍・北郷軍陣内

 

北郷軍の陣に着いた私は門番をしている兵士に声を掛けた。するとその兵士はすぐに陣内へと駆け出し、一人の大男と一緒に戻ってきた。その大男は私を見下しながら

 

大男「曹操軍ともあろう大勢力が、このような弱小勢力にいかような御用で?」

 

微妙に言葉に棘がある気がするな…それにここまで堂々と見下されるのは、あまりいい気はしないな。私が小さいのだからどうしようもないのだが…。なによりこの表情…真桜や沙和が私をいじるときの表情だ…

 

北郷「雲義。あまり他所の人にそういうことをやるな。面倒なことになってもお前ひとりで全部片付けさせるぞ」

 

大男「何を言う一刀。これは一刀の国でいう…す、すき」

 

北郷「スキンシップな」

 

大男「そうそう。そのすきんしっぷ。というやつだ」

 

私が大男にどう反応したものかと悩んでいると、大男の後方から目的の人物がやってきた。そうか、北郷の真名は一刀というのか…雲義というのはこの大男の真名だろうな。名はなんと言うのだろう。見たところこの大男もかなり強いと思うのだが

 

北郷「え〜っと。君は曹操軍からの使者なんだよね? 天和たちを預けたときにも曹操さんの側に居たよね? 俺は北郷、こっちは張翼。君の名前は?」

 

「姓は楽。名は進。字は文謙と申します」

 

北郷「楽進さんね。で、どんな用件で俺たちのところに来たんだ?」

 

簡単に自己紹介を済ますと北郷は、さっさと話を進めようとする。北郷は黄巾賊本隊との戦いで私と戦ったことを覚えてはいないのだろうか。……確かにあれを戦ったと言っていいのかは分からないが…。余計なことを考えるのはやめよう…

 

「虎牢関の戦いで曹操軍を援護していただきたい」

 

私は華琳様に言われたとおり、無駄な言葉は省き必要最低限の言葉で北郷に用件を伝えた。華琳様は北郷は素直にこちらの要請を受けると言っていたが、本当だろうか? 私にはこの要請に北郷たちが応えて、どのような得があるのかがわからない。きっと華琳様には私の見えていない何かが見えているのだろう

 

北郷「う〜ん。わかった。曹操さんには了解したと伝えてくれ。ただし俺たちは本来、後衛担当だからあまり多くの兵力は連れて行けないぞとも伝えておいてくれ」

 

「わかりました。確かに伝えます。それでは」

 

これ以上ここに居る必要もない。さっさと華琳様のところに戻って北郷の言葉を伝えるとしよう。そう考えて私は北郷たちに背を向けて歩き出した

 

 

〜凪side・終〜

 

-7ページ-

翌日の早朝、虎牢関前には曹操軍、北郷軍を含む複数の勢力が部隊を展開していた。一刀たちが曹操の援軍として動かした兵は2千の槍兵であった。将は一刀と雲義の二人のみ。それでも曹操は文句の一つも言わずに二人を歓迎した

 

 

虎牢関・城壁上

 

張遼「なんやあの部隊…旗も揚げとらんし…なんや嫌な予感がするな」

 

一刀の部隊を睨みながらそう呟いたのは、ここ虎牢関内でのまとめ役。そして華雄の歯止め役を務めている張遼であった。その隣で堂々と腕を組みながら張遼と同じように一刀の部隊を睨んでいる華雄は

 

華雄「ふん。あのような部隊私の武勇ですぐに―」

 

陳宮「水関での一件を忘れたとは言わせませんぞー」

 

華雄「むむむ…」

 

張遼「なにがむむむや!!」

 

華雄のさらに隣で台の上に立って城壁の外を見ていた陳宮の言葉に、華雄がついうなり声を上げると、すかさず張遼の突っ込みが入った。そして…

 

呂布「すー、すー…」

 

呂布は三人の会話なんてまったく気にもせず、陳宮の隣で地面に寝転がり安らかに寝息をたてていた

 

張遼「ま、袁紹の時と同じようにすればええ。言っとくけどかゆっち…出陣なんぞ許さへんで」

 

華雄「わ、わかっておる」

 

張遼の言葉に少し動揺する華雄であったが、頭を大きく縦に振る。そんなことをしていると、一刀の部隊から二人が虎牢関の前までやってくる

 

張遼「(また挑発でもするんかいな。はぁ…華雄を抑えるこっちの身にもなって…て、それは無理か)」

 

などと無駄なことを考えながら張遼はチラリと横目で華雄を見る。すると華雄は驚いたように口をポカーンと開けたまま正面を見ていた

 

張遼「(なんや? 何かあの二人がやったんかいな?)」

 

華雄の視線を辿るようにして、視線を動かすとそこには

 

張遼「あれは…酒盛り?」

 

男二人、一刀と雲義が地面に座り酒を飲み始めていた

 

 

連合軍

 

一刀「この辺でいいかな」

 

雲義「うむ。このくらいの距離なら急に矢が飛んできても平気だろう」

 

二人はそう会話するとその場に座り込み、雲義は腰から下げていた袋から二つの器と大きな瓢箪を取り出す。一刀は片方の器を受け取ると、雲義のほうに差し出す。雲義は差し出された器にそっと酒を流し込む。器一杯まで注がれた酒を片手に今度は一刀が、雲義の器に酒を満たしていく。そして二人は酒の入った器同士を軽くぶつけると、それを一気に飲み干す

