鳳凰一双舞い上がるまで 2話 |
一刀SIDE
祖父さんはこんなことを随分前から準備していたのだ。
老いた自分がいつ亡くなっても大丈夫なように、俺を準備させていた。
………その事実が、俺を更に惨めにしたことも知らずに。
そして、高校卒業のこの日、俺は制服のまま旅に出る。
「修練に修練を重ねた。が、祖父さんが言っていた境地に上がることができなかった。鹿児島の実家にはこの剣に関する手がかりがあるかも知れない」
高校の教育を終えた俺は、担任が止めることも聞かずに大学進学をやめた。特に行きたいとこももなかったし、そんなことよりももっと重要なことがあった。
祖父さんから受け取ったこの剣。
祖父さんの部屋にあった過去の書籍らを調べたところ、この剣の名や氷龍、神殺し氷龍の名付けられていた。そして、戦国時代の終わり頃、この妖剣を封印するために作られたのが、北郷家の家宝とされる氷龍の鞘、鳳雛。
二つは違う時に作られど雌雄一体でその力は同等。氷龍は人を殺す殺気に満ちてあり、鳳雛もまたそれを止めるべく氷龍を外に出すことを許さない。
剣を抜こうとする者が剣を扱うに足りない者であれば、剣の思惑ままに操られる羅刹と化して、人を殺すだろうと、本ではそう書かれていた。鳳雛はそんな事態を止めるための安全装置だった。
その安全装置を解く方法が見つからなかった。
俺がまだ未熟だということだろうか。
わからなかった。
ただ、このまま祖父さんがくれた宿題を解けないまま道場の師範をやっていたところで、俺はいつまでも死んだ祖父さんがいる場所にたどり着くことができない。そんな気がしてならなかった。
「そっか……まぁ、かずぴーは一度決めたら捻らないしな。しかたないわ」
「…お前が言うな」
残り高校二年か散々振り回されていたことを考えると、この剣が抜けるようになった暁には最初にお前をこの剣の餌にしてあげたいぐらいだ。
……とは言え、
「ありがとう、及川」
「そういうなって。親友だろ?」
「あぁ……」
祖父さんまでもが亡くなり、及川は俺の気持ちを分かってくれる唯一な存在だった。
及川がなかったら、俺はもうとっくにこの地を離れていた。
「で、いつ帰ってくるん?」
「計画は……二ヶ月ぐらいだ。何か手がかりがあればもっと長くなるかもしれない」
「うーん、結構長いな。と見せかけてー」
「うん?」
何だ?
ドーン!!
「そんな長い旅をするかずぴーのための旅行鞄を用意してきたぜー!安心せな。中身はもうちゃんと詰めたるから」
「要らないことをやるな」
「ちなみに経費はおまえんちから落とした」
「お前また勝手に人の家の金取っていったのか!」
「カードの暗証番号を1111にする馬鹿に言われたくねー」
くっそー、祖父さん、数字には弱かったからな……
「まぁ、そう言うなってちゃんと必要なもので詰めたる」
「……わかった。持って行こう」
「ああ、一番大きいのは開けない方がええでー。ドガーンとするかも知れないから」
「どんだけ詰めてるのだ……お金どれだけ入った」
「ーーーーー」
「窃盗で訴えるぞ、おい」
「ちゃんと必要なもの入れてるよ。例えばこの一番下には……ほら、携帯のランタン!」
「俺は洞窟探検に行くんじゃねえ」
後でこ・ろ・す
「そろそろ時間ちゃうか?駅まで送る?」
「いや、いい。ここでお別れにしよう」
「うーん、学園が寂しくなるなー」
「ふっ、そう思う者は誰も居ない」
「いや、俺はそう思ってるでー」
「及川のことなら信じてあげよう」
「嘘ウサ」
「だろうな」
もうそろそろ行かないと時間に間に合わないか。
「……」
「いってきーな、かずぴー」
「あぁ…」
俺は後を振り向かずそのまま前に進んだ。
「さようなら、かずぴー、また会えるかしらへんけどな。応援してるぜ」
ちゅんちゅん
「………」
朝、光が朝を告げて俺は目を覚ました。
「……嫌な夢だったな」
及川が出るなど、夢としては悪夢と言える。
