真・恋姫無双 魏が滅亡した日 Part30 理想を求めて
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桃香の部屋

全ての窓が閉められ、隙間からの日差しだけが唯一の明かり

本来、この部屋は主人の趣味に沿った明るい色彩なのだが

暗闇に閉ざされた部屋は不気味に見えてしまうかもしれない

 

部屋の奥には寝台が設置され

その寝台の上には膝を抱え、蹲るように座る桃香の姿があった

 

桃香は何度も敗戦を味わってきた

敗戦のたびに多くの仲間を失った

それでも桃香は立ち上がり続けた

しかし、桃香の心は今までに経験の無いほど傷ついている

 

愛紗、翠、蒲公英、恋、ねね

大事な人たちの安否が確認できない

それに蒲公英は重症を負っていたと聞く

 

5人のことを思うと涙が止まらなかった

桃香の心は不安と悲しみに満たされている

皆の声が聞きたくてたまらなかった

 

桃香の嗚咽がしばらく聞こえたが、ぴたっと止まった

今度は抱えた膝を力一杯に握り締める

 

散々泣いた後に残るのは怒り

 

「信じてたのに」

 

呉を、雪蓮を信じた

だから大切な仲間を派遣した

それなのに

 

「・・・・・絶対に許さない」             

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桃香は華琳に憧れの気持ちを持っていた

華琳は桃香に言った

 

「拳を握ったまま微笑みかけてくる相手を、誰が信じられようか」

「力で打ち倒し、こちらの力を知らしめてからの服従でしょう?」

「殴って、殴って、殴りぬいて・・・・降った相手を私は慈しむ」

 

呉の行動を予見したような華琳の言葉

それが何度も何度も桃香の頭の中にこだますると、桃香の心はさらに怒りに包まれる

 

「許さない、絶対に」

 

膝を握る力が一層強くなった

 

「おーほっほっほっほ!おーほっほっほっほ!」

 

桃香の部屋の前が突然あわただしくなる

 

「桃香さん、入りますわよ」

 

桃香の返事も聞かず麗羽は強引に部屋に入ってきた

 

「えっ?」

 

「んまあ、こんなに天気のよい日に窓を閉め切るなんてもったいないですわね」

 

麗羽はズカズカと部屋に入ると全ての窓を開けた

 

「ちょ、ちょっと麗羽さん」

 

「これで明るくなりましたわ」

 

明るくなったことで桃香の顔がはっきり見える

麗羽は桃香のそばに寄ると顔を覗き込んだ

 

「あらあらあらあら、酷いお顔」

 

桃香の目元は泣きはらしたせいで腫れあがり、その上酷いくまが出ていた

桃香の顔を両手の平で包む

 

「れ、麗羽さん」

 

「髪の手入れもまったくしてませんわね。こっちへいらっしゃい」

 

桃香の手を掴み寝台から降ろすと、三面鏡の前に座らせる

麗羽は櫛を取ると桃香の髪をとかし始めた                  

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「あ、あの」

 

「王たるもの、身なりは常に整えなければ臣下への示しがつかないでしょう?

 あなたも、私と お な じ 高貴な者、自覚なさいな」

 

王、高貴な者

そんな大それた存在だと思ったことが無い桃香は受け入れがたかった

 

「私はそんな!」

 

「王となる道を選んだのは貴女自身ではなくて?どうしてそれを否定するのかしら」

 

「え・・・・」

 

「貴女は高貴な家の生まれではないでしょう。

 農民として、商人として、生きる道の選択肢はたくさんあったはずです。

 それでも、貴女は王となる道を選んだ。違ったかしら?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「ならば王として、高貴なる者としての生き方を受け入れなさい。

 それが選ばれた者の宿命なのです。おーほっほっほっほ!」

 

「私は選ばれてなんか」

 

「ふ〜〜ん、どうしても王であることがお嫌なら・・・・・蜀は私がもらってさしあげますわ」

 

「!?」

 

「だって、あなたは王でありたくないのでしょう?」

 

桃香の体が緊張で硬直した

 

「・・・・・・・・それはできません」

 

「どうしてですの?貴女は王でありたくないのでしょう?」

 

「私は、王になる資格なんてないかもしれない。

 けれど、そんな私を信じて応援してくれる人がたくさんいる

 だから、皆のためにも、蜀を譲ることはできません」    

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麗羽は小さく息をついた                            

「冗談ですわ。王なんて、どんなに豪華な城を渡されてもごめんこうむります」

 

「え・・・・」

 

王になるのはごめんこうむる?