 

一刀「いやいや、それにしても静かなもんだ。戦場でこれほど静かに酒が飲める機会なんて滅多にあるもんじゃない。これも董卓軍の臆病者たちのおかげだな」

 

二人で語り合うにしては無駄に大きな声で話し出した一刀は、そう言いながらチラリと虎牢関の城壁上に居るであろう人物たちに視線を向け、すぐに自分の器に酒を注ぎなおす

 

雲義「いやまったくだ。そういえば水関での戦い。あれは酷かったな〜、勇将華雄とやらが突撃したせいで負けてたが、あれでは勇将ではなく猪よ。ただ突撃するしか脳のない」

 

雲義も一刀と同じように大きな声でそう言うと、酒を器に注ぐ

 

一刀「こらこら。それでは猪がかわいそうでじゃないか。あんな武勇もない奴を猪みたいに強いものと比べたらだめだ」

 

雲義「おぉ! たしかにそうですな」

 

二人は同時に大声で笑いだすと、一刀たちの兵士がぞろぞろと一刀と雲義の側に集まる。そして一刀たちの兵士も同じようにその場に座り込み次々と酒盛りを始めた

 

一刀「そんな奴が配下となると、董卓自身もさぞ悲しい人物なのだろうな。そういえば張遼とかいう人物も神速などと呼ばれているが。確かにあの逃げ足は神速と呼ぶにふさわしかったな」

 

兵士A「ちがいねぇ! まるで尻を叩かれた雌馬のように泣きながら逃げたんだろうな」

 

兵士B「うわわ〜。敵がそこまで来てるよ〜。逃げなくちゃ〜」

 

兵士C「ほらほら!! さっさと逃げろってんだこの雌馬が!!」

 

一刀と兵士Aの発言を聞いて兵士Bと兵士Cが即興の芝居を始める。兵士Bがなんとも情けない声を出しながら、大げさな動きで逃げ。兵士Cはそんな兵士Bの尻を叩きながら追いかけるというものであった

 

雲義「雌馬といえば今は繁殖期。虎牢関から出てこないのも、繁殖で忙しいからかもしれないの」

 

雲義はそう言うと、会心のドヤ顔をする。それと同時に兵士たちが大声で笑い。どんどん酒を飲んでいく

 

-8ページ-

虎牢関・城壁上

 

あまりの出来事に張遼は絶句していたが、我を取り戻すと胸の底から湧き上がる怒りを必死に抑える。今すぐにでも出陣して一刀たちの頸を斬りおとして、喋れなくしてやりたいと思う気持ちもなにもかもを全て飲み込もうとしていた。そこでふと、張遼は大事なことを思い出した。自分なんかよりもはるかに我慢ができない人物がいることに…

 

張遼「(めっちゃ見たくないわ〜)」

 

そんなことを考えながら恐る恐る横を見ると、そこには怒りのオーラ全開で得物を手が白くなるほど強く握り締めている華雄の姿があった。そしてその姿をみた張遼は思わず眉間をおさえる。張遼は知っていた、こうなった華雄は何を言っても無駄だということを…それに

 

張遼「(さすがのウチもこれは我慢できんで…)」

 

ゆらりと動く華雄の後に続くように張遼も動く。咄嗟に華雄を止めようと動いた陳宮は張遼まで、出陣しようとしていることに驚くも、二人を必死に止めようと二人の腕を引っ張るが、その小さい体がズルズルと引きずられて行くだけであった。そして呂布は三人の後をトコトコと着いて行った

 

 

連合軍

 

一刀「動いたと思う?」

 

雲義「たぶんな。城壁上の旗が下りてる。さて、さっさと曹操と合流するぞ。さすがに三部隊を相手にする気ほど馬鹿じゃない」

 

雲義の言葉に兵士たちが頷きながら立ち上がると、酒盛りに使っていた器などはその場に置きっぱなしでさっさと動ける準備をする。そして、準備が完了すると一刀たちはさっさと後退して曹操軍と合流した

 

一刀たちが曹操と合流するころに、虎牢関の門が開き張遼、華雄、呂布の部隊が出てきた

 

一刀「先頭が張遼、間に華雄で最後尾が呂布ね。張遼は曹操に任せて、華雄は後方の孫策や劉備に流して…呂布は俺たちが相手する。これが妥当かな」

 

雲義「だろうな。張遼に関しては俺たちの前にいる夏侯惇の部隊がどうにかしてくれるんとのことだ。俺たちはいかに被害を少なく華雄の隊を後方に逸らして、呂布とぶつかるかが問題だ。それと夏侯淵、典韋、楽進の三人が兵士をつれて援護に来るそうだ」

 

一刀「なんとも嬉しいね。他に何か動きは?」

 

雲義「劉備軍の張飛隊の動きが少々おかしい。介入してくる可能性がある。それと袁紹軍もだ。おそらく文醜あたりが出てくるだろうな」

 

一刀「了解。それじゃあ行きましょうか」

 

二人は会話をやめると、自軍に迫ってくる華雄隊を睨みつける。夏侯惇隊はすでに張遼隊と一緒に横にずれていた

 

雲義「全軍前へ!!敵の突撃力を生かして後方に逸らす。華雄隊の相手は後方の味方に任せる。俺たちの本命は呂布隊だ。無駄に死んでくれるなよ」

 

一刀「さてと、俺は囮役に行ってくる」

 

