雪の炎と冥き雫(第1回恋姫同人祭り参加作品)
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君は、『火』のような人だった。

 

 

敵を焼き払うその熱は、いつだって俺の心を暖めてくれた。

 

 

君は、『水』のような人だった。

 

 

清濁全てを飲み込みながら、いつだって俺の渇きを潤してくれた。

 

 

そして俺は、『木』なんだと思う。

 

 

『水』によって育まれて、『火』によって火種を灯されたから。

 

 

爆ぜる火の粉。

 

 

流れる水音。

 

 

ふと見上げた夜空を、真白な光の川が横切っていた。

 

 

無邪気に騒ぐ子供達。

 

 

言葉や杯を交し合う大人達。

 

 

そして、

 

 

「ん、んぅ……一刀」

 

 

俺の隣、右肩に頭を預け眠る女性。

 

 

彼女を例えるとするなら、それは―――――

 

 

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―――――それは、茹だるような暑さが猛威を振るい、鳥達の鳴き声が蝉時雨に掻き消され始めた、夏のある日の事。

 

 

 

 

 

 

 

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『もう、夏真っ盛りだな……』

 

 

 

『あれから随分経ったなぁ。各地の治安も大分改善されたし、俺達の仕事量も結構減ってきたし……』

 

 

 

『……夏、か』

 

 

 

『……いい機会かもな』

 

 

 

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「お父さんが、遊んでくれない?」

 

「……うん」

 

場所は執務室。

仕事の合間の休憩時間を、蓮華はいつものように愛娘、孫登と共に過ごしていた。

紫苑の例があるように、将ともなれば『私』に費やせる時間は決して多くない。

増してやそれが国の代表ともなれば尚の事。

しかし、一刀はそれを由としなかった。

『子供が幼い内は、少しでも多く親と一緒にいるべき』

それは彼の育った家庭がそうだったのか、それとも自身の考えなのか。

何にせよ、周囲からの反対もさしたるものではなかった。

将とはいえ一人の親。

ましてや、心から惚れた男との間に生まれた初めて子供。

可愛くない訳がないのだ。

故に、最初こそ母親としての腕に自信の無かった者達も『我が子を愛でたい』という執念―――――は少々誇張かもしれないが、願望から必死に紫苑や先達者達から学び、今では立派な母親を務め上げていた。

そして今日もまた、茶菓子を交えながら親子水入らずの時間を過ごそうと思っていた矢先、愛娘から告げられたのは耳を疑う言葉だったのだ。

 

「さいきんのおとうさま、あんまりいっしょにいてくれないのです。おへやにいっても『ようじがあるからごめんね』って」

 

「信じられないわね。あの一刀が……」

 

早い話、一刀は親バカどころかバカ親状態と化していた。

子供と会えば必ず笑顔。

頼み事にはほぼ二つ返事。

まぁ、周囲から呆れられている様子はないし、締めるべき所はきちんと締めてはいるので大丈夫だとは思うが。

兎に角『一緒にいるべき』とまで言った本人が、子供と一緒にいるよりも優先させるような事とは、

 

「気になるわね」

 

「……おかあさま?」

 

「ねぇ、登」

 

「なんですか?」

 

 

 

―――――知りたくない?お父さんが何をしてるのか。

 

 

 

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親子揃って執務室に行ってみたが、既にもぬけの空だった。

その後、部屋にも修練場にも行ってみたが結局見つからず仕舞い。

偶々見かけたと言う女中に聞いてみた所、休憩時間になるとすぐに外出したという。

それも、態々馬まで駆り出して、裏手の森へ。

 

「街に出掛けてるんじゃなかったの……?」

 

問い質せばいいかと思っていたが、どうやらこれは小事では無さそうである。

せいぜい、何か『さぷらいず』でも用意しているのだろう、という程度にしか思っていなかった。

考えたくはないが、

 

「誰かと、会ってるんじゃないでしょうね……?」

 

