Little Brave〜ちいさな勇気とおおきな絆〜 第3話 |
結局昨夜は日付が変わるまで雑談をし、寝たのは互いに一時過ぎ。それでも長年の習慣からか、いつもの起床時間である六時ぐらいには目を覚ましていた。
「ふあぁ……おひゃよー柚梨奈」
そうしてのんびり朝食の準備など行っていたら、上の階から大きな欠伸をしながら葉留佳が起き出してくる。
「おはよ、葉留佳。今朝食の準備してるから、早く身支度整えてきて」
「ふぁぁぁい……」
未だ眠たげな様子で寝ぼけ眼を擦る彼女へそう告げれば、殆ど閉じられた目のまま体を左右に揺らしつつ洗面所へと向かっていった。
さてと、私も手早く済ませなきゃね。
「頂きまーす」
「頂きます」
食事開始の合図と共に、私達は眼前で鎮座している朝食へ取り掛かっていく。
朝からがっつりなメニューで大丈夫かと思い葉留佳に視線を移動させるも、どうやらそんな疑問は杞憂だったらしい。
とても美味しそうな顔で卵焼きを突っつく彼女の姿は、作った者として何ともありがたい光景だ。
「昨日の夕食もそうだったけど、柚梨奈って本当に料理が上手だよね」
手作りである茄子の糠漬けをポリポリとかじりながら、感心した風に言ってくる葉留佳。この台詞に私は、ギュピィン!と目を光らせた。
「うん、料理は私が一番自慢出来る長所なんだ」
自分的二番目の長所な胸を組んだ腕の上に乗せ、相手へと見せびらかせつつ誇らしげに言い放つ。
途端彼女は一転して恨めしそうな顔でこちらを見返してくる。
ふっふっふ、この二点だけはめっさ自慢させて頂きますヨ?
「いーないーなぁ。私も柚梨奈ぐらい胸が大きくなりたいー!」
「それじゃ食器片付けるね」
「スルー!? じゃあいいもん、ご利益出るまで拝み倒してやるんだから!!」
こればっかりはどうしようもない葉留佳の言葉をスルー。すると彼女はそんなことを言いながら、本当に手を合わせてこちらの胸を拝み始めてきた。
いやそれ般若心経だから。
「・・・はぁ。私の場合は充分な睡眠と適度な運動。後は・・・いや、これぐらいかな? 一応毎日豆乳と林檎を食べてバストアップ運動も毎日欠かさず継続してるけど、まぁどうでもいい情報っぽいから別に聞き流していいよ」
「それおまけっぽい方がメインじゃん!」
こちらの言葉を聞き全力でツッコミを入れてくれる葉留佳へ内心で改めて安堵の溜息を洩らしつつ、使った食器を洗い始める。
と、先程までぶーたれていた彼女が、突如真剣な眼差しで自分の方を見てきた。
「どうしたの、葉留佳?」
「・・・あのさ。柚梨奈は、私の家族なんだよね?」
一体どうしたのか訊ねてみると、返ってきた質問は昨日私が告げたこれからの自分達の関係について。
それに対してコクリと頷けば、葉留佳は一瞬躊躇った後に弾かれる感じで顔を上げる。
「だったら、佳奈多・・・ううん、『お姉ちゃんを』助けて欲しい!」
そうして放たれた言葉は、あいつの教えてくれた情報に含まれていた、たった一人の家族を救いだして欲しいというものだった。
「どうして? 葉留佳は佳奈多さんっていう人が嫌いなんじゃなかったの?」
この台詞に私は疑問気な表情で訊ね返す。すると何か驚くような表情で自分を見つめてくるけれど、ただの中学生がここまで手際良く物事を進められるはずがないと昨日の出来事で理解していたのだろう。
彼女は目に強い力を込めたまま、更なる言葉を紡いでいく。