それだけ言うと一刀は一人前に進み出て大声で

 

一刀「猪将軍こと華雄はどこにいる? ちゃんと戦場に出てきているのか?」

 

そう叫んだ

 

華雄「貴様――――――――!!!」

 

一刀を視界に入れた華雄は何もためらうことなく一刀に迫る。そして一刀も何も躊躇うことなく背を向けると、華雄を挑発しながら全速力で駆け出した。華雄の後に続いていく部隊は一刀たちの隊が作った道を綺麗に辿り、劉備軍、孫策軍の前へと辿りついていた。そのころには、華雄は一刀の姿を見失っており、迫り来る劉備軍と孫策軍の相手を余儀なくされた

 

一刀が雲義と合流するころには、呂布、夏侯淵、楽進、典韋、張飛、周泰、文醜の部隊が入り乱れる乱戦状態になっていた。下手をしたら連合軍の仲間同士で斬りあいかねないような状況に、一刀は舌打ちをしながら雲義の姿を探し、側へと駆け寄った

 

一刀「今どんな状況?」

 

雲義「見ての通りだ。曹操軍だけなら事前に話をしていたから、連携が取れていたのだが、劉備軍と袁紹軍が余計なことをしてくれてな。それと孫策の部下の周泰まで出てきてるぞ」

 

一刀の方を見ていたのも一瞬。雲義はすぐに視線を戦場へと戻して大声で近くの兵達の指揮をとっていた

 

一刀「劉備と孫策が入ってきたのは雲義には悪いけど好都合だよ。これで華雄を押し付けた言い訳が出来る。んで、肝心の呂布は?」

 

雲義「あそこだ。まさしく化け物と言ったところだな。あの6人相手に余裕を見せてる」

 

雲義が指差す方向を一刀が見ると、そこでは夏侯淵、楽進、典韋、張飛、周泰、文醜を相手に互角以上の戦いを見せている呂布の姿があった

 

一刀「あれ本当におなじ人間かよ」

 

雲義「一刀に関しては人のことは言えないだろうに。お前もあのくらいは出来るだろう。で、どうするつもりだ? あの6人でも足止めにはなるだろうが、いつ突破されてもおかしくはない」

 

一刀「もちろん俺も行くさ。雲義はどうする?」

 

腰の二本の日本刀に手を添えながら雲義にそう答えた一刀は、雲義にした質問の答えを聞く前に一人で呂布のところへと歩き出した

 

雲義「あれだけの強者と戦いたいと思うのは武人として当然だろうに」

 

頭の後ろをガリガリと掻きながら一人そう呟いた雲義も、自身の身長と同じくらいの大きさの鉄傘を肩に担ぐと一刀の後を追うように歩き出した

 

 

 

呂布を囲むようにして6人の将がそれぞれ肩で息をする中、呂布は『方天画戟』を手に悠然と立っていた

 

呂布「お前たち……弱い」

 

呂布の一言に6人それぞれが悔しさを顔に露にするが、事実6人は一撃も呂布に入れることが出来ていない。6人同時に挑んだにも関わらずだ

 

一刀「ずいぶんな言われようだね〜」

 

雲義「この6人が弱いのではなく呂布が強すぎるだけだと思うがな」

 

呂布の言葉に6人が無言のままでいると、夏侯淵の後ろからのんきに歩きながらやってきた一刀と雲義がそう呂布に言った

 

夏侯淵「北郷か。ずいぶんと遅かったではないか」

 

一刀「いやいや。華雄の部隊を誘導しててね。それにしても…やっぱり呂布さんは強いみたいだね」

 

夏侯淵「あぁ。恥ずかしい話まったく勝てそうにない」

 

肩で息をしながら苦笑を浮かべながら夏侯淵は一刀に答える。他の5人の将には一刀と夏侯淵の会話は聞こえてないのか、じっと呂布を睨んだまま固まっていた

 

一刀「そっか。とりあえず俺たちが相手してるから休んでてよ。準備はいい雲義?」

 

雲義「いつでもいけるぞ。俺が最初に仕掛けるから追撃は頼む」

 

一刀が雲義の言葉に頷き返すと、雲義は鉄傘を担ぎなおし呂布目掛けて走りだした。対する呂布も腰をおとして雲義を待ち構えた

 

雲義「ふん!」

 

気合を入れる言葉と共に鉄傘を思い切り振り下ろす雲義。呂布はその一撃を後ろに下がって避けると横に薙ぎ払うように戟をふる。しかし、その一撃は広げられた傘布の部分によって止められた。そのことに呂布が驚いていると、鉄傘の中心。石突の部分が呂布目掛けて飛び出す

 

呂布「ぐっ…」

 

驚いていたことにより反応が遅れた呂布であったが、直撃の際に自分から後ろに飛んでいたおかげで最小限のダメージですんでいた

 

一刀「……ふぅ」

 

しかし、呂布が飛んだ先には既に一刀が腰をおとし呂布が間合いに入ってくるのを待っていた。そして呂布が間合いに入ると同時に一刀は鞘から刀を抜き放つ。呂布は、背後に一刀がいるのを気配で察知したために、戟を地面に突き立ててそれを支えにして力任せに身体を上へと持ち上げて、後ろに飛ぶ勢いはそのままに、一刀の後方へと着地した。それによって一刀の刀は避けたはずだったが、呂布の身体には幾つかの浅い切り傷が出来ていた。張飛や周泰などの将は、自分達が6人がかりで傷一つ付けられなかった呂布に、決定打になってはいないものの傷を負わせた一刀と雲義の強さに無意識のうちに唾を飲んでいた

