真・恋姫無双 花天に響く想奏譚 2話 |
<第2話 昇りゆく月>
・寄る影・
「なに、変な服着たガキ?」
「へ、へぇ。でも妙な女にやられて…」
「ったく使えねぇなぁ、 まぁいい。おら、もういくぞ。」
その言葉に応じて、総勢50人に及ぶ集団が動き出した。
向かう先は、目下の小さな集落。 手には武器、
皆一様に略奪者の顔をした集団だった。
・お互いに紹介・
「そういえばこれって、お兄ちゃんのやつなのだ?」
赤いショートの子が、若干うなだれた様子の一刀にそう声をかけた。一刀が目を向けると、その子は黒いデイパックを抱えて近付いてきた。
「ん…あれ?それって…、どこにあった?」
「貴方が倒れていた傍に落ちていたが。…?貴方のものではないのか?」
否、これは自分が愛用していたものに相違ないが、なぜここに一緒にあるのかが疑問だった。
とりあえず受け取ってファスナーを開くと、中には色々と入っていた。
「これ俺のっ…」
まず出てきたのは、腕の丸みに沿うように湾曲した、黒く光を反射するタイルらしき物が鎧戸状に数枚つけられた手甲。手の甲部分は地で繋がっていて手首が自由に動かせ、数本のベルトで腕に装着、固定できる構造になっている。
次はフィンガーレスグローブ。第二関節から先が無く、かわりに指の甲面に手甲と同じ黒いタイル状のものが付いている。
もう一つが、足の甲部分を守る言うなれば足甲(そっこう)。同じく黒いタイルが付いていて、今履いているスニーカーの上からでも着けられる作りの物。
他にもモノキュラーやコンパス、セレーション付きのシースナイフ、あと財布に携帯電話等普段持っている小物類。それらが入っていた。
「なんでこれが…って、携帯はやっぱりだめ、か。」
圏外を確認して尚のこと今の状況が事実だと思った一刀に、
「えとあの、それで…、貴方は天の御使いさん、なんですか?」
桃色の髪の娘が聞いてきた。
「?、てん、の…?いや、名前は北郷一刀、だけど。」
なんのこっちゃ、な一刀に対して、
「え、あ、はい。私は劉 玄徳、です。ほら、愛紗ちゃんと鈴々ちゃんも。」
「桃香様が名乗られたなら私も。私は関 雲長だ。」
「鈴々は張 翼徳なのだ!」
…似合わない名前を名乗ってくれた。 …待て、りゅうげんとく、って
「北郷が姓で、一刀が字、ですか? 二文字姓って珍しいですね。」
「いや、俺の名前はそういうんじゃなくって、…それより、もしかして君って劉備 玄徳、って言うんじゃ」
言うと同時に、サイドテールの娘が…たぶん青竜偃月刀、を突きつける。
「…っ?!」
と、一瞬驚いた表情を垣間見せたがすぐに目を鋭くして、
「なぜ桃香様の名を知っているっ?」
語気を強くして言った。それを桃色の髪の娘が制止した。
「だ、だめだよ愛紗ちゃんっ、武器おろして! …すいません、あのもしかして、こっちの愛紗ちゃんと鈴々ちゃんの名も知ってたりしますか?」
…どうやら本当に彼女は劉備玄徳という名らしい。 と、いうことは。
「…耳かして。」
「はい。…ぅんん、くすぐったいですよぉ。」
「あぁもう我慢してって!」
「……、っ、すごいよ、この人二人の名も知ってる!」
まさかと思ったが、やはり合っているらしい。同姓同名もありえないことではないが、青竜刀を振るう関羽 雲長と言う名の人間が歴史上何人も居てたまるか。一刀の知っている関羽は男だが。
つまり。三国志で有名な三人が、なぜだかは知らないが歳若い女性になっているという、なにこのパラレルワールド、な状況らしい。 …ほんとになにこの状況。
「ねっ、見たこと無い白い服着てるし、私たちの名前全部知ってるし、流星が落ちたところに居たし!やっぱりこの人天の御使いさんだよ!」
喜色満面で他の二人に向き合うが、先ほどからの謎単語が気になる。
「?、ちょっと、流星って?それにさっきから天の御使いって言ってるけどなんのこと?」
で。
「…つまり噂の予言通りの白い流星が落ちたところに俺が倒れてて、それを見つけたのが君たちで、だから俺がその天の御使い、と。」
そしておつかい、ではない、と。
「はいっ!ですから、私たちに力を貸して下さい!」
「って、言われてもなぁ…」
つぶやくように言って間を作り、一刀は整理できた情報を口に出す。