「そして……これが現実」
周りを見てみると、まるでこの時代の部屋とは思えない構造。
眠る寝台に机一つに椅子が二つ。地面は石で舗装されてあって外からの窓に格子で奇妙な形が飾られている。
昨日、水鏡先生たちに運ばれ、ここに連れされた俺は、水鏡先生に簡単な治療をされ、ここで寝かせていただいた。
昨日の出来事は、本当に思いの他の災難だった。
気がつけば倒れていて、電車での事故によって肋骨が折れていて、真夜中の山で遭難。
鳳士元、あの娘が来ていなかれば、俺はあのまま山の中で朝を迎えていたやもしれない。
そうか、鳳士元。
そして、昨夜の話によって、俺がいるこの場所が俺がいた世界ではないことを確信した。
違う場所、違う時間。そして違う歴史がここにあった。
三国志の舞台に輝く英雄のはずの人たちが幼い、しかも女の子であったことに少なからず違和感を覚えていたが、俺は見ても信じないほどの馬鹿ではない。
「っ」
まだ、胸が少し痛むが…手当がいい。これぐらいなら動けるはずだ。
取り敢えず外に出てあの人たちに感謝の言葉を改めて……
「……」
いや、待て。
昨日あの娘がなんと言っていたっけ。
<<私は、水鏡女学院の生徒で、名前は鳳統って言います>>
「………」
がらっ
「「「「あっ」」」」
「………」
部屋を開けると、そこには見慣れぬ女性たちが立っていた。
「……」
「あ、ああ、あの」
がらっ
門を閉じてふと窓のほうを見る。
「ひゃっ!」
「………」
誰かが急いで頭を隠した。
この部屋は囲まれている。
「…参った」
俺はどうやらこの「女」学院にとても迷惑人になりそうな予感がした。
「皆さん、そこで何をしているのですか!」
「ひゃっ!」
「水鏡先生!」
「あの……その…あはは」
「騒がしくしないで、自分たちの日課に戻りなさい」
「「「ご、ごめんなさい!」」」
外が騒がしくなると思ったら静かになり、
がらっ
外から門を開いて昨夜の水鏡先生が入ってきた。
「ごめんなさい。山の奥の私塾で、年頃の女の子なのにあまり男の人に会うことがないもので……」
「……自分はどうやらこの場所に長くいては迷惑になりかねないようですね」
水鏡先生、司馬徽。
朝の光を浴びてる彼女の姿は中年……というには少し若い姿だった。30代初盤?
綺麗な顔で、それに先ほどの女の人たちを一言で動かせるほどのカリスマを持っている。
余程人望がなければこんなところで女性として学問を広げることは難しいだろうと思いながら、俺はそう言った。
「とんでもないです。雛里ちゃんから話は聞きました。狼の群れにあったとか…」
「…それもまた自分のせいです。助けを呼ぼうと吹いていた口笛が、人以外のものを呼んでしまったのでしょう」
考えてみると、夜中に口笛を吹くなどありえない考えだった。
だけど、あまり大きい声を出せば胸が痛んで仕方がなかった。
「山で遭難をして助けを求めることは当然のことです。それよりも、怪我の方はどうですか」
「もう痛みは感じません。改めて本当にありがとうございます」
「大したことではありません。ですが、本当に感謝するべき相手は私ではありません」
「……」
そう、鳳士元だ。あの娘があんな夜中にあんなところに来なければ…俺は…
「そういえば、何故彼女はあんな夜にそんな山の奥に……?」
「それは……私の責任です。あの娘たちと一緒に流れ星を見ていたのですが、そのうちいくつかがこっちに落ちてきて、それを観察しに行った私があの娘たちから目を離した祭に、あの娘たちも好奇心に負けて塾を出てきたのでしょう」
「なるほど……彼女は今…」
「昨夜の行動への罰も兼ねまして…今は倉の掃除をさせています。といっても、日課として朝に何かはいつもやっていますので大した罰にはなっていませんけどね。寧ろ、あの娘たちは今倉の掃除をさせた方がためになるのです」
「……?」
どういう意味だろう?