 

雲義「今のを避けるのか……。いやはや、本当に化け物じみた動きをするな。さすがに決まったと思っていたのだがな」

 

そんな無駄口を叩きながらも、雲義は鉄傘を閉じると鉄傘の骨の部分から細長い小剣をとりだし呂布に二本投げつける。その小剣の後部は輪状になっており、細い紐が括り付けられていた。雲義が投げた小剣を呂布は真横に動いて避けて、鉄傘を閉じた雲義との距離を詰めるために駆け出した

 

雲義「甘いわ!!」

 

呂布の動きに嬉しそうな笑顔を向けながら雲義がそう叫ぶと同時に、呂布の横を通り過ぎそうになっていた二本の小剣が、クイッと軌道を変えて呂布の後を追うように動く

 

呂布「!? …んっ」

 

急に軌道を変えた小剣に驚きつつも、呂布は駆け出した足を止めることなくそれを冷静に戟で弾き落とすと、さらに速度を上げて雲義へと迫った。そのあまりの速さに雲義の表情が驚愕に染まる。雲義は慌てながらも鉄傘を構える

 

『ガキン』

 

金属同士がぶつかり合う音が辺りに響く。呂布の右下からの振り上げるような一撃を、雲義はしっかりと受け止めていたがその足は徐々に後方に動いていた

 

雲義「お? おおお!?」

 

雲義が変な声を上げたかと思うと、雲義の足が地面から離れ武器を押し込まれるかたちで後方へと飛ばされる。そのまま呂布は追撃を仕掛けようとしたが

 

一刀「だめだめ。今呂布は二人相手にしてるんだから」

 

駆け出そうとした呂布と宙に浮いている雲義の間に割り込むように一刀が姿を現す。その右手には刃長三尺三寸の野太刀『備前長船長光』が握られており、神速の一撃が呂布の頸を狙った。呂布はその一撃を身体を無理矢理後ろに反らすことで避けると、戟を横に薙ぎながら後ろに飛んで距離をとる

 

雲義「ずいぶんと嫌われてるな一刀」

 

雲義は一刀をからかいながら、呂布の一撃を受け止めて痺れた手をプラプラさせながら一刀の隣に並ぶ

 

一刀「そういう雲義は好かれてるね。秘訣は?」

 

雲義の言葉を軽く流しながら一刀がそう雲義に尋ねると、雲義は自分の顎鬚をこすりながら

 

雲義「やはりこの俺の美貌ゆえだろうな」

 

そう言って雲義は一刀にドヤ顔を向けるが

 

一刀「そういう台詞はその無精髭を剃ってから言ってくれ。この間なんか迷子の子に声をかけただけで泣かれたじゃないか」

 

雲義「あの子は心細い思いをしていたところに、俺という頼れる存在が現れた安堵感からないただけであってだな」

 

一刀「その子は俺に『助けてお兄ちゃん。変なおじさんに食べられちゃう』とか雲義を指差しながら言ってきたがな」

 

雲義「むむむ…」

 

呂布「お前達、変……」

 

戦場に似合わないやり取りを二人がしていると、不意に呂布がそんなことを呟いた。呂布からそんなことを言われるとは思わなかったのか、二人は顔を見合わせると同時に噴出す

 

一刀「まさか戦ってる相手に変と言われるとは。これは雲義のせいだな」

 

雲義「俺一人のせいではないと思うが。無駄話もここら辺にしておくか」

 

雲義はそう言うと予備動作もなく呂布目掛けて駆け出し、鉄傘を突き出す。突き出された鉄傘に合わせるように呂布が突き出した戟が、鉄傘の石突にぶつかると同時にまた鉄傘が開く。それにより呂布の視界のほとんどが開かれた鉄傘が埋める。呂布は雲義から離れて視界を確保しようとしたが、呂布が離れるよりも先に雲義の鉄傘が横にどく。鉄傘がどいた先には一刀がすでに野太刀を振り下ろしており、呂布はそれを戟を横にして受け止める。そのまま呂布と一刀は鍔迫り合いをするが、呂布が徐々に力負けして膝が曲がり地面につく。そこへ…

 

雲義「必殺、墓零襲斗―!!」

 

変な叫び声と共に雲義が呂布の胴目掛けて中段蹴りを放つ。巨木のような太い足はそのまま呂布の胴に直撃して後方へと吹き飛ばす。呂布は地面を転がりながら徐々に勢いを殺して、腹部を押さえながらも素早く立ち上がる。そんな呂布に隙を与えないように雲義は、鉄傘の骨から三本小剣を取り出して呂布に投げる。その後を追うように一刀も両手で持っていた野太刀を片手に持ち替えて、呂布に詰め寄る

 

呂布「くぅ……」

 

雲義の小剣は叩き落した後に大きく横に跳んで一刀の攻撃を避けようとした呂布だったが、今度は見えない攻撃だけでなく野太刀を避けることもできずに、太ももと右肩に深めの傷を負うことになった

 

-9ページ-

〜凪side・始〜

 

私は呂布と北郷、張翼の三人が戦いはじめてからずっと北郷のことを目で追っていた。北郷の剣筋はたまに見えないときがあるが、ほとんど見えているつもりだ。そして、そのほとんどが呂布に当たっていない…にも関わらず呂布の身体にはさっきから切り傷が増え続けている。呂布は相変わらずの無表情なので北郷が何をしてきているのか理解しているのかどうかわからないな

