少女の航跡 第2章「到来」 5節「ピュリアーナ女王」 |
私達は、《シレーナ・フォート》の王宮の中に入った。
王宮の入り口で馬を降り、宮殿の者に案内され、まるで塔のような趣の内部へと入って行く。
王宮に入ってすぐの大広間は、広大な空間だった。何階にも渡った吹き抜けがその空間を
作り上げ、正面には巨大なステンドグラスが張られている。そのステンドグラスの色は、空を思
わせる青。昼前の燦々とした光が、清らかな空の色へと変えられ、大広間に降り注いでいる。
そしてステンドグラスには、大きな翼を広げた鳥乙女、シレーナの姿が描かれていた。それ
は、まるでこの王宮自体を守っているかのような、威厳と美しさを持っている芸術品だった。
私達は、大広間の広大な空間を抜け、吹き抜けの階段を一つずつ登っていく。
その広大な空間や、芸術品に心を奪われている私。
「あ、あの…、一つ聞いても構いませんか?」
何層もある吹き抜けの階段を登りながら、私は先を行くルージェラに尋ねていた。
「何、どうしたの?」
「ピュリアーナ女王陛下って、確か人間の方ではいらっしゃらないんですよね?」
私は、『リキテインブルグ』の女王の名こそ知っていたが、実際に会ったことも話した事も、見
たことも無いのだ。
「そう。女王陛下は人間じゃあないの。何たって、あのお方は、『リキテインブルグ』の女王であ
られる以前に、美しき海の鳥乙女、シレーナの長であられるお方なんだから。見たら少しびっく
りするかもね…?」
「シレーナ…、つまり…、セイレーンでいらっしゃったんですか…?」
独り言のように私は呟いていた。
よくよく観察して見れば、王宮の内装も、人間が創り出すものとは大分趣が異なる。そう、大
体、この構造自体が、人間向きではない。
王宮を塔のように仕立て上げても、人間では登るのが大変なだけだ。
だが、鳥乙女、シレーナでは違う。彼女達は半分は人のような姿をしているが、半分は鳥、し
かも水鳥の姿をしている。人と何よりも違うのは翼があるという事なのだ。
人と同じ程の身体ではあるものの、彼女達は空を飛ぶ事ができる。つまり、塔のような王宮
でも、階段を使わず、吹き抜けのような場所を一気に飛んでいく事ができたのだった。彼女達
に階段や梯子といったものは不要なのである。
私達があくせくしながら階段を登っていると、やがて、塔の上の方から、綺麗な歌声が聴こえ
て来た。
透き通るような声の、綺麗な歌声。水が流れるような美しい旋律が、塔の上の方から聞こえ
て来ている。
誰の声だろうか。聞いた事も無いくらいに美しい歌声だった。
「あっ。女王陛下、歌っていらっしゃる…」
ルージェラがそう言った。
「入って良いのは、私達だけのようだ」
と、カテリーナも言い、騎士達の方を振り返った。すると、暗黙の了解があるのか、塔の上層
部まで登って来た騎士の内、大半が、その場からそそくさと引き返そうとする。
そうしたのは全て、男の騎士達ばかりだった。
「わ、私は良いんですか?」
と、訳も分からず私は尋ねる。
「だって、あなた女の子でしょ? シレーナの歌声って言うのは、男が無闇に聴いちゃあいけな
いものなの。何せ彼女達の歌声には強い魔力が篭っているからね。もし男が聴いたら、めろめ
ろになっちゃう。それに、シレーナの長であられる女王陛下の歌声ってのは、ただ声に出され
ているだけでも、凄い魔力があって、男は近づけないくらいなの」
「はあ…、そうですか…」
ルージェラの説明に私は納得し、女だけになったカテリーナとルージェラ、他に私と3人の騎
士達と共に上層階へと向かった。
階を登っていくにつれ、歌声はよりはっきりと聴こえるようになった。それが強い魔力を持って
いるとは私には分からなかったが、綺麗な歌声、それも人間離れしたものだという事が私にも
分かる。
迫力のある歌声というわけではない。そよ風に乗って聞えて来るような、心優しい歌声であ
る。水のせせらぎのような旋律と共にそれは聞こえて来て、私達の周囲を漂っている。
男を誘惑するような歌を、シレーナ、またの名をセイレーンは歌う。と、子供の時は聴かされ