「・・・うん。確かに私は、佳奈多のことが嫌いだった。私はいつも負けてばかりでいっぱい痛いことされて、いつも勝った佳奈多は好きなものを何でも貰えていたから。だからずっと羨ましくて妬ましくて、そのせいでいつの間にか周りにいる人達はみんな敵なんだって思い込んじゃっていたんだ。けど、昨日久し振りに昔の夢を見たの。そして小さい頃に佳奈多と交わした約束を思い出せた。『いつか仲良くするために、今は仲を悪くしよう』っていう、私達姉妹の大切な約束。で、起きた時に気付いた・・・うぅん、本当は知ってたんだ。私をいじめる時の佳奈多が、凄く辛そうで泣きそうな顔をしてたって」
自らの胸の奥からこみ上げるものを隠すようにここまでを一気に言い終えた後、葉留佳は困ったような笑みを浮かべ、
「佳奈多お姉ちゃんは、昔からずっと変わってないんだよね。ずっと私のことを好きでいてくれて、辛いことや苦しいことで約束を忘れちゃって死にたくなってた私に生きる意味を持ってもらうため、自分から悪役を買ってくれた。そんな、優しくて・・・あったか、くて、私が大、好き、だった、お姉ちゃんのまま、なんだよね」
零れ落ちる涙も厭わぬまま、やっと気付けた自らの誤解を吐露していった。
「お願い柚梨奈! お姉ちゃん、お姉ちゃんを二木の家から解放してあげて!」
そのまま葉留佳は地面に膝をつき、額を床へと擦り付ける。そんな彼女の様子に私は小さく溜息を吐き、苦笑しながら勢い良くこちらの胸に抱き寄せた。
「当たり前だよ。だって葉留佳の家族は、私の家族なんだからさ」
自然と籠る優しさと共に告げた台詞に、葉留佳は埋もれた胸の中で上下に首を振ってくれる。
ただ私には、気になる点が一つだけあった。
昨日の場合はある意味自分勝手に行動を起こしてしまったが、結局として彼女は自分からこちらの手を握り返してくれた。
けれど、佳奈多さんという人が同じように握り返してくれるかは全く以て分からない。
だって葉留佳が言うとおりの人物ならば、味方などどこにもいない孤独の中でずっと生きてきた人なのだ。
そんな彼女へ今更味方だと手を伸ばしたところで、一笑に付されてしまう可能性はかなり高い。
そういった自分の考えを葉留佳へ伝えると、どうやら妹である彼女から見てもそうなる可能性の方が高いと理解したのか、あーとか呻いて頬を人差し指で掻いている。
「まぁその時はその時で。とにかく私は、お姉ちゃんを無理矢理二木の家から連れ出すだけですヨ」
カラカラと笑いながら言葉を紡ぐ葉留佳。けれどその手は微かに震えていて、彼女自身未だトラウマといった形で恐怖を残しているのだなと理解できる。
故に私はその手を握る。すると葉留佳は驚いたような表情でこちらを見つめ返し、そして喜色満面といった笑みで以って己が気持ちを伝えてくれた。
「さ、それじゃ学校に行こうか・・・って、時間ヤバいよ!?」
こうして彼女の話もキッチリ終わったところで時計を見ると、時刻は本鈴10分前となっている。この家から学校までは歩いて30分近く掛かるような場所にあり、遅刻せずに到着するためには最初から最後まで全力疾走しないといけない。
「急ぐよ葉留佳!」
「合点でい!」
――三枝の呪縛から解き放たれたばかりでこのようなおどけた顔を見せるのは、やっぱり未だ巣くっている恐怖の裏返しなのかもしれないなぁ。
葉留佳にはしばらく心のケアが必要だと内心で呟きながら、私達は家を文字通り飛び出していった。
説明 | ||
さってさて、更に追加で投下させて頂く第三話です。 何かめっさシリアス的展開が続いておりますが、個人的にはシリアスよりもほのぼのとか恋愛物が書きやすかったりしています。 なのでそろそろこういった要素を含めていきたいなーとか思ったり思わなかったり。 |
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