 

それにあの張翼という男がさっきから投げているあの小剣。呂布を追うように勝手に動いているが、恐らく括りつけられている紐を通して氣で操っているのだろう。氣の扱いは私よりも上手い

 

秋蘭「凪。北郷の攻撃が見えるか」

 

視線は三人に向けたまま私の隣に来ていた秋蘭様にそう訊ねられたのに対して私は首を横に振る。正直なところ秋蘭様は弓使いということもあり目が良いので秋蘭様なら言えているのではと、期待をしていたが…秋蘭様ですら見えないとなると…

 

秋蘭「そうか。さきほどから北郷の周りでなにかが光を反射しているように見えるのだがな。光が反射してるのは見えても、反射している物がなんなのかがわからないんだ」

 

「それが見えるだけでも秋蘭様はすごいです。私にはその反射すら見えません」

 

秋蘭様と会話をしていると、呂布と北郷、張翼が距離をおいた。それと同時に呂布と二人の間に無数の矢が降り注ぎ始めた

 

???「恋殿―――!! 虎牢関はもうもちませぬぞ。ここは撤退しましょう」

 

そしてどこか幼さが残る声をした少女が呂布の側へと駆け寄り、二人は何か会話をした後に撤退していった。北郷と張翼は追う気がなにのか、ただそれを眺めているだけで動こうとはしなかった

 

秋蘭「どうやら、終わったようだな」

 

そう呟いた秋蘭様の視線の先には連合軍の各諸侯の旗が揚がっている虎牢関の姿があった。すでに董卓軍の兵士の姿も少なくなっていた

 

秋蘭「華琳様のところに戻るとしよう。姉者が上手くやったかも気になるしな」

 

「はい」

 

その後、華琳様のところに戻ると、春蘭様が目を負傷なされたという報告を聞いた。秋蘭様はとても慌てていたが命に別状はないと知ると少し落ち着いたようで、春蘭様が休んでいる天幕へと一人向かっていった。私も着いて行こうかとも考えたが、今は華琳様と春蘭様、秋蘭様の三人にしたほうがよいだろうと考え、私はあとで春蘭様のところへ行くことにした

 

 

〜凪side・終〜

 

-10ページ-

雲義「ふぅ、終わったな……」

 

地面に鉄傘を突きたて、その上に両手を重ねるようにのせて、さらにその上に顎をのせリラックスした状態で自らの疲れを表すような溜め息を吐くと、雲義はそう呟いた。隣に立っていた一刀は野太刀と刀についた血を懐から取り出した布でふき取り、その布をその辺に捨てながら頷き返す

 

一刀「そうだね。呂布隊は半数まで兵士の数を減らして敗走。華雄隊は全滅…華雄自身が捕縛されたって話は聞いてないけど、もう戦力にはならないだろうな。洛陽でおとなしく降伏するか…徹底抗戦か…。予想は?」

 

雲義「降伏だろうな。もっとも董卓は、素直に降伏したところで死罪だろうがな。ところで一刀、もう諸侯の見極めは終わったのか?」

 

雲義の質問に対して一刀は野太刀を鞘にしまい、両手を大袈裟にあげて首を左右に振りながら苦笑を漏らす

 

一刀「それはもう少し後になるかな。といっても二、三勢力には絞り込めてるんだけどね。雲義はどうするつもり?」

 

雲義「もう大分前に決まっているが、教えるのは一刀がどこの勢力に仕えるか決まってからだな」

 

そう答えると雲義は鉄傘を持ち上げて肩に担ぐと一人歩き出した。そんな雲義を見ながら、一刀は服についた砂埃を払い落とすと後に続くように歩き出した

 

戦いが終わるころには日が落ちて辺りが暗くなり始めていたので、連合軍が洛陽に進軍することはなかった。その夜、一刀たちの陣に来訪者があった

 

 

 

〜一刀side・始〜

 

連合軍・北郷陣内

 

兵士「劉備と孫策という者が訊ねてきておりますが…いかがなさいますか?」

 

兵士のその報告は少し眠くなっていた俺の脳内を覚醒させてくれた。やっぱり来たか、用件は恐らく華雄隊を逸らしたこと。しかし、劉備も孫策も前線に介入してきた件についてはどうするつもりだ? まぁ…その辺も含めて色々話し合ってみましょうか

 

「こちらから出向こう。準備が出来たら向かうから失礼のないようにその場で待たせておいてくれ」

 

俺はそれだけ言うと天幕の中に入り、『備前長船長光』と『村雨』を腰に下げ、長さ十メートルの単分子ワイヤーを中に仕込んである指輪を五つを左手につけて俺は劉備、孫策が待つであろう場所に向かった

 

 

 

陣の入り口付近まで歩いていくの、入り口の向こう側に緑と白色をメインにした服を着ている女の子を先頭に二人が後ろに付くように立ち、その隣に真っ赤な服を着た女性を先頭に、こちらも後ろに二人。計6人が待っていた。先頭の二人が劉備と孫策として、後ろの人たちは誰かな? とりあえずこっちから名乗っておくか。そう考えた俺は6人の前までたどり着くと、先頭の二人を軽く一瞥した後に

 

「この軍の総大将をやってる北郷です。このような夜更けにどのような御用でしょうか 劉備さんに孫策さん?」

 