たような気がする。だが、女である私が聴くこの歌声は、それとは違った。
歌声を聴いているだけで、どのような人物が歌っているのか、それを頭の中に思い描かせて
くれる。
おそらくは、すらりと背の高い、大人の女性。容姿もかなり美しいはずだ。
私達は階段を登り、ある扉の前までやって来た。その扉は豪華な装飾が施された、大きな両
開き扉。扉を見ただけでも、ここが重要な人物の居る部屋であるという事が分かる。
「『フェティーネ騎士団』団長、カテリーナ・フォルトゥーナ、並びに、『フェティーネ騎士団』の者数
名、女王陛下の言伝を聞き、只今参りました」
カテリーナは、扉の向こう側にも聴こえるであろう、大きな声で堂々と言った。割りと迫力のあ
る声。今年で18歳に過ぎない彼女とはいえ、騎士団長であるという事を思い出させる。
と、そこで、扉の向こうから聞こえてきていた歌声は、ぴしゃりと止まった。代わりに、
「入れ」
と言う女性の声が聞こえた。
「はッ」
カテリーナは勇ましく答えると、目の前の扉を一呼吸置いてから開いた。
彼女が開けた扉から、光が差し込んでくる。日中の穏やかな日差しだ。扉の向こうの部屋に
はそれが満ちている。
扉の向こうには、広い空間が広がっていた。アーチ状の天井の天窓から日光が降り注ぐ広
間。等間隔で柱が設置され、床は、自分達の姿が反射する鏡のように磨かれていた。
建築様式は、この城自体にも言えることだが、『リキテインブルグ』の正規の様式。豪華さと
迫力のある、形を作り出している。
そして、その広間の奥には、大きな白いハープが置かれ、その向こう側に立つ、一人の女
性。
彼女が人間で無いという事は、見るからに明らかだった。
純白の翼が、彼女の背後で瞬いている。外の鳥でも滅多に見かけないような真っ白な翼が、
彼女の背後に広がっていた。
長い金髪を不思議な形に纏め上げ、人間離れした青白い肌。ハープの弦をなぞる指は人の
それよりも長く、爪も伸びている。だが、腕、そのものは人間と変わらない。ほっそりとした腕が
胴から伸びている。
彼女の身体の上半身は、翼が生えている事と細かな事を除けば人間だった。しかし下半身
は、鳥そのものだ。羽毛が生え、脚は人と同じ長さで二つあるが、鳥のようにかぎ爪を持つ脚
となっている。
彼女は白い絹のようなドレスをその身体の上に纏い、所々に金色の装飾品をしていた。顔つ
きは鋭く、眼も割と鋭い。少し近寄りがたいような雰囲気。
だが彼女には、一目で分かる魅力があった。例え人では無く、鳥乙女だったとしても、人間離
れして美しい。顔が整っている美人だからというのではない。真っ白な羽毛や整った肌、そして
何よりも雰囲気それ自体が美しい。さっきまで歌っていたのは彼女、ならば、声も美しいのだろ
う。
そして何より、威厳と迫力のようなものが、彼女の周りには漂っていた。ただそこにいるだけ
で放たれている空気。
彼女こそが、西域大陸の南部に広がる強国、『リキテインブルグ』の女王にして、シレーナ族
の長、ピュリアーナ・デ・ラ・フォルテッシモ 18世だった。
彼女はハープから手を離し、ゆっくりとカテリーナ達の前に出た。
私達は広間の中央辺りまで歩いて行き。ゆっくりと膝を付いて頭を垂れた。私も同じようにし
た。
女王は、カテリーナの前に立ち、彼女を見下ろした。女王は何歳くらいだろう? 私達ほど若
いわけではない。人で言えば30を過ぎた辺りの成熟し切った女性だ。だが、エルフを思わせる
ほどの顔立ちの整い方。びっくりするくらいの美人である。おそらく男性が彼女を見たならば、
その美しさに卒倒してしまうかもしれない。
だが、カテリーナを見下ろす彼女の顔付きは、かなりの威厳に満ちていた。
「カテリーナ・フォルトゥーナ…、並びに『フェティーネ騎士団』の者達よ。よろしい。顔を上げよ」
ピュリアーナ女王は、歌っている時よりは随分と低い声でそう命じてきた。
私達はゆっくりと顔を上げた。最も前にいるカテリーナのすぐ前に女王はいる。女王は、何か
のオーラを発しているように私には見えていた。