裏手の森の川原。

よく内密の逢瀬に使われていた。

当然、そこで行われている行為といえば―――

 

「……ふフフふフ♪」

 

「お、おかあさま?」

 

「ワザわザなイしョにスるナンて、イッたイコんドハどコノダれにてヲダすきナのカしら、あノ種馬サンは?」

 

「ひぃっ!?」

 

「そ、孫権様っ、孫登様が怯えてらっしゃいます!!」

 

「―――――はっ!?いけないいけない……」

 

すぐに邪念を振り払い、愛娘に謝罪しつつ宥めてあげる。

どうも反射的に『そういう思考回路』に直結してしまいがちなのは自分の悪い癖だ。

……まぁ、それも『あの人』のこれまでの結果の産物なのだけれど。

久々だったので『ぶれえき』が弱くなっているのかもしれない。

 

「と、兎に角、一刀は裏手の森に行ったのね?」

 

「え、あ、はい」

 

「そう。登、行きましょう」

 

とまぁそんな訳で(どういう訳で?)我が子の手を引いて件の森へと向かったのだが―――――

 

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「……何してるのよ、あなた達?」

 

「あ、蓮華様も来られたんですね」

 

その森で目に付いたのは、孫呉が誇る猛将智将達+その愛娘達であった。

甘寧こと思春と甘述、黄蓋こと祭と黄柄、そして周泰こと明命と周邵。

それも隠れるようにこそこそと草むらや枝葉の隙間に隠れ、何かへと視線を注いでいた。

 

「思春……貴女まで、何をしているの?」

 

「申し訳ありません、蓮華様。しかし……述の奴が、どうしても、と」

 

「あ、こ、こんにちわ、そんけんさま」

 

「ふふっ、貴女も随分丸くなったわね……述、そう堅苦しくしなくてもいいのよ?いつも通りに呼んで頂戴?」

 

「あ……はい、れんふぁさん!!」

 

「蓮華様……」

 

「いいじゃない、思春。私はこの子達だって、我が子のように可愛いと思ってるのよ?例え言葉遣いだとしても、距離を感じるなんて嫌じゃない」

 

慈愛の笑みと共に思春の娘、甘述の頭を撫でてやる。

最近の思春も、そういった事に関して強くは否定しない。

未だ戦場を翔ける身でこそあるものの、普段は今のように髪を解き、女性らしい衣服を着る機会も徐々に増えていた。

やはり、母親という立場が女性に与える影響というものは少なくないのだろう。

 

「それで、皆はここで何をしているのかしら?」

 

「おや、権殿も同じでは?」

 

「……そういう言い方をするって事は、何か知ってるのね、祭?」

 

「あちらを、御覧なされ。気付かれますので、そっとですぞ?」

 

言われ、親子揃って草むらの隙間より先を覗き込む。

 

「一刀……」

 

見つかった人物は予想通り、しかしその行動は予想だにしていないものだった。

そして、その場所も。

 

「あそこは……」

 

「はい……堅殿の、そして、策殿と冥琳の墓ですな」

 

道端に並ぶそれは、よく探さなければ解らないような、小さな石三つ。

大切な人達が永久に、安らかに眠る場所。

一刀は丁寧に、丁寧に磨いていた。

周辺は綺麗に草刈りされており、小石なども残らず避けられている。

それは、休憩時間全てを費やしたとしても、たかだか数日で終わらせられるような仕事量ではない。

 

「ここの所、毎日だそうです。ここに来ては、お墓を丁寧に磨いて、お墓の周りも綺麗にして、最後にお参りして帰って、ずっとそれを繰り返されてまして」

 

「でも、お姉様や冥琳の、その、命日ではないでしょう?」

 

「そこがどうも解らんのです。かといって、北郷が理由もなくこのような行動をとるとも思えんので、こうして様子を見ておるという訳ですな」

 

その姿に、普段の父とは違う何かを見たのだろう、普段は遠慮なく甘えに行く子供達さえもが口を噤み、その背中をじっと見つめていた。

やがて一刀は墓石を磨き終え、

 

「うん、今日はこんな所かな?……後は、明日か」

 

(明日?)

