仮面ライダーEINS 第九話 交響曲・過去の忘れ物 |
――2011年10月7日 9:12
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
「手を貸しなさい」
「断る」
鋭い目つきの男が一騎と相対していた。もっとも一騎はふんぞり返って、男は机から体を乗り出し喰ってかかっているだけだが。
ちなみに晴彦は自分のデスクでモニターとにらめっこを続けている。
「何度も言うが、俺は明日からの三日間オフが学会の準備やら学会誌の原稿やらで大忙しなんだ。厄介事に巻き込まれたくない」
「では警備を強化しなさい」
名護啓介/仮面ライダーイクサ
ACTER:加藤慶祐
「名護。敬語って理解しているか?」
ちなみに彼は24歳。一騎は27歳だ。少なくとも年下から命令口調で指示されるのは良い気分ではなかった。
「知っている」
「理解はしてない……と!」
乗り出していた名護の額に強力なでこぴんをお見舞いする。
「暴力はいけない!謝りなさい!!」
「貴様はまず年上を敬う事を覚えろ!!」
今度は頭突きだ。一騎自慢の石頭は名護は声にならない声を上げさせる。
彼に対して教鞭を執ったこともなく、どちらかといえば情報やデータをたんまり貰った気もするが、そんなことは一騎も忘れているようだ。
「というかお前結婚したんだろ。少しは落ち着きってものを覚えたらどうだ、狂犬?」
「なっ、その情報はどこで手に入れた!教えなさい!」
「二年もたてば風の噂で流れてくるだろ」
ちなみに煙の発生源は名護の上司だ。一騎も結婚式に呼ばれなかったのはやや不満としている。
「私のことはどうでもいい!警備を増やせるのか聞いている!」
「無茶言うな。今日言われてはい、そうですかと警備が増やせるほど学園都市は狭くない」
「う……では最終手段だ。貴方が手伝いなさい」
「報酬だな。ちなみに言っておくが金では動かんぞ。ヴァージョンXIに以降して二年だ。そろそろヴァージョンアップの時期だからデータをよこせ」
「わ、私個人では何とも返しがたい。本部に旨を知らせる程度だが……」
「……まあいいだろう。詳細を話せ」
「え!手伝うの!?」
我関せずでずっと自分のパソコンでプレゼンテーション資料を弄っていた晴彦が声を上げる。
何せ今回の学会は彼が発表するのだ。てっきり断って手伝ってくれると思い込んでいたのだ。無理もない。
「犬に噛まれたと思うさ。何、慢性〆切性なんだ。今更どうってことない」
「え、じゃあもしも何かあったら僕は……」
「何、都市警察に所属しているのは周知の事実だ。後ろ指指されることはない」
とはいえ絶対に避けなくてはならないことなのだが。
はぁ、というため息と共に晴彦が肩を落とす。まあ学会まで一週間ある。何とかなるだろう。
「じゃあ僕は何あるまで絶対にオペレートしないからね」
「いや、今回は必要ない。あくまで私用だ。ハルはモニターにかじりついているだけでいい」
そのやりとりを見ていた名護は、彼には珍しい申し訳なさそうな顔で一騎にこういった。
「こちらも切羽詰まっていたのだな。そんな時期にも関わらず……礼を言う」
目を丸くするというのは的を射た表現だっただろう。それほど一騎は驚いていた。
「どうした?」
一騎の知っている名護は不遜にして不敬、高潔にして不安定だったのだ。他人のことに気を遣うなどありえなかった。
「いや、お前が礼を言うとは。さすがの学園都市も槍は振らせられないぞ」
一騎の顔は本気で槍が降るという顔をしていた。
――2011年10月7日 17:01
――学園都市 芸術学区 音楽公演ホール
――三階、警備室
「彼か」
ハット帽を被った私服の一騎の眼下には満員の客席と壇上でヴァイオリンを携えた一人の少年の姿が見えた。
「彼の護衛をしてもらいたい」
名護の依頼なのでもっと血なまぐさい内容だと決めつけていた。
丸くなったとは聞いていたが、まさか護衛任務を仰せ受けるとは思ってもいなかったのだ。
「変わったな、名護。俺がお前と合った時は剥き出しのナイフどころの騒ぎじゃなかったな」
確か名護と初めて会ったときはアインツの実働実験の時だ。
イクサは初ロールアウトかが20年近い改良を加えもはや歴戦の戦士。対するアインツは戦士どころか生まれて間もない赤ん坊だった。
結果はどうであれ、文字通りの狂犬の如く襲いかかってきた名護に一騎は一種の恐怖を覚えたくらいだった。
「彼を見てて変わった」
そう言って名護はヴァイオリニストを見て、一騎も釣られるように彼を視線を移す。
普通の青年だった。とても名護の人生観を変えられるほどの圧も、そして嶋財団がイクサのデータを渡すのを検討するほどの影響力も見受けられない。一騎はそう思っていた。彼の演奏が始まるまでは。
演奏が始まった。
曲は知らない。初めて聞く曲だ。加えて一騎はコンサートなど一度も行ったことがない。
「なるほど。お前が変わった言うのも判る」
一騎は深く被ったハット帽を持ち上げ思わず目を見開いた。芸術には一切興味がなかった一騎が心の底から感動したのはおそらく初めてだった。
「紅渡……はて、どこかで聞いた名前だな」
パンフレットと曲目の演奏者のところにはそう書いていた。
「そ、それはともかく!何事もなく終わりそうだな」
演奏者の名前を読み上げた途端、名護の様子がおかしくなる。どうやら彼と一騎の接触をやたらと嫌がっているようだ。