と、……倉か………さすれば
「他の娘たちからの…」
「ええ、男の人と一緒に来て昨夜既に大騒ぎになっていますから」
どうしたことかと塾の生徒たちが集まって凄まじい勢いで質問をしてくるというわけか。
それであまり人が寄らない倉の掃除を…
「本当に色々と迷惑をかけてしまってますね」
「誰もそんなふうには思っていません。さあ、それではこっちの話は終わりとして…あなたのことを訪ねても宜しいでしょうか」
「あ、はい」
さて、困った。
俺の現状をありのまま伝えたところで、この人がそのまま信じてくれるとは思いがたい。
どうすれば……
うん?
「あれは?」
「あ、昨夜雛里たちが持ってきたのですが…あなたのモノだと聞いています」
及川が持ってきた旅行用の鞄。
「何なのですか、あれは?」
「……私物です。中身は…?」
「開けてはいません」
あそこに何か…決定的に俺のことを証明できるものはないだろうか。
鞄に近づいて立っている鞄を横にさせて一番大きいところを開けようとしたが、
及川が言ったことが何か気にかかって他のところを開けることにした。
一番下のところにはランタンしか入ってなかった。そのランタンは今俺が寝ていた寝台の横の小さなテーブルに置いてある。
及川、この中に何か俺のためになるようなものを詰めてくれたと言っていたな。
頼むから、頼りになるものが出てくれればいいのだが………
と思いながら、俺は下から二番目のところを開けてみた。
ジィーー
「………」
カメラだった。
ポラロイドカメラ。
「……」
後に何かカードがある
『これで何かあったら取っておくとえーで。あぁ、電池とかきっとかずぴー使えないだろうから完全フィルム式の古い奴でいれといた。ポラロイドフィルムはたくさん入れたるからたくさんとって沢山楽しんでや』
「遊びに行ったわけじゃねえ。つうかこれ俺の金で買ったんだろ」
写真なんてとるかよ。
でも、今では最高のアイテムだ。
「それは…なんですか?」
「……水鏡先生で…宜しいでしょうか」
カメラにはフィルムが入ってあった。
これで丁度いいだろう。
「自分が誰か先ず聞きたいと思いますが……先ず俺の名前は北郷一刀と言います。姓が北郷で、名前が一刀です」
「北郷…一刀さんですか?」
「はい、そして、自分はこの世界の人間ではありません」
「………」
俺の話法が一般人に対して問題があるということは分かっているが、言う度にそんなに狂人を見るような顔で見られると流石に少し傷つく。
「自分は生まれたのはこの大陸から東に行ったところの日本と言う島国です。自分はその国で1800年ぐらい後に生まれます」
「……北郷、さん」
水鏡先生が口を開けた。
「あなたのことは雛里から昨日大体のことは聞いています。雛里もあなたに同じことを言われたと聞いています」
「自分がそう言いましたから」
「なら、それを証明できるのですか?」
当然、これほどのふざけた話をするには、ふざけたぐらいありえない証拠が必要だろ。
「これなのですが……『カメラ』というものです」
「かめら?」
「はい、その場所の姿をそのまま写して残しておく機械です」
「……」
「よく分からないようですから、一つ試してみましょう」
俺は椅子に座っている水鏡先生ご自分に向けてカメラのシャッターを押した。
ガチっ!
「!」
水鏡先生は驚いたような顔をするが、フィルムがカメラから出てきて、しばらくすると…
「これは……!」
「こういう装置です」
そこには、水鏡先生が椅子に座った写真がそのまま映ってあった。当然のことだが、水鏡先生は驚きの様子を隠さなかった。
「……真の写すとして写真と言いますが……写真が良く似合う方ですね」
ちょっとフィルムが小さいけど……見た感じよりちょっと若く見える。きのせいか?