 

その場で聞いていた全員の頭上に疑問符が浮かぶ。

訳が解らず首を傾げたままの皆に気付くこともなく、一刀はゆっくりと立ち去っていく。

そして、一刀が見えなくなったのを見届けて、皆は改めて墓石へと近づいていった。

 

「おかあさま、おとうさまはなにをしていたんですか?」

 

「……私にも解らないわ。でもね、ここは私達にとって、とっても大切な場所なの」

 

蓮華はそっと屈んで、孫登に視線の高さを合わせる。

 

「ここにはね、私のお姉様とお母様、あなたにとっての伯母さんとお婆ちゃんね、そして、私に大切な事を教えてくれた人が、眠っているの」

 

「おばさんと、おばあちゃん?」

 

「えぇ、そうよ」

 

(『伯母さん』なんて、本人が聞いたらきっと怒るでしょうけどね)

 

心の中で苦笑を零し、蓮華は墓石へと向き直る。

明命や思春、祭もまた同様に。

瞼を閉じ、祈りを捧ぐように。

そんな彼女達を見て娘達も、たどたどしくではあるもののその姿に習う。

どれほど、そうしていただろう。

鳥達の囀り。

木々のさざめき。

鼓膜を震わす全てが、辺りの静寂を際立たせる。

やがて、徐に立ち上がった。

 

「私達も戻りましょう。そろそろ、休憩も終わる頃だし」

 

「ですな。ほれ黄柄、帰って特訓の続きじゃ」

 

「は、はいっ、母上!!」

 

「述、我々も戻るぞ」

 

「はい、かあさま」

 

「周邵、歩けますか〜?」

 

「あぅ」

 

それぞれのペースで、各々の場所へと戻っていく。

そして、

 

「あの、おかあさま?」

 

「ん?何かしら?」

 

「どんなおかただったんですか?」

 

誰が、というのは言う必要もないだろう。

 

「ふふっ。そうねぇ。何から話してあげようかしら……」

 

記憶を辿り紐解きながら、二人もまたゆっくりと歩き出す。

勇ましい背中。

微笑ましい失敗。

思い返す思い出達。

 

 

 

そして、太陽は西の空へと沈み―――――

 

 

 

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一刀。

 

 

―――――あれ、蓮華?どうしたの、こんな真夜中に。

 

 

……今日、登が言ってたのよ。ここ最近、あなたが遊んでくれないって。

 

 

―――――あ〜、うん、悪いとは思ってるんだけどね、ちょっと外せない用事があって。

 

 

お姉様達のお墓参りの事?

 

 

―――――……見たの?

 

 

思春達と一緒にね。後で聞いてみたら亞莎や穏達も、皆知ってたわよ?

 

 

―――――あはは……まぁいいか、見られて困るもんじゃないし。

 

 

ねぇ、一体何をしてたの?

 

 

 

 

 

 

 

―――――……うん、実は、さ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

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翌日。太陽が西に傾き始めた頃。

孫呉の将達とその娘達、早い話が『一刀一家』(表現に齟齬あるか?)が玉座の間に集められていた。

というのも早朝、皆に言い渡された、一刀からのとある指示によるもの。

『各自、本日の業務は絶対に日暮れまでに終わらせ、玉座の間に集合する事。その際、子供達も必ず連れて来ること』

 

「一体、何が始まるんでしょうね〜?」

 

「さぁ、何でしょう?」

 

首を傾げる皆の後ろ、玉座の間の扉がゆっくりと開かれ、

 

「やぁ、悪いね。態々集まってもらって」

 

『一刀(様/さん)/北郷』

 

『おとうさま(おとうさん)』

 

「んじゃ、着いてきてくれるかな?」

 