カテリーナにも、その存在感、18歳の女とは思えないような、騎士団長としての、そもそも人
間としての存在感というものがあった。しかしこの女王は、そんなカテリーナの存在感を包み込
むかのように、そのオーラを放っている。それは眼には見えないものだが、明らかなものだっ
た。
これが、シレーナ達の持つという、人間を魅了する魔力なのだろうか。
私達は顔を上げ、シレーナの女王にその顔を向けた。
「またしても、お前達の活躍を感謝している。あの『ディオクレアヌ革命軍』の連中をこの国から
締め出す事ができてな…。だが、その代償として、肝心の者を失ったのは残念だった…」
カテリーナのすぐ側でひざまづくルージェラが、ぴくりと反応した。彼女は少し顔をうつむかせ
る。
「騎士たる者、いつその命を散らしても良いという、覚悟はしておかねばならない。しかし、彼女
を失う事になったのは、私としても悲しい。シレーナを代表して、私からも、クラリスには哀悼の
意を述べたい」
ピュリアーナ女王は、変わらぬ声でそう言った。胸に手を当て、誰を見るとでもない方へと視
線を向ける。
「それで…、我々をここへと呼ばれたのは、何故でしょうか…?」
しばらくの間、黙祷の後、久しぶりに聴く事になる、カテリーナの敬語口調。自分が剣を誓っ
た女王の御前であるのだから当たり前ではあるが。
「『ディオクレアヌ革命軍』討伐の為だ…」
と、ピュリアーナ女王は、再びカテリーナと目線を合わせて言った。
「それでしたら、以前より与えられております任務です。わざわざ呼ばれる必要は無いかと思わ
れますが?」
その視線に怯える事も無くカテリーナは言った。
「2日後の宵、西域7カ国の各国から、有力者が揃う。各国の最も力のある騎士団団長や将軍
がな…」
「えっ…。ほ、本当に…?」
そう、驚いたように声を発したのはルージェラだった。私も驚いてはいたが、声には出してい
ない。
西域7カ国。つい100年前までは西域大陸の覇権を手に入れるため、無数の小国に分かれ
て戦争をしていた7つの地方の国。その戦争の後、大陸の国々は均衡を保ち、今の7つある
国に安定した。そして、長きに渡り、大陸には大規模な戦争も無く、表向きは平和が続いてい
る。
だが、国同士の関係は、『リキテインブルグ』と『セルティオン』のように同盟的なものばかりで
はない、未だに国同士がそれぞれの事を快く思っていないし、何かがきっかけとなり、戦争に
なる事もありうる。
そんな7つの国の、軍事の中心である騎士達が一同に会す。それもこの『リキテインブルグ』
の《シレーナ・フォート》の地で。
前代未聞の出来事だ。
「その目的は、『ディオクレアヌ革命軍』討伐の為なのですか?」
カテリーナは変わらぬ口調で女王に尋ねた。
「そうだ。お前達も気がついていると思うが、あの革命軍は、もはや西域大陸全てに危険をも
たらしている」
ピュリアーナ女王は言った。私も彼女の言葉に、思わず唾を飲み込む。
西域大陸全てに危険をもたらす。確かにそうだ。
私の故郷のあった『ハイデベルグ』という北の大地から、この南の『リキテインブルグ』まで、
彼らは勢力を広げているし、1年前には、『セルティオン』という一つの国の存在までもが転覆さ
せかけられた。
「戦国の世が終わって100年経つが、これほどまで、危機にさらされた事はない。革命軍が《リ
ベルタ・ドール》を襲撃して1年が経った。あの混乱はお前達によって制圧させられたと同時
に、他の国が非常に興味を持ったようだ…」
女王はカテリーナの前で話を続ける。彼女は普通に話しているというのに、何と通り、心に響
いて来る声なのだろう。
「興味…、ですか?」
と、カテリーナ。
「今まで、所詮、亜人種共の寄せ集めの強盗集団としか思っていなかった連中が、国家転覆を
図る力を持っていた、と言う事に対してだ。しかも奴らはドラゴンや、果ては『リヴァイアサン』な
どという存在までをも味方につけた」
「次は、自分達の国が危険にさらされるかもしれない。そう考えているわけですか」
カテリーナは、ピュリアーナ女王の顔を見上げて答えた。彼女は女王が醸し出している、強烈