「それで、これなら自分がこの世界の人間ではないという証拠になるでしょうか」
「………そう…なりそうですね」
少し呆気無い顔だけど、どうやら信じてもらえそうだ。
俺は俺のことを信じてくれる人を最も信用する。
「それなら北郷さん、あなたが別の世界が来たということは分かりました」
「はい、ですが、どうやってここに来たのかは自分にも分かりません」
「それなら、私が答えることが出来ると思いますが…」
「はい?」
「昨日、私や雛里たちがあの山に行ったのは、あの夜流れ星の一つがそこに落ちたからです」
「流れ星?」
「はい、そして、私が昨夜流れ星を探したところ、何の跡もありませんでした。そしてあなたがそこに居たのです」
「……つまり、その流れ星が自分だと、そう思っているのですか?」
「可能性は…ないとは思いません。何せ別の世界から来たとされる人ですから」
別の世界で流れ星で落ちてくるようなハイパーテクノロジーは俺の時代にはありませんが……
だけど、他の代案がない以上、そう思った方が正しいのかもしれない。
だけど、何故?
何故俺はこんなところに落ちてきた?
何のために……
「あなたは、これからどうするのですか?」
「…分かりません。自分は……ちょっとした修行のために…!」
そう言えば……
ない!
鳳雛が……ない。
「昨夜……そこに剣が落ちてませんでしたか?」
「剣……いいえ、そんなものは…」
「……」
及川、お前の鞄はあるのに何故一緒においた俺の剣はいないんだ?
「大事なものなのですか?」
水鏡先生が焦っている俺を心配そうに見ている。
「…家宝です。亡くなった祖父さんの遺品でもあります」
「あぁ……」
先ずはこの状況、俺にとっては分からないことが多すぎる。
知っている人など誰も居ない新しい世界に一人で漂流しているようなものだ。
……違う。それは当分昔から、生まれてきてからの話だ。
もしかすると、この世界でもあの世界でも、俺の居場所がないのは同じなのかも知れない。
家族を失い、唯一の友も遠いところでおいてきた。更に残り人生の全てとまで思っていた祖父さんの家宝までも失ってしまった。
正直、絶望的だ。
「……朝食を持ってきましょう。先ずはそれと食べて、今後のことについてじっくり考えてください。それまでにはこの私塾であなたを保護します」
「……お気遣いに感謝します」
見えない。
この先のことが……目標が見えない。
昔から、一つに集中したら他のことを知らなかった。
一度決めたことを諦めない、離さないまま、それを成し遂げようとしていた。
だけど、一度もそれをちゃんと終わらせてみたことはない。
だって、現実に終わりというものはないのだ。死というもの以外には…
俺の記憶の中の父さんという存在は、既に生きることを諦めた人だった。
いつの間にか父さんという存在が自分の前から存在を消して、母さんはいつも泣いていた。
俺は、母さんのことがとても好きだった。だからそんな母さんを見たくないと思った。だから、俺は母さんを笑っていられるように母さんが好きだろうと思うことは何でもした。
厨房の仕事を手伝いから始めて、いつのまにか朝御飯を作って朝起きないお母さんの前に送ったり、
外を出歩いて拾った五百円の玉をお廻りさんにあげないでそのままお花屋に行って、母さんが大好きだった桃色の薔薇を買ってきて母さんのベッドの側の花瓶に飾ったり、
歩くことができなくなった母さんの肩や脚を毎日に丁寧に揉んであげると、母さんはそんな俺の姿を見ながら力が入らないその顔に表情を作ってくれた。
けど、言った通りに、俺は一度も自分が夢中になったことをちゃんと成し遂げたことがなかった。
ある日、桜が落ちる頃だった。
家は四方が高いビルに塞がれていて、母さんは好きな桜を見ることができなかった。
俺は、家にあった大きいにバケツを持って外に出て、そこに落ちてくる桜の花びらを少しずつ集めた。挙句にはまだ落ちてもない花びらを落とそうとして近所で見ていた祖父さんに怒られたりもしたが、結局そのバケツは桜の花びらで一杯になった。
その花びらを母さんの寝台に飾ろうと。母さんに春が来たことを告げようと、と思った俺が急いで家に戻った。
だけど、母さんはそんな俺のことを待ってくれなかった。
………
一年も……経たなかった。
あんなに頑張ったのに、母さんは一度も俺を見てくれなかった。ただ、俺の顔から映る父さんの顔を見ていた。それだけ。
コンコン
雛里side
「誰なの、あの人?」
「昨日あの人と何かあったの?」
「ねぇ、名前は?どこから来たの?」
「あ、あわわ……」
な、何なの?どうして皆大勢でこんな塾隅っこの倉まで来て……
「はわわー!皆掃除に邪魔です!早く出て行ってください!」
朱里ちゃんが止めることも聞かずに、皆私たちに質問をし続けます。
「ね、名前はなんだってー?」
「ほ、北郷一刀さん?」
「姓が北で、名前は郷で字が一刀?」
「ううん、姓が北郷で、名前が一刀、字はないって」
「珍しいわね」
「どこからきたって?」
「そ、それは……」
「ねぇ、あの人と昨日何かあったの?」
「何、何かって?」
「きゃはー、そんなの決まってるじゃない…あんなこととか……そんなこととか!」
「あ、あわわー」
そ、そんなことなんて……
「皆さん!」
「ひぃっ!」
「「水鏡先生!」」
やっと、先生が来てくれました。助かりました!