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一刀に案内されたのは、やはり三人のお墓のある、あの場所だった。

沈み始めた陽光で辺りは茜に染まり、綺麗に掃除された墓石に幾重の影を落とす。

 

「一刀さん、何をするつもりなんですかぁ〜?」

 

「皆さんでお墓参りに来ると知っていれば、お供え物も持って来れたのに……」

 

「直ぐに説明するよ、穏。それと亞莎、お供え物の事なら気にしなくも大丈夫。俺がちゃんと用意してるから」

 

言うや否や、一刀は持って来た麻の袋から何やら乾いた干草を墓の前に積み上げ、火打石で点火した。

直ぐに燃え上がる炎。

ぼんやりと揺れる陽炎を見つめながら、一刀はぽつぽつと語りだす。

 

「……俺の住んでた国には『御盆』って風習があってさ」

 

「おぼん、ですか?」

 

「あぁ。祖先の霊を祀る行事でね、丁度今頃の時期に行われてる」

 

「じゃあ、一刀様がお墓の周りを綺麗にしたりしてたのは、」

 

「そう。釜蓋朔日って言ってね、その日から地獄の扉が開かれ、ご先祖様の霊が下界に降りてくるって言われてるんだ。お墓を掃除してたのは、彼岸から還ってくる人達が通りやすいようにって事。本当はここに来るまでの道も綺麗にしなきゃならないんだけど、ここは秘密の場所だし」

 

「だから、毎日ここに来ていたのか」

 

「で、今日で丁度十三日目。その夕刻に火を焚いて呼ぶんだ。『あなたが来るのはここですよ』って」

 

「……つまり、この火は、」

 

「そう、呼んでるんだ。孫堅さんと雪蓮、冥琳をね。で、これを飾る」

 

「胡瓜と、茄子ですか?それも、何か刺さってますけど」

 

「『精霊馬』って言うんだ。こっちにはマッチ棒も割り箸もないからね、木の枝で代用させてもらった」

 

「ほう、馬とな。どういう意味があるんじゃ?」

 

「胡瓜は足の速い馬に見立てて『あの世から早く家に帰って来れるように』、茄子は歩みの遅い牛に見立てて『この世から帰るのが少しでも遅くなるように』『たくさん供物を積んで帰れるように』って意味らしい。全部、爺ちゃんからの受け売りだけどね」

 

「じゃあ、ひょっとして、」

 

「うん、もうここに来てるかもね」

 

辺りを見回す皆。

一刀は酒瓶を取り出し、ゆっくりと順番に杯を並べ、注いでいく。

 

「……久々の酒はどうだい?それとも、そっちで浴びるほど呑んでたりするのかな?」

 

皆がその言葉に、耳を傾ける。

 

「普段から怒っていたけど、今日くらいは多めに見てやってくれな」

 

皆がその姿に、目を奪われる。

 

「なるだけ上等なものを用意させてもらいました。お気に召して頂けると思います」

 

そして、徐に立ち上がり、

 

「乾杯」

 

自らの杯へと注ぎ、ゆっくりと、飲み干した。

そして、

 

「ほら、皆も」

 

拒否する者など、いる訳が無かった。

 

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『こうして呑むのも、中々悪くありませぬな……』

 

 

 

くいっ

 

 

 

『……僭越ながら、頂かせて戴きます』

 

 

 

くいっ

 

 

 

『お元気ですか〜?どうかそちらでは、無理はなさらないで下さいね〜?』

 

 

 

くいっ

 

 

 

『お母さん、お姉ちゃん、冥琳……私は大丈夫だから、安心して見守っててね』

 

 

 

くいっ

 

 

 

『皆さんが守ってくれた今を、決して無駄には致しません』

 

 

 

くいっ

 

 

 

『私、もっと強くなります。もっと勉強して、皆さんのお役に立ってみせます。ですから……後の事は、任せて下さい』

 

 

 

くいっ

 

 

 

そして、

 

 

 