なオーラのようにものを浴びてもびくともしない。動じる事無く、堂々と彼女の前で答えている。
「正直の所、この私もそうだ」
一同は黙った。じっと女王の方を見つめる。彼女の持つ白い翼がゆっくりと空気をかき混ぜ、
一枚の白い羽が床に落ちた。
「私も思う。次はこの『リキテインブルグ』。そして《シレーナ・フォート》。そう。我らが国が狙われ
るのではないかと、『セルティオン』ではお前達が防いだが、本当に次からも革命軍を止める事
ができるのだろうか、と」
「そ、そんな…。この《シレーナ・フォート》は、西域大陸一の強固さを持つ城塞ですよ? 《リベ
ルタ・ドール》とは訳が違います。それに、騎士達や警備兵も大勢いて、そう簡単に奪い取れる
ような城なんかじゃあ、ありません。今までだってそうでした。これからだってそうです」
と、ルージェラは、危惧する女王に言った。
「ルージェラよ。お前は本当にそう思うのか?」
ピュリアーナ女王はルージェラの方に顔を向ける。彼女の強烈な視線が、ルージェラの方へ
と向けられた。
「え、ええ…。そう思います」
ルージェラはそれにびっくりしたように答える。
「相手は、ディオクレアヌ・オッティラが率いている軍勢だ。奴は、この国の、しかも元『フェティ
ーネ騎士団』の者。お前達と同じ立場にあった者だ。これがどういう事か分かるか?
奴はこの国の事を知っている。自分達がどう出れば、我々がどう出るかを知っているのだ」
女王は迫力のある声でそう言うのだった。
「だから、他の6カ国と手を組み、解決策を見出すと言うのですか?」
そう言うカテリーナの声は、ルージェラのものに比べれば幾分も落ち着いていた。
「そうだ。だが私も、全ての国を信用しているわけではない。『セルティオン』、そして距離はある
が、『ハイデベルグ』は信用できるだろう」
ピュリアーナ女王は私の顔を見て来た。彼女は既に、私がブラダマンテだと言う事を見抜い
ている。
『ハイデベルグ』が信用できる、と言うのは、出身である私の事を配慮した言葉なのだろう
か。
「沿岸三カ国、『ベスティア』『エカロニア』『レトルニア』は我々の条件次第で応じるだろう。だが
『ボッティチェリ帝国』が問題だな」
「ええ…」
カテリーナは女王に同調して言った。
「帝国からも、この国へと使者が来るのですか?」
驚いたように女王に尋ねるルージェラ。
「ああ、来るとも。我々からの密使を送った時は、かなり渋ったとの報告を受けたがな。しかし、
彼らもこの国の内情を知りたい事だろう。自分達の情報は小出しにしておいて、こちらの情報
を探って来る」
「全世界が危機に陥っても、静観して、逆にそれを利用しようかっていう国ですよ…。この国ま
で使者が来るって事だけで驚きです」
と、ルージェラ
「だが、構わん。帝国も我々側にいるという所を見せてやるだけで、革命軍側としては脅威の
はずだろうからな。目的はそれだ。全面的な協力が得られるとは考えていない」
女王達が話している『ボッティチェリ帝国』とは、西域大陸北に位置する、巨大な帝国の事。
今では、ただじっと北の地に佇んでいると思われているが、戦国時代やそれ以前には北の大
帝国として脅威となる存在だった。
分裂して争う、南側の『リキテインブルグ』も合わせた小国達。だが、帝国は周辺諸国も次々
と侵攻し、北からその勢力を拡大して行ったのだ。その国々には、私の故郷である『ハイデベ
ルグ』も含まれる。ただ、『ハイデベルグ』の場合、戦国時代以前から、『ボッティチェリ帝国』と
隣国として存在していた。
故に交流も深く、帝国と『ハイデベルグ』は同盟国となったわけだ。戦国が終わり、帝国の国
力が低下しても、『ハイデベルグ』は同盟を続けている。
それは、北の厳しい地にある帝国は、私の国にある温暖で豊かな土地で育まれた農産物が
欠かせないからなのである。しかし、軍事力ではとても帝国には及ばない。『ハイデベルグ』は
帝国には顔が上がらず、ずっと、顔色を伺いつつ、従っている。ただ侵攻もさせない。最初から
付き従っているだけ、そんな状況だ。