「元直、あなたは今日の朝御飯の担当でしょ?何故ここに居るのです」
「きゃはー、ごめんなさーい」
「他の娘たちも、朱里と雛里の邪魔をしないでさっさと戻りなさい!」
「「「「は、はい」」」」
他の生徒たちが皆倉から出て行って、私と朱里ちゃん、水鏡先生だけが残りました。
「二人とも大丈夫ですか?」
「は、はい……」「大丈夫です」
「はぁ……こんなにも早く噂が広がるとは思いませんでしたね…やはり女の子ばかりのところですからそういう噂は広まりが早いようです」
「あわわ……」
皆、男の人だから一刀さんのこと興味深く思ってるのかな。
「二人とも、今日授業は休んでもいいですよ。当分は、二人が居ると騒ぎを起こしやすいですから、自分の部屋で勉強してもらえますか?」
「「はい」」
まさか、こんなに大変なことになるだろうとは思いもしませんでした。
正直、昨日の出来事が未だにちょっと信じられません。
他の世界から来たという男の人が居て、光を出す機械を持っていたり、飢えた狼たちを話し合いで帰らせるなど……何かの夢を見ていたようです。
「それと、雛里」
「はい」
「北郷さんに朝食を運んでもらえますか」
「あわっ?…は、はい……でも、どうして私が…」
突然の言葉にちょっと追いつけなくて問い返したら、
「どうやら、突然の状況に、あの人も少し困っているようですから、最初に会ったあなたがなんとか慰めてあげてください」
「……はい」
良く分からないけど、取り敢えず断る理由もないから頷きました。
それに、昨日はじっくりと話をするほどの余裕がなかったのですけど、今日になってからにはちゃんと話したいことがあります。
「先生、私も行っていいですか?」
「構いませんが、大丈夫ですか、朱里?」
「はい」
朱里ちゃんも一緒に来ると言って、水鏡先生はそれを他の言葉は言わずに許してくれました。
「朱里ちゃん?」
「私もあの人に話したいことが山ほどあるの。いいでしょう、雛里ちゃん?」
「…うん」
何か、ちょっと朱里ちゃんの様子が変だけど、大丈夫かな。
私たちの朝食を部屋で食べた後、一刀さんの朝御飯を持って塾から離れに立てられている建物まで来ました。
普段先生が遠くから来たお客さんを泊めるために建てたものです。
「一刀さん?」
「雛里ちゃん、名前で呼んでるの?」
「うん?あ、うん……何か北郷さんというのはちょっと変だなと思って……」
「………」
何か、朱里ちゃんの顔がちょっと怖いんだけど、気のせいかな。
がらっ
「……一刀さん?」
「………」
一刀さんは寝台で横になっていました。
寝てるのかな
円卓に朝御飯を置いて近づいてみました。
「一刀さん?」
「………1800年前の中国大陸の荊州の司馬徽が開いている私塾の裏森に流れ星になって落ちて来た……それがこの世界の俺の始めだ」
「…はい?」
一刀さんは腕で顔を隠していました。
「あまりのふざけた状況に笑いも出ない」
「………」
ゆっくりと一刀さんの腕を一刀さんの顔から離せたら、
一刀さんは泣いていました。
「一人一人俺の前から去っていくと思ったら……今度は俺から皆と離れてしまった。もう俺は本当に一人になってしまった」
「一刀さん…」
「何をすればいいのか、俺はこれから何をしていけばいい」
一人、
まるでこの世界で自分一人だけが残されてしまったような気持ち。
きっと一刀さんはそんな気分になっていると思います。
自分が今まで生きてきた場所。一緒に生きてきた人たち。それを全て一瞬に失ってしまった。
私は凄く幼い時にここに来ました。
ご両親は私が住んでいた村を襲った盗賊たちから私を守って亡くなられたを聞いていますが、私はお父さんやお母さんのことを全然覚えていません。
だけど、分かる気がします。
一人になってしまった孤独感。
それはきっととても堪えられそうにない悲しくて、辛い感情のはずです。
人は一人では生きていけないのですから。
「一刀さん」