『お母様、お姉様、冥琳……有難う御座います。貴女達の御蔭で、私達は今日と言う日を生きる事が出来ています。孫呉の皆と、一刀と、そして、この子と一緒に……』

 

 

 

 

くいっ

 

 

 

訪れる沈黙。

 

 

 

不安や悲痛さでは決してない。

 

 

 

それは、ほんの少しの惜別。

 

 

 

割り切れるはずがないのだ。

 

 

 

諦め切れるはずがないのだ。

 

 

 

それでも、前を向かなければならないのだ。

 

 

 

歩みを止めてはならないのだ。

 

 

 

それが、三人が教えてくれた事だから。

 

 

 

酒の飲ませるわけにはいかないが、子供達も後に続いた。

 

 

 

小さな掌を合わせ、

 

 

 

小さな身体を屈め、

 

 

 

瞼を閉じて、静かに祈った。

 

 

 

理解してはいないのだろう。

 

 

 

しかし、大切な事だとは思ったのだろう。

 

 

 

誰もが表情を和らげ、祈りを捧ぐ子供達を見守っていた。

 

 

 

そして、

 

 

 

「さぁ、しんみりした空気はここまでだ」

 

 

 

一つの拍手と共に、一刀がその静寂を破った。

 

 

 

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一刻後。

そこには、笑顔が広がっていた。

いつものように酒に酔いしれる祭。

傍らで注意するのは、いつしかその制止役となっていた亞莎。

明命は偶々見つけた野良猫と戯れ、

思春は周囲を警戒しつつも、料理に舌鼓を打っていた。

穏はとうに酔い潰れて眠ってしまい、

小蓮は隠れているつもりなのだろうが、その巨大な膨らみを妬ましそうにいじくっていた。

そして、子供達は、

 

「ねぇねぇ、なにおねがいする?」

 

「私は、母上のような強い将になる事だな」

 

「えっと、えっと」

 

「しょうちゃんはどうするの?」

 

「あ〜、あぅ」

 

賑々しく話し合うその小さな手に握られているのは一枚の紙切れ。

そして、その直ぐ隣。

真っ直ぐ立てかけられたのは、一本の笹の木。

そう、七夕。

知る者は多くないが、これもまた盆の行事の一環なのだ。

七夕は『棚幡』とも書き、故人を迎え入れる為の精霊棚、それに安置する為の幡を拵える日でもあり、それを七日の夕刻から勤めた為に、何時しか『七夕』に転じたとされている。

当然、その七夕に纏わる逸話を語った際、子供達(と一部の将)は瞳を爛々と輝かせ、嬉々として短冊を受け取っていた。

 

 

 

そして、一刀と蓮華は―――――

 

 

 

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「あははっ……皆、楽しそうだな」

 

喧騒から少し離れた大木の根元。

一刀はゆっくりと杯を傾けていた。

その隣、蓮華はとうに船を漕ぎ、一刀の肩に頭を預けて眠っている。

時折、身じろぎと共に自分の名を呼ぶ度に、心が少しくすぐったくなった。

 

「……良かった」

 

こんな時が訪れて。

 

こんな時を過ごせて。

 

こんな時を生きられて。

 

こんな時を感じられて。

 

「でも、叶うなら……」

 

この時を望んでいた人がいた。

 

この時を願っていた人がいた。

 

この時を欲していた人がいた。

 

この時を生きたかった人がいた。

 

「……駄目だなぁ、酒が入ると、どうも涙腺が緩くなる」

 

微か、視界が滲む。

 

あの時、自分がもっと強ければ。

 

あの時、自分がもっと賢ければ。

 

もっと。

 

もっと。

 

そう思わずには、いられなくて―――――

 

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―――――なぁに辛気臭い顔してんのよ、一刀っ!!

 

 

 

 

―――――やれやれ、いつまで私達に甘えている積もりだ?

 

 

 

 

―――――軟弱な……その程度では、蓮華は任せられんぞ?