「…まず、俺は天の国ってのから来たんじゃない。俺が居たのは…今から1800年あとの時代だよ。君たちのことを知ってたのは、昔の時代にそういう名前の人が居たのを知ってたから、って言っても、俺が知ってる劉玄徳、 って人は男だけど。」
「ふぇ? …愛紗ちゃん、私、男の子だったの?」
言いつつ自分の胸をぽすぽす押さえる。 揺れるからやめなさいっ
「いえ、桃香様は紛れも無く女性かと…」
「いやそうじゃなくて、えっと、とにかく俺が知ってる歴史とは違う昔に来た、っていうか、なんて言うか…」
だめだ、小さい子どころか大きい二人も首をかしげて疑問の表情。諦めよう。
「まぁともかく。俺は確かにこの世界からすればかなり特殊なやつとは思うけど、俺は別に妖怪とかそんなのじゃないし、妖術とかの力が使えるわけでもない、…普通の、人間だよ。」
最後のくだりで若干声のトーンが下がったが、三人は気にせずに、
「で、でも今の人たちには無い知識はありますよねっ、それなら充分ですよ!」
「それに、事実この世の方ではないのは確かのようですし。」
「見たこと無い服着てるからだいじょうぶなのだ!」
それぞれ思い思いのことを言ってきた。
…劉備さん、充分ってなんか引っかかるけどどういう意図があっての言かな?
とも思ったが、彼女たちの目は真剣だった。
それが分からない一刀ではない。
・たかり来る蟲・
「ってわけで、明日にはこの先の邑に移ることになってるんだよ。だからその手伝いしてくれるんなら泊めてもいいよ。」
人の良さそうなおばちゃんにそういわれ、三人は安堵の表情になった。
「どうもありがとうございますよ。 ところでいきなりで悪いんですけど、向こうのほうに流星が落ちましてね?見てきていいです?」
平坦ながらも物怖じしないしゃべり方だった。無遠慮、でなくフレンドリーな印象。
「流星って、あの噂のかい?あぁ、確かにさっき地響きがあったけどあれって流星が落ちた音?あたしら皆で打ち合わせしてたから見てなかったけど。」
「は、はいっ、あのそれで、見てきていいでしゅか、ぅう…」
「っ、ははは。なにも取って喰やしないよ。いいけど、戻ったら荷造り手伝ってもらうよ。」
そしておばちゃんは「ほら、荷物そこに置いていってきな。」と言って外に出て行った。
「ん〜、しかし賊が離れた所にも出るから村を捨てるですか。世知辛いもんですよ。」
道具が入ったつづらを置いて、平坦少女は二人に向けて言った。
「そうですね…、やっぱり世の中の乱れが顕著になってますね…」
「だ、だから、はやく誰かにお仕えして」
「智を振るわないと、ですね。まぁそのためにも行ってみますか。流星が落ちたとこ。」
そう締めると、三人は家の外に出ようとした、 時だった。
「賊だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
・その手を取る・
「…なんでそこまで必死になるんだ?」
話を聞くと、こうだった。
市井・民草が重税・圧政・賊の被害に苦しんでいる現状をどうにかするべく、劉備の旅の道中、彼女の「力の無い人を苛める世の中を変える」という意志に共感した関羽、張飛が劉備に仕え、行く先々に出る賊を退治してまわっていたが。
細々とやっていても変わる筈が無く。かといって呼びかけても名の無い自分たちに賛同してくれる人もまた無い。だから、
「噂の予言の天の御使い、を探していたわけか。」
いわゆる祭りみこしになるというわけである。
「はい…そしたら噂が広まってる今に、流星が落ちて貴方が。」
「成程、お誂え向き、ってわけだな。」
「有り体に言えば。…しかし我々だけでは…」
「…もうどうにもならないのだ。」
行き詰っていて、しかしどうにも出来ないという自分たちのふがいなさを改めて思い三人はうなだれる。
…だめだ、無理だ。
「…分かった。」
こんな三人を無視するとかは。
「…ふぇ?」
泣きそうな顔の上目遣いとかはもう反則だと思うんだ。うん。
「どうせ行くあても帰り方も分からないし。それなら、俺が必要だって言う人に協力したほうが良い。…俺が必要なんだろ?」
そう言って、劉備に対して手を差し出す。 劉備の目に映ったその時の一刀は、
「っ、あ、ありがとうございます!」
夕日の光を反射して、白い服が光っていて。劉備が両手で握った手の主は、
それこそ、天の御使いのよう、だった。
「ご主人様!」
…ん?