私は自分も知らないうちに一刀さんの大きい手を掴んで一緒に泣いていました。
「………鳳士元?」
「……大丈夫です。一人じゃありませんし、きっとここに来た理由もあります。ですから……」
「何故泣いているんだ?」
「分かりません。…分かりませんけど……」
「………」
「私、一刀さんのこと良く分かりませんけど……一刀さんは私が初めてお話してみた男の人ですが、それでも思ったような怖い人じゃないって分かりましたし、それに…」
私って、何言ってるんだろう。
「昨日、私を助けてくれたとき、カッコいいというか、頼もしく思ってましたから、だから、一刀さんが泣いてるとか悲しんでる姿は…あまり見たくないです」
「…………」
はっ!
「あわ、あわわ、いえ、これは、その…あの……」
何か口が勝手に走っちゃったけど、気が付いたら本当になんてこと言っちゃったの、私?
昨日会ったばかりの人なのに、こうしたらまるで……
「ありがとう」
「…へっ」
ふと前を見ると、一刀さんは小さく微笑みながら私を見ていました。
「少し、欝になっていたようだ。心配をかけてしまって済まない」
「い、いえ……」
その姿がまた少し……綺麗で、私はつい帽子を被って顔を隠してしまいました。
「あの…!」
「あ」
その時、一緒に来ていることをすっかり忘れていた朱里ちゃんが一刀さんに声をかけました。
って、今の話朱里ちゃんも聞いちゃったの!?
一刀side
鳳士元が顔を俯いてしまったので、俺は何か彼女に気に障ることをいってしまったのかと訊こうとしたが、ふと彼女と来ていたもう一人の女の子、昨夜水鏡先生と一緒に、鳳士元を探しに来ていた女の子がそこにいた。
「お前は……」
「昨日は騒がしくて紹介できませんでした。私は姓は諸葛、名は亮、字は孔明と申します。今後お見知りおきを」
彼女が諸葛亮か。
鳳士元と同じところで…水鏡先生の下で習っているのか。
俺が知っている三国志とは益々違うな……。
だけど、おおよそそういう流れというのは分かった。
「俺の名は…」
「知っています。北郷さんですよね」
「……ああ」
孔明の言い方は、何故か俺を凄く警戒しているように覚えた。
だけど、それも当然だろう。寧ろそういう見方が正しいのかもしれない。
俺は女性しか居ないこの学院に入ってきて、しかも出身地や何故あんなところに夜一人で居たのかも分からない、いわば不審者だ。
そんなものが自分の友たちと一緒に長い時間を暗い森の中に居た上に、こうして食事まで配達されている。
そんなことが彼女としては気に食わないのだろう。
「ご存じないだろうと思いますが、今日雛里ちゃんと私は、朝っぱらから他の学院の方々から散々北郷さんについて聞かれています」
「……ご迷惑をかけたことは謝ろう」
「本当に、迷惑きわまりないです」
「しゅ、朱里ちゃん……」
鳳士元は友たちを止めようとするが、彼女も言いたいことがまだまだあるようだ。
「そ、それに、雛里ちゃんは昨日北郷さんと一緒に居たって噂が変な方向に反転して、妙な話が流されているのですよ」
「……というと?」
「…雛里ちゃんが、夜に男の人に会いに外に出たという話です」
「っ!」
「しゅ、朱里ちゃん!」
俺は驚いて鳳士元の方を見た。
叫んだ鳳士元も、私の方を見てはその大きな帽子に顔を隠してしまう。
私塾にこんな女の子たちしかいなんだ。俺の存在がゴシップになりかねないとは予想していたが、まさか鳳士元に害になるそのような話までされているとは…
「……そんなことではないのは、お前も分かっているはずだ」
「もちろんです!ですが、十分そんな噂をされてもおかしくない状況だということは、北郷さんにも分かってもらいたいです」
諸葛孔明は随分と息を荒くしながら答えた。相当怒っているみたいだ。
べつに俺に対して、というわけではなく、自分の友にあのような噂が流されているという事実に怒っている、とみた方が正しいだろう。
「…そもそもだ。何故鳳士元とお前はあんな夜遅く森の中に居たんだ?」
