No Surrender(エレンシア戦記)
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          ●No Surrender●

 

 

 

 

 

 

 

 

  いつか雲は太陽さえ隠し

 

  風のナイフで明日を傷つける

 

    くじけそうになった時は

 

    その手を伸ばして

 

 

 

       君をずっと変わらずに 愛してる

 

 

 

                      Song by 草尾 毅

 

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本当は貴女を誰にも渡したくはなかった。

 

 たとえ、それが敬愛してやまないあの人だとしても---------。

 

 

 

 スペッサルト殿下に付き従ってきたその女(ひと)を見て、俺は胸の鼓動が早くなるのを感じた。

 

(ミーティアさん・・・生きていたんだ)

 

 その女(ひと)の名はミーティア=エスティナ、エスメル殿下の恋人だった女(ひと)だ。だった、というのは先の戦争でエスメル殿下は戦死してしまったからだ。殿下は旧エレンシアの第一王子であり、あんなことがなければ今頃王位を継いでいるハズだった。

 幼い日、俺はエスメル殿下を兄のように慕っていたものだ。年若いのに理想の国家を造るという信念に燃えていた人だった。まだ小さい俺たちを集めて、殿下は国造りについて熱く語ってくれた。俺もケニッヒスも、もちろんラピスも、そんな殿下の話を聞くのがとても楽しかったのを覚えている。

 そして、殿下の隣には、いつでもミーティアさんがそっと寄り添っていたことも。

 ミーティアさんは俺の憧れだった。いや、ケニッヒスのヤツもきっと憧れてたに違いないが------。

 ゆるやかにウェーブした翠の髪は艶やかで、スミレ色の瞳は美しい宝石のようだった。

 だけど、その瞳にはエスメル殿下しか映さなくって-----。

 あの頃はそれでも良かった。ただ、あの女(ひと)の側に居られるだけで。そう、あの頃は・・・。

 

「ミーティアさん・・・良かった、生きていてくれて」

 

「ファイゼル・・・なの?」

 

 俺を一目見るなり、ミーティアさんは途端に泣き笑いのような顔になった。

 

「八年ぶりになるのかしら? すっかり逞しくなっちゃったわね。昔はよくラピスに泣かされてたものだけど」

 

「な、そんなこと覚えてたんですか?」

 

(おいおい;)

 

 俺は額を押さえた。今までの俺の人生の中で、抹消しちまいたい過去ナンバーワンだ・・・・・・。

 

「うふふ、ごめんなさいね。私の中ではあなたはまだ十歳の子供なの」

 

 ミーティアさんの中では、おそらくあの日から時間が止まってしまっているのだろう。最愛の人を失ったあの日から。

 そんな彼女がなぜあんなヤツと行動をともにしているのか? 俺はその疑問をミーティアさんにぶつけてみた。

 

「エスメル様が戦死したときに私も後を追おうとしたわ」

 

「そんな・・・」

 

「でもね、それを止めてくださったのがスペッサルト殿下なの」

 

「あのバカ殿がっ?」

 

「自害しようとした私に殿下は言ったわ。バカなことをするな。お前まで死んでどうするって」

 

「ヘェー、アイツもたまにはいい事も言うんだな」

 

 俺は心底驚いた。そしてほんの少しだけヤツを見直した。

 

「ふふ、でもその後に続いた言葉が、死んだヤツのことはさっさと忘れて余の愛人にならぬか、だったけど」

 

 前言撤回!! やっぱりアイツはバカ殿だっ!!!

 

「今はあの人の遺志を継ぐために生きていこうと思ってるわ」

 

 勝てねェな。そう思った。エスメル殿下、死んでさえあんたはミーティアさんを独り占めにするってのか。

 

 俺たちがそうして立ち話をしていたら、バカ殿のヤローがすげぇ顔でこっちを睨んでいた。

 

「ミーティア、何をしておるのだ。早く、部屋に案内せい」

 

「はい、只今。ファイゼル、それじゃね」

 

 ミーティアさんは、俺に微笑むと急いで駆けて行った。

 甘い香水の残り香がふわりと鼻を刺激する。

 

「ミーティアさん」

 

 胸の奥がチリチリと灼けるのを感じて、俺はハッとした。青臭い初恋だと思っていたけれど、もしかして俺はまだ--------

 

「ミーティア・・・さん」

 

 俺はもう一度、その名を呟いた。

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時計とにらめっこしながら俺はイライラしていた。約束の時間はもうとっくに過ぎているというのに、ミンのヤツが来ないのだ。今日は一緒に訓練するハズだったのだ。

 

「あんにゃろーーー!!」

 

 いい加減キレてミンの部屋に行くと、ドアには小さなプレートが掛けられていた。

 

「んー、何々? ミンちゃんはお休み中、起こさないでな? んだとぉ〜?」

 

 何だか力が抜けて、俺はミンを起こすこともせずに踵を返した。

 すっかり出端挫かれ、訓練を断念して書庫に向かうことにした。戦術書でも読むとするか。

 そっとドアを開けると、広い書庫にひとりだけ先客がいた。ミーティアさんだ。

 

「あら、ファイゼル」

 

「おはようございます」

 

「今日はミンちゃんと一緒じゃないのね」

 

「すっぽかされたんですよ。アイツ、まだ寝てやが・・・いえ、寝てるみたいで・・・」

 

「まあ」

 

 ミンちゃんらしいわねと、ミーティアさんは笑った。思わず引き込まれてしまいそうな、綺麗な笑顔だった。

 

「隣どうぞ。よかったら一緒に勉強しない?」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんよ」

 

 俺は幾分緊張しながらミーティアさんの隣に腰を降ろした。

 ほのかな香水の香り。

 

「ファイゼル、エレンシアを出てからフェンリルにいたんですってね。ラピスから聞いたわ」

 

「え、はい」

 

「フェンリルと言ったら大陸最強の傭兵集団よね。すごいわ」

 

「いえ、そんな大したことは・・・」

 

「あれから八年-----まだ小さかったのに・・・苦労したんでしょうね」

 

 美しい眉を寄せて呟くとミーティアさんはそっと瞳を伏せた。

 

「そんなことは・・・。それを言うならミーティアさんだって・・・」

 

 憂い秘めた横顔に、目が釘付けになる。

 きれいだ、すごく・・・・・・

 

「ううん、私は幸せだわ」

 

「うそでしょう」

 

「ファイゼル?」

 

 俺の言葉に、ミーティアさんはハッとして振り向いた。

 

「あんなバカ殿の側にいて、貴女が幸せのハズがないでしょう。まだ、エスメル殿下を愛してらっしゃるくせに」

 

「ファイゼル・・・」

 

 ミーティアさんは俺の名を呟いたまま絶句してしまった。

 

「俺じゃ、だめですか?」

 

ごく自然とそんな言葉がこぼれた。

 

(だめだ! 何を言ってるんだ、俺は?)

 

 心の奥で見えない何かが警鐘を打ち鳴らしていた。

 

「俺じゃ」

 

(よせ、やめろ!)

 

 だけど、もう止められない。気づいてしまったから-----自分の気持ちに。

 

「エスメル様の代わりにはなれませんか?」

 

「ファイ・・・ゼル、何言って・・・」

 

 大きく見開かれたスミレ色の瞳が、俺を見つめたまま激しい戸惑いに揺れている。

 

「ずっと・・・憧れてました。ガキの頃から」

 

 ミーティアさんの腕を掴み引き寄せた。たがが外れたように、細い体を抱きしめる。

 

「ファ、ファイゼル」

 

 俺の腕の中で身じろぐミーティアさん。

 こんなに温かい体温を感じてしまったら、もう止められない!!

 

「だめ、放して、ファイゼル・・・」

 

 人が聞き咎めるのを憚ってか、小声で叱責する。

 

 

 

「俺のこと、嫌いですか?」

 

「嫌いなわけないでしょう? あなたは私にとっては大事な弟みたいな・・・」

 

"弟"のフレーズに、俺の中のリミッターが音をたてて外れた。

 

「弟なんかじゃ、弟なんかじゃないっ!!」

 

 俺の腕から逃れようとするミーティアさんの手首を掴み、強引に唇を奪う。

 

 好きだ 好きだ 好きだ!!

 

 この気持ちはエスメル殿下には負けない。

 

 弟だなんて言わせない。

 

 温かく柔らかい唇がさらに俺を煽った。もっと深く口づけようとしたら、ほっぺたに焼けるような痛みが走った。

 瞳に涙を溜めたミーティアさんが、俺を突き飛ばして平手打ちをくれたのだ。

 

「目を覚ましなさい、ファイゼル。あなたは勘違いしているだけよ。久しぶりに会えた懐かしさを恋だって・・・」

 

「ち、違う」

 

「大人を・・・からかうもんじゃないわ」

 

 唇を震わせてそう言うと、ミーティアさんは逃げるように出て行ってしまった。

 

「ってェ〜」

 

 たぶん赤く腫れているであろう頬を押さえながら、俺はひとり椅子に凭れていた。

 

「勘違い、か。ふ、きついな、ミーティアさん・・・」

 

 "弟"だと言われた。再会したときに言われた言葉が蘇る。

 

『私の中ではあなたはまだ十歳の子供なの』

 

「八年のブランクは大きいよ、な」

 

 でも、と俺は思った。

 

 今はまだエスメル殿下には勝てないかもしれないけれど、いつか必ず振り向かせて見せる。

 

 

 そう、いつか必ず・・・・・・。

 

 

 

                            end★

説明
「キャッスルファンタジア エレンシア戦記」より、ファイゼル×ミーティアを書いてみましたvv
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タグ
キャッスルファンタジア エレンシア戦記 ミーティア 

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