 

 

 

 

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「―――――っ!?」

 

辺りを見回す。

当然、何も見つかるわけがない。

幻聴か?

そう思い至ろうとして、

 

「……いや。案外、本物かもな」

 

零れる苦笑。

ゆっくりと夜空を仰いで、誓う。

 

「あぁ、解ってるよ……守ってみせるさ。全部、な」

 

差し出す杯に一瞬、三人の微笑みが映ったような、そんな気がした。

 

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君は、『火』のような人だった。

 

 

敵を焼き払うその熱は、いつだって俺の心を暖めてくれた。

 

 

君は、『水』のような人だった。

 

 

清濁全てを飲み込みながら、いつだって俺の渇きを潤してくれた。

 

 

そして俺は、『木』なんだと思う。

 

 

『水』によって育まれて、『火』によって火種を灯されたから。

 

 

爆ぜる火の粉。

 

 

流れる水音。

 

 

ふと見上げた夜空を、真白な光の川が横切っていた。

 

 

無邪気に騒ぐ子供達。

 

 

言葉や杯を交し合う大人達。

 

 

そして、

 

 

「ん、んぅ……一刀」

 

 

俺の隣、右肩に頭を預け眠る女性。

 

 

俺の背中を押してくれる人。

 

 

俺の火種を燃え上がらせてくれる人。

 

 

「『風』って所かな……?」

 

 

そっと頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

そして、思う。

 

 

俺は、大樹になろう。

 

 

どんなに大地が揺れ動こうと、

 

 

どんなに風雨にさらされようと、

 

 

どんなに傷付けられようと、

 

 

揺るがず、倒れず、立ち続けよう。

 

 

皆の為に。

 

 

俺自身の為に。

 

 

そして、何より、

 

 

「子供達の為にも、な……」

 

 

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それは、静かなる決意。

 

 

 

 

 

それは、静かなる萌芽。

 

 

 

 

 

やがて彼の名は後の世に、永く永く語り継がれる事になるのだが、それはまた別の話―――――

 

 

 

 

 

(完)

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後書きです、ハイ。

 

『夏』と聞いて、真っ先に浮かんだのが『御盆』でした。

 

俺の実家は二世帯住宅で、両親は共働き。

 

自然と爺ちゃん婆ちゃんに面倒を見てもらい、自然とそういう話を聞く機会が多くなりました。

 

皆さんとは随分違う雰囲気になってしまったかもしれませんが……俺にそういうのを期待されていた皆様、済みませんでした。

 

 

 

で、

 

 

 

今回の夏祭りの趣旨に則り、自分の紹介をば。

 

初めましての方は初めまして。

 

お久しぶりの方はお久しぶり。

 

峠崎ジョージと申す、物書きゴリラでございます。

 

現在、公開中の作品は以下の通り。

 

 

 

『真・恋姫無双二次創作 〜盲目の御遣い〜』

 現在、22話まで公開中の呉√オリ主もの。

 タイトルから想像できると思いますが、主人公は目が見えません。

 しかし、だからこそ『視える』ものがある。

 群雄割拠の乱世を、彼はどのように感じ、どのように生きるのか、そんなお話です。

 

『真・恋姫無双二次創作 〜蒼穹の御遣い〜』

 現在、3話まで公開中。こちらは主人公北郷一刀の魏√アフター。

 あの世界を後にして約7年、諦め切れずに足掻き続けていた一刀の元にあの漢女が突如現れ、言う。

 『あの世界に帰りたいか?』

 しかし、その為の対価はあまりに残酷無慈悲なものだった。

 

『?迎、瑚裏拉麺』

 要は恋姫達と飲んで食って騒ぎたいという宴会から生まれたお祭り企画。

 俺の気まぐれで開催するので非常に不定期。

 我がラーメン屋に御来店希望の方は一報を。

 『〜〜を食べたい』『〜〜と〜〜を話したい』

 その願望、俺の店でなら開放してやろう……

 