「それは……」
「流れ星…です」
諸葛孔明が答えようとするのを、隣の鳳士元が答える。
「昨日流星雨が落ちたのですけど、そのうち一つが塾から近いところに落ちてきましたので……それを見に行こうと思って…」
「……そうか」
概ね、水鏡先生から聞いた話と違いはないか。
「それで、途中で一刀さんの口笛の音が聞こえて、誰か助けを求めるのかと思いまして近づいてみたのですけど……私が足を滑ってあそこから落ちてしまったせいで……」
「…いや、鳳士元は悪くないだろう。…まだ幼い女の子が誰にも言わないで夜遅く外に出たことはたしかに危なかったが、途中からは俺のせいで巻き込まれた分が大きい」
噂はすぐになくなるだろう。
そのあたりの女たちのうわさ話って大体そんなものだ。
ただ時間を潰す話題がほしいだけ。何も彼女の名を傷つけようと食いつく人たちがいなければの話ではあるが……
「となると、諸葛孔明が言いたい言葉は大体わかる」
「分かってくださって、ありがとうございます」
「……え?」
俺と諸葛孔明の話についていけないのか、鳳士元は少し頭を傾げた。
まだ、子供なせいか。といっても、あの鳳士元が人の考えを探るという能力が足りないというのは、あまり関心できる部分ではなかったが……
なに、事実と歴史が書いたこととは違いがあるというわけだ。
大体、蜀を支えるべき二大軍師が、女の子で、しかもこんな子供だなんて、俺にその気があるのかとまで覚えるぐらいだ。
と、まだ分かっていない鳳士元に説明をしてあげると、
「鳳士元、つまり、諸葛孔明は、俺とお前の間の噂がこれ以上長く続かないために、俺とお前が顔を合わせることを控えるべきだと言いたいわけだ」
「……はぁ…なるほど……」
鳳士元は少し頭を頷いたと思ったら。
「あ、わわわ!?」
何か変な声を出しながら驚いた。
「あ、あの……」
「?」
「ご、ごめんなさい」
またも突然、鳳士元は俺に謝ってくる。
いや、今のどこで俺が謝られるべきところがあった。
寧ろ謝るとしたらこっちの方だ。
「私が余計なことをしたせいで、一刀さんに変な噂をされるはめになって」
「え?」
いや、違う。
それは違うだろ、鳳士元。
「別に、俺はそんなことは気にしない。そもそも、お前がそこで助けてくれなければ、俺はそこで怪我をしたまま夜更かししていたんだ」
「でも……」
「雛里ちゃん」
さすがにと思ったのか諸葛孔明が話を割ってくる。
「もういいから帰ろう」
「え、でも…」
「諸葛孔明の言う通りにした方がいいさ。朝食は確かに受け取ったから。後で俺が返し……」
「いいえ、北郷さんもここに居てください。後で私が取りに来ますから」
と、諸葛孔明が話の腰を折って言った。
中々、頑固というか、友たちのことを心から心配している気持ちが伝わってきて、あまり悪い気にはならない。
「わかった。それでは、そういうことにしておこう」
「あの、朱里ちゃん…」
「後で、雛里ちゃん。それじゃあ、私たちはこれで…」
「ああ」
「あ、あの…」
鳳士元はまたあわわと言いながら、諸葛孔明に引っ張られるように外に出た。
最後に頭をペコッと下げるのがみえたが、挨拶を返す暇もなく、門は閉ざされる。
「……鳳士元…か」
面白い娘だ。
歴史で思っていた姿とは全く違う。
かよわい女の子って感じ。
……なかなか面白い世界に来てしまったようだ。
あとがき(という名の裏話)
及川「ふい……これでいいんだな」
??「はい、いつもご協力感謝致します」
及川「まぁ、いつでも任せろって。あいつのためならいつどんなところでも助けにいくさ」
??「…あなたはどの外史にても一刀のいい友でありました。……僕が知っている外史では違いましたが……」
及川「……どういうことだ?」
??「いえ、こっちの話です。あの鞄、これから北郷一刀に大きな力となるでしょう」
及川「うーん、あいつならあんなもんなくても、別にジャングルで一人で追い込んでも生きると思うんだけどな……ところでさ」