しかし女王は、そんな帝国と同盟であるはずの『ハイデベルグ』を、信用できると言って来た。
やはり、私の事を考えての事か。帝国が今では国力を低下させ、『ハイデベルグ』には干渉し
て来ない事を意識しての事か。
「我が『リキテインブルグ』からは、カテリーナとルージェラ。お前達に参加してもらう。もちろん、
主催者という事で、この私も参加する」
「はッ」
カテリーナとルージェラが、ほぼ同時に声を出した。
「皆が集まるのは、2日後の宵だ。支度をしておけ。話し合いが行われるのは、この宮殿の黒
翼の間だ」
「はッ」
「そう、それと…、それから…」
カテリーナ達が答えて間も無く、女王はその場にいる全員の顔を見回し、
「ブラダマンテ、ブラダマンテ・オルランドと言う者よ。立ち、その顔をこちらに見せなさい」
「は、はい…!」
私は驚いたようにその場で立ち上がった。そして、ピュリアーナ女王と目線を合わせる。彼女
の、青い宝石のような瞳が私に向けられる。それだけでも、身を引き締められている気分だっ
た。
女王は私と目線を合わせ、何を見ているのだろう。私が、傭兵をしているとは言え、ただの若
い女、今年で17歳になったに過ぎない娘だという事を見ているのだろうか。
「昨年の《リベルタ・ドール》奪回、そして、それより後の、革命軍討伐作戦では、あなたの協力
があってこそのものだったとカテリーナより聴かされた」
「い、いえ、そんな…」
私は、驚いたように顔を赤らめて、そう答えた。
「あなたは、『ハイデベルグ』から来たそうだな? ブラダマンテ」
「え、ええ、そうです…」
舌も上手く回らないままに私は答えている。
「国に、戻らないのか? あなたの境遇は私も知っている。大陸全土が革命軍に脅かされてい
る今、どこにいても同じだと思うが…?」
ピュリアーナ女王は言って来る。確か、前にも誰かに似たような事を言われた気がする。だ
が私は、
「例え、祖国に帰っても、故郷はもうそこにはありません。家族もいないんです。それに、国に
帰っても保護されてしまうだけ、自分から動く事はできません。
ですから、私にこの国で今まで通りに協力させて下さい。今の私に、自分からできる事はそ
れだけなんです」
ピュリアーナ女王はそう言った私の方に目線を合わせて来る。彼女は、まるで私の眼から心
の中まで見透かしてしまおうかという目線をしていた。
その目線に私がたじろぎ、それ以上何も喋る事ができずにいると、
「女王陛下。私からもお願いします。彼女は見た目こそ、若い娘に過ぎませんが、彼女は我々
にとって、心強い味方です」
カテリーナが間に入って来た。ピュリアーナ女王は彼女の方を向く。
そして、今度は、カテリーナの方を向き、彼女の心の中を読み取ろうとでもしているのだろう
か。
「お前のその判断を止めはしないぞ、カテリーナ」
女王は堂々と言った。
「お前の事を信頼している。だから、お前に任せよう。カテリーナ。そしてブラダマンテ。あなた
には、我が国の傭兵として相応の報酬を払わねばならんな?」
「あっ…。それに関しては、どうぞ、お構いなく…」
報酬と言っても、今、私に必要なのは生活して行くだけのお金だけだ。あまり貰いすぎても困
ってしまう。
「まあ…、あなたには、我々も色々と助けられているからな。カテリーナが信頼していると、口に
出せる程の者だ。私としても信頼してよかろう」
女王はそう言いながら、私達に背を向けた。彼女の背中から生えている大きな翼がまたたい
ている。
彼女は、広間の奥の方にある、豪華で大きな椅子まで歩いて行くと、それに座るのだった。
そして脚を組んで、威厳と共に堂々と言い放つ。
「では、2日後の事、任せたぞ」
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王都《シレーナ・フォート》にやってきた、ブラダマンテ達は、この国を統べる女王である、ピュリアーナ女王に謁見します。 |
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