 

どれもまだまだ書きたいことだらけで、執筆スピードが追いつかなくて困っておりますww

 

大学やバイトの合間を縫ってちまちま書いておりますので、どうか更新の方を楽しみにしていただけたらと思います。

 

また、他にも魏√オリ主『沈黙の御遣い』蜀√オリ主『白鞘の御遣い』董√オリ主『被虐の御遣い』なんてのも密かに製作中。

 

で、俺のおススメですが、色々迷った挙句にこれにしました。

 

 

タンデムさん著『真・恋姫†無双〜江東の白虎〜』

 

一刀が孫家の長男に転生、孫江王虎として乱世を生き抜いていく、そんなお話。

実は俺が初めて読んだSS。

携帯サイトでちらっと見つけ、それまでは二次創作にあまり興味が沸かなかったにも関わらずのめり込み、『恋姫の二次創作』でネット検索かけてTINAMIに行き着いたって訳です。

ここの一刀がいい具合に俺の魂に火をつけてくれましてねぇ……チート一刀が嫌いでなければ、是非一度お試しあれ。

一刀帰還シーンの雄叫びには鳥肌ものでした……

 

 

他にも沢山あるんですが、大体は他の皆様が紹介してくれている作品なので割愛ww

 

まぁ結局の所『自分で発掘してみてください』って事ですね。

 

と、いう訳で。

 

 

 

 

―――――検索を始めよう。キーワードは『TINAMI』『恋姫無双』『二次創作』。

 

 

 

 

では、次の更新でお会いしましょうノシ

 

 

 

 

…………さて、メシにしよ〜。徹夜で書いたら腹減った腹減った。

説明
投稿59作品目になりました。
タイトル通り、僭越ながら『第1回同人恋姫祭り』に参加させて頂きました。
時系列は呉√アフターです。
俺の作品紹介やおススメは後書きにて。
拙い文章ですが、いつものように感想などのコメント、一言だけでも残していただけると非常に嬉しいです。