一騎がそんなことを考えていると、演奏が終わったようだ。ホール内は拍手に包まれ、それに釣られ名護と一騎も拍手する。
スタンディングオベーションだった。
その中で一騎は見慣れた顔を発見する。
「……やれやれ、トラブルメイカーを発見してしまった」
亜真菜だった。
そう言えば最近の事件は何かと彼女が関わっていることが多い。
「誰だ?」
「トラブルメイカーというかトラブルウオッチャーだな」
彼女には悪いが不吉だと感じたその時、その予想が当たってしまう。
一人の長身痩躯の男が壇上のヴァイオリニストに向かって歩き始めている。修道服を纏ったその姿は異様で周りからは不穏な声が上がり始める。
「おい、名護……」
一騎が名護を見ると彼の顔は驚きに満ちた者になっていた。
「アレは……ビショップ!」
「チェックメイトフォーはキングを残して壊滅したんだろ!?」
「見間違うはずがない!私が引導を渡した!」
名護が倒したはずのファンガイア四天王のビショップが変身を始め、スワローテイルファンガイアへと姿を変える。
蜘蛛の子を散らすとはこのことか。ホール内が一気に悲鳴に支配された。対して三階席で見物していた二人は冷静にそれぞれの変身ツールを取り出していた。
名護は取り出したイクサナックルに掌を合わせ認証させる。
『レ・ディ・ー』
――変身!!
『フィ・ス・ト・オ・ン』
聖職者の如きの白き装甲を纏い、金色の十字架の仮面をもったライダー、イクサに変身。変身と同時に仮面の十字架が開き、セーフモードからバーストモードに移行する。
名護がイクサに変身した端で一騎もアインツコマンダーを開きコードを入力。
4――9――1――3
アインツドライバーを召喚する。
――変身!!
白い光のリングがアインツギアが飛び出し、それが振り払われてアインツ・エナジーフォームが姿を現す。
「俺は避難を優先する」
「了解した」
二人が三階から一気に一階に飛び降りる。イクサはスワローテイルファンガイアに、アインツは避難経路の確保だ。
座席の真ん中ではイクサはスワローテイルファンガイアと対峙しいつもの台詞を呟いた。
「その命、神に返しなさい!」
そう、二年前に自分が倒したはずだ。イクサの携行武器、イクサカリバーを構え吶喊を開始した。
「皆さん、危険です!早く外へ!」
ドアの前に降り立ったアインツはすぐさまそれを開放し、ホール内に呼びかけた。
「雨無くん!」
亜真菜がアインツの姿を見つけ駆け寄ってきた。
「君も早く逃げろ!」
アインツは亜真菜の姿を見た瞬間叫んだが、彼女の行動は違っていた。
アインツが開放したドアは一つ。亜真菜は少し離れたドアに駆け出しそこを開放する。
「逃げてください!」
彼女自身責任感が強いのか、それとも緊急時の対応に慣れてしまったのか。
「嫌な慣れ方だな……」
アインツ自身何とも言えない複雑な気持ちにさいなまれるのであった。
「和泉、すぐに逃げろよ!」
ここは亜真菜に任せてイクサの援護に向かう。
客席の狭さに苦戦しているらしく、手から放たれた衝撃波にイクサがふっ飛ばされ、スワローテイルファンガイアはヴァイオリニストに向き合った。
「キングは一人でいい……」
スワローテイルファンガイアがヴァイオリニストに破壊光線を放とうとした瞬間、アインツが後ろからスワローテイルファンガイアにドロップキックをお見舞いする。
ヴァイオリニストは棒立ちというよりイクサを完全に信用しているといった立ち方だった。すぐさまヴァイオリニストに駆け寄り、安全であろう舞台裏に急いだ。
「イクサ!ファンガイアは任せたぞ!」
イクサはスワローテイルファンガイアを羽交い締めにし、ヴァイオリニストから遠ざけようと躍起になる。
しかし二体目が現れた。横から現れたのは同じくチェックメイトフォーのルーク、ライオンファンガイアだ。こちらは名護の妻がイクサに変身した際に撃破されたはずだ。
ライオンファンガイアの巨体から繰り出されたタックルにイクサが吹き飛ばされる。
「二体目だと!?」
「アインツ!一先ず彼を!」
イクサから次に聞こえてきたのはライオンファンガイアにタックルされた時の呻き声だった。
その側にいたスワローテイルファンガイアは掌に白い光を形成している。破壊光線だ。思わず舌打ちをしてヴァイオリニストをかばうように舞台裏に逃げ込んだ。
「ファンガイアに襲われて……襲撃者の口から出る単語はキング。なるほど。名護が俺と君を会わさないようにする理由が分かったよ」
「え?」
「俺は前にファンガイアの王とやり合ってるんだ。あいつめ……余計な気遣いを」
舞台裏から客席の様子をうかがうが、スワローテイルファンガイアはこちらに破壊光線を放ち続け、徐々に距離を詰め始めている。
「じゃあ兄さんと戦ったんですか?」
「ああ。とりあえずあのファンガイアをどうにかしないとこの場を脱する方法はなさそうだ。力を借りていいか、仮面ライダー?」
「はい!キバット!」
「よし、キバっていくぜ!」
渡が相棒の名前を呼ぶと金と黒、そして赤い眼のコウモリが現れ、スワローテイルファンガイアに数撃翼と牙の攻撃を行い彼の手に収まった。
長らく渡の相棒を務め、これからもそうあり続けるキバット族のキバットバットIII世だ。
キバットバットIII世
CV:杉田智和
「……カブリ!」
渡に噛みついたキバットは魔皇力と呼ばれるエネルギーを彼に注入し、渡を一種の覚醒状態に移行させる。
腰に鎖と共に現れた止まり木にキバットを預け、渡は覚悟を決める。
――変身!!