そう二人に尋ねた。ふむ、まずは名前を伺って置けばよかった。さて、どっちが俺の質問に答えてくれるのかね。そんなことを考えていた俺だったが答えは予想外の人が答えてくれた

 

???「今回こちらの陣をお伺いしたのは、先の虎牢関の戦いで華雄隊をこちらに逸らしたことについてです」

 

そう答えてくれたのは、まだまだ小さく、こんな所にいるのが不自然にしか感じられないような少女であった。そういえば張飛もこんくらいの少女だったよな…だとするとこの娘も侮れないな…

 

「すみませんが…名前は?」

 

諸葛亮「あわわ。しょ、諸葛亮でしゅ」

 

劉備「あ、私が劉備です」

 

関羽「関羽だ」

 

孫策「知ってるみたいだけど私が孫策よ」

 

周瑜「周瑜だ。呉の軍師をしている」

 

甘寧「甘寧だ……」

 

何を緊張しているのかが分からないけど、諸葛亮はものすごい噛み方をしていた。そして、その後に続くようにぞろぞろと自己紹介してくれる。これは助かった…聞くのは面倒くさかったからな

 

「あぁ。そんなことですか。いやいや、あれは逸らしてたのではなく逸れてしまったのですよ。華雄隊の突撃力がすごくてね…右側の部隊が押されて軍が自然と傾くような陣形になってしまってね。伝令でも送れれば良かったかもしれないが、その後すぐに呂布隊が迫って来てましたし…」

 

俺が諸葛亮の質問に対して白々しく答えると、劉備の右後ろに立っていた関羽が明らかに機嫌を悪くしながら

 

関羽「何が自然にだ。あれは明らかにこちらに逸らそうとしての動きだっただろう!!」

 

そう食って掛かってきた。俺はそんな関羽のことなど見ることもなく、諸葛亮と周瑜の二人の表情を見る。二人は俺の答えにとくに反応を示しはしない。ということはこの答え方も、この後の流れも予想してるかな…だとしたら本命はなにかな? 無駄な時間を浪費するのが好きなようには見えないけど

 

「言いがかりはやめてほしいですね関羽さん。私たちが故意に逸らしたという証拠なんてどこにもないというのに。むしろ先の戦いに関してはこちらも言いたいことがありましてね。そちらの軍の張飛さんと周泰さん…呂布隊と私達の隊、そして曹操軍が戦っているところに介入してきましたよね? それについてどういった言葉がいただけるのか聞きたいところなのですが?」

 

俺がそう答えると関羽は勢いをなくしてそのまま押し黙る。そして次に口を開いたのは周瑜

 

周瑜「あの時は華雄隊にそちらの軍が苦戦しているようだったのでな。急遽援軍を送らせてもらった。伝令でも出せればよかったがそんな悠長なことを言ってもいられないだろうと判断してな」

 

「なるほど。しかし事前に曹操軍がこちらの援護に動いていたのは見えていたのでは?」

 

周瑜「すまんが多数の部隊が入り乱れていたせいで、こちらから曹操軍の動きは確認できなくてな」

 

なるほどなるほど。もっともな理由に聞こえるな。まぁ、これ以上何か言っても軽く流されそうだし、それどころか下手なこと言えば揚げ足をとられかねないな。軽くおちょくって終わりにするか

 

「いやはや、江東で名を馳せている孫策ともあろうお方の軍があの程度の乱戦で、部隊の動きを見失うなど…『江東の麒麟児』などという二つ名は少々大袈裟なのでは…?」

 

さてさて、これにどう動いてくるかな?

 

孫策「黙れ下郎! 我は江東の建国した孫呉の王―」

 

一刀「まさか王様とかぬかさないよね? 今は袁術に領地を奪われているだろう。領地のない王は王にあらず。袁術に飼われている豪族の一つに過ぎない。過去の栄光をいつまでもかざしてる姿は涙を誘うぞ」

 

甘寧「貴様!!」

 

俺の言葉に腹を立てた甘寧が剣に手をかける。遅いな…俺はこの言い争いが始まった瞬間に戦闘準備を終えてるんだよ

 

身体中に氣を巡らせて身体能力を強化していた俺は、脚に力を入れて勢いよく駆け出す。俺が急に動き出したことに反応して、孫策、関羽の二人が武器に手をかけようとするが、その手が武器にたどり着くよりも早く俺は甘寧の背後に回りこむ

 

甘寧「なっ!? ぐぅ…」

 

俺が甘寧の背後に回りこむとほぼ同時に甘寧が武器を抜く。逆手持ちか…。それだけ考えると俺は剣を逆手に持っている甘寧の右手を右手で掴み捻りあげる。そして左手は首をしっかりと掴みそのまま力を入れる

 

「全員下手に動くな…。弓兵が狙ってるぞ。俺は甘寧を盾にすれば平気だが…」

 

俺はそう言いながら視線で陣内を見るように促す。そこには先ほどまで普通に作業をしていた兵士たちが弓矢を構えてこちらを狙っていた。それを見た孫策は憎らしげに舌打ちをし、関羽は表情を歪める

 

「さて甘寧…他者の陣であるにも関わらず。その陣の大将を前に剣を殺気を纏いながら抜くということは…覚悟はできているのだろうな」

 

甘寧「………」

 