では、どうぞ。

2011/06/05:誤字修正しました。
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コメント
新咲柊さん、コメント有難う御座います。……家族を亡くすにぬるま湯も何もないでしょう。俺も曽祖父を亡くしています。小さい頃から何度も面倒を見てもらって、優しくしてくれて、だからこそ余計に辛かったです。妹さんということは、それ以上に一緒の時間を過ごしていた筈です。差出がましいかもしれませんが、心よりご冥福をお祈りします。(峠崎丈二)
乾坤一擲さん、コメント有難う御座います。その言葉だけで、書き上げた甲斐があったってもんです。(峠崎丈二)
森羅さん、コメント有難う御座います。少しでもしんみりして頂けたなら、嬉しいです。(これだけ聞くと無茶苦茶なこと言ってますけどねww)(峠崎丈二)
タンデムさん、コメント有難う御座います。今の俺があるのは、貴方の御陰と言っても過言でもないんですよ?本当に感謝してるんですから。頑張ってくれるのは嬉しいですが、無理はせんで下さいね?ww(峠崎丈二)
ryuさん、コメント有難う御座います。夏って昼間は凄く賑やかというかエネルギッシュな『動』のイメージがありますが、その反面、夕暮れは侘しさや寂しさといった『静』のイメージがあるんですよね。俺だけでしょうか?(峠崎丈二)
320iさん、コメント有難う御座います。俺はどちらかというと、賑やかな話よりも静かな話が書きやすいっぽいんですよね。確かに、そろそろ1年ですねぇ……(峠崎丈二)
有為転変さん、コメント有難う御座います。萌将伝で普通に生きていたので『……え?』となったのは今でも覚えてますww (峠崎丈二)
劉邦柾棟さん、コメント有難う御座います。彼女も自分でストップを掛けられるくらいに成長した、と言うことですねww(峠崎丈二)
YTAさん、コメント有難う御座います。個人的に、呉√のテーマは『家族』だと俺は思ってます。他√に比べて少ない登場人物。しかし、こう言っては何ですが、他√に比べて互いのつながりが非常に深いように思えるんですよね。俺如きの文章でよければ、どんどん盗んでやって下さいませww(峠崎丈二)
ZEROさん、コメント有難う御座います。賑やかな話は皆さんが書いてくれると思ったのでww 俺も毎年、御盆の休暇の恒例になってます。(峠崎丈二)
トトクロさん、コメント有難う御座います。自分の立場になって考えてみて欲しいですよね。自分が亡くなって、その事を自分の息子や孫達が何とも思っていない……悲しいと思いませんか?(峠崎丈二)
アロンアルファさん、コメント有難う御座います。俺は祖父母に育てられましたのでそれがさも当然のように思ってましたけど、世間じゃそうでもないんですよねぇ……自分達が生きてるのはご先祖様のお陰だというのに。(峠崎丈二)
狭乃 狼さん、コメント有難う御座います。強き意志は決して途切れる事無く、親から子へ、そのまた子へ……えぇ、またのご来店をお待ちしております。(峠崎丈二)
村主7さん、コメント有難う御座います。『虎は死して皮を残し、人は死して名を残す』俺の好きな諺の一つですが、彼女達が残したのはそれだけでは無かったという事ですね。(峠崎丈二)
黒山羊さん、コメント有難う御座います。開催者のあなたにそう言ってもらえて何よりです。(峠崎丈二)
関平さん、コメント有難う御座います。未だに何度もやり直す呉√のあのシーン。鳥肌が立つ度に、視界も滲んでしまいます……史実通りの結末とはいえ、悲しいですよね。(峠崎丈二)
2828さん、コメント有難う御座います。ありゃ、久々に誤字やらかしましたね、しかも全く同じミス……いやぁ、お恥ずかしいww しかし、有難う御座います。(峠崎丈二)
readmanさん、コメント有難う御座います。その一言が、書き手にとっては何よりのエネルギーなのです。(峠崎丈二)
なんだろう・・・涙腺がゆるくなるなぁ・・・いい話だ(乾坤一擲)
いい話だな〜・・・軽く涙腺が緩んじまった・・・(´;ω;`)(森羅)
凄く良い話でほっこりしているところに、なんというサプライズww 油断していたのでマヂで心臓が止まるかと思ったww う〜むこれは早く更新せねば……(タンデム)
こういうしんみりした話も夏だからこそですね。(ryu)
萌将伝の影響で忘れかけてたが呉ルートじゃこの二人死んじゃってたんでしたね。 こういったしんみりした話もイイ!(有為転変)
すごく良いお話をありがとう御座いました。 蓮華が『病華』にならずに済んでよかったです。 なったらなったで大変だからなwwww。(劉邦柾棟)
『世代を重ねる』と言う事をモチーフとした呉編だからこそのEP、お見事でした。1P目から読者を引き込む力強い文章も、流石です。(YTA)
いやいや、好きなのを書いてもいいと思いますよ。こういうのもまたいいですから。俺も毎年墓参りはしてます。  (ZERO&ファルサ)
イイ話を読ませて貰いました^^ こうした風習は近年寂びれがちになりましたが・・・忘れたくは無いものですね。(トトクロ)
こういう風習は守り続けたいですよね。いい話有難う御座いました。(アロンアルファ)
いいお話どうも。想いはつながる、そは未来に向かって・・・ってところかな?またそのうち宴会を開きましょうねw(狭乃 狼)
思いは死せず、また新たな世代に受け継がれる・・・ 「繋がり」が見れて良いSSでした(村主7)
良い話じゃった。(聖槍雛里騎士団黒円卓・黒山羊)
8p一刀からのとある支持→指示かな? ただ一言イイネ(‘_‘)b(2828)
凄く良かったです。(readman )
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第1回同人恋姫祭り 真・恋姫無双 呉√ アフター 

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