紅渡/仮面ライダーキバ
ACTOR:瀬戸康史
* BGM:Destiny's Play *
渡がキバに変身終了したのを確認し、アインツが舞台裏から飛び出した。
ただ飛び出すだけではなくアインツコマンダーを開きコードを入力しながらだ。
8――8――8――
――超変身!!
『BLASTFORM』
緑のリングが破壊光線を弾き回転を始める。そうして光球ができあがった瞬間、その後ろからキバが跳び出し、キックでスワローテイルファンガイアを吹き飛ばす。
そして光球からブラストアクスガンのエネルギー弾が飛び出し、イクサを追い詰めていたライオンファンガイアを吹き飛ばす。
それを確認するとアインツコマンダーを開き、状況を変えるために再びフォームチェンジを行う。
2――2――2――
――超変身!!
『SPLASHFORM』
緑のスプラッシュフォームで、起き上がったライオンオルフェノクのみぞおち付近にスプラッシュロッドを押し当て入り口に向かって吹き飛ばした。
「ドッガハンマー!」
丁度同じタイミングでキバットバットIII世がドッガフエッスルを吹き、キバの手に巨大な鎚ドッガハンマーが召喚される。それを持ったキバの両腕と胸のアーマーが鎖に包まれ、紫を中心としたドッガフォームに再変身する。
その巨大な大槌でスワローテイルファンガイアを同じく入り口付近まで大きく吹き飛ばす。
「なんてパワーだ」
起き上がったスワローテイルファンガイアは破壊光線を両手から放ちアインツとキバにそれぞれ放つ。アインツはスプラッシュロッドで弾き、キバはドッガフォームの装甲で受け止める。しかし二体のファンガイアの姿は既に無かった。目眩ましだ。
「……しまった、ハルがいないから追跡できない」
『マジで厄介事?』
「ああ」
ホールでは警備や鑑識が大慌てであった。
都市警察も、何より一騎自身もが予期していなかっただけに現場は慌ただしい状態だ。
『なんでトドメ刺せなかったの』
「ハルがいる感覚で広いところで戦おうと思ったら逃げられた」
『……』
沈黙が怖い。まあこの時期の発表者はだいたいイライラしているものだ。何せ自分も経験しているのでよく分かる。
「まあ今正座しながら電話しているから許してくれ」
『やけにシュールだね。じゃあこの三連休で終わらせますか』
「相手はファンガイアだ。生体センサーをフル活用して追跡するぞ」
『了解』
電話を終え一騎は立ち上がると名護と渡に向き合う。
「しかし何でチェックメイトフォーが?」
名護はルークもビショップも倒れた場面を目撃している。
「チェックメイトフォーは転生して地位を継承していくんだろ?だったら居ても不思議では……」
「転生のサイクルが早すぎるんです。おそらく二十年くらいがサイクルなので……」
渡の言葉にその場にいた三人が悩み始める。それぞれ思うところがあったのはほぼ同じタイミングで顔を上げる。
「……学園都市内を洗ってみよう。意外に根の深い問題かもしれないな」
「僕も兄さんを当たってみます。もしかしたら心当たりがあるかもしれないので」
「私も青空の会の資料を当たってみる」
三人が成すべき事を確認し三様に頷くと、それぞれの向かうべき方向に歩き出すのであった。
次回予告:次回予告
――要するに同じ顔同じ能力の奴を探せってことだろ?
――結果が出たか?
――ウェイクアップ!
第十話 次の世代へ・プレリュード
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この作品について ・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。 執筆について ・隔週スペースになると思います。 ・日曜日朝八時半より連載。 |
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