無言か……まぁそれでもいいけどさ。俺は甘寧を掴んでいた両手を離す。開放された甘寧は剣を地面に落として膝をつく。そんな甘寧を見下しながら俺は今度はゆっくりと6人の間を歩いて自分がもといた位置に戻る。そして、振り返ると6人の奥に見知った顔がこちらに向かってくるのが見えた

 

曹操「ずいぶんと楽しそうなことをしているのね、北郷」

 

「曹操さんか。おもしろくもなんともないよ…ちょっとした世間話をしていただけさ」

 

俺が両手を肩まであげながら首を軽く左右に振りながら苦笑を浮かべると、曹操はクスリと笑った

 

曹操「そう? 他勢力の武将の首を背後から締め上げてる状況が、ちょっとした世間話なのかしら?」

 

「どうだろうね。その辺りは孫策たちにでも聞いたら?」

 

俺はそう言って曹操から孫策たちへと視線を移す。ま、今回はこっちがあきらかに悪い気がするが…剣を抜かれたら黙ってられないものだ

 

孫策「……邪魔したわね北郷。私達はここで失礼するわ」

 

劉備「あ、私達もこれで…」

 

「そうですか。では、またいつか会う機会があれば…」

 

二人に俺がそう言うと、劉備も孫策もとくに何も言わずに背を向けて去っていった。俺の印象は最悪かな? まぁ、好かれようとも思ってないからいいけど。劉備は雰囲気からして甘さが残りすぎてる。あれを支えて仲良く行こうとは俺には考えられない。孫策はいい王だと思うが…先に曹操に出会ったのが残念だ。そんなことを考えつつ俺は改まって曹操のほうに向き直る

 

「で、今回はどんな用だ」

 

曹操「虎牢関での礼をね。おかげで張遼という優秀な将を手に入れられたわ」

 

「そうか。それはなによりだ…。用件がそれだけとは思えないが?」

 

俺の問いに曹操は無言のまま目を閉じ大きく息を吸う。そして、目を開くとそこには曹操軍の主として、未来の魏王としての覇気を纏う曹操がいた

 

曹操「私の配下になりなさい北郷。あなたの武も智も私の下でこそ発揮できるものだわ」

 

なんとも自信満々に言ってくれるな。俺が断るだなんて微塵も思っていないような表情だ。もしかして俺がどう答えるかわかっているのか? だとしたらなんか悔しいな。だが答えを変える気はない

 

「俺の真名は一刀だ。曹孟徳が覇道を歩見続ける間はそれを支えよう。ただしそれはこの戦いが終わったらの話だ。洛陽を落とすまでは俺はこのままこの軍を率いる」

 

曹操「真名は華琳よ。よろしくね一刀」

 

俺の言葉に曹操は満足そうな笑顔を浮かべると真名を俺に名乗り、そのまま背を向けて自分の陣へと戻っていった。何も言わないってことは肯定ってことでいいんだよな。準備も残ってるしさっさと戻るか

 

 

〜一刀side・終〜

 

-11ページ-

 

一刀が華琳の部下になることを決めてから数十日後、連合軍は洛陽の董卓がいるであろう城にたどりついた。洛陽の城門は全てが開かれており、不気味なほどの静けさに包まれていた。どの諸侯もそんな洛陽に警戒してなかなか動き出せない中、一刀たちは真っ先に兵を動かしていた

 

一刀「袁紹からの許可も下りた。俺たちの部隊の後ろに袁紹の軍が付いて来るらしいから…後方への警戒も怠らないようにしてくれ。じゃあ、俺は一足先に洛陽に入ってるから。それと…」

 

周囲を警戒するようにしながら小声になる一刀。そんな一刀に頷き返しながら

 

雲義「董卓と賈駆の保護だろう? わかってる。洛陽に入ったら二人の保護を最優先する。ただ、動けるのは俺と一刀の二人だけだからな…走り回って結局居ませんでしたってこともありえるからな」

 

雲義は後半には苦笑を浮かべながらもそう言った。そんな雲義に一刀は同じような苦笑を返すと

 

一刀「雲義と一緒の部隊で行動するのはこれが最後かもな。俺が曹操軍で雲義が劉備軍。次に会うときは敵として剣を交えることになるかもしれないけど、それでもお前は俺の信頼できる友人だ」

 

一刀はそう行って雲義にむけて拳を突き出す。雲義はそれにコツンと拳を合わせると

 

雲義「そうだな。俺にとってもお前は信頼できる友人だ」

 

そう言った。そして二人は同時に微笑みあうと一刀は一人洛陽へと駆け出し、雲義は後方の部隊の指揮を執りだした

 

 

 

洛陽・資料室

 

一刀「これで全部かな…。意外と多くなったな」

 

風呂敷に必要そうな情報が書かれている木簡を詰め込んだ一刀は、一人そう呟いていた。そして風呂敷を持ち上げて部屋から出ようとしたところで

 

???「あっ……」

 

一人の少女と出くわした

 

一刀「(こんなところに董卓や賈駆が来るとは思えない。まず連合軍の人間だ…そうと決まれば)あっ!! あれはなんだ!!」

 

???「え!? な、なんですか!!」

 

少女の方も予想外の出来事に思考が停止していたのか、一刀の子供騙しのような行動に簡単にのってしまう

 

一刀「今だ!!」

 

その一瞬の隙をついて一刀は少女の脇をすり抜けて、脱兎のごとくその場をあとにした

 

 

 

洛陽・中庭

 