??「はい?」
及川「仕事終わったんやったら、今から俺と遊びにいかへん?」
??「あらあら、いきなりナンパですのね」
及川「欲望に充実なだけさ」
??「残念ながら、もう結婚済みの身ですので…」
及川「大丈夫、俺は前々行けるから!」
??「困った人ですわね……とは言え、今回のお礼もありますし、まだ次の仕掛けを動かすには時間があります。半日デートぐらいなら付き合ってもいいですわよ」
及川「マジ?!」
??「ただし、変なことしましたら続座で排除しますので……」
及川「わあってる、わあってるって。じゃ、行こうぜ……」
スピっ!
及川「はぐっ!……ガクッ」
??「……あらあら……結以ったら、ふふふっ」
リアルであとがき
どうしてこんなに長くなった?
大した内容じゃなかったのに……わけがわからないよ。
というわけで2話です。
朱里ちゃんに絶賛嫌われてます。
「次回」との温度差が半端ないです。
次回はちょっとふざけた話になりますので、後で石投げないでください。
Mじゃないんです。むしろSです。
たくさんのコメントありがとうございます。
主に地名に混乱を与えた誤字を指摘してくださった2828さんありがとうございます。
一瞬頭が真っ白になってました。
8時にあげるつもりだったのにいろいろしてたらもういつもの時間とほぼ変わらない時間になっちゃいました。
日曜にあげるといっといてこんな早く、しかもこんな長文にしてしまってすみません。
次回のは本当に日曜まで堪えます。
貯めている文早くあげて反応みたい気持ち山々ですけど耐えてみせます。
た・え・る・の・よ・T・A・P・E・t
頑張れ超頑張れ
説明 | ||
今作は、真・恋姫無双の雛里√です。 雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。 それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。 コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。 日曜に上げると言っておいてなんで明日あげるの?ばかなの?しぬの? お詫び申し上げます。kwskはあとがき |
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kyowaさん>>コメントありがとうございます。雛里ちゃんかわいいですねー……あ、でも次回を考えるといやなんでもありませn(TAPEt) 〜決めたら捻らないしな→決めたら止まらへんからな、とかのほうが意味的に合っているかと。朱里は雛里と違ってきちんと一刀と話をしたわけでもないので警戒して当然でしょう。それにしても、雛里が可愛いです!(kyowa) ZEROさん>>及川が真面目な姿はあまり見たくないです。に合わないです(TAPEt) 及川は相変わらずですねえ。(ZERO&ファルサ) 関平さん>>さぁ、どうでしょうね・・・(TAPEt) namenekoさん>>雛里ちゃんを上げるために必然的に朱里ちゃんを下げなければなりませんでした。こんな外史ですみません(TAPEt) この世界の朱里は頑張りすぎてから廻ってちょっとウザいな。友達を守ろうって気持ちはわかるけど(VVV計画の被験者) tukasaさん>>??「ありがとうございます。幸せになります」(TAPEt) ??さん結婚したのかおめでとう!!続き楽しみにしてます^^(tukasa) 山県阿波守景勝さん>>おめでたいですねーー。あれ?でもこれっていつも俺がかんがえた立場と逆じゃね……?ま、いいか(TAPEt) 頑張って妹分を守ろうとしてますね。そして最後に出た??さん、結婚したんですかおめでとうございます。(山県阿波守景勝) |
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