 

「麗羽さんは王になりたかったんじゃ・・・・?」

 

「言ったでしょう。高貴な生まれではない貴女には、生きる道がたくさんあったはずと」

 

桃香は麗羽の言う意味に初めて気づいた

日頃、麗羽は勝ち誇ったように名門袁家を鼻にかける

それは優越感のためだと誰もが思っていた

 

しかし麗羽の本音はどうだろう

本当は、名門袁家に生まれたことで、高貴な者としてしか生きる道が無かったと訴えていたのかもしれない

 

「私には高貴な者として生きる以外に道はありませんでした。

 そんなものもう真っ平ごめんですわ。ここに流れ着いてからそのことが痛いほど分かりましたの」

 

蜀に来てからの麗羽は自由奔放に振舞っている

盟主としての拘束の無い麗羽はムネムネ団なる組織を結成するなどやりたい放題だった

 

「ごらんなさい。今日も競馬で百発百中、大儲けでしたから奮発してきましたの。おーほっほっほっほ」

 

麗羽の指には豪華な指輪がはめられていた

競馬で稼いだ金を使い、町で購入したのだろう

麗羽は指輪を自慢げに桃香に見せると、再び櫛で髪をとかし始める

 

「貴女に感謝してますのよ。私に自由をくださった貴女に」

 

「麗羽さん・・・・」

 

「桃香さんはどうして蜀を作ったんですの?」

 

「それは、弱い人たちを助け、皆が笑って暮らせる世を作るため」

 

「でしたら、あなたがやるべきことははっきりしているじゃありませんこと?

 今やるべきことは復讐や私怨で戦うことではないはずですわ」

 

「・・・・・・」

 

桃香の理想、理想の実現のため蜀は一丸となって国を作ってきた

それをこんなところでだめにして良い訳が無い

 

「華琳さんの言い分も分かりますわ。けれど」

 

麗羽は桃香を後ろからやさしく抱きしめた

 

「私達が信じたのはあなたの理想。劉玄徳はいつまでも劉玄徳であって欲しいですわ」   

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冷水に漬かり冷え切った桃香の心は、久しぶりのぬくもりに包まれた

暖められた氷は決壊した

 

「ウ、ウウウ・・・・・」

 

流れきったように思われた涙が再び溢れ出す

麗羽は桃香の涙が止まるまで優しく包み続けた

 

 

 

「・・・・・ありがとうございます麗羽さん」

 

「上に立つもの、ましてや最上階にたつものの辛さは多少理解しています。

 辛い時は私か、月にでも相談しなさいな」

 

「え・・・・・・えええええええええええええええええ!月ちゃんのこと知ってたんですか?いつから・・・・・」

 

「そうですわね、最初に会った時でしたかしら」

 

桃香の表情が驚愕に変わった

 

「あ、あの・・・・ずっと気になっていたんですけど・・・・」

 

「なんですの?」

 

「競馬って、運がいいだけでそんなに当たる物なんでしょうか・・・・・」

 

「さあ?」

 

「もし、もしですよ?運だけで百発百中なら、それはもう人間技じゃないと思うし・・・・

 そんな人が戦で負けるなんて思えないし・・・・・

 やっぱり麗羽さんて本当は物凄く頭がいい・・・」

 

桃香の唇に麗羽の指が当てられた

桃香の耳に口を寄せるとそっとつぶやく

 

「ひ  み  つ  ですわ」 

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今回の話におかしいところがありましたので

2つ設定を追加したと思います  

 

・麗羽一向が蜀に来たタイミング

終戦後、白蓮を頼って蜀に流れました

 

・競馬場建設

一刀が残した天の国の技術のひとつで、三国会議で華琳が提案したところ

桃香がぜひ蜀に作りたいと立候補

魏、蜀共同出資で蜀に競馬場が建設されました                          

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コメント
魏√と蜀√の話がごっちゃになっているところがあったので、追加設定を作りました。6ページ目に書きました(見習いA)
麗羽に活躍してもらいました。一説だと劉備は一貫して袁紹派だったという話もあるそうです。シグシグさん、ご指摘ありがとうございます。前の「裏切り」が話数間違えてました。訂正します(見習いA)
正史の劉備は最後は呉や魏への憎しみで兵を動かし、時代が流れに流れて蜀はとんでもない形で滅びましたからね。桃香までそうなってしまうのではないかとヒヤヒヤしましたよ…。(frauhill0314)
お、麗羽が桃香の復讐の炎を消したか・・・。桃香、周りをちゃんと視ろよ。(アロンアルファ)
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