資料の確保を終えた一刀は、董卓と賈駆の捜索をしていた。城内はほとんど調べて、残っているのは中庭のみとなっていた。中庭に出た一刀が人影を探しながら、視線を左右に動かすと二人の少女が見えた。その二人に急いで近づき、前に回りこむと一刀は開口一番

 

一刀「董卓と賈駆だな」

 

と言った。実際のところ一刀は董卓と賈駆の顔は知らないので、この二人が本当に董卓と賈駆なのかは分からなかった。しかし…

 

???「な、なんで…」

 

二人のうち一人の態度が、二人が董卓と賈駆であることを証明していた。あまりにも上手く行き過ぎたので、一刀は気が抜けそうになった

 

一刀「その反応を見るに二人が董卓と賈駆でいいんだね」

 

一刀の言葉にあからさまな態度をとった少女の顔が引きつる。そんな少女におかまいなしに一刀は話を進める

 

一刀「俺は連合軍に所属してる北郷という者だ。信頼できないかもしれないが、俺は二人を保護するためにここに居る」

 

一刀の言葉に、引きつった笑顔を浮かべていた眼鏡をかけた少女の表情がみるみるうちに怒りに満ち、何かを言おうと口を開くがそれを一刀が手で制す

 

一刀「罵声、暴言は後にして今は俺の質問に答えてくれ。ここで素直に俺に保護されるか…それとも一生お尋ね者として生きていくか。ここで俺が二人の命を奪うようなことはしないが、正直な話…逃げても苦しむだけだと思うぞ。それと俺に保護させてくれるなら、この戦が終わり次第俺は曹操の下に仕えることになってるから…それなりの生活は保障できる。どうする?」

 

???「ついて…行きます」

 

一刀にそう弱弱しく答えたのは、眼鏡をかけた少女でない綺麗な服に身をつつんだ、いかにも守ってあげたくなるような少女であった

 

???「月!? 本気なの!!」

 

もう一人の少女の発言に、眼鏡を少女は心底驚いたような表情を向けるが、もう一人の少女の意見は変わらなかった。しばらくの間眼鏡の少女はじっともう一人の少女のことを見つめていたが、諦めたように溜め息を吐くと

 

???「わかった。この男に保護してもらいましょう」

 

そう呟いた

 

 

その後、一刀と二人は城中を走り回っていた雲義と合流。雲義は涼しげな顔をしている一刀を、どこか恨めしそうな目で見ていた

 

こうして反董卓連合は無事に終わりを向かえた

 

 

-12ページ-

 

どうもkarasuです

 

いかがだったでしょうか? 楽しんでいただけたでしょうか? 今回は個人視点が多かったと思います。これからも個人視点は多めになると思います。

 

反董卓連合は終了したので次は袁紹・袁術との戦いになりますが、その前に本編を少し含めた拠点を投稿しようと思っております。メインは魏√での拠点になりますが、サブに白蓮さんの拠点を入れようと思っております

 

というのも、前作で白蓮さんと一刀さんの絡みってそんなに書いてない気がするんですよね。なのでアフターストーリーみたいなもので一つ書こうかなと思っております

 

その際に絵が欲しいなと思っておりますので、もしご協力してくださる大佐が居りましたらコメントやメールのほうでご連絡ください。そのときにどのような絵を描いていただきたいのかを言いますので。もちろん話だけ訊くというのもおkです

 

また他のキャラの拠点も久しぶりに書いてみようかなと思っていますので、そちらのリクエストもしていただいて結構です。しかし、必ず書くとは言えませんorz

 

絵を描いてくださる大佐、拠点リクエストの募集は五月十五日までとさせていただきます

 

それではここまで読んでいただきまことにありがとうございます。

これからもほそぼそと続けさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。

説明
投稿です
過度な期待はせずに生暖かい目で見ましょう
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
15638 10146 103
コメント
次期待しています。面白かったです(738)
お疲れ様です!!これからも頑張ってください!!(龍音セオ)
お疲れ様でした。楽しかったです。(readman )
執筆お疲れ様です。漸く魏に入り凪√に移行出来ますね。春蘭は手合わせで桂花は苛めて黙らせよう。 次作期待(クォーツ)
華狼大佐;ご意見ありがとうございます。意見をもとに武器の設定等を少し考え直そうと思います(karasu)
曹魏の陣営に行ったら桂花と春蘭がうるさいんだろうな(VVV計画の被験者)
いろいろと気になる伏線が♪これは続きが楽しみですなぁヾ( 〃∇〃)ツ 拠点リクエストは昴が見たいですね〜、karasuさんの昴はもはや神<激xルの可愛さを持ってますのでお願いします、割とマジで♪ 書かなかったら・・・・・・ウフ(mighty)
気になったことを少し。「開傘可能な鉄傘」ですが、ギミックの多さ(振る際に開かないようにするロック機能とか)故に打ち合える程の強度があるとも思えず。・・皮は鉄糸で織った鉄布、骨は全て日本刀と同じ製法で打たれたもの、とかならなんとか。それか材質を各々変えたCNT製とか。単分子ワイヤーが出るくらいですし。長文失敬。(華狼)
jackry大佐;フォーーーーー!! 出落ちだ!! 訂正しておきます!!(karasu)
タグ
恋姫無双 真・恋姫無双 恋姫?無双 真・恋姫?無双 魏√ 獅子を支える者 楽進  karasu製一刀 

karasuさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com