・エマージェンシー・
「改めて!姓は劉、名は備、字は玄徳、真名は桃香、です!」
「同じく。姓は関、名は羽、字は雲長、真名は愛紗、と申します。」
「鈴々は姓は張、名は飛、字は翼徳、真名は鈴々なのだ!」
待て、まなってなんだご主人様ってなんだ、色々とあれでエマージェンシーだぞ。
「ちょ、ちょっと待って。え、なになんで俺がご主人様って」
「?、だって私たちに力を貸してくれる人、だからですよ。」
「左様。貴方は我等の希望とも言える存在。主とするのは必然。」
「よろしくなのだ!」
え、そ、そういうもの、なんだろうか?
「ま、まぁいいとして。それじゃあさっきのまなって何?」
「ん、真名が無いのですか?」
曰く、真名とはその本人の本質を示す、その人そのものの神聖な名であり、心を許し預けた相手以外は決して呼ぶことを許されないものらしい。
「…てっきり愛称かなにかとか思ってた。…もし呼んでたら?」
「すぐ首を切られても文句は言えないのだ!」
快活な笑顔でさらっと言ってくれる張飛。さすが子供。憎むに憎めない。
「そんなの許していいのか?」
「はいっ、私たちのご主人様、ですから!」
すると、
「…たしかに貴方なら、」
関羽が口を挟んだ。
「…預けるに値する方かと。」
その目は真剣だった。真名うんぬんとはまた別の件で。一刀もそれを察する。
「…と、言うと?」
「率直に申します。私と手合わせを願いたい。」
「あ、愛紗ちゃんっ?」
空気の変わった関羽を慌てて制止しようとするが、
「こればかりは引けません。 最初に見たときはどうとも思いませんでしたが、…強い、ですね?」
向き合う一刀と関羽。両者の間には、張り詰めた弓のふるえる弦、があるようだった。
「んにゃ?お兄ちゃん、強くは見えないのだ。」
「私も見たときは、な。今でもそれらしい気はないが。…武人として、貴方に仕える者として、貴方との手合わせを。」
そういうと関羽は、青竜偃月刀を片手で持ち、斜め下へと空を切る。
戦闘の意思表示、だった。
「…、どうしても?」
「はい。」
向き合って互いの目を見る。そのまま一分が過ぎると、一刀は自分のデイパックに向かった。
その中から例の黒い手甲を取り出して、制服の上着を脱ぐ。制服の下は黒い半袖のスポーツインナーのようなものを着ていて、手甲をその腕に装着した。
そこへ、
「…っ?!」
離れた所から聞こえた人の声。
その場の全員が声のほうに目をやると、 その先では、
夕方の村が、数十人の野党に襲われていた。
あとがき
やっとオリジナル要素が出せてきました。真名の一件は多少シリアステイスト、特に愛紗はこれくらいはやるべきかなと思い。あんな風になりました。
さて。次回は野党に襲われた村でさらに出会います。そして一刀、大暴れします。思いっきり暴れさせられたらいいなと思います。装備や武術に関しては次のあとがきか、設定まとめみたいので書くかと。
では。感想・意見等、あれば何でもお願いします。
説明 | ||
2話です。 まだオリジナル要素は薄いですが。 |
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コメント | ||
胡蝶さん 楽しみ、と言われると嬉しいです。 とりあえず、大暴れします。(華狼) 劉邦柾棟さん そう思えるような引きにしてみました。待っててください。(華狼) 次回とうとう戦闘に突入ですね!一刀は人を殺してしまうのか気になります。更新楽しみに待っています!(胡蝶) 次回が楽しみです。(劉邦